全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第八十八話 巨獣ソラス討伐作戦(Ⅰ)

 

 四つの敵対組織との同盟、臨時政府防衛大臣との交渉、そして茨城博士との協力の約束が完了した事により、事態はようやく超抜級怪生物第一号:”巨獣”ソラスの討伐作戦を行う方向で決定した。

 

 ただし、作戦の詳細は煮詰まっていないどころかまだ白紙も同然だ。

 

「茨城博士! そこから地上の状態を把握できるか!? ソラスがここを通過するまであとどのくらいだ!?」

 

『さてねぇ。先ほどEDF戦略砲兵基地から弾道ミサイル攻撃があった。そのせいか知らないけれど、多少の足止めになっている。それを加味して、凡そ一時間以内、といったところか』

 

 仙崎は保管庫内を駆けながら、地上へ向かう途中だ。

 保管庫内の無線封鎖は解除されたので、通常回線で一帯の部隊とは通信可能だ。

 

 護衛に黒部二佐を含む数名の特戦群精鋭隊員と武装を整えたドレフニコスが残り、保坂とアヴィス大尉は先行し巨大生物の迎撃と退路の確保に向かった。

 

「一時間か……一応参考までに聞くが、それまでにソラス討伐の作戦を実行できると思うか?」

 

『ふーっ。聞かれたなら、”そんなの無理だ”と答えるしかない。ああ、別に諦めた訳じゃない。ただ、少しでも時間は稼げていた方が良いのは間違いないさね』

 

「分かってはいたが、まあそうだろうな……。やはりここは――ちっ、巨大生物!!」

 

 通路の陰から、さっそく異邦人の生物兵器が登場。

 幸いα型三体だ。手持ちのスパローショットを連射し、手早く片付ける。

 

『こちらにも護衛が居る。多少の個体の通過は仕方ない。気にせず進むと良い』

 

「そうは言うが、道中の兵器を齧られでもしたらまずいのでは!?」

 

『それはそうだが……。ワタシの仮説ではほぼ問題は無い。キミは、突然この保管庫に巨大生物が集中した事に疑問は感じなかったかい?』

 

 茨城博士の言葉を受け、確かにそう、いくら何でもおかしい事に気付く。

 状況が状況で深く思考を割けなかったし、それも黒翼部隊とやらが誘引してるせいだとばかり考えていたが……確かに不自然なまでに集中しすぎている。

 まるで、巨大生物が引き寄せられる何かがあるかのように……。

 

 仙崎の言葉に、僅かに口角が上がる茨城。

 

『その考えで間違ってないさね。答えは、ワタシが火を入れたこの保管庫の最深部、大型のエナジーコア、つまりまあ、この世界で唯一の、エナジージェム式反応炉に、奴らは惹かれている。詳しい理由は不明だけど、まぁ、巨大生物のエネルギーはエナジージェムだって事は分かっている。なら、それを求めるのはそれほどおかしなことじゃない』

 

「……なるほど。もしや、巨獣にもその習性が?」

 

『さてね。奴に関しては行動原理がほぼ分かっていない。だが、可能性はあるね。なにせ真っ直ぐこちらに向かっている』

 

「厄介な……! ここに到達されれば、我々の負けだというのに……!」

 

 結局、茨城博士が設定した時限付きの自爆は解除できるものではなかった。

 というのも、それ自体茨城博士が組んだプログラムではなく、反応炉自体が繊細なため、一定の振動や温度変化で安定を失い、臨界点を突破する欠陥品だそうだ。

 

『ついでに、時間をかけても終わりさね。反応速度によるが、それも緩く見積もって2時間弱ってところかね。それ以上は炉の制御が持たない。エナジージェムは臨界点を突破し反応を制御できず、炉が圧力と温度に耐えきれずドカンって訳さね。かと言って炉を停止させれば短時間での再起動は不可能だ。中の兵器を使う以上、エネルギーは必要だからねぇ。予備の発電機なんかで賄える代物じゃない』

 

「チラン反応を用いた大砲、か。保管庫の動力炉や曙光會ゲリラ達が使っていたアマツバメと似たような原理と聞くが、それがこうも難解だとはな」

 

