ただ、己の為に   作:天澄

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#15.Daily life when Ruri increased.

「とりあえず、ここがリビングで、あれがキッチンだ」

 

「好きに食材とか使って料理していいからね」

 

「お前が勝手にお菓子作りとか始めてから食費嵩んでるの知ってて言ってる?」

 

「私……料理できないよ?」

 

 その言葉に、そういえばこの子は箱入り娘だったな、と思い出す。今自分の中で、この年代の女の子の基準が、ソールになっているところはある。

 だがルリという箱入り娘としばらく共に生活する、となればそこら辺の基準を修正しなければならないだろう。ソールとルリでは、あまりにも生い立ちが違いすぎることだし。

 

 ───ルリと顔合わせを済ませてから。そのままその日は、丸一日ルリとのコミュニケーションに費やした。

 そうしてある程度ルリと仲良くなった姿を見て、アウェイクさんも腹を決めたのか、予定通り、その翌日にこうして、ルリを連れて自宅へと帰ってきていた。

 

「トイレなんかはそこにあって、風呂がそこだな」

 

「ああ、あの屋敷暮らしと比べると、なんて貧相な……」

 

「うっさい、俺も辛いんだからやめてくれ」

 

「このお家、小さいね」

 

「ぐふぅ」

 

 ルリちゃんの純粋な言葉が深く心へと突き刺さった。無邪気に放たれた言葉故にあまりにもダメージが大きかった。

 

 突然崩れ落ちたこちらを見て、首を傾げるルリに大丈夫、とだけ告げて何とか、ソールの手も借りて立ち上がる。ソールもこの家の住民として無傷ではないだろうに、すまない。

 

「あー、それでルリの部屋だけど、しばらくはソールと同じ部屋で生活してくれ」

 

「ソールと?」

 

「ああ、物置になってる部屋を片付けるまで待ってくれ」

 

 部屋数自体は、実はそれなりにあって、ルリの部屋を確保できなくもなかった。しかし、残っている部屋は、使っていないこともあって物置と化してしまっている。

 確か、それなりに適当に大量の物を突っ込んでいたため、数日がかりで掃除する必要があった。

 

「というか、死柄木と黒霧の二人がいなければ……」

 

「ああ、うん、あの二人部屋一つ占有してるからなァ……」

 

 あの二人、以前こちらが仕事で家を空けている間に、一部屋勝手に自分たちのものにしていたのだ。

 元々、客間として利用していた部屋であるため、一応二人はこの家の住人ではない以上、そこを使うのは間違いではないのだが。ただ勝手にカスタムするのはやめて欲しい。

 お陰様であの部屋、もうあの二人にしか使わせられない状態になっている。まさかテレビとかソファまで持ち込んでいるとは。しかもスラム街連中の協力を得て、日本の番組まで受信できるようにするとは。

 

「いや、改めて思うとあいつら自由過ぎねェ?」

 

「慣れちゃったところはある」

 

 まぁとりあえず、ヴィランにまともな理由を求めるのが間違いなのだろう。

 

 そんなことを考えているうちに、ルリに自宅を案内し終わる。

 基本的に、ルリはその事情の関係上、あまり外に出したくないところがある。

 ただ、とルリの方を見る。

 

「───!」

 

 目を輝かせて家の中を観察して回る姿を見てしまうと、外に出ちゃダメ、とは言いづらいものがある。

 箱入り娘なだけあって、うちにあるような安物に興味津々なようだし、時々窓の外も見ている。

 これ、どうする、とソールに視線で問いかければ、ソールも懇願するかのように見てくる。その段階で、自分が上手いこと妥協点に持っていくしかないな、と理解するしかない。

 

「……そしたら、ルリは俺か、ソールのどっちかと一緒なら、外に出ていいぞ」

 

「ほんと!?」

 

 そう言って、ルリは目を輝かせる。そして、ソールと二人、手を合わせて喜んでいた。

 その姿に少し、ほっこりする。ただ、一つだけ、心配事はあった。

 

