「たっだいまーっと」
「戻ってきましたね……おや、マスキュラーと、マスタードがいませんね?」
「捕まったのか、それともまだ戦ってるのか。細かいことは知らないけど通信に反応ないし、集合場所にも来ないから置いてきたわ」
「ふん……まぁ最初から脱落者が出る可能性も考慮してたから構わない」
と、言いつつも気に入っていたマスタードが脱落したため、若干不貞腐れ気味の死柄木を内心だけで笑っておく。
とまぁ、黒霧のワープゲートで自分が最初に帰ってきたために、自分が簡単な戦果報告を済ませる。脱落者、傷を負った者、目的は達成できたか……。それぞれ戦っていた場所が違うため正確には把握していないが、それでも集合した段階で全員の状態は確認している。
というか、普通に考えて学生、ヒーローの卵に負けるわけがないのだ。それこそマスタードのように同年代であるか、マスキュラーのように単細胞でもない限り。
だから本来であれば、プロヒーローに担当した者以外は、年齢による経験と実力の差から自分のように圧勝しなければおかしいのである。
コンちゃんだって、自分がいたからより確実性の高い自分に戦闘を担当させたのであって、やろうと思えば学生レベルであれば抑えられるだけの実力はある。それは過去の犯罪歴が示している。
つまり、マスタードとマスキュラーが例外なだけであって。
「爆豪は回収完了。プロヒーローと相対した連中が軽い傷を負っただけで、ほぼほぼ皆無傷だぜ」
「上々だな」
そう報告を締めくくれば、死柄木は口元に軽く笑みを浮かべてそう返してくる。それにやはり、最初からここで脱落する連中は切る気だったな、と思いつつ捕獲した爆豪を持っているコンちゃんことMr.コンプレスを呼ぶ。
「とりあえず脱落者の二名についてとか、報告済ませたから爆豪を元に戻してくれるか?」
「それはいいがよ。二名って、もしかしてムーンフィッシュのこと忘れてない?」
その言葉に思わずあ、と声が零れる。自分とはろくに会話が成り立たないし、ルリを見かけると襲い掛かってきたために大した関わりがなかったのですっかりその存在を忘れていた。
そうか、そんなやつもいたなぁ、と思わず頷きつつ、死柄木に改めて報告をする。
「というわけで、脱落者一名追加で」
「脱落者追加入りまーす!」
「お前らが揃うと意外と五月蠅いな……」
まぁ二人とも歳のわりにはっちゃけるタイプだからなぁ、と苦笑しつつ、一旦爆豪の処置などを死柄木と黒霧、コンちゃんの三人に任せて、バーカウンターの定位置へと座る。
そしてそのまま隣に今の今までずっと肩に乗せていたルリを下ろして座らせてやり、そこにきてようやく、形だけの拘束具を外してやった。
「っぷは」
「悪いな、そこそこの時間拘束しちまって」
「んー……初めての体験で楽しかったから大丈夫だよ?流石に一回で十分だけど」
初回だけとはいえ、拘束されるのを楽しむあたり何気にルリもヤバいところあるよな、と一瞬思うも、個性〝ドM〟とかヤク中がいたスラム街と比べれば大したことないか、と考え直す。出身地の人たちがあまりにも濃すぎるのだった。
今まで一応、全くとは言えないまでも動けなかったのは事実であるため、ルリの身体をほぐす為に二人でストレッチを行う。本当はまだ後処理があるわけだが。それでも自分にとって最優先はルリなのでこちらを優先する。
ただそのままストレッチだけする、というのもつまらないので軽く、適当な会話をルリと交わすことにする。
「そういやさー、俺は今回轟と爆豪と戦ったわけだけど。元クラスメイトを俺が襲ってるのを見るのって、ルリ的にはどうなのよ?」
ストレッチ中にするには些か重い話題のような気もするところだが。それでも単純に聞いておきたいことではあったので、この際に聞いてしまうことにする。
自分に関しては、轟も爆豪も最初からある程度距離を置いて接してきた相手だ。だから敵対しようが、さほど気にするようなところはない。
けれどルリは誰に対しても親しく接してきた。それは、あの爆豪でさえ振り払うのを諦めたほどだ。鈍感と言うか、ブレないと言うか。普段は物分かりがいいくせして、こと誰かと仲良くなることに関しては一切の妥協をしない子だ。その上、気づけば懐に入られている、というか自然と過去から友人であったかのように錯覚させてしまうほど、相手の心の内側へ入るのが上手い。
友人作りに関しては性格と、そのなり方が異常に上手く、そしてそうして作った友人を大切にするのがルリだ。そんな彼女が友人同士が戦う、という状況に何も思わないわけがないはずだ。故に気になっていたのだが。
「んー……実はそんなに気にしてないよ?」
「……そうなのか?」
身体を伸ばしながらルリが言ったのは、意外な内容だった。友達同士が殺し合う、なんていうのは見たくないものだと思うのだが。
スラム街ではそれが日常茶飯事であり、自分は特に気にはしないのだが。それでも流石にそういったものは一般的には好まれないことぐらいは知っている。
だからルリがこちらに気をつかってそんなことを言ったのか、と様子を伺えば、特に嘘を吐いた様子もなくルリは言葉を続けていく。
「もちろん、何も思わないわけじゃないけど。クラスの皆と比べたらソーヤの方が大事だから、ソーヤが必要だと思ったならそれでいいと思ってるんだ」
「ん、む……」
なんとも気恥ずかしいことを簡単に言ってくれるものだ。思わずそっぽを向きながら頬をかいてしまう。
こんな仕草をしてしまえば、スラム街の連中や
「それに、ソーヤは元クラスメイトを殺したりしないでしょ?必要であれば殺せるけど、だからって無駄に殺したりはしないって知ってるもん」
