全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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今回も無駄に長くて難しくて拙い説明と展開が多いですが、頑張ったのでどうかお付き合いください。


第七十九話 魔女の咎

――2023年4月12日 大阪府・京都府境――

 

「こんな森の中に……」

 

「こっちさね。迷うんじゃないよ」

 

 巨大生物をある程度退けた後、茨城博士の運転する四駆車輛は舗装されていない林道をしばらく走った。

 今は車輛を乗り捨て、道なき山林を更に進む。警戒しつつ、彼らの目的を探りながらの移動となった。

 

 現在、10数人余りの保坂の部下が左右を囲み、先頭に茨城博士と保坂、後方に私という陣形で進んでいた。

 

 ──巨獣ソラス討伐作戦。

 茨城博士が話すそれは、非常にシンプルだ。

 この先の”目的地”に保管されている、ある特殊兵器を用いてソラスを攻撃、討伐するというもの。

 いささか以上に情報量の足りないその作戦を聞いて納得出来るはずもなく、私は更に問い詰めたが、その先は軍事機密となる様子だった。

 

 結果的に、私はその情報を博士の口から聞かせてもらったが、その事を整理する前に状況に変化が起こる。

 

「仙崎誠君、巨大生物、五、六ほど抜けてくるそうだ」

 

 保坂が部下からの通信を受け取る。

 傍受対策か、こっそり調整してみたものの、EDFの無線で音声は一切聞き取れない。

 

「その程度なら敵では無い、が……」

 

 ちらと茨城博士を見る。

 彼女は立ち止まり、何の変哲もない木の幹を剥がす。

 内部には木に擬態したコンソールが仕組まれていた。

 

「一分ほど時間を貰おう」

 

 コンソールに向き合う茨城博士の言葉に、保坂が不機嫌そうに応じる。

 

「早めに頼みますよ! 僕の部下が、命懸けで時間を作っているんですから!」

 

 保坂の部下達は、この場にいる二人を残し、全て周囲の巨大生物を食い止めてくれている。

 その腰の獲物を抜くときは来るのか。ちょっと期待している自分が憎い。

 

 コンソールを叩きながら茨城博士は、目線も変えず保坂に返す。

 

「部下ねぇ。所詮テロ組織の構成員だが……、巨大生物と戦ってくれるのであれば、まあ、感謝はするさ」

 

 そんな二人のやりとりを横目で見ながら、抜けて来た巨大生物を掃討する。

 博士はアーマースーツを着用していない。

 酸が掠りでもしたら一大事だ。なので視界に入った瞬間、攻撃の動作を与えぬままに仕留める。

 

 そして、きっかり一分後。

 

「さあ、来きてくれ」

 

 地面が開き、内部に隠し梯子が現れた。

 言われるがまま、其処を下る。

 すると視界に広がったのは――長い長い地下通路。

 

 最後に下った保坂は通路に降り立つと、わざとらしく辺りを見回す。

 

「ここが、EDF戦略火器保管庫。いや、そこに至るまでの秘密連絡通路、と言ったところですか? これは巧妙に入り口を隠したもんだ」

 

「キミのような武装組織に発見されない為さね。さぁ、こっちだ」

 

 保坂誠也の問いに答えた茨城博士。

 彼女の後に続くと、そこには――

 

「エアバイク……? いや、これは?」

 

「試製四式圧縮空気噴射滑走型車輛。SDL4”スレイプニル”。まあ、こんな場所を走るのにもってこいの失敗作さね」

 

 SDL2”エアバイク”はその名の通り二つの圧縮空気噴射口によって駆動していたが、大小合わせて八つの噴射口がある大型の滑走車輛だという。

 なるほど、八本脚の軍馬の名を借りるに相応しい、という訳か。

 

「仙崎君、茨城博士、地上での戦闘が激化しています。早く向かいましょう」

 

 癪だが、時間に余裕が無いのは三人とも一緒らしい。

 我々はスレイプニルとやらに乗り込むが、

 

「ん? 貴様の部下は乗らんのか? まだ座れそうだが」

 

 二人の曙光會構成員は銃を構えたまま動こうとしない。指示待ちという訳ではないだろうが、スレイプニルは大型で、もう三人くらいは乗れそうなのだ。

 警戒すべき相手が増えるだけなので別に来て欲しくは無いが。

 