 護衛に関しては、自分かソールがいれば、よっぽどのことがない限り問題ない。むしろ、スラム街の連中に協力を請えるという点では、より安全かもしれない。

 

「ただ、まぁ、そのスラム街連中がバカだからなァ……」

 

 箱入り娘のルリと、スラム街育ちのバカが、どう化学反応を起こすかだけが予想がつかず、不安だった。

 

 

 

 

「喚導、酒、つまみ」

 

「お前……死柄木お前、ほんともう……」

 

 今日も今日とて、絶好調の死柄木にもはや言葉がなかった。

 

 ルリがこの家に来た翌日。

 ベッドの質による、寝起きの快適さの違いに絶望しながら、何とか起き上がり、顔を洗ったり。

 そうやって朝の準備を済ませて、リビングに行けば、朝っぱらから死柄木が寛いでいた。

 

 死柄木たち、割と暇なのでは、と思ったりするが、そもそもヴィランなので時間配分は自由なのだそうだ。

 それに基本的有能なので、問題ないらしい。個人的には、それ有能なの黒霧では、なんて思っているのだが。

 

 何はともあれ、とりあえずは死柄木に要求されたものをテーブルの上に置く。

 それと並行して、自分たちの朝食も用意していく。

 今日の朝食は、昨日の帰りに無理矢理調達したために、六枚切りの食パンが二袋だけしかない。自分とソールで少なくとも三枚ずつは食べるので、明日の分の飯も調達しないといけないな、と思いつつ、トースターへと二枚、食パンをぶち込む。

 その間にマーガリンと、ブルーベリージャムを用意しておき、追加で一枚出した食パンへ、ジャムを塗っておく。

 

「おはよー」

 

「おはよう……」

 

 そうやって食パンが焼けるのを待っていると、部屋からすっかり目が覚めているソールと、未だ寝ぼけまなこのルリが出てくる。

 そんな二人に、まずは挨拶を返してから、ソールにルリに顔を洗わせるように頼む。

 

 二人が洗面所へ行っている間に自分は、とりあえずソールの朝食を用意することにする。

 ソールに関しては、食パン三枚をジャム二、マーガリン一と割り振るのを、これまでの生活で理解しているので、一枚、焼き上がった自分の食パンと入れ替えるようにしてトースターに放り込む。

 本来であれば、これに簡単なサラダも追加したりするのだが、生憎と今日は冷蔵庫に材料がないため、諦めるしかない。

 

 この後、ソールとルリが座るため、邪魔になるので朝食組ではない死柄木をソファへと追いやり、自分の分の朝食を皿に乗せてテーブルへと運ぶ。

 

「お、ルリ、目は覚めたか?」

 

「まだ眠い……」

 

「立ちながら寝たりするなよ……?」

 

 それに眠そうな顔のまま頷くルリに、また眠るのではと心配になりながら、皿に乗せたソールの分の朝食を、テーブルへと運ぶ。流石に、トースターに入れたものはまだ焼き上がっていないので、とりあえずはジャムを塗る用の二枚しか、皿には乗っていない。

 

「ありがと」

 

「あと一枚はもうすぐ焼き上がるからな。それで、ルリは食パン何枚がいい?」

 

「ジャムで四枚……」

 

「よん……四枚!?え、ちゃんと全部食べれる?」

 

「よゆー……」

 

 驚きながら問い返すも、ルリからは肯定の返事しか返ってこない。それを不安に思いながらも、一応、ルリからのオーダー通り、皿に食パンを四枚乗せてテーブルへと運ぶ。

 ついでに、ソールの分の食パンが焼き上がったので、それも運びつつ、自分も席へとついて朝食の時間になる。

 

「いただきます、っと」

 

「いただきまーす」

 

「いただきます……」

 

 自分、ソールの順に言ったいただきますに続くように、ようやく目が開き始めたルリもいただきます、と言う。

 しかしそこから食パンへと手を伸ばすことはなく、首を傾げている。

 

「ふぉうひはほ、ふひ?」

 

「行儀悪いし、何言ってるかわかんねェぞ、ソール」

 

「っんぐ、どうしたの、ルリ」

 

