ただ、己の為に   作:天澄

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#32.Contact, hero killer.

「……なァーんで、俺となんですかねェ……」

 

「貴様がまた暴走したら俺しか止められないだろう」

 

 それは、確かにそうなんだが、と反論に詰まる。

 場所は既に保須市内。着いてから予定通り、二人組に別れての行動となったのだが。何故か自分と組むことになったのはエンデヴァーだった。

 

「てっきりエンデヴァーさんは轟少年と組むと思ってたんですが」

 

「いくら俺でも仕事に私情は挟まん」

 

 その言い方、本当は轟少年と行動したかったんだな?と思いつつも、それを口に出せば燃やされる未来が見えているので、口を噤む。

 代わりに、周りを見ながら疑問だったことを口にしてみる。

 

「存外、外に人がいるもんすね。事件があったんだから、外出を控えてもおかしくなさそうですけど」

 

 保須市は、最近巷を騒がせているヴィランが、つい先日現れたばかりの場所だ。住民たちは、恐怖で引きこもっていてもおかしくないと、個人的には思っていたのだが。

 実際に来てみると、誰もが事件など気にしていないかのように、至って普通に生活を続けている。スーツを着て街中を急ぐ人。公園で子供を見守る女性。金髪の少女の指示を受け、ブレイクダンスをキメるピンク色をしたクマの着ぐるみ。

 何かイロモノも交じっていた気もするが、至って平和な日常の風景がそこには広がっていた。

 

「……ヒーロー殺しについては何も知らないのか?」

 

「謹慎処分くらってましたからねェ。外部からの情報ゼロで、最近のことは追えてないんですよ。ぶっちゃけ、保須市で事件があった程度にしか知らなくて、ヒーロー殺しっていう二つ名も今初めて知りました」

 

 そう答えると、エンデヴァーからは呆れた顔と溜息をプレゼントされる。確かにエンデヴァーヒーロー事務所に向かう途中や、保須市への移動中に調べることもできた以上、こちらの怠慢ではあるため、甘んじてそれを受けるしかない。

 

「……簡単に説明してやる。一度だけだからよく聞けよ」

 

 ―――ヒーロー殺し、敵名(ヴィランネーム)ステイン。

 

 少し前からその存在を確認されていたこの男は、ヒーローを殺すことを主な活動としているヴィランだそうだ。当初は無名のヒーローの殺害から始まったために、さほど警戒されていなかったこのヴィランだが、徐々にそのターゲットは名の知られたヒーローへと変わっていき、つい先日、この保須市で活動していたプロヒーロー〝インゲニウム〟の殺害を受け、政府が大きな脅威であると認定。一気に優先捕獲対象となったヴィランらしい。

 その犯行手口としては、プロヒーローと真正面から戦い、それを打ち倒していること。そして必ず現場に犯行声明を残していくというものになる。

 またその犯行声明が曲者で、主旨としては殺した対象はヒーローとは認めない。今のヒーローは間違っている。己はそれを正す者だ。内容に差はあれど、必ずそういった主旨の犯行声明となっているらしい。

 

「実際、被害が出ているのはヒーローだけで、あとは一部のヴィランしか殺していないらしい」

 

「あくまで自らの考えるヒーローにそぐわない者がターゲット……。所謂思想犯、っつーやつっすか」

 

 こちらの問いかけに、エンデヴァーが頷いて返してくる。

 今存在しているヒーローが求める形ではないから、そんなヒーローを殺して自らが求めるヒーローのみを残す。

 

「そしてあくまで否定したいのは今のヒーローの形だけだから、ヒーローが守るべき住民には手を出さない、ってことっすね」

 

「ああ、だからこうして保須市の住民たちはある程度安心して外に出ている」

 

 なるほど、と保須市の現状について納得する。確かに人間、自らに危険が及ばないのであれば存外他人事として平気な顔をしていられるものだ。保須市ではいつも通りの日常が流れているのは分からなくもない話だった。

 

「……というかむしろ、ヴィランを殺してくれる、ってことで受け入れてる住民もいるかもしれないっすね」

 

