ただ、己の為に   作:天澄

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#22.Raids come, villain association.

 バスに乗る、というのは初めての経験だった。

 

 スラム街時代は、移動手段は高速移動系の個性の持ち主に運んでもらったり、依頼者からの迎えだったりで、あまり公共交通機関には縁がなかった。かろうじて電車に乗ったことがある、程度か。

 スラム街自体に車を持っている人間がいるのだから、バスを使う理由がない、という話だ。

 

 だからこうして、クラスメイトとバスに乗って移動する、というのはどうにも落ちつかない、初めての経験だった。

 

「どした、喚導。何かそわそわしてないか?」

 

「ん、ちょっとなー」

 

「あ、もしかしてあれだろ、この後の訓練が気になってんのか?そうだよなー、ヒーローの本分だもんなレスキューは!」

 

 隣に座る切島の的外れな言葉に、思わず苦笑する。ただまぁ、切島のこの、ヒーローに対する真っ直ぐさは嫌いではなかった。

 

「レスキューねェ……苦手分野なんだが」

 

「意外だな、喚導くんはその個性の汎用性もあって、何でもそつなくこなせると思っていたのだが」

 

 先日、ひと悶着の末に委員長となった飯田の言葉に、そんなことはない、と返しながらこのあとに待つ訓練のことを考える。

 この後の訓練は、救助訓練だ。切島が言っていたように、人を助けるという点で、ヒーローの本分とも言える内容になる。だから皆、気合を入れて臨んでおり、それは自分も例外ではない。

 もっとも、その理由は皆と違い、自分にとって経験の浅い分野だから、真面目にやろうというだけなのだが。それでも、やる気があるだけ上等だろう。

 

 ただその訓練、どうやら雄英高校の敷地内ではあれど、少し遠い場所で行うらしい。だから移動手段としてバスが用意されたのだが。

 同時に、遠い場所でやる、というのが少し問題となっているらしい。

 

 ついこの間。何やら、雄英高校に不法侵入があったらしい。入ってきたのはマスコミらしいのだが、そいつらが入るために入り口を壊すことでマスコミも通れるようにしたヴィランがいるようだった。

 自分は、戦力と年齢、それから出自といったものから、それなりに雄英教師陣には戦力として見られている。だからその一件も自分は多少の話を聞かされているし、同時にA組の警護も頼まれている。

 このあとの訓練も、担任の相澤先生に、十三号、そしてオールマイトというヒーローたちと共に、有事には生徒たちを守ってくれと言われていた。

 

 ただまぁ、入り口の破壊痕的に、なんとなくだが犯人のあたりはついている。

 そういえばあいつら、メインで活動してたのは日本だったよなぁ、と今更ながら思い出しているうちに、目的地へとバスが到着する。

 

 その名もウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)

 

 もう少しまともな名前はなかったのか、とか版権的に怒られない、と色々疑問がある名前の施設ではあるのだが、機能としてはかなり有能だ。

 水難、土砂、火事といった基本的な災害を再現し、経験できるというとんでもない演習場。日本に多い地震も再現できる、というのだからいやはや恐ろしい。

 雄英は惜しみなく金を使っているよな、なんて考えながら自分たちA組の前に立つ、宇宙服のようなコスチュームを纏ったヒーローを見る。

 

「皆さん、USJへようこそ。スペースヒーロー〝十三号〟です」

 

 そう言って、ペコリとお辞儀する十三号は、そのビジュアルもあって愛嬌に溢れている。事実、十三号のファンだという麗日なんかは、キャーキャーとはしゃいでいた。

 

 だが待って欲しい、その見た目に騙されてはいけないのだ。

 自分は十三号とも過去に手合わせをしたが、その人見た目に反して結構戦い方がえげつないのだ。

 

 過去の経験と、現状の分析から相手の行動を予測し、相手が移動するであろう先に個性のブラックホールを発生させるという戦い方。

 一見、普通の戦い方のようにも思える。しかし、これが十三号がやると、予測の精度と、ブラックホールの展開速度からえげつないことになる。

 