「ええ、彼らは地上に向かわせることにします。誰かが入り口を守っていなければここから侵入される恐れもあるだろうし、僕の部下達も、巨大生物との戦い方は心得ている」

 

 ……それは理解しているが、ここから先、護衛の必要はないという事だろうか。

 まあ私は居るし保坂もそれなりに戦えはするが、巨大生物は地下を好む。

 むしろ、私はここからが最も危険であると思うのだが。

 

 そんな私の感想とは違い、低い声で茨城博士が入り込む。

 

「そうだろうねぇ。民製品に擬装した、EDF先技研の横流し品を装備しているんだから。キミの今の装備より、余程高性能だろう。それに――」

 

「――余計な事に気づいても、口を開かない方が良い時もあると、僕は思いますけどね。ま、我々も、貴女方が思っているより深く、EDF内部に太いパイプを持っているのですよ。さ、急いだ急いだ。巨大生物はもうすぐそこまで迫っているとの事ですので」

 

 目聡く気付く茨城博士に対して、やや刺々しい返しを行う保坂誠也。

 会話の細かい応酬を重ねながら、茨城博士はスレイプニルのコンソールパネルを操作する。

 

「性分でね。さ、準備は整った。いくよ」

 

 茨城博士がスロットルを握ると、スレイプニルは勢い良く加速した。

 その後は自動運転となっているらしく、気だるげに懐に手を伸ばした彼女は、再び煙草に火を点けた。

 

 移動速度は、時速60km程度だろうか。周囲の風景が地下通路と淡い電灯のみなので、正確な感覚が得辛い。

 私は周囲を警戒しつつ、最も行動の読めない保坂誠也の行動に注意を払う。

 地下通路はほぼ一直線で、どれほどの距離か明かされなかったその目的地へ向かっていく。

 

 その間、私は先ほど茨城博士と保坂から聞いた情報を反芻する。

 

 ――EDF戦略火器保管庫。それが我々の目指す目的地らしい。

 EDFの管理設備一覧に、そのような名前の設備は存在しない。

 その事を問い詰めると、いつになく真剣な表情で、こう返された。

 

「これを聞けば、もう真っ当な軍人には戻れない。そう思った方がいいさね。キミは恐らく、そこの男に嵌められた。だがワタシが口を割らなければ情報は制限されるだろうさ。それでも、聴くかい?」

 

 情報が漏れたことが悟られれば、私も茨城博士も軍法会議の後、どこか遠い前線への懲罰部隊行きか、もしくはシンプルに銃殺等が待って居るだろう。

 だがそれでも、二度と戻れない可能性がある事を承知の上で、私は深淵に脚を踏み入れる。

 

 曰く、その保管庫には『全地球防衛条約:戦略規格外”禁忌”指定兵器』と言われる、まあ簡単に言えば強すぎて禁止された兵器群を、日の目を浴びない場所に保管する為の倉庫だという。

 ただし、それらの兵器は使用不可能な状態や、何かしらの致命的な欠陥を持つ運用不可能な火器類ばかりで、それを茨城博士は”失敗兵器の廃棄場”と揶揄した。

 

 当然、それらの兵器は運用に足る状態ではない為、例え協力であろうとそれを扱うのは困難を極める。

 なるほど、茨城博士にしか出来ない仕事という訳だ。

 

 また、保坂の目的もやはりその場所であるようで、反EDF組織に属する彼は、そこでEDFに非人道兵器・非人道実験などの記録を得ようとしているようだ。

 目的を知り、知ったうえで警戒を解くべきではないと判断した私は、彼に向けた対巨大生物用の拳銃を下ろす事は無かった。

 

「色々と話したんだからいい加減、そんなに物騒なものを向けないでくれよ。何もすぐ反乱を起こそうって訳じゃない」

 

「信用出来る要素が欠片でもあったと思うのか? 仮にもテロ組織である貴様らに、易々と情報を渡す事など到底出来ん。余計な事を企むのは止めるのだな」

 

 いつもの笑顔ではぐらかす保坂だったが、私が拒絶の意思を示すと、途端に軽薄な笑みを消した。

 

