全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

115 / 132
第八十三話 乱戦は止まず

 地鳴りを起こし地面が揺れる。

 地表を突き破り、悍ましく醜い巨大生物が出現。

 

 先陣を切ったのは固い甲殻と俊足を持つ、侵略性巨大外来生物α亜種。

 その後から、α亜種の倍は居ようかというα型通常種がうじゃうじゃと湧いて出て来た。

 ――直後、巨大生物を襲うのはいち早く射撃をした赤いニクスのリボルバーカノン。

 本来軽量化されたレッドフレームでは扱いづらいそれを、安藤少尉は巧みに操り巨大生物を屠る。

 

 しかし、保管庫の入り口を囲うように地中から出現する巨大生物に、一機のニクスでは対処は出来ない。

 それを補うように、陸自特戦群の黒部二佐が命令を発す。

 

「射撃開始! 奴らを保管庫に侵入させるな! 内部には防衛戦力は無い。ここで止めるぞ!」

 

 続き、グリムリーパーに銃口を向け威圧していた3機のニクスに、安藤が罵声を飛ばす。

 

『何ボサっとしてんだバカか!? アイツらは一旦放っといて巨大生物撃ってくれよ! このまま保管庫がやられたらマズいだろ!? そうだろ保坂! って居ねぇ! ドコ行ったんだアイツは!?』

 

 通信で保坂を呼び出そうとするが、通信圏内には見つからない。

 順当に圏外へ行ったとは考えられないので、応答を拒否している状態に近いのだろう。

 ともかく、保坂の動向に考えを巡らすよりも早く、安藤の声に同じ部隊のコンバットフレームが結論を出す。

 

『それも道理か。仕方ない、ここはブレイブ6の意見に従うぞ。ブレイブ4、グリムリーパーへの牽制を止め、怪物共の迎撃に移るぞ』

 

『承知した! 日本を食い荒らす害虫どもめ! いずれ曙へ至る為、一匹残らず駆除してやる!!』

 

 彼らの所属も恐らく曙光會なのだろう。些か強めの思想をちらつかせつつ、速やかに巨大生物を駆逐していく。

 常識型破りの安藤少尉と比較し、小隊を組んでいる二機のコンバットフレームの動きに一見目を見張るものは無いが、一つ一つの動作は精錬されており、いずれも凄腕のニクスパイロットと称して構わない程度の実力を持っていた。

 

 彼らが駆るのは一般的なニクスC型だが、武装は幅広い状況に対応可能な遊撃戦仕様である。

 左腕リボルバーカノン、右腕ロケット砲、両肩部にミサイルコンテナを装備しており中遠距離に於いて安定した戦闘能力を誇るが、現在の様な差し込まれた状況ではやや不利だ。

 

 対して、近距離戦であれば安藤の駆るレッドフレーム型のニクスの固定兵装である肩部大型散弾砲が絶大な火力を出す。 

 左右にあったリボルバーカノンは一門に減ったが、その戦闘能力は依然味方に付ければ頼もしい限りであった。

 

 そして、そんなチャンスを逃す彼らではない。

 傲慢な高官と、狂気の崇拝者が動き出したのは同時だった。

 

「今だ死神部隊! 混乱に乗じ、”魔女の残滓”と特戦群を血祭りに上げろっ!! 一人も生かして返すんじゃない!! 人類の勝利の為、不穏分子はここで消え去るがいい! ははははは!!」

 

「おお……我が師よ! そして、崇高にして偉大なる”司祭ファティマ”よ! これぞ、貴女が恵んでくださった天啓なり!! 予言の成就こそ、我らが宿願ッ! ならば! (ワタクシ)は!! 狂喜を持って障害を打ち滅ぼさん!! 征くが良い黒翼(アラ・アートラ)よ!! これは聖戦であるッ! さあ! 我が道を阻む全て、皆殺しになさい!!」

 

