全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第八十六話 誠なる意思(前編)

『単刀直入に言おう。今すぐそこから去れ。同じ日本人だろうが所属はEDFに違いない。これ以上の侵入を行うのであれば、EDFの内政干渉、及びテロ幇助と断定する。行為に対し正式に報復する用意が、こちらには幾らでもあるという事を忘れるな』

 

 電話の向こう、春日野防衛大臣の声は固い。

 口調こそ強気ではあるが、声色から極度の緊張と不安を抱えているものと仙崎は判断。

 

 その理由は、背景を考えれば察するに余りある。

 食わせ物揃いと海外に称された日本の政治家の要職たちは、皆ジェノサイドキャノンによって骨も残さず灰と化した。

 後に残ったのは国家運営としての政治経験の乏しい地方議員たちだ。

 日本臨時政府は彼らを集めてひとまず形だけは整えた急ごしらえのものに過ぎない。

 

 まして、日本滅亡いや地球存亡の危機に直面し、国家の存続をかけて亡命を決行するという、日本誕生以来の極限の危機の真っただ中での国家運営だ。

 その苦難の連続は想像に難くない。

 彼らにとってはまさに荒波を渡る程度では済まない波乱万丈の政治活動だろう。

 

 そんな最中での、日本管理の保管庫への襲撃だ。厄介ごと以外の何物でもないこの現象に、どう対処したものか、本当の所は容易に見えないだろう。

 保管庫の正体、他国との関係性、EDFと旧日本政府、国益、そしてフォーリナーとの戦争の行く末。

 これらにある程度熟知していた旧政府ではない、地方議員の寄せ集め政府に、最良の未来を目指す事は困難を極める。

 

 むろん、齧った程度の仙崎の知識は考えるまでも無くその議員以下であるし、寄せ集めと言っても彼らはこの現状で立ち上がり国民を背負う、現状では選りすぐりの政治のプロだ。

 そう簡単に、交渉事で上に立てるとは思えない。

 

 それでも──仙崎は度胸と話術、そして日本を憂う真摯な情熱でこの局面を有利に乗り切れると信じ切っていた。

 故に、相手からは見える筈のない表情に、不敵な笑みを浮かべ、交渉を始める。

 

「テロ幇助に、報復か。ハッ、この状況でEDFに喧嘩を売るのがどういうことか分からぬ訳ではあるまいな? まあ、貴殿の意見も分かる。今が平時であれば、主権国家としては常識的な対応だ」

 

 春日野防衛大臣は黙って耳を傾ける。相手の考えを聞き届ける目的もあるが、口を挟むような異論がない考えだからだ。

 仙崎は良い感触だと内心安堵し、続ける。

 

「だがそちらこそ、今が日本滅亡の分水嶺だという事を忘れてはおらぬか? 確かに、政府と国民は既に海外に避難している。政権が国家を意味するならば問題ないだろう。だが、それで我々日本国民が全員納得していると、そう思うか? 国民の声に耳を傾ければ、聞こえる筈だ。日本を取り戻すべく奮戦する、我らEDF極東軍に勝利を託す声が! この地で生きんと戦う、彼らの無事を祈る声が!」

 

『だから、何だ!! 確かに、EDFの指令を逸脱してまで戦った極東EDFに感謝する者は多い! だが所詮は全地球防衛戦略から離反した無法集団だ! 貴様らが情勢をかき乱したお陰でどれほど国益が……いや、それはいい。だが今そこにいる武装集団はなんだ? EDF総司令部に問い合わせたが返答は”存じ上げず”の一点張りだ! そんな不明集団に、危険極まりない”魔女の咎”が奪われでもしたら、大変なことになる! 分かっている筈だ!』

 

 結局のところ、恐怖なのだろう。

 日本の政治家、いやEDFの要職らですら、扱いに恐怖を覚える超兵器とは一体何なのか。

 未だ詳細を知らない仙崎ですら、本当にここを解放してしまっていいものか、本当の所判断はつかない。

 

 だが、最早これしかないのだ。

 藁にも縋る思いで、仙崎らはパンドラの箱を開けんとしている。

 

 しかし政治家らの思惑がそれだけでは説明がつかないのも事実。

 付け入る隙があるとしたらそれは、

 

「ふっ、口を滑らせたな。貴様が今しがた口にした”国益”とやらを察するに、我々がここで抵抗を続けていては不都合なのだろう? おかげで、侵略による破壊に見せかけた、保管庫の爆破処理のタイミングが掴めなくなったのだから」