「だとしても、だ。どれだけステインとやらの求めるヒーロー像が正しかったとしても、そのために選んだ手法は間違いでしかない。ならば俺たちはそれを捕まえるだけだ」

 

 そう真っ直ぐ語るエンデヴァーに、やっぱりこの人もヒーローなのだな、とふと思う。だからこそ、何故家族にはそう真摯であることができなかったのか、とも。

 個性婚はギリギリ犯罪じゃないからセーフ、とはどちらかと言えば自分のような人種のやり口なのだがなぁ、と思いつつ、エンデヴァーと二人で保須市のパトロールを進めていく。

 

 今回の保須市のパトロールは、自分たちエンデヴァーヒーロー事務所から出張の三組に加え、元々保須市を活動の場とするヒーロー事務所もパトロールをしている。

 そのため、各組に割り振られたパトロール範囲自体はさほど広くはなく、それなりに早くパトロールが終了する。

 現状ではヴィラン経験のある自分からも、プロヒーローのエンデヴァーからも不審な点は見つからなかったので、一度他のグループと合流し、情報交換をすべきだろう。そうエンデヴァーと話し合って判断し、事前に決めていた合流ポイントへ向かおうとしたその時。

 

「―――うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「ッ!?」

 

「何事だ!?」

 

 突如聞こえてきた音に、自分とエンデヴァーが揃って驚く。しかし厳密にはその驚きの対象が違う。

 自分は聞こえてきた悲鳴に、エンデヴァーは遠目に見える煙と、微かに聞こえた爆発音に、それぞれ反応を示していた。

 

「エンデヴァー、指示を!」

 

「ここからなら保須市に来るのに利用した車が近い!俺が車であの爆発箇所へ向かう!お前は悲鳴が上がった方に対応しろ!」

 

 今の自分はあくまでエンデヴァーヒーロー事務所で職場体験中の身。独断で動くわけにもいかず、即座にエンデヴァーに指示を仰げば、二手に別れる、という指示が出た。

 その指示に一瞬、身分的には学生の自分を単独行動させていいのかと悩む。しかし事件は既に起きており、迅速な対応が求められる状況。その状況でプロヒーローがそう指示したのだから、と素直に指示に従う判断を下す。

 

「個性の使用については、俺の権限を以って許可する!基本的には戦闘は避けろ。だがどうしようもない時は個性を用いてヴィランと戦え!」

 

「了解!」

 

 エンデヴァーと別れ、悲鳴が上がった方へと走る。憑依召喚を用いて高速移動をしてもいいのだが、どんなヴィランがいるかもわからない以上、移動などでの消耗はできるだけ少なくしておきたい。

 それが原因で、現場に間に合わないという可能性もある。ただ、今回の相手がプロヒーローをも殺せるヴィラン、ステインである可能性を考慮すると、できるだけ温存しておくべきだろうと判断するしかなかった。

 この判断が、裏目に出ないことを祈るが―――そう思いながら走り続けること数分。エンデヴァーと別れた地点と音源からでは、それなりに離れていたために大まかな方向しか分からず、しばらく探し回ったが未だに悲鳴を上げた人物が見つからない。

 あるいは、既に移動してしまったあとなのか。そんな疑問を持ちつつも、悲鳴を上げた人物を求め、覗いた路地裏で見た光景に思わず驚きから叫んでしまう。

 

「―――緑谷!?それに轟と、飯田もか!」

 

「喚導さん!?」

 

「ッ、危ねェ!!」

 

 こちらの声に反応して振り返った緑谷に、ヴィランが迫る。それに、咄嗟に自分が剣を召喚し投げつけ、同じタイミングで轟少年がヴィランへ氷を放つ。

 それをヴィランは空中で自らが持つナイフを足場とすることで跳躍、回避を成功させて来る。しかし代わりに、緑谷がヴィランと相対し直す時間は稼ぐことができた。

 

「悪い、俺が叫んだせいで邪魔したわ」

 

「大丈夫、二人の援護で何とかなったから」

 

