ただ、己の為に   作:天澄

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#9.Invasion

 ―――ガンギマリ爺の家に、人が集まっている。ソールともう一人の少年を誘拐した時と一緒だ。ただ一点、違う点を挙げるとすれば、その人数が前回よりも少ないことだろうか。爺の家に充分収まる、十数人程度しか今回は集まっていない。

 

 ただその十数人は、自分を含め戦闘に特化した連中で、前回前衛部隊を務めた連中もいる。その段階で、なんとなく何が行われるのかを察し、これまた久々だなぁ、と一つ溜息を吐く。

 

「……その、ここ臭いんだけど」

 

 その隣から発せられた言葉に、ああ、初めてだもんな、と納得する。見ればこちらの服の裾を掴んだソールが、明らかに顔を顰めている。言われてみれば確かに、仄かにクスリの匂いが残っているのが分かる。自分の鼻も慣れちゃって強い匂いじゃないと分かんないなぁ、と悲しくなりながら声を張り上げる。

 

「オラお姫様がこの店臭いだそうだァ!!」

 

「おっしゃ換気だ換気!」

 

「ドア開けるぞー」

 

「んじゃ個性で風おこすなー」

 

「美味しいおクスリの空気がァーーー!!」

 

「あれ、この窓立て付け悪……あっ」

 

「どうし……あっ」

 

 こちらの声に全員が反応を示し、総出で換気が行われる。開けられる場所は全て開け、そして風の個性持ちが空気の入れ替えを行う。なんかガシャン、だとかヤク中が騒ぐ声が聞こえてくるが気にはしない。どうせガンギマリ爺の家だし、壊したの自分じゃないから請求が来ることもないのだし。

 

 その上でソールにもう大丈夫か確認すれば、明らかにえぇ……みたいな顔をしながらも一応大丈夫、という返事が返ってくる。ならいいだろう、と一部の惨状をスルーしつつ、今回こちらのことを集めた人物へと視線を向ける。

 視線の先にいるのはガンギマリ爺ではなく、普段は街の警邏や、その周辺の街で情報収集を担当している男になる。すなわち、今回集められた理由は仕事ではなく、街の警備に関わる話になってくる。

 

「んじゃまぁ、馬鹿が何人かいるけど、馬鹿やってるままでいいから聞いてくれ」

 

 その言葉に自分以外の視線も警邏担当の男に集まり、そしてまたガシャン、と何かが落ちる音が響く。どうやら意識が逸れた瞬間にまたやらかしたらしい。それを知ったこっちゃないと言わんばかりに、警邏担当の男は話を続ける。

 

「俺がこのメンバーを集めた段階で察してると思うけど、もうすぐ敵襲があるぞ」

 

 その言葉にああ、やっぱりな、と納得する。この街はその性質上、それなりに敵を作っている。いくら中立、と言ってもどこかの組織には被害を出しているのだから、恨まれるのは必然。またやってることは結局ヴィランと変わりはしないのでヒーローがやってくることだってある。まぁこの街は政府に黙認されているだけあって、やってくるヒーローは大体独断専行なのだが。

 

 最近は、あまり襲撃はなかったのだが、と思いつつ、更なる情報を求めて警邏担当の男の言葉を待つ。流石に、ヴィランなのかヒーローなのかといった情報は欲しいところではある。

 

「隣町の方に来てたのを確認したところ、相手はヴィジランテが一人。非公認のだから情報はほぼほぼなし」

 

 それはまた珍しいのが来たもんだ、と呆れる。ヴィジランテとは資格なしに、無許可でヴィランや小悪党などを取り締まっている連中のことを指す。まぁようするに、自称ヒーロー、ということだ。こちらと同じ無法者に該当する。

 ただこのヴィジランテという連中、自分たちからすると結構面倒な存在で、非公式であるために政府が見逃しているこの街にも躊躇いもなく手を出してくるのだ。

 