 

『なにを……!?』

 

 さあ、ここからは仙崎の予想と想像による日本政府の企みを暴くターンだ。

 暗部組織の皆の口の端端から漏れ出た情報と、昨今の世界情勢、それに仙崎独自の解釈を加え、今動揺を口にしたこの男に叩き付ける。

 

 ──魔女の咎。

 稀代の超天才、ルフィーナ・ニコラヴィエナが残した技術の塊は、とても並みの科学者が扱える代物では無かった。

 しかも、その危険性から公開はごく限られた機関や国家上層部、確実に信頼できる科学者のみの狭い範囲で行われ、そしてついに、”人類には早すぎる”という結論しか導き出せなかった。

 

 研究や解析は莫大な資金と時間の浪費につながるばかりか、異次元の法則に脳を狂わされた科学者が続出し、ついに処分の方法すら不確かなまま研究が打ち切られた。

 その後は保管方法で再び議論が交わされる。だがどこの国も”魔女の咎”の保管を拒否した。

 当然だ。満足に管理できる知識も無いまま、それを受け入れる事は出来ない。

 

 だが唯一手を上げた国家があった。

 それが日本だ。

 理由はただ一つ。

 

「旧日本政府は、フォーリナーとの戦争になった時、日本が捨て駒の防波堤にされる事を恐れていたのだ。もっと具体的に言うか? ……核の、ギルゾーンとして、日本ほど優秀な土地はあるまい」

 

 フォーリナーとの戦争を真剣に考え、現実を直視し、地政学を少しでも齧っていれば辿り着ける結論だ。

 南北に弓形状をしている日本列島は、中国の海洋進出を阻む”壁”として考えられているのはもはや常識だが、それはフォーリナーとの戦争に於いても重要だ。

 

 フォーリナーとの戦争がどういった形になるのか、襲来前は予想も出来なかったと一般には言われるが、これは実のところ真実か疑わしい。

 今の所、戦前に”未知なる敵用”として作られたほとんどの兵器が、対フォーリナー用として十分に機能している。

 いくらかブラッシュアップする必要はあったが、作られた方向性にほぼ間違いはない。

 

 つまり、恐らくだがEDF上層部を含む世界のトップレベルの間では、フォーリナーがどういった軍勢でいつ地球に侵略するのか、ある程度予想が出来たと考えるのが自然。

 故に、陸地と空から侵略する形の戦争になる事も、予想が出来ていたと考える。

 

 そう考えた時、日本列島の形は実に都合がいい。

 中国大陸方面から進撃された時はアメリカの盾に。

 アメリカ・太平洋方面から侵略された時は中国大陸の盾に。

 それぞれ”本国を戦場に晒されない為の緩衝地帯”として活用できるのだ。

 

 そして盾として受け止めた後の戦場が、抵抗力を無くしたとき、最後に取れる手は何だろうか。

 そう、そこを通過する敵を纏めて吹き飛ばす”核兵器”の出番だ。

 

 事実、今戦場となっている日本に向けてEDF総司令部から何度か核発射通告があったと噂に聞いている。

 確かめようがないが、仙崎はこれをほぼ真実だと仮定して考えている。

 

 話を戻すが、とにかく日本旧政府陣は、大国や大国を超える権力を持つEDFに対しこの”日本盾戦略”や核による殲滅プランを覆すだけの力は無かった。

 

 だが、EDFを黙らせる程の重要設備があるとなれば話は別だ。

 それが恐らく、EDF戦略火器保管庫誘致の真実だろう。

 

「つまり旧政府にとって、保管庫は日本を核によって破壊されない為の保険の様なものだった。そして同時に、日本政府を通じて、アメリカを始めとする大国に、禁忌兵器の情報を横流し交渉材料とした。……その大役が、茨城尚美だな?」

 

『そ、そんな話は知らん! 何を根拠にそんな……!』

 

「そうか? まぁそう動揺するな。事実かどうかはさほど問題ではない。旧政府との契約は白紙になったようなものだろうしな。その結果が、交渉材料として意味を為さなくなったばかりか、茨城女史の働きによって危険極まりないと判明した禁忌兵器と保管庫の爆破処分と言う訳だ。で、あれば、何故こうも危ういタイミングで決断したのか」

 

