ただ、己の為に   作:天澄

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#4.Raid Preparation

「お、ソーヤ来たか」

 

「今日は飲んでないのかソーヤ」

 

「別にアル中じゃないからな俺?」

 

「ちなみに俺はヤク中だぞぅ!イヤッハー!!」

 

「はーい、バカ処分のお時間よー」

 

 ガンギマリ爺の家が、多くの住人で賑わっている。あくまで昔のバーを修理して使っているため、そこまで収容人数は多くなく、一部は外にまで溢れかえっている。その上でヤク中は自己主張するからすごいよな、と思いつつ、カウンターテーブルの方。爺が住む住居部分へと視線を向ける。

 自分を含めた住人らを集めた爺は、今、住居部分に準備をしに行くと引っ込んでいる。ただまぁ、集まったメンバーを見れば、なんとなくその目的は見えてくる。

 周囲と雑談しながら待っていれば、やがて住居部分から、爺、そして雷生さんが姿を見せる。雷生さんに関しては大型のスクリーンを持ってきている。

 

「ん、割と皆集まったみたいだね。いない人は……まぁ適当に特攻担当にでもしよう」

 

「ひぇっひぇっ、そいたらあとは任せたヨ……」

 

「任されました。……と、いうわけでここからは僕が説明させてもらおう」

 

 爺は口調があまりにも特徴的過ぎて、話を聞きとり辛い。だから今回のように人数が集まった場合の説明は、雷生さんのように落ち着いた人物が行うことが多かった。

 

「とりあえず、これを見てくれ」

 

 そう言った雷生さんの手によって、スクリーンへと画像が映し出される。それは、どこかの建物の見取り図のようだった。そしてそれが映し出された意味を察したこの場に集まった住民たちがざわつき始める。

 

「おい……これは」

 

「ああ、来たな……久々だ」

 

「あ、爺さん新しいクスリある?さっき一気に使っちゃって」

 

「ひぇっひぇっ……しょうがない、お得意様のお前さんには最近のお気に入りを分けちゃるよ……」

 

「一部関係ない話をしているが……皆察した通りだ」

 

 そこで一度、雷生さんは期待を煽るようにして言葉を区切る。そして全体を一度見回したあと、静かになった住人たちに一つ頷いてから改めてその口を開く。

 

「―――襲撃の、時間だ」

 

「イェアーーー!!」

 

「テッロリッズム!はぁいテッロリッズム!!」

 

「へへ……血が騒ぐぜ……」

 

 場が爆発的に騒がしくなる。集められた全員が既にワクワクを抑え切れずに、周囲と話し合っている。かく言う自分だって、久々に暴れられる機会にうずうずしていた。

 それだけ、襲撃という分類の仕事は珍しく、同時にストレス発散の場になるものだった。

 

「はいはい、君たち静かにしてくれ。そうしたら今回の具体的な依頼内容に入ろう」

 

 雷生さんがそうやって声をかければ、誰もが静かになってスクリーンへと注目する。それは偏に、誰もが今回の仕事に参加したいからだった。

 

「依頼者はある裏組織。ま、匿名って話なんでここについては伏せておくよ。それで、今回の相手はその依頼組織のライバルになるわけだ」

 

 まぁ依頼者の名前は大抵の仕事では伏せられているので気にするものではない。そもそも、爺から回ってきた段階で、既に安心して臨める案件であるのだから。それに依頼者が誰だろうと、自分たちは金が貰えれば問題ないのだ。

 

「で、依頼者曰く『ちょっと厄介な個性持ちを誘拐したらしい。これ以上戦力増強されると面倒だし、ちょっと潰しといて?』だそうだ」

 

 随分と軽いノリでの依頼らしかった。実際の状況的にはもっと厄介なんだろうけども。ただ先ほども思ったように、依頼理由など自分たちは知ったことではないので、気にしはしない。

 

「ただうん、この誘拐された子ってのが結構強個性らしくてね?だからまぁ、折角だからここに連れてきて欲しいんだ」

 

「……はっ!?つまり開幕爆破できない……?」

 

「事前調査的に、回収対象の位置が建物の上の方だから無理だねぇ」

 

「ファック、クソかよ。解散、解散!」

 

「お疲れっしたー」

 

 雷生さんからの情報に、一部の爆発に芸術性を見出す連中が撤収し始める。彼らは先日の、死柄木と対談した場に爆弾を仕掛けた連中でもあった。ちなみに彼ら曰く、あの爆破は点数が低かったらしい。建物が崩れるまでに時間がかかり過ぎ、だそうだ。

 そんな爆発に情熱を捧げる連中が、あんな情報を聞けば帰ってしまうことを雷生さんが予想できないわけがない。そんなこちらの考えを裏付けるように、雷生さんは笑みを浮かべて帰ろうとしている連中の背中に向かって声をかける。

