ただ、己の為に   作:天澄

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#20. Admission, the first day.

 推薦入試トップ。それが自分が残した記録だった。

 

 まぁ当然と言えば当然の結果なのだ。超越者(オーヴァード)なので実技は圧倒。単純な学力はスラム街でも充分学べたし、ヒーロー周りについては事前の勉強でカバーした。歴史と国語周りは国が違うので些か大変だったが、有能なのでなんとかした。面接だって、二十五にもなれば人当たりのいい仮面などいくらでも被れる。

 むしろ順当と言える結果だった。

 

「あー……憂鬱だなァ……」

 

「そう?私は楽しみだな」

 

 ルリと二人、雄英高校の廊下を歩く。

 

 雄英高校の学生としての初日。自分たちのクラスへ向けて廊下を歩く。

 無論、自分もルリも生徒であるため、身に纏うのは制服になる。コスプレをしている気分で、どうにも落ち着かない。

 だがまぁ、ここから三年は着続けることになるのだ、何時かは嫌でも慣れるだろう。そう、無理矢理納得しておくことにする。

 

 時刻としては、まだ早めの部類になる。単純に、遅刻というのが性に合わないというのもある。いや、まぁこれが友人との待ち合わせなどであれば、面倒などの理由で遅れることもあるのだが。ただ今回は、学校初日なので、流石にという話だ。

 

 あとは、単純に家が近い、というのもある。

 地方から上京してきた人向けに、雄英高校が提携しているアパートがある。それはそこそこ雄英高校に近い位置にあり、ルリと二人でそこの一室に暮らしていた。

 

「そういえば、推薦入試ってどんな感じだったの?」

 

「んー?そうだなァ……」

 

 そういえば言ってなかったか、とルリに推薦入試の時の様子を語りながら、考えるのは自分同様、推薦入試を受けた連中だ。

 

 まず紅白頭、あいつはどうやら無事入学したらしい。紅白頭は確かに、他の連中とは明らかに練度が違った。間違いなく家で訓練を受けているのだろう。順当な結果、と言えた。

 

 それに対し、意外な結果だったのは夜嵐だ。結果は悪くないはずだったのに、何やら辞退したらしく、試験後紅白頭と揉めているのを見かけたし、何かあったに違いない。だが自分が夜嵐が辞退した、と知ったのは試験結果が出てからの、説明会での場だ。何があったか確認するには遅すぎた。

 

「……ああ、そういえば推薦入試組の説明会で、ちょっと知り合ったやつもいたな」

 

 ふと、説明会で思い出した人物がいたために、ポロリとそんな言葉が漏れる。

 それにルリが興味を持ったため、そのまま、説明会についての話題へと流れていく。

 

 自分が説明会で出会ったのは、確か八百万百、という名の少女だった。

 ポニーテールの生真面目そうな少女で、どうにも自分とは気の合わなそうな少女だったのだが、ボールペンがあればいいだろうと油断していたために、持ってきていなかったシャーペンを借りることを切っ掛けに多少、話した相手になる。

 これで、自分を含めれば今年の推薦入試合格者の半分と顔を合わせたことになるなぁ、なんて思ったのを覚えている。

 

 そう、今年の推薦入試合格者は六人になるらしい。

 例年は四人、と聞いていたため、まさか根津校長が無理に枠を増やしたのか、と思ったが、どうやらあくまで四人の場合が多いというだけらしい。

 基本的に雄英高校では、一般でも推薦でも一定ボーダーを超えた人間を合格とするらしく、毎年合格者の人数は変動するらしい。曰く、有能な者を他より劣っていたからと落とすのは勿体ない、だそうだ。

 

 結局、今年のヒーロー科合格者は計四十三人、一クラスは二十二、あるいは二十一人になるらしい。

 そして、目の間にある、自分たちの所属するAクラスが二十二人の方になるらしい。

 

「つーわけでチッスチッス、おはよーございまーす」

 

「おはよう」

 

 異形型のことを考慮された巨大な扉を開けながら、とりあえず朝の挨拶を言う。それに続くように、ルリからも挨拶が放たれるが、しかし、それに誰も返事を返してくることはない。

 

「あん?なんだ、つまらん奴らだな、この愚民どもめ」

 

「お、おう、すまん、予想以上に灰汁が強いのが来てリアクションに困ってるから待ってくれ」

 

「これだから一般人は……」

 

 やれやれ、とリアクションを取りつつ、自身の席を探す。

 どうやら名前順で席は割り振られているようだが……と、なると自分はちょうど、唯一こちらに反応を返した少年の前の席になる。

 

 自席を確認した段階で、ルリは苗字がアウェイクなので、教室入ってすぐの席で彼女とは別れ、確認した自席へと向かう。

 

