全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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ひさびさの更新ですどうも!

場面はソラス上陸から少し前に遡り、歩行要塞攻略サイドの話になりますね。

ここはサクっとやりたかったんですが、やっぱ一話(一万字)まるまるかかりましたねぇ汗
まあ二話に分割してもいいんですが、二話に分けるような話でもないなと(じゃあそんな量書くな)

※9/3編集:四足歩行要塞アルゴ→エレフォート
 詳細は活動報告をご覧ください。


第七十三話 轟雷作戦

――4月11日 岐阜県可児市 EDF第15機甲師団 第158機甲連隊――

 

「あれが四つ足……! デカすぎんだろ……勝てる訳がねぇ」

 

 レンジャーの一人がつぶやく。

 木曽川を挟んで向かい側。

 特に大きな建物も無い美濃加茂市のほぼ中心に位置する美濃加茂ICを完全に破壊して、それは”座り込んでいた”。

 

 四足歩行要塞”エレフォート”。

 通称四つ足と呼ばれた白銀の超巨大陸戦要塞は、その脚を折りたたみ、待機状態をとっていた。

 しかしその状態ですら全高100m超という規格外の大きさだ。

 高層ビルと同規格の高さでありながら、全長200m、全幅130mと人類文明の人工物では比較にならない大質量を持つ機動要塞であり、その威容は遠目からでも十分に伝わった。

 

「隊長……。い、今から本当にあの怪物を撃つんですか……?」

 

 緊張で固唾を呑み込みながら別の一人が問う。

 第15機甲師団は鹿児島を拠点としている。

 つまり、最前線での激しい戦闘は未経験だ。

 

「そうだ。奴を倒さねば、この日本に未来は無い」

 

 小隊長は、そうはっきりと断言する。

 

「でも、四つ足は今休止状態です。京都を防衛しきった今、焦らずとも歴戦の第三師団や第一師団の戦力が整ってから、反撃に出た方がいいんじゃないですか?」

 

 その言葉に、隊長は小さくため息を漏らす。

 部下に対しての、ではない。

 満足なブリーフィングをせずこの場に来たことに対してだ。

 それくらい、事態は急を要していた。

 

「四つ足の上、あの光が見えるか?」

 

 隊長は問う。

 その目線の先には、四つ足の上――全長100mもの巨大プラズマ砲付近で、ちらちらと青白い光が数か所点滅していた。

 

「あれは恐らく、プラズマ砲の修復作業に伴う発光だ。つまり、奴は足を止めて休止状態に入り、エネルギーを節約して怪我を直しているんだ。もう分かるな?」

 

 道筋を示し、部下に答えを求める。

 

「……じゃあ、修復を妨害して活動状態にしないと、プラズマ砲の修復が終わり、完全な状態に……!?」

 

「我々が力を取り戻す以上に、敵が怪我を癒す……。プラズマ砲の修復が終われば、京都や大阪が、射程に入る……」

 

 導き出した答えに、本人たちが戦慄の表情を浮かべる。

 

 隊長が怯える部下達に発破を掛ける前に、広域無線が鳴り響く。

 作戦指揮は、第11軍ではなくその下部の第6軍団司令部によって執られていた。

 

《――こちら軍団作戦本部! 空軍の到着を確認!! 空爆の開始を以って、歩行要塞打撃作戦、”轟雷作戦”の開始じゃあ!! 歩兵部隊は余波に気を付けい!》

 

 EDF独自の軍隊気質か、作戦名の発表と共にやや方言混じりの軍団長自らの勇ましい声が響く。

 

 声を受け取った彼らの上空、数機の全翼爆撃機が編隊を組んで飛行する。

 EDF戦略爆撃機、EB-32F”フォボス”が航空機用無誘導爆弾を大量に投下し、四つ足の上部、修復中だったプラズマ砲を燃え上がらせる。

 

 直後に四つ足は起動。

 即座に立ち上がり対空レーザー砲を放つが、フォボス編隊は同時にデコイを放っており、デコイが一斉に破裂した。

 しかし偶然捕捉された一機が、三発四発とレーザー照射を集中的に受け、低空飛行中に墜落、地上で爆発を起こした。

 

