ただ、己の為に   作:天澄

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#36.A talk with ALL FOR ONE.

「───残念だが、それはやらないよ」

 

 オール・フォー・ワンからの予想外の言葉に、一瞬頭が真っ白となるが、そこで思考を止めては何も解決しないとなんとか落ち着きを取り戻す。

 単純に考えて、誰か仲間を超越者(オーヴァード)に至らせることができる個性はあって困らないはずだ。それを断るとしたら、そこにはどんな理由があるだろうか。それを考えなくてはいけない。

 単純な嫌がらせ?いいや、オール・フォー・ワンはそこまで単純な人間じゃない。嫌がらせ如きで、利益を捨てるタイプでは無いはずだ。むしろ、嫌がらせした上で利益も持っていくタイプだろう。

 

「……だとしたら、既に同種の個性を持っている?」

 

「それもある。が、それだけが理由ではないよ」

 

 そう否定したオール・フォー・ワンは、まずは前提としてだ、と言って話を切り出す。

 

「そもそも君たちは彼女の個性を厳密に知っているのかい?」

 

「……私の?」

 

 そこで指名されたことで初めて自分のことについて話していると気づいたのか、ルリがきょとんとした顔をする。

 それに苦笑しつつ、オール・フォー・ワンの言葉について吟味し、そこにきてようやく気付く。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。答えは否だ。故にもし、発動条件がオール・フォー・ワンには満たせないものだとしたら。なるほど確かに、必要ないというのも分からない話ではない。

 

「ほう、既に見当をつけたか。実に聡明でよろしい。その考え方で合っている……が、一応口頭で説明しておこうか。ついてこれていない子もいるようだしね?」

 

 その言葉に思わずルリを見れば、話の流れが分からないのか。それともそもそも何故見られているのかが分からないのか。不思議そうに首を傾げるルリの姿がある。

 なんというか、ちょっとおバカっぽいところがあるというか。愛嬌がある子だよなぁ、と思いつつ、口頭での説明の必要性を理解し、オール・フォー・ワンの言葉を待つ。

 

「まず不思議なことに、僕の複数ある〝個性を見極める個性〟を以てしても彼女の個性を厳密に把握することができない。故に圧倒的上位の個性であり、その個性の位階以下の個性をある程度レジストするのだろう、と僕は予想している」

 

「位階……?」

 

「あー、いいかルリ。個性にはランクみたいなものがあってだな?」

 

 あまり有名な話ではないのだが、個性には上位下位の概念があるとされている。それは基本的にはそのまま個性の強さに直結している。ただ他にもこの位階が関わってくる場合があり、例えば全く治癒の個性が二つ存在した場合。同対象に同時にその治癒の個性を行使すると、より位階の高い個性が優先され、位階の高い個性によって治癒が行われる。

 またオール・フォー・ワンが言っていたように、上位に位置する個性は下位の個性からの干渉をある程度弾くことができるのだ。そしてオール・フォー・ワンが持っている個性が下位個性だとは思えないので、その干渉を防いだというルリの個性はかなりの上位個性になると考えられる。

 そんな内容のことをかいつまんでルリに説明すれば、完璧ではないだろうがある程度把握したようで、一つ頷いたのが確認できた。

 

「そろそろ続きを話してもいいかい?……うん、じゃあ続きだけれど、残念ながら僕でも彼女の個性は把握しきれていない。だけど、予測の個性を織り交ぜれば、その全容を予想することはできるんだ」

 

 なるほど、とルリと二人頷く。確かにこちらの思考を読み取る精度から考えれば、情報源さえあればそれも不可能ではないように思える。

 故に、気になるため素直にオール・フォー・ワンに言葉の続きを促せば、特にもったいぶることもなく、オール・フォー・ワンはその考えを口にする。

 

「個性の能力としては、対象の個性を持ち主の才能上限まで開花させること。だからそもそも超越者となる才能がない者は個性の効果を受けても超越者にはなれないだろう。まぁそこら辺、喚導くんとアウェイクくんが揃った、というのは奇跡的なのかもしれないね」

 

 つまりどうやら元々、自分には超越者となるだけの下地があったらしい。自分自身はそこまで才能があるとは思っていなかったので、意外ではあるのだが。

 とはいえ、ルリに出会わずそのままスラム街で過ごしていたら開花することがなかった才能なのだろう、とも思う。基本的には超越者は厳密なトリガーが不明とされているのだ。そんな条件を簡単に満たせる、とは思えなかった。