『ふーっ。誤解を招いたようだけど、事はそう易くない。ワタシでさえ未だに、不可能だと考えているよ』

 

「それはそうだな、易くない。だが、何とかしてくれると信じているぞ。――着いた。アヴィス大尉、保坂!! 状況は!?」

 

 仙崎はエレベーターを上がり、保管庫の搬入口まで戻り、そこで防衛線を敷いている二人に合流。

 最初に死神の方が反応する。

 

「仙崎か。見ての通り、随分と愉快な事になっているぞ。ここが死に場所だとしても、俺は構わないがな」

 

 死神の見やる先には、三機のヘクトルと、その周囲を飛び回るガンシップが存在していた。

 γ型と合わせて、黒翼部隊が航空優勢の熾烈な奪い合いを行っている。

 

 ヘクトルにはニクスが対処に当たっているが、α型、その亜種とβ型による波状攻撃で戦場は地獄と化している。

 

 その途中で、抜けて来たβ型が多数、保管庫の搬入口に侵入。

 死神はそこから消えたと錯覚するほどの速度でβ型の背後に回り、糸の放射よりも早く全てを串刺しにする。

 続き、侵入を試みていたα型亜種も同様にあの世へ送る。

 

「ホエールかせめてカムイでも要請出来たら何とでもなるんだけど、今の僕に出来るのはこのくらいサ。さぁ、行け!」

 

 保坂はフォークリフトでパレットごと運んだそのコンテナを開くと、そこから四機のドローンが飛び立った。

 腕のコンソールと照準用のレーザーガンで暴れるヘクトルを照射すると、ドローンは一直線にそこへ飛び立つ。

 

 ガンシップに捕捉されたそのうちの二機は撃墜されるも、残る二機が無事ヘクトルに接近し、一定距離で散弾を放つ。

 火花が舞い散るヘクトル。撃破は出来ていないが十分な足止めを行った。

 そこに、特戦群隊員たちの無反動砲が炸裂。

 黒煙を上げたヘクトルは、ようやく行動を停止、派手に爆発した。

 

「おお、それは先ほど保管庫で見た武装ドローンか?」

 

「襲ってきたセレウコス爆薬のが残ってれば少しはマシだったんだけどねぇ。まさか照準装置ごと死神に全部壊されるとは」

 

「それは悪い事をした。まさかこの短時間にドローンの制御系を掌握できるとはな。FUJIインダストリーズやEDF先技研と繋がっているだっけあって、ノウハウはあるらしい」

 

 保坂と死神が皮肉を言い合う。

 日本とアメリカのEDF系合同企業”FUJIインダストリーズ”はドローン兵器産業の大手だ。

 将来的にはエアレイダーが軍用ドローンの司令塔と言うべき兵科になる事を期待されているが、今はそのことについて詳しく思考を割いている余裕はない。

 

「仙崎、ここを変われ。もはやこの場所は、主戦場クラスの地獄だ。盾は一つでも多く必要だろう」

 

 機械兵団の急襲を受け、保管庫前の防衛から仲間たちが命を賭けている前線へ向かおうとする死神。

 だが、今にも飛び出しそうな死神を、仙崎は引き留めた。

 

「待て! 悪いがそれは出来ない。ソラスがあと一時間と経たずこちらへ到達する見込みだ。よって少しでも進撃を遅らせるために、私が奴を引き付ける! そうでなくては作戦が――」

 

「ちょっと待ってくれ! まさか生身で行く気かい!? 余りにも無茶だ! 死ぬとか言う以前に、時間稼ぎにもなりはしない! 消し炭になるだけだ!」

 

 仙崎の無茶な提案に、珍しく保坂が本気で声を荒げ困惑を示す。

 確かにそれでは、ただの遠回しな自殺だ。何の戦術的優位性もこの場にもたらすことはない。

 その上、ソラスには核攻撃の残留放射性物質が残っている可能性がある。生身では、近づくだけでも被爆する恐れがあった。

 

「分かっている! ……我々が来た連絡用の地下通路に、まだスレイプニルとやらが残っている筈だ。それと特戦群の兵士の狙撃銃を一丁、頼み込んで拝借する。豆鉄砲にしかならん威力だが、気は引けるはずだ。……フォーリナーは恐らく、抵抗を続ける限り敵対存在を無視できない筈だ」

