「正直、開闢行動隊って痛々しくない?俺名乗りたくないんだけど」
「まぁおじさんには名乗るのちょっと辛いところはあるねぇ」
「俺は格好いいと思うけどな。だから嫌いな名前だ」
「ぶっちゃけ名前なんか暴れられれば何でもいい」
その後も皆、意外と好意的な意見しか返ってこない。どうやらMr.コンプレスぐらいしか自分とセンスが近い人間はいないようだった。おじさんには若者のセンスがわからないよ……とMr.コンプレスと慰め合う。
「いやァ、思ってたより気が合うな?今度からコンちゃんって呼んでいい?」
「そんな可愛らしい名前で呼ばれる歳じゃないんだが……まぁ、代わりに今度からリベちゃんって呼ぶわ」
「コンちゃん?」
「リベちゃん!」
そのままノリと勢いで肩を組んで拳をぶつけ合う。胡散臭いからと勝手に距離を感じていてごめん。これからコンちゃんはマブダチである。
「何をバカなことをやってるんですか……。もうすぐ出発しますよ」
「うィーっす」
「ま、初仕事ですしおじさんも頑張りますかねー」
既に雄英高校の林間合宿は始まっている。日程としては現在、二日目の夜で食事でもしている頃だろう。自分たちはその隙に林間合宿が行われている敷地内へ潜入、三日目に作戦行動を開始するための準備をする手筈となっていた。
「……いやでもマジで今から行くの?俺山の中で野宿とか虫がいそうで嫌なんだけど……」
「女子か」
そんなことを言われても、嫌いなものは嫌いなのだ。単純に気持ち悪いのもあるし、蚊とかコバエなんかはイラつくので嫌いである。
そこら辺ルリは、何に対しても興味津々というか。物怖じせず、嫌いなものもないというから凄いよなぁ、とは思う。
「ていうか、それだったらあんたを倒すなら虫使いでもぶつければいいの?」
「クソガキお前そんなことやってみろ。お前も虫も、辺りまとめて全部燃やしてやるからな」
「ひっ……」
虫だけはガチで嫌いなので、くだらないことを言いやがったマスタードという新人に本気の殺気をぶつける。それでマスタードの方は腰を抜かしてその場に座り込んでしまうあたり、やっぱイキってるだけのクソガキだなと思いつつ、殺気を引っ込める。
「喚……リベルタ。彼も貴重な戦力なのですから、削るような真似はやめてください」
「……あーい」
正直、マスタードに関しては劣等感からヴィランをやっているだけのクソガキでしかないので、面接の段階で落とす気だった相手なのだ。だが死柄木がマスタードのことを気にいってしまい、リーダーには逆らえないということで結局
だからまぁ、自分が彼を嫌っているというのもあるし、マスタードもマスタードでこちらが元雄英生徒ということもあって嫌っているため、水と油、といった感じだった。まぁ立場だけで言えば自分の方が圧倒的に上なのだが。だって実力はこちらの方が上であるわけだし。
「……別にお互いが嫌いなのは構いませんが、作戦に影響は及ぼさないでくださいね」
「分かってる分かってる。この歳にもなってそこまでバカなことはしねェよ。やって後ろからついうっかり誤射するぐらいだ」
「リベちゃんリベちゃん、多分それ誤射って言わない」
あ、やっぱり?とコンちゃんのツッコミに返しながら、マスタードの方を見る。未だに腰を抜かしたままであるが、それでもこちらに反抗的な目を向けてくるようにはなっていた。
流石に意図的な誤射云々はともかくとして、一度徹底して上下関係を叩き込む必要はあるからなぁ、と考える。ただそれもあくまでマスタードがこの作戦で雄英側に逮捕されなければの話。実はマスタードで内緒で行った〝マスタードは逮捕されるか否か〟の賭けでは八対二で逮捕される方が多く、かく言う自分も逮捕されるち思っている口だ。正直、彼が勝てるイメージが湧かないんだよなぁ、と若干憐れにも思いながら、黒霧がワープゲートを広げるのを待つ。
「……時間通りですね。それではまた、所定の時間、場所にワープゲートを作成しますのでその際に。くれぐれも協力して、協 力 し て !作戦に臨むように」
黒霧からの念押しに、気のない返事をしながらワープゲートへと入る。黒霧には生憎だが、本当にもう、虫がいる中野宿しなければいけないのが嫌なのだ。そんなくだらないことを気にしている余裕はなかった。