 ロイグ大佐とドレフニコス局長が部下へ攻撃を命令し、それぞれの部隊が動く。

 同時に、巨大生物の出現箇所を叩いていたレッドフレームの弾幕を抜けて巨大生物が迫る。

 抜けて来た敵には、散弾砲を即座にお見舞いするが、

 

『クソッ! 手数が足りねぇ!! しかもまだ出てきやがる!!』

 

『ブレイブ6、背後が心配だ。奴ら、後ろから刺す気だぞ』

 

『お前は怪物を食い止めろ! お前の言う通り、保管庫が蟻共に占領されるのは避けたい! だが他勢力に保管庫を取られれば、当初の目的が果たせなくなる!』

 

 二機のニクスは射撃を止め、反転して背後から迫る黒い翼の狂信者たちに砲口を向ける。

 

『あっ、馬鹿! そんな事やって食い止められる訳ねーだろ! あーもう訳分かんねぇクソ!!』

 

 砲身が過熱したリボルバーカノンを休ませ、肩部散弾砲の斉射で向かってくる巨大生物を撃ち殺す。

 貫通した大型の散弾は、数体の巨大生物を纏めて薙ぎ払うが、その奥から酸の雨が安藤のニクスに降り注ぐ。

 

 一方、背後では人類の敵を交えた人類同士の争いが激化していた。

 

 戦場を掻き回したのは自らを”EDF異端技術解析保全局(イレギュラー・アーク)”と名乗った実働部隊、通称”黒翼(アラ・アートラ)”。

 空中を橙色の軌跡を残し飛び回るジェットリフターは、グリムリーパー、自衛隊特戦群、そして反転した曙光會のニクスに無差別に攻撃を開始した。

 同時に、巨大生物の一群に攻撃を仕掛けた後移動し誘引する”釣り”を行い、戦場になおも混迷をもたらした。

 

「グリムリーパー、動くぞ! グリム2、巨大生物を迎撃! 残りは俺と来い、あの厄介な翼を黙らせる」

 

「死神!! さっさと邪魔者を排除し保管庫へ私を連れていけ! この解除コードは直接入力する必要がある! 混乱している今がチャンスだ、早くしろ!」

 

「――俗物め。巨大生物の殲滅を優先したいところだが、状況が悪いな」

 

 ロイグ大佐の思惑通りに進みつつある現状に苦い顔をしながら、死神はそこに乗る事を選ばざるを得ない。

 なぜなら、彼らの盾の背後へ回り込み、背中を銃で撃ち抜こうとする輩が居るからだ。

 

 そしてその双方を相手取り、ここを護り抜く意思を一層固めるのは、

 

「この辺りが、切り札の出しどころか。よし、全自動銃座起動。識別装置を持たない奴らを、全て排除する」

 

 黒部二佐が遠隔起動のスイッチを押すと、森の周囲に擬装された陸上自衛隊製の自動銃座が起動した。

 性能・火力はEDFのものと比べるべくもないが、先ほど仙崎が破壊したものよりは高性能のようだ。

 銃身には対物狙撃ライフルが取り付けられ、射出される12.7mm対物狙撃弾は生身の人間であれば掠っただけで手足を吹き飛ばす。

 

 フェンサーであるグリムリーパーや、フェンサーに近い強化外装を纏うジェットリフター、主力戦車並みの装甲厚を持つニクスには大した脅威とはならない。

 が、生身である曙光會のゲリラ兵、ロイグ大佐、ドレフニコス、そして半壊したアーマースーツを着こみ全ての武装を失っている仙崎には非常に脅威となりうる代物だ。

 

 巨大生物に対しても、α型程度なら効果を発揮するが、従来軍の主力戦車級の甲殻を持つα型亜種に対してはよほどいい場所に当たらないと効果は無い。

 

「──って事はぁ~、この場所には盾が山ほど転がってるって、そう言う事じゃんねぇ~~!!」

 

