───これ、誘われてるな。
ビルからビルへ。所謂パルクール、と呼ばれる技術を応用してその屋上を駆けていく。
正面には、ある程度離れた距離にステインの姿がある。だがその現状には、些か違和感がある。
ステインを追うにあたって、わざと最短では無いルートを選択する。ついでに多少の減速もしておく。結果、離れるステインとの距離。
けれど、やはり
本気で逃げる気ならば、今のように姿をくらますタイミングなら幾らでもあった。けれどステインはそれをせず、こちらが姿を捉えられるような動きで逃げ続けていた。
それはつまり、意図的に追わせている、ということだ。それが最初から自分一人だけが追ってくると読んでいたのか、偶然自分一人が追ってきたのを確認したからなのかは分からない。
用意周到な計画だとしたら、厄介極まりないのだが、と警戒しながらステインの後を追うこと数分。
保須市の外れ。ビルもなくなって来たからか、木々に囲まれた地上を駆け抜けながら辿り着いたのは廃工場。
そこに入っていったステインに、一瞬罠を警戒するが、もしあったとしてもこの状況ではそれを突破する有効な手立てがあるとは思えない。いや、まぁ建物全部吹っ飛ばすという選択肢もあるが、流石に消耗が大きくて気軽に取れる選択肢ではない。
それにまぁ罠がないであろうと考えてもいい理由もある。ここまで来て引くという選択もありえないので、虎穴に入らずんば虎子を得ず、腹を括って廃工場へと踏み込む。
―――警戒したようなトラップもなく、何事もなく廃工場内へと入る。
使われなくなってかなり年月が経っているのか、埃塗れの床。廃工場だと分かるのは外観だけで、中は既に機械類は撤去されたのか、存外余裕ある空間が広がっている。
そんな場所に、ステインはこちらを待ち構えるようにして立っていた。
「……まさか素直に追ってきてくれるとはな」
「ん、まぁ思想的に不意打ちとか、無駄な殺生を是とするタイプじゃねェとは思ってたしな。誘いだとしても、罠で一発アウトだけはないと思ってた」
ステインが行う殺害には、ヒーローの在り方について訴えるという意味がある。そして彼自身がヒーローという存在を信奉する限り、卑怯な手段はまず取らないだろう。
実際、エンデヴァーから聞いた限り、彼が今まで行った殺人は全て、真正面から行われているらしい。そこから自分は、警戒しながらもここに入るという判断を下すことができていた。
「やけに、ハァ……俺のことを信頼しているのだな」
「ん?んー、確かに言われてみれば……」
指摘され、首を捻る。何故こうも、出会ったばかりの、それも敵であるステインを信頼しているのか。ステインの犯行については、エンデヴァーから聞いただけの、確実な情報ではないのだ。
その情報だけで判断し、この場に訪れたのは自分にしては軽率な行動に思える。
だから何か、そう判断するだけのものがあったはずだ。そう考え、ふとステインと視線が合って、気づく。
「……ああ、目だ」
「……目?」
「そうそう。さっき路地裏で会った時。多分その時から、お前の目に宿る熱から、譲れない……拘り?みたいなものを感じ取ったから、だと思う」
「……クク。クハハハハ!!」
「え、何?こわ」
正直に思ったことを答えたら、急に笑い出したので思わず数歩下がって、ステインと距離を取る。しかし軽く引くこちらを気にした様子もなく、しばし高笑いをしたステインは、口元に笑みを浮かべたまま、その口を開く。
「ああ、いいぞ、やはりお前はいい!」
「いや何がだよ。ていうかお前思ってた以上にやべー奴で困るんだけど」
「譲れない信念がある者は、同じく信念を持つ者の目を見れば分かるものだ。迷いがある。苦悩がある。けれどそれでもお前には
「……っ」
ステインからの問いかけに、言葉が詰まる。それまでのようにふざけることができない。
誰にも、オールマイトにすら問われなかった質問。迷いも苦悩も、ヒーローたちが見抜けなかったものをこいつは見抜き、更にその奥にあるものまで手をかけている。
怖い。そこまで踏み入られた事実が。けれど同時に、ステインを追えば何かを得られるという確信は、間違いではなかったとも理解する。
「雄英の体育祭で何かを秘めたお前の目を見てからずっと気になっていた。答えろ、喚導想也!お前は何を求める!お前の信念は何だ!」
「……信念なんて、大層なもんじゃねェよ」
