――2023年 4月10日 大阪 第三EDF軍病院――
「お兄ぃーーーー! ひっさしぶりぃーーーー! ――はっ!!?」
結城大尉に抱き着いてはしゃぎ回る結城桜は、突然我を取り戻し、硬直する。
「ち、違うから!! いつもはこんなんじゃないから!! ちょっと久しぶりだったからテンション上がっただけだから!!」
「何も言ってないわよ!?」
顔を真っ赤にして手をブンブン振る桜に対し、瀬川がツッコミを入れる。
無邪気とは思っていたが、その様子だと恥ずかしいとは思うようだな。
「やあ桜。いつも通りで安心したよ」
「うわぁーーいつも通りって言うなばかお兄ぃーーー!! 帰る!!」
兄上である結城実どのの追い打ちに堪らず、桜は逃げ出そうとするが。
「まぁ待てって! ひっさしぶりに会えたんだろ? ゆっくり顔見てけよ。そういやぁ、作戦前に話してるのを見た気がするけどなぁ?」
悪い笑顔をした鈴木軍曹に首根っこを掴まれる。
あの人、人をいじるの大好きだからな……。
まあ、もっと弱みを握られてはいけない二ノ宮軍曹がいなくて良かったなぁ。
いや後で筒抜けだとは思うが。
「ぐえっ! 作戦前は”兵士”として話してただけなんですよぉ。……ガサツなのに細かい所まで見られてたか……」
小声の恨み言は、しっかり鈴城軍曹に聞かれていた。
「なんだぁ? 走り込みしたいならそう言えよ。しばらく休暇だしちょうどいいじゃねーか」
「休暇の意味……」
恨めしそうに鈴城軍曹を見る桜だったが、本人はどこ吹く風だ。
「別に、恥ずかしがるようなことじゃないでしょう。兄妹に甘えられるのは良い事よ?」
「そうそう。居なくなっちゃったら抱きつくことも出来ないもんねー」
共に兄妹や家族を失った者たちからの一言と、柔らかい笑顔が向けられる。
「ぐっ、茶化したいのに微妙に茶化せない雰囲気……! ま、まぁ、このぐらい普通よね……?」
「わ、私も上に兄がいるけどとてもこんな事出来ないわね……。せいぜい中学生ぐらいまでじゃない? 普通」
「ぐはぁーー!!」
シリアスな二人の雰囲気で収まるかと思ったが、細海の小声の毒が桜に止めを刺し、倒れる。
「あっはっは。まあまあ皆その辺で」
倒れる桜を兄上殿が華麗に受け止める。
半分冗談とはいえ、妹をからかった事に腹は立てていない様子。
よかった……温厚な結城大尉の琴線が妹である可能性は高い。
しかし、大尉は一応我らが中隊長なのだ。
次の戦場、いきなり死地に突撃させられたりしないだろうか。
「桜は昔から少し甘えん坊でね。そんなところも可愛くてついつい僕も両親も甘やかしてしまって……。いや、別に、起こるところはちゃんと怒ったりするけど、別に泣かせたい訳じゃないから泣き出すとこっちが困ってしまって、だから少々子供っぽいというか……いや、童心のままでいてくれるのはすごく助かるんだ、やっぱりこんな仕事だと心も荒んだりするし、でも桜の笑顔が見れるだけで僕は……――はっ!!?」
普段の結城大尉からは考えられないテンションのノロケが始まり、そして唐突に我に返る。
……ああなるほど、間違いなく兄妹だな……。
「お兄みんなの前で恥ずかしいって……」
「ぼ、僕だって恥ずかしいよ……桜が抱き着いて来るから調子狂うじゃないか……」
ひそひそと赤面して話す二人を見て、我々が取った行動はたった一つだった。
「「ごちそうさまでした」」
「「何が!?」」
ハモる我々と、ハモる結城兄妹。
ああ、素晴らしきかな、兄弟愛。
――――
「……ごほん。と、いう訳で、仙崎君と、皆にも最新の戦況を聞いてもらいたいんだけど、いいかな?」
小さく咳払いをし、先ほどの空気を入れ替えようと確認をする。
「私は良いですが……」
ちらと横目を流す私の視線に、瀬川と香織さん、茉奈君が反応する。
「あ、一旦退出しますよ」
「私も。必要な事は伝えたので……」
「わたしもー。こういうのあんまり外部の人に聞かれちゃまずいんでしょ?」
瀬川は全く別の部隊だし、香織さんと茉奈君は民間人だ。
ところが結城大尉は小さく首を横に振る。
「いいや。君たちにも少し関わりのある話になるよ」
言った後、茉奈君に目線を合わせて優しく話す。
「君だけは聞かなくてもいい話になるけど、ここにいても構わないよ。どうしたい?」
「んー。じゃあ聞こっかな」
「助かるよ。聞かなくてもいいとは言ったけど、もはや日本に住んでいて関わりのない人などいないからね。全員で苦難を乗り越える時だよ」
結城大尉の言う通りだ。
日本臨時政府とEDF総司令部から陥落判定を下された我が国には、明確な戦う意思を持つ者だけが残されている。
戦いは何も銃を撃つ事だけではない。
輸送、医療、食料、住居、生産、情報。
今日本国内で全ての人々は何らかの役割を持って活動し、そして全てがただ一つ”日本を護る”事に向けられていた。
日本とは一体何であろうか?