 彼女を狙う対物狙撃弾は悉くα型亜種に阻まれ、α型亜種の牙もまた彼女を捉える事は出来ない。

 そうして自動銃座に接近すると、

 

「AI如きに、人間様の動きが簡単に読まれるもんですかってねぇ! きゃははっ、きゃはっ!!」

 

 握ったアマツバメを一閃。自動銃座は基部を両断され機能を停止した。

 ドレフニコスに袈裟斬りにされ、保坂のリムペットガンの起爆を直接受けたにもかかわらず、彼女──朱燐華(チュ・リンファ)はその動きに精彩を欠いている様子は無かった。

 

「なんだあの女は不死身か!? だいたい保坂の奴はなんだ! 止めを刺せとは言わんが拘束して移送するなり武装を奪うなりしていないのか!? 貴様のとこの指揮官はどうなっている! というかどこへ行った! 姿が見えんが!?」

 

『こっちが知りてぇよ! それより早くしろ! 棒立ちで酸と狙撃弾受けるのはさすがにきちぃって!』

 

「分かっている! よし、装備はこれでいい! 助かった礼を言う! まったく怖いくらいの気の利かせ方だなあの男は!」

 

 仙崎は先の助言を思い出し、ニクスに格納された補給物資を漁っていた。

 その中には、保坂のエアレイダーとして、或いは少佐としての地位を利用して集めた少量のレンジャー用の武器が入っていた。

 仙崎は連射式ショットガン”スパローショット”と、EDF協力民間企業D.R.O.Sアームズ社の開発したツリーフロッグ型グレネードガン”アンガー”とその弾薬類、更に少量の活性治癒剤、電磁ナイフや対怪物用9mm拳銃など基本装備を手に入れた。

 

 利用されているのは明白だが、既に話にならないレベルで装備を失っていたので、渡りに船と言えばその通り。

 一方で仙崎は、保坂の用意したレールの上を順調に走っている気がして、彼の底知れなさに不快感や不信感の類を感じざるを得ない。

 

「だがまあ、義理はどこかで返してやる必要があるな。こちらも、遠慮なく利用させて貰うとしよう!」

 

 グレネードガン”アンガー”を射出。リロードに独特の癖があり扱いづらい武器だが、引き鉄や速射性能に関して申し分なく、火力と爆破範囲は本当に民間企業が仕上げたのかと疑う程の出来だ。

 巨大生物の群れに火柱が上がり、α型、その亜種問わず死骸が飛ぶ。

 その死骸を盾にし、狙撃弾からの隠れ蓑にすると、それを上から察知した安藤のニクスがリボルバーカノンで破壊。

 彼に寄る巨大生物を、仙崎はスパローショットで粉砕する。

 

 ──一方、保全局の黒翼部隊(アラ・アートラ)と、彼らを纏める局長ドレフニコスは特戦群の猛攻に手を焼いていた。

 

「ふむ。あまり良い状況ではありませんねェ……」

 

 足元を穿った狙撃弾を一瞥し、ドレフニコスは煩わし気に被った土埃を落とす。

 彼の周囲には複数の”黒翼”が常に囲い、狙撃から彼を守りつつ付近の敵対組織の人間や巨大生物を攻撃している。

 

 特戦群の狙撃兵は空中を飛翔するその黒翼を次々と狙撃しており、生身への直撃を回避しつつもその翼は折られていく。

 同時に狙撃地点をある程度割り出した黒翼部隊は、その機動力を以って既に大半の狙撃兵を戦闘不能に追いやっていた。

 

 一進一退、いや保全局にとっては少々分が悪い。

 特戦群は森に戦力を潜り込ませており、狙撃仕様の自動銃座も合わせてその全容は今を以って不明。

 装備が劣る事を考えても、この場に於いて最も戦力は高い。

 それ故の巨大生物誘引だったが、ここに来てドレフニコスは複数の特戦群隊員に囲まれる羽目となった。

 