守れなかったものがあった。失ったものがあった。それでも、たった一つだけ、この手の中に残ったものがあった。
もう二度と、この手の中のものを失いたくない。だからみっともなくそれにしがみついているだけ。
「信念なんかじゃない。失いたくないから―――守りたいものを守る。それだけだ」
「―――そうか、お前は、皆のヒーローではなく、一人の為のヒーローなのだな」
こちらの答えを聞いたステインが、背中の鞘から刀を抜き放つ。徐々にステインから漏れだす殺気。
問答は終わり―――それを肌で感じ取り、自分もまた、腰を低くし、構えを取る。
「ならば、俺はお前を殺さねばならぬ。その迷いを孕みながらも貫く在り方を、苦悩がありながらも譲らぬ信念を。喚導想也という人間を、俺は認めよう」
「……そいつはどうも」
「故に、故にこそお前は殺す。見せしめではなく、俺が俺の信念を貫くために。俺が求めるのは誰もの為のヒーロー。お前は、一人の為のヒーローは、邪魔だ」
そう言い切ったステインの目には、気圧されるほどの熱がある。本気だ。本気でステインは、この世界を変革し、ヒーローの在り方を変えようとしているのだ。
そのためには、求めるヒーローとは違う在り方であるヒーローの自分、喚導想也は邪魔であると。ヒーローであると認めたからこそ、こちらを殺そうというのだ。
「……そうか、そうかよ」
自分では、自分のことをヒーローとは思えない。一人の為のヒーロー?笑わせる。彼女を守ろうとするのは、全て自分の為だ。利己的なそれは、ヒーローには程遠く、ヴィランの方が似合うとすら思う。
けれど、けれどだ。
「……認めるぜ、認めるよステイン」
お前の想いを。お前の熱意を。お前の揺るぎなき信念を。間近でその気迫を浴びて、自分は認めざるを得なかった。
「お前のやり方はきっと、間違ってる。だけどお前の熱意と、覚悟は本物だ。お前のヒーローにかける想いは本物だ」
そしてステインを認めてしまったからこそ、自分は認めるしかない。認めた男から、自分はヒーローであると、認められたのだ。ならば。
「―――俺は一人の為のヒーロー、〝
ならば、それを自分自身が認めないわけにはいかない。だから、咆える。
「俺にはまだやるべきことがある。お前が俺を殺すと言うならば、俺はお前を殺してでも生き延びる」
憑依召喚を成立させる。奇策は使わない。使いたくない。ただ真正面から、ステインと斬り結べるだけの力を。
「―――喚導想也」
「―――ステイン」
瞬間的に間合いを詰め、憑依召喚で手元に現れたその剣を振るう。同時、正面からステインもまた、その刀を振るう。
ぶつかり合おうとする剣と刀。しかし寸前、ステインが何かを感じ取ったのか、掌で刀をくるりと回し、逆手に握り直す。
それにチッ、と舌打ちを漏らしながら、けれど剣の軌道を変えることなく、障害物が無くなったことで真っ直ぐにステインへその剣を振るう。
その一撃を、ステインが身を低くすることで躱す。空振る一閃。更に間合いを詰めてくるステイン。
距離が詰まり、剣や刀の間合いを抜け―――ナイフへの間合いに変わる。その瞬間、ステインが左手でナイフを抜き放ち、自分も召喚で同じく左手にナイフを生み出し、衝突。
数瞬の鍔迫り合い。そこから互いの力を利用して後方へと跳び退る。
「……その剣、ハァ……いい切れ味をしているな……。おそらく、まともに打ち合えば、こちらの得物が斬れる程度には」
「せーかい」
右手に持つ片刃直剣を手の中で回し、地面に突き刺すことでその切れ味を示す。軽く放っただけなのに、その半ばまで地面へと刺さる剣。
求めた通りの切れ味だ、そう思いながら自らに憑依召喚した存在を振り返る。
―――北欧神話の英雄、シグルズ。
悲恋の逸話を持つ、悲しき英雄。だが彼にはファフニールの討伐や、父の仇の一族を殺した逸話も持つ。それに由来する純粋な剣技を始めとした戦闘能力。そして、その相棒たる凄まじい切れ味を持つという剣、グラム。
それが、ステインと戦うにあたって自分が憑依召喚の対象に選んだ存在だった。
そしてそこからさらに、グラムと剣技にその方向性を絞り込んでいる。だから動物との会話など、一部の逸話は再現されない代わりに、戦闘能力に特化した状態へとなっていた。
「厄介だな―――だが、ただ打ち合わなければいいだけのことでもある」