 ソラスの襲撃と、それを受けて動き出した暗部組織を受けての決断である事は間違いない。

 だがそれ以前、日本国がEDF総司令部の”陥落判定”を受けた時に爆破や権利の返却を行わなかったのは、

 

「政府内、そしてEDF内でも保管庫への判断が分かれていたからだ。ようするに、日本国臨時政府内でも意見が割れている。そうだな? であれば話は早い! ここからが本題だ!」

 

 図星に声も出せない春日野防衛大臣に構う事無く、仙崎は畳みかけるように言葉を重ねる。

 

「我々の目的はただ一つ! 怪生物ソラスの撃破に於いて他ならない! 保管庫の爆破処分にソラスを巻き込み、撃破するというプランを茨城女史は提示したが、それは受け入れられない。なぜなら、彼女も保管庫の禁忌兵器も、このフォーリナー大戦において人類の力となるべきだからだ!!」

 

『それは危険すぎる!! 既にそう結論が出た!! 何も知らないくせに出しゃばるなよ若造が!!』

 

 春日野防衛大臣の暴言に、仙崎は調子を掴み口角が上がる。

 

「ふっ、荒い言葉を使うでない、動揺が手に取るように分かるぞ。貴様の言う事は尤もだが、ひとつ重要な要素が欠けている。貴様ら、情報公開を徹底して閉鎖しているくせに、何を分かった気でいるのだ? 私は、いや我々は、この禁忌兵器の情報を軍部を通して全世界に公開し、人類全ての科学者の力をもって、これの応用を考える! 時間は無い。無茶も不可能も承知だ」

 

 仙崎のプランは、端的に言って不可能に近い。

 国家に信頼があった中で、限られた数とはいえ優秀な科学者が匙を投げ頭を狂わせられたのが禁忌兵器だ。

 もはや呪いに近いそれを大公開し、それにとどまらずソラスが保管庫に到達するまでの僅かな時間で使えるようにして見せろ、というのだ。

 

 不可能に不可能を重ねた、計算するのも馬鹿馬鹿しい杜撰なプラン。

 

「だが、それが抗わない理由になるというのか? 確かに、ここで無理をする必要はないのかもしれぬ。大阪を火の海にされ、日本が名実ともに陥落しようと、世界は続く。いつかはソラスも倒せるかも知れない。だが、ここで、我々の手で奴を打ち取れたなら、多くの命と尊厳が救われる。そうは思わないか?」

 

『……それを、我々が考えなかったとでも言いたいのか!? 考えたさ、人類皆で協力出来たらどれだけいいか! だが、所詮は理想論だ!! 禁忌兵器の奪い合いになるに決まっている!!』

 

「ふっ、そこまで考えているなら何も迷う事は無い。奪い合いなど転じて競い合いにしてしまえばよい! いいか良く聞け、貴様らが最も重視する、”国益”について話をしよう」

 

 ようやく、こちら側のプランを開示する準備が整った。

 些か前置きに時間をかけ過ぎたが、その甲斐あって春日野防衛大臣の考えは粗方分かった。

 この男、恐らく禁忌兵器への判断をまだ決めかねている。

 それでも処分に踏み切ったのは、周囲の圧力と現実への挫折だろう。

 であれば、もう一押し。もう一押しでその現実の壁を破壊できるに違いない。

 

「この場所で、EDF戦略情報部、EDF異端技術保全局、反EDF組織曙光會、ああそれと、貴様の部下の陸自特殊作戦群。これらの同盟を締結させた。内容は、保管庫への侵入協力、迫る怪物への共同対処、それからソラス撃破作戦の実行だ! その報酬として、この地における禁忌指定兵器の共同研究を行う! ちょうどよいので、貴様には正式な文書の作成をお願いしよう」

 

『な……滅茶苦茶だ!! 何が国益だ狂人め!! そんなものが通る道理はない!!』

 

 滅茶苦茶にも程がある。

 一個人が国家規模の契約を口約束で交わしているのだ。出来る権利の行使を越えているとかそういうレベルではない。

 根回ししているならまだしも、そんな話は初耳だ。しかも相手はちょっと戦果を挙げただけの一般兵士。

 政治の世界に精通している訳でも何か大きな権限を持っている訳でもない。

 だが、その内容には興味を持たざるを得ない。

 