《――全砲撃任務部隊、砲撃開始! 繰り返す、砲撃開始じゃあ!! 撃破はせんでいい! 奴を名古屋市へ誘導し、戦艦群の大火力で叩く! 奴を挑発し、誘い出せぃ!》

 

 彼らの背後から、幾つもの砲弾が空を裂き、そして四つ足に直撃する。

 エアレイダーのビーコンが届かない場所への一斉砲撃だ。

 プラズマ砲への直撃は叶わないものの、空爆によってプラズマ砲に少しはダメージを与えていると信じたい。

 事実、即座にプラズマ砲による応酬は行われない。

 代わりに。

 

『!? ハッチが開いたぞ!』

 

『巨大生物だ! 来やがったぞ!!』

 

『なんて数だ! 一度の投下でこんな大量に!!』

 

『図体が大きい分、転送能力も桁違いって訳か! こりゃ、町が一瞬で飲まれちまうぞ!!』

 

『コンバットフレーム隊! 掃討開始だ!! 撃てーーー!!』

 

 津波の様に押し寄せるα型に対し、横一列に並んだコンバットフレーム・ニクスCが、両腕のリボルバーカノンを斉射する。

 ニクスCは、大阪のEDF極東第一工廠で開発完了したばかりの最新型だ。

 従来型より運動性・装甲・戦闘用OSが進化し、より対フォーリナー向けに性能を向上させている。

 

 リボルバーカノンにより斉射される35mm対甲殻砲弾は、α型巨大生物の甲殻を真正面から易々と貫通し、その圧倒的な殲滅力で巨大生物を駆逐していく。

 

『これが新型の力……? ははっ! 楽勝じゃないか!』

 

『オラオラオラァ! なんだァ!? フォーリナーも大したことねぇな!!』

 

『こいつらなんて蟻よ蟻! 人間様に敵う筈なんてないんだわ! ざまぁ見なさい!!』

 

『コンバットフレームがいりゃ、こりゃ俺たちの仕事は無さそうだな!』

 

『福岡の連中は手ひどい打撃を受けたって聞いたが……新型ニクス部隊のお陰で、なんとかなりそうだな』

 

『油断するな!! 歩兵部隊! 回り込んだ巨大生物を速やかに駆除しろ! 歩兵戦闘車! コンバットフレームの両脇をカバーしろ!』

 

 歩行要塞から投下された巨大生物は一度で千を優に超えていたが、コンバットフレーム・ニクスCの活躍でその殆どを難なく殲滅しかけていた。

 両脇に膨れ上がった巨大生物は、EDF製歩兵戦闘車・サーペントによって駆逐された。

 戦車を流用した車体に、大型の40mm機関砲二門を搭載したサーペントは、スペック上は火力・装甲・機動力全てニクスを上回る強力な兵器だ。

 漏れ出した巨大生物の掃討も難無く完了する。

 

『ハッチが開く! 次が来るぞぉー!』

 

『遅ぇんだよ! 戦力の逐次投入って愚考を知らねぇのか! 母星に帰ってもう一度お勉強してきやがれってんだ!』

 

『無駄口を叩くな! 見ろ! 本命が来るぞ……ヘクトルだ!!』

 

『あれがヘクトル!? 初めて見た!』

 

『攻撃が来るぞぉー! 歩兵は戦車の陰に隠れろぉーー!!』

 

 ヘクトルの持つ、粒子機関砲(ビームマシンガン)が青色の粒子を掃射し、粒子炸裂砲(ビームブラスター)が赤色の粒子榴弾をばら撒き、周囲を猛爆撃によって火の海に変える。

 

『装甲がッ、持たない!! うわぁぁぁーーー!!』

 

『一機やられた!! くそ! ナメんなよ巨人がぁぁーー!!』

 

 ニクス一機が前進し、卓越した機動でヘクトルの射線から逃れ、リボルバーカノンを叩き込む。

 

『援護する!』

 

『いけぇーー! 戦車部隊、砲撃!!』

 

『火線を集中しろ! ランチャー! 射撃ぃ!!』

 

