ただ、己の為に   作:天澄

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#41.Stand by ready.

 ―――爆豪を拉致してから二日。

 

 爆豪自体に揺さぶりをかけること。今回の一件の痕跡を全て消す作業。そういう諸々の結果、爆豪の説得に入るまでにそれだけの時間がかかってしまっていた。

 ただそれだけ時間をかけた甲斐はあり、テレビでは間もなく目的の番組が放送されようとしている。そしてそれを爆豪に見せるために、爆豪は簡単な拘束だけされた状態でバーカウンターへと座らされていた。

 

「手錠だけだから飲もうと思えば飲めるだろ?何がいい?……あ、酒はダメだからな。未成年の飲酒は禁止だぞ!」

 

「おじさんたちヴィランが言っても説得力ないだろうけどね!」

 

 はっはっは、とテレビ前のソファで寛ぐMr.コンプレスと笑い合う。説得役は何故か自分に放り投げられたため、こうして爆豪の隣にいるが自分もコンちゃんのように寛いでいたかった。

 とはいえ自分の立場は今は死柄木の部下。せっせと働くしかない―――そう苦笑しながら、ちょっとだけ真面目に説得に入ることにする。

 

「つーわけで、おじさんはリベルタ。もちろん本名じゃないけど、そこはほら、ヴィランだからね?」

 

「ケッ、キョーミねぇよ。とっとと離せこのクソヴィラン」

 

「なーこいつ口悪いー!こいつの方がよっぽどヴィランっぽいんだけどー!」

 

「まぁ少なくともヒーローとは思えませんよね」

 

「誰がヴィランだ!どっからどー見てもヒーローだろうがッ!ブッ殺すぞ!!」

 

 そういうとこ、そういうとこ。そうツッコミを入れながら、内心では自分が喚導想也だとバレていないことに安堵する。

 今の自分は、コンちゃんから借りた仮面に、髪を全て白色に染めている。加えて以前の未来召喚の影響で、多少体格も変わっているので、まずバレない状態だ。

 それでも、もしかしたらを考えてしまい、こうして実際にバレないことを確認するまでは安心できない状態だった。

 もちろん、自分が喚導想也だと気づかれないためにも、ルリも再び拘束している。また苦しい思いをさせてしまうが我慢して欲しい。

 

「さてさて、それで本題だが。まぁ端的に言えば君に俺たちの仲間になって欲しいわけだが」

 

「誰がテメェらなんざの仲間になるかよ。ヴィランってのは頭も悪いのか?」

 

「ま、そりゃ断るよね」

 

 なんの揺さぶりもかけていない状況だ。これで簡単に仲間になられたら拍子抜けである。自分の準備に費やした努力を返せ、という話だ。

 だからむしろ断ってくれてよかった、と思いつつ、どう話を進めるかを今の爆豪のリアクションを加味して少しだけ考える。

 

「……ほいたら、テレビ見せようか。コンちゃーん!例の番組お願ーい!」

 

「あいよー」

 

『―――見てください、この愛くるしい姿。やはり子犬は―――』

 

「あ、間違えた」

 

 まさかこのタイミングで普段通りの番組をやっているとは。やっぱりあの放送局はブレないな、と思いつつもテロップだけで済ませられても困るため、すぐにコンちゃんに他のチャンネルに変えてもらう。

 

『この度、我々の不備から―――』

 

「お?イレイザーヘッドじゃん。ま、攫われた生徒の担任じゃ当然か」

 

 イレイザーヘッドのメディア嫌いはヴィランでも有名であり、過去雄英生徒だった自分はなおのことよく知っている。何かの機会でメディアでの露出が回ってくれば、お得意の合理的じゃないというセリフで断っていたのを何度か見ている。

 故にそんなイレイザーヘッドが記者会見に出ている、ということに驚きつつも、爆豪にその番組を聞かせるという目的がある以上、さほど余分な茶々は挟まずにその番組を見る。

 

「どーよ、爆豪。お前の担任が、学校が悪者扱いされる姿はさ」

 

「……けっ」

 

 明確な答えは返さない。そして瞳の奥で悔しさと、自身への怒りが渦巻いているのが良く見える。

 揺さぶれてはいる―――だが、致命的なほどじゃない。これだけでは足りないか、と言葉を続ける。

 

