ただ、己の為に   作:天澄

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#31.Awkward workplace experience.

 目の前に聳える建物を見上げる。

 

 雄英の体育祭から既にそれなりの日々が過ぎたこの日。ようやく謹慎から解かれた自分は、ヒーロー事務所への職場体験のために、昼間ながらこうして雄英高校の外にいた。

 ルリは人斬りがいつ来るか分からないため、職場体験は無し。今頃雄英高校敷地内でオールマイトと過ごしているはずだ。オールマイトは中々癖が強いが、コミュ力極高のルリならどうとでもするだろう。

 だから、問題はむしろ自分。正面にあるのはエンデヴァーヒーロー事務所。隣にいるのは紅白頭の轟少年。

 

 体育祭で色々あったメンバーがここに揃っていた。

 

 ───始まりは、職場体験の指名。

 

 ぶっちゃけ派手にやらかしたわけだし、目的であったコネを作るのは大失敗だったかなぁ、なんて思っていた訳だが。それでもなお、強個性故か指名はそれなりに来ていた。相澤先生に聞いたところ、暴走の危険はあっても、今後雄英での3年間、あとは事務所に所属してからでも解決すればいい、と判断した事務所が多かったのだろうとのことだ。まぁそれだけしても手元に欲しい能力だとは、自分でも思う。

 ただそれでも理解できなかったのは、エンデヴァーのヒーロー事務所から指名があったことだ。轟親子に対してあれだけのことをしたこちらを指名するとは、ちょっと理解できなかった。そして、だからこそ何故指名したのかが気になってつい、その指名を受けてしまった。

 

 そしたら何故か轟少年と一緒になった。

 

 エンデヴァーヒーロー事務所を選んだ理由のもう一つには、ここなら轟少年と顔を合わせることもないだろうというのがある。あれだけのことをしては流石の自分でも気まずいのだ。

 エンデヴァーのことを嫌っていたようだし、エンデヴァーヒーロー事務所なら轟少年とは別のところだろう、と高を括っていたわけだが。

 何故か轟少年もエンデヴァーヒーロー事務所に職場体験に来ることにしたようだった。

 

「………………」

 

「………………」

 

 轟少年と並んで、エンデヴァーヒーロー事務所へと向かう。自分は、謹慎解除直後に校長先生からありがたいお小言を頂いていたので、A組とは別行動でエンデヴァーヒーロー事務所の最寄り駅に来た。

 しかし、ヒーロー事務所に同時に行った方がいいだろう、ということで最寄り駅の方で轟少年と合流してからはこうして、無言でひたすら歩いていた。

 いや、だって流石にあんなことがあったあとに普通に話かけるほど、無神経にはなり切れないし。というか何を言ったらいいか分からない。そもそもあそこまで感情的になったのは人生で初めてなのだから、こういう状況も人生で初めてだった。

 そんな風に悩みながら後頭部を掻いていると、なぁ、と予想外なことに轟少年の方から声がかけられる。いくら何を話せばいいかが分からないとはいえ、これを無視するわけにはいかないよな、と立ち止まって轟少年を見る。

 

「……喚導、さんにちょっと言いたいことがあって」

 

「あー、言いづらいならさん付け要らないぞ?」

 

「なら、喚導。……あんたに、その。礼が言いたかったんだ」

 

「頭大丈夫?」

 

 あまりにも予想外なことを言いだした轟少年に、思わずそんな言葉が漏れていた。

 言われた轟少年は首を傾げているが、首を傾げたいのはこちらである。何故あれだけのことをされた相手に、礼を言いたい、という話になるのか全く見当がつかない。

 しかしそんなこちらを理解できないからか、轟少年はこちらの様子を無視して、勝手に話を進め出す。

 

「体育祭のあと、あんたとの試合の録画を改めて見たんだ。もちろん、あんたに言われたこと、やられたことに文句はあるけど……」

 

 ただ、と顔を上げてこちらを見てきた轟少年の瞳に驚く。そこには今まで存在していなかった、余裕が確かにあった。一つのこと―――エンデヴァーへの憎悪に縛られていない、真っ直ぐな瞳がそこにあったのだ。

 

「あんたは、最後にエンデヴァーがやったことを否定した。それを見て、聞いて思ったんだ。ああ、あいつは失敗したんだなって」

 

「………………」

 

「俺があいつを憎んでたその奥底にあったのは……あいつのやり方を、否定したいって想いだったんだと思う。母を蔑ろするようなやり方を、()だけでNo.1ヒーローになることで否定したかった」

 

「……エンデヴァーが用意した道筋以外で、オールマイトを超えることでか」

 

「ああ。……だけど、それが予想外な形で成された。あいつが最強だとしたものを、あいつ自身に近しい力が上回った」

 

 確かに。轟少年の願いがエンデヴァーのやり方の否定にあるならば。自分によってそれは成されていた。既にエンデヴァーのやり方は間違っている、とまではいかなくとも、現状では足りないと示されたのだ。