 コンバットフレーム、戦車、歩兵部隊が攻撃を集中する。

 フォーリナー機甲部隊の中では比較的装甲の薄いヘクトルは、踊るように上半身をくねり曲げ、衝撃を逃がそうとするも貫通する砲弾が炸裂し、次々と爆炎を上げ、その体を四散させる。

 

『いけるぞ!! アイツ、思ってたより弱いぞ!!』

 

『一機撃破ァ! いいぞ! やっちまえ!!』

 

『油断するな!! また爆発が来るぞ!!』

 

『赤い砲弾だ!! ぐあああぁぁーーー!!』

 

『またコンバットフレームが!!』

 

 横一列だったニクスCが複数撃破され、陣形が崩れ始める。

 戦車に比較し、正面装甲厚が薄く、前面投影面積の大きいコンバットフレームは、立ち回りを失敗すればただの的だ。

 

《――本部より戦闘部隊ぃ! 四つ足との相対距離が1kmを切った! 後退せい! 奴を名古屋市内まで誘引する! コンバットフレーム隊、殿を務めい!》

 

『こちらコンバットフレーム隊! 了解!! 戦車と歩兵を温存させる! 各機、戦闘機動! 脚を止めるなよ! 戦車に出来ない三次元機動で目にもの見せてやれ!』

 

『『サー! イエッサー!!』』

 

 数機が撃破されているものの、まだ数個中隊程も戦力はある。

 福岡の第14師団が壊滅したという話に、鹿児島第15師団の面々は戦々恐々とし、それらを指揮する第六軍団は第15師団の大半の戦力を一斉に投入する総攻撃体制をとっていた。

 

『うおおおぉぉ!! 喰らえ! 喰らえ!!』

 

『4時方向! ビルに追い詰めた! 追撃を!!』

 

『任せろ! おらおらァァ!!』

 

『くっ、被弾したぁ! 腕部装備喪失!』

 

『損害が激しい者は後退しろ! 時間は稼いでやる!』

 

『線路沿い、倉庫の付近に三機! 正面に出るな! 倉庫の裏側から侵入するぞ!』

 

『まずいッ! 橋の向こうから……ぎゃああぁぁぁ!!』

 

『ウルフ2、3反応消失! 右翼を固めるぞ! 2機ついて来い!』

 

『『イエッサー!』』

 

『ブラスターを持ったヤツに気を付けろ! 爆撃を真正面で受けたら木っ端微塵だぞ!』

 

『正面に立たなきゃいいんだろ!? 分かってる! 部下の仇だ!』

 

 最新型のニクスCを駆る者たちはその三次元機動力を生かし、跳躍とローラーユニットによる主脚走行で足を止めずに戦闘を行う。

 一見互角だが、ヘクトル群などただの先鋒に過ぎない。

 

『隊長! 歩行要塞が、ガンシップを排出しています! 総数……50、いや100……数え切れません!』

 

『砲台も起動してる! レーザー砲だ! まずいッ、脚がやられた!!』

 

 歩行要塞の下部にある六つのレーザー砲が起動し、ある一機を連続で集中照射する。

 一射一射は1秒にも満たない短時間だが、それを機関砲の様に連続照射する事で、装甲に穴を穿った。

 

『援護しろ!』

 

『間に合わないッ!! 脱出が――うわぁぁぁぁぁ!!』

 

 ニクスCは炎上し、爆発四散した。

 同時に、ガンシップが群れを成して襲い掛かってくる。

 

『空を覆う数だ!!』

 

『黙ってやられるか! 全機、ミサイル発射! 撃墜しろ!!』

 

 ニクスCの右肩には多目的ミサイルポッドが装着されており、40発もの小型ミサイルを発射する事が可能だ。

 小威力のこれは、対ガンシップを意識したもので、まさに絶好のシチュエーションであった。

 

 数機から一斉に放たれたミサイルは、白い尾を引き、不規則な機動を行うガンシップに弧を描くように次々と命中した。

 しかし、要塞からは再びガンシップの排出。

 同時に、巨大生物β型とα型亜種の排出も行われていた。

 

 そしてレーザー砲撃は止まらず、要塞は一歩一歩と接近している。

 まるで雨か雪のように、ミサイル直撃によって墜落するガンシップが次々と地面に降り注いだが、それ以上に上空に浮遊するガンシップが示すように、状況は好転しない。

 

