「うェ、交渉だァ?」
いつものごとくガンギマリ爺の元へ仕事を貰いにいったところ、斡旋された仕事の内容は実に面倒なものだった。普段は基本的に、自分に回される仕事はシンプルなものが多い。すなわち―――強奪、殺害、全体的にテロリズム方向の、純粋な戦闘能力が問われるものだ。
一応、騒ぎを大きくしないための処理なんかもするのだが、究極的には自分は戦うことがメインだし、才能がそちらへと振り切れている。代わりにそれ以外の才能が低いため、他の仕事は自分以外の住民に回る、というのが基本だった。
それでも他の手が空いておらず、自分へと苦手な内容の仕事がくることもあったが……交渉に関しては、自分へと仕事として回ってくる意味合いが違ってくる。
「つまり、そういうことだな?」
「うィうィ、そういことさネ……。向こうさんは頭がヴィランとしての日が浅いそうやからネェ。その裏にいるンはちィっとばかし面倒じゃが、気にせんでもいい。しっかりと対応してきんしゃい……」
既に、交渉相手のそういった細かいことまで調べてあることに、改めてガンギマリ爺の恐ろしさを感じつつも、それがこの街へと向けられない限りは気にすることでもない。
「あいよ、準備は済んでんだろ?」
「勿論、他の連中にやらせてあるサ……」
「じゃ、あとは交渉の場に向かうだけかね」
ガンギマリ爺に別れを告げて、交渉の場へと向かう。場所は、スラム街の外れも外れ。そこに暮らす人が一人もいない、完全に荒廃した土地になる。理由は単純、余所者を街の中枢に呼び込む理由などないから。
基本的に、わざわざこの街へ訪れて交渉を持ちかけてくるなど、ヴィランしかいない。だから交渉の結末如何では暴れ出す可能性も充分あるため、その対策として、スラム街の外れには多くの交渉用の建物が用意されていた。
今回使用するのもその一つ。外観は、完全に崩れかけの建物。ただその中の一室だけ、ソファや観葉植物などで、他者をもてなすことのできる最低限まで整られた部屋がある。普段は、定期的に掃除する程度でしか住民も近づかない場であったが、こういう時にその役目が果たされる。
「っちゅーわけでどーも、今回お話相手になります喚導想也になりまァす」
扉を蹴り開けながら、部屋の中へと入る。交渉相手は既にこの部屋に来ている。一人は黒い靄が服を着たような存在。見る限り、何らかの個性によってそういう姿になっているのだろう。戦闘には恐らくその靄が関わってくる。実体がないのは厄介だが……少なくとも服を着ているのだ、ならば何らかの手段で干渉はできるだろう。
そしてその靄の人物を後ろに侍らせソファに座るのは、身体の多くの箇所に手のオブジェクトを付けた、見る限りは少年。趣味が悪いと言わざるを得ない少年の名前は、確か死柄木弔だったか。
「……なんだよ、こいつ。本当にこんなのが交渉相手なのか?」
「落ち着いてください死柄木弔。ここの住民は奇抜な者が多いですが、基本的に有能です。行動に騙されないように」
死柄木は明らかに嫌悪感を隠さずにこちらのこと見てくる。逆に声音的に男であろう靄の人物は、理性的な反応で、表情が読み取れないのもあってこちらに対する感情が見えない。靄の男が参謀で、死柄木が頭、という形か、と判断し、一先ずはもう少し様子を見ることにする。
「いやァ、悪いね。こっちは明確なボスも、交渉人もいないんだわ。だからこの場に来るやつを決めるのに手間取った」
「……まぁいいよ。目的さえ達成できればいいんだ」
―――まァ、精々クソガキって程度かな。
イラついた様子の死柄木にそう評価を下す。こっちのペースに合わせられたことにイラついて、それを全く飲み込めてない。恐らく、今彼がこの街で過ごすことになったら、癇癪を起こして人々に見捨てられ、そして野垂れ死ぬのだろう。故に、クソガキ。ただ、あくまで今は、という話だ。ガキだからこそ、後々化ける可能性はある。まぁそれも今は関係ない話なのだが。
なんとなく、ガンギマリ爺が自分へとこの交渉を回した理由を察しつつ、死柄木に対面する形でソファに座り、テーブルの上へと足を乗せる。
「悪いね、こんなスラム街じゃァ嗜好品は貴重なんだ。おもてなしする余裕はねェぜ。―――ま、俺は飲むがね!」