 

「そしたら、何だか色々アホらしくなって。それで同時に、色んなものが見えてきたんだ」

 

「例えば?」

 

「エンデヴァーの否定に拘ってた俺は、オールマイトを超えることに拘っていたあいつと何が違うんだろう、とか」

 

 きっと、エンデヴァーの否定に拘り続けていたら、エンデヴァーと同じようになっていた、と轟少年は語る。

 結局のところ、二人は親子なのだ。似ているところもあり、そうなっていた未来は否定できない。

 

「余裕ができて、今までの自分を振り返って……思ったんだ。きっと今のままじゃ良くない。もっと違う可能性を探すべきじゃないかって」

 

「可能性、ねぇ……」

 

「だから、やったことはあれでも、切っ掛けをくれたあんたには感謝してるんだ。だから―――」

 

「生憎だけど、礼は受け取らねぇよ」

 

 なるほど、轟少年がこちらに感謝する理由は分かった。けれどその感謝を受け取る気は全くない。

 

 何故なら何一つ救われていないのだから。

 

 エンデヴァーはオールマイトに固執したままだ。轟少年は、エンデヴァーと和解することもなく、その存在を気にしなくなっただけだ。

 誰も、何も救われていない。表面上は問題が見えなくなっただけでしかなかった。

 そして何より、あれは自分がやりたいからやったことでしかない。だからどこにも感謝される謂れはないのだ。

 

「ま、代わりに、だ」

 

 かと言ってそれで轟少年が納得するとも思えない。なので、一つ妥協点を提示する。

 

「俺は体育祭でお前にやったことを一切謝らねェ。例え暴走した結果であったとしても、お前に向けた言葉も、エンデヴァーに向けた言葉も本心だからだ」

 

「……そう、か」

 

「俺はあのことを謝らない。代わりに、お前は感謝だろうが怒りだろうが好きにしろ。それでいいか?」

 

「……分かった。だったら俺は、勝手に感謝して、勝手に怒り続ける」

 

 そうやって結論を出して、改めてエンデヴァーヒーロー事務所に向かって歩き出す。会話に少し時間をかけ過ぎたので、早足気味だ。

 ただ道中一つだけ言っておこうと思い、後ろを歩く轟少年へ顔だけ振り返りつつ、口を開く。

 

「ついでに。俺は未だにお前のことが嫌いだよ」

 

 例えば、こちらと同じ状態だったくせに、あっさりと立ち直って前に進もうとしてるところとかな。

 そう内心だけで続け、轟少年からの返事を待たず、エンデヴァーヒーロー事務所へと向かう。

 

 

 

 

「雄英高校一年A組、轟焦凍。仮ヒーローネーム〝ショート〟」

 

「ならびに同じく雄英高校一年A組、喚導想也。仮ヒーローネームは……」

 

 謹慎処分中、考えるように言われていた仮のヒーローネームを思い浮かべる。自分で決めておきながら、この名前を名乗っていいのかと悩むところはある。

 けれど、もしヒーローネームを決めるなら、と考えていたのは一応、あるのだ。自分自身の根幹を表すその名前。

 

「―――〝Slum's Soul(スラムズ・ソウル)。以上二名、職場体験のためお邪魔させていただきます」

 

 スラム街式の魂と、ソール≒ソウル。それが自分が決めたヒーローネームだった。

 意味もそうだし、略称としてSS(ダブル・エス)とか、ソウルなどの呼びやすい形にもできる。

 自分には重い名ではあったが、気に入っている名前だった。

 

「……うむ、確認した。では改めてエンデヴァーヒーロー事務所のエンデヴァーだ。これから数日みっちり扱いてやるから覚悟するように」

 

 エンデヴァーヒーロー事務所に到着し、まずは責任者であるエンデヴァーに顔を見せる。

 とは言っても、この段階ではまだ向こうは仕事中だ。そのため何故自分を指名したのかなど、個人的な会話は慎み、事務的に話を進めていく。

 流石にエンデヴァー直々に面倒を見てもらえるということはなく、まずは轟少年と二人、教育担当となったヒーローに事務所内の案内と、業務の簡単な説明を受ける。

 

「それじゃあ、今日から早速パトロールに―――」

 

「今回のパトロールは保須市まで遠征だ」

 

「あ、エンデヴァー」

 

「喚導、少なくとも業務中は俺を呼び捨てにしないように」

 

「うっす」

 

「それでエンデヴァーさん、職場体験の二人も保須のパトロールに出すんですか?」

 

「ああ。二人の実力はお前も雄英の体育祭で見ただろう?」

 

 そう問われた教育担当の人が苦笑いを浮かべる。そりゃまぁ、自分と轟少年が全力で戦った試合は内容が酷かったしなぁ……と思い、自分もまた苦笑するしかない。

 むしろ、この事務所のトップを否定したのに、こうして自分が受け入れられている現状がおかしいのだ。

 

「とりあえず、この四人で保須市まで行くぞ。現地の方で先行している二人と合流し、そこから二人組に別れてパトロールに入る」

 

