全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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科学的な話が小難しい方は流し読みでOKです!
ようは、雰囲気と演出なので……
(それはそれとして、頑張って考えたので後に設定とか纏めてみたいなぁ~。でもそれやって色々深く考えると、矛盾に脳を破壊されるからどうしよっかなぁ~)


第八十九話 巨獣ソラス討伐作戦(Ⅱ)

 

 轟炎が走る。

 豊かな山林地帯だった京都府北部の山々は恐ろしいほどに燃え、夜明けが近づきつある白みだした空を黒煙が覆っていた。

 この世の終わりかと錯覚するような絶望的な情景、その中を、悠然と巨大な影が進む。

 

 岩石と見紛う外皮、建造物と錯覚するほどの巨体。

 巨獣ソラスは、自らで燃やした道を進むかのように、一歩一歩大地を砕きながら突き進む。

 その進路上に、EDF戦略火器保管庫と大阪神戸の街を見据えながら。

 

 その巨体を遮るものは無い。

 あるのは数人ほどの気配を感じる地下倉庫と、遺棄された小さな町々、少しばかり起伏がある地形のみだ。

 

 その巨体にとって、それらは障害にはなりえない。

 むしろ、地下倉庫からは超級のエネルギーの存在を感じる。そこで腹を満たし、その先にたくさん感じる人間や都市を全て焼き払ってしまおう。

 戦力的に脅威になるものが存在しない以上、それらの行為は戦いにすらなりえない易い行いでしかない。

 

 それに、例え邪魔する存在があった所で、人間と言う存在はやはり障害にはならない。

 それはこれまでの行動で十分に証明されていた。

 人間には、この炎を防ぐ手段は無い。

 人間には、この体を貫く手段は無い。

 

 故に、何がどれくらい歯向かってこようと、その行為に意味は無い。

 故に、この目に映る全てを灰になるまで焼き尽くそう。

 

「──などと、余裕綽々と考えている訳ではなかろうなッ!? だとしたら、その油断が貴様の命取りである!!」

 

 あるかどうかも分からない巨獣の思考をトレースして、炎の陰から飛び出す仙崎。

 巨獣に反応は無い。当然だ。

 人の言葉を理解する筈が無いし、そもそも耳という器官が存在するのかどうか。

 目と口の存在は確認できる、だとすれば耳もあると考えるのが自然なのか。

 咆哮はするが、そもそもコミュニケーション可能な生物とは到底思えない。

 フォーリナーの母星で活動する恐竜的な生命体なのか、それとも遺伝子操作等で生まれた悲しきモンスターなのか。

 

「まあ、どちらでもよい! 分かっているのは──」

 

 NC103”ハンドキャノン”のトリガーを引く。

 軽い反動と共に22mm高速徹甲弾が放たれる。

 砲弾はソラスのうなじ辺りに命中。

 

 ソラスはくるりとこちらを向き、口内に黒煙を溜める。

 

「──貴様は、人間を無視できんと言う事だ!!」

 

 轟炎が放たれる。

 当たったものを瞬時に灰に変える常識を超えた炎が迫る。

 

 こちらを向いたと同時に横に飛んでいた仙崎だが、フェンサーの機動力を以てしても炎の回避は命懸けだ。

 

「しかし、案外うまい事釣れてくれるものだ! これはいよいよ、フォーリナーの習性やプログラムと言っていい定説になるのではなかろうか!」

 

 フォーリナーには、一定範囲内の人間や敵性存在を知覚する機能が備わっている。

 その範囲に入っている限り、奴らは人間を絶対に攻撃するように出来ているのだ。

 故に、そこにいる人間を全滅させない限り、奴らは行動を進める事が出来ない。

 

「まあ、ようするに貴様は私を殺すまで満足に前進出来ないという事だ! ぬぁははは!! さぁどうした私を殺して見せろ怪生物よ!!」

 