 そしてそれらは、遂に地上に敵意を向けた。

 

『攻撃が来るッ! 後退、後退ぃーー!!』

 

『ヘクトルが来てる!! まずこっちが――ぐああぁぁーー!!』

 

 ヘクトルに気を取られた一機は、ガンシップからのパルスビームを集中的に喰らい、爆散した。

 機銃掃射のように、上空から赤色のパルスビームが降り注ぐ。

 しかしニクスCは跳躍と主脚走行を混ぜた機動により直撃からは回避。

 同時に、

 

『ニクス部隊を援護しろ!! 撃てぇーーー!!』

 

 KG6ケプラー自走対空砲が対空弾幕を放った。

 対空砲弾が空中で炸裂し、その破片や直撃弾により、加速度的に掃除されていくガンシップ。

 特に回避機動を見せないのは、物量による自信の表れか。

 

『各車輌! 徹甲榴弾一斉射! 目標、各種巨大生物! てぇぇーーー!!』

 

 E551ギガンテス、E552ギガンテスⅡ、E441ヨルムンガンドの戦車三種が一斉に主砲を射撃する。

 とりわけヨルムンガンドの150mm主砲が大きな爆発を起こし、ギガンテスⅡは爆炎と貫通力の二つを以って群れを殲滅する。

 

『助かる! だが、この物量は……!!』

 

『隊長!! 四つ足が引き離せません!! ――!? 見てください! ダロガです!! 歩行要塞が、ダロガを投下!!』

 

『よく見ろ、蜂もどきのγ型もだ!! 針の空襲が来るぞ!!』

 

 α型、ヘクトル、ガンシップ、β型、α型亜種に続き、遂に歩行戦車ダロガとγ型が投下された。

 ダロガは重装甲・大火力を持つ強敵だ。

 基本的には戦車でなければ対応は難しい。

 

 逆にγ型は戦車にとって天敵だ。

 薄い上面装甲を針によって撃ち抜かれ、主砲で狙う事は到底不可能だ。

 

『ついに出て来たか……! 各車輌! γ型に気を付けろ! 目標変更! ダロガを一斉射撃!! てぇぇーーー!』

 

 EDF戦車の砲撃と同時、ダロガも上面を点灯し、粒子砲弾の嵐を叩き込んだ。

 

『凄い砲撃だ!! まずい!! ぐああーーー!!』

 

 ダロガの斉射によって、一帯はまるで、絨毯爆撃を喰らったかのように爆炎に包まれた。

 そこにヘクトルのビームブラスターの斉射と、粒子機銃弾の雨が降り注ぐ。

 

『くっそぉ! ダロガめ!! 何機残った!?』

 

『数えるほどしか……! とにかく後退しましょう! このままでは……!』

 

 数機、爆撃から脱出したニクスC部隊が残存兵力を確認する。

 

『糸!? しまった! 動けない!』

 

『β型の群れだ!! こんなところに!!』

 

『囲まれていた!? まずい! 後退できないぞ!!』

 

 周囲を囲い込む習性にまんまと嵌められ、戦車部隊もβ型によって糸に絡めとられた。

 

『各車輌、誤射に注意し射撃! 撃てぇぇーー!!』

 

 戦車部隊の援護に回るのは、歩兵戦闘車サーペントだ。

 40mm機関砲を二門備えるサーペントは強力だ。

 しかし。

 

『まずいγ型が来るぞ! γ型を撃て!!』

 

『勝手に目標を変えるな! そっちは対空砲が担当する! 狙って当てられる奴じゃない!』

 

『そんな事言われても!! ケプラーはガンシップで手一杯な筈! こっちでやるしか!!』

 

『スペック上無理だ! いいから弾幕を張って後退する! 戦車部隊! 多少の犠牲は許容するしかない! 強行突破だ!』

 

『無茶言うな!! こっちは囲まれて身動き取れないんだぞ!』

 

『!? まずい! 六時方向! α型! 囲まれてる!! 酸の斉射が、装甲が溶ける!?』

 

『こっちも糸で身動きがとれない!! 履帯が溶かされてる!!』

 

