ただ、己の為に   作:天澄

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For myself.
#34.To the road of villain.


「あ、黒霧もいんじゃん。ちっすちっす」

 

「……あー、とりあえず、何か飲みますか?」

 

「そんじゃ、カミカゼ貰える?」

 

 リアクションに困った様子の黒霧が、バーカウンターのようなところで何を飲むかと問うてくる。特にメニューらしきものもないので、バーカウンターということでカクテルを頼んでみたのだが、どうやら本当に用意してくれるようで、黒霧が棚からカミカゼの材料を取っていく。

 その作る過程を何とはなしに見ていると、使用するウォッカの量が多いことに気づく。死柄木は酒に強いため、そこに合わせたレシピなのだろう。

 実際、一口飲んでみれば、アルコール度数が高めで、結構キツめになっている。ただ、それでもライムジュースが入っていることもあって、自分の好みのさっぱりした風味もあって、割とそれなりに酒に強い自分であればハイペースで飲めてしまう程度ではある。

 だから、すぐにグラスの半分ほどまで飲んでしまいつつ、黒霧にルリの分としてリンゴジュースを出してもらう。

 

「……いや、普通に飲んでますが、どういう状況ですか」

 

「おい、喚導。説明しろ」

 

 実は学生だから、ということで雄英の教師陣にお酒は規制されていたので、久々に度数が高めの酒を飲めて気分がいい。今なら、何でも答えてやろう。

 そんな気持ちで、こちらの隣に座り直しながらそう言ってきた死柄木に、何と答えるかをしばし思案して組み立てていく。

 

「そもそもお前らに俺が雄英に入った理由言ったっけ?」

 

「聞いてませんね」

 

「んじゃ、そこからか。まァスラム街が潰されたのは知ってるだろ?んで、そん時にオールマイトに助けられたから雄英と縁ができたわけだが」

 

 オールマイト、という言葉に顔を顰めた死柄木を意図的に無視する。そのまま、雄英に入ることにした理由は三つある、と右手の指を三本立てる。

 

「まァ言うて、一つ目と二つ目はかなり近いんだけど。一個目は、ルリの保護。防御力的に教師が常駐する雄英に保護してもらうのがいいと思ってな」

 

「俺たちは侵入できたがな」

 

「セーフッ……!撃退できた以上セーフだからッ……!!」

 

「ですが侵入されただけで割と信頼は揺らぎますよね」

 

「それな。だからそれも今回雄英から離れる判断材料の一つになってる」

 

 インペリアル・フィズを黒霧から貰い、飲んでいる死柄木からのツッコミがくる。一応弁明はするが、実際、あの一件で雄英への信頼が揺らいだ部分はあるのだ。

 撃退はできた。それだけの戦力は自分含めてあったのだろう。だが、だからこそ侵入されても撃退すればいいとでも言うべきか、そもそも侵入させないという点では、雄英はさほどいい場所ではないのではないか、と思えたのだ。

 だから実はちょっと、その頃から雄英って大丈夫、みたいなところはあったのだ。だから、体育祭ではコネを得ようとしたところはある。

 

「んで、二個目は戦力的に、って話だな」

 

「それは一つ目と同じでは?」

 

「一つ目が防御って点で考えたのに対し、二つ目は攻撃の点でだな」

 

「……攻撃、ですか」

 

「そうそう。人斬りを捕まえられるだけの戦力がある場所、って観点でな」

 

 まぁ実際のところは人斬りを捕まえるどころか、襲撃を受けたわけだが。とはいえ、これに関しては雄英はヒーローサイドであるために、正規の手段でしかそもそも捜査ができないという難点がある。だから痕跡の少ない人斬りの存在を捉えるのは少々難しいところはあるのだろう。

 それでもやっぱり、後手に回っている段階で信頼は揺らいでいるわけだが。改めて考えると、雄英は結構杜撰なように思えた。

 

「それから最後に、俺自身のトレーニングを兼ねて」

 

「ああ、確かに雄英は人材だけなら優秀ですからねぇ」

 

 暗にそれを活かせているかは別だが、と言う黒霧に、なんやかんやで黒霧もしっかりヴィランしているよな、と苦笑する。

 とはいえ、残念ながらそれをフォローできるだけの実績を、自分が所属している間に雄英は成していない。というか、目の前の雄英侵入をやった二人に対して反論できる実績などそうそうあるわけがなかった。

 

「オールマイトなんかは別次元過ぎて参考になりゃしなかったけど。それ以外は結構いい経験になったぜ?」

 

「確かに、私が戦った相手も、もしこちらを殺す気であれば苦労したでしょうしねぇ」

 

「……イレイザーヘッドも、思っていたより格闘戦ができて驚いたな。それでも俺のほうが上だが」

 

 この負けず嫌いどもめ、とも思うが、襲撃時の戦闘を思い出すとあながち間違いでもないように思える。なんやかんやで、スラム街に協力を持ち掛けてきた段階から準備を進めていた、と考えれば用意周到な計画であったわけだし、戦いに関する努力もかなりしていたのだろう。

 二人とも、個性の性能含めてかなりの実力者だ。スラム街でののほほん、とした姿が印象的ですっかり忘れてしまっていたことだった。

 

「しかし、それだけの理由があって、何故我々の仲間に?」

 

「ああ、それだよそれ。結局、何で俺たちのところに来たんだ?」

 