 

「ちなみに。今回の目的地は周辺の建物までその組織のものだそうだ。だから周辺の建物は爆破してもいいし、ターゲットを回収したらメインの建物も爆破して構わない」

 

「そういうの、先に言えよな」

 

「仕方ないなー、手伝ってやんよ」

 

「開幕の号砲は任せな」

 

 あまりにも早い掌返しだった。まぁ掌の回転率が高いのは、この街ではデフォルトだ。特に誰も反応することなく、当然の帰結として黙って視線のみで雷生さんへと続きを促す。

 

「と、いうわけでまずは爆破班が周辺で爆破テロを行う。そしたら正面から全部殺しながらターゲットまで一直線で」

 

「シンプルだな」

 

「バカ共にはちょうどいいだろう?」

 

「ちげぇねぇや!」

 

 雷生さんと一人の住民のやり取りに、全員が爆笑する。気楽なもんだが……まぁその方が、力を発揮できるというものだ。とはいえ、全く警戒しないわけにはいかないので、いくつか確認しておかなければならないことはあるので手を挙げる。

 

「おや、想也くん、何かあるのかい?」

 

「警戒すべき実力者はいるか?」

 

「そうだね、敵はヴィランから何人か用心棒を雇っているようだ。それなりに強いだろうね」

 

「オーケー、()()()()、だな?」

 

「ああ、()()()()、だ」

 

 なら問題はない、と引き下がる。雷生さんがそれなり、というのなら確かにそれなりに強いのだろう。だがそれなり程度であれば、囲めば封殺できるレベルでしかない。無論、慢心などではなく純然たる事実として、だ。問題は全くなかった。

 

「それじゃあ、最後にターゲットの写真を見てくれ」

 

 スクリーンの画像が切り替わり、少年と少女が一人ずつ映し出される。少年の方はニット帽で隠れ気味だが、日系の顔立ちに思える。逆に少女の方ははっきりとその顔が見え、金髪に紅の瞳、欧州系の顔立ちだった。どちらも年齢は十代前半程度に見え、写真が日常の姿を撮ったものであることもあって、裏社会とは無縁のように見えた。……いや、誘拐、という話だったのだ、本当に無縁だったのだろう。

 

「……そのまま組織で使われるか、この街で暮らすか、か……」

 

「どっちにしてもクソやな!」

 

「野垂れ死ぬって手段もあるぞぅ!」

 

 思わず漏らした呟きに反応する住民が何人かいるが、言葉こそふざけていてもその誰もが目だけは笑っていない。この街の住民の多くは、仕方なしにこの街に、裏社会に身を置くことになった連中ばかりだ。今回の一件に、何も思わないわけがなかった。

 

 

 

 

「偵察班、偵察はーん。こちら突撃部隊超有能隊長の想也。そっちはどう?」

 

『あいあい、こちら偵察班。なんかいっぱいいますけど超有能ならどうとでもなるんじゃないですかね』

 

「オーケーオーケー、実際有能だから何とかしてやろう。ただ流石に配置図はちょうだいな?」

 

『しょうがないにゃあ……』

 

 個性的に、あるいは技術的に隠密行動に長けた連中で組まれた偵察班から、端末へと送られてきた配置図を確認する。襲撃情報でも漏れたのか、予想以上の敵の数がいる。ただ報告がなかった、ということは少なくとも外には厄介そうなのはいない、ということになる。ならば作戦に変更はなしになる。

 

「うし、これだけありゃァ充分だ。偵察班はこのあと俺たちを陽動に使って内部の偵察も頼む」

 

『ニンジャプレイして遊んでもいい?』

 

『俺、あの日系の少年連れて帰ったら本当にニンジャとサムライはいるのか聞くんだ……』

 

『ああ、ソーヤはなんちゃって日本人だから知らなかったんだよな』

 

「誰がなんちゃって日本人か」

 

 通信から漏れ聞こえてきた声に思わず突っ込む。確かに住んでいた記憶はないためニンジャやサムライについては答えられないが、出身については間違いなく日本なのだ。別にこだわりがあるわけではないが、なんちゃってと言われるのは癪だった。

 

『それで、ニンジャプレイしてもいいの?』

 

「アイサツはダメだからな」

 

『なんとぉ!?忍殺ごっこが、できない……?』

 

 むしろバレないことが前提の偵察部隊で、何故アイサツができると思ったのか。忍殺ごっこするならアンブッシュで全員仕留めてしまって欲しい。

 うちの街には何故か日本のアニメやアメコミといった娯楽品が多いせいで、変な遊びをする連中が多くて困る、と思いながら念のためもう一度だけ釘を刺しておき、通信を切る。

 そして偵察部隊からもらったデータを後衛部隊にも回しつつ、続いてその後衛部隊へと連絡を繋ぐ。

 