「投降しろ、アレフリー・ドレフニコス。拘束し拷問にかけ、貴様ら異端の方舟(イレギュラー・アーク)の実態を暴いてやる」

 

 特殊作戦群、精鋭隊員の一人が警戒しつつ、提案と言うには憎悪の強すぎる警告を放つ。

 ドレフニコスと翼を折られた黒翼兵が三人、その周囲には彼らを狙う自動銃座とスコープを合わせ森に溶け込む狙撃兵、更に目に見える範囲で多数の特戦群隊員が小銃を構えている。

 

「おっと。これはこれはどうもご丁寧に。さっさと殺してしまったら良いものの、欲を出しましたねェ?」

 

「──怪物です! 怪物が接近!! 止められません!!」

 

 怪物──巨大生物数体が完全包囲されたこの場に雪崩れ込んできた。それも恐らく、ドレフニコスの策の一つ。

 

「巨大生物、α型亜種が7体! 我々の装備では!」

 

「止むを得ん! 自動銃座の優先目標を巨大生物に!! 12.7mmなら多少は歯が立つはずだ!」

 

「ちっ。場が乱れたな」

 

 精鋭隊員は静かに舌打ちすると、既にドレフニコスは動いていた。

 

「フフ、良い仕事ですね。では少々、本気を出しますか。君、銃を」

 

「は」

 

 隣の部下に差し出された黄金の意匠をされた二丁の拳銃を受け取る。ドレフニコスはその老獪めいた顔を歪め、

 

「では」

 

 一言。その言葉を投げかけられた特殊作戦群の精鋭隊員は、両腕を一瞬で撃ち抜かれ、その事実を認識した瞬間には拳銃を頭に付き付けられ人質に取られていた。

 その動きに反応し、自動銃座はドレフニコスに銃身を向けるが、

 

「ンンーー他愛なし! 所詮時代遅れの旧式AIと大雑把なセンサーですねェ! こうしているだけで識別ビーコンが反応し、(ワタクシ)と友軍を混同し認識不良を起こすのですから!! ジョンソンの造ったZE-GUNが玩具だとしたら、アナタ方のそれはなんと形容したら良いモノか!! (ワタクシ)はそれを、語る言葉を持たない!!」

 

 陸自の自動銃座について散々な評価を下しながら、ドレフニコスは付近の精鋭隊員を次々と無力化していく。

 黄金の意匠の入った銃は単なる拳銃だったが、ドレフニコスは精鋭隊員の急所を守るボディアーマーを避けるように確実に撃ち込んだ。

 時には割り込む巨大生物を盾にし、利用し、飛んでくる酸すら回避しながらの芸当だ。

 

 手元で暴れる隊員を無理やり押さえた直後、視界にとらえた黒い影が急接近。

 戦略情報部の死神――グリムリーパー隊長だ。

 

 射出されたスピアを前に意識を向けたドレフニコス。その一瞬に、健在な両足を駆使し拘束を逃れる自衛隊員。

 ドレフニコスは自衛隊員の頭を狙い射撃。しかし弾丸は射出された槍にかき消された。

 その間に割って入る巨大生物の牙がドレフニコスを襲う。彼は身を低く屈め、牙を躱すと同時にα型の口内に弾丸を早撃ち。四発。

 撃たれた腕を無理やり動かし応急処置する自衛隊員を突き飛ばし、飛んでくる酸を受け止めた死神は再び槍を射出。α型を貫いた槍の先端から出るプラズマ噴炎が、ドレフニコスを襲うが、もう彼はそこにはいなかった。

 

「生身。しかもその年齢でこの動き、か。パワードスケルトンを着ている自分が情けなくなるな」

 

「謙遜を。部隊の半数を分け、この場の巨大生物の殆どを狩っている貴方には称賛を送りますよ。だが、そのパワードスケルトンの基礎理論は誰が構築したとお思いですかァ? 諦めなさい。人類の叡智を武器とする我ら科学者に、それを邪魔する破滅主義者が叶う筈が無いのですよォ」