「ハッ、言うほど簡単じゃねェ、ぞッ!!」
踏み込む。既にステインのリズムは掴んだ。意識の隙間を縫うようにして、ステインの意識外から接近する。だが即座にステインの呼吸が切り替えられ、こちらの存在がステインに知覚されてしまう。
まぁそう簡単にはいかないよな、と思いつつ、既に間合いは剣の間合いと化しているため、一閃。右下から左上へ。何の変哲もない切り上げだ。けれど、英雄シグルズの技量を以って振るわれたその一撃は、肉体の駆動を利用し、とてつもない加速を得てステインに迫る。
そしてそれをステインは、涼しい顔で捌く。
まともに打ち合えば、ステインの武器が斬れる。故にステインは、左手に握ったナイフをグラムへと添え、流すようにその一撃を誘導する。結果、ステインから逸れ空を斬るグラム。
だがそれは予想の範疇。
それを跳躍して回避するステイン。空中にいけば、次の一撃は避けられない―――そう判断し、次の一撃へ動きを繋げようとするが、ステインから放たれるナイフが、その行動を阻害してくる。
グラムを握る手とは逆の、左手にナイフを召喚し、ステインから飛んできた数本のナイフを全て斬り払う。その頃には既にステインは着地しており、今度はこちらの番だ、と言わんばかりに刀で斬り返してきた。
そのまま、ステインと剣戟を繰り広げる。
こちらの心臓を狙った突きを、刀の腹にナイフを添えることで逸らす。返すように放った縦の一閃を、柄を叩かれることで防がれる。
そうやって幾度となく攻防を繰り返し、
それはつまり、ステインの方が技量でこちらを上回り、動きのテンポが早いということを示していた。
その事実に、けれどさほどの驚愕はない。むしろ、そうだろうなと納得すらしていた。何故ならそれは憑依召喚の欠点が現れただけに過ぎないからだ。
自分の召喚は、決して世界に実在したものを召喚するものではない。あくまで、自分のイメージと合致した存在を、平行世界から召喚するものだ。
このイメージと合致した、という部分が重要で、例えば今憑依召喚の対象となっているシグルズは、過去存在したかもしれないシグルズを召喚しているのではなく、自分がイメージしたシグルズに合致する平行世界より召喚しているのだ。
つまり、イメージしたもの以上のものは召喚されない。言い換えれば
だから、例えば切れ味がいい剣なら、硬いものを斬る様子をイメージすればいいから簡単に召喚できる。けれど、技術を以って普通の剣で硬いものを斬る存在を憑依召喚するには、その技術に対しての理解がなければ具体的にイメージできず、結果召喚ができない。
要するに、単純な能力や機能ならイメージしやすいが、技量に関しては自身が理解していなければどうしようもない、ということになる。
そのため、雄英の教師陣と対決し、その技術を使えなくとも理解したわけだが。
ステインは、技量という観点では雄英教師陣を凌駕している。
実際に戦えば、創意工夫でどちらが勝つかは分からないだろう。だが、技量という土俵においてはステインは化物クラスである。それこそ、オールマイトやエンデヴァーのヒーロートップ陣並みだ。
それは、
自分では、エンデヴァーやステインの技術については、実力が足りずその全容を把握し切れない。そのため、真正面からの戦闘ではどう足掻いても実力差で潰される、という事態が発生していた。
ステインの動きから理解できた部分は、即座に憑依召喚に適応しアップグレードすることで取り込んでいるが、所詮付け焼刃でしかない。ステインを後から追いかけている以上、いつまでもステインを上回ることはできはしない。
一応、技量関係なしの大技で決めるのも手だが、正直何らかの方法で回避されるか、そもそも発動を許されない未来しか見えない。同様の理由で、ソールを絆憑依するのも無理だ。炎剣に触れられないのなら、全て避ければいいとか、炎ごと斬り裂けばいいとかやってきそうである。
それにそもそも、自分がそういった手段を使いたくない、という意地もある。互いに認め、認められた―――
だから、どうにかして勝ち筋を。そう思いながら、捌き切れなくなったステインの一撃をグラムで受け止め、あえて吹き飛ばされることで距離を取る。
「……どうした、喚導想也」
「何がだよ」
「お前の力はその程度か?」
離れた間合いを詰めることなく、ステインが動きを止めてそんなことを言ってくる。
