―――踏み込む。
一歩、距離を詰めるだけのワンアクション。しかし、ある程度歩法について修練を修めていれば、数メートルの距離程度も一瞬で詰めることができる。
故に、即座に脳無を剣の間合いに収め、片手剣を召喚すると同時に一閃。
その手応えから案の定、斬撃耐性が積まれていることを確認し、思わず舌打ちをしつつ、再度ステップで距離を取る。
そんなこちらに遅れるようにして、先ほどまでいた位置が脳無の腕によって薙ぎ払われる。
遅いから回避ができているが、代わりに巨体な分一撃の範囲が大きい。ヒットアンドアウェイを心掛けなければ、すぐに重い一撃を喰らってしまうだろう。
「つっても……どうすっかね」
おそらく対オールマイト用の衝撃耐性。自分への対策の斬撃耐性。相澤先生によって個性を無効化されていないあたり、個性無効の耐性か、個性の活性化か何かがあるのだろう。
と、くればおそらく十三号対策もしてあるのだろう。そうなると、やつへの有効な攻撃手段は少なくなってくる。
一応、炎なんかでは焼けるだろう。ただあの巨体を焼くだけの出力が出せない。
超越者となったって、ベースはあくまで元々の個性なのだ。元々の個性が苦手とする、理屈の存在しない、超常現象とでも言うべき力を持ったものが召喚できないのは、今だってさほど変わらないのだ。
単純に剣技に特化した逸話を持つ英雄は召喚できるが、炎などを操る英雄がいたとしても、それが超常的なものである限り、炎を操る以外の逸話の部分しか再現できない。できて、低出力だ。
「……いや、ほんとこいつ厄介過ぎねェ?」
雄たけびを上げながらその巨腕で殴りかかってくる脳無の一撃を、斬撃が通らないことを利用し、片手剣を引っ掛け、脳無の腕の周囲を回るようにして上空に上がり回避する。さらに身を捻って、今度は脳無の首に剣を引っ掛け、すれ違う。
そうして再び訪れた束の間の休息に、さてどうしたものかと思案する。
正攻法なら、自分では脳無を倒せないだろう。つまり、逆に言えば正攻法ではない攻撃でなら倒せる。
ただその手段は本来の自分の個性の使い方ではないし、まだろくに使ったことがない力だ。一応、いつぞやの戦闘訓練ではうまく使えたので問題ないとは思うのだが。
そうやって悩んでいるうちに、再び脳無がバカ正直に突っ込んでくる。
確かに大量の個性は強力だが、知能が落ちるのが難点だよなぁ、なんて思いながら、今度は剣で脳無の拳を一度受け、そこから身体全体を使ってその衝撃を流す。そしてその勢いを利用して身体を回転、脳無の肩へと斬撃を繰り出し、その衝撃で脳無の後ろへと抜ける。
その際、チラと相澤先生や十三号の方を見れば、敵も味方も、互いに決定打が叩き込めず、手間取っているのが分かる。
救援は望めず、敵を倒すことはできない。ついでに、こちらは一撃貰えばお終いときた。こりゃ、出し惜しみしている場合じゃないな、と片手剣を返還する。
突如現れた圧倒的熱量に、本能で動く脳無が怯む。
その隙を見逃さず、素早く間合いを詰め。
「炎纏、かーらーのー!
光炎の比率を炎へと大きく偏らせ、右腕へと圧縮し纏わせ脳無の腹を殴る。そして拳が脳無に触れると同時、纏わせていた炎を一気に解放する。
結果、大きな音共に
「出力問題なし、コントロールも同様っと」
脳無から距離を取って、光炎の比率を弄ったりすることで調子を確かめる。なんてたって
そう、今自分が使っているのは他人の、ソールの個性だ。
本来なら、自分は個性を憑依召喚で再現することができない。何故なら、まさに超常的な力だからだ。
だけど、一つだけそれを可能にする条件があった。それはその個性の持ち主と一定以上の絆を結ぶこと。
絆、とは実に曖昧で、自分ですら掴み切れていないが、恐らく、スラム街の住民の多くを再現できるだろう。
そして特に。特に親しかった、家族であるソールに関してだけはその再現度は飛びぬけている。習熟すれば恐らく、
そんなことを考えているうちに、脳無の腹の大穴が、肉体が再生することで埋まっていく。やはり、再生の個性も持っていたらしい。
「ま、慣らし運転にゃあ丁度いい。炎剣展開、スタイルシフト―――紅蓮舞踏」
ソールとは違って、自分の場合破壊力が高い炎の方が相性がいい。故に、光炎の比率を炎に偏らせたまま、本当はソールに教えるつもりだった技を再現する。
周囲に展開される、光炎で構成されたいくつもの剣。両掌の前にも浮くようにして、それぞれ炎剣が存在している。
遠距離主体のソールには向いていないため、教えるのを後回しにしていた戦闘スタイルの一つ、近接特化の紅蓮舞踏。
「斬撃は通らないかもしれないが―――焼き切るなら話は別だよなァ!?」
脳無へと接近。両手の炎剣を振るってその右腕を焼いて斬り飛ばし、そして周囲に浮かせた炎剣を制御。斬り落とした腕を細切れにし、再生の余地をなくす。