「うェー……やっぱり蚊に刺されたー……。コンちゃんムヒとか持ってない?」
「こんなこともあろうかと!」
「さっすがマジシャン!どこからともなく!」
ただまぁ、出てくるのはあくまでムヒなのだが。
そんなコントの末、受け取ったムヒを蚊に刺された箇所に塗りながら、高所から眼下の燃え盛る森を見る。既にこの場には自分と、コンちゃんしか残っていない。つまり、もう襲撃は始まっているということだ。
「うーん、派手にやってるねェ」
「のんびりしてないで、早く自分のターゲットを探せよ」
コンちゃんからのありがたい忠告に、はいはいと生返事を返しつつ望遠鏡を召喚する。ただまぁ、正直この望遠鏡は仕事してますアピールでしかない。実際は昨日仕込んだセンサーによりターゲットの位置は既に把握している。
だから適当なところでアピールを切り上げ、一つ伸びをする。
「んじゃお仕事してくるわ」
「……ほんとにその子連れてくのかよ」
「そりゃまぁ、一心同体みたいなものですし?」
肩に座るルリにねぇ?と問えば頷きが返ってくる。今現在、雄英においてルリはヴィランに攫われた、ということになっているらしい。なのでルリにはちょっと拘束されているような姿になってもらっている。基本的にはそれっぽいだけで意外と動いたりできるのだが、流石に喋られると困るので口元の拘束だけは本物であり、基本コミュニケーションはジェスチャーで、という状態だった。
「ま、リベちゃんがいいならいいけどよ」
流石に、敵連合の拠点にルリ一人残すのは人斬りのこともあって怖いのだ。それに雄英生徒相手にする程度であれば、ちょうどいいハンデにもなる。
故にそのまま、ルリを肩に乗せた状態で崖から飛び降りる。そしてそこから、絆憑依でスラム街に住んでいた空気を一瞬だけ固める個性の持ち主を憑依させる。
この個性、本当に一瞬だけで、またその固める範囲も十センチ程度しかない。そのため基本的には使いづらい個性なのだが。
「よっ、ほっと」
ある程度の身体能力があれば、こうして
「空を走るのはなかなか気持ちいいな……。ルリはどうだ?……そうか、お前も楽しそうでよかったよ」
喋れないルリから頷きを返してもらい、その目元から楽しんでいることを察する。折角なので、もう少し空中散歩を楽しみたいところではあるのだが、生憎とそういうわけにもいかない。
「っと、ここらか。ちょっと負荷かかるぞ」
左手でルリを押さえながら、固めた空気を蹴って地面へと飛び出す。自分が進む方向には―――轟と爆豪、あとは轟に背負われたBクラスの少年の姿が見える。
また轟と戦うのかよ、と若干辟易しながらもそのまま轟たちの近くの地面へと向かい、空中で戦いの準備を整える。
―――と、言ってもこの戦いは速攻でケリをつける予定ではある。
地面が近づくと同時、絆憑依の対象を切り替える。空気を固める個性の持ち主から、自身から一定距離の場所に幻影を生み出す個性の持ち主へ。
この個性は、発動者と全く同じ見た目で同じ動きをする幻影を数メートル離れた場所に投影するだけの個性だ。だが今、轟たちがこちらを認識できていない状態で、丁度数メートル離れたところからそれを発動すれば。
「―――っ!?」
結果、投影された幻影を中心に広がる巨大な氷。だがそれはあくまで幻影を狙ったものであり、本体であるこちらには拡散した分威力が減衰した分しか届かない。
即座に絆憑依をソールに切り替えれば、あっさりと轟の攻撃は防げる。そしてまた、大技であったことで、轟は数瞬ではあるが身体が固まる時間が存在する。
その瞬間を狙って、先ほど轟の攻撃前に見えた位置に向かって人差し指の先から、細い光炎の線を伸ばす。これで座標を間違えてなければ、轟の腹部に穴が空いただろう。
流石に、自分でも元クラスメイトを殺すのは気が引ける。光炎でなら貫いた箇所を焼くので止血もできるし、死にはしないだろと思いつつ、その場から闇に紛れるようにして移動する。
「初手でやれなかったか……!」
「何やられてんだクソがァ!!」