自分だって、好きで追い込まれているわけではない。純粋に、実力が足りていないからこうなっているのだ。だから、そのステインの発言に思わずムッとし。
「―――お前の信念とは、その程度か。俺の信念の前にあっさりと屈するものなのか、と問うている」
続けられた言葉に、そんな感情は霧散した。
代わりに頭を占めるのは、疑問だ。自分の譲れないものは、ステインのそれに劣っているか。否だ。絶対に否だ。実際はどうかは問題ではない。重要なのは、己にとっては否であるという事実だけだ。
ではステインと自分では何が違う。信念の強さがこちらの方が上だとするならば。何が違うから今、自分はステインに負けている。
それを考え、ステインと己を比較し―――理解する。
ああ、そうだ。自分はまだ、
ステインは己の信念のために、今この時まで己の多くを捧げてきた。
それに対し自分はどうだ?スラム街を、ソールを失い、ルリを守ると決めてから何をやってきた。
人斬り対策をした?違う。あれは結局他力本願だ。手札を増強した、と言っても結局、強い人間に頼ってるだけでしかない。何故、自らが飛び抜けて強くなり、根源を断つという考え方をしなかった。
そこだ、そこがステインと自分の違いだ。自分は己の信念に対して、
けれど、それに気づけたから何になる。ステインは昔から多くを犠牲にして、努力し続けることであそこまで強くなったのだ。
そんなステインに今から何を犠牲にすれば、自分は追い付くことができる。自分が利用できるリソースは何だ。
考え、考え、考えて―――答えに至る。自分だから、自分の個性だから使用できるリソース。
それを今まで思いつきもしなかったのは、やはりそういったものを犠牲にできるほど、必死ではなかったからなのだろう。
そんなことを思いつつ、呟くようにして個性を発動し、干渉する。
「―――〝未来召喚〟」
それによる、劇的な変化はなかった。肉体的には、今が全盛期に近い。ここからはもう、維持することはできても更に高めるのは難しいだろう。
だから肉体的な変化として存在するのは、視界に映る
その代わり、内面においては劇的な変化を得ている。少なくとも、先ほどまでのステインに対応できるだけのものを得た、と思えるだけの変化はあった。
故に、こちらの変化を敏感に感じ取って警戒するステインに対して、こちらから踏み込む。
縮地。それと並行して意識の隙間へと潜り込み、加えて肉体の駆動を最適化。無駄な動きを省くことで、最小の動きで最大の加速を発揮する。
それにより、今まで以上の加速が発揮され、そして停止状態から最高速に入るまでが速くなる。
それぞれ変化自体はそれほど大きなものじゃない。けれど、今までの速度で慣れていたステインは、一瞬こちらへの対応が遅れる。
回避し切れなかったステインの頬を、浅くグラムが斬り裂く。流れる血に、驚いた表情のステイン。
だがそれでも、そこからのステインのリカバリーは早い。剣を振り切った姿勢のこちらに対し、ステインが右手に持った刀で斬りつけようとしてくる。
だが生憎、
予め予期していたため、焦ることもなく軽く首を傾けるだけでその一撃を回避する。
そしてそこから再び始まるステインと自分の剣戟。
けれど、今回徐々に相手を追い込んでいくのは、ステインではなく、自分の方だ。剣を振るう速度で上回り、ステインの攻撃を捌きながら攻撃の手数を増やしていく。
その状況に、ステインは目を見開いて驚いているが、こちらからすれば当然の状況。そのままステインの攻撃の芽を潰していき、少しずつ追い込んで防戦一方にしていき―――そしてその時が訪れる。
こちらの攻撃を捌き切れなくなったステインの真っ芯を、グラムの一撃が捉える。噴き出る血。倒れいくステイン。
「……俺の……負けだな……」
「ああ、俺の勝ちだ」
呟くように言った言葉に、はっきりと答えを返す。それを聞いたステインは、負けたはずであるのに。志半ばで潰えるというのに、どこか清々しさすら感じさせる笑顔で言葉を続ける。
「……発破をかけてから、動きが見違えるようになった……。何を、したんだ……?」
死の間際にありながら放たれたのは、そんな問いだった。まぁ確かに、気になるよな、と思いつつ、端的にその質問に対する答えを告げる。
「
「……ああ、なるほど……それは勝てんな……」