 

「良く回る口だ。頭脳は本物なのだろうが、排他的に過ぎるな。戦略情報部の決定に従い、ここで排除する」

 

 互いが互いに、人類の勝利に相手は不要と考える。

 目指すべきは人類の勝利。それは分かっていても、決してその道程で相容れぬものが互いの組織には存在した。

 故に彼らは、人類共通の敵を利用してでも、殺し合いを続ける。

 

 一方、日本を拠点とする反EDF組織”曙光會”に属する二機のニクスと多数の構成員たちは、特戦群が設置した多数の自動銃座を潰しつつ、突破を図っていた。

 当然、特戦群はこれを迎撃する。

 

「――あのニクスは厄介だな。たった二機とは言え、自動砲座の殆どを潰された。だが、恐らく残弾は少ない。歩兵と違って、弾薬の輸送や補給に手間がかかる。付け入るとしたら、そこだ」

 

 黒部二佐は対戦車誘導弾の発射を指示し、多数の弾頭がニクスへ直撃する。

 火力不足とはいえ、徐々に装甲と駆動部へのダメージは蓄積している。

 加えて、雪崩れ込む巨大生物が、ニクスらに苦戦を強いる。

 

 しかし、それは特戦群を以てしても御しえない問題だ。

 

「巨大外来生物α、六体抜けて接近中!」

 

「一体ずつに火線を集中させろ! 重機関銃の斉射であれば、対処可能だ!」

 

「さらに八体が接近中!! 西の地雷原に侵入! 友軍無し!!」

 

「出来れば反乱分子も巻き込みたかったが、止むを得ん。点火しろ!」

 

 手動起爆型の地雷原が起爆し、多数の巨大生物が巻き込まれた。

 確実に殺すほどの火力は無かったが、少なくとも三体は葬った。

 

 しかし焼け石に水である事は明白だ。

 

「新たな巨大生物群! 二十数体です!!」

 

「――ッ。保全局の黒翼が誘引しているな。自分の首を絞めている自覚はあるだろうが、実際、まずいな」

 

 陸自特戦群に巨大生物と正面切って戦う戦力は無い。

 彼らを壊滅せしめる一手ではあるが、その後に残るのは、保管庫内部を喰らい尽くす巨大生物だけだ。

 それを許してはならないのはどの勢力も同じであり、

 

『おらぁーーどけどけぇーー!! 行かせるかよ虫共がよぉーーッ!!』

 

「安藤和真!! 貴様は右をやれ! 私は左だ!!」

 

 連携して巨大生物との戦いに専念していた安藤と仙崎が乱入する。

 安藤の操るレッドフレームは、リボルバーカノン一門と散弾砲で敵を寄せ付けず、仙崎は懐に入り込んでスパロー型ショットガンで確実に仕留める。

 そうして巨大生物群を搔き分けて進んだという事は、それだけ保管庫の入り口に近づいたという事。

 それを、特戦群は決して見逃さない。

 

「害虫退治ご苦労。だが貴様らも害虫であるという事を忘れるなよ」

 

 仙崎は放たれる銃撃を、巨大生物の死骸で防ぐ。

 

「ちっ、貴様にも譲れん事があるのは承知だが、状況に対応できないのであればただの愚将であるな!」

 

『おいマズいぜ! また出てきやがった! しかも今度は蜘蛛と蜂だ!!』

 

「くっ、確かに非常にまずい! 下手を打てば一気に崩れるぞ!」

 

 侵略性巨大外来生物、βとγはαを上回る危険度を誇る。

 特に翼と針による攻撃を持つγ型は危険だ。

 この場の戦力の結託か、或いは強力な援軍など無ければ確実に――と、そんな思考をしている最中だ。  

 

 巨大生物群に横殴りの激しい弾丸の嵐が降り注いだ。

 同時に、軽薄な声の通信が聞こえた。

 