政府?国家?社会?いや違う。
日本とは、この土地、我々の故郷の大地であり、そこに住まう遍く人々を指す概念である。
故に我々は、政府が逃げようと、EDFが匙を投げようと、どれほど強大な敵が蹂躙しようとも、日本を護るのである。
「よし。じゃあ僕から、京都防衛戦のその後の戦況から改めて話させて貰うよ」
結城大尉の発言を纏めるとこうなる。
――――
まず改めて作戦の全体を振り返って整理しておこう。
2023年3月30日。
京都を中心とし、琵琶湖周辺から奈良市までを主な戦場とした京都防衛作戦-アイアンウォール作戦が幕を開ける。
迎え撃つEDF部隊は、現在まで最も戦闘回数が多く、最も対フォーリナー戦を経験してきた我々EDF陸軍第三師団(横須賀)を主力とし、陸軍第一師団(東京)、陸軍第二師団(京都)、陸軍第四師団(厚木)の陸軍四個師団に加え、EDF海軍太平洋連合艦隊第一艦隊戦艦打撃群や、第23航空軍団第四航空師団など、総勢約二個軍団(兵数三万人以上)での徹底抗戦を行った。
激しい戦闘に加え、幾つもの予測不能な事態により戦力は半減し、最終的には陸軍第八機甲師団(愛媛)の応援によって立て直され、陸軍第五師団(広島)の到着により趨勢は決定的となった。
2023年4月2日。
作戦開始より約三日後の朝。
京都周辺の偵察・情報収集の結果、EDF第11軍作戦司令本部より、正式にアイアンウォール作戦終結の通告が発せられた。
その後、距離の問題とレイドアンカーへの対処により大幅に遅れた陸軍第14師団(福岡)、陸軍第15機甲師団(鹿児島)が京都に到着し、破壊され尽くした街での補給設備の設営や、怪我人の救助、周辺地区の警戒、残敵の掃討、放棄された装備の回収などを行った。
この時、京都周辺には凡そ八個師団相当の戦力が集中していた。
日本全土を管轄とする、EDF極東方面軍第11軍の師団総数は18個。
実に日本全体のEDFが約半数集中していたことになる。
そしてここからが結城大尉の話の要約となる。
アイアンウォール作戦を勝利で飾ったEDF第11軍だが、次なる課題は未だ多い。
四足歩行要塞エレフォートは、京都府での激戦に釣られてか、狙い通り岐阜県山間部から引きずり出すことに成功し、現在は岐阜県美濃市に接近中。
しかし動き出したという事は、奴の全力が近づいているという事でもあった。
上面巨大プラズマ砲はその機能の殆どを修復し、既に数度の砲撃を行い、被害が発生しているとの事だ。
奴を野放しにすれば、また幾つもの都市が焼け野原になる事だろう。
超抜級怪生物第三号-雷獣エルギヌスは、群馬県の前橋市や高崎市に侵攻。
怪生物の咆哮と共に、地球の脅威であった雷を優に上回る、数と威力の雷撃を広範囲に放出し、周辺に壊滅的な打撃を与えた。
北関東周辺は、東京インセクトハイヴからほど近い物の、西方面よりは侵攻の被害は比較的軽かった。
その為、兵站を支える多数の人員や施設、東北と西南を結ぶか細い補給路や、突発的な巨大生物の襲撃からそれを護るEDF第一師団の半数が残っていたのだが、エルギヌスの進撃に呼応するように関東周辺の巨大生物群が活発化し、双方の対処に追われ戦力は激減している。
エルギヌスに対しては、もはや通常兵器での撃退は困難と結論が半ば決まっており、現在EDF先進開発部・兵装設計局・戦略情報部が総力を駆使し、有効新兵器の開発を行っているらしい。
核攻撃など、当然論外だ。
東京インセクトハイヴは日に日にその構造物を成長させており、現在は東京スカイツリーに迫る600mもの大きさになっているらしい。
内部からは各種巨大生物が増殖し溢れ出しており、その地下奥深くには、戦略級巨大外来生物α-
この事から、インセクトハイヴの地下ではバグ・クイーンが巨大生物を生み出して増殖するのみならず、バグ・クイーン自体も増殖し、増えた個体は別の巣を作りに飛翔する習性などが予想として研究されている。