 

 おかげでバゥ・ロードの時は酷い目に合った。

 フォーリナーの習性なのか単なる偶然なのか、どういう事なのかさっぱりだが、とにかく希望のある方に解釈する。

 どうせ何もしなくても絶望的だ。なら、少しでも可能性が掴めそうな行動を心がける。

 

 そう理性的に仙崎は考えているつもりだが、心の底で彼を突き動かしているのは不安と恐怖だ。

 何かしなければ、何か結果を出さなければ、”運命”に足元を掬われる。

 彼の人生は常にそうだった。故に、危険だろうが無謀だろうがそこに飛び込むことを恐れない。

 

「スレイプニルの機動で火炎放射を回避できるか分からない。囮として機能するか不明だ。だが時間は稼がねばならない。止めてくれるなよ」

 

「仙崎。お前、フェンサーの神経接続はまだ潰していないな?」

 

 行動方針が半ば決定したと思った時、かぶせるように死神が仙崎に問う。

 意図が読めずに無言で頷くと、

 

「俺たちが乗って来た輸送車両に予備のスケルトンがある。それを使え。一般兵用のデチューンされたものではないから、操作に癖はあるが、神経接続の規格は変わっていない。お前なら使いこなせるだろう。スピアとシールド、推進剤はまだ輸送車輛に残っている筈だ」

 

「……そうか。死神部隊の物であれば、NBC防護機能がある。被爆も恐れる事は無い。そう言う事か」

 

 仙崎がEDFを除隊する少し前に運用が開始されたパワードスケルトン。死神部隊員だった仙崎も、パワードスケルトンを着用しフェンサーになる過程で神経接続の手術を施された。

 フェンサーはパワードスケルトンと神経接続を介し一つになる事で、両手が塞がった状態でも柔軟なスラスター機動やリロード、ディフレクションフィールドの出力操作などが可能となるのだ。

 

「そう言う事なら、僕にも協力させてくれ。スピアで突撃もいいが、接近は最後の手段にするべきだ。フェンサー用の武装を見繕って空輸させる。少し時間はかかるが、スケルトン着用の時間には間に合わせるさ。生身で突撃されるよりはずっといい」

 

 保坂も協力の姿勢を見せ、直ぐにコンソールを介して兵装コンテナ要請を済ませた。

 

「話が早いな。ではその案で行こう! 隊長、部隊のスケルトン、一時的に拝借します!」

 

「ふ。そのまま部隊に戻ってきてくれても構わないが?」

 

「ご冗談を! 命惜しさに策を弄する私に、グリムリーパーを名乗る資格などありはしないでしょうに。では、ロイグ大佐に、一言頼みます!」

 

 最後にそれだけ言って、軌道修正された方針に従い仙崎は死神部隊の補給トラックへ走り出した。

 

――――

 

 京都の極東11軍臨時司令部で進められていた科学者たちの会議は紛糾していた。

 結局、一通り資料に目を通した彼らは満場一致で現物を見ないと話が進まない、という見解になったので、今はグレイプを改良して使用されていた指揮通信車を拝借し、超特急で戦略火器保管庫へ向かっている途中だった。

 道中の安全が保障されないという理由で榊中将は最後まで反対したが、判断に迷っている時間は微塵も無かった。

 

 そんな中、乱暴に揺れる車内の劣悪な環境でも科学者たちの会議は続いていた。

 

 ガプス・ダイナミクスの主任研究員で物理学・構造学を扱うオストヴァルト主任が、腕を広げて身振り手振りで荒ぶる。

 

「――ようするに、ランガルド・マトリクス理論では話にならんと言う事だ! 砲弾を臨界状態まで持って行くのは良い……問題はその後だ! 何の冗談か知らないが、これが純物理学的破壊を目的とする砲弾だとしたら、構造上どうにもできない致命的欠陥があるとしか言えん! 何たる事か!!」

 

 その嘆きをスルーし、マイペースに資料を漁るのは電気工学や”超プラズマ理論”の電気的性質に詳しい結城聡博士。

 

