「……ここも随分と大所帯になったなァ」
「でも私、毎日が賑やかで楽しいよ?」
「ま、それは否定しないわ」
流石に、主要級のメンバーが新たに増えて、敵連合の主力陣も安全とは言えなくなった。そのため、基本的には常にルリを自分の肩に座らせ安全を確保するスタイルでの生活になっている。
おかげで子連れかよ、なんてからかわれることも増えたが、今の自分の見た目にしたってあくまで三十代後半。ルリの年齢的に……あれ、ワンチャン自分の子供でもおかしくないのか。
予想外のルリとの歳の差に恐れ戦きながら、敵連合拠点でも自分の定位置であるバーカウンターの一席へ座る。流石に、こういう場であればルリも降ろし席へと座らせてやる。
そしてそのまま、バーカウンターの向こうにいる黒霧へと、カクテルの注文を入れる。
「お前も人数増えて対応大変だよなぁ……。あ、俺オールドファッションドで」
「そう思うなら頼まないでくださいよ……。はぁ、少々お待ちを」
「黒霧ー!俺にはバーボネラを頼むわ!」
「あなた今日何杯目ですか……」
忘れたわ、と言って豪快に笑う新入りのマスキュラーに対し、黒霧は呆れの溜息を吐きながらも、自分の分と合わせて二人分のカクテルを用意していく。
黒霧って絶対ヴィランに向いていない苦労人気質だよな。と思いつつ、その黒霧に最近主に迷惑をかけているマスキュラーの方を見れば、酔った勢いでスピナーを巻き込んでバカ騒ぎしているのが見える。
流石被害担当スピナー、今日も一身に被害を受けている。
とりあえず、自分がいるバーカウンターと、マスキュラーが暴れているソファやテレビのあるリビングのような場所はそれなりに離れているので、そのまま酒乱騒ぎを外野から見て遊ぶことにする。
ルリはルリで黒霧が用意したラテアートを見て楽しんでいるし、問題ないだろう。というか、黒霧そんなこともできたのか。多才すぎないだろうか。
「……あのソファ、結構高かったよな」
「しかも死柄木のお気に入り!こないだも座り心地に文句言ってたぜ!」
こちらの呟きに、前後で真逆のことを言いながらルリとは逆の隣の椅子に座ってきたのは、全身にラバースーツを纏った男。カラーリングを黒から変えれば、蜘蛛の糸でも出しそうなその男は、トゥワイス。過去個性の都合だかで二重人格のような状態で、一人で二人分ほど喋る騒がしい男である。
だがその分テンションが高く、また中々ノリもいい。以前の面接で加わったメンバーの中では比較的自分と仲の良い人物だった。
「こないだもマスキュラーは死柄木お気に入りの物壊してたよな?なんだっけか」
「確かよく使ってるっつーマグカップだな。最近そこら辺で買ったらしいぜ」
トゥワイスと会話するコツは、発言の後半を反対の意味で取ることだ。二重人格の影響で、一部反対のことを言ってしまうらしい。だから文脈からなんとなく意味が通るように言葉を翻訳すれば、トゥワイスとの会話はさほど難しくない。
例えば今なんかは、前半でよく使っていると言っているから、後半の最近買ったというのが意図とは違う発言。だからそこを反転させて、そこそこ前から使ってた、という意味になってくる。
「あー……そうだ、思い出した思い出した。あれ、俺があげたマグカップだわ」
「マジかよ!前から思ってたけどお前と死柄木って仲いいよな。見てて赤の他人っぽいとよく思ってる」
この場合は……赤の他人の反対だから親しい間柄、友人とかだろうか。流石に完璧には翻訳できないので、なんとなくニュアンスで拾っていく。
まぁ確かに、少なくとも自分は死柄木を友人だと思っているし、死柄木もまたそう思ってくれていると信じている。何故ならスラム街で生活してた頃、ちょいちょい家に来るからとあげたマグカップを、わざわざ回収してまで使ってくれているのだから。
「まぁ我々も付き合い自体は一年二年とはいえ、ほとんど毎日顔を合わせていた時期もありましたからね。はい、喚導さん、注文のオールドファッションドです」
「……そういやふと気づいたけど、喚導って本名だよな?ヴィランネームとか偽名はないのか?興味ないから答えなくていいぞ」
トゥワイスからの質問に、そういえばと今更ながら自分も気づく。死柄木たちには喚導で呼ばれていたし、ルリからはソーヤだ。そしてヴィランとして本格的な活動もしていないので、ヴィランネームもつけられていない。
ふむ、と少し考える。流石に本名のままヴィランとして活動できる勇気はない。レンタルビデオ店のカードとか止められる恐れがあるし。と、なればヴィランとしての名前を決めなければならない。