それは、放っておけばインセクトハイヴが世界中に増え続ける事を意味し、人類を心底戦慄させた。
佐渡ヶ島のインセクトハイヴに至っては、隔離された区域であることを良い事に順調に成長しており、現在既に150mを越えているそうだ。
東京と佐渡島を放置しておけば、日本国内に更なるインセクトハイヴが建造され、より本土奪還を困難にするという予想は、素人でも簡単に想像できてしまう。
また、前述の通り、エルギヌスの進撃に呼応したかのように、関東平野周辺の巨大生物の動きが活発化しており、東京インセクトハイヴからは連日多くの巨大生物群が吐き出されている。
周辺地域は建造物はおろか、草木の一本も生えない荒野と化しており、巨大生物に占領された日本に、地球に未来など無い事が改めて分かる。
以上がフォーリナー側の主な動きである。
続いて、結城大尉がEDF側の動きを説明する。
京都周辺に集結した陸軍八個師団のうち、真っ向からぶつかった第一、第二、第三、第四師団の四個師団は京都で休養と再編成を行い、二週間ほど待機。
応援として駆け付けた第五、第八、第14、第15の四個師団は前進し、今の西日本を脅かす最大の脅威、四足歩行要塞エレフォートへの攻撃を行った。
攻撃の主軸となったのは陸軍第14師団(福岡)だった。
山間部から岐阜県美濃市で停止しており、プラズマ砲の修復を行った。
これを妨害・沿岸部へ誘い込み、艦砲射撃での撃破を目的に、攻撃を行った第14師団だった。
しかし、歩行要塞からは各種巨大生物の他、ガンシップやダロガ、ヘクトルなどの機械兵器、更に歩行要塞の対地レーザー砲などの複合攻撃によって、攻撃部隊は甚大な被害を被ってしまう。
前線から離れていた福岡を拠点とする第14師団は、現在までレイドアンカーから出現する巨大生物しか相手にした事が無かったのだ。
むろん、その事は師団長や現場にいた攻撃部隊指揮官も承知した上での作戦だったが、予想以上にその弱点が露呈すると、攻撃は一旦中止され作戦の見直しが行われた。
だが、作戦の第一目的である沿岸部への誘導は成功し、歩行要塞は名古屋市に向けて南下した。
それは己の経験不足を分かっていながら、命の限り歩行要塞に攻撃を行った第14師団の攻撃部隊たちの挺身のお陰だったと言えよう。
だが同時に、日本は再び恐怖と相まみえた。
歩行要塞の巨大プラズマ砲が復活を遂げたのだ。
プラズマ砲は作戦の見直しを行っていた第14師団前線指揮所をピンポイントで砲撃。
轟音と共に、プラズマ粒子の青白い閃光が着弾し、強大な衝撃波によって周囲は壊滅した。
歩行要塞はそのまま名古屋市に向けて前進しつつ砲撃を行い、既に無人だったとはいえ名古屋市にはたびたびプラズマ砲撃が降り注いだ。
動向や修復状態を詳しく観測していたスカウトチームの報告によると、巨大プラズマ砲は恐らく完全に修復された訳ではないという。
データから推察するに最大射程10km程度と目算され、それは修復が進むにつれて伸びていくのだという。
だが、それ自体は作戦司令本部の予想の範疇だった。
問題は、第14師団を始め、四国や九州を拠点としていたEDF戦力の経験値不足が思ったよりも深刻だったことだ。
巨大生物の散発的な襲撃しか経験していなかった部隊は、歩行要塞やレイドシップからの大量投下、既に制圧され巨大生物の楽園と化した地域からの大規模地中侵攻に対応できなかった。
また、初めて相対するダロガの一体を制圧する砲撃力や、ヘクトルの対人戦闘能力、ガンシップの空襲など、過酷すぎる戦場に部隊が一つまた一つと壊滅し、夥しい死傷者を量産した。
こうした問題は、四国・九州地方の怠慢や、情報伝達不足による過失ではなく、むしろ今まで激戦を潜り抜けて戦力をすり減らしつつ戦った我々第三師団や、京都防衛を全うした第二師団、厚木襲撃を辛くも生き延びその後も戦い続けた第四師団、東京で部隊を二つに裂き戦争初期から常に激戦の渦中にいた第一師団らの過小評価にあるのではないかと言われている。
