新しい戦いを始めましょう!
まぁ、まずはワイワイしてから……。
第七十話 嗚呼、喧騒なる日常よ
――2023年 4月10日 大阪 第三EDF軍病院――
京都を戦場としたアイアンウォール作戦の終結から一週間と少し。
二、三日前に意識を取り戻した私は、検査や治療が落ち着いた後、初めて見舞いを許可された。
そんな私こと仙崎誠は、現在五人の美女(?)にベッドを囲まれていた。
ハキハキと、活発かつ困惑と怒気を含んだ声が、訳も分からぬ私をキャンキャンと責め立てる。
「アンタちょっとこれどういうことか説明しなさいよ!! ずっと会えなかったから尋ねてみれば女に囲まれてまーいちゃいちゃしちゃって! しかもこんな小っちゃい子まで!! どういうつもり!!」
大変お冠なこの女性は、ご存じ泣く子も黙るじゃじゃ馬娘、瀬川葵。
怒っていても大変美しい、とか考えている場合ではない。
一応私は病人で、今はベッドに横たわり治癒剤中毒の治療と点滴を受けている。
戦場で重傷を負った際に使用する治癒剤は、軽度の薬物中毒を引き起こすのだ。
そんな私を間に挟んで、ゆったりとしたマイペースさを感じさせる、年相応の甘く舌足らずな声が瀬川を宥める。
「まーそうカッカしないのお姉さん。誠さんしばらく意識なくて大変だったんだから。ねー香織さん?」
「まっ、まこっ……、さ!?!? アンタこんな子にまで名前呼びさせてるなんて……!」
どっちが年上か分からない対応を取るのは、横浜で救助した以来知り合った村井茉奈。
子供故に何の気なく下の名前で呼ばせていたが、と言うか噛んじゃうとか言ってたので気にしていなかったが、いかん、瀬川がショックを受けておる!!
流水や秋風の如く、透き通るような声が医療機器の前で慌てて頭を下げる。
「ああっ、ごめんなさい! この子色々はっきり言う子で、悪気は無くて……。ちょっと変わった子なんです……!」
おろおろする大変麗しい女性は、この病院の看護師である、新垣香織さんだ。
名札を見て合点がいっていた、この方が新垣巌の姉であり、水原が恋する相手だろう。
少し離れた椅子の上。
聡明な科学者としての凛とした力強さの中に、軽妙な力の抜き加減を絶妙に混ぜ込んだ、そんな鉛の如く低い声が煙を吐き出す。
「……ふーっ、やれやれ。大物狩りに使った銃器の生の声と、ついでに礼でもと思ったんだがね。英雄様は人望があるようさね」
「ここ、病院ですよ! 病院は禁煙! 天才科学者様もルールに従ってくださいね」
「……まだ吸い始めなんだが」
よれよれの白衣を着たくたびれた天才科学者こと茨城尚美は、火を点けたばかりの煙草を香織さんに取られ、珍しく顔を顰めて不満を表明している。
底抜けに明るく、桜とはまた違った人懐っこさを感じさせる、独特の間延びした関西弁の声が、聞いていない話の続きを語り出す。
「そんでなー、ウチの
「何の話!? 誰も聞いてないんだけど!? せめて要点を絞って話なさいよ!!」
「オチまだやねん!! いま、あー、思い出すから待っとって!!」
「待たない!!」
壊滅的な話の組み立てを瀬川につっこまれているのは、京都戦でブルート救援に向かった際に共に戦った、
確かγ型の針によって左脚大腿部から先を失っていたはずだが、恐らく生体義肢だろう、傍目には元気なように見えた。
「そうそう! 目ぇが覚めたら雨宮んやつな! 今2024年だよ。とか言って、日向ガチでビビってんの! あれは思い出してもアッハッハーって誰も聞いとらーーん!?!?」
「セルフつっこみお疲れ様。で、あなたはどうして誠さんの事名前で呼ばないの? 呼びたいんでしょ? 意外と恥ずかしがり屋さんなのね」
「このガキ……! 大人の苦労も知らないで大人ぶってんじゃないわよ!! ムキャー!!」
「ふーっ、やれやれ、動物園かいここは。さて、このへんに喫煙所でも建てようかね。あのベット使っていないんだろ? 解体していいかい?」
「逞し過ぎです!! 良い訳ないです!! 没収です!!」
「ぬぁーーーーー!! 喧しいわぁーーーー!! 文字通り女三人寄れば姦しいとかいうレベルではぬぁーーーーいっ!!」
堪忍袋の緒が切れた私は不満をぶちまけ、五人の女どもはあまりの剣幕に動きを止めるが、
「やっほーー! 暇だから尋ねに来たよーー! まっことん!」
「失礼しますっ! あ、えーっと、朱火……じゃなかった。ふ、藤野がこっちにお邪魔してたって聞いて来たんですけど!」
「仙崎伍長、先日は本当に世話になった。見舞いに来たぞ。ゆっくり礼でもと思ったが君……随分と人気者だな?」
「ここが仙崎って奴の部屋かい? おーいたいた、部下の石田が世話になったって聞いてねぇ! 見舞いにピッタリのヤツを持ってきたよ!」
「よ、様子見に来てやったわよ! って、騒がし過ぎないここ? つ、疲れそうだから私帰る……」
「まァ居ろって面白そうだから! よぉ仙崎ぃ! アタシが死んでる間大活躍だったらしいな! 話聞かせろよ! この英雄野郎!」
これはまたぞろぞろと!!
