A組連中以外も入り混じった待機場所で、人混みをウザったく思いながら時間を待つ。
周りにいる誰もが、共通して気合いの入った顔をしており、かく言う自分も珍しく集中状態へと入っていた。
───雄英高校体育祭当日。
欠片も興味の湧かない開会式を立ったまま寝て過ごし、第一競技の出発地点として案内されたこの場所。
目の前には遠くまで道が続いており、その途中には多くの障害物が既に見える。これ、間違いなく障害物競走だよなぁ、と思わず呟きつつ、偶然隣に立っていた少年に話しかける。
「と、お兄さんは予想してるんだけど、そこらへん少年はどう思う?」
「いや、知りませんけど」
「むしろこの光景で障害物競走じゃなかったら、少年は何やると思う?」
「だから知りませんけど」
相変わらず轟少年は冷たいなぁ、と呆れつつ、だったらと轟少年とは反対の、左隣を見る。
「じゃあそこの少年はどう思う?」
「………………」
こっちはガン無視と来た。
逆立てた紫髪に、隈が目立つ目元。如何にも根暗、といった見た目だがこれ、どちらかと言えばただ他人に構っている余裕がないだけのように思える。
両サイド余裕がないやつに挟まれたなぁ、と思いつつ、言っても自分も余裕がないか、と自嘲する。
ふざけることで外面を整えているだけで、内面は割かし余裕がなかったりするのだ。絶対に他人に見せる気はないが。
『―――さぁオメェら準備はいいかぁ!?出来てないならご生憎、ってなぁ!!』
自分の現状について少し考えていると、会場に設置されたスピーカーからプレゼント・マイクというヒーローの声が響いてくる。
あの人、常時ハイテンションでノリもいいが、微妙にタイプが違うせいで苦手だったりするんだよなぁ、なんて思いつつ実況のプレゼント・マイクの言葉に耳を傾ける。
『第一競技は見れば分かる通り、障害物競走だ!目の前の道を障害物に対処しながら駆け抜けな!!』
それにだろうな、と頷く。むしろ轟少年に問うたように、むしろそうでないなら何をやるのだ、という光景である。
だから重要なのはそのルールに、
その考えを裏付けるように、そこから更にプレゼント・マイクの言葉は続けられる。
『たーだーし、だ!!この競技は五人一チームとする!!』
その言葉を聞いた段階で、両サイドにいた少年ズを小脇に抱える。それに二人が驚いた顔をしているが、説明している暇はない。
多分自分の予想が正しければ、競走だし速さがものを言う競技になるだろう。それはチームメンバー選びも、だ。
『チーム全員がゴールに着いた段階で、初めてそのチームのメンバーはゴールとなる!!』
続いて、偶然近場にいた耳郎を、知ってた顔ということで追加で回収し、あと一人を探す。
とりあえず、突然の追加情報にも動じず、爽やかな笑みを浮かべ続けている金髪の少年を回収しておく。いや、なんかどんな状況でも落ち着いて対処できそうだし。
『チームを組んだら出発地点付近の受付でメンバーを登録しな!その段階でそのチームは出発することを許可する!!』
プレゼント・マイクが言い終わると、突然地面が開き、そこからテーブルと椅子に座った教師陣が上がってくる。
無駄に金かかってんなぁ、と呆れつつ、文句を言う連中をガン無視しつつ、今上がってきた受付であろう場所へと走る。
『ちなみに他人の妨害はアリだぜ!まぁそれで観客にどう思われるかは知ったこっちゃねぇがな!!つーわけで、ハイ第一競技スタート!!とっととチーム組まないと出遅れるぞー!!』
開始の合図唐突過ぎるだろ、と思いつつも連れ出した四人に無理矢理名前を書かせて、スタートの許可を得てコースへと飛び出す。
「……で、そろそろ説明してくれるか?」
走りながらジト目を向けつつ、轟がそうやって問うてくる。それに仕方ないにゃあ、と答えつつ、競技説明がああも唐突で、慌てさえしなければ誰もが気づけるだろうこの競技について説明することにする。