尤も、それらが特別優秀だったのでは無く、多くの血を流し、多くの者を失いそれでも生き延びた精鋭中の精鋭が、今の我らであるというだけの話だ。
また、フォーリナーとの戦争には、多くの人類間戦争で通用したルールが存在しない。
その中の一つに、再現度の高い訓練が不可能である、という点があり、それも損失を増大させる要因だ。
人類にフォーリナーを仮想出来る兵器は無いし、その効率的な訓練方法も確立されていない。
その為、小隊長や分隊長が肌で状況を感じられなければ、生き残る事は難しい。
また、孤立する状況も多くある為、個々人の運動能力、戦闘技能や携行する火器の選択がより大きな要素となる。
他にも要素は様々あるが、総合して一言で言うと経験値の少なさが四国・九州方面の部隊の損耗を大幅に上げていた。
それにより、対巨大生物の前線は大幅に後退し、歩行要塞を誘導する筈だった名古屋の地上部隊は後退を余儀なくされ、名古屋は再び敵の支配下に落ちた。
そうした戦況の悪化を受け、作戦司令本部と協議した第三師団長、柴森少将は自ら予備戦力として三重県鈴鹿市で戦力を待機させることを志願した。
こうして、万が一の事態にすぐに出撃できるように意識を持たせながら、師団内の兵士たち、つまり我々に休暇を与える形をとったそうだ。
こういう説明をすると、常に気を張ってしまうから休暇にならないと思うだろうが、フォーリナーとの戦争中は、いつ地中侵攻やレイドアンカーの強襲、ガンシップの空襲を受けるか分かったものではないので、どこで休暇を取ろうと心構えは変わらない。
とはいえ、今回私は大阪に居残りなので、少々寂しくはあるが。
そうそう、大阪に居残った人員の中に、周辺の警戒や掃討作戦の為に荒瀬軍曹、青木、馬場、千島のレンジャー2-2の四人が単独で残っているそうだ。
レンジャー2-2は葛木が戦死し、細海が重傷で入院となっていた為、現在は四人で行動している。
待機を命令されていたものの、軍曹が無理やり一人で警戒に出かけようとしたところを、部下達三人に発見され皆で向かったという経緯らしい。
まったく、腰を落ち着かせるという事を知らない男だ。
話が反れたな。
とにかく、私や数名の治療中の者を除いた第三師団の兵員は三重県鈴鹿市に移動し休暇兼予備戦力として待機。
現在岐阜県と愛知県の県境辺りにいる歩行要塞を、まだ残っている部隊で名古屋市沿岸部まで移動させる。
名古屋市沿岸部伊勢湾の辺りには、EDF第11軍-海軍太平洋連合艦隊-第一艦隊が集結しつつある。
対地艦砲射撃による制圧を任務とする戦艦打撃群、
対艦ミサイルや対艦砲など艦対艦戦闘を重視した戦艦戦闘群、
潜水艦による海中からの火力投射によって、攻撃と防御を同時に行う潜水艦打撃群、
など任務に応じた複数の艦隊任務群を編成し、紆余曲折あれど、歩行要塞撃破に向けての準備は整いつつあった。
ちなみに今回の要塞砲撃作戦には陸軍砲兵隊の参加は極少数の割り当てとなる予定だ。
これは、戦艦の艦砲射撃(最大口径530mm)に比べ陸軍砲兵隊の砲撃(最大口径203mm)は火力が雲泥の差となり、陸軍が助力したとしても雀の涙ほどの力しか出せず、歩行要塞に対しては効果が殆ど無い為だ。
加えて、これから始まると予想される本土奪還作戦に温存する為でもあるだろう。
戦艦の砲撃が届かない内陸部では、やはり砲兵隊の火力が戦局を左右する。
以上が、ここ数日の戦況になっている。
京都防衛戦アイアンウォール作戦が終結した直後、再び大きな戦いが我々を待って居た。
――――
一通り説明し終わった結城大尉は、小さく深呼吸して、重い雰囲気を纏わせる。
「最後に、これも言わなくてはいけないね。……戦闘終了後、京都市内で遺体・装備の回収が行われたけど、葛木兵長の遺体は残っていなかった。残念だった」
彼の死を悼むように、部屋全体に思いを馳せる空気が流れた。
