「……あ、やべ、電気切れた」
ある日のこと。ガンギマリ爺のとこに行きさえしなければ仕事がないのをいいことに、昼間から優雅に酒を片手にテレビを見ていたところ、流石に使い過ぎたらしくついに電気がそこをついた。パクってきた発電機は、そんなに高速では発電できないため、このままではしばらく電化製品が使えなくなってしまう。
「……困る。それは実に困る」
何が困るって、折角冷蔵庫でキンキンに冷やしたビールが温くなってしまう。温いビールとかクソくらえなので、早急に電気を得る必要があった。全ては後々自堕落な生活を送るため。そのために今頑張るのだ。
「着替えるかァ……」
完全にオフだったのでやる気が全くと言っていいほどしないのだが、外に出るとなれば流石にパンイチというわけにはいかない。いや、まぁこのスラム街はバカばっかりなので、普通に全裸で出歩いている男もいたりするのだが。まぁそんな連中の仲間入りは果たしたくない。それに全裸で出歩いた場合、住民から容赦ない制裁を受けるか、屈強な男に路地裏へ連れ込まれるかする。それは流石に遠慮したいところだった。
「おっし、こんなもんか」
今回は仕事行きではないため、地肌の上にアロハシャツを着て、下は短パン。ついでにサングラス装備と完全にオフモードだ。形見のゴーグルは仕事時のお守りとしてしかつけて行かない。
最後に財布と鍵、それから缶ビール二本を持って家を出る。明らかにガラの悪い兄ちゃんなわけだが、まぁ犯罪者の街でそんなこと気にしたってしょうがないので、気にしない。鍵と財布をポケットに入れ、躊躇いなく缶ビールを一本開けて飲みながら街中を進む。
「オイオイ、昼間からいいご身分だなぁソーヤ!」
「まァ俺有能だからなァ……。毎日せこせこと働く君ら小物市民とは違うのだよ」
「ソーヤ酒仕入れたんか。おっしゃ、ちょっとお前の家行ってくるわ」
「別に構わんぞ。お前の家財道具一式は金になって俺の懐に入るがなァ!!」
「あ、ソーヤ。お前が買ってきたクスリ中々良かったぞ。この通り震えも治まって……ヒャッハー!楽しくなってきたァ!!」
「お、今日もバカは元気だな?じゃあ殴りに行こうか」
「仕方ないにゃあ……」
本日もスラム街はバカばっかだった。
そんな風に住民たちとコミュニケーションを取りながら街中を進み、ある家へと辿り着く。崩れた家を補修して作られた、このスラム街でよくある家に住むのは、割とこのスラム街の中でも主要人物だったりする。
外観的にはそうは見えないんだけどなァ、と思いながらドアをノックすればはいはい、と中から男の声が返ってくるので、どうやらちょうど家にいたらしい。忙しい時はかなり忙しい人物なので、運よく家にいたことに安堵の溜息を吐きながら、家の扉が開けられるのを待つ。
「……おや、想也くんか。いらっしゃい」
「ちわーっす、
「飲む」
土産として持ち込んだ缶ビールを目的の人物―――
「雷生さん今日オフ?」
「オフオフ、超オフ」
「お、俺もやで」
「「いぇーい、ナカーマ!」」
既にアルコールが回っている自分と即座に肩を組んで乾杯できる辺り、雷生さんも昼間から飲んでいた口かもしれない。なんて思っていれば案の定で、リビングの方はいくつか空き缶や空き瓶が転がっているのが確認できる。あ、これは酒乱騒ぎになるな?と察しつつもそれも面白いので特に何も言わず、案内されるがままにソファへと座る。
「で?今日はどんな用だい?」
「自堕落生活してたら電気切らした」
「ああ、なるほど、僕もだ」
「やるよなー」
「やるやるー」
雷生さんと固い握手を交わす。ただまぁ、雷生さんの場合は個性が発電なので、即リロードできるから関係ないのだが。事実切らした、というのはあくまで一回だけのようで、今は普通に家電製品が動いているのが分かる。
「いーいーよーなー、自力で発電できんのー」
「そう便利なものでもないんだよ?なんてたって体内での発電しかできないからねぇ……」
そう、あくまで雷生さんの個性は発電だけであり、放電も蓄電もできはしない。ただただ発電だけができ、し過ぎるとバンッ、だ。そのため過去親にここへ捨てられたらしいのだが。