 接近しようと思えば、突然ほんの数センチの距離に現れるブラックホール。回避しようとすれば、避けた先に現れるブラックホール。動かなくてもとりあえず現れるブラックホール。

 どう行動しようとも現れるブラックホールに、ろくな身動きをとれなくなったのは、実に嫌な記憶である。

 人をあっさり殺せるブラックホールを、そんなポンポンと展開していいのかと文句も言ったが、殺さないギリギリの匙加減はしっかり把握してますから、と返されてしまった。

 

 元々は指先からしかブラックホールで吸い込むことができなかったらしいが、到達者となってからは、任意の座標に、好きなサイズのブラックホールを生成できるようになったらしい。実にえげつない方向へ発展したものだと思う。

 

 そんなことを思い出していると、相澤先生の方に自分だけ、名指しで呼び出される。

 他のA組連中は十三号が相手する中、自分だけ呼び出される、ということは十中八九、警備関係の話だろうな、と予想していれば、案の定の内容が、相澤先生から語られる。

 

「今回の授業、オールマイトはなしだ。通勤中に活動限界ギリギリまで個性を使ったらしい」

 

「まーたあの人は……」

 

 だからいまいち、教師としては尊敬できないのだ、と思いながら、少し思案する。

 もし、今回の授業で襲撃があるとすれば、オールマイトがいることを前提にした編成だろう。と、なれば相澤先生と十三号、そして自分で、対オールマイト用の構成の敵と相手どらなければいけなくなる。

 至極面倒だな、と溜息を吐いていると、相澤先生も同じようで、溜息と共に、諦めろと首を横に振られる。

 

 仕方ない、か。そう考え、意識を切り替えて再度、警戒態勢に入ろうとし―――

 

 ―――USJの噴水広間に、黒い靄が現れた。

 

 それを知覚すると同時、宙へと飛び出す。

 

「死っ柄っ木くゥーん!あっそびっましょォー!!」

 

「ま、お前ならそう来ると思ったよ」

 

 個性で手元に大剣を召喚しながら斬りかかるが、靄から出てきた死柄木に当たる前に、目の前にまた、黒い靄が現れる。そして次の瞬間には、元居た相澤先生近くまで戻されてしまう。

 

「元気にしてたか?俺は辛いことがあったぞ死柄木ィ!」

 

「……話には聞いてたが、本当にお前が雄英にいるとはな」

 

 自分でも意外だよ、と返しつつざっと視線を周囲にやり、現状を確認する。

 まず自陣、雄英側。場所はUSJのエントランス部分。広さはそれなりにあって、A組はひと塊になって、相澤先生から警戒と、ヴィラン襲来を告げられている。

 状況と戦力的に、死柄木や黒霧に対応できるのは自分と十三号、相澤先生のみ。生徒は戦えて死柄木が連れてきた下っ端連中のみだろう。

 

 次に、死柄木率いるヴィランサイド。現状、確認できる主戦力らしき姿は、死柄木と黒霧のみ。ただし、黒霧のワープゲートがある限り、控えがどれだけいてもおかしくはない。戦力の逐次投入は下策だが、奇襲として使えるならアリでもある。

 死柄木と共に黒い靄から出てきたチンピラ共は、動きからさほどの練度ではないことが分かる。どう足掻いても、街中のチンピラ程度だ。間違いなく捨て駒だろう。

 

 自陣と、敵陣の距離は約百メートルほど。通信は、他の連中の様子を見る限り、通じない。となれば、直接救援を呼ぶのがいいのだが。

 

「……チッ」

 

 入り口の方に視線を向ければ、黒い靄と、そこから出てきた男が扉に何か仕掛けている様子が見える。そりゃ逃げ道は塞ぐよな、とは思うがやられる身からするとたまったものじゃない。

