ただ、己の為に   作:天澄

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#5.Raid Attack

『―――たっまんねぇなぁ!!』

 

『ああ、達するッ……!!』

 

『もっとだ……もっと爆破させろォ!!』

 

「う、うるせェ……」

 

 全体通信の方で繋げられているために、緊急時に備えて通信を切ることもできず、爆破班の狂気染みた歓喜の声を聞き続けるしかない。耳元のインカムで騒がれているため、どう足掻いても大人しく聞くしかなかった。ただ我慢できなくもないので、そのまま敵地へと突撃をかける。

 全体通信なので他のメンバーも爆破班の声を聞いており、全員が顔を顰めている。いや、まぁその前のヤク中砲のグダグダっぷりにもだろうが。それでも、仕事はこなすと全員が目的地へ向けて走っている。

 目の前には既に、敵の姿が見えてきている。爆発に反応してどうにも慌てているようだが、流石に走ってくるこちらに気づかないほど鈍くはないらしく、他のメンバーと連絡しようとして。

 パァン、と銃声が鳴り響くと同時、その頭から血を噴き出して倒れていく。後衛部隊がいい仕事をしているようだった。

 

 そのまま、正面入口が後衛部隊によって制圧され、何の問題もなく自分たち前衛部隊が目的の建物へと突入する。ここからは流石に、自分たちの仕事になってくる。窓際でもなければ後衛部隊からの支援は望めないし、爆破班は完全に頭がいってしまっている。

 一応、偵察部隊がいるが、彼らの本業は偵察であり、暗殺には期待するべきじゃない。

 

 建物内、入口近く。流石に敵がいないということはなく、何人かがこちらを見つける。そして通信を行うと同時に、手に持ったアサルトライフルをこちらへと照準を合わせてくる。

 故に対応するように、加速。近接戦を主体とするために接近の手段は鍛えてある。重心を前へ、倒れ込むようにして体を倒し、倒れきる前に足を踏み出す。それ繰り返し、結果前へと落下するようにして高速で移動する。

 その速度に相手は対応しきれず、銃の照準がこちらに追い付いていない。練度が低い相手だ、と判断しつつ、個性を発動。

 

「刀剣召喚〝刺突短剣(ジャマダハル)〟」

 

 取り回しがよく、かつ殺しやすい武器であるジャマダハルを召喚、心臓へ向かって防具を貫通させながら一突き。一人の殺害を終え、残りの敵を見やれば他のメンバーが一撃で敵を殺している。

 こういう襲撃戦においては基本的に、自分たちは数で劣ることになる。だから自分のように一撃で敵を屠る技術は必須だった。

 ただ蘇生や再生系の個性がないとも限らないので、召喚したのではなく、普通に持ち込んだ拳銃で一発、頭を撃ちぬいておく。こういう念のためは大事だ。基本的に頭と心臓、この二か所は潰すようにしていた。

 

 一階フロントの敵を殺し終えた段階で、設置されたエレベーターのボタンを押してみる。すると案の定、反応がない。まぁ爆破テロがあった段階でそりゃ止めるよなぁ、と納得しつつ階段へ向かう。

 

「確か二十階近くなかったっけ?だっるいなぁ……」

 

「我慢しろ。最初から想定してただろうが」

 

「ほら走って登るんだよぉ!!」

 

 メンバーの会話に耳を傾けつつ、階段を走って登る。道中、敵に何度か出会うが、そいつらも一撃で軽く屠っておしまいだ。大した練度の相手がいない。

 そうやって一気に上階へと登りながらも、息を切らすメンバーは一人もいない。全員、日々鍛錬を積み、仕事として戦闘を経験している。体力はバカみたいにあったし、無駄のない動きも身につけていた。だから全力戦闘を数十分継続しない限り、息が切れる、ということはなかった。

 

 やがて階段が途切れ、扉のみが存在する場所へと辿りつく。ただ、階層的にはまだ目的地とは言えない階だ。つまり、ここからは別ルートでしか登れないということであり、間違いなくこの扉の先には敵がいるだろう。

 今までの敵は大分練度が低かったこともあり、恐らくはここからが本番である、と判断し、メンバーの方を振り返る。

 そして一人のメンバーを手招きで呼び寄せる。彼はまだスラム街に来てから数年の、比較的新人である人物だった。ただ数年ともなれば慣れが生まれてくる頃であり、そうして気が抜けたのか最初に仕事の説明の際には遅刻をしていた人物であった。