 まぁヴィジランテからすれば悪を放置できるか、という話なのだろうが、こちらとしてはちょいちょい手を出されて面倒で仕方がない。そのため過去、あえて情報を流し、ヴィジランテを一掃したこともあるのだが……まぁまたある程度のヴィジランテが生まれてきている、ということなのだろう。

 

「一応情報班に過去の事件とか洗ってみてもらったけど……個性とかが分かるのはなかったな」

 

「ってーことは囲んで先制して封殺かね?」

 

 誰かが零した言葉にしばし、考える。選択肢としては間違っていない。敵の能力が分からないなら、その力を発揮される前に潰すのは基本だ。だから正しい対処だとは自分も思うのだが……。

 

 チラリ、と隣のソールを見る。彼女は、今回が初の実戦だ。すでに彼女がこの街に来てから半年近い。だから仕上がり具合的にもそろそろ、実戦を経験させておきたいところではあるのだ。ただ封殺するとなると、他との連携の経験がないソールを実戦に出す余裕はない。

 ただ無論、ソールの経験のためにどんな個性かも分からないやつに個性を使わせるなんて、そんな大きなリスクを背負うのもできはしない。ならば、と考えて折衷案を出すことにする。

 

「そしたら頼みがあるんだけど、こいつに封殺の仕方教えたいから、分かりやすい形でやれるか?」

 

「あー、そうな、連携は早いうちに叩き込んどきたいよなぁ……」

 

「おーけーおーけー、見て覚えろ、というやつだな?任せとけ」

 

「ついでにおクスリの楽しさも教えてあげるぞう!」

 

「基本ワンマンプレイの人間は黙って」

 

 いつかは前線メンバーに加わることになるソールが連携を学ぶことは、他の連中にとっても重要なことになってくる。だからこうしてあっさりとこちらの提案は受け入れられ、方針が定められる。すなわち、

 

「分かりやすい動きで、敵を封殺する」

 

「縛りプレイだよやったね!」

 

 まぁ縛りプレイ、と言えば縛りプレイではあるのだろう。とは言っても、やることがそう変わるわけではないので、難しい話でもないのだが。だから少し、つまらないとは思う。敵が一人で封殺する、となればすぐに済んでしまうだろう。かといって、放置できる問題でもないので、手早く終わらせてそのあと遊ぶのが一番有意義だろうか。

 そんな考えはこの作戦に参加する人ほとんどに共通なようで、誰もが興醒めだ、と言わんばかりの顔をしている。

 

 だからだろうか。一人の男が名案を思いついた、と呟いた瞬間、誰もがそれに反応してしまった。そして頭の悪いその提案を許してしまった。

 

「折角だから、世紀末スタイルで遊ばねぇ?」

 

 

 

 

 封殺する、と言っても実際はそう難しいわけではない。やることはシンプルだったりする。

 

 例えば、理想系で言えば一撃で殺すことだ。自分がよくやる心臓を一突きで殺すのは、相手の反撃を許さないためである。

 ただ、個性というものがある現代、一撃で殺すのは意外と難しい。増強系は単純に心臓周りを強化すれば済むし、硬化の個性で防ぐことだってできる。

 

 もちろん、知覚される前にやってしまえば問題はない。だが、今回の相手は実力不明であり、気配察知に長けている可能性だってある。そう考えると不用意に暗殺を狙うのも怖い。実際、過去にナルリという例もある。

 自分一人であれば、暗殺を狙ったが、人手があるのであれば、より安全な手法を選びたい。

 となれば必然、個性を発動できないようにして殺すことが要求されてくる。

 

 そんなことをバイクに乗って、モヒカンに肩パッド装備の由緒正しき世紀末スタイルで考える。無論、周りの連中も同じ格好である。流石にソールには断られたが。

 

「……正気?」

 

「こんなこと素面でできるかよォ!!」

 

 流石に酒は飲んでいる訳ではないが。ただやっぱり、ソールが言う通り正気でできることではない。

 だから今自分は、適度に脳を蕩かしている。コツは適度に阿呆になることだ。基本的に考えてはいけない。面白そう、とかその程度だけでいいのだ。

 