「いいか、この競技は何はともあれ速さが重要になるわけだ」
「ま、そうだね。障害物、
と、なるとの話である。確かに速度を出せるチーム構成を考えるのは手だ。半端なメンバーで時間をかえてゴールする羽目になるよりかはいい。
だが、一人で速度を出し、全員を運べる個性の人間がいるならば。下手にメンバー選出に時間をかけるより、とっととメンバーを揃えた方が早く勝負をかけられる。
「……つまり、あんたは俺たちを一人で運ぶ宛てがあるってことか?」
「そういうこった。あとは速度の出せる個性持ちとかの奪い合いが発生して、出発地点で荒れる可能性があったからな。そこから抜けたいのもあった」
目元に隈のある少年、チーム登録の際に確認した名前は心操人使だったか。彼の質問に答えつつ、追加で補足もしておく。
それにチームメンバーたちは納得した様子は見せるが、ただ同時に金髪の少年、物間寧人は不快そうな顔を見せる。
「……僕はA組なんかと組みたくなかったんだけど?」
確かにチーム登録する時に物間が一番ゴネたな、なんて思っていると、なんかと言われた今度はA組である轟と耳郎が不快そうな顔をする。
即席とは言え、下手にチーム内に不和を残すと後が面倒だな、と
「いいか、お前がA組をどう思おうが構いはしない」
その言葉に、A組の二人が文句ありげな顔をするが、それをガン無視して更に言葉を続ける。
「ただ本気でこの体育祭で優勝とか狙うならそれ捨てた方がいいぜ?」
「……何故?」
「究極的には個人戦だからだよ。最後にゃ自クラスの連中とも争うことになるんだ、クラスなんかの括りに拘っているようじゃ痛い目見るぜ?」
「……ま、一理あるね」
「敵だろうが利用できるもんは利用して、邪魔な連中は全部薙ぎ倒すくらいの気概で行こうぜ」
そう言ってやれば、こちらの気迫にあてられたのか、話していた相手である物間だけではなく、全員が気合いの入った顔になる。
……が、すぐに耳郎が呆れた顔になり、呟く。
「……思ってたんだけど、喚導って時々凄いヴィランっぽくなるよね」
ハッハッハ、と耳郎の言葉に笑って返す。いや、だって実際元ヴィランなわけだし。笑って誤魔化すしかなかった。
そして誤魔化しついでに、いい加減話もまとまったので、召喚の個性を発動させる。
「憑依召喚〝
ソール、という単語に痛む胸を押さえながら、憑依召喚を成立させる。
―――オクソールとは、北欧神話における雷神トールの別名である。
トールは雷神として有名な神である。しかし、同時に戦車を操るものとしての性質も持ち合わせている。
今回憑依召喚したのは、その戦車を操るものとしての側面。
基本的に神様はそのスペックが高過ぎるので、一側面の召喚しかできない。
しかし逆に言えば、一側面であれば神様クラスのものも再現できてしまう、ということでもある。
憑依召喚に成功した段階で、視界に映る自分の黒髪が、赤みを帯びる。面倒なのと体育祭のルール的に、今回はジャージからの衣装変更はなし。
そしてここからが重要であり、トールの戦車を操るものとしての側面を召喚したことで、
これが今回、先ほど言った一人でチームメンバーを運ぶ宛てである。戦車にチームメンバーを全員乗せてしまえば、残りのメンバーは障害物の対処に集中できる。また速度も、神話由来であるために申し分ない。
「……これなら確かに、全員運べるな」
「ただこれ、俺の戦闘能力が無くなるというデメリットがある」
チームメンバーを全員乗せながら、そう弱点を告げればえ、と戸惑った顔を返される。まぁ突然弱点晒されればリアクションに困るよなぁ、と思いつつ、ざっと自分の現状について説明する。
今、自分はトールを憑依召喚している状態である。しかしそれはあくまで、戦車を駆るトールであり、それ以外の部分は自分自身のキャパシティの関係で消し去っている。