『やあ、危ない所だったね安藤君~。非公式に輸送要請したんだけど、これが限界でねぇ。この三輌のサーペントが今出せる最後の戦力さ』

 

 ようやく表れた保坂の前には、土砂を巻き上げて駆ける鋼鉄の毒蛇──歩兵戦闘車E441”サーペント”が辿り着いていた。

 保坂の息のかかった輸送部隊が居るのか、エアレイダーの権限を悪用したのか、とにかく三輌のEDF製歩兵戦闘車が戦場に新たに空輸されていた。

 

 サーペントは強力な40mm機関砲二門を巨大生物群に向け、横から薙ぎ払うように斉射する。

 

『この三輌とニクス三機が突撃すれば、誰かは保管庫内部に辿り着けるでしょ。そしたらデータを回収し、速やかに離脱するんだ。分かってるね、安藤和真くん?』

 

『馬鹿言ってんなよ! 巨大生物はどうすんだよ! こっちにめっちゃ来てんだぞ!!』

 

『まあまあ。ここまで大挙するとは正直予想外だったし、巨獣とやらも予想より早く迫っているけど、なに、ちゃあんと考えはあるのさ。思い付きだけど』

 

『思い付きって……。いやもうなんでもいいからなんとかしてくれよ! というかせめて事前に説明くらい――』

 

『はいはい。という訳で仙崎君? 君の周波数にも回線開いてる筈だから、全部聞こえてたよね?』

 

 巨大生物群の真っただ中で戦闘していた仙崎は、何かの間違いかと思い聞こえてくる声に無反応を貫いたが、遂に名指しで声を投げられた。

 

「ええい今忙しいのだ!! 話なら手短に済ませて貰おう!」

 

『じゃあ、要点だけ伝えるとしよう。これは提案なんだが、僕の考えでは――』

 

 声色を落ち着かせて、保坂が仙崎に内密の提案を伝えた。

 提案を聞いた仙崎は、その内容を吟味、分析し、自分の集めた情報を元に成功する可能性を考える。

 

 保坂の提案に、仙崎は更に交渉を加えた。

 全ては、望む結果を手に入れるために。

 

『――ふうん。見くびっていたよ。とても、そんな手が成功するとは思えないけど。君、案外強欲なんだね』

 

「当然だとも。誉れある仙崎誠の名にかけて、最善の結果を手に入れて見せる。貴様の思惑には乗ってやる。その上で、利用するまでよ」

 

『交渉成立、と受け取るよ』

 

 短くも濃厚な交渉の結果、二人は一時的な協力関係を結び、そして仙崎は、分の悪い賭けに飛び出した。

 

 驕れ。騙れ。不安など存在しないが如く振る舞え。

 足りない理論と不確実な結果は自信と態度で補え。

 

 仙崎誠は、この敵味方入り乱れる戦場に於いて、不思議と良く通る声を高らかに発し、戦場の中央に躍り出た。

 

「皆の者! 我が声を聞けい!! 改めて名乗ろうとも! 我が名、仙崎誠!! 私は、この場の全員に、例外なく最良の結果をくれてやる!! 故に!! 貴様ら全員、纏めて我が指揮下に入って貰おう!! 拒否出来るならば、して見せるがいい!! ぬぁははははははは!!」

 

 その傲岸不遜で荒唐無稽な宣言に、一瞬であるが、この場の全員が釘付けとなった。




”ファティマ第三の予言”とは、本来ならポルトガルのファティマという村で現れた聖母マリアの三つの予言のうち、長くカトリック教会によって秘匿されていたものを指しますが、
聖母マリアをそのまんま使うのはちょっと気が引けたので……”司祭ファティマ”なる架空の人物を作りました。
厨二心をちょっと暴走させただけなんだけど現実の宗教に深く食い込むのはさすがに気が引ける……。

保坂と仙崎の交渉の内容については次回!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。