「うわ、あんた前の席か……」

 

「本人目の前にして言うとは君、中々いい性格してるな?喚導想也だ、よろしく」

 

「その流れで自己紹介するのかよ……や、まぁ切島鋭児郎だ、よろしく」

 

 軽く握手を交わしつつ、切島少年を少し観察する。一番、特徴的なのはそのツンツン頭。それに加え、体格的に鍛えてあるのが分かる。武術はあまりやっていないようだが、恐らく、近接型、それも鍛え方的にグラップラーとかだろう。

 

 と、そこまで考えて、この環境ではそんなに警戒するべきではない、と思考をリセットする。そも、ここにいるのはヒーローを目指している少年少女なのだから、敵対する理由がないのだ。だから、もっと平和的な部分を分析する。

 

 例えば、そう……性格的な部分。

 多分、この切島、という少年は自分の、というかスラム街のノリにはついてこられそうにはない。ない、が。ツッコミという点では存外、悪くなさそうに思える。

 

「さて、切島少年。俺、知り合い少ないし、その数少ない知り合いも同じクラスか分からないから仲良くしようぜ」

 

「まぁ別に、仲良くするのは構わねぇけど……」

 

「ちなみに切島少年って知り合いいる?あ、クラスメイトでね?」

 

「ぐいぐい来るな……。一応、いるよ、同じ中学だった、ほらあそこの、芦戸三奈っていうんだけど」

 

 そこには、席が近かったという理由でルリと話す、ピンク色の少女がいる。ただ、そんな二人より、席が二人の間になる少年が、気まずそうにしているのがどうにも笑える光景だった。

 

「つっても、同じ中学ってだけで、さほど交流はなかったんだけどな」

 

「お、じゃあ実質ぼっち?ねぇぼっちってどんな気分?」

 

「お前、俺よりよっぽどいい性格してじゃねぇか……。そういうあんたはどうなんだよ」

 

「ん、俺?俺はほら、その芦戸って子と話してる銀髪の、そうそう、その子。あの美少女と一緒に登校してきた勝ち組だから」

 

「ペッ」

 

 切島を煽りながら遊んでいると、唐突に唾を吐くような音が横から聞こえてくる。音源の方を見れば、小柄な頭に球体がくっついているかのような少年が、親の仇を見るかのような目でこちらを見ていた。

 流石の自分も予想外な光景に、思わず言葉を失っていると、そのままその小柄な少年は、自らの席であろう場所へと向かっていく。

 

「……流れ弾が当たったみたいだな」

 

「これに懲りて煽るのやめろよ?」

 

「ライフワークだから無理」

 

 クソみたいなライフワークだなぁ、と続けた切島と、そのまま時間まで適当に会話して時間を潰す。

 途中、一応顔見知りではある八百万とは挨拶を交わし、同じクラスだった紅白頭にびっくりしながらも、やがて時間が訪れて担任がやってくる。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

「いや、あまりにも説得力のない格好では?」

 

 寝袋装備、廊下で横になっているとかいう威厳の欠片もない姿だったが。思わず、声に出して突っ込まざるを得ない光景だった。

 

「ていうか、相澤センセ。もうちょっとまともな登場じゃないと、生徒からの信頼得られませんよ?」

 

「信頼を稼ぐ時間が勿体ない、合理的じゃないだろう」

 

「逆じゃないです?最初からもっといい登場の仕方した方が、生徒が指示に疑問持たなくてよっぽど合理的では」

 

「む……そうだな、以後考慮しよう」

 

 そう言って教壇に佇むのは、自分の知っている顔だ。

 長く手入れのされていない髪。無精ひげと充血した目。首には時期外れに見えるマフラーらしきもの。

 明らかに、不審者然とした見た目だが、これでも彼もまた、雄英高校の教師の一人なのだ。

 

「と、まぁそんなわけで君たちの担任になる相澤消太だ。よろしく」

 

 そう言った彼は気だるげで、やっぱり教師らしくない。だがそれでも、その実力は本物だ。

 今日まで、担任となる彼とは情報共有を兼ねて何度か顔を合わせているが、その時に鍛錬として何度か手合わせもしている。

 そして今日まで、()()()()()()()()()。超越者の力を以てしても、だ。

 

 と、いうか。そもそも自分は、一度も雄英高校の教師陣の誰にも勝利できていない。

 教師陣はその多くが到達者(リミテッド)に至っているし、それ以外でも技術がとんでもないレベルで磨き上げられている。

 少なくとも、真正面からの戦闘では、一切勝てる気がしないのが雄英教師陣だった。

 