 もちろん、かなりバカなことをしている自覚はあった。

 

 けれどそれが楽しいのだ。状況的には、ワンチャン街ごと摘発されてもおかしくないのだが、だからって一々真面目にやるのもバカらしくない、という話だ。

 

「いいか、ソール。この街には基本的にバカしかいない」

 

「はぁ」

 

「お前もこの街で生きていくならバカにならないといけないぞ」

 

「嫌だけど」

 

「えっ」

 

「え……?」

 

「嘘だろ……?」

 

「むしろ何でそんな信じられないって顔ができるの?」

 

「そりゃまぁ……ノリと?」

 

「勢いで?」

 

「だいたい何となくだよね!!」

 

 いぇーい、と皆でサムズアップを交わす。それにソールは呆れから溜息を吐くが、前衛の連中はだいたいこんななので諦めて欲しい。

 

 ちなみにもちろん、自分以外の連中もソール以外世紀末スタイルでこの場にいる。自分なんかは流石にウィッグだが、中にはガチで剃って髪型をモヒカンにしているやつもいる。肩パッドについては自分が召喚で用意した。

 

 なお、バイクを運転できる人は一人もいない模様。

 

「さて、敵さんはこっちから来るってことでいいんだな?」

 

『ああ、今姿を確認した。お前たちの待機地点にはあと少し、ってところだな』

 

 インカムから聞こえてきた偵察班の男からの情報を、周囲の連中にも伝える。インカムなんかは世紀末スタイルにそぐわないものだが、流石にここらへんなしなのは難しいところがある。妥協点として、自分のみがそれを付けていた。

 

 自分が全員にまもなく敵が来ることを伝えたことで、戦闘態勢へと移行する。と、言っても皆気楽なもので、準備運動を行う程度であるが。今更この程度で気負うことはない、という話だ。

 ソールに関しては今回観戦になるため、バイクと共に待っていてもらうことになる。バイクは完全にお飾りだった。

 

 今回集まったメンバーから一人、少しだけ前に出る。彼が開幕を担当するためだ。先制するにあたって彼の個性は重要だった。

 

 そうして準備を整え終えた時。こちらへと向かってくる人影が見えてくる。

 上裸の、体格がいい、獣染みた顔と髪型が特徴的な男だ。個性はある程度、見た目や性格に影響を及ぼしてくる───恐らく、直接的な攻撃の個性だろう、と判断する。それでも一応、見た目がフェイントの可能性を考慮しておくのを忘れないでおく。

 

「む、お前らは───」

 

封殺術その一ィ!視界を奪う!!(ヒャッハーーー!!!)

 

 ヴィジランテが何かを喋ろうとしたのに被せるように、開幕担当が動く。

 その動作は至ってシンプル。前に出て、言葉と共にその個性を発動する。

 

 すなわち、発光。

 

 彼の個性で放てる最大の光量で、光が発せられる。それが放たれることを予め知っていた自分たちは無論、それ相応の対策をしてある。しかし、喋っている途中にいきなりそれをくらったヴィジランテは。

 

「ぐ、オオオオォォォォ!?」

 

 正面からまともにその光を見てしまう。下手をすれば視力を失う可能性もある程の光量だ、これでしばらくは、まともに周囲が見えないだろう。

 

「貴様らァ!不意打ちとは───」

 

封殺術その二!集中力を奪う!!(ヒャァッハ!!)