えぇと、入ってきた順に脳を整理していこう……。
侵入者第一号、元気の塊みたいなノリで入ってきたのは我らがレンジャー2-1分隊員、結城桜。
「ってなんかいっぱいいるー! ねーねーまことん! 開発部の量産お蔵入り兵器、サッカーグレネード使ったって聞いたよ! どう使用感どう!? あの脳筋な武骨さと各所に滲み出るロマンが堪んないのよねぇ~~!!」
うおっ、久々にミリタリーオタクの変態さ出してきたな!!
そこまで細かく見ておらん!!
侵入者第二号、ハキハキと礼儀正しくも、大声を出した彼女は恐らく藤野の所の小隊員、日向葉香少尉であろう。
「もー朱火! まだそんな勝手に動き回っちゃダメでしょ! いくら治るのが早くたって……ああああ仙崎さん! あの、藤野が勝手に押し掛けてすみませんでした! 仙崎さ、いやえーと伍長! ……えっ伍長!? 凄い兵士って聞いてたのに凄い下の階級!!!」
ぱたぱたと慌ただしく動き、掛けてあった軍服の階級章を見て何やらショックで白目を剥いている。
気のせいかデフォルメされていないか?
侵入者第三号、長身でクールかつ活発的な印象を受ける彼女は、コンバットフレーム”ホーク隊”隊長の本條薫大尉だ。
「さすがの人望だな伍長。あれだけの事をしたんだ、当然と言えば当然だが、まさか全員が女性とはな。ところで富山大尉、その袋、日本酒だろ? 堂々と酒を持ち込むとはな……。というより……貴様、飲んでるな?」
若干呆れの混ざった一応尊敬と感謝の眼差しを受け取った後、隣の女性をにやりと見る。
侵入者第四号、面と向かって会うのは初見だが、有名なので知っている。
筋肉質で小麦色の肌、赤みがかった癖毛の茶髪を背中まで伸ばす姉御肌の彼女は、EDF陸軍ヘリ部隊のエース、”サイクロン中隊”の隊長、
石田中尉は演習場で拾ってキャリバンの中で行動を共にしたからな、その礼か。
「ナッハッハ、よっく分かったねぇ~。心配しなさんな、まだ軽く一杯引っかけただよ。本番はこれからさ! 人数もいるし、個室だしちょうどいいね!! パーっとやろうじゃないか!!」
見舞い品の大袋の中から出てきたのは、”雪見桜”と書かれた一升瓶!!
まさかこんなところで大宴会を始める気か!?