 

「さて、それで問題の発動条件だが。……ふむ、しかしこれ、僕が言っていいものなのかね……?」

 

 珍しく、といっていいのかどうか。今回が初対面であるために珍しいかどうかは不明だが、少なくとも意外なことにオール・フォー・ワンが戸惑った声を漏らす。個人的にここまでのやり取りでオール・フォー・ワンには超然としたイメージを持っていたので、戸惑う姿は意外だった。

 しかしはて、オール・フォー・ワンを戸惑わせるような発動条件とはいったい何なのだろうか。

 

「なんか、衝撃の事実でもあるのか?」

 

「いいや、そういうわけでは……。いや、あるいは君にとってはそうなのか……?」

 

 何とも歯切れの悪い。そこまで言葉に詰まるような内容だと思うと、逆に気になってきてしまう。かと言って、藪をつついて蛇を出すのも怖いので、先を促すかどうか悩んでいると、その間にオール・フォー・ワンの方が結論を出してしまったらしい。

 うんうん言っていた独り言をやめ、覚悟して聞いてくれ、と前置きをする。こちらとしてはいまいち聞くべきか否か判断しかねているところはあったが、オール・フォー・ワンが言ってもいいと判断したのであれば、それに乗ることにする。

 

「いいかい、彼女の個性の発動条件は、彼女が明確な好意を抱いた相手―――まぁ端的に言えば恋した相手に発動するようだね。うん、何というかよかったね?」

 

「えっ」

 

「……?私、ソーヤに恋してるの?」

 

「えっ」

 

「おや、無自覚だったか……僕の予測が外れるとは。しかしやっぱりこれ、言わない方がよかったのか……?」

 

 今更悩まないで欲しい。

 

 というか、唐突にルリがこちらに恋愛感情を抱いていたとか、それをルリ自身は無自覚だったとか思考が追い付いていない。ちょっとキャパオーバー気味だ。

 とりあえず、ルリ本人は無自覚であったようだし、こちらとしてはルリは守備範囲外なのでしばらくはそこら辺には触れないようにしよう。いや、だって見た目三十代のおっさんが高校一年生とか事案でしかないし。ヴィランに事案もクソもあるか、という話でもあるのだが。

 それにそもそも、自分の好みは二十代くらいの、ナイスバディな女性なのだ。ヒーローのミッドナイトとか割と好みである。まぁあの人若作りが異様に上手いだけで、実は結構な年齢いっているという説も……。……寒気がした、この話題はやめておこう。

 だがしかし待て。今の自分はヴィランだ。どうせ犯罪者なら、それこそミッドナイトなどのヒーローの胸やケツを揉んでもいいのでは……?

 

 よし、いい感じに脳が蕩けてきた。平常運転に戻ってきている。

 

「うん、まァ……うん!とりあえずは全部問題を解決してからかなァ!!」

 

「逃げたね」

 

「うーん、恋愛感情っていうのはよくわからないけど、私はソーヤのこと凄い好きだよ?」

 

「ぐわァ」

 

 ルリが笑顔で言った言葉に思わず崩れ去る。ルリの純粋さは、汚れた大人の自分に刺さり過ぎる。

 

「ごめん……!君が好かれてるのに脳内でセクハラの予定を立てるクソ野郎で本当にごめん……!」

 

「浄化されてて笑う」

 

 オール・フォー・ワンの爆笑している姿に、もし直に会えたら一発殴ることを心に決めつつ、ルリのあまりの綺麗さに浄化されそうなところを何とか持ち直す。スラム街出身として、浄化されてヨゴレ系卒業は何としても免れなければならないところだった。

 そんな風に、自分は浄化からの立ち直り。オール・フォー・ワンは笑いが収まるまでにしばしの時間をかけ、互いに落ちついたところで何とか本題へと戻る。

 

「……まぁそんなわけで。僕も結構いい歳だし、今更恋愛感情を持つということもない、というのが一点。それから恋愛感情なんてものを制御できるとも思えない、というのが僕がアウェイクくんの個性を要らないと言った理由だね」

 

「あんたくらいなら感情もある程度制御できそうだけどな」

 

「それは本当にある程度だよ。人間の感情はそう単純じゃないからね」

 