「ステインの件もそうだけど、今のヒーローの在り方を君はどう思う?完璧であることが求められ、守るのが当然だとされる。そしてヒーローは憧れではなくシステムへと堕ちた。そんなヒーローの在り方を君は肯定するかい?」

 

「……キョーミねぇよ。俺は全部守って全部救えるヒーローになる。だったらそこに何も問題はありゃしねぇ」

 

「うーん、いい啖呵だ。それに実力が伴っていないことに目を瞑ればね」

 

 こちらの言葉にチッ、と舌打ちが返ってくる。やはり全くもって揺さぶれていないというわけではないが、彼を引きずり落とすには足りないのが現状だ。

 屈辱も、後悔も、迷いもある。だけど根っこの部分。心の芯が折れていない。だから決してヒーロー側から揺らがない。

 これはアプローチの方向を変えた方がいいな、と話題を少し変えることにする。

 

「……そうだなァ。君が目指すヒーロー像は、それこそオールマイトみたいな、ってことだよな?」

 

「……わりぃかよ」

 

「まさか、全然!だけど君は、オールマイトについて、そして()()()()()()()()()()()()どこまで知っているのかな、って」

 

「……おい、待てよ。何でそこでデクの野郎が出てくる!」

 

 揺さぶるならこちらだな、と内心でほくそ笑む。緑谷と爆豪の間に何があったかは知りはしないし、興味もない。だが、それが利用できるならとことん利用させてもらおう。

 そうして自分は、状況からの予測をあたかも真実かのように語っていく。

 

「そもそも、君はオールマイトが弱ってきてることを知っていたかい?」

 

「………………」

 

「いつも笑顔の無敵のヒーロー。だけど世の中、絶対なんてない。それはオールマイトですら例外ではない。とある強敵との戦いの後遺症で、活動時間に制限が生まれたそうだよ」

 

 ここまでが、オールマイトから直接聞いた話。そしてここからがオールマイトが弱まるのが加速し、オールマイトによく似た個性を持つ少年が現れたことからの予想。

 

「だからね、オールマイトは後継者を見出したそうだ」

 

「後継者……」

 

 爆豪はその荒っぽさから勘違いされがちだが、頭の回転が早い天才だ。故に、ここまでの流れから何となくその後継者が誰かを察したらしく、目を見開いている。

 

「さて、ここで質問。君は緑谷出久の個性、あの超パワーに見覚えがないかい?」

 

「……デクが、後継者だっていうのか」

 

「オールマイトが雄英の教師になったのと、緑谷出久が雄英に入学したのが同時期なのは偶然だと思う?」

 

 そう問いかければ、歯を食いしばった爆豪が俯いてしまう。

 ここまで自分は、嘘は言っていないし、別に緑谷出久が後継者だとも言っていない。あくまで緑谷出久が後継者というのは、こちらの予想でしかないからだ。

 けれど、自分が持っている情報を与えれば、聡明な爆豪であれば同じ結論に至るだろうとは思っていた。故に予想通りの結果に満足しながら、さらに揺さぶりをかけていく。

 

「君は、選ばれなかった。才能ある君が、だ。憧れたヒーローは、君じゃなく君が下に見てきた人間を選んだんだよ」

 

 爆豪の拳が強く握られる。本当に緑谷関連の話はよく効くな、と思いつつ爆発するまでもう少しか、と算段を立てる。

 オールマイトへの不信感を煽り、世界への不満を爆発させる。爆豪をヴィランへと引きずり込むには、根幹にあるオールマイトへの憧れをどうにかするしかなかった。

 実に都合よくオールマイトと緑谷が関わてくれていたおかげで、オールマイトへの不信感を高めることはできた。だからあともう一押しすれば、ヴィランへ落ちるだろう、と予測を立て言葉を選んでいく。

 

「不満があるだろう?見返したいだろう?そのために君がすべきことは何だ。いいや、君がしたいことは何だ?」

 

 そう問いかければ、爆豪一度大きく息を吐いたあと、小さく呟く。

 

「……ああ、そうだな。見返してぇよ。俺を選ばなかったオールマイトに文句を言ってやりてぇ」

 

 それは、自分が求めていた言葉だったように思う。そこに込められた感情が、熱量が。決してこちらの望んでいたものではないと明確に告げている。

 