今の自分ではどう足掻いても勝てない。だったら、勝てる自分になればいい。やったこととしてはそれだけのこと。
自分の召喚は、平行世界だけではなく過去未来からも召喚しようと思えばできる。だから、未来においてステインを倒した自分を、憑依召喚した。
だから自分はステインの動きを既に知っているし、それに対応できるだけの技量も得ている。技術で言えば、既にステインと並んでいる状態だ。
代わりに、召喚対象である約十年後の自分から、もう二度と戻れはしないが、目的を達成するためには些細な問題だ。
「他に、聞きたいことはあるか?」
「……いいや、充分だ。世界を正せなかったのは、心残りだが……お前に殺されたなら、仕方ないとは思える……。俺が死のうとも、誰かが意思を継ぐだろうしな……」
「そうかい。んじゃ、二度目のさよならだ」
「……ああ、さよなら、だ。喚導想也」
究極的に、自分とステインは求めるものの違いから、決して相容れない敵でしかない。だから交わす言葉もさほどなく―――ステインに背を向け、歩き去る。
このまま放置すれば、いずれステインは死に至るだろう。そこに感慨のようなものは……少しだけ、ある。ステインを殺すのは、未来でのも含めれば二度目であるし、ステインは本気になる切っ掛けをくれた、恩人とも言えるような存在でもある。だから流石に、何も感じないということはない。
けれど、そうやって感傷に浸るのは数瞬。ヴィランとはいえ、今の自分は人を殺した身だ。誰かに見つかっては困るし、もはや、ヒーローたちの元には戻れない。
だから素早く廃工場から走り去る。そうして向かう先は―――雄英高校だ。
「ルリ」
「ソー……ヤ?」
まぁ確かに、パッと見ではだれか分からないか、と苦笑する。大きな変化はないとはいえ、十数年後の姿と化したために、髪には白髪が混じっていたり、顔に皺ができて老け始めてもいる。
面影はあっても、本物か悩むよな、と思いつつも、今はそれを説明する時間がない。急がなければ、オールマイトを始めとした雄英の教師陣に捕まってしまう。
流石に、ルリを連れてでは逃げられる確率が五割程度になってしまうので、見つからないうちに逃げたいのだ。故に、ろくな説明もせずに、ただ手を差し出してルリに頼む。
「俺と一緒に来い」
「ん、ソーヤがそう言うなら」
そんなあっさりと、と少し揉めるかと思っていただけに拍子抜けする。しかし、何を思ってこうもあっさりと承諾したのかを聞くような時間は、もはや残っていない。
ルリを肩に左肩に座らせ、壁をぶち抜く。既に侵入した段階で、警報などをガン無視してきたためにこちらの侵入には教師陣も気づいているだろう。そして、今壁をぶち抜いたせいで、居場所もバレた。
その状況から完全に教師陣を撒くために、絆憑依でディティーの隠密の個性を発動し、他人に一切知覚されない状態と化して雄英高校から脱出する。
それでも、流石にオールマイトなんかだと経験と直感からなんとなく、で居場所がバレてしまうので、慎重を期して隠れながら逃げていく。
―――そうして、ある程度離れた位置まできて、隠密の個性を解く。雄英教師陣は、そう簡単に雄英高校から離れることはできない。
そのため、警戒しつつもある程度の安心感を以って、次の目的地へと向かう。
道中、暇だったのもあって、ステインやらなんやらの保須市の一件は、結局今どうなっているのかと調べてみれば、ステインの死の間際の映像が見つかる。
どうやらあの後廃工場に倒れているところをヒーローに見つかったようで、その際の様子を何者かが隠れた状態で撮影していたようだった。
『―――貴様らは、偽物だ……!世界に、本物の
死の間際にあってなお、そう言い続けるステインに、やはり奴の信念は本物だったのだ、と再認識する。そしてそんな男に認められた以上、もはや自分も立ち止まるわけにはいかないとも。
だから、改めて腹を括り、自分の進むべき道を決める。
辿り着いたパッと見は何の変哲もない建物。けれどそこに、今の自分は用がある。
外階段を登った先。そこにある扉を開けて、その中にいた見知った顔に軽く手を挙げて挨拶しつつ、告げる。
「よォ、死柄木」
「喚導……?お前、何でここに」
「いやなに―――ちょっと、仲間に入れて欲しくてね?」
ステ様、死亡。
つーわけで三章終了です。
次回からヴィランサイドでのお話。
そして次章で完結よー。