それでも、本体側の切り口から再生するだろうが、落とされた腕と繋げて再生するのと、一から腕を丸々再生するのではかかる時間が違う。
「オォアァァ░₢―――」
「させねェよ」
精神汚染系の個性を使おうとしたために、脳無の口へと炎剣を突っ込み、喉を焼くことでそれを防ぐ。
ついでにこれ、間違いなく長引かせた方が厄介だな、と判断し、慣らし運転として遊ぶのをやめ、脳無を焼き払うため、大技の準備に入る。
「天高く、どこまでも焼き払え―――」
脳無を囲むようにして、炎剣が地へと突き刺さる。そしてそれぞれの炎剣が刺さった場所から、地を這うように繋がっていく小さな炎。
「
刹那、炎剣を外周として空へと膨れ上がる炎。無論、円内部にいた脳無はその炎柱に飲み込まれ、悲痛な叫び声を上げている。
そのまま、しばらく放置すること数秒。叫び声が聞こえなくなった段階で炎柱を消す。
「おっし、生きてんな?」
一応、身分的にはヒーローの卵であるため、不殺を心掛け火加減を調整したのだが、その甲斐あってか、炎柱から出てきた脳無は呼吸が確認できる。再生の個性が機能しないあたり、気絶しているらしい。
自分ではこの脳無を拘束できる強度のものが思いつかないため、一旦脳無は放置し、それを操る死柄木を止めることにする。
そのため、相澤先生対死柄木がどうなったのかを確認しようとすると、そこには意外な光景が広がっていた。
「くっ……」
「思ってたより長引いたな……」
相澤先生は個性上、相手の個性を封印してからは純粋な格闘戦をすることになる。だから当然、格闘戦は高いレベルで身につけているのだが。それを死柄木が上回り、相澤先生を追い込んでいる。目の前に広がる光景はつまり、そういうことだった。
「……意外だな、お前が格闘ができるとは」
「何年もかけて準備してるんだ、これくらい当然だろ」
相澤先生に歩み寄りながら死柄木にそう声をかければ、何言ってるんだ、という声音でそんな言葉が返ってくる。確かに、自分と死柄木が出会った二年ほど前の段階で既に計画を練っていたのだとしたら、ある程度鍛えているのは当然だと言えた。
「しかし、脳無はもう負けたか。と、なると……黒霧!」
その呼び声に反応して、死柄木の横に黒い靄が発生する。しかし、黒霧本人はその姿を現さないのは、恐らく相澤先生を警戒してのことだろう。
純粋な総数としては三対二のこの状況。しかも長引けば長引くほど、こちらは援軍が来る可能性が上がっていく。となれば死柄木が打つ一手は。
「撤退か」
「そろそろ引き時だからな。最初から成功しない場合も想定してるから問題ない」
「逃がすと……思うか!」
黒い靄へと入ろうとする死柄木に、相澤先生が布の先端を飛ばす。しかしそれを死柄木は掌底で弾き上げて勢いを殺し、掴んで引っ張ることで相澤先生の体勢を崩す。そしてすかさず黒い靄から放たれる銃弾。
それを咄嗟に自分が手元に召喚した剣で弾けば、その頃には既に、死柄木は体のほとんどが黒い靄に入っている。
「じゃあな、喚導」
「はァ……ま、じゃあな、だ、死柄木」
「あと、ぷれぜんとふぉーゆー、だ」
「は?」
その言葉と共に、死柄木はある方向を指さす。それに釣られ、指さされた方向を見れば。
「―――くそったれが!!」
いつかの意趣返しか、
最後の最後に、自爆の個性か何かでも始動させたらしい。この状況下だ、ここら一帯を吹き飛ばすような威力であることは想像に難くない。
故に、脳無に向かって駆け出し。それがどう足掻いても間に合わないことを理解してしまう。
それでも、被害を抑えるにはどうしたらいいか頭を捻りながら脳無へと走り続け。
「―――遅れてすまない、後は任せてくれ」
ヒーローが、そんな自分を追い抜いていった。
V字の髪型が特徴的な、脳無には劣るがそれでもガタイのいい、スーツを纏った男が脳無へと駆け寄る。そしてその拳を大きく振りかぶる。
「DETROIT―――SMASH!!」
その一撃に、
一先ず、周囲に被害はなかった。
「オールマイト……爆発、巻き込まれたな?」
「ギリギリ間に合わなかったね!」
HAHAHA、と笑うオールマイトだが、決してこちらを振り向かない。それはきっと、身体の前面が焼けてしまっているのを隠すためだろう。
確かに、オールマイトが爆発ごと脳無を空へ打ち上げたことで、周囲には被害がない。けれど、爆破前には間に合わなかったために、起きてしまった爆発の中心に近かったオールマイトだけは、その被害を受けてしまっていた。
それでも、まだマシな結果なのだろう。なんせ、
「……とりあえず、リカバリーガール呼んでくれない?爆発って結構痛いんだよね!」
「……はァ、気が抜けるから急にノリ軽くならないでくれ……」
そうして、死柄木弔率いる
というわけで、今回はヒーローっぽく必殺技マシマシでお送りしましたっと。
ところでヒーローが必ず殺す技とはどういうことだろうね?