『あいよ、こちら後衛部隊』

 

「はいはい前衛部隊隊長想也ですよォっと。データ、送れた?」

 

『大丈夫っすよ。来てます来てます』

 

 後衛部隊は、スナイパーライフルを扱える者や、遠距離攻撃に特化した個性の集まりになる。ここら辺、自分は全く射撃の才能がないので羨ましいところではある。一応、構造が複雑なせいでイメージが曖昧になるので、銃系統は召喚できないのだが、弓なら出せたりもするのだ。まぁあてられないので意味はないのだが。完全に才能が近接戦に振り切れている。

 

『一応、既に何人か頭ぶち抜けそうっすけど、どうします?』

 

「爆破班待とうか。あいつら開幕担当しないと後でうるさいだろうし……」

 

『りょーかいっす。―――つーわけでお前ら銃下ろせー。はぁい気持ちはわかるけど、引き金引きたそうな顔してもダメだぞー』

 

 引き金引きたそうな顔って何だ。そう思いつつも、間違いなく理解できそうもない世界なので黙っておく。別に自分は人を殺すことに喜びを見出せるタイプではないわけだし。しかし、まぁ的当てと考えればわからん話でもないのかもしれない。

 

「そしたら予定通り爆破班が爆破テロったら突撃するんで、支援頼むな」

 

『はいはい、お任せっすよ。……だから試し撃ちだろうとダメだって。やめんとテメーのど頭ぶち抜くぞ』

 

 荒れ始めた後衛部隊との通信を切る。なんでこう、どの部隊も最終的に荒れるのか、と考えかけ、うちの街がバカばっかだからかという結論に落ちつく。

 そして最後に、特大のバカ共へと通信を繋がなければならない。ちょっと、既に気疲れしてきているので本当はしたくないのだが、彼らなしでは作戦が始まりもしないため、仕方なしに爆破部隊へと通信を繋ぐ。

 

「あー、あー、こちら突撃部隊―――」

 

『オメェその爆弾はそこじゃねぇっつっただろうが!!』

 

『いーや、ここだね!現場に来て確信した!ここが一番派手に吹き飛ぶポイントだ!!』

 

『いや絶対こっちだろ。こっちの方がより美しく爆発する』

 

『なぁ?そろそろ爆破していい?我慢できそうにない』

 

 予想通り、ではあるのだが、思わず顔を顰めてしまう程度には、通信の向こうは騒がしい。ただ声をかければ止まる、というわけでもないので一段落するまでは、大人しく待っているしかない。そうやってしばらく、適当に突撃部隊連中と話して待っていると、何とか怒号が収まり小型インカムから、こちらに向けての言葉が聞こえてくる。

 

『……っと待たせたな。うちの新人はまだまだセンスがなっちゃいねぇ癖に口だけは一丁前だからよぉ……』

 

「それより、そろそろ突撃したいんだがいけるか?」

 

『おう、任せろ。すぐにでもいけるぞ。というか早く爆破したい』

 

「マジかよ、もういけるんか。やべェ、お前ら早く準備しろ!」

 

 大騒ぎしていたのでまだだと油断していたら、存外準備が済んでいたらしい。突撃部隊にも開幕に一発だけ射撃攻撃があるのだが、その準備が未だに整っていないのだ。こちらの言葉に、突撃部隊のメンバーが慌てて準備に入る。

 

『あ、あー、ダメだ。もうダメだ。我慢……我慢できない』

 

「もうちょっと、もうちょっとだけ堪えて!」

 

『……3……2―――』

 

『ヒャア我慢できねぇ!!』

 

「えっ」

 

 ドォン、と。今まで通信していたのとは別の声が聞こえたと思ったら、少し離れた場所から爆発音が響いてきた。それに思わず突撃部隊で顔を見合わせ。

 

「は、発射ッ―――!!」

 

「え、まだ微調整中……」

 

「ええいままよ!!」

 

「ヤク中、行っきまーす!!」

 

 指示を下した次の瞬間、メンバーの一人の個性によって、ヤク中が空へと撃ち出される。目標は、襲撃地点のターゲットが囚われている階層。ヤク中はそこ目指し空を舞い―――そしてその建物を越え、空の彼方へと消えて行った。

 

「……よし、いざ突入!!」

 

「ヤク中砲なんてなかった、いいね?」

 

「アッハイ」

 

 グダグダだった。あまりにもグダグダだった。グダグダだがしかし、斯くして襲撃作戦は始まった。

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