 扉に何か仕掛けてすぐに逃げたところを見るに、恐らく、個性の持ち主をどうにかしなければ解除できない能力。また距離は関係なく、対象の状態を固定するか、接着するなどの個性だろうとあたりをつけておく。

 

「情報共有!まずあの顔に手をつけてるのが主犯格で、個性は掌で触れた対象を崩壊させる個性!それから黒い靄の方はワープゲートの個性だ!」

 

「何で知っているかは後で聞くとして……それに間違いはないな!」

 

「あくまで知っている範囲で、です!正確ではないし、到達者に至っている可能性も考慮してください!」

 

「チッ……知られてる、ってのは厄介だな」

 

「お互い様だろ!」

 

 そう叫ぶと同時、相澤先生と共に前に出る。手早く主犯格を抑えたいところだが、それには雑魚が数が多過ぎて些か邪魔だ。故に、まずは雑魚を蹴散らす必要がある。

 

「相澤先生!」

 

「任せろ」

 

 ―――相澤先生の個性は〝抹消〟。見た相手の個性を、瞬きするまで抹消、より厳密に言うならば抑制する個性。

 相手のメイン武装を封印できるそれは、元々の個性の段階で実に強力な個性だ。

 

「ああ、実に強力な個性だ。だけど、知ってるぞイレイザーヘッド」

 

 相澤先生が個性を消した連中の顎や頭に、重量の大きい鉄塊を叩き付け意識を奪っていると、それまで回避に専念していたヴィランたちが、ある瞬間から唐突に、反撃に転じようとする。

 それは、相澤先生の個性が切れるタイミング。目を開けているのに耐えられず、思わず瞬きしてしまう、その平均時間。

 死柄木は過去の相澤先生の戦闘データを漁ることで、それを割り出していたのだろう。

 

 ―――だが、甘い。

 

「抹消―――限界駆動(リミテッド・アクション)

 

 相澤先生が呟くと同時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかし、威圧の為かあえてゴーグルを外した相澤先生の目は、今も閉じられている。

 

「……到達者としての力か」

 

 そう、相澤先生は到達者に至っている一人だ。基本的に、到達者としての力は、大本の個性の拡張になる。

 相澤先生の場合、瞬きに関わらず、見た対象の個性を一定時間抹消する、というもの。これにより、短時間だった個性の抹消時間が、かなり延長されている。

 

「はッ、だけどよぉ、異形型の個性までは消せねぇみたいだなァ!!」

 

 そう言って、多腕の岩に包まれたかのような見た目をしたヴィランが、相澤先生へ殴りかかる。それは体格からわかる通り、人を殴り殺すには充分な威力を秘めているだろう。

 

 ―――本来ならば。

 

「なっ……」

 

「到達者を甘く見過ぎだぜェ、オイ!」

 

 相澤先生へと殴りかかった異形型の一撃を、間に割り込む形で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 本来であれば、片手で掴むことなどできない一撃に、殴ることなどできない岩に包まれた相手の顔面。しかし、今は相澤先生の力によって、異形型ヴィランは形状を除き、一般的な人間のスペックまで落とし込まれている。

 

 元の個性ではできなかった異形型の個性の抑制と、抹消時間の延長。これが相澤先生の到達者としての力だった。

 

「……くそっ、予想外の到達者に、目的のオールマイトがいないと来たか。どうするかな……」

 

 完全に反撃を封じられたことによる敵の怯み。そこから生じた膠着の一瞬に、死柄木の呟きが響く。

 それに丁度いい、と判断し、構えを解かないまま、一つの問いを死柄木へと投げる。

 

「おーい、死柄木。お前の目的にルリって入ってるー?」

 

「……ああ、あの覚醒誘因(ブーステッド)のガキか。今回は用はない、安心しろ」

 

 その言葉に、少しばかり安心する。もしルリを狙っていたならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。流石に、友人を殺すのはいい気分ではないし。

 

「俺の目的は、オールマイトを殺すことだが……さて、今回はどうするかな」

 