「いーじゃんかよー、実際ここでの生活では重宝してるわけだしさァ」
「まぁそれは否定しない」
このスラム街、違法研究をやって追い出された科学者なんかもいるので、材料集めを手伝う代わりに結構機械なんかを作ってもらったりするのだ。雷生さんも、蓄電器の方へ発電した電気を送る機械を作ってもらい、今では住民たちへ電気を売って一儲けだ。まぁここの住民の数的に、結構忙しい仕事なのだが。
「というか雷生さんよくオフ取れたな」
「面倒になって全部断った」
「ヒュー!やるゥ!!」
「無論、君のもやらないからね」
「大丈夫、今日はもうここで飲む」
「全く……仕方ないな。あとで代金は支払ってくれよ?」
「わァい、雷生さんだァい好きィ!」
「気色悪いからやめてくれないかい?」
ゲラゲラ笑いながら、雷生さんが持ってきてくれたビール瓶を受け取る。
「刀剣召喚〝
そしてそれの蓋を開けるのが面倒なので、個性で召喚したククリナイフで上部を切り飛ばし、邪魔になったククリナイフを返還しながらラッパ飲みの要領で一気に呷る。
「いや、しかしこういうの手刀でできたらカッコいいよなァ」
「分かる。僕も男として憧れた時期があった」
もちろん、できなくて手を痛めたが、と続けられた言葉に爆笑する。自分も憧れはしたが実際に試したことは流石にない。いやだってどう考えてもオチが見えているわけだし。増強型とか異形型の個性じゃないとキツいよなぁ、と思わず呟く。
「それを言うとオールマイトなんかは綺麗に手刀で切りそうだね」
「むしろパワー強すぎて潰しそうじゃない?」
「ブッ」
「そしてHAHAHA、やっちまったな!と、露骨なアメリカン笑い」
「ブフッ」
肩を竦めるモーション付きでそう言えば、どうやらツボに入ったらしい雷生さんが顔を伏せ肩を揺らす。何が質が悪いって、その姿がありありと想像できることだった。絶対やる、本当にテレビに出てる感じのキャラなら絶対にやると確信できる。や、問題があるとすれば、オールマイトが酒を飲むところがイメージできないことなのだが。まぁオールマイトも流石に人だ、酒を飲んだことぐらいはあるのだろうけども、清廉潔白なザ・ヒーローというイメージのオールマイトが酒を飲む姿はどうにも、想像しづらかった。
「くくっ……。いや、でもしかしそう考えると無駄に破壊しない君の個性も中々いいのではないかい?」
「んー?これが?」
未だに若干笑っているが、そう問いかけてきた雷生さんに合わせて再び呪文を唱えることで、ククリナイフを手元に呼び出す。
「そう、確か召喚の個性だったかい?」
「あー……厳密にはちげェんだよなァ……」
使う都合上、召喚と考えておいた方が安定するから召喚としているだけで、厳密には違う能力なのだ、自分の力は。
「正しくは創造の個性。イメージしたものを生み出す力」
「では何故召喚と?」
「イメージを固定しやすいから」
自分の個性はイメージしたものをその場に生み出すという能力であり、理屈の上では想像さえできれば、何であれ生み出すことができるのだ。ただ実際には制約があり、イメージが曖昧であればあるほど生成時に体力を消耗する。それに加え大きければ大きいほど、同じく消耗する体力が増えるため、例えばドラゴンなどの空想上のものは明確なイメージができず、体力の消耗が大きくなり過ぎて生み出すことができなかったりする。
「だから俺がイメージに失敗するともう作り出すことができなくなる」
「……なるほど、だから召喚という自分なりにイメージしやすい形に落とし込んだ、ということだね?」
そういうこと、と理解の早い雷生さんに苦笑しつつも頷いて返す。要するに、安定してイメージさえできればいいのだ。だからイメージしやすい形として自分は脳内で武器置き場をイメージし、そこから手元に武器を呼び出すという形をとることでイメージを安定させているのだ。そしてそれをイメージからより強い
「ふむ……結構不便な能力のようだね。機械とかはできるのかい?」
