「―――わーたーしーがー!普通にドアから来た!!」
「あ、面白くないんで
「喚導くん辛辣ゥ!」
八木さん、というかオールマイトとしてのキャラクターは、比較的ノリがいいからやりやすいよなぁ、と教壇に立ったオールマイトを見ながら笑みを浮かべる。
入学から数日。初日から普通科目、ヒーロー科目どちらも授業があった。けれど、そのどれもが授業の今後の方針などの説明に費やされたため、第二回の今日はついにヒーロー科特有の授業、ヒーロー基礎学が本格的に実施される。しかもその教師がオールマイトとあって、浮かれている生徒の多いこと。
そこら辺、八木さんという人物と、オールマイトの私生活におけるそこはかとないポンコツっぷりを知っている身としては、どうにもテンションが上がらないところだった。
ああ、いや、そもそもヒーローという立場が便利だから目指している段階で、楽しみもクソもないのが自分なのだが。
「さて、今日の内容は前回言ったけれど、戦闘訓練!」
「戦闘訓練……!」
「それにあたって、コスチュームも用意してあるぞ!」
その言葉と共に、教室横の壁がせり出し、生徒それぞれの
無駄なところに金かけてるなぁ、と思いつつ、自分もそのコスチュームを回収して、着替えることにする。
とは言っても、自分の場合はスラム街での仕事着と特に変わりはない。ミリタリーグリーンのジャケットに、黒のカーゴパンツ。それからゴツいブーツ。
変わった点と言えば、ちゃんとしたメーカーを通すことで、その耐久性が上がっていることだろうか。
まぁそれも、憑依召喚を使った場合、召喚対象の衣服が着ている服に憑依するため、あまり関係ないのだが。
憑依召喚では、あくまで召喚したいものを他所から持ってくるので、召喚されるのはイメージ通りのものなのだ。だから、召喚対象が女性だろうが、男性服着ているところを想像して召喚してしまえば問題なかったりする。
だから、ぶっちゃけ耐久度すらイメージ次第で、どうとでもなるのだ。
そういった点から、あまりコスチュームに拘りはなかった。強いて言うなら、コスチュームとはいえ別の、義姉の形見であるゴーグルぐらいだろうか。
そんなことを考えながら、授業の行われるグラウンドβへと向かう。
クラスメイトたちは、初めてのコスチュームということもあって、着替えに時間がかかっており、自分が一番手だ。
まぁオールマイトに確認したいこともあったし、丁度いい、と思いながら、グラウンドβに入れば、入ってすぐの位置に、筋骨隆々の男の姿を確認できる。
「お、喚導くんが一番乗りか」
「まァ、着慣れたデザインだからな」
「あの、喚導くん?私、教師なんだけど、敬語使わない?」
「いや、過去構わない、って言われたし」
言質は取ってる、と言えば、Shit、と如何にもアメリカンなリアクションを取るオールマイト。
実にいいノリだ、とは思うも、ちょっと今回は真面目に確認したいこともあるので、珍しく、ボケずに話を進めることにする。
「まァとりあえずどうでもいい話は置いといて」
「私の威厳的にはどうでもよくないけどね?」
「それこそ、どうでもいい話だな。で、なんだけど、俺を生徒と戦わせる、って本気か?」
今回の戦闘訓練は、事前にその方式が情報公開されている。
基本は、ヒーロー組とヴィラン組に分かれた二対二の戦闘訓練。ただし、事前にどのヒーローとヴィラン、どちらの組みで、ペアは誰かはヴィランにしか知らされない。
そして、状況設定も教師と相談してヴィラン組が指定。
つまり、ヒーロー側はペアの相手も、状況も現場で知るという圧倒的に不利なシチュエーション。
とはいっても、無論、ただの嫌がらせではない。実際のヒーローも、協力するヒーローも、状況も現場で知る、というのはよくある話らしいのだ。
要するに、実践を見据えた訓練、ということになる。
まぁ、それ自体はいい。別に、教師の指定した訓練に文句を言うつもりはない。
問題なのは、
「これ、どう考えても俺が勝つだろ」
「ま、順当に考えてそうだね!というか、そうじゃないと困る」
困る?と意味が分からず首を傾げる。自分が圧倒的な実力差で勝たなければ、何に困るというのか。
そんなこちらを見たオールマイトは、苦笑しながら、いやね、と口を開く。
「生徒たちには、圧倒的格上との戦いを経験しておいて欲しいんだよ」
「格上との戦い、か」
「そうそう。雄英高校では、学生のうちからインターンとかで外で活動する機会がある。そういう時、インターン先の大人なんかが付きっきりなるんだけど、それでもやっぱり予想外のことは起きるんだよね」