 

「ちょっと、ちょっとこっち来い」

 

「……何すか?」

 

「貴様に一番槍の誉れをやろう」

 

「マジっすか」

 

「うむ。―――そう、お前が一番槍になるんだよォ!!」

 

「えっ」

 

 寄ってきたメンバーを片手で持ち上げ、やり投げの要領で投げる。遅刻した者は特攻担当にする、と雷生さんは言っていた。だからまぁ、彼をこんな扱いをしてもいいだろうと思いつつ、扉をぶち破り部屋の中へ新人が放り込まれるのを見送る。

 それと同時、扉周辺に銃撃が集中し、憐れにも投げ捨てられた男の姿に、戸惑いからか一瞬銃撃が止む。無論その隙を逃す自分たちではない。

 部屋の内部へと一気に侵入、とりあえず近くにいた男の両肩に手を置き倒立。そのまま両手を相手の頭へと持ち替えたら、倒立の勢いを利用し頭を無理矢理捻る。ゴキリ、と音が響いた頃には次の相手へと移動する。

 個人的な話ではあるのだが、誰か見ている中で戦う時は実は見栄えを気にしたりしている。なんせ普通に戦うだけでは楽しくない。そのため格好つけた戦いを、仲間がいる時などは気にしていた。

 一人目は、手品染みた個性による刀剣召喚。二人目はアクロバティックなアクション。では三人目は。

 

 敵へと走り寄りながらイメージを固める。目と手の動きでサインを出せば、即座にメンバーが対応し、敵をひとまとめになるように追い込んでいってくれる。襲撃作戦もこのメンバーとは何度もやっている。だからスマートに連携は成功し、範囲内へと全ての敵が収まる。

 

「ナイスだ―――無差別大量召喚〝降り注ぐ刃雨(ブレード・スコール)〟」

 

 体力の消耗は大きいが、仕事の性質上習得した範囲殲滅攻撃を繰り出す。それは至ってシンプルな技。ただ敵の上方に刃だけの剣を大量に召喚するだけ。ただし、重量は重め。故に、重力に引っ張られ大量の刃が一気に敵へと降り注ぐ。

 大量の叫び声と共に、血が辺りに飛び散る。反射神経がいいのか、範囲外に何とか飛び出した敵もいるが、それも他のメンバーの手によって手早く処理されていく。

 やはり、この技は派手で見栄えがいい、と思いながら全ての刃を返還すれば、いくつもの死体が折り重なって血の海に沈んでいるのが確認できる。ただまぁ、雑な技であり、殺し損ねがいないとも限らないので、次の階へと去り際、増援を防ぐのも兼ねて手榴弾を死体の山へと投げ込んでおく。

 

 下から響いてくる爆発音。多少建物が揺れはするが、そこまで威力の高いものではないので、一階少なくなった程度だろう。どうせこの後バカ共に強制的に爆破解体されるのだ、この程度誤差であろう。

 そう思い、再び階段を駆け上がる。今度は道中で敵に襲われることはない。ただ、いくつか死体は転がっているので、どうやら偵察部隊が仕事をしているようだった。

 そうしてまた、階段が途切れ扉が現れる。しかし今度はその手前に人影があった。あの姿は―――知っている顔だ。

 

「どうした、こんなとこで」

 

「偵察としてちょっと覗いたんだけど、デカブツがいるわ。結構気持ち悪いビジュアルしてるわよ、あれ……」

 

「偵察部隊じゃキツそうか?」

 

「キツい、というか一人暗殺しようとして返り討ちにあったわ」

 

「うげェ、マジか」

 

 うちの偵察班は、かなり優秀だ。個性が有能、というのもあるのだが、一部の連中は技術だけでその個性を超える隠密性を発揮しているのだ。曰く、日本の漫画で学んだらしい。ちょっと意味が分からなかった。

 

「途中まではよかったのよ。どうやら相手は鈍いみたいで、こちらの攻撃に反応はしてなかったわ」

 

「じゃあどうして?」

 

「刃が通らなかったのよ」

 

 どうやら、暗殺しようとしたら刃が相手の肉を通らず、気づかれて潰されたらしい。影分身して避けようとしたのだが、その大きな拳でまとめて薙ぎ払われたようだった。

 

「……いや、影分身ってなんだ。クッソ見たいんだが」

 

「私たちではあいつの相手は無理よ。超有能隊長任せたわ」

 

「だから影分身って……クソッ、どっか行きやがった」

 

 大変影分身とやらが気になるのだが、流石に目の前から消えられては聞き出せない。……いや、冷静に考えると目の前から消えるっておかしくないか……?