「……こいつッ……」
「抑えて」
お世話役、面倒そうだなぁと思いながら、死柄木を煽るようにテーブルの上でこれ見よがしに足を組む。ついでに持ち込んだビール瓶をラッパ飲みもして死柄木で遊んでおく。それを見て、爪を噛む死柄木に内心爆笑しながら、視線で要件を切り出すように促す。
「チッ……人員だよ。人を寄越せ」
「人?理由は?」
「アンタに語る筋合いはない」
なるほど、とビールを一口呷る。理由も言わず、人員だけ寄越せ、と。こりゃ交渉にもなりゃしない。仕方なしに、靄の男に視線を向ければそれで察したのか、溜息と共に口を開く。
「今回は私たちの組織に、このスラム街の方々に所属してもらいたいのです」
「おい黒霧」
「まァあんたなら話になりそうだ。……で、それは一回切りの仕事として?」
「いえ、しばらくの間組織の人間として活動してもらいたく」
「報酬は?」
「特には。ですがあなた方をこんな状況に追いやった世界には復讐したいでしょう?」
「そうだ、いるだろう!?」
なるほどねェ、とまたビールを一口。一瞬、こちらが考え込むような仕草を見せたからか、死柄木が押すべきと勘違いしたらしく、突然身振り手振りを交えて勢いよく喋り出す。
「何がだよ」
「燻っている連中がだ!こんな場所に追いやられたんだ!いるんだろう世界をブッ壊したいってやつらがさぁ!!」
「はぁー……」
唐突に叫びだした死柄木に情緒不安定かよ、と呆れつつ、彼が望むものをなんとなく理解する。つまり気に入らないから世界を壊したい、ということだろう。随分安いヴィランなことだ。
きっとそうなるに至った彼なりの理由があるのだろう。だがまぁ、そんなものこっちからしたら
だからとりあえずは、彼らの要望に対する答えを返すことにする。最後の一口を呷り、全て飲み切ったビール瓶を後ろに投げ捨てつつ、いいか、と言葉を置く。
「何はともあれ、まずは要望に関する結論からだ」
そう言って、右手を持ち上げ―――中指を突き立てる。
「―――ファック!そしてファック!!テメェらにうちの住民紹介する義理はねェんだよ!!」
答えは、無論NOだった。こちらの言葉に驚いた様子に、まさか断られないとでも思っていたのか、と呆れつつも、語調を緩めず言葉を更に続ける。
「いいか、まず交渉しに来てんならうちの街のスタンスぐらい知っとけ。うちは絶対中立、どっかに与するこたァねェ」
それは比較的有名な話なのだ。少なくとも、多少なりとも裏世界でのこの街を調べれば、すぐ分かる程度には。別に個人個人であれば、どこの組織に所属したって問題ない。ただ街全体として、どこかに所属することはないというのはかなり出回っている話だった。
そしてそれを知らない、ということは交渉にあたってこの街について調べていないということであり。何より所属して当たり前、世界に復讐したくて当たり前と思われていることが癪だった。
「辛い境遇の誰もがテメェみたいに世界に絶望し続けてると思ってんじゃねェよ。テメェの尺度で、俺たちを決めつけんじゃねェクソガキ」
「ああ、クソッ……なんだよお前……自分の言いたいことばっか言いやがって……!」
「お?癇癪か?癇癪起こすんか?」
また情緒が不安定になってきた死柄木を煽りつつ、懐から二つほど、道具を取り出しておく。どのタイミングで使おうかなぁなんて考えてれば、死柄木が何を思ってかこちらの顔面へと手を伸ばしてくる。
「……もう、いいよ。お前さ……死ね―――」
「ッ、待ちなさい死柄木―――」
「あ、手ェ出しちゃう?んじゃ、ポチっとな」
どうやら、死柄木の個性は知らないが、攻撃するつもりだったようなので、取り出した道具―――スイッチを押し込む。刹那、死柄木の座っていた場所が爆発する。
「―――くっ、間に合いましたか……」
「お、やっぱ転送系能力者?逃亡手段はあると思ったんだよねェ」
確かに爆発の中心地にいたはずなのに、部屋の隅に黒い靄が発生したかと思うと、そこから死柄木を抱えた靄の男、黒霧が現れる。そりゃま敵味方はっきりしない場所に行くなら、逃亡手段は持っておくよな、という話だった。
ただまぁ、である。
「爆発物、一つとは言っていないぜ?」