 首を傾げるルリに思わず釣られて、自分も首を傾げていると、同じく首を傾げていたソールが、食パンを加えたまま喋り出す。それにツッコミを入れつつも、自分もルリの様子を疑問には思っていたため、そのまま喋ること自体を止めはしない。

 そんなソールに問われたルリは、えっとね、と呟いてからこちらの疑問に答える。

 

「もっとこう、オムレツとか、ベーコンとかいっぱい無いの?」

 

「ぐふぅ」

 

「すまねェ……すまねェルリ……!うちにはそんな金はないんだ……!!」

 

 ルリの無邪気な言葉の刃にソールが崩れ落ち、自分はルリに謝るしかなかった。確かに、アウェイクさんの屋敷で自分たちにも出してもらった朝食と比べれば、明らかに量も質も数段劣る。

 しかしうちの財力では、基本ここにサラダが加わるか、ベーコンが出れば豪勢、というレベルだった。ルリには申し訳ないが、これが精一杯だ、と伝えれば、そっか、と納得してくれる。

 

「でもだったら、パンもう二枚は欲しいかな」

 

「大食いキャラと申すか」

 

「食費が嵩むなぁ……」

 

 ソールの言葉によって突き付けられた現実に、軽く目の前が暗くなりつつも、何とか、朝食を終える。

 ちなみに、本当にルリは食パン六枚をペロリ、と食べていた。

 

 その後は、ソールと協力して皿洗いや、洗濯といった家事を済ませていく。

 途中、今までメイドに任せていたために、全く家事に触れたことがない故に興味を持ったルリを交えつつ、昼前には最低限の家事が終わる。

 

「さて、そしたら昼飯もないし買い出しに行きたいんだが」

 

「買い出し?行きたい!」

 

 ま、言うと思った、と手を挙げてアピールするルリに苦笑する。

 ただ、自分かソールがいれば外出してもいい、と言ったのは自分だ。だから約束を違えないためにも、ルリもついてくることを承諾する。

 

「ソールはどうする?」

 

「んー……ま、行こうかな」

 

 普段であれば、買い出しは面倒だと渋るソール。しかし、純粋な眼で見つめてくるルリに、ノーとは言えなかったらしく、珍しくついてくるという。

 なんというか、我が家で一番強い人物が決まった気がするな、と思いつつ、手早く準備を済ませ、玄関へと向かう。

 

「そんじゃ、死柄木留守頼むぞー」

 

 視線を手元の本に向けたまま、軽く手を挙げて返す死柄木を確認して、ソールとルリを連れて外へと出る。

 

 スラム街の商店区画へと向かう道を、仲良く並んで歩くソールとルリの姿を微笑ましく思いながら歩く。

 金髪と銀髪で、見た目的には二人は似ていない。しかしその仲の良さは、姉妹のようにしか見えなかった。

 かく言う自分も、ルリと接して未だ一日二日程度だが、いつかアウェイクさんの下に帰してしまうことを考えると、既に寂しくなってしまう程度には、彼女に入れ込んでいた。

 

「……ん?お、ソールにソーヤじゃねぇか!それに……誰だ?」

 

「あの二人帰ってきたんか。……ん?見ない顔だな」

 

「銀髪ロリ……ありだな!」

 

「貧乳かよ、ぺっ」

 

「あぁん!?テメェ今なんつった!?」

 

 徐々に商店区画に近づくにつれ、人が増え始める。その中には知っている顔も多く、皆こちらに声をかけようとして初めて見るルリに首を傾げる。

 最初のうちは説明していたのだが、あまりに手間なので、適当にあしらっていると、それでも聞こうとしてくる連中が徐々に増えて行ってしまう。

 そして商店区画に着く頃には、人の塊が出来上がっており、気づけば身動きをとるのも難しくなっていた。

 

 なお、その間に一部の人間の間で貧乳巨乳戦争が起きていたが、知ったことではない。その中に貧乳派として、血涙を流すディティーがいたが、知ったことではないのだ。

 

「ていうか!貴様ら!!邪魔だァ!!!」

 