 一般のプロヒーローだったら、まだ何人か勝てる宛てがあるんだけどなぁ、なんて思いながら、今からの流れについて説明を始める相澤先生を見る。

 

「とりあえず、事前資料にあった通り、入学式とかは無しだ」

 

 ま、そりゃそうだよなぁ、と頷く。雄英高校、というかあらゆる学校のヒーロー科は、一般科目に加えてヒーロー科用の科目が追加されるのだ。削れる時間は削りたいのが当然だろう。

 そこら辺、個人的には経験したことないので、入学式とかちょっぴり気になっていたのだが。まぁないものは仕方がない。

 

「それじゃあ、このあとは何やるんスか?」

 

「ん、そうだな、お前ら、ちゃんと体操服持ってきたか?」

 

 切島からの問いを、相澤先生が問いで返す。これがスラム街であれば、問いに問いで返すなよオラァ、と個性が飛び交っていたのだが、流石にここにいるのはヒーローを目指す少年少女たち。素直に持ってきた、と返事をしたり実物を取り出したりしている。

 そんな生徒たちを確認した相澤先生は、一つ頷いたあと、それなら、と言葉を続ける。

 

「これからグラウンドで個性把握テストを行うぞ」

 

「個性把握テスト、ですか……?」

 

 生徒の誰かが、ポツリと疑問を零す。目的は、読んで字のごとく、なんとなく察することができる。ただ、実際に何をするのか、というのはどうにも、ピンとはこない話だ。

 そしてそれは他の連中も同じようで、首を傾げる生徒が多数である。どうやら、中学などでは行われていない何からしい。

 

「ま、簡単に言えば個性アリの体力テストだよ。個性を使えばどれだけのことができるのか、それを使い手自身が正しく把握しよう、って話だ」

 

 そんな自分たちを見かねたらしい相澤先生から、補足の説明が入る。それに、なるほど、と納得を示す生徒たち。中には面白そう、楽しそうと言う生徒もいた。

 ただ、この数ヶ月で自分が知った、相澤消太という男は、そんなただ面白そうなことをさせてくれる性格ではない。事実、生徒たちの言葉を聞いた相澤先生がニヤリ、と口元を歪める。

 

「ちなみに、俺が勝手に定めたボーダーラインにスコアが達しなかった場合、そいつは退学させるので気を付けてな」

 

 その言葉に、生徒たちは一瞬固まったあと、叫び声を上げる。そこからは、焦り出す者、上等だと笑う者、個性ある様々なリアクションが続く。

 かく言う自分は、まぁ相澤先生ならそうだよね、と納得のリアクションだ。なんせ自分は、これまでの交流で相澤先生について、いくつかのことを知っている。例えば、だ。

 

「言っとくと、相澤先生は去年だか、一クラス丸々除籍した実績があるぞっ」

 

「喚導、余分なことは言わなくていい」

 

「いやァ、阿鼻叫喚の様子見てると、追撃叩き込みたくなりません?」

 

「外道かよ」

 

 ツッコミいれられるとは、切島は存外余裕があるなぁ、と思いつつ、自分が追加で放った爆弾で慌てるクラスメイトたちを見て爆笑する。特に、先ほどの小柄な少年や、ぼさぼさ髪の、冴えない少年の慌てっぷりは実に笑えた。

 逆に、八百万とか紅白頭、あとは切島とは別の、ツンツン頭で柄が悪そうなのは、自信があるのか余裕そうで実につまらない。

 

 まぁそれを言ったら、自分が一番余裕綽々なのだが。いや、だってぶっちゃけ自分の個性なら、体力テストの競技、どれもハイスコア叩き出せるし。

 

 ―――そして事実、体力テストは自分がほとんどの種目で一位を取った。

 

 流石に、ハンドボール投げの無限、というスコアは超える方法を思いつかなかった為に二位である。それでも、充分すぎるスコアだろう。

 

 その結果、柄の悪いツンツン頭に絡まれたり、何か冴えない少年は相澤先生と揉めたりしていたが、まぁそこら辺、興味はない。最終的に誰も除籍は受けなかったようだが、ぶっちゃけルリの番くらいしか他人の競技は見ていなかった。

 

 強いて何か収穫を挙げるとすれば。長座体前屈で好成績を出すために、ヨーガの力を使ったら何人かの男子が反応したので、ヨガファイヤーを見せて仲良くなったことだろうか。

 実は自分の個性、ゲームやアニメのキャラだろうと、それらが存在する平行世界を創造してしまえば、憑依召喚などができるので、こういうネタもできたりするのだ。

 とりあえず、今度クラスの男子には、元々持ちネタとして持っていた待ちガイルのモノマネを、個性を交えた〝真・待ちガイルのモノマネ〟として見せてやろうと思う。

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