次の瞬間、再び爆発。そのまま連鎖的に爆発音が幾度となく響き渡り、
「建物自体に爆弾を仕掛けたのですか―――!」
「いえーす!その通りだ!」
状況を察したらしい黒霧が戦慄したような声を漏らす。黒霧に抱えられ、頭を掻き毟りながらぶつぶつ呟いてる死柄木はともかく、黒霧の方は理解したらしいので、ここら辺でネタバレをしておくことにしておく。
「まァつまり!最初から交渉に応じる気はなかったという話さね!」
「嵌められた、ということですか……!」
「ムカつく……ムカつくなぁ……!!」
「ハッハッハ―――あんま、うちの連中なめんなってことだよヴィラン共……!」
自分たちは世間一般的には
「壊す……お前壊してやるよ……!」
「……いえ、引きますよ死柄木弔」
「あ、お帰りですか?じゃあお土産どうぞ」
明らかにこちらに敵意を向ける死柄木に対し、こちらが最初から準備を済ませこの場にいると理解したらしい黒霧は、再び黒い靄を発生させどこかへ跳ぼうとする。まぁ対応は間違いじゃない。感情的にこちらを襲おうとする死柄木の方が悪手だ。ただ、一度見せた手法で撤退を図るのはよろしくなかった。
黒い靄が広がったのを理解した瞬間、スイッチと共に取り出していた道具―――手榴弾のピンを抜いて、お土産と称して靄へと放り込む。
「しまっ―――」
「Present for youってね」
爆発は、靄が消えてしまったために起きない。ワープした先で爆発してるのかな、と想像を巡らせつつ、振動が激しくなり崩れ始めているであろう建物に、そろそろ自分も脱出する必要性があることを理解する。
「んじゃま、出ますか。外装召喚〝
個性を用いて、耐熱性の全身鎧を召喚する。ここら辺、自分の個性は炎を浴びても平然としている様子の鎧を着た自分をイメージすれば、素材についての理解がなくても召喚できるから便利だよな、と思いつつ建物内を走る。
無論、爆発を喰らえば熱は防げても衝撃は防げないので、何となくでだが把握している爆発物が仕掛けられた場所を避けて進む。瓦礫なんかは単純に鎧が固いので軽く防御したり、ぶん殴ればどうとでもなる。
そうやって外に出て、後ろを見ればほぼほぼ崩壊した建物の様子が目に映る。次の爆弾の仕込まれた交渉場はどこだったかなぁ、なんて考えながら鎧を返還し、ガンギマリ爺のもとを目指して歩き出す。
道中、考えるのは死柄木弔、という男の目的についてだ。世界を壊す、ということはテロリズムか何か、そういうことをするのが目的だったのだろう。別に、これを個人個人に協力を要請するんだったら問題はなかったのだ。街全体のスタンスはともかく、個人の思想は自由であったわけだし。あるいは仕事として回してもよかった。報酬のある、ビジネスライクなものだったら自分も協力したってよかった。
しかし、この街全体を傘下にしよう、というのはいただけない。ここはあくまで受け皿なのだ。居場所を失くした人々の受け皿でしかなく、犯罪に手を染めてるのはあくまでそれが生きるのに必要だったからだ。
テロを起こしたい人間は、ほぼほぼうちにはいない。確かに、世界には皆絶望した。自分だってそうだ。こんなに自分たちを追い込んだ世界を恨まなかったはずがない。だけど、それでも自分たちは今を楽しんでいる。だからわざわざ、世界に改めて復讐する必要なんざないのだ。
「……おォ、戻ったかィ。どうだったネ……?」
「クソもクソ。ろくなもんじゃなかったさ。俺たちのことを決めつけられてムカついたわ」
「ひぇっひぇっひぇっひぇ。まァここのスタンスはそうそう理解されるもんじゃないさネェ……」
確かに、理解しがたいものかもしれない。恨んでるのに世界に復讐しないのはおかしいとも思うのかもしれない。
だけど自分たちは既に復讐しているのだ。どれだけ追い込もうが、自分たちはこうしてまだ笑っているぞ、と世界に示し続ける―――それこそが自分たちの復讐なのだ。
要するに、こっちのこと調べないで勝手に心情決めつけられたの癪だから予定通り爆破するわ!という話。
そんなわけでスラム街全体でのスタンスの話……なんだけど、もうちょい色々あるから、後々に。
にしても自分、死柄木みたいなキャラ書くの苦手だわぁ……。