侵入者第五号、我らが小隊員、細海早織だ。
生きて帰ると約束を交わしたからな、見舞いに来てくれるのも納得できる。
とはいえ、失った腕を生体義肢で補っており、まだ三角巾は取れていない。
「クッサ! 酒くっさ! い、一杯引っかけたなんて嘘よ嘘! 病室で酒盛りしようなんて正気じゃないわ! 私やっぱかえ――ぐえ!」
が、なんていうかもはや色々と見舞いどころではない。
病人を囲んで酒盛りしようとする始末。
細海よ、来てくれてなんだが帰った方が良いぞ。
ただし隣人がそれを許さない。
侵入者第六号、同じく小隊員、鈴城涼子軍曹。
「帰るなんてツレねぇ事言うなよ! せっかくの仙崎の退院祝いなんだろ? えっ、まだ退院じゃない? まーまー細けぇ事ぁ良いんだよ! 富山大尉ぃ! 話には聞いてましたがイケる口みたいで!! ジャンジャン
「パ、パワハラブラック軍隊……! 辞めたい……」
細海が首根っこ掴まれて引っ張られてゆく。
鈴城軍曹はあれだ、ただの賑やかしというか冷やかしというか、とにかくなんか面白そうなので来た、くらいの感じだろう。
とはいえこの人は、こう見えて鷲田少尉ほど本能で動かない。
まあ、意図的な息抜きだろう。
「いけませぇーーん! お酒も煙草も没収です!」
「!? 酒が消えたぞ!?」
「ふーっ、諦めるんだね。ワタシもその早業で煙草を掠め取られた訳さね。凄腕盗っ人だよ。犯罪者さね」
「た、煙草一本の恨みが凄いわね……」
「シュバッ! って感じね。私もその早業マスターすればアイツにチョップの一発でも叩き込めるかしら」
「なんでやねんっ! 看護師の特技をよりにもよって
「……掠め取る早業は看護師の特技って言っていいのかな? 朱火もマスターしたら美船中尉に勝てるかもね!」
「無理やねん! 修行鬼辛そう!」
「いや実際、凄腕のマーシャルアーツも仙崎の野郎には効かないからなァ。全部避けるぜアイツ。ホントやりにくくて嫌いなんだよなぁ。鉄拳制裁」
「ハハハ、伍長の動きを全身で感じた身としては、まったく同意する。いや彼は本当に凄く激しかった……! 心臓の高鳴りが止まらなかったのは久々だ」
「えっ、はぁっ?? ……ちょっと待って、えっ? アンタと仙崎、そういう関係……!?!? アンタ、ヤッちゃったの??」
「あーあ、これは厄介な勘違いをしちゃったねー。クールなお姉さん、もしかしてわざと?」
「ん? 何のことだ?」
「あっ、ちょっと天然なんだ……」
「ねーねーまことんなんで固まってんのぉー! 武器の話してよーー! しーーてーーよーー!」
「キミ、結城博士のご子息だろう? 開発部で何度か見たことがあるさね。武器に興味が?」
「ぬわーーーーー! 開発部のトップ、茨城博士じゃんーーー! 感激! いつから居たんですか!!」
「いや……キミより最初に居たんだが……」
「じゃあ茨城博士もまことんの話聞きたいですよね!! 一緒に揺すりましょー!」
「ふーっ、激しい動きは無理さね。キミに任せるよ」
「ねえまことんーーー!」
「仙崎ちょっと!! 他の娘名前で呼ばせるわ女ばっか呼ぶわあのクールぶってる女とセッ……、なんか激しい運動してたんでしょ!! 答えなさいよコノーー!!」
女三人寄ればのレベルではないと先ほど言ったが……一体何人だ?
えー、瀬川、茉奈、香織さん、茨城少佐、藤野少尉に加え、桜、日向少尉、本條大尉、富山大尉、細海、鈴城軍曹……なんと11人!!
「煩ァァァーーーーーいッ!! 貴様ら!! お見舞いに来たとか抜かしていたくせに私を労わる気ゼロか!! ひとまずミリオタ女と勘違い間抜け暴走理性蒸発女は黙れぇぇーーーい!!」
「へぇーーーい」
「なっ、勘違い間抜け……何て?」
桜は不満そうに、瀬川は本当に間抜けそうに黙る。
「そこのモク中と酒カスも黙らっしゃい!! 大人なんだからちょっとは我慢せい!! 貴様らのせいで香織さんが防戦一方ではないかっ!!」
「ふーっ。……大人だから我慢できないのさね。ああ、脳細胞が死んでいく……」
「まったくだ。まあ茶番はこのくらいにして、そろそろ主導権渡してやろうかねぇ」
この大人二人はホントに……。
特に富山大尉、貴様、私初対面だがイメージ大暴落してるが大丈夫か?
まさか飲酒運転であのバゼラートを操っている訳ではあるまいな??
「……”香織”、さん?」
ま、まずい。瀬川が爆発寸前だ。
ひとまず彼女の誤解を解かなければ!!