細海が真っ先に口を開く。
「む、無理もないです……。あいつは多分、HG-13Aを抱え込んで自爆していますから」
その通りだ。
遺体は激しく散っているだろうし、その後も地中からのバゥ・ロードの出現などで辺りの地形は原型を留めていないだろう。
戻ってきたところで事実は変わらないが、弔う対象の残滓が存在すらしていないというのは、特に仲の良かった者たちには辛い所だ。
「そばに居ながら、救出を断念した事、本当に申し訳ございません……!」
思わず頭を下げる。
本当に救う方法は無かったのだろうかと、今更になって後悔が押し寄せる。
「バカ、謝んなよ」
鈴城軍曹のいつになく真剣なまなざしが私を見る。
「状況は細海から聞いてる。謝罪も後悔も、葛木の覚悟を踏みにじるようなモンだぞ。お互い、やれる事はやったんだろ? なら、胸張って次の戦場で暴れてりゃそれでいい」
優しく肩に手を置く彼女の言葉が胸に刺さる。
普段見せないその姿に少し意外な面を感じながら、その言葉を深く受け止める。
最後見せた葛木の最後の眼差しを、汚したくはない。
「テメェ頭はイイんだから、そんぐらい自分で分かってんだろ? もー少しその抱え込む性格無くさねぇとなっ! 次も期待してんだからしんみりしすぎんなよ! 苦手だから!!」
言いながら、私の肩をバシバシ叩く。
痛いのだが?
「その辺にしときなさいよ、一応コイツまだ入院中だからね。……いや待って、まさか今なら、避けられない?」
一応止めに入ったはずの瀬川が、悪い事思いついた顔をして寄ってくる。
「いや! 敵意のある攻撃は避けるぞ! と言うか一度止めたのにどういう思考回路をしている!?」
「たまには一発くらい入れたいでしょうが!!」
「力説するな!! じゃじゃ馬娘め!!」
やいのやいのと我々が騒ぐ中、結城大尉と細海が静かに話す。
「やれやれ。どうも、沈んだ空気は苦手らしいね。すぐ騒がしくなってしまうのも困りものだ。分隊の人は誰もいないし、彼らはこの調子。辛くはないかい?」
結城大尉は優しく細海を気遣う。
細海も、、いつもの慌てた様子を見せず静かに微笑む。
「いいんですよ、これで。いつまでも悲しんで引き摺って、そんなんじゃアイツも浮かばれないですからね。アイツは居ないけど、アタシ達はきっと、倒れた人たちの分まで進んでいきます。だから、これくらいでいいんです。後悔しているのは、きっと皆同じですから」
「そうかい。安心したよ。……言うまでもないが、君は絶対に生き残るんだよ。語る者がいれば、死者は死なない」
「……そう、ですね」
生き残る。
それはいつまでを指すのだろうか。
この戦争の終焉までだとしたらそんなものは訪れるのだろうか。
無意識のうちにどこかで命を落とすだろうと考えていた細海は、その言葉に虚を突かれ、表情を隠して頷いた。
「……じゃあ、僕はもう行くね。はいはい静かに! 仙崎君! 後聞きたいことはないかな?」
結城大尉が手を叩いて注目を集めた後、ぎゃあぎゃあ諸々詰め寄られていた私に問う。
ふむ、質問か……。
「特にありません!」
「そうかい。じゃあ……おっと、そう言えば大事なことを言うのを忘れていたよ」
大事な事?
はて、何であろうか。
「君、上からの報告によると、以前EDFに居たそうだね。しかも海外でそれはそれはすごい活躍をしていたとか。で、今回の戦果も合わせて、君を本日付で少尉に昇進させるってさ。あ、講習やテストとかはもう以前やってるだろって事で省略されるから。非常時だしね。君、第二分隊――軍曹達の小隊の小隊長として頑張ってくれるかい? 細海も丁度怪我でここに残るし。じゃあ、宜しく頼むよ」
肩を軽くポン、と叩いてじゃあね、と一言残して去ろうとするが。
「情報の洪水過ぎるんだが!?」
困惑する私を置いて、結城大尉は出て行ってしまった。
――仙崎誠、伍長から少尉に昇進。
第88レンジャー中隊第二小隊第二分隊の分隊長に任命される!