『あづッ、熱いぃ!! 酸が!! 酸が車内にぃ!!』

 

『砲塔溶解!! 動かせません!! がふッ!?』

 

『針の雨が降ってる!! 突き刺されるぞ!? 助けてくれぇーーー!!』

 

『地獄絵図か……! とにかく撃って一体でも減らせ! 動ける奴はとにかく動け! 直掩の歩兵部隊は何やってる!?』

 

 戦車部隊を援護する歩兵戦闘車サーペント隊だったが、サーペントも巨大生物に取り囲まれ、全滅の危機に瀕していた。

 こう乱戦になってしまえば、強固な装甲も、強力な火力も、圧倒的な走破性も意味を為さない。

 コンバットフレームが対フォーリナー戦で一定の活躍を上げる理由が、ここにあった。

 

 強力な先進歩兵四兵科を見ても、同じことは言える。

 しかし、強みを生かせるのは、練度が合って初めての事だ。

 それを、今までレイドアンカー周辺の掃討を担っていた部隊に任せるのは、少々酷な事であった。

 

「糸、糸が!! 糸が取れないぃーー!!」

 

「後ろに回られた! いつの間に!? うわぁぁーー!!」

 

「ちくしょう! コイツら数が多すぎる! こんな数見たこと無いぞ!!」

 

「酸でやられた! ユニット破損!? 助けて!!」

 

「隊長! 緊急冷却で動きが――きゃああぁぁーー!!」

 

「冷却管理が間に合わない!? 飛行するにも限界があるか……!」

 

「クソ野郎!! なんて素早い動きだ!! 当たりゃしねぇぞ!!」

 

「盾を構えろ!! グハッ! 後ろから、針が、……」

 

「ガンシップまで来やがった!! 凄い数だぞクソッ!!」

 

「航空支援要請! ネレイド! この辺りを掃射してください!」

 

『任せろ!! ――!? なんだ!? しまった! 糸が絡みついてる!!』

 

「そんな! だったら、砲撃支援要請は!」

 

『友軍誤爆の危険が高すぎる。砲撃支援は却下する……』

 

「くそぉ!! や、やめろ……喰わ、喰われるッ! ぎぃああぁーーー!!!」

 

 先進歩兵部隊も、経験した事のない物量に押されて一方的な壊滅状態だった。

 本来、互いの兵科の得意不得意を補い、背中をカバーしつつ、囲まれないようにもしくは囲いを脱出するように移動しながら攻撃を行うのが鉄則だ。

 

 それを無意識のうちに体得し、実行していた歴戦の第三師団と違い、大規模戦闘に慣れていない第15機甲師団は甚大な被害を被るのも無理は無かった。

 しかし、それを承知の上でも実行しなければいけない作戦であった。

 

『まずい……上を見ろ……!』

 

『……ちくしょう、四つ足め』

 

 戦車部隊の一人は悪態を吐く。

 彼の目に最期に移ったのは、体感ゆっくり振り下ろされる歩行要塞の脚だった。

 

 絶大な衝撃と共に、歩行要塞の脚が振り下ろされ、戦車部隊、歩兵戦闘車部隊は踏みつぶされ原型を留めず、土煙に姿を消した。

 皆、即死だろう。

 

 こうして、鹿児島第15機甲師団は壊滅的損害を被った。

 だが、ただの一人も残さず全滅、という訳ではなく、確かに激戦を肌で感じ、生き残った兵士たちは存在した。

 

『後退、後退ぃー!』

 

『サーペント、弾幕を張れ!! レンジャー隊、ウイングダイバー、側面から迫る巨大生物を排除! フェンサー、ヘクトルを砲撃しろ! 撃破しなくていい、態勢を崩せ!』

 

『デカい蜂は俺たちニクスに任せろ! リボルバーカノンじゃオーバーキル気味だが、やれなくはない! ケプラーは高高度から掃射するガンシップに弾幕を!』

 

『こちらエアレイダー・リゲル! 伊勢湾の水上打撃群にミサイル攻撃を要請! まもなく着弾する!!』

 

『全部隊、決して足を止めるなよ! 四つ足を引きつけつつ、投下される敵に囲まれないように立ち回るんだ!』

 