「おいおいまだセールスが終わっていないぞ? いいか? 我々EDFは必ず、かの巨獣ソラスを討伐し、やがては日本国土を奪還する。その後貴様らはEDF戦略火器保管庫周辺の土地に各組織を誘致し、ここを広大な国際研究機関とするのだ!! 先だって今まで秘匿中の秘匿だった情報を公開するのだ。むろん数多の組織が入り乱れるだろう。だが構わない!」

 

 ドレフニコスの様な、或いはそれ以上の魔女にあてられた狂信者たちが兵器を奪取する危険なテロ行為が起こる可能性がある。

 しかし、各国共々それを最も恐れているのは共通している。であればこそ、共通の価値観で強固な管理体制を築くことが可能だ。それは日本だけで負担する問題ではない。

 

 更に国際的に重要な研究所の立地が日本である事で、

 

「日本の国際的な地位も確保できる上、厄介払いに日本を選んだEDF上層部の鼻を明かす事も出来る。EDFとしても、この条件は呑まざるを得ない。既に情報は漏れている状態だ。なら、一刻も早く体裁を整えねばなるまい。そんな時に日本の申し出は喉から手が出るほどありがたいはずだ!」

 

 一方で、EDFは国際パワーバランスを重視し、日本を含め一刻が強大な権限を握る事を許しはしないだろう。

 恐らくその研究所はEDFが主に管理する。だがそれでよい。

 処分が決定するほど意義を失った保管庫が、再び国際的に重要な価値を取り戻すことに意味がある。

 それが日本にある事により、世界は再び日本を無視できなくなるのだから。

 

 まして、他に替えが効かない設備ならなおさらだ。その条件を元に、少しなら強気な外交をする事も可能だろう。

 EDFの強権と戦うのに、日本の政治家はその交渉材料を少しでも手に入れたいはずだ。 

 

「その証拠が、今回の慌てたような保管庫の爆破処理だ。保管庫を危険視する声が主であるなら、もっと早く安全に爆破を決断できたはずだからな。それをしなかったのはEDFとの関係悪化を懸念する声と、保管庫を有効活用するべきだという声を無視出来なかったからだ! であれば! 此度の我々からの条件、貴様に拒むことは出来ん!! 第一、貴様が拒否しようと、情報公開の用意は既に整っている! 先手を取るか後手に回るか、貴様はどうする、春日野貞治ッ!!」

 

 さぁ、これで仙崎の切れるカードは全て切った。

 あとはこの男の決断力次第である。

 

『ぐっ……。貴様、本当にただの一兵卒か……? 信じられん。なぜこうも……』

 

「悔しいか? 不思議か? 答えはこうだ。私が、仙崎誠であるが故であるッ! ぬぁははははは!!」

 

 ──一つ捕捉をするならば、仙崎は良家の一人息子であり、経営者の父の跡取りとしての教育を、幼いころから受けていた。

 元々才能に溢れ、何でも普通以上に熟す仙崎は、経営学や交渉術などもある程度は習得しており、本来であれば末端の一兵卒に収まる器では無かったのだ。

 

『ちっ……意味の分からない男だ……。分かった。条件を飲もう。これより、日本国防衛大臣、春日野貞治の名において、貴様の提案を受け入れる!』

 

 春日野大臣の言葉に、内心ガッツポーズをする仙崎。

 彼としても、非常に綱渡りの交渉であったが、防衛大臣をこちら側に引き入れられたことは大きい。

 

 ……それも、仙崎だけの力ではない。

 一兵卒である仙崎の話を真面目に聞き入れ、柔軟に考え、胸に秘めた真摯な思いを感じ取れる相手側の心があって初めて成り立つものだった。

 

 そしてそれを仙崎も理解している。

 だから、仙崎は彼らに報いるため、歩き続けなければならない。

 

 そんな仙崎の決意を前に、春日野大臣は今後の方策を今から考え頭痛や眩暈を覚える。  

 

『まったく……方々への説明に骨が折れるが、ドイツもコイツも余裕が無い。だが今更拒否したところで、どうにもできないという事は分からせる。となれば時間が無いな。今茨城博士に最優先の電子文書を送る。私の方からも幾人か優秀な科学者を呼ぼう。保管庫の内部セキュリティは全てこちらで解除しておく。今更不貞を企む輩が居ない事を切に願うが……、曙光會か……本当に協力してくれているんだろうな』

 

「内部に来ているのは信頼できる一人だけだ。心配はない。では切るぞ! 思った以上に時間をかけた!」

 

『仙崎誠と言ったな。君の手腕に、全てを賭ける。やってくれ!』

 

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