 

 ただまぁ、そんなことを気にしている場合でもない。刃が通らなかったそうだが……何が要因かが分からない。となれば、自分の攻撃も通らない可能性がある。警戒しなければならない相手のようだった。

 

「……とりあえず、一気に突入。囲んで殺すぞ。で、何で刃が通らないのか確認する」

 

 恐らく、個性なのは間違いない。ただそれが固いだけなのか、反発するのか、無効という概念を持っているのか。それが分からなければ対処のしようがない。だからまずは、突入して自分が攻撃してみるしかなかった。

 

「3、2、1……GO!!」

 

 扉を蹴破り部屋へ飛び込む。敵は、一人。かなり大柄な、脳が剥き出しの化物のような見た目だった。その反応は鈍く、こちらを認識するのに時間がかかっているように見える。故に先制、自分に続いて突入したメンバーが個性で指先から細いレーザーを発射、敵の体を貫通させる。だが、敵に怯んだ様子は欠片もない。

 一定以下のダメージは無反応か、と判断しているとその穴が塞がっていくのを見てしまう。

 

 ―――複数個性持ちか!

 

 内心で思わず叫ぶ。恐らく、不気味なビジュアルになったのはそのための改造の影響なのだろう。ただ斬撃耐性、再生能力、また肉体的に増強系も含まれているだろう。厄介過ぎる、と思っていると攻撃を受けたからか、敵が完全にこちらを認識する。

 

『オ――――ァ――――ア――――!!!』

 

 言語化しがたい、独特な奇声。それに思わず耳を塞ぎたくなるのを堪えつつ、走り寄る。そんなこちらに対応するように振るわれる敵の腕―――しかし、乱雑なそれを増強個性のメンバーが抑え、流す。そして勢いのまま体勢が崩れた敵を煽るように吹く、残りのメンバーの個性による風。

 そこまでやって敵の姿勢が完全に崩れ、こちらに向かって倒れ込んでくる。

 

「刀剣召喚〝両手剣(トゥハンドソード)〟!!」

 

 その敵の首元に合わせるように、両手剣を召喚する。敵は体格的にかなりの重量だ。故に剣に向かって倒れ込んでくれば、自重で首を斬れる―――そして、ズシン、と腕へ振動が走る。

 だがその感触は人を斬った時とは違う。いいや、確かに首へと食い込む時の感触はあった。だがそこから斬る感触に繋がらない。見れば、両手剣は床へと食い込んだだけで敵には全く刃が通っていない。

 これは感覚的に斬撃無効の概念の個性だな、とその厄介さに思わず舌打ちしながら距離を取ろうとし、

 

「グッ―――!?」

 

 超高速で振るわれた腕に吹き飛ばされる。それはギリギリなんとか、振るわれた腕だと認識できるほどの速度であり、回避するのはあまりにも難しい一撃だった。

 壁へとぶつかり何とか止まり、口の中へとこみ上げた血を吐き捨てる。体は―――動く。単純にダメージを負っただけで、骨などはまだ生きている。自分の頑丈さに感謝しつつ、何とか立ち上がる。

 そんなこちらの下に、予想外の脅威から突撃部隊のメンバーが集まってくる。突撃部隊は、確かに戦闘能力が高い。ただそれは、技術で補っているところが大きく、ああしてスペックが突き抜けているタイプは、その上から捻り潰されるため相性が悪かった。

 どうしたものか、と距離を取っていると、敵は何を思ったのかその大きな口を突然開き、

 

あおkだあpwqおjわじゃp?

 

 ―――それは、狂気を孕んでいた。

 

 聞くだけで脳が揺さぶられるかのような気持ち悪さを覚える。どうしようもなく、視界がブレ、頭が痛い。

 

「ぐ、ァ……精神、汚染系個性……!!」

 

 随分とまぁ、とんでもない個性を積んでくれたものだ、と内心で悪態を吐くが、それを声に出す余裕はない。見れば、メンバーの一人は既に泡を吹いて失神している。他の人も、何とかギリギリ意識を保っている程度だ。