 しみじみとそう言うオール・フォー・ワンに、過去それで痛い目を見たのだな、と察する。まぁ自分に思いつくようなことが、演算能力を上げているオール・フォー・ワンに思いつかないわけがないよなぁ、と納得しつつ、過去に人の感情を弄っているあたりやはりヴィランなのだな、と再確認する。

 自分はそこまでヴィランらしい悪事をする気はないが、それでも自分も必要であれば他人の感情を弄るくらいするだろうし、オール・フォー・ワンとノリが合うあたり自分はやっぱりヴィランの方が性に合っているのかもしれない。

 

 そんなことを自覚しつつ、改めてオール・フォー・ワンからルリの個性を奪わない理由を聞かされ、思わず落胆する。理由を聞き、本気でオール・フォー・ワンがルリの個性を要らないと思っていることを理解してしまった。一番楽な解決ルートが封じられてしまったのは実に惜しいところだ。

 

「……と、思いつつも君には元々の解決策があるだろう?なに、その解決策なら僕もアリだと思う。多少の協力も約束しよう」

 

 相変わらず当然のようにこちらの心を読んでくるオール・フォー・ワンに気持ち悪さを覚えつつも、その申し出自体はかなりありがたい話だ。オール・フォー・ワンの協力があれば、足りなかったピースも幾つか埋められるだろう。そう考えると、最善ではなくとも今回はいい邂逅だったのかもしれない。

 

「代わりに、弔に協力してやってくれると助かる」

 

「それは元からそのつもりだよ。部屋とかも世話になってるしな」

 

「私もトムラとクロギリは好きだから、できることで協力する」

 

 むしろ好きじゃない人がいるのか、と疑問に思うほどの天使っぷりを発揮するルリに癒されながら、そのまましばし、オール・フォー・ワンと協力についての具体的な話を詰めていく。

 ヒーローが信頼や情で動くのに対し、ヴィランは実利が重要だ。どれだけ互いに気に入っていても、利益が得られないなら相手を捨てるのが一般的なヴィラン。

 だから死柄木たちへの信頼とはまた別に、明確な協力内容とその条件については定義しておく必要がある。それはある種の契約に近いだろう。

 

「……ま、とりあえずはこんなところか?」

 

「そうだね。早速後で情報を探してみるよ」

 

「頼むわ。こっちも死柄木の補佐に精を出すよ」

 

「僕の予測通りならしばらく忙しくなるからね。そっちもよろしく頼むよ」

 

 モニタ越し、という都合上握手ができないながらも、互いにしっかりと納得の姿勢を見せ、契約を終わらせる。互いに利益のある、いい内容になった、とは個人的に思っている。ただ、自分より頭が回る相手なので何か見落としがありそうなのが怖い所だが。

 まぁそんな恐怖を抱えつつも、ひとまずの話し合いも終わり、相手の目的も完遂したようなので話が終わる流れに入る。ただそんな中、ふと何かを思い出したらしいオール・フォー・ワンがあ、と声を零す。

 

「どうした?」

 

「いや、なに。これは契約とは全く関係のない個人的な頼みなのだがね?」

 

 その言葉に、思わず少し身構える。早速、何か見落とした契約の穴でも突いてくるような頼みでもしてくるのか、と少しばかり警戒する。

 

「君は個人的にも気に入ったからね。だから―――弔と、この先も友達でいてやってくれるかい?」

 

「……なんつーか、あんた死柄木の先生っつーよりかはお父さんって感じだよな」

 

 ただ、まぁ。そういうところは嫌いじゃない。

 

 あまりにも個人的な頼みに拍子抜けしながらも、若干の呆れと共に警戒を解く。契約の穴でも突いてくるのか、と警戒していた自分がバカらしい。

 だから肩の力を抜いて、個人的な頼みに対し、自分も個人的な答えを返す。

 

「ま、俺が友人でいたいと思う間は死柄木も黒霧も。ついでにあんたも友人だと勝手に思うことにするよ」

 

「私も、トムラもクロギリも、あなたも皆友達だと思ってるよ。もちろんソーヤも!」

 

 そう言って抱き着いてくるルリの頭を撫でていると、オール・フォー・ワンの映っていたモニタが消える。結局最後まで映っていた映像は暗闇の中であり、足元程度しかその姿は見えなかった。

 ただなんとなく。根拠も何もないが、最後、モニタが消える直前。オール・フォー・ワンは口元に笑みを浮かべていたような気がした。




わりとヴィランサイドはノリが軽いよ!
スラム街のノリに近いから、過去を思い出して作者と共に死ね!
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