 

 続いて飛び出した仲間が、周りが見えず、対応できないヴィジランテの口と鼻に触れる。そして発動する個性は、接着。

 個性の使い手が解除するまで触れたものを接着し続けるそれは今、ヴィジランテの口と鼻に対し発動された。つまりヴィジランテは呼吸を封じられたのだ。

 

 確かに、視界を奪った段階である程度、相手の行動を制限することはできた。しかし、周辺範囲への攻撃の個性を相手が持っていた場合、反撃を受ける可能性がある。

 だからそれを封じるために呼吸を封じた。

 個性を制御するには、当然ある程度の集中力が要求される。戦闘中に呼吸ができなくなってしまえば、当然個性発動に集中などできなくなる。そうなれば、もはや敵には個性を暴発覚悟で発動させるしかなくなってくる。

 

 とは言っても、暴発覚悟で、あるいは自らの肉体を武器として。そう言った形で反撃が行われる可能性は充分存在する。

 故に、完璧ではないにしても、更にヴィジランテの行動を制限するために動く。

 

封殺術その三!動きを封じる!(ヒャッホウ!!)

 

ヒャッホウは世紀末語録的にセーフ?(ヒャッハーーー!!)

 

ギルティ(ヒャハッ!!)

 

 そもそも世紀末語録の定義が曖昧なので、ノリだけで有罪判決が下されつつ、四人の仲間がヴィジランテへ接近する。各々の手にはナイフなどといった、切ることのできる道具が握られている。

 そして間合いに入った瞬間、それぞれの得物が振るわれ───ヴィジランテの手足の腱が断ち切られる。結果、ヴィジランテの動くことができなくなる。

 

 傍から見れば、嬲り殺しにしているようにしか見えないだろう。だが、自分たちだって死にたくはない。例え残酷であっても、安全な手法を選ぶ理由があった。

 

 こうなればもう、ヴィジランテは酸欠で死ぬだろう。近づけば暴発覚悟の個性をくらう可能性も未だあるため、きっとこのまま酸欠で死ぬのを待つのが正解なのだろう。

 ただ流石に、というかいくら安全面を考慮するにしたって、このまま放置できるほど、自分たちは鬼ではない。故に、ここで自分の仕事になる。

 

「―――刀剣召喚〝重大剣(ツヴァイヘンダー)〟」

 

 重さを重視した幅広の大剣が、身動きの取れないヴィジランテの上に生成される。そしてそれは重力に引かれ―――ヴィジランテの肉体を、上下へと斬り分けた。

 

 ふぅ、と息を吐く。流石に両断してしまえば、ヴィジランテももはや生きてはいないだろう。蘇生系の個性もあるにはあるが……過度な警戒は精神の損耗を招く。

 だから警戒を最低ラインまで落とし、死体が完全に沈黙を保つことを確認する。

 

「汚物は消毒だ、っと」

 

 そしてそんな言葉と共に、発火の個性持ちによってヴィジランテの死体が燃やされていく。

 

 自分たちにそんな権利があるのか、とかそういう話は置いておいて。余裕があるのならこうして、火葬なりなんなりで殺した相手を弔うのが、この街の流儀だった。

 

「しかし最後ソーヤ普通に喋ったよな?」

 

「ああ、世紀末語録じゃなかったな」

 

「これは余りにもギルティ」

 

「やっべ、忘れてた」

 

 火葬が行われる最中も、全員がいつも通りのノリで会話をする。その中で、自分には罰が下されることが決まったが……流石に、今回は自分の落ち度だ。大人しく罰を受けることにする。

 

 そんなことを考えていれば、ヴィジランテの死体も燃やし終わり、骨と灰のみとなる。

 各々骨を拾い上げ、灰は風の個性持ちが集めて、箱へとしまう。そうして完全に帰る準備が整う。

 

「おっし、んじゃ撤収なー。ソールも、帰りながら今回の戦いについて―――」

 

 ソールの方へ振り返りながらそこまで言葉を発し、気づく。

 自分たちを見るソールの目。そこに込められた感情が、今までとは違う。

 

 今までは呆れながらも、少しではあるが親しみを感じられるものだった。だけど今、この瞬間向けられているのは、それとは全く違った。

 

 ―――恐怖、疑念……そう言ったマイナスの感情。

 

 そんなものが込められた視線は……そう、間違いなく、得体の知れないものを見るものだった。

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