 なんやかんやで。死柄木や黒霧との付き合いはそれなりにある。だから互いに、本気で言っているかどうか程度であれば見抜けたりするのだ。そのため二人は、自分が死柄木たちの仲間になりに来たという言葉を信じているようだった。

 無論、それと同時に何か裏があるのでは、とも警戒はしているようだが。流石に本気かどうかは見抜けても、その裏に何があるかまでは見抜けないという話だ。

 

「いやね?究極的に俺がやりたいのはルリを守ることなわけだ」

 

 会話に参加できず暇そうにリンゴジュースを飲むルリの頭を撫でる。ルリに関しては全く事情を説明せずに振り回していたので、そもそも今話したことはほとんど初耳なのだ。まぁその割には恨めし気な視線もなく、ニコニコとこちらを見てくるのが不思議なわけだが。

 まぁ何はともあれ、結局自分がやりたいこととは、ルリを守ることに集約するのだ。雄英に入ったのも、こうして死柄木の仲間になりにきたのも、結局は自分がルリの意思に関係なく、彼女を失いたくないからになる。

 

「そのために雄英に入ったわけだけど。それじゃあ対症療法でしかない、ってのは分かるか?」

 

「……確かに、そのやり方ではそもそもの原因を取り除くのは難しいですね」

 

 今、ルリを守らなくてはいけない理由としては、大本を辿れば彼女の個性の希少性及び性能が原因になる。ただ、こればかりは現状では触れられない領域の話なので、少しだけ別の段階で考える。

 つまり、ルリを守らなくてならないのは、ルリを狙う人斬りというヴィランがいるから、という話だ。

 雄英に入ったのは、人斬りが来るたびにルリを守れるから、という考え方からだ。だが、それでは結局人斬りが捕らえられない限り延々と繰り返し続ける対症療法にしかならない。どうやら人斬りは退き際をわきまえてるようで、そのやり方では中々捕まえられそうにない。

 

「それじゃあ何時まで人斬りの影に怯えて過ごせばいいか分からねェ。ならどうすべきか」

 

「……なるほどな。自由に動ける立場が欲しかったのか」

 

 そう、死柄木の言った通り。ヴィランであれば、裏のルートを使って人斬りについて調べられるし、それに人斬りを殺しても問題がない。自ら人斬りを処分するのであれば、ヒーローサイドよりもヴィランサイドの方が行動しやすい状態だった。

 

「ヴィランになると、それはそれでルリが狙われやすくなるってデメリットもあるけど。それはお前のところだったらそんなに問題ないし」

 

「俺らがその女を奪って逃げるとは考えないのか?」

 

「だってお前、俺と戦いたくないだろ」

 

「………………」

 

 その問いに対する答えはない。とはいえ、友人だから戦いたくないなどという理由ではない。単純にこちらと敵対するメリットデメリットの話だ。発動条件が明確でないが強力なルリの個性と、こちらによってもたらされる被害、それを天秤にかけた場合、どちらが重要かを比べてだけの話。

 死柄木や黒霧は、スラム街時代のこちらの実力を正しく把握している。そこから更に雄英で修行し、今では十数年後の姿になっている。そこから死柄木たちは、ルリを得てもその後自分たちが殺される可能性がある、と判断して手を出してこないようだった。

 

「それに、お前らの裏にいるやつもルリに手を出せとは言ってないんだろ?」

 

「っ」

 

「……喚導さん、いつからそれを?」

 

 こちらとしては何の気なしに放った言葉に、死柄木と黒霧が剣呑な空気を纏う。それに一瞬首を傾げ、そう言えばこっちが勝手に察しただけで、二人から言われたわけではなかったか、と気づく。

 

「行動的に優秀なブレインはいると思ってたし、裏のルートで情報収集もしてた。具体的な存在は分からなくても、なんとなくいるだろうとは思ってたんだよ」

 

「……そういうことでしたか」

 

「……ちっ」

 

 無駄に警戒してしまったことが恥ずかしかったのか、死柄木が舌打ちをしてカクテルを一気に呷る。それから、黒霧に同じものを要求しつつ、で、と問いかけてくる。

 

「お前、ずっとうちにいる気はないだろ。いつまで、それからどこまで俺たちに協力する気だ?」

 

 仲間になる、ということはつまり、ヴィランとしての活動もする、ということになる。とはいえ、ヴィランとは究極的には社会のルールを無視してやりたいことをやっている人間たちだ。だから、組織といってもその組織がやる全てのことに対し参加しなければならないわけではない。

 だからこその死柄木の問いなわけだが。ぶっちゃけた話、自分はスラム街時代はやっていたことは思いっきりヴィランだったのだ。だから、今更特に躊躇う理由もない。そのため、答えは決まっている。

 

「全面的な協力を。期間は俺が人斬りを殺すまで。代わりに俺が人斬りを殺すのに協力してくれ」

 

「……いいぜ。喚導レベルの戦力が増えるのは正直ありがたい。交渉成立だ」

 

 アルコールも入っているし、元々友人関係ではあるので、交渉というほど大層なものでもない。けれど、それでも一応は契約であるため、その内容を確認し、握手を交わすことで互いが納得したことをここに証明する。

 こうして、自分は死柄木の仲間となること―――すなわち、(ヴィラン)連合への加入が決定した。




今話含め二、三話は諸々の確認回かねー。
そんなわけで主人公のヴィラン活動が始まるわよ。
ヒーローサイドよりはっちゃけていこうぜ。
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