「―――だから俺がNo.1ヒーローになる。オールマイトじゃねぇ。オールマイトが選んだデクじゃねぇ。俺が、俺だけの力でNo.1ヒーローになって、オールマイトに吠え面かかせてやるッ……!」

 

「ッ」

 

 爆豪の気迫に、一瞬気圧される。そして同時に、自分では爆豪を説得できないと理解もしてしまった。

 これはダメだ、彼は気質はヴィランかもしれない。それでも、こちらが思っていた以上に彼のヒーローへの憧れは強いらしい。

 

 仕方なしに、死柄木に向かって首を横に振ってみせれば、死柄木が頭を掻き毟る。それはつまり、死柄木も説得は不可能と判断したということだろう。

 ここからどうしたもんかね、なんて思っていた時だった。

 

「すいませーん。ピザのお届けに来たんですけどー」

 

 ―――その声に、誰もが臨戦態勢に入った直後だった。

 

 ドカン、と派手な音を立ててドアが壁ごと打ち破られる。その衝撃にドアの傍にいたスピナーなどは勢いよく吹き飛ばされていた。

 

「……オール、マイト……!」

 

「私だけではないぞ!」

 

「―――先制必縛、ウルシ鎖牢ッ!!」

 

 誰かの呟きに返したオールマイトの言葉に応じて、一人のヒーローが突入してくる。身体を樹に変化させる個性を持つ、シンリンカムイというヒーローだ。

 そしてそのシンリンカムイが突入してくると同時に放たれる必殺技。敵連合のメンバーにシンリンカムイの肉体が変化した樹木が伸びてくる。

 

 それに対応するように、自分も個性を放つ。

 

 必殺技を使う際にその名を叫ぶ。なるほど、実に見栄えがよく市民受けがいいだろう。だがイレイザーヘッド風に言うならば、()()()()()()()

 必殺技の名前を叫ぶ、ということは今からこの技を使いますよと宣言することと同義だ。それでは対応してくれ、と言っているようなものである。

 故に、伸びてくる樹木、それを切断可能な位置に、座標を指定して遠隔での召喚を行う。未来召喚の結果、細かい制御が上がったが故の小技だ。やっていることとしては以前使った〝降り注ぐ刃雨(ブレード・スコール)〟とさほど違いはない。

 

「黒霧!」

 

「わかっています!」

 

 それでも、こちらを拘束しようとした樹木を阻害することはできた。だがそれでもヒーロー優勢に変わりはない。何せ、オールマイトが壊した壁の向こう。そこに見えるヒーローの数が多過ぎる。数的有利を取られた以上、実力に大きな差がなければ勝ち目は薄い。

 そのため、即座に黒霧の名を叫べば、それだけで意図を察した黒霧がこちらの数を増やそうと脳無を呼び出そうとし。

 

「っ!?脳無がない……!?」

 

「生憎だが、既にそっちは抑えさせてもらったぜ」

 

「用意周到って感じだなァおい……」

 

 どうやら、ヒーロー側はしっかりと計画を立てていたらしい。予想以上に自分たちは追い込まれているようだった。

 困ったなぁ、と頬をかく。ここで捕まっては、全て計画がおじゃんだ。それは実に困る。

 けれど、それが分かった上で、ここまで追い詰められてなお、自分はさほど焦ってはいなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ、何だ!?」

 

 そんなことを考えたと同時。空間から突如黒い液体が溢れ出す。そしてそこから現れる脳無たち。それに遅いんだよ、と内心で悪態を吐きつつ、爆豪とルリの回収を済ませる。脳無を送ってくれたおかげで、それくらいの余裕がある。

 回収を済ませた次の瞬間、自分の口から溢れ出す、先ほど何もないところから現れたのと同じ黒い液体。一瞬、その息苦しさから目を閉じれば、次に開いた瞬間には景色が変わっていた。

 

「うぇー……。あの移動の個性クッソ苦しいんだけど。どうにかなんないの?」

 

「贅沢を言わないでくれよ。黒霧のような何の弊害もなくワープできる個性は貴重なんだよ?」

 

 呼吸が再びできるようになったと同時に、思わず文句を垂れれば、空中より返事が返ってくる。

 