「――正直、我々もフォーリナー襲来の事は予想できなかった。今の戦争にはEDFが必要だ。それは認めよう。だが終戦後、世界中の国家は自治権を許されず、EDFの奴隷となるだろう。最強の軍事力を持つEDFに逆らえる組織は存在せず、恐怖による監視体制――所謂、ディストピアが先には待って居る。それでは、異邦人(フォーリナー)に勝利したとしても、救いが無さ過ぎる。どんな手段だろうとそれを防ぐのが、我々”曙光會”の組織的目的だ。――ま、そんなところサ」

 

「……なる程。それが貴様の本当の”顔”か。ふん、そんな事はフォーリナーに勝利してから言うのだな。未来予知か予言かでもあるまいに、妄言虚言の類で私を惑わせると思ったか」

 

 冷徹なまでの理想への追求。救世を目的に、その他すべてを悪と断じる正義陶酔。そんな感情の片鱗を見せる保坂。

 彼の語る言葉に真実など存在せず、ただの根拠の無い妄想に過ぎない。

 そのような不確かな言葉を軸に、EDFに対し敵対行動を取るというのであれば、この場での排除も止む無しか。

 

 しかし、問題はこの場で彼らを敵に回すと、私はともかく茨城博士を守り切る自信は無い。

 保管庫への道筋を知っている茨城博士を、簡単に殺害するとは思えないが、殺さなくても連れて行ける方法など幾らでもある。

 先手を打てば保坂一人なら無力化出来るだろうが、本当に後ろから構成員共が追って来ていないとは言い切れない。

 

 仮に曙光會と完全に事を構えるとして、それらから彼女を守り切り、かつ彼らを無力化し、刺激された巨大生物の群れも突破し、場所も距離も不明な保管庫まで彼女を護衛できるか――不可能だ。

 

「――と、キミはそう考えている。つまり、彼を幾ら刺激しても無駄だよ。ワタシらは、策に嵌ったのさ。大人しくしとくのが最良さね」

 

 私の思考をトレースした茨城博士が、嫌に冷めた目を私に向ける。

 反論の余地のない完璧な推察だ。確かに現状どうする事も出来ない。最後の一言を除いて。

 

「ふっ、果たしてそうかな? 保坂誠也。貴様、まだ他に目的を隠しているだろう?」

 

「さて? どういう事かな?」

 

 相変わらず私に対しては飄々とした態度を崩さない保坂。これも保坂の手のひらの上での事だとしたら気分が悪いが、今更振り上げた拳を元に戻すことは出来ない。

 

「なに、単純な話だ。貴様、茨城博士にくっついて保管庫の場所を暴こうという算段らしいが、なぜそんな回りくどい真似をした? 先技研の横流し品を受け取るだけのパイプがあるなら、その先技研から情報を得ればよいではないか。太いパイプとやらがあるのだろう? 或いは、そこから探る事が不可能なほどの重要機密だとしたら、今度は茨城博士。貴女が場所やセキュリティパスを知っているのが怪しくなる」

 

 EDF戦略火器保管庫が、一般の情報に出回らない軍事機密に該当する事自体は明白だ。

 では、茨城博士が知っているのは何故か? 恐らく、内部の兵器が特殊な故、EDF極東軍が協力を要請したのだろう。

 それ自体は問題ではないが、その情報をEDF先進技術研究所が知らないというのは不自然だ。

 むしろ、EDF戦略火器保管庫は先技研の管轄と考えて良いだろう。

 であるならば、その情報を曙光會が予め調査していないとは考えづらい。わざわざリスクのある同行などという手段は取らないだろう。

 

 故に、何か現地で同行し実行する為の目的があるはずだ。

 

「もう一つ。茨城博士と協力関係を結んだと言っていたな? その内容として、貴様は彼女を護衛する必要がある訳だが、そんな部下を全員置いて行ってしまってなんとする? 答えは簡単だ。貴様は、ある程度確度の高い情報として、既に戦略火器保管庫とやらの位置を特定し、そこにあらかじめ部下を送り込んでいるのだ。それらの目的は、恐らく保管庫の内部兵器の情報収集。では、貴様の目的は何だ? 茨城博士に、何をするつもりだ!」

 