世の中絶対なんてないわけだし、と肩を竦めるオールマイトを見ながら、なんとなく、話の流れを察する。つまり、だ。
「もし、プロヒーローが近くにいない時に、格上と出会ってしまった場合に備えて、経験を積んでおいて欲しい、ってことか」
「That's right!ま、初回だから大概の子は戦闘を選ぶだろうけどね。上手いこと、調整を頼むよ」
生徒に頼むことではないとは思う。とはいえ、年齢的には既に子供たちを導く側なのだ。言ってしまえば、生徒にも教師にもなる、中途半端な立ち位置が自分なのだろう。
「基本的に戦闘訓練での喚導くんの役割は、そういうのが多くなると思う。あとは他の子たちに指導してもらったりね。それが職員会議で出た結論」
「それ、ほぼほぼ教員だろ……」
「代わりに、放課後暇な教師が君の鍛錬に付き合うのを約束しよう。流石に私は、活動時間の関係上できないけどね」
それなら、まぁいいだろう。正直、今更学生レベルの訓練を受けても意味はないわけだし。元々、この学校で学びたい点はそこではないのだから、問題はない。
代わりにプロヒーローから手解きを受けられるなら、悪い話ではないだろう、と頷いて返す。
オールマイトから教われない、というのは、元々彼の戦闘は精神論な部分が多くて、参考にならないから問題ないし。
「じゃ、そういうことで頼んだよ」
「あいあい」
そうやって、今後の戦闘訓練について話し合っていると、徐々にクラスメイトたちが集まってくる。
比較的早く来た中には、初日で知り合った切島や、最近親しくなった瀬呂範太がいる。
彼らはこちらが年上であっても、それに触れない、そしてそれを気にしないかのような態度で接してくる少年らだ。純粋に根がいい子なのだろう。
ただそのせいで年齢をネタにし辛いのが難点だが。
個人的には、過ぎたことなら深刻そうに語るよりも、あえて自らネタにするくらいの方がよっぽど有意義だと思っている。
けれど、さほど親しくない相手に過去の失敗などをネタにされてもリアクションに困る、というのも分かる。だから、そこら辺の匙加減が難しいよな。
なんてこと思いつつ、自重するタイプでもないので自虐ネタを挟み切島たちをリアクションに困らせていれば、最後の一人、冴えない少年がやってきてA組が全員集まる。
全員集まった段階で、授業時間は限られていることもあって、オールマイトはすぐに授業を始める。
ルールについては前回の段階で説明済みなので、ヒーロー組のペア決めから。最初の組み合わせは―――冴えない少年、緑谷出久と、麗日お茶子という少女。そしてその対戦相手のヴィラン組は、ガラの悪いツンツン頭こと爆豪勝己と、飯田天哉だ。
興味がないので、あまりしっかりとは見ていなかったのだが、何やら緑谷と爆豪が揉めていたのが印象的な訓練を皮切りに、何組かの戦闘訓練が行われていく。
その中には無論、同じクラスであるルリの訓練もあり、内心ハラハラしながらそれを見ていた。
ルリは一応、自衛手段もあった方がいいと、オールマイトに救出されて以降、格闘訓練などを行っている。
だが彼女は、個性も、性格も致命的に戦いに向いていない。誰かを傷つけることを忌避する、優しい子だ。そしてそれは、人斬りの一件で、家族やスラム街の連中を失ってからより顕著である。
失う悲しみを知ったことで、失わせてしまうかもしれない行為を苦手とするようになっていた。
故に、彼女の戦闘スタイルは補助型。
モニタに映る彼女は、トラップや道具を駆使して、相棒の芦戸三奈が立ち回り易いように動いている。もし、戦うことになりそうになったら、完全に逃げの一手。
冷静に必要な手を考え、実行する。補助と生存に特化したスタイル。それが彼女が今、磨いているスタイルだった。
そんな風にルリの戦い方を分析していれば、ルリの訓練が終わる。
結果はルリ・芦戸組の敗北。単純に、ルリが補助である限り手数が足りず、押し切られてしまった形だ。
正直、そもそもルリが戦うこと自体嫌だし、傷を負っていないか心配だが、あまり構い過ぎるのも過保護というもの。
ルリには普通の少女として過ごして欲しいし、学校ではあまり、手を出さないスタンスで行こうと思う。
「そしたら、次のヒーロー組は……喚導・耳郎組!」
そしてついに、オールマイトの引くくじによって、自分の番が回ってくる。
相方は、長い耳たぶと、三白眼が特徴的な少女。パンク調のコスチュームを纏った彼女は、確か耳郎響香、という名だったか。