「資料を見たが、やはり単純な電力での出力向上は当てにならないね。いや、この場合低下と言うべきかな。そこで思ったんだが、えー、資料のNo.13”極戦略的次元崩壊型震撃装置(アンキ・メスラムタエア)”を限定使用し、冷却に使う事は出来ないだろうか。これなら出力を保ったまま砲弾の外殻を発射できるはずだ」

 

 別の禁忌指定兵器を平然と挙げる結城博士に、航空力学や素粒子力学の論文を手掛けるアルフレッド・アシュレイ主任がぎょっと慌て止めに入る。

 

「そ、そんなものをただの冷却に使う気か!? 万が一暴走してしまったら誰が責任を……いや、責任などと言う言葉では済まされない……! 何せ、ふとしたことで地球が崩壊してもおかしくはないのだからな。……ああ、しかし、ここまで考えて結論が出ないのでは話にならない……。理論の面はさておき、運用の観点から話を進めるのはどうだろう」

 

 アシュレイ主任の議論の転換で、初めに流れに乗るのは戦略情報部のリーヴス少佐だ。

 

『運用自体と考えると、やはり最大の懸念はフォーリニウム線の問題でしょう。砲自体の整備不足と送電網の確保も深刻な問題ですが、発射時に発生すると思われるフォーリニウム線の放射は、それ自体が轟砲を破壊して余りある出力です。……”自壊型”とは、なるほどその通りですね』

 

 言い得て妙とでも言わんばかりに感心するリーヴス少佐に、苦言を呈しつつアシュレイ主任が話を広げる。

 

「感心している場合ではない! 砲弾の加速システムの過程で轟砲自体が破壊されるなど、欠陥兵器も良い所だ! ……やはり出力をどうこうする問題よりも、フォーリニウム線をどうにか防ぐ方向で考えるべきだ。何か使えそうな技術は無いのか……とは思うが、どの物質も特殊過ぎる!」

 

 資料を漁り頭を抱えるアシュレイ主任に対し、”超プラズマ理論”の提唱者でもある、茨城尚美博士が通信で助け舟を出す。

 

『……ふーっ。轟砲発射と着弾点に発生するフォーリニウム線は、鉄の壁だろうと土の中だろうと粉々に破壊されるレベルの放射線だ。それを防ぐとなると……やはりアレしかないか。君は、その辺りの理論に詳しかったろう? ドレフニコス君』

 

 戦略火器保管庫の中央制御室で轟砲のエネルギー充填作業を行っている茨城博士は、その隣で保管庫内部の設備を、慎重に稼働状態へと変え複雑な制御盤と向き合っているドレフニコス局長に話を振る。

 

『ストレンジ・エーテル結晶体ですか。確かに我が保全局でもそれは厳重に保管されていましたよ。だが、フフフ。アレを使うなど、到底正気の沙汰ではアリませんねェ。ひとたびストレンジ物質化が進行すれば、その周囲はたちまち永久に無反応の物質が際限なく広がる”死の荒野”と化す。フォーリニウム線の放射とどちらか恐ろしいか。今の我々に測ることなど不可能なのですよ』

 

 フォーリナーを由来とする”異端技術”全般への造詣の深さを生かしたドレフニコス局長の話を受け、ルアルディ中尉が得意とする暗算と計算ツールを駆使して手早く算出する。

 

「これ、資料にデータ入っていますよね? この想定データが正しいと仮定してですが、ストレンジ・エーテル結晶体が正常に反応した場合、指数関数的に反応速度が拡大しますので、えーっと……恐らく、日本全土が呑み込まれるまで、数日程度と計算できますね。ただ、こればっかりは実験結果も無いのでなんとも……」

 

 自信なさげな点は若さゆえか、しかしその結果を疑う事も無く皆が頭を抱える。

 たが議論は止まる事は無く、すぐに結城博士が新たな切り口を考える。

 

「そのストレンジ・エーテル結晶体の反応を抑制する手段はないのか? フォーリニウム線であっても、反応の際に不安定な状態になる事で起こるのには違いないだろう。なら、その反応を抑制できればフォーリニウム線自体発生しないのでは?」

 

 結城博士の意見に、直ぐに茨城博士の考えが被さる。

 