ヒーローネームそのままは……流石に、気が引ける。ではどんな名前を付けるべきか、と周りの人を参考にしてみることにする。
例えば、トゥワイス。個性が〝二倍〟だから、そのままトゥワイス。黒霧なんかも、黒い靄と化すからだろう。個性や見た目、スタイルからシンプルに、というパターンが多い気がする。
「……サモナーとか?いや、違うな」
召喚の個性なので、シンプルに。と思ったがどうにもしっくりこないし、あまり格好良くもない。どうせなら格好いい名前にしたいよな、という話だ。
どうやらサモナーはトゥワイスと黒霧的にも不評なようだし、もう少し考えてみることにする。
個性由来がアウト、と考えるとあとはビジュアルや生きる上でのスタンスなどだろうか。見た目はただのダンディなおっさんなので、これを由来にするとダンディとかしか思いつかないので無し。生きる上でのスタンスなら……。
「……リベルタ、とか?」
「イタリア語で自由、でしたか。あなたの出身にも合うし、中々いいのでは?」
「ヴィラン的にも自由ってのはいいな、ハイセンスだ。俺は嫌いだね」
中々、ウケもいい。じゃあとりあえず決定かな、ということでこれからはヴィランとしての名前はリベルタを名乗ることにする。
そんな風に、他愛もないことを皆で話していると突然拠点のドアが開く。
「今、いないやつはいるか?」
「お、死柄木の目がいつになくやる気に満ちてる。トイレ行ったマグ姉以外はいるはずだぜ」
今日声を聞いたトゥワイスたち以外も、マスキュラーの酒乱騒ぎに巻き込まれる姿を見ているし、我らが姉御のマグ姉はトイレに入るところを見た。トガちゃんは気づかぬ間にルリの隣に座って会話してるし、一応ここに主力メンバーは揃っていることになる。
「そしたらあのオカマが戻ってきたら少し話がある」
「話?」
「
その死柄木の言葉に、誰もの表情が変わる。基本的には皆ヴィラン、ということもあって好戦的なものだ。苦笑しているのは自分と黒霧ぐらいなものだろう。
とはいえやっぱり自分に関しては初のヴィランとしての活動になるわけで。流石に、全く気にならないというわけではない。少しそわそわしながら、カクテルを口に運んだりしてマグ姉が戻るのを待つ。
「……あら?ボスがいつの間にか来てるし、何だか皆の空気が変わってるわね」
「新メンバーを加えて初の作戦だってさ」
「あら、あらあらあら!素敵じゃない!それは皆ワクワクするってものだわ!……あ、黒霧ちゃん、私に何か飲み物くれる?アルコールは弱めでお願いね」
「私、バーテンダーではないんですがね……」
だからそう言いながらも準備しちゃうからだよ。とは内心で思っても口には出さない。それでやめられてしまっては、自分も困るからだ。
しばらく黒霧がマグ姉用のカクテルを作るのを待ち、全員がしっかりと話を聞ける状態になってから改めて死柄木が話を始める。
「それじゃあ次の作戦について話すぞ。まず参加するのは俺以外の主力陣。黒霧に関しては移動のみだ」
それはまた、何とも豪勢な話である。マスキュラーなんかの単純な人間は参加できることに喜んでいるが、自分のような一部の連中はその参加者に若干の違和感を覚えてしまう。
なんというか、中途半端なのだ。一つの作戦につぎ込むには、些か過剰にも思える。しかし、死柄木は待機で黒霧が移動のみ、というのは総戦力戦でもなく、半端な戦力に思えてしまう。過去雄英襲撃では死柄木と黒霧が最前線に出たわけだし、前線に出すのを惜しんでいるとも思えないところだが。
なんて思っていると、疑問が顔に出ていたのか。はたまたそもそもその疑問が出るのは想定済みだったのか。どちらかはわからないが、追加で死柄木からの説明が入る。
「このメンバーなのは、新たに入ったメンバーでどれだけ通用する戦力かの確認も兼ねている。実際、俺と黒霧も以前にやったしな」
雄英襲撃、本気での攻略ではなくあくまでどれだけ通用するかだったのか、と若干驚きつつ、同時に何となく今回の作戦内容にアタリをつける。
目的が戦力確認も兼ねているなら、比較する対象があった方がやりやすいはずだ。そして敵連合の戦力について比較する対象など、一つしかない。すなわち、今話題にもあった雄英襲撃。
「そして戦う相手は、雄英高校だ」
ほらやっぱり、と一人笑みを浮かべる。ぶっちゃけ、現状敵連合の大きな活動は雄英襲撃しかないのだ。比較対象を用意するならそこしかないし、死柄木の目的であるオールマイトの所属がそこなのだから、滅多に雄英以外と戦うことはないだろう。