 これだけ機密性の高い危険な橋を渡りながら、救難信号を発信し、私か、或いは他の何者かを誘い込んだのも、その目的が見えない。

 巨大生物を刺激して茨城博士への護衛をせざるを得ない状況を作り出そうとした結果、思いのほか釣れ過ぎたので、誰でもいいから援軍を――そんなやらかしでない事は分かる。

 そんなに見通しの甘い男ではない筈だ。

 

 ただ、これらは単に私の勘繰りがもたらした結論だ。

 我ながら多少こじつけが過ぎるので、否定しようと思えば幾らでもできる。だが保坂誠也は、微笑の仮面を貼りつけた顔で無言を貫く。

 

「どうした? まさかこの程度の探りに対し、答えを用意していない訳ではあるまい。尤も、否定したところで貴様の不自然な行動の疑惑は拭えんがな」

 

 大胆なこじつけを交えた揺すりも、反応が無ければ意味が無い。どうしたものか、そう思っているとようやく保坂が口を開いた。

 

「まったく。茨城博士と言い君と言い、どうしてそう余計な事に首を突っ込むのか。……と言いたいところだけど、まァ見破られるのは予想の範囲内サ。そこまで君がこの事件に干渉したいと言うなら、こちらも腹を決めよう。――僕の目的は彼女、茨城尚美の懐柔。もしくは暗殺さ」

 

 暗殺――聞いて警戒を強めるが、殺すだけならばとうの昔に実行も可能だっただろう。

 第一、私という第三者を招く理由にならない。

 となると懐柔の為か……いや本質を見誤るな仙崎誠。

 懐柔も暗殺も、別にこのような火急の場でなくてはいけない理由にはならない。

 そこを探るのに欠けている要素は――

 

「ほう? 物騒な事言ってくれるじゃないか。ふーっ。……ワタシにそんな、労力を割く価値があると? ふっ笑えるね。EDFや政治家連中を憎んでいるのなら、ワタシは最も価値の無い人間さね。他を当たったらどうだい?」

 

 語尾を静かに強める保坂に対し、茨城博士は煙を吐き出し、自虐的に吐き捨てる。

 その投げ遣りな様子、やはり違和感がある。

 

「貴女は、我々反EDF組織に必要な人材だ。EDFや日本政府に利用され、EDFに与する組織の深淵を貴女は見ている筈です。それに私は、今の貴女の目的を、絶対に阻止する必要がある」

 

 EDF。日本政府。保管庫。利用。密約。反EDF組織。禁忌指定兵器。深淵。

 今までの断片的な情報を繋ぎ合わせて憶測を作る。

 深入りは避けるべきか? いや、状況に流されるだけの駒となるのは性に合わん。

 ならばせいぜい掻き回してやろう。

 

「――やはりな。貴様らの会話で合点がいったぞ。どうやら真の目的を隠しているのは茨城尚美、貴女もだな。日本政府が貴女を利用し、反EDF組織に都合の悪い展開。それは恐らく、内部兵器の完全抹消――いや、或いは保管庫自体の爆破と私は考える。日本政府が企んでいるのは、ソラス討伐などではなくソラスにいよって周囲が制圧された後、禁忌指定兵器とやらを彼らに鹵獲される可能性の排除だな。そして貴女は、それを良いように解釈し、その保管庫の爆破を以って、ソラス討伐を考えた。それはいい。だが貴様、よもや保管庫と運命を共にしようと言うのではあるまいな?」

 

 茨城尚美は、普段からテンションの低い科学者だ。

 いつも目の下に隈は出来ているし、女性にしては低く重たい喋り方をする。

 だが、曲がりなりにも科学者としてのプライドがあったし、”英雄”というものに拘る彼女は、裏を返せば人類の底力を信じていた。だが、

 

「今の貴様は、足掻く意思というものが感じられない。巨獣ソラスを討伐すると宣いながら、余りにも厭世的だ。生き抜いて、奴を人類勝利への礎としてやろうとか、そういう意思が全く感じられぬのだ。それはつまり、ここで命を擲つのだという気がしてならないのだ。憶測だが、保管庫の何かしらの権限を握っている日本政府に、貴女の命は握られている。違うか? 茨城尚美よ」

 