 かく言う自分だって、結構ギリギリだ。これ余裕で全滅あるぞ、とどうしようもなさに嘆いている時、そいつは現れた。

 ドォン、とぶち抜かれる天井。爆音に敵の声が止み、視線がそちらへと向けられることで個性が解除される。急激に戻った感覚に、思わずふらつきながら、何とか何かが落ちてきた場所へと視線を向ける。敵か味方か、それがまだ分からない。だから舞う砂煙のなかを見分けようとして、徐々に晴れていく煙の中からそいつは高らかに声を上げた。

 

「―――夜空より舞い降りし救世主……そう、それすなわち俺ことヤク中ッ!!」

 

「ヤク中お前!!」

 

「お前どうやって戻ってきたんだよ!?」

 

 もう台詞からキマリっぷりが分かるヤク中が、煙の中から現れたのだった。飛んでったのに何でここに、とか天井ぶち破ったのに何故無傷なのか、とか色々確認したいことがあったが今はそれより優先しなければいけないことがあった。いくらこちらの増援だろうが敵の声を聞けばまたアウトなのだから。

 

「気をつけろそいつの声は―――」

 

fおwぽあp;あflだふぉえあz!

 

 しかしその注意は、遅かった。敵のそれには指向性、というものが存在しないようで、後ろにいた自分たちにも影響が出て、再び精神が揺らぐのを理解する。二度目だからか、視界に映る景色が歪んでいくのを理解する。床は湿った触手で編まれたものに、光源はこちらを見つめる黄色い目玉へと。今はまだその程度の変化だが、これはこのままいけば間違いなく精神が崩壊する―――。

 

「―――うっせェ!!」

 

 そんな空間の中で、しかしヤク中のみは平然と活動していた。叫びと共に、何の技術もなく振るわれるテレフォンパンチ。無論、それに威力が乗ることはない……本来であれば。

 刹那、発動されるのはヤク中の個性。それはドーピングという名の、今まで摂取したクスリの分だけ威力が増すという個性。それにより、毎日クスリを摂取し続けたヤク中のパンチは、とんでもない威力をはじき出す。

 

『――――――――!?!!?』

 

「夜天に舞いな……さっきまでの俺のようにな」

 

 ヤク中の一撃によって敵が壁をぶち破り外へと飛んでいく。それを見送り、あれは斬撃耐性しかないあの敵では死んだな、と判断し、未だにフラつく体を無理矢理動かしてヤク中へと合流する。

 

「すまん、助かった……」

 

「やっべぇ、ストック使ったからクスリ……クスリが足りぬ……」

 

 そう言ってこちらの礼をスルーしながらクスリをキメ始めるヤク中に苦笑しながら、一つだけ、どうしても確認しておかなければならないことを聞いておく。

 

「なんで、お前は敵の精神汚染系の個性がきかなかったんだ?」

 

「そりゃ最初から発狂してる俺に効くわけないだろ?」

 

 あまりにも納得がいく説明に返す言葉がなかった。

 

 まぁ何はともあれ、既に目的の階は目前だったりする。そのため、失神してしまった仲間と、それを見守る仲間を一人置いて、次の階へと向かう。

 次の階はもう、回収対象がいるらしい階であり、先ほどの敵が最後の関門のようだった。そのため特に何の問題も起こることなく、次の階へと辿り着き、部屋へと入る。そこは殺風景な部屋であり、回収対象と、それの警護に数人の人間がいるだけだ。

 だからサクッと距離を詰め、首を撥ね飛ばしたりして邪魔者を処理し、回収対象につけられた目隠しと猿ぐつわを外す。

 

「―――っは、え、何、何が起きたんだ?」

 

「さぁね、私は知らないわ。でも、この拘束を外してくれた人たちが何かしたのでしょうね」

 

「た、助けか!?」

 

 日系の少年の方が無邪気に助けが来たのかと喜ぶのに対し、欧州系の方の少女は明らかに冷めた目でこちらを見ている。それは全くと言っていいほどに期待していない目であり、正確に今の状況を把握しているかのようだった。

 まぁ確かに、厳密には助けではないのだ。少年のそれはぬか喜びでしかないんだよな、と思いながら二人に向けて口を開く。

 

「つーわけでお二人さんには再度拉致られてもらいます」

 

 ―――そうして襲撃作戦は成功を収めたのだった。




脳 無 登 場。
これ、死柄木からの嫌がらせです。
先生の方にスラム街へは悪戯はいいけど喧嘩はすんなよ、と言われてしまったのでじゃあ悪戯で我慢する、と襲撃作戦のリークと脳無の一体提供をした、という裏があったり。
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