 そうして稼いだ距離があり、そしてついに、その時は訪れた。

 

《――こちら本部! 四つ足が名古屋(キルゾーン)に入った! 轟雷作戦、第二段階へ移行じゃあ! エアレイダーを派遣し、付近の敵勢力を吹っ飛ばしたのち、歩行要塞に全力砲撃じゃい!! 第15機甲師団の諸君(きさんら)、ようやりおったのう! ワシらの任務は、無事果たされた。直ちに撤退し、輸送部隊と合流。名古屋埠頭より帰還せえ!!》

 

 ――やがて、現地には後詰めとして待機していたエアレイダーが指示を出し、砲兵隊、空軍、そして沖に鎮座する巡洋艦・駆逐艦・沿海域戦闘艦などのミサイル攻撃により、追っ手のフォーリナー群は一掃された。

 

 味方部隊は完全な退却を開始したが、その戦闘部隊の損害は、実に七割を超えていたそうだ。

 軍事上の壊滅を超える損害だが、残った部隊を再編してまた戦うしか道は残されていない。

 

 そして、彼らの犠牲を無駄にしない為の、真の作戦が始まった。

 

 ――同時刻 伊勢湾内 EDF極東方面軍-第11軍-EDF海軍太平洋連合艦隊-第一艦隊戦艦打撃群-旗艦リヴァイアサン級EDF重戦艦一番艦”リヴァイアサン”-艦橋――

 

 第一艦隊戦艦打撃群は伊勢湾内に布陣完了していた。

 その戦力は、リヴァイアサン級EDF重戦艦一隻、ポセイドン級EDF戦艦二隻、トリトン級EDF重巡二隻、カグツチ級EDFミサイル巡洋艦四隻、アクティウム級EDF対地戦闘艦四隻などから成る対地火力投射を最大に発揮する艦隊だ。

 

 本作戦の総指揮を執ると同時、EDF太平洋連合艦隊の旗艦でもあるEDF重戦艦、リヴァイアサン級一番艦リヴァイアサンの艦橋では、連合艦隊司令官の大城大将、リヴァイアサン艦長の永森中将、砲雷長の佐野大佐が、”その時”を今か今かと待ちわびていた。

 

 現在、EDF水上打撃群によって、精密砲撃や巡航ミサイルなどの対地攻撃を行い、第15機甲師団を襲う残存勢力を叩いている所だ。

 第15機甲師団の完全撤退が完了し次第、戦艦打撃群の全力砲撃が、四足歩行要塞エレフォートに向かう手はずとなっている。

 

 そもそも、わざわざ地上部隊に甚大な被害を与えてまで歩行要塞を名古屋市に誘導したのには理由がある。

 

 現在の巡航ミサイルの射程距離は、一般的には1000km以上はある。

 それに比して、歩行要塞が最初に鎮座していた地点は、戦艦打撃群からおよそ100kmにすら満たない。

 つまり、ミサイルの斉射を浴びせるには十分な距離だが、ミサイルは歩行要塞の対空レーザー砲に撃墜されてしまい、直撃を与えたとしても誘導させるには至らない。

 

 また、ロケットアシスト砲弾であれば、届かせることは出来るが、飛距離が長くなることにより命中精度悪化、運動エネルギーの減少による威力低減、被迎撃リスクの増大など、ネガティブな要素が増える事により、歩行要塞の完全撃破は困難であると計算された。

 

 それを可能にするには、やはり物理的に距離を詰めるしかない。

 そして、距離を詰めるには向こうを誘い出すしかなかったのだ。

 

 現在、歩行要塞は尚南下し、撤退する第15機甲師団を追っている。

 これは第15機甲師団の残存兵力にとっては恐怖も良い所ではあるが、歩行要塞が南下し海沿いに近づけば、それだけ戦艦群が与える砲撃の威力は増大する。

 

 尚、名古屋は一時的の支配下にあったが、作戦開始直前に、トリトン級重巡、アクティウム級対地戦闘艦、戦略爆撃機フォボスなどによる火力投射が行われており、第15機甲師団の収容には問題なかった。

 