 そうやって死柄木が一人悩む間も、戦況は着々と動く。

 自分と相澤先生は雑魚共を蹴散らし、死柄木へ距離を詰める。

 USJエントランス部では、生徒たちが黒霧によってどこかへ飛ばされ、十三号と黒霧の一騎討ちが始まったのを視認した。

 ただ、生徒たちに関してはいても足手まといでしかないので、遠くに飛ばされたなら丁度いいのかもしれない、と判断する。

 チンピラレベル以上が飛ばされた先に居た場合、彼らでは負けるだろうが。まぁその場合はついてなかったな、としか言えない。

 

「そうだな―――」

 

 そして手早く雑魚を蹴散らし終え、いざ死柄木と間合いを詰めようとした瞬間。

 

「―――オールマイトがいないなら、今後の為に戦力を削るか」

 

 刹那、自分と相澤先生を包み込むように展開される複数の黒い靄。

 

「ッ、ファック!」

 

「チィッ!」

 

 そしてそこから吐き出される多数の鉛玉。どういう理屈かは知らないが、黒霧が機関銃か何かで、ワープゲートを経由することで多方向から射撃してきているようだった。

 個性に対してしか効果を発揮しない相澤先生に対するメタ手札の一つなのだろう。例え回避しようと、避けた弾丸が再度ワープゲートに突入するために、時間が経過する毎に弾数が増えていく鬼畜仕様だった。

 

 だが、相澤先生も自分も、その程度でやられるほど甘くはない。回避しても再利用されるなら、弾き飛ばせばいい。

 故に、相澤先生は首に巻いた強度の高い、特殊な布を操ることで弾丸を弾き、自分は全身鎧を召喚することで、被弾を完全に無視する。

 

 これで、黒霧からの支援攻撃は無視できる―――そう思った次の瞬間、自らの身にかかった巨大な影に、反射的にその場から逃げ出す。

 

「ッ……脳無……!」

 

「本当はオールマイト用だったが……まぁいい。何時だかの再演だ、やれ、脳無」

 

「―――オ―――オ―――ォ―――」

 

 幸い、今回の脳無には精神汚染系の個性は積まれていないらしい。あるいは、まだ使っていないだけか。

 ただ、重要なのは自分は今、動けるということだ。こちらに拳を振り下ろした姿勢の脳無と少し距離をとり、構える。

 

 最初から敵に相澤先生がいることを想定しているなら、この脳無には個性をレジストする個性が積まれている可能性が高い。となれば、この巨体を誇る脳無と相澤先生では相性が悪い。

 よって、脳無に対応すべきは、その汎用性からメタを取りやすい自分だろう、と判断する。

 

「相澤先生は死柄木を!こいつは俺が!!」

 

「任せろ」

 

 相澤先生からの返事を確認しながら、動きが鈍重な脳無との間合いを詰め、その脇腹に右足での蹴りを叩き込む。

 以前は斬撃耐性を積んでいたことからの一撃だったが―――感触があまりに軽い。これは、衝撃系への耐性も積んでいるな、と判断。

 同時に、このまま近距離にいるのは危ないと判断して、右足の爪先を脳無へ引っ掛けるようにして、身を捻る。そのまま自分の肉体を持ち上げ、空いている左足を利用して、一撃。ただその威力を脳無ではなく、自身へと向けることで脳無から離れる。

 

 刹那、先ほどまで自分がいた位置を薙ぎ払う脳無の腕。

 

 その威力に、これ避けなかったら一撃でやられてたな、と冷や汗をかきながら、脳無を正面に捉えるようにして、構える。

 

 ―――死柄木率いるヴィランとの戦いは、まだ終わらない。




憑依召喚の派生形、出せなかったや!次回な!

ちなみに、主人公にとって死柄木たちは失っても問題ない相手だったりする。
元々、最初の出会いが出会いだったし、状況次第で敵にも味方にもなる、という認識だったから、友人にはなっても、仲間や家族という身内判定までいってない。
だから寂しいけれど、敵だから仕方ないよね、っていう感覚。
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