『……いや、それでは発射の際に電磁的加速を行うこと自体が出来なくなってしまう。最悪、轟砲自体が壊れる事は構わない。”自壊”の名からも分かる通り、これは設計段階に予想されていたと考えるべきだ。問題はどうやって、壊れる前に弾を撃ち出すか、と言う事だよ』

 

 茨城博士の見解を受けて、オストヴァルト主任が図面と仕様書、そして電卓を叩きながら顔を顰める。

 

「……それなんだが、やはりこの轟砲の構造は何処かおかしい。どう計算しても、発射に必要な推力と電力、砲自体の耐久性、更に砲弾そのものの材質、内部構造、原理などどれもが噛み合っていない! アシュレイ殿が先送りにした問題を蒸し返して申し訳ないが、我々の考え方は、土台から間違っているような気がしてならないのだ!」

 

 オストヴァルトの言葉に、全員が一定の納得を得て、押し黙る。

 議論が煮詰まっている。ある程度の問題点の認識は共有されたが、やはり決定的な進展を得るには、現地に赴いて実際に触ってみるしかない。

 

『……ふーっ。やはり、皆をここへ呼んでおいて正解だったね。小原博士の英断に感謝だ』

 

 茨城博士とドレフニコスは、調整で手が離せない。

 そんな中で会議室で理論と議論をこねくり回すことの無意味さを真っ先に説いたのは、生物学者の小原博士だった。

 

「これでも私は生物学者だ。特にフォーリナーの不可解な生態を扱っていると、危険でも前線に赴いて調査や観察を行わないと進展が得られないのが常でな。年甲斐も無くあちこち飛び回っている生活だ。不可解と言う点では、フォーリナーの生物兵器も魔女の残した兵器もさして変わりはないという事だ」

 

 現地でのフィールドワークを重視する、小原博士らしい見解だった。

 そのように議論の方向性に一定の結論が出た頃、仙崎はまさに件のソラスと対峙していた。

 

――――

 

「これが、巨獣ソラス……! なんという大きさだ! これほどの陸上生物が存在するとは……!」

 

 ――超抜級怪生物第一号:”巨獣”ソラス。

 通常の侵略生物はおろか、戦略級巨大外来生物すらも上回るカテゴリに収まっているその超抜級の生命体の全高は、凡そ40mにも上る。

 

 むろん、脅威なのはその大きさのみではない。

 ソラスの口内から、黒煙が吹き上がる。

 

「む、来るかッ!!」

 

 次の瞬間、ソラス口内から爆発的な炎の放射が上がる。

 火炎放射と、そう形容すべきではあるが、その勢いはまさに”爆風”。

 周囲の木々どころか地形そのものを削る勢いで爆進する炎を前に、仙崎はスラスターを最大出力で操作する。

 

「舐めるなよ怪生物! 放射されているとはいえ直進的な攻撃なら対処も容易だ!」

 

 仙崎はフェンサーのパワードスケルトンを纏い、火炎放射を回避。

 グリムリーパー用のパワードスケルトンは、まだスケルトン運用の黎明期に作られた初期型ロットを元に作られている。

 すなわち、通常フェンサー部隊が使用するものよりもより高出力、高機動、高処理性能を持つ。

 それは操作の難しさと比例するものであり、まともな訓練を行っていては命が足りないレベルであった。故に、広く部隊に普及するにあたって一般兵士用の物は意図的に性能を落とされている。

 

 下手に扱えば地面や壁への激突、墜落、神経高負荷や鋭角軌道の高Gによる失神、判断力の低下など、高出力を乱暴に扱えば戦闘機パイロットのような耐久力が必要になる。

 それに加え、乱戦での最適な機動、ブラストホール・スピアによる接近戦闘技術、シールドの出力調整、狭い視界での判断力などが、グリムリーパーには最低限要求されていた。

 

 仙崎も、かつてはその鎧を纏い紛争地帯でコンバットフレームと戦った経験がある猛者だ。

 しかし、今となっては研ぎ澄まされた感覚が鎧によって塞がれてやや息苦しく思う枷にも感じる。

 

「とはいえ、戦場の只中で脱ぐ訳にもいくまいな。ソラスの残留放射性物質がどの程度か分からんが、それでなくとも生身ではあの火炎放射に近づくだけで焼け死にかねん!」

 