 第15機甲師団残存戦力の収容は、港湾跡にパンプバック級EDF汎用輸送艦を付けて対処していた。

 つまり、上手く引き付ければ沿岸まで歩行要塞を誘導する事が可能だ。

 

 しかし現実問題として、第15機甲師団にそこまでの能力は無いと考え、名古屋に侵入した段階で、陽動戦闘は打ち切られた。

 

――――

 

「大城提督。パンプバック級より入電。第15機甲師団の残存兵力、完全収容しました」

 

『こちら、EDF陸軍、第六軍団作戦本部! 四つ足の完全停止を確認。第一艦隊、只今より、轟雷作戦第三段階に移行! 第一艦隊戦艦打撃群、直ちに砲撃を開始せよ! 繰り返す、直ちに砲撃を開始せよ!!』

 

 作戦を統括する、第六軍団作戦本部の宣言が響き渡り、装填・照準共に合わせていた戦艦群は、遂にその砲門を唸らせる。

 

『全艦隊、目標、四足歩行要塞エレフォート! 主砲弾、撃ち方始めぇぇーーー!!』

 

 瞬間、周辺の海域に鎮座していた黒鉄の砲門が、一斉に火を噴いた。

 飛び出すのは、火薬の力によって押し出され、ロケット推進で加速度を増す50cm級の巨砲弾。

 それはリヴァイアサン級にある三連装四基12門の砲のみならず、その他の艦艇から一斉に放たれたのだ。

 

 真昼の伊勢湾は途端に大火災が起きたのかと錯覚するほどの発砲炎に包まれ、そして同時に、VLSからも巡航ミサイルが次々に飛び立つ。

 

 戦艦、重巡、巡洋艦、駆逐艦から大小さまざまな口径の砲弾が放たれ、ミサイルが飛び立つ。

 安価で火力の高いロケットコンテナ艦からは、大雑把な照準の元大量のロケット弾、中型小型のミサイル群が放物線を描いて一斉に飛んでいく。

 

 それらは全て、一点へ集中するのだ。

 リヴァイアサンの53.3cm主砲弾が、ポセイドンの40.6cm主砲弾が、30cm、20cmクラスの重巡、巡洋艦の主砲弾や戦艦の副砲弾が、歩行要塞に次々と叩き込まれ、運動エネルギーと爆薬により空気を震わせる激しい爆炎が発生し、標的を包み込む。

 

 次にVLSサイロから放たれたライオニックミサイルが、N5巡航ミサイルが、AH高速巡航ミサイルが、尾を引いて歩行要塞へと突入し、胴体に詰め込まれた膨大な高性能爆薬と化学エネルギーによる効率的な破壊を行い、歩行要塞に爆発炎上を次から次へと与え続ける。

 

 従来の対人類戦争ではありえない程の圧倒的な火力投射。

 現在の人類兵器で、この攻撃を一度でも受けきる物体は存在しないだろう。

 

 そんな暴虐を受けた歩行要塞からは、迎撃の対空レーザー砲が作動するが、それの処理能力を圧倒的に超える飽和攻撃に、成す術もない。

 

 だが、レーザー砲は無理でも、歩行要塞には最も警戒すべき武装がある。

 

『歩行要塞、砲塔旋回! こちらを指向!!』

 

 戦艦打撃群の一隻、重巡トリトン級のオペレーターが声を荒げる。

 

『やらせるな!! 砲塔に集中砲撃!!』

 

『エネルギー収束率上昇中!! 間に合いません!!』

 

 空気を無理やり切り裂くような、独特の高音と共に、プラズマ砲弾が放たれた。

 

『向かってきます!!』

 

『右へ旋回!! 回避しろ!!』

 

 直後、回避は間に合わず、プラズマ砲弾はトリトン級三番艦アンピトリテに直撃した。

 巨大な火柱と水柱が立ち昇り、船体は真っ二つに砕け、轟沈した。

 

 着弾の瞬間、戦術核級のエネルギーが発生し、辺りは大波が荒れ、舞い上がった海水が雨の様に降り注ぐ。

 

 リヴァイアサンのオペレーターは悲痛な声を上げる。

 

『アンピトリテ轟沈!! 歩行要塞、第二射充填中!!』

 