――――
「……なるほど。そこの小っちゃい娘は横浜で前助けてて、発音しにくいから誠さんと呼ぶようになった。桜に関しては前も聞いたけど結城大尉と被るから。で、”香織さん”も、新垣って人と被るから下の名前で呼ぶ、と。さん付けなのは年上だから。で、本條大尉とは背中に背負って戦っただけでセッ……激しい運動ではない……。なるほどなるほど……。紛らわしいのよアンタは!!」
キレながら、まぁなんとか理解はしてくれたようだ……。
まったく骨が折れる。
ちなみに茨城少佐と富山大尉は帰った。
何しに来たんだあの二人……。
唯一シリアスだった、去り際の言葉を思い出す。
「ま、今は立て込んでるし、また機会を改めるさね。……戦略級巨大外来生物βの討伐、ご苦労だった。あの場にいた一人の人間として、改めて感謝と敬意を表明するさね。後で開発部を訪ねるといい。君の好みに合った武器を開発しよう」
「さてと、石田の命の恩人の顔も拝んだし、帰るとすっかね。ま、顔付きと言動見れば、だいたい噂が嘘じゃない事は分かるさ。戦場で困ったときはサイクロン隊を呼びな。多少命令を無視しても、アンタの元には駆け付けよう。だってアンタ、そこの茨城が見込んだ英雄ってヤツだからねぇ。うっかり簡単に死なれちゃ困るだろう? 上も分かってくれるさ。じゃあ、次は戦場で!」
二人は各々そう言い残して去って至った。
なんと言うか、才能あるものはネジが飛ぶものなのだろうなぁと改めて思い知らされた。
ちなみに両足を骨折していた石田少尉も元気らしく、今はリハビリ中かつ治癒剤の透析中とのことだ。
また、藤野と日向の二人も去っていった。
「ホンマあんときはおおきになぁあんちゃん!」
「私からも! 藤野の事、ありがとうございます!」
「ぬぁははは! 何、EDFは仲間を見捨てない、という奴だ。しかし、無事でよかったぞ藤野少尉。片足が捥げていたが、義肢接続は上手くいったのか?」
「そりゃあもうバチコーン決まったで!! なんやお医者サンもビビるようなエラい相性良かったみたいで、数日たったらもうコレや!! 最近の疑似生体はホンマ大したモンやわぁ~~」
「そうはいっても、まだ病み上がりなんだから、無理は駄目だよ朱火。飛んだり跳ねたりしないの」
「そりゃあわぁっとるんやけどなぁ葉香ぁ、いやぁマジで脚ちょん切れたと思ったから嬉しゅうてなぁ!」
「まぁ、病み上がりが最も体調を崩しやすい。こんなところに来るのではなく、以後は大人しくする事だな」
「へいへい分かってますってぇ~」
「じゃあ、仙崎さん! 今日の所はこの辺で失礼します!」
「おおきになぁ~あんちゃん! また戦場で合ったらよろしゅうなぁ~~!」
「応とも! ではな!!」
二人とも大変善い子だった。
歳は恐らく私と近いか少し下くらいだろう。
日向少尉は真面目で一生懸命、藤野少尉は陽気で瀬川程ネジが飛んでおらず、大変話しやすかった。
またきっと、戦場で合う事もあるだろう。
「なんか今失礼な事考えてなかった?」
瀬川、鋭い!
「いや、特に何も」
お次は、本條大尉が席を立った。
「じゃあ、私ももう行くよ。人が多い時に邪魔して悪かったな、仙崎伍長。改めて礼を。貴様がいなければ、あの窮地から脱出する事は出来なかった」
本條大尉と出会ったのは、アイアンウォール作戦の最中、ブルート救援の終わりに、海軍の急な面制圧砲撃から脱出する所だった。
その意図するところは、擱座した重戦車タイタンを救う為だったが、我々は窮地に立たされた。
「いいえ、先に助けられたのは我々の方でした。あの時ホーク隊が援護してくれなければ、貴方の機体に掴まる事が出来なければ、今頃木っ端微塵になっていたやも知れませぬ。こちらこそ、改めて感謝を。ありがとうございます」
深々と私は頭を下げる。
砲撃の直撃を受けなかったのは、紛れもなく大尉のおかげだ。
「私も咄嗟だっただけさ。じゃあお互い様という事にしておくか。ただ、あの時の貴様の機転と状況の分析力、自身の体の使い方と、上官をも使う判断力やカリスマ。貴様は間違いなく、将来のEDFを率いる兵士の器だ。つまらない死に方をするなよ?」
私の肩にポンと手を置いて去る。
やれやれ、変な期待を持たれたものだ。