 パワードスケルトンの生命維持装置がフル稼働し、なんとか生命活動を保っているが、いずれ炎に包まれた戦場で戦う事を考えると、本当にフェンサー状態でやってきて正解だったと考える。

 

「それにこの武装なら、少しは痛い目も見せてやれるか!?」

 

 仙崎の装備は左手にディフレクション・シールド、右に22mm携行滑腔砲”NC103ハンドキャノン”を。

 背面の兵装担架にブラストホール・スピア、左肩部に高炸薬ロケットランチャー”キュロスⅡ”をそれぞれ装備した形だ。

 

「ひとまず、一発お見舞いしてやろう!」

 

 仙崎はソラスの側面に回り込むと、その横っ面に狙いを定めて、ハンドキャノンを発射。

 22mmという口径は、歩兵が扱うには大きすぎる砲弾だ。

 フェンサーの衝撃吸収を以てしても多少狙いがブレるが、高度な自動火器管制がそれを帳消しにして照準通りに命中させる。

 

 即ち22mm砲弾はしっかりソラスの横っ面に命中。

 皮膚の固い外皮は傷つくことも無く簡単に砲弾を弾き返したが、ソラスはその野太い首を回してじろりと仙崎を見る。

 

「ふっ、気付いたな。さぁ貴様の邪魔をする憎たらしい人間はここだ! 無視できるか? 出来んだろう! 貴様らはそう設計されている筈だ! どうした? こんな虫けらひとつ、貴様の巨大な足と炎で塵にして見せるがいい! さぁ、来い!!」

 

 仙崎が挑発に顔を歪めて悪人面をすると、ソラスは敵性存在を認知し咆哮を上げる。

 次の瞬間、ソラスは仙崎目掛けて走り出した。

 動作は鈍い。ただし一足一足がケタ違いに大きい。距離は一瞬で詰まる。

 しかし、

 

「ほ、本当に来るとはな! 効果は覿面と言う奴か!!」

 

 余りにも想定通りの結果に慄きながら、仙崎はスラスターを吹かして左方に飛び上がる。

 グリムリーパーの滑るような滑走ではない。上方ブーストと水平方向のスラスターの慣性を組み合わせた移動法だ。

 推進剤の消耗は激しいが地形を飛び越しつつ距離を稼ぐにはこれしかない。

 

 そうやって稼いだ甲斐あって、仙崎は一命をとりとめる。

 仙崎が先程まで居た場所は、ソラスの突進が通り過ぎ地形ごと破壊されていた。

 

「まったく肝が冷える! しかし……やはり予想通りか。これで、轟砲の発射まで私が生存さえしていれば、時間は稼げることは証明された。後は――」

 

 ソラスがこちらを向く。

 その口に、また黒煙が溜まっている。

 その中に炎がちらちらと見える。爆発寸前だ。

 

「――飽きさせない程度に、こやつの相手を演じるとしよう。巨獣ソラスよ、覚悟!!」

 

 ソラスを相手取る仙崎の、大立ち回りが始まった。




ようやく、ようやく始まったー!
新規登場人物はいませんが、科学者たちが集合しているので簡単におさらいの紹介とか(わかんなくなんないように自分用に)纏めてたのでそれのっけてみます。

▼小原敏夫
 生物学の権威と名高い科学者で、フォーリナーの主力戦力である「侵略性巨大外来生物」を専門に研究している。今回襲来した「巨獣ソラス」についても詳しく、サンプルなどの入手困難でありながらその外皮の強度や特性、構成成分、また生物兵器としての特性や行動原理などに詳しい。
 実地での調査やフィールドワークを重視しているが、やや考えなしに行動する事があり助手の砂原はいつも振り回されて困っている。

▼ヘンドリック・オストヴァルト
 EDF関連の軍需産業企業「ガプス・ダイナミクス」の主任研究員であり、「重戦車タイタン」の設計者。構造学や物理工学に詳しく、弾道学、砲や砲弾の物理運動や強度の算出など軍事関係の知識にも優れている。
 自分の研究や造り出したものに対するかなりの自信家。表現や動作にややオーバーなところがあり、急に冷静になるなど言動が読みづらい変人。