もちろん、そのまま動けばいくら暗い森の中とは言え居場所がバレる可能性があるので、持ち込んだ黒いローブを身に纏う。
流石に、轟も爆豪ももうこちらが同じ場所にはいないというのは察しているようで、周囲の警戒へと移っている。その姿にこれは簡単には背後を取れないな?と察し、視線誘導を行うことにする。
「―――ハァ!?」
「アウェイク―――!?」
「はい、というわけでGood night、いい夢見ろよ」
その隙を突いて背後へとまわり、二人の頭を地面へと叩き付ける。ここら辺の地面なんか、人の拳なんかよりよっぽど硬い。故に思いっきり脳を揺さぶられた二人は白目を向いて失神してしまう。
「ほいキャッチ。悪いな、投げて」
首を横に振って気にするな、とアピールするルリに改めて謝罪と感謝を伝えつつ、周囲を見回す。
「コンちゃーん。コンちゃーん?いるんでしょー?」
「あなたの後ろにね?」
「おわァお!?」
音もなく突然現れたコンちゃんに、思わずその場から飛びのく。流石マジシャンというか、自分でも声をかけられるまで全く分からなかった。これ、コンちゃん敵にまわしたら普通に自分暗殺されるのではないだろうか。
そんな危惧をしながら、コンちゃんに失神させた爆豪を差し出す。
「つーわけで、圧縮頼むわ。とりあえずZIP形式で」
「オーケー、ちゃんと解凍ツールは用意しておけよ?」
まぁ実際はZIP形式も何も関係ないのだが。ノリだけで会話してる間にも、コンちゃんが爆豪を圧縮し指先程度の球体と化す。何とも、持ち運びに便利な姿になったものである。
「うーん、これ俺も圧縮してくれない?運んでよ」
「断る。俺そこまで戦闘能力自体は高くないんだから、お前が戦ってくれないと困るんだ」
そうツッコミを入れてきながら、コンちゃんが通信機で目標を確保したことを仲間たちへ告げる。無論、自分も通信機をつけているので、その通信内容はしっかりと聞けている。
「……マスタード、返事ないな?」
「マスキュラーもだな。これ、もしかして負けたんじゃねェか?」
「あー、クソっ。素直に捕まる方に賭けてればよかった」
そこでその言葉が出てくるあたり、コンちゃんもなかなかいい性格をしている、なんて思いながら黒霧によってワープゲートが作成される予定の場所へと向かう。既に目標は達成したのだ、長居する理由はない、という話である。
「しかしこれでこの、爆豪くんだっけ?の勧誘失敗したら、マスキュラーとマスタードを失っただけで大損だよなぁ」
「つっても、そもそも俺らの戦力確認も兼ねてるんだろ?だったら、最初から負けるやつは切るつもりで―――ストップ。……誰か近くにいんな」
微かにだが、地面を踏み締める音と、草木が風で揺れたにしては不自然な音が聞こえてくる。予定ではここの近くで戦う味方はいないはずなので、ほぼほぼ敵だと思った方がいいだろう。
そのため、もう一度黒いローブを羽織り直し、再度闇に紛れようとして―――気づく。
これ、ディティーの個性の隠密使えばバレないのでは?
ディティーの隠密は、音や気配を誤魔化すのではなく、相手がこちらを認識できなくする個性だ。故に基本的に、直感が化物染みていない限り認識されることはない。
オールマイトがこの林間合宿にいないことは確認済みであるし、まずバレないだろう。そう判断し、コンちゃんに常に触れておくことでコンちゃんにも隠密の個性を適応しながら、敵とすれ違う。
確かあの二人は、Bクラスのやつだったか、と薄い記憶と照らし合わせながら無事、Bクラスの二人から離れることに成功する。
そしてそこからもう簡単だ。常に隠密の個性を発動し続けていれば、敵に見つかることはほとんどない。故にあっさりとワープゲート作成予定地点に辿り着く。
これ、轟たちとの戦いでも隠密の個性を使えば楽だったな、と手札の多さからくる即座に最適手を選べない弱点を反省しつつ、こうしてあっさりと林間合宿襲撃は成功したのだった。
主人公まわり以外は原作とほとんど差異がないのでサクサクっと。
この事件自体は重要じゃないし、軽めにね?
まぁ結果としてあまりにも軽く爆豪ちゃんは攫われることになったけどね!
ちなみに来週中には完結予定よー。