「へっへっへ、もう逃げ場はないぜ……?」

 

「さぁ洗いざらい吐くんだよ……!」

 

「ていうかこれ、商店区画に居た人、ほぼほぼ集まってない……?」

 

「集まってるなァこれ!!」

 

 ソールの漏らした言葉に思わず同意すると、周りの全員が頷きを返してくる。スラム街の住民は、こういう時の連携が無駄に巧くて、本当に困る。

 

「お嬢ちゃーん、ちょっとお兄さんたちとお話しよう?」

 

「お話?いいよ、たくさんしよう!」

 

「お、おう。……なんだこの子、天使かよ」

 

 何人かが自分とソールに詰め寄ってくる中、人垣によって分断されたルリの元に、何人かのスラム街のバカ共が集まっている。

 そして明らかに事案な声のかけ方をしたと思ったら、そのままルリの純粋さに浄化されていった。

 わかる、その子の純粋さは一種の兵器だよな。

 

「で、何だよあの子」

 

「ま、簡単に言えばいいとこのお嬢様で、諸事情により護衛中」

 

「おーけー、把握した」

 

 肩を組んで確認してきた男に、簡単に説明すれば、それだけで諸々を察して、こちらのことを解放してくれる。ここら辺、スラム街の住人は皆裏仕事の厄介さについて理解しているから、察しが良くて助かる部分だった。

 今、説明した相手はこの街でも顔が広い男だ。すぐにこの情報は、詮索しないで欲しいという点も含めて街中に広がるだろう、と安心する。

 

 そんなことを考えている間にも、浄化されてしまった男に代わって新たな男がルリへと挑戦する。

 

「情けないやつめ、次はこの俺が―――」

 

「うわぁ、凄い筋肉。鍛えてるんだね……わ、すっごい硬い……」

 

「ぐぬぅ」

 

 今また一人、新たな犠牲者が生まれた。ヨゴレ系として定着してしまっているスラム街の連中では、純粋なルリとはあまりにも相性が悪かった。

 

「ふ、そういうことなら俺の出番だな……」

 

「お、お前は!?」

 

 そんな中、満を持して、と言わんばかりの雰囲気を身に纏って一人の男が歩み出てくる。そしてそれは、自分のよく知る顔だったために、思わず声が漏れる。

 

「ヤク中……!」

 

「ヤク中が出るだと!?」

 

「あまりに日頃のクスリをキメているイメージが強すぎて、本名が忘れられてしまったヤク中か……!」

 

 周りの明らかにヤベーやつが来てしまった、と言わんばかりの言葉を、まるで声援でも浴びているかのように振る舞いながら、ヤク中がルリへと歩み寄っていく。

 ヤク中は条件こそ特殊だが、増強系の個性だ。それに影響されてか、それなりに体格がいいため、ルリと並ぶと身長差がとてつもないことになる。

 故にヤク中は、ルリの前でしゃがみ込み、目線を合わせてからその右手を差し出す。

 

「はじめまして、お嬢さん。突然だが俺と一緒にめくるめくおクスリの世界へ―――」

 

「んー……」

 

「あの、お嬢さん?何故俺の手をそんなににぎにぎと……」

 

 突然、ヤク中が差し出した手を両手で触り始めるルリ。その様子に、周りの連中が戸惑う中、自分とソールは、この戦いのオチを完全に理解してしまった。

 

「あの―――」

 

「あなたは、凄い色々混ざったごちゃごちゃした色をしてる。でも、奥へ行けば行くほどその色が上手く混ざっていって……」

 

「え、あの」

 

「最後にはとっても綺麗な虹色になってるんだね。……普段の振る舞いに隠れちゃってるけど、あなたはきっととても素敵な人なんだと思う。私、そういう人好きだな」

 

「ぐわぁ―――」

 

「や、ヤク中が浄化されたぁーーー!?」

 

「やつはこのスラム街の中でも、最強のヨゴレ系キチガイ……」

 

「あ、これ詰みましたね」

 

 この日、新たなスラム街最強が誕生した。

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