 そう会話しながら、正面に立つヴィランを観察する。バンダナと季節外れのマフラー。目元は包帯で隠され、身体の一部にはプロテクターが付けられている。身体中にナイフと刀を装備していることから、恐らく近接型だろう。実際、その体捌きは近接戦の覚えがある人間のものだ。

 またその立ち姿は自然体でありながら、隙がなく、また重心のブレもなくかなり高いレベルで鍛えていることが容易に想像できる姿であった。

 

 マズいな、と緑谷、轟少年。そして倒れ伏す飯田と見知らぬ男を見る。正直、やつを観察して予測できる技量的に、このメンバーでは全くと言っていいほど勝ち目がない。というか、緑谷たちでは足手まといにしかならないレベルだ。自分単騎で挑んでも、勝てるかどうかは五分五分、その実力の全てを見せていないであろうことも考慮すると、こちらの勝率は三割いかないだろう。

 この状況で確実な勝ち目を求めるなら、オールマイトやエンデヴァー級の救援が欲しい。一応、エンデヴァーはこの保須市内にいるので、救援が来るまでの時間稼ぎも兼ねて男に向かって確認を口にする。

 

「あんたが、ヒーロー殺しとかいう二つ名のステイン?」

 

「……如何にも。そういうお前は……ハァ……喚導想也だな?」

 

「よく知ってるな、正解だよ」

 

 雄英体育祭で覚えられたか、と考えつつ、ステインの動きを見逃さないよう見続ける。だが何故、わざわざこちらのことを覚えたのか、と疑問に思っていると、その疑問を見抜かれたのか。それともただの偶然か、ステインの方からその答えが語られる。

 

「―――お前もまた、俺が殺すべき相手の一人」

 

 ゾクリ、と背筋が冷えるような感覚に襲われる。それに思わず硬直してしまった一瞬。マズい、と思って慌ててステインからの攻撃を警戒するが、ステインが取った行動は、跳躍し建物の上へと逃げることだった。

 

「だが……ハァ……。流石に、お前が加わってはこちらが不利だ。俺は、まだ止まれぬ。止まるわけにはいかないのだ」

 

 そう告げてステインは建物の屋上から屋上へ、飛び移るようにして移動していく。どうやら数的不利から、ステインは逃げるべきだと判断したようだった。

 状況的には、このまま逃がすべきだとは思う。しかしあの男は、こちらを明確なターゲットとして認識していた。ここで逃がせば、今後何時襲われるかと、警戒しながら過ごさなければいけなくなる。もし、ルリがいる場で襲われなどしたら、ステイン相手ではルリを守りながら戦うのはキツいだろう。

 逃がすことで現状の安全を確保するか。追いかけることで未来の憂いを断つか。

 

「―――緑谷、轟少年。怪我人は任せた」

 

「え、あっ、喚導さん!?」

 

 判断は一瞬。緑谷たちにこの場を任せ、自分は建物の出っ張りに足を引っ掛け、それを蹴るようにして上へと跳ね上がる。そこから更に、パイプや窓の縁になどに体重をかけないように足場として利用しながら、建物の屋上まで駆け上がる。

 周りを見渡せば―――いた。風に靡くマフラーが、いい目印になっている。建物の屋上を跳んでいくその速度は、通常の自分でも終える速度だ。故に自分も、同じように移動してステインを追いかけていく。

 

 結局自分は、ステインを今のうちに倒すべきだと判断した。それは単純に、相対しただけで分かる実力者を放置しておくのは怖い、というもある。

 だが、背筋が凍るような奴の気迫。そんなものを放てるだけの何かを持つ男を放置するべきではないという直感と、奴と相対すれば何かを得られるという確信めいた何かが、自分にステインを追うべきだという判断をさせていた。

 

「……俺は、あいつが何を求め、何を為そうとしているのか、知らなくちゃいけない」

 

 そこに、自分の迷いを断ち切る何かがある。そんな確信と共に、自分はステインの背中を追い続けた。




次回、ステイン戦。そして物語の節目。

実は徐々に完結が近づいてたり。
次回辺りまでいくと、この物語のオチのヒントが見え始めるかなぁ……。
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