 私の理路整然に見えて、実は殆ど推測と予感でしかない話を聞いて、博士は紫煙を吐き出し薄ら笑う。

 

「ふーっ。くくく、まったくキミには驚かされる。ああそうさ。ワタシは、日本政府とある密約を結んでいる。しかるべき時が来たら、ワタシは保管庫と運命を共にする契約さ、それが今だったというだけさね。だがまあ、ほんの悪足掻きくらいはさせてもらおうと思ってね。――キミらには反対されるだろうから黙っていたんだが、ここまで見抜かれちゃしょうがない。ホントの作戦を話すとしようか」

 

――――

 

 ――茨城博士の話す、保管庫爆破作戦はこうだ。

 まず、件の目的地、『EDF戦略火器保管庫』とやらに着いたら、セキュリティを解除し内部に侵入。

 地下格納庫へ潜り、試作型のエナジージェム式反応炉(エナジーコア)に火を入れる。 

 

 すると、フォーリナーの動力源であるエナジージェムと共鳴反応が起こり、周囲の巨大生物が殺到する。

 同時に、巨獣ソラスをも引きつけ、誘導する事が可能だ。

 恐らく地下上層設備は破壊を受けるが、厳重に封鎖してある反応炉までの侵攻には時間が掛かる。

 

 そして巨獣ソラスが保管庫に到達すると同時に、反応炉を暴走させて周囲諸共灰塵にする作戦だ。

 

エナジージェム式反応炉(エナジーコア)の無制御反応――所謂チラン反応は、文字通り周囲の空間を削り取る程度の威力はある。臨界まで多少時間はかかるが、制御を解除し暴走させるだけならそう難しくはない。恐らく、奴を倒せるとしたらこれだけさね。――おっと、また来たようだ!」

 

 茨城博士は説明と同時に、ステアリングを操作する。

 横壁を破壊して抜けて来た巨大生物を回避し、後を追われる前に私と保坂が迎撃。狭い廊下に銃声が木霊する。

 博士が説明を始めた頃から、急にこうした散発的な襲撃を受ける機会が増えた。厄介なことに些か数が多い。

 

「しかし、保管庫にある幾つもの禁忌指定兵器は内部構造の崩壊を起こし、周辺に未知の深刻な汚染を残す! 貴方がやろうとしているのは、日本国土の汚染と破壊ですよ! そんな行為を、僕は絶対に許す訳にはいかない!」

 

「日本政府に救われた身だ。ワタシに拒否することは出来ないし、するつもりもない。”魔女の咎”ごと、全て背負って無かった事にしてやるさ。お前達反EDF組織は、魔女の遺したモノを大層嫌っていたはずだがね」

 

「その消し方に問題があるという事を、科学者である貴女が理解できない筈が無いだろう!? まったく魔女に魅入られた奴はどいつもこいつも……」

 

 茨城博士と保坂誠也が戦闘の最中不毛な言い合いになる。

 唐突な”魔女の咎”という単語に不穏な気配がするが、二人の主張はおおむね理解した。

 自爆など到底許せないが、それについて是非を問う前に、

 

「ちっ、前方からまた反応だ! 言い合いは一旦止めるのだ! どうする!? とても突破出来そうにないぞ!! まったくどうしてここだけこうも集まる!」

 

 巨大生物の襲撃は予想していたが、それにしたって数が多すぎる。

 或いは、ここはもう保管庫の目前であり、なにがしかの理由で巨大生物が刺激されたか。

 

「仕方ないねぇ。非常時だ。目立つが車輛用のエレベーターを使い、一度地上に戻ろう。地上からの資材搬入用のゲートを使って、地下の保管庫に再侵入する。……尤も、地上の安全は保障できないがね」

 

 茨城博士の提案に反対は無い。

 巨大生物を潜り抜け、スレイプニルは脇にあるゲートを潜りエレベーターを登った。

 

「保坂、念の為聞くが、貴様の部下とやらはこの辺りに待機していないのか? 緊急事態だ。誤魔化しはいらんぞ」

 

「理解しているよ。部下を一部先回りさせている事は認めるが、まだ少し先のはずだ。それに地下通路の経路にだいたい当たりを付けて、その真上は避けさせている。巨大生物を刺激しないようにとの作戦だったけど、これは……」