▼アルフレッド・アシュレイ
 EDF欧州空軍の航空兵器開発研究所の特別主任。かつてレイドシップ攻撃用として航空機用単装砲”フーリガン・ブラスター”の開発を主導したが、攻撃が失敗に終わりかなりショックを受けていた。本人は応用物理学や素粒子力学などで複数論文を提出しているなど優秀な科学者であり、EDFお抱えでありながら幅広い知識と応用力を持つ。
 この場にいる抜きんでた天才という程ではないが、柔軟な発想とこの場に足りない常識的な価値観を持つ。

▼茨城尚美
 EDF技術研究開発部の主任。「超プラズマ理論」の提唱者であり、制御の難しい超プラズマを女性の脳波によって制御する「サイオニック・リンク・システム」を開発・実用化した。これにより空中を自在に飛び回る女性兵士「ウイングダイバー」という兵科が誕生し、EDFの戦力増強に大きく貢献した。
 またニコラヴィエナの11人の助手のうちの一人であり、ニコラヴィエナの兵器について他人よりは幾分か詳しい。フォーリナーの異端技術に触れるまでは量子力学を専攻していた。

▼結城聡
 EDF技術研究開発部の研究員。「超プラズマ理論」を用いて兵器・火器転用を手掛けた人物で、ウイングダイバーの武装「サンダー・ボウ」と呼ばれる連鎖雷撃銃を開発している。その実績から「超プラズマ」の電気的性質の側面に詳しく、そこから派生する応用や理論に造詣が深い。
 物腰柔らかだが集中力が高すぎてあまり人の話を聞かないタイプ。
 結城実、結城桜の父親で、二人がEDFの兵士となる事に理解を示しつつ最後まで反対した良き父親。

▼アレフリー・ドレフニコス
 EDF異端技術解析保全局の局長。EDFは不明遺物構造体(OVUM-68)から他国が秘密裏に持ち出した物質や技術を秘密裏に回収する事を望み、その為の公には存在しない組織を造り上げた。それが異端技術開発保全局。これによりEDFの意図しない技術の発展や国家間のパワーバランスの崩壊、技術的特異点到達による技術革新の制御不能を抑制する狙いがある。その局長を務めるドレフニコスもまた、フォーリナーを由来とする異端技術全般「異端物理学」を専門とする科学者である。フォーリナーの技術全般に造詣が深く、多面的な側面から分析が可能。
 その思考、行動原理は予測困難な変人だが科学者としては優秀。

▼イブン・ハジャール・ジャギリ
 EDF異端技術解析保全局の実働部隊「黒翼」の隊長。「エーテル粒子物理学」を専門に扱っており、不可能と言われていたエーテル粒子による推進力と動力によって空中を飛行する技術と、それによる兵科「ジェットリフター」を確立した。ジェットリフターは強力でありEDFが公に存在を認めない技術の一つとして扱われ、ドレフニコスの下で秘密裏な任務に従事している。
 また新概念の誘導装置によって走る銃弾サイズのミサイル「マイクロミサイル」や銃身冷却にエナジージェム鉱石を利用した「ブラストチェーンガン」を武装パッケージとしてエーテル飛行ユニットと合体させた「ジャギリ・システム」を開発・自ら運用している。
 ドレフニコスと同じく表世界の住人ではないが、頓挫している「エーテル粒子物理学」を一人で開拓できるほどには優秀な科学者である。

▼エレナ・E・リーヴス
 EDF戦略情報部-対外戦略情報課の少佐。対フォーリナー戦略に於いて戦略情報の収集と分析を行う。科学者ではないが状況の整理や手に入る情報の質と量が高いレベルの物を握っている為、科学者たちを纏める立ち位置となる。また本人も頭の回転や情報処理能力が非常に高く、冷静で論理的な判断を下すことに優れている。

▼アドリアーネ・ルアルディ
 EDF戦略情報部の中尉。リーヴスの部下であり、同じく情報の収集と分析を任務とする。また、彼女は並外れた計算能力、暗算能力を持ち、数式や弾道計算、エネルギー計算などをスパコン入力よりも早く正確に行う事が出来、緊迫する状況の時短に貢献する。
 まだ若い事もあり精神的には未熟だが、明るく純粋でポジティブな性格は、時に皆の助けとなっている。
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