むろん死ぬ気は無いし、全力を尽くすが、何もそこまで大それた存在になるつもりは毛頭ない。
彼女が出て行くと同時、香織さんが体の状態を分析する医療機器から離れ、私に紙を提出する。
「こほん。容体は安定していますね。松田先生の診察通り、このままいけば三日後には退院できると思います」
渡された紙には、私の体の状態の数値や推移が掛かれたカルテの様な情報が書かれていた。
正直門外漢の為良くわからんが。
「まだ三日もかかるのか……。点滴などしなくとも、もう体は動くが?」
「駄目です。突然戦場で倒れたりしたらどうするんですか? 仙崎さん、弟と同じ部隊なんでしょう? そこの鈴城さんと細海さんも」
弟――新垣巌の言葉が出ると、まだ自然と体が固くなる。
「今回の戦いで、もう一人仲間が亡くなられたとも聞いています。……どうか、体を、命を大事にしてください。皆が精いっぱい頑張った結果だという事は分かっています。それでも」
その通りだ。
戦争なんだ、しかも地球を護る為の。
犠牲が出るのは仕方がない。
新垣も葛木も、最善の結果をきっと残したのだろう。
「そこまで言われたら、仕方がない。大人しく入院生活を謳歌しよう」
狙っていったわけではなかろうが、これで動こうものなら人の心が無さ過ぎるだろう。
いや、鷲田少尉なら関係ねぇとか言いそうだが。
鈴城軍曹が手をひらひらさせながら軽い口調で流す。
「まぁ、そこまで深刻に考えんなよ、仙崎も。あと、言ってなかったと思うけどよ、アタシら第三師団全員、戦争当初からほぼずっと碌な休暇無しに最前線詰めっぱだったから、今休暇貰ってんだよ。一、二週間ぐれーだけど」
「なんと、そうなのですか! 初耳ですが」
「そりゃそーでしょアンタ、しばらくずっと意識なかったんだから」
瀬川が律儀につっこむ。
「言われてみればそうか。では、皆しばらく大阪の方で過ごすのか?」
では退院したら、瀬川と二人で散策でもするか。
そう思ったが、細海がまごつきながら口を開く。
「い、いや。そうしたいのは山々だったんだけど、一応予備部隊として三重県鈴鹿市の方まで移動なんだって。ちょうど、明日からよ」
「なんと。私は乗り遅れる訳か」
ショック。
積もる話も合ったのだが、ぜんぜん瀬川とゆっくり話せないではないか!!
そして当の瀬川は、あんまり気にして無さそうな!
「そーなるわね。ウチの中隊ももう殆ど鈴鹿の方まで移動してて、残ってんのはアタシと玲香だけ。そっちはどう?」
瀬川が鈴城軍曹に話を振る。
何度か戦場で会ったせいか、はたまた私が眠っているうちに会話を交わしたか、随分打ち解けておるな。
「んー、アタシらんとこも殆ど。今残ってるのは、中隊長の結城大尉くらいで、副官の國本中尉も小隊長の大林中尉ももう向こうに行ってるよ。ああ、浦田のバカだけはまだ病院に残ってっけど、アタシらと一緒のタイミングで鈴鹿へ行く予定だぜ。ってことは仙崎おめぇ、ボッチだな!」
けらけらと馬鹿にしながら笑う。
悪意が無いのが少々腹が立つ。
「ぬぅ、さいですか……。して、戦況の方はいかに?」
これ以上話しても馬鹿にされそうなので、話題を切り替える。
これも重要な話だ。
「前線は今、どの辺りで? アイアンウォール作戦成果はいかに?」
「まぁー落ち着けって。そんなにガッつかなくても、もう結城大尉が……」
鈴城軍曹がなだめていると、直ぐに病室の扉が開く。
「やあ、仙崎君、元気かな?」
我らが中隊長、結城実大尉だ。
相変わらず柔らかい声と爽やかな笑顔を向けてくる。
「はっ! 結城大尉ッ!」
ベッドに居ようと、しっかり角度のついた敬礼を行う。
激しい戦闘と気絶からの睡眠があったためか、きちんと敬礼をするのは随分久しぶりに思えたが、さすが私。
非の打ち所がない完璧な敬礼だ。
横になっている不届きを見逃せば。
「うん、元気そうだね。みんなもお揃いで。邪魔しちゃったかな?」
我が小隊のメンバーの他に看護師と民間人の少女も混ざっているが、別段気にしていないようだ。
「わーー! お兄ぃーーーっ!! 会いたかったよぉーーーっ!!」
そんな落ち着いた雰囲気は一変。
桜が、目を><にし、兄上である結城大尉に飛びついた!
そう言えば、二人の絡みを見たこと無かったが、ブラコンだったのか桜よ!?