「ストップ、理解してくれてるのは嬉しいけどストップ……!」
このまま放っておくと延々とこちらについて知っていることを垂れ流されそうで思わず止める。流石に、こうもはっきりとこちらのことを理解していて、同時に信頼してくれているというのは嬉しさよりも恥ずかしさが先立ってしまう。
そんなに分かりやすいタイプだったかなぁ、とあまりにルリがこちらのことを把握し過ぎていて思わず顔を赤くしながらも首を捻る。スラム街ではあまり、内心を見抜かれることもなかったはずなのだが。
スラム街にいた頃はさほど深く考える必要がなかったため、見抜かれるような内心が元々なかったのか。それともルリが異様に人の内心を見抜くのが上手いのか。
どっちもありそうだよな、なんて思っていると、軽いストレッチが終わる。そしてそのタイミングを見計らっていたのか、黒霧が手招きでこちらを呼んでくる。
「どしたよ、黒霧」
「喚導さん、こちらを」
ルリを再び肩に座れせつつ黒霧の元へ向かえば、二つ折りにされた複数枚のまとめられた紙を手渡される。はて、この場で言えないことなのだろうか。なんて思いながらその紙を開き。
「―――っ」
その内容に、思わず一瞬呼吸が止まる。けれどあまり露骨な態度を死柄木や黒霧以外に見せるわけにもいかない。
故に、適当なことを言って一旦、拠点のベランダへ、ルリと二人だけで出る。
幸い、ベランダには誰もおらず、またベランダから見えるのも隣の建物の壁だけだ。だからそこで、改めて渡された紙の内容を読む。
―――そこに書かれているのは、人斬りについての情報だ。
オール・フォー・ワンとの契約。その中の一つに、オール・フォー・ワンの個性と人脈を使って人斬りについて調べてもらう、というものがあった。
人斬りは、如何にも黒幕と言わんばかりのオール・フォー・ワンとは全く無関係らしく、加えて人斬りの協力者か何かが随分と有能なようで、オール・フォー・ワンはほとんど何も情報を持っていなかったらしい。
だからその場では特に情報は貰えず、こうして調査後に改めて情報を貰う形になっていた。
じっくりと読み込み、書かれた情報を頭に叩き込んでおく。オール・フォー・ワンの手によって用意されたものなのだ、そう簡単にこちらが人斬りについて調べているなどとバレるとは思えない。それでも、世の中に絶対はないと思っているので、これは読み終わったら燃やしてしまうつもりだ。
故に、人斬りの出身、過去の関わったと思われる事件。さらには現在の拠点。そういったものの情報を読んでいくうちに、一つの項目に行き当たる。
「血縁関係……?」
本来であれば、さほど気にすることもない項目だ。出身などはそこから流派などの情報も得られるため、意外と大事な要素だったりもするのだが。本人の個性がはっきりしている場合、両親の個性から予想を立てる必要もなく気にしなくていいはずの内容なのだが。
しかしあのオール・フォー・ワンがわざわざ書いた情報なのだ。何か大切な要素でもあるのだろう、と思い家系図を見れば。
「人斬りに、息子?」
捨てられたのか何なのか。名前がないが、息子がいたという情報だけが家系図には示されている。そしてその下には更に注釈が書かれている。
『人斬りのDNAを回収できていないため、確実ではない情報になるが、息子が当時の人斬りの行動。同時期にあった事件から推察するに―――』
「―――俺が、人斬りの息子……?」
その衝撃の事実に―――けれど、自分は意外とショックを受けていなかった。
確かに、元々顔も覚えていない両親など興味がなかったのもある。ただなんとなくではあるが、今にしてみればそうなのかもしれないと心のどこかで感じていたように思えた。
自分がスラム街に捨てられた際。両親の個性についてやそこから予想される自分の個性、あとは名前などが書かれていた紙が一緒に置いてあったという。そのことから少なくとも親の片方は、捨てたくなかったが、捨てざるを得なかったのではないか、なんて言われていたりもしたのだが、今重要なのはそこではなく。
どうやらその紙には父親の個性は〝斬る〟個性、と書かれていたらしい。そのため、自分の召喚の個性は特に刀剣類への適性が高いのだが、そういったのもあって自分の父親の個性についてはこの歳になっても何となく覚えていた。
だから人斬りの個性を聞いた段階で、何となくは察していたのだろう、と思う。
「……前に襲ってきた人、ソーヤのお父さんなの?」
考え込み過ぎたのか、ルリが心配げな顔でこちらを見てくる。ルリは父親とは仲が良かった人間だ。だからきっと、父親と戦うことになったこちらのことを純粋に心配してくれているのだと思う。
しかしルリには申し訳ないが、心配する必要はそんなになかったりするのだ。確かに、全く思うところがないわけではない。今まで不明だった父親が分かったのだから当然だ。自分を捨てた恨みだってある。
けれど、とルリの頭を撫でながら思う。
今の自分にとって重要なのは何なのか、という話だ。それは父親への恨みとかそういったものではない。むしろそんなものはどうでもいい、と切って捨てられるだけのものでしかない。
今の自分にとって大切なのは、スラム街での思い出と、唯一自らの手の中に残ったルリだけだ。
だから、父親かどうかなどさほど大きな問題ではなく。重要なのはルリの敵か否か、ただそれだけでしかない―――そうやって、情報が記載された紙を燃やしながら、改めて覚悟を決めた。
決戦は、近い。
文字数に応じてだけど、次回か次々回で最終話。