「とは言っても、ここら辺の見回りもあるからしばらく周辺を見てから車で移動、って形だね」

 

 と、いうことは公共交通機関には乗らずに済むのか、と安堵の溜息を吐く。

 些かゴツいとはいえ、自分はまだ私服で通る見た目のヒーローコスチュームだから問題はない。轟少年もまた然り。

 しかしプロヒーロー陣、特にエンデヴァーなんかは主張の激しい見た目だ。それに加えてあの厳つい顔。

 一緒に電車などには乗りたくない、というのが本音だった。というか、多分真顔でエンデヴァーが電車に乗っていたらシュール過ぎて笑ってしまう。

 

「……っ……」

 

「喚導、どうかしたか?」

 

「いやな?―――」

 

「―――っ」

 

 想像して軽く笑ってしまったところ、轟少年に声をかけられたので轟少年にも今考えたことを伝える。

 すると轟少年も笑いかけてしまい、二人で笑っているのがバレないよう誤魔化しながら、エンデヴァーの後ろをついていく羽目になる。

 エンデヴァーの姿を見ると、ついつい思い出し笑いそうになってしまうが、流石に仕事中なので怒られるのは目に見えている。何とか頭の中から真顔で吊革を掴むエンデヴァーの姿を追い出し、ずっと気になっていたことを聞いてみることにする。

 

「ちょっと聞きたいことがあるんですが、今聞いても大丈夫です?」

 

「パトロールに支障が出ない範囲であればな」

 

「じゃあ、何で俺に指名入れたんですか?」

 

「その話を今するのか……」

 

「あはは……でも僕も気になりますね」

 

 呆れた顔をするエンデヴァーだが、こちらに追従するように教育担当のプロヒーローがこちらに賛同する。

 そんな自身の事務所のメンバーに、エンデヴァーは困ったように頭を掻く。見れば轟少年も気になっているようで、状況としては三対一の構図だ。

 

「僕らサイドキックとしては、エンデヴァーさんがやったことに怒るのも分かるんで文句はないですけど、流石にあれだけやった喚導くんを指名するっていうのはわからないんですよねー」

 

 ジト目で見られたエンデヴァーが、顔を逸らす。個性婚、というのは流石にサイドキックの人たちも思うところがあったらしい。それが、どうやらサイドキックの人たちに自分が受け入れられている理由のようだった。

 サイドキックにそこまで言われると流石に、という話なのかエンデヴァーが仕方なしと言わん顔で口を開く。

 

「……一つは、あの個性の原理を聞きたかったからだ。もし技術で自身の体温のコントロールができるなら俺自身に応用したかったからな」

 

 なるほど、と頷く。確かに絆憑依〝太陽神(ソール)〟パッと見はデメリット無しで、エンデヴァーと同じ個性を操っているようにも見える。もし技術でデメリットをどうにかしているのなら、オールマイトを超えることを目指すエンデヴァーには気になるところなのだろう。

 だが、と自分は首を振る。生憎だが〝太陽神〟、つまりソールの個性は己を太陽の現身だと定義する個性だ。そもそも、太陽が自らの熱に負けるわけがない、と定義することでエンデヴァーのようなデメリットはなくせるのだ。

 そうエンデヴァーたちに説明すれば、エンデヴァー以外はなるほど、と納得する。

 

「ま、そんなことだろうと思っていた」

 

 そしてエンデヴァーは、案の定だとさほど落胆した様子もなくそう答えるだけだった。

 

「あれ、さほど期待してなかった感じです?」

 

「技術でどうにかなるのなら、俺が見つけているはずだからな」

 

 そりゃそうだなぁ、と今度は自分が納得する。以前も言ったが、自分はエンデヴァーは技術の化物だと思っている。化物級のオールマイトを超えるためだけに、技術でその領域まで追いかけたエンデヴァー。そんな人間が見つけられなかったものを、二十五歳の若造が見つけられるわけがない、というのは当然とも言える判断だった。

 

「だったら、何で喚導くんを指名したんですか?」

 

「何、簡単な話だ」

 

 サイドキックからの質問に、エンデヴァーはこちらに獰猛な笑みを浮かべながら答える。

 

「―――あれだけのことを言ったんだ。間近でその実力を見せてもらおうと思ってな」

 

 その言葉に、あ、これは目を付けられたやつだ、と頬が引き攣るのを自覚する。

 これ、状況次第では無茶振りされるんだろうなぁ、なんて思いつつ事務所周辺地域の見回りを終え、保須市へと向かうのだった。




轟くんの現状はパッと見、原作通り。
けれどエンデヴァーに対しても歩み寄ろうとするのではなく、どうでもいい存在として認識し始めてるという、決して改善ではない方向へ。
まぁ出久と戦うんじゃなくて、主人公にボコされただけならこんなもんだよね、というお話。

そんなわけで職場体験編やで。
皆大好きステインさんまでもう少し。
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