「対するヴィラン組は……轟・八百万組だ!」
その言葉に、耳郎がげぇ、と言葉を漏らす。自分を含め、今回の組み合わせはほとんど推薦組だ。唯一、一般入試の耳郎には嫌な組み合わせだろう。
だが、だからと言って組み合わせが変わるわけではない。
ヴィラン組が先に仕込みが行われている建物へと向かい、それから一定時間後に自分と耳郎が同じ場所へと向かう。
「とりあえず、今回の状況設定は人質救出及び犯人確保、か。さて、どう立ち回るか……」
「そう、ですね。えっと……なんて呼べばいい……ですか?」
そのたどたどしい言い方に、そりゃ普通は年上としてか、クラスメイトして扱えばいいのか悩むよな、と思う。即座にクラスメイトして対応した切島がおかしいのだ。
だからまぁ、少しだけ考えて、別に年下に敬語を使われたいとかもないので、クラスメイトとして扱ってもらえばいいだろうと判断する。
実際、スラム街では年齢なんて気にせず、性分でもない限り、全員がため口であったし、気にする理由はない。
「つーわけで、敬語無し、喚導でも想也でも自由に呼んでくれ」
「ん、そーいうことなら遠慮なく」
「俺もジロちゃんって呼ぶし」
「なんかペットみたいだからやめて」
可愛いと思うんだけどなぁ、なんて呟いたりしてるうちに、指定された場所へとつく。
見た目は何の変哲もない六階建てのビル。ただ、ヴィラン組は訓練場所の指定と、教師に仕込みを頼むことができる。だから、見た目通り何の変哲もない、ということはなく、トラップなども存在しているだろう。
事実、近くに来ただけで
「さて、とりあえず作戦立てるためにも、ジロちゃんの個性教えて」
「だからジロちゃんは……ああ、もういいや。うちの個性は〝イヤホンジャック〟。刺した対象に心音を叩き付けたり、対象から微細な音を聞いたりできる」
と、なると、と頭の中で作戦を組み立てていく。彼女の個性は索敵に使えそうだ。ならば―――
建物内を堂々と歩く。自分の腕の中には、耳郎おり、所謂お姫様抱っこの状態だ。年頃の女の子らしく、その状態に照れているようだが、作戦上仕方ないので我慢してほしい。小脇に抱えてもいいのだが、見た目が悪い。あとは照れてるのを後でネタにしてからかうつもりでもある。
そんなどうでもいいことを考えながら、
しかし、ヴィラン組の二人はそれに気づいた様子はなく、そのまま人質役―――ルリの元へと辿り着く。
ルリが人質役とは、どうにも過去のことを思い出して嫌な気分になる。
過ぎたことはネタにした方がいい、なんてどの口が言うのかと自嘲しつつ、ルリと、轟、八百万の間に立つ。
相変わらず、
そして無言のまま耳郎と頷き合い、耳郎の耳たぶの先端が動き、轟と八百万にそれぞれ突き刺さる。
―――その瞬間、ようやく二人がこちらに気づくが、遅い。
次の瞬間には、何か衝撃を受けたような素振りを見せた二人が地面へと倒れる。計画通りであるなら、耳郎によって心音を体内へとぶち込まれた結果だろう。
倒れているうちに、二人を手早く拘束。人質役にルリを選んだ恨みを込めて、ちょっときつめに縛りつつ、続いてルリを解放。
そしてスピーカーから流れるオールマイトからの終了の合図。実にあっけなく、自分の戦闘訓練は終了した。
「……まぁ、とりあえずはお疲れ」
「おう、お疲れ、ジロちゃん」
これ、オールマイトの格上との戦闘を経験させてやれ、っていう頼み的にはこれアウトだよな、でもガチで勝ちに行くならこの手が一番だしなぁ。
なんて、悩んでいたところ、耳郎の方から労いの言葉をかけられたので、それに軽く返す。
ただその後耳郎はどうにも、微妙そうな顔をしているので、思わずどうしたのか、と問いかければ、耳郎が口を開く。
「なんか……あまりにも呆気なくて。結局、喚導は何をしたわけ?何か小声で呟いてから、普通に建物入ったと思ったら、ヴィラン組の二人はこっちに気づかないし」
「うーん……」
自分が使ったのは、憑依召喚の派生形である、とある能力だ。今までなんとなくできそう、という感じだったので、今回試運転を兼ねて使ってみた次第だった。
ただ、これ、現状自分しか知らない力だ。オールマイトや根津校長、ルリにも言っていない。
そして伏せ札は一枚は欲しいよな、という話で。
「んー、とりあえず秘密ってことで」
クラスメイトだろうが、どこから情報が流れるかも分からないので、話さないことに決めたのだった。
というわけで、主人公には憑依召喚の派生形の能力がまだあるよ。
ちょっと引っ張る形になったけど、次回には詳細出るんじゃないかな……。