「あー、微妙。できなくもない……けどちっと安定しないかね。構造をイメージできないからな」
構造を理解はできても、イメージし切れなければそれでアウトなのだ。そのため複雑な機械はどうにも、自分には生み出すことができなかった。
「あとは概念的なのも無理だぞ。もうあまりにも曖昧だからな」
「ふむ、となるとやはり刀剣類というのはいい選択なのだろうね」
雷生さんの言う通り、基本的に構造がシンプルで、イメージをしやすいから自分はよく刀剣類を用いていた。あとは、親の個性的に刀剣類への適正が高くなったというのもあるのだが。
まぁそれはあまり、思い出したくない話だ。故に、微妙に残っていたビールを一気に飲み切り、その考えを振り払っておく。ついでに雷生さんへ追加の酒を要求しておく。
「それなら、これはどうだろう。基本この街にまで流れてくる外国の酒はお高いものばかりで僕も初めて見かけたのだが……」
「これは……日本の酒か?」
「ああ、〝澪〟というらしいのだが、コンビニで売っているような安物らしくてな。珍しかったためつい買ってしまった。ちょうど二本あるから二人で飲もうじゃないか」
「いいねェ、新しい酒はワクワクするぜ。えーと、何々?スパークリング清酒?」
なるほど、分からんと諦め、蓋を開ける。極論、飲めればいいのだ。それで美味ければ上々。このスラム街での生活などそんなもんだ。
そうやって一口、口に含む。……なるほど、これは。
「普通に美味いな」
「うむ。特別何かが飛びぬけて美味しいわけではないね。ただコンビニで買えるものと考えると充分じゃないかな?」
そうか、これが家の近くのコンビニで買えるのか。それは何とも羨ましいことである。無論、スラム街にコンビニなどあるわけないので、そもそもコンビニがあること自体が羨ましくはあるのだが。基本的に酒を始めとする嗜好品なんかはパクってくるか、ブローカーなどを通して注文するしかないのだ。唯一クスリだけはガンギマリ爺がいるので安定供給されているのだが。
「あー……日本行きてェ……」
「ふむ、一応血筋的には僕らの故郷にあたる国か……。想也くんは日本に暮らしていたことはあるのかい?」
「んなもんねェよ」
自分は物心ついた頃からスラム街暮らしだ。一応、置手紙があったために両親については多少知っているが、顔は見たことがない。だからまぁ、正直日本という国に思い入れがあるわけではないのだ。ただ単純な話。
「日本での生活クッソ便利そうじゃない?」
「わかる。でも正直ここと比べたらどこだってそうじゃないかい?」
「せやな」
悲しい事実だった。
まぁここでの暮らしも慣れれば悪くないのだが、利便性はやはり低いのだ。いつかは普通の街中で暮らしてみたい気はしないでもない。
「まぁでも僕的にも日本には行ってみたいかな」
「それはまたどうして?」
「日本人の血が流れてるからかな、正直エロ動画とかは日本人の方が興奮する」
「あー、あーあーあー……分かるわ……。おもっくそ分かるわ……」
完全にド下ネタの、汚い話をしている自覚はあった。ただまぁいい感じに酔ってきて、楽しくなってきていたために自重する気は全くと言っていいほどしない。別に男しかいないからいいだろうとそのまま、猥談で二人馬鹿みたいに盛り上がる。
「……ふむ、では行こうか」
「ああ、こりゃもう行くっきゃねェな!!」
「「いざ風俗!!」」
もはやテンションが明後日の方向へ振り切れていた。ちょっと恥ずかしいぐらいバカになっていた。だがしかし待て、このスラム街にはほぼほぼバカばかりである。ならば今の自分たちこそあるべき姿なのでは……?
よし、QED、証明完了。大義は我々にアリ。
「お、酔っ払い共どこ行くんだ?」
「風俗」
「おっしゃ、ちょっと待ってろ。今準備する」
「何?風俗だって?俺もつれてけよ」
道中、フットワークの軽い街のバカ共を巻き込み、大所帯で街中を進む。そう、我々はただ歓楽街にある風俗店を目指すのみ―――!!
―――無論、翌日には財布は空になり、酷い二日酔いに悩まされながら仕事をすることになった。