「まぁ戦う理由とか相手は分かったがよ。肝心な勝利条件は何だ?」
仮面が特徴的なMr.コンプレスという名の新メンバーが死柄木へと問いかける。彼はなんというか、マジシャン的なノリで、どうにも言動が煙に巻くようなところがあるせいで若干苦手なんだよなぁ、と思いつつもその質問自体は自分も気になるところなので、死柄木からの返事を待つ。
すると死柄木は言葉ではなく、一枚の紙をテーブルの上に投げることで示してくる。
「これは……雄英の生徒だったか?」
荼毘という身体中の火傷痕のような肌が目立つ男の呟きに、俄然死柄木の投げた紙に写るものが気になってくる。しかし死柄木が紙を投げたのはマスキュラーたちがいる方のテーブルだ。故にマスキュラーたちが見終わるのを待ってから、黒霧にワープでこちらへと持ってきてもらい、そこで初めて紙が写真であり、そこに写る人物の姿を確認する。
「……って、爆豪?」
写真に写る見覚えがある姿に思わず呟く。ただその写真の光景自体は見たことがなく、表彰台らしく場所で縛られた爆豪が暴れているというものだった。
背景から考えるにこれは体育祭の時のものだろうか。そういえばオールマイトが爆豪が優勝した、とか言っていたような気もする。納得のいかない優勝で暴れたり何なりした結果がこの写真の光景なのだろう。
「いいか、そいつを攫って、うちに勧誘するぞ」
「……おいおい、ヒーローをか?」
マスキュラーの言った疑問も尤もだとは思う。しかし、自分を含め幾人かは死柄木が言いたいことが理解できなくもなかった。特に、クラスメイトとしてある程度の距離で爆豪を見ていた自分はなおのこと。そのため、代表していまいち何故爆豪を勧誘する、という話になるのかわかっていない連中に自分が説明することにする。
「あー、元雄英生徒として言わせてもらうけど。爆豪は割とあれ、ヴィラン向きだぜ」
「そうなのか?」
「おう。あいつはヒーローこそ目指しているけど、口は悪い、すぐキレる。そして何より自分が気に喰わないことには牙を向く。その性格から世間のルールに抑圧されることも多々あったはずだ。雄英体育祭を見たやつなら、その暴れっぷりから何か感じたんじゃねェの?」
まぁ自分はそのシーンを見ていないわけであるが。とはいえ締まらないのでそこは口には出さない。
そんなこちらの言葉、特に抑圧されたの部分にシンパシーか何かを爆豪に対して感じたのか、誰もが納得の雰囲気を出し始める。そんな中、最初に疑問を出したマスキュラーが口を開く。
「ま、俺としちゃ暴れられればなんだっていいわ。とりあえず作戦自体には賛成だぜ」
一人が賛成と明言したからか。部屋の空気全体が賛成へと流れ、死柄木が否定意見はないか確認すれば、誰からも反論はでない。よってそのまま、作戦の決行が決まる。
「と、なるとあとは作戦の詳細だが……その前に。喚導、お前的に爆豪の説得はどれだけ現実味がある?」
「ん?あー、そうだな……」
死柄木からの確認に、しばし考える。先ほど自分が口にしたのは、あくまでヴィランとしての適性がある、というだけの話だ。実際勧誘が成功するか否か、という点は考慮していない。
だから改めて考え、個人的な意見ではあるが爆豪の勧誘の成功率をざっと弾き出す。
「三対七ってとこか。勧誘成功するのが三、失敗が七な」
「その根拠は?」
「爆豪の根底にあるのは、ヒーローへの憧れだ。目線的には多分オールマイトだろうな。その憧れがなければヴィラン一直線だったような人間だ。……だが逆に言えば、ヴィランではなくヒーローとなってしまうほどの強烈な憧れだ、とも言える。勧誘は難しいだろうな」
「勧誘するにあたって有効だと思われる話題は」
「緑谷出久について。理由は知らんが、あの二人は幼馴染だかで因縁か何かあるらしい。緑谷を引き合いに出せば何か反応があるかもしれん」
「……分かった。留意する」
どうやら自分の意見は参考になったようで、死柄木はしばし俯いたあと頷きを見せる。
そしてそこでどうやらそこで爆豪の説得については終わりのようで、そこからは細かい作戦内容へと入っていく。
内通者によってもたらされた雄英の林間合宿の開催場所の情報共有。誰が囮で誰が爆豪を攫うか。そういった細かい内容を詰めていき、最後に死柄木から作戦の決行日が伝えられ、その場は解散となる。
無論、決行日は雄英の林間合宿開催中。元雄英の生徒として、自分も知っている日付。
―――今から、約一週間後の話になる。
悪巧みのお時間。
さ、雄英の元クラスメイトたちにご挨拶しようね?
ということで次回から林間合宿のお話。