「……なに、空まで飛べるわけ?」

 

「上手く個性を組み合わせれば、この程度余裕だよ」

 

 そこにいたのは、生命維持装置か何かであろう黒いヘルメットを被った、オール・フォー・ワンだった。

 初めてこうして直に会って理解したが、オール・フォー・ワンが放つ()とでも言うべきものが尋常ではない。これ、敵として向けられたら呼吸も止まりそうだな、と改めてオール・フォー・ワンの化物っぷりを理解する。

 

「しっかし酷い光景な。大破壊してるじゃねェか」

 

「ヒーローたちを一掃したら、ね。いや、久々で加減が難しかった」

 

 その言葉に破壊痕が続く先を見れば、何人ものテレビで見たことがあるヒーローが倒れているのが分かる。何人かは、死亡者もいそうだ。

 やっぱり規格外よなぁ、なんて思っていると、ふと覚えのある気配が近くにいることに気づく。

 

「……ほーん。そういうことなら持ってくといい」

 

 それが誰のものなのかを理解した段階で、抱えていた爆豪をその気配の主―――緑谷をはじめとする、何人かの雄英生の方へと投げる。驚いた顔で爆豪を受け取る切島。そんな彼らに、とっとと行けよと顎で示す。

 

「……今のは、死柄木への裏切りともとれるわけだが」

 

「よく言うぜ。いるのを理解しながら放置してたくせによ。それにあれは説得は無理だと死柄木も判断してる。返しても別にいいだろうよ」

 

「まぁ君の今後にも関わるだろうし、今回は目を瞑ってあげよう」

 

 爆豪を抱えて走り去っていく緑谷たちを目線で追いながら、さらりとオール・フォー・ワンはこちらがこの後どうする気かを読んでくる。本当にそういうところだぞ、と思いつつ、自分はオール・フォー・ワンによってワープさせられてから未だに倒れている黒霧の方へと向かう。

 

「おーい、黒霧ー。起きてるー?」

 

「うぷっ……すいません……ワープに軽く酔ってしまって……」

 

「おい、オール・フォー・ワン?ワープ使いがワープに酔ってんだけど?」

 

「知らないなぁ」

 

 思いっきり顔を逸らすオール・フォー・ワンを思わずジト目で見ながら、黒霧の背をさすってやる。できれば早く復活して欲しいところだ。何せ、既に遠目ではあるが、こちらへと向かってくる現No.1ヒーローの姿が見えるもので。

 

「黒霧ー、できるだけオールマイトに自分を見られたくないから、早く復活して俺をこの座標に飛ばしてくれない?」

 

「……っ、何とか、一回程度なら……」

 

 その絞り出したかのような声と共に、少し小さめではあるがワープゲートが開かれる。

 オール・フォー・ワンの調査が確かであるならば、この先に奴がいる―――その緊張感に思わず手を握り込めば、そっと、その手が暖かいものに包まれた。

 見れば、ルリがその小さな手でこちらの手を包んでくれている。それに幾分か、落ち着きを取り戻し、苦笑しながら口を開く。

 

「ルリ、いつの間に拘束から抜けられるようになったわけ?」

 

「頑張ったらできた」

 

 むん、と胸を張って言うルリだが、何も説明になってない。頑張るだけで拘束から抜けられては困るのだ。

 ただまぁ、決戦前のいい息抜きにはなった。故に幾分かリラックスして、最後にオール・フォー・ワンや死柄木へと別れを告げる。

 

「んじゃ、()()()。そっちも頑張れよー」

 

「ああ、そちらこそ頑張りたまえよ」

 

 生憎にも、死柄木などはワープ酔いで返事がなかったが。まぁ返事を待っている余裕もないので、ワープゲートへと入る。

 そうして移動した先は、実に殺風景な場所だった。コンクリートの柱が等間隔にあるだけで、他には何もない空間がただ広がっているだけの場所。

 どこかの地下空間だろうか、なんてあたりを見渡していれば、一つの人影があることに気づき、そこに向かって声をかける。

 

「―――よォ、久しぶりだな人斬り」

 

 決戦が、始まる。




次回、パッパ死ねェ!!

というわけで、長くなったので二回に分けて。次回完結予定。
……ワンチャン、エピローグで追加一話あるかもしれない。
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