故に、今手元にはトールの代名詞たるミョルニルが存在しないし、また超常的な力は再現できない、という制約から戦車を牽く二頭の山羊、タングリスニとタングニョーストの蘇生能力は使うことができない。
まぁ、そもそもあの二頭の蘇生にはミョルニルが必要なので、どちらにしてもできないのだが。
そんな内容を聞かせれば、全員がこちらの現状理解できたようで、そんな状態でどうするのか、と目線で問うてくる。
それに
「俺は戦車の操作に集中する必要があるし、戦力も低い。だから皆に手伝ってもらう必要がある」
「具体的には?」
「まずは轟。お前は基本的に対障害物を担当してほしい。性能の高さと、扱いやすさはお前が一番だからな」
「わかった」
「次にジロちゃん。イヤホンジャックの先端を戦車に刺して、振動からある程度の索敵はできるか?」
「大雑把にはなるけど、多分できる。あとジロちゃん言うな」
「それから、物間、個性は?」
「触れた相手の個性を五分間自由に使えるよ」
「そしたら随時メンバーに触れて、状況に応じて支援。心操は?」
「……洗脳、だ」
流れるように全員に指示を飛ばしていく中で、心操が言葉に詰まりながらそう答える。確かに、一般的な環境なら避けられる個性だろう。何時洗脳をかけられるか分かったものではないわけだし。
ただ、である。
「正直もっと昔に知り合いたかった……」
「……は?」
「いや、だってお前それ、普通に強個性じゃん。捕まえたヴィランから情報を引き出せるし、自分に洗脳かけられたら、自己強化もできるだろ?そうじゃなくても仲間に洗脳かけて強化する支援型もいけるし」
あとは洗脳で組織を内部崩壊させたり、相対した強敵を自殺させたり。
流石に、後半はヒーローの卵たちには言えないが、スラム街出身の自分からすれば、実に仲間にしたい個性だった。
彼がいたらどれだけ仕事が楽だったか。あとどれだけスラム街の連中に悪戯できたか。
「……あんた、それ本気で言ってるのか?」
「普通に本気だけど?ただ今回は使い道が限定されるな……。そしたら、追い込まれたら俺に戦車を操りつつ、敵に勝てって洗脳かけてくれ。それなら多少戦えるようになるだろ」
「妙な命令されるとか、考えないのか」
「少なくとも現状においてお前に俺たちを裏切る利点がねェ。いや、流石に自分を道連れにヒーロー科を蹴落とす、とか考えてたらどうしようもないけど」
「……変な奴」
それにしたって、このチームで他のヒーロー科チーム潰した方が早いし、と言えば心操から返ってきたのはそんな言葉。
確かに、ある種自分は変な奴なのだろう。スラム街、というか裏社会出身の自分からすれば、基本的に騙される奴が悪い、となるし。その理屈でいけば洗脳にかかる奴が悪いのだ。
だからさほど、自分的には気にすることではない。ただそれが表社会では一般的ではないのも理解しているので、変な奴と言われても否定できないのだが。
「っと、そろそろ後続が来たか」
「前もだな」
「これはウチが索敵するまでもないなぁ……」
後ろからは速度重視のチームが既に来ている。そして正面からは巨大なロボットがこちらへと迫ってきている。前後を挟まれた形だ。
追い込まれた、と考えられなくもない状況でもある。ただ適当に集めたこの面子、存外悪くない面子であり、この程度ならさほど問題ではない。
「轟、前方の敵、凍らせられるか?」
「余裕だな」
「オーケー、ついでだ、後続の邪魔になるようにやったれ。物間も、折角だから邪魔になるように個性使ってもいいぞ」
「任せろ」
「あははは!そら苦しめA組ィ!!」
頷いて了承した轟が、一気に敵ロボットを凍らせ、それを崩すことで道を塞ぐ。そしてそれに続くように、物間が轟からコピーした個性で、崩れた敵ロボットの隙間を更に凍らせることで補強する。
物間のA組に対するヘイト高過ぎねぇ?とも思うが、とりあえず妨害に関するモチベが高いようなので放置。