 

 思い当たる節があるのか、真面目な顔で考え込む保坂。

 何か問い詰める前に、茨城博士がロックを解除し終え、地上を見る。

 

 ここで、真っ先に巨大生物の餌食になる可能性を捨てきれなかったが、警戒する我々の目には、巨大生物は映らなかった。

 その代わりに、ここで広がっていた光景は―― 

 

「……巨大生物が、(たお)されている……?」

 

 体液を流して息絶えている、α型やβ型を始めとする巨大生物が積み重なっている。

 地面は所々抉られ、木々は焼け落ち、激しい戦闘があったことが思い知れる。

 

 何があったのかと問う前に、保坂が忌々しく空を見上げた。

 

「これはまさか……――ちっ、茨城博士、上を!!」

 

 空を仰ぎ、これまで曲がりなりにも飄々とした態度を崩さなかった保坂や、気力の無い茨城博士の二人は、明確な焦りを浮かべる。

 

「まさか、先技研の実行部隊!? 先を越されたか……! 茨城博士、貴方にとってもまずい事でしょう。急いでください!」

 

「……そうさね、反応炉の制御機能を奪われれば、ソラスに対抗する術は無くなるからね。随分と、嗅ぎつけるのが早い」

 

 二人が仰いだ上空には、黒塗りの大型ヘリと”思わしき”機体が複数飛び去って行く様が見えた。

 ”思わしき”と表現したのは、その大型機体には凡そ推進機構――プロペラやジェットエンジンのようなものが一切確認できなかったからだ。

 まして、プラズマエネルギー特有の軌跡も見当たらない。”浮遊”と言い換えてもいい。

 

「そんな高度な技術、まだ研究段階にも達していない筈だ。EDF先端技術研究所の継続可能な研究に、浮遊飛行など、まだ載ってすらいなかったが、一体……」

 

「ふーっ。そんなものを頭に入れているなんて、勉強熱心な事だ。だが結論としては惜しい。奴らは、そんな公的な組織じゃないさね。あの飛行原理、何かに似ていると思わなかったかい?」

 

 そうだ。あれはまるで、フォーリナーのガンシップやレイドシップのような飛行方法で――。

 そこまで考えて、はたと思い当たる。

 

 以前、紛争時代にそんな噂話を聞いた事がある。

 与太、怪談の類と切り捨てていたが。

 

「まさか――秘匿508号……! 南極のOVUM-68(異邦人の船)を元に、公に出来ない研究をしているとかいう、あの秘匿機関……!? 彼らが、保管庫から兵器を回収しようとしている?」

 

「よく、知っているね。ま、そんな組織が厄介ながら保有する、武力を伴った無法の実行部隊。そう考えていいさね」

 

 驚く私を正面に捉えた茨城博士は、嫌悪感で引き攣った口元を吊り上げながら、その口からまたも軍事機密を吐き出す。

 

「EDF先技研の厄介者、神をも恐れぬ異端研究者、箍の外れた狂信者。それら魔女の咎を煮詰めたような性悪共の集まり。先進に対比する”異端”を扱う、科学者紛いの無法集団。――EDF異端技術解析保全局。或いは潜在的テロ組織異端の方舟(イレギュラー・アーク)とも。人類が崇め恐れた極北の魔女、ルフィーナ・ニコラヴィエナの意思を継ぐ者達さね」

 

 さんざんな言葉を並べたのち、科学者共がテロリストとはね、と両手を竦め呆れた様子を見せるが、私が気になったのはただ一点のみだ。

 

「ルフィーナ・ニコラヴィエナ……!! 奴の、意思を継ぐ者だと」

 

 その名を反芻し、脳内に戦慄が走る。

 

 公には存在が秘匿されるほどの危険人物であり人智を越えた超天才科学者。

 彼女が引き起こしたとされる”ディラッカ事変”には、私も関わった事がある。

 あの事件の結末として、殺害されているが、異様な魅力とカリスマ性を持っていた彼女を崇拝する組織は、今なお多いと聞く。

 イレギュラー・アークとやらもその一つ……いや、ニコラヴィエナの所属していた先技研が母体である以上、事実上の後継組織という訳か。

 組織の詳細も気になるところだが、

 