『おのれ!! 砲撃を絶やすな!! こうなれば、どちらが先に音を上げるかの根競べだ!! たとえ隣の艦が沈もうとも、決して砲撃の手を緩めるなぁッ!!』

 

 大城提督は、即座に全艦隊に向け発破を掛け、総員が覚悟を決める。

 

 斉射第二射が放たれた。

 再び、歩行要塞に膨大な量の砲弾・ミサイルが着弾し、要塞周辺は噴火でも起こったかのような黒煙が上がる。

 その中から、巨大な青白い閃光が煌めき、EDF艦隊を狙い撃つ。

 

 狙いはさほど正確ではないが、狙って回避するのは難しい。

 加えて、至近弾であっても巡洋艦クラスでは致命的損傷を受ける。

 何せ、間近で核攻撃を喰らっているようなものなのだから。

 

 着弾と同時に信じられないような水柱が立ち昇り、その海面の尋常ではない揺れにより、艦隊の照準は狂わされる。

 艦内は地震など比較にならない程シャッフルされ、正気を保つのも厳しい状況に置かれながら、彼らも決してあきらめず砲弾を装填、照準固定、砲撃を行った。

 

 なぜならば、既にこの時の為に犠牲になったものが存在するのだから。

 水兵たちは、決してあきらめる訳にはいかなかった。

 

 そんな決死の決意は、着実に歩行要塞に届いている。

 

『歩行要塞エレフォート! 胴体後部から激しい爆発を確認! 敵損傷甚大!!』

 

『よしッ!! 勝機はこちらにある! 反撃に怯むなッ! このまま沈めるぞ!!』

 

 プラズマ砲弾が、破壊的な音と共に放たれ、艦隊に着弾する。

 それは、歩行要塞も己の身を護る、必死の抵抗にも思えた。

 

 砲弾はリヴァイアサンの間近に着弾し、船体が大きく揺れる。

 

『セプテミオン轟沈ッ!! ダイナロン転覆しますッ!』

 

『駆逐艦を救助に回せッ! 本艦の被害は!?』

 

 艦長の永森中将が揺れる船内にしがみつきながら報告を請う。

 

『右舷第二区画、第三区画に大規模な浸水! 右舷三か所の対空砲、基部が融解し動かせません!』

 

『主砲は!?』

 

『三基とも健在です! 戦闘続行に支障なし!!』

 

『装填完了! 再度砲撃しますッ!!』

 

『最後の最後まで叩き込め!! てぇーーーッ!!』

 

 再び、53.3cm三連装四基12門の巨砲が火を噴いた。

 

 通常砲弾としては人類史上屈指の威力を誇る砲弾が空中を飛翔し、そして、黒煙を上げる四足歩行要塞に、次々と着弾、対象の姿が確認できなくなるくらいの爆炎を上げる。

 

『提督! 効果確認が困難です!!』

 

 オペレーターに対し、大城提督が、声を張り上げる。

 

『確認など必要ない!! あの四つ足が地に伏し、プラズマ砲の機能停止を確認するまで、ひと時も手を緩めるな!』

 

 リヴァイアサンから主砲、副砲、他の健在な艦艇からも休む間もなく砲弾ミサイルが叩き込まれる。

 かつて、一目標に対しこれほどの火薬量を要する作戦があっただろうか。

 恐らく人類史に名を刻むであろうこの戦いは、華々しい戦艦の圧倒的な攻撃力の前に終結する筈だった。

 

 しかし、フォーリナーという敵勢力は、異常なまでの対応力を以って人類を苦しめて来たという事を、忘れてはならない。

 

『あれは……!? 待ってくださいッ!! 歩行要塞の周囲に、何かを確認!!』

 

 砲弾の着弾報告と同時に、観測員から報告が上がった。

 促すまでもなく、続報が寄せられる。

 

『砲弾が……。砲弾が防がれました!! 歩行要塞を、光の壁が覆っています!!』

 

『ひ、光の壁だと!?』

 

 ――自走式防御スクリーン発生装置。

 後にシールドベアラーと呼称される兵器が、要塞内部から出現し、歩行要塞を光の壁で覆ってしまった。

 

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