これでとりあえずは第一関門は突破、同時に後続も多少、抑えられた。となると、次の問題は第二関門になってくる。
「ジロちゃん、なんか分かる?」
「待って……多分、だけど道が途切れてる?……違う、これ穴が空いてるみたい」
「細い道かなんかか?だったら、やっぱまた轟だな!」
「どうすればいい?」
「氷の道を作ってくれ。穴とかガン無視で行こう」
障害物があろうが、迂回してしまえば問題ない、という話だ。
こちらの指示に従った轟が作り出した氷の橋を、戦車に乗って駆け抜ける。
ただ後続もリカバリーが早いようで、眼下では穴の上に張られたロープを素直に渡るグループ。こちら同様何らかの形で飛び越える奴らが見える。
ちなみに、物間はひたすら氷を飛ばしてA組に妨害を行っていた。それでいいのかヒーロー志望。
「ジロちゃん、氷に乗る前まででいいから、穴の先でなんか気づいたことあった?」
「んー……正直、凄く曖昧だけど、何かが埋まってそうだった……かな?」
「それなら、このまま氷の道を走るのが無難だな。物間、一時的に轟とチェンジ」
「何故だい?」
「俺は続けても構わねぇが……」
まぁ確かに、このまま続けても問題はないかもしれない。ただ、存外個性を使う、というのは早いペースで体力を消耗するのだ。
後々、疲れで個性を制御し損ねたりしたら怖い。だから今のうちに対策を打っておきたい、という話になる。
「つーことで、心操。お前の洗脳ってかかったやつの意識って残せるのか?」
「そう指示すれば」
「んじゃ、轟に疲労を感じないように個性をかけてくれ」
疲労での制御ミスが嫌ならば、そもそもその疲労を感じなくなればいい。暴論染みたところはあるが、対処法の一つではある。
無論、感じなくなるだけであり、轟を限界まで酷使する可能性もあるが、遠目に見えるゴールとの距離的に、轟の体力全てを使いきるほどではない。
今回に関しては、疲労を感じさせなくする、というのは手だ。
「……だ、そうだけどあんたはいいのか?」
「やってくれ。制御ミスなんか杞憂かもしれないが、打てる手は打っておきたい」
「そういうことを聞いてるんじゃないんだが……」
轟のズレた答えに自分も苦笑しながら、心操によって轟に洗脳が施される。
一瞬だけ固まった轟だが、心操がすぐに指示を出し、その次の瞬間には眠りから覚めるようにして動き出す。
「……すげぇ、本当に今までの疲れを全く感じない」
「あ、準備できた?だったら早く物間と代わってくれない?今にも氷の道が崩れそうで」
「だ、大丈夫これ?いきなり崩れてウチら落ちたりしない?」
「全く酷い言い草だなぁ!これだからA組は!!」
「A組関係ないだろ、っと」
轟が律義に物間の言葉に突っ込みつつ、氷の道を補強する。
結局、コピーして同レベルに個性を扱えるようになろうが、それを扱う経験がない以上、そのスペックは落ちるのだ。
事実、先ほどまでは戦車の移動する振動で崩れそうだった氷の道が、轟が補強した瞬間、全く揺らがず安定感が別次元になっている。
「それじゃあ物間は妨害に戻ってくれ」
「僕のこと随分な扱いだなぁ、ん?A組の底が知れる―――」
「ほら、あそこにA組だけで構成されたチームがあるぞ」
「ハハハハハ!A組どもめ!!」
こちらを追い抜かしかねない勢いで迫る、爆豪率いるA組のみで構成されたチームを指させば、物間が凄烈な笑みを浮かべて攻撃にかかる。
もはや情緒不安定過ぎて心配になってくるレベルだが、まぁ最悪心操に洗脳で止めてもらえばいい。
そんなことを考えながら、物間の攻撃を回避したことで地面に触れた爆豪が、地面からの爆発に飲み込まれるのを見る。
なるほど、仕掛けられていたのは地雷だったか、と思っている間にゴールへと突入し。
あっさりと即席チームで、第一競技の一位を飾った。
体育祭にも多少のアレンジを加えつつ、サクサクっと進めていくわよー。