「解説は後だ! 戦闘が起きると厄介だが……これは、一筋縄ではいかなそうだよ!」

 

 保坂が声を上げる。

 同時に、目的地にたどり着く。

 

 ここが、茨城博士の言うEDF戦略火器保管庫。その資材搬入ゲート付近だろう。

 ただし他と同様擬装されており、事前に知っていなければそれとは決して分からない。

 

 しかし今に限っては、ここがその重要拠点であると一目で理解出来た。

 なぜなら、我々が停車したその先には、二つの組織が互いに銃を向け、睨み合いをしていたからだ。

 

――――

 

「銃を降ろしなさい簒奪者よ。アナタ方が守るその兵器は、元は我々の所有物であり、全人類の勇気の結晶です。この危機に対し、自らそれを捨ててしまうというのは、ああぁァ、なんて勿体無い事なのでしょう!! そう、思いませんかァ?」

 

 ――劇場的に、派手な身振り手振りで大げさな声を出すのは、EDF異端技術解析保全局の責任者であり、潜在的国際テロ組織異端の方舟(イレギュラー・アーク)の代表でもある狂信者。アレフリー・ジョイ・ドレフニコス局長。

 

「黙れ。魔女の残滓め。貴様らが行っている行為は、日本国政府及びEDFの決定条項に違反する重大な内政干渉だ。全人類の勇気の結晶だと? 反吐が出る! EDFの名を騙り、暴虐の限りを尽くす悪魔崇拝者め!!」

 

 ――激情的に、燃え盛る殺意を籠めて睨みつけるのは、日本国陸上自衛隊-特殊作戦群-”甲施設”警備部部隊長、黒部直明二等陸佐。

 

 そして、理解を超えた一触即発の雰囲気に一瞬足を止めた私は、背後から新たな殺意が迫り来ていることに気付き銃口を向け振り返る。

 

「総員、武器を捨てろ。手荒な真似はしたくない。反抗すれば、手足の数本は千切れ飛ぶと思え! この施設は、EDF戦略情報部が接収する」

 

 ――威嚇的に、その場一体に広がる低音を響かせるのは、EDF戦略情報部傘下の遊撃特殊部隊――グリムリーパー隊長の、アルマウト・グリム・アヴィス大尉だった。

 

 仙崎誠、保坂誠也、茨城尚美。

 立場も主張も異なる三者に加え、多数の組織がここに集結する。

 

 巨獣ソラスが進撃する中、EDF戦略火器保管庫を巡る、混沌とした状況が始まった。

 




はい、という訳でまた新キャラ増えました~
キャラ紹介はネタバレになる(といってもすぐ分かる)ので省略。

本筋とは関係ないけどSDL4スレイプニルなる謎の乗り物を生み出してしまった。
エアバイクもどこかで活躍させる機会があればいいな。

EDF:IR用語であるエナジージェム(エナジーコア)、EDF6用語であるチラン爆雷を上手い事繋げられたのでここは良かったかなぁと。

チラン爆雷のチランってなんだ?って調べてもなーんも出てこなくて割と途方に暮れていたけど、
このEDF戦記では、エナジージェムによる化学反応(核分裂or核融合に似た何か?)をチラン反応と定義します。
そしてチラン爆雷の着弾時のキラキラ光ってるように見えるアレは、時空間の裂け目と仮定し、つまりチラン反応とは四次元~五次元に影響を及ぼす化学反応であることにします(何を言っているんだ?)
この世界の物理現象によって物体を損壊させるものではなく、次元そのものの崩壊による副次的な効果として物体が損壊するという結果が残る。
ちょっといい例えが思いつかないけど、アプリをアンインストールするのではなくスマホそのものを叩き壊して消す……みたいな?わからん。
ただフォーリナー側はこれを転送装置として活用しており、レイドシップやアンカー、或いは皇帝都市アダンの空間転送なんかもこれの応用。
ちなみにEDF戦記現段階だと扱いが難しいのでまだ兵器化はされておらず、搭載予定の潜水母艦の方が先に完成してしまった設定。
まだ実用化するには強すぎるもんな……。ただ当然時空間に作用するくらいなのでリスクがやばい。

しかし、なんでアレ爆雷なんだ……ミサイルじゃないのか……。
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