 飛び回り、跳ねまわり、常にソラスの死角に隠れるようにして、ハンドキャノンをチクチク発射する。

 意味があるのかないのか不明だが、極力顔面付近を狙うようにして常に存在をアピールする。

 火炎放射は、ソラスの正面から直線状に放射される。つまり、横や背面に居ればそれほど脅威ではない。

 そして、フェンサーの機動力を以ってすれば、回り込むのはさほど難しい事ではない。

 

 だが、離れれば離れる程、火炎の効果範囲は広がり、移動距離の問題で背後に回るのが難しくなってくる。

 故に仙崎は、ソラスとの距離を少しでも詰めるような動きを見せていた。

 

 

 右前方にジャンプ。ソラスの右側から背後に回り込む。

 ソラスが回頭。ソラスとしては仙崎を真正面に捉えたい。

 

 だがその時既に仙崎はそこには居ない。ソラスの視界の左端から、ハンドキャノンの砲弾が命中する。

 

「そうらどうした! なんだ! 案外御しやすい相手ではないか!!」

 

 良いつつ、慢心はしない。

 常に万事を警戒するのが仙崎流だ。

 そして、それは起こった。

 

 ソラスが首を低く下げる。地面に這うようにして、目線を仙崎に合わせると、そこから首を左右へと水平に振りながら、炎を発射した。

 字面にするとそれだけの事だ。

 だがその結果、仙崎の目の前には地平線全てを覆うような炎の壁が形成され、それが迫っていた。

 

「ッ!? 発射パターンが変わったか!? おのれぃ!!」

 

 まさかバカの一つ覚えのように直線状にしか発射していなかったのが罠だったとは思いたくはないが、とにかく仙崎は逃れられぬ炎の壁に飲まれる。

 回避は不可能だった。とてもジャンプで越えられる高さでも水平ブーストで逃れられる範囲でもなかった。

 

 だが、仙崎には盾がある。

 

「フィールド出力最大ッ! これで本当に防げるのか!?」

 

 理論上は可能、というアドバイスを茨城博士った事を思い出す。

 そうでなければ正直持ってくる意味は無かったが、グリムリーパーシールドは普及されている物よりも性能が高い。

 ならば、全力を尽くすのみだった。

 

「ぬおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 炎をついに真っ向から受けた。

 賭けの要素が強いので、出来れば避けたかった展開だ。

 

 ディフレクション・フィールドは、日本語で物理運動減退場とも言う。

 どういう理屈か、そこに作られた”場”の中ではあらゆる物理運動が減退、つまり物理エネルギーそのものが減少するというのだ。

 

 場に触れた物理エネルギーは、そのベクトルを滅茶苦茶に撹乱され、元の力を失う。

 ただし、反動として使用者には強力なノックバックが発生する。

 向かっていたエネルギーが強ければ強いほど、強烈なノックバックが起こりうる仕組みだ。

 

 つまり簡単に言うと、仙崎は炎を防いだ代わりに強烈な速度で後方に吹き飛ばされた。

 

「ぬああぁぁぁぁぁぁぁ!? なんの、これ、しき!!」

 

 炎を受けて吹き飛びつつ、脚を大地に突き刺すように固定しスラスターを全開にする。

 炎の勢いはまだ留まらない。吹き飛ばされている間も盾とフィールドを常に維持する必要があった。

 

 やがて炎が収まると同時にノックバックの加速も止まる。

 だが盾を構える事に懸命だったのと、パワードスケルトンの感覚の違いや動きづらさによって、仙崎は受け身も取れず派手に地面を転がった。

 

「ぐああぉぉぉッ!?」

 

 土煙を上げて、地面を抉って転がってようやく止まる。

 フェンサーの装甲では相殺しきれない物理的衝撃が仙崎を襲った。

 だが、パワードスケルトンの衝撃吸収装甲のお陰で骨や筋は無事のようだ。

 

「火炎放射を一回防いだだけでこれか……! しかも、まずいぞ」

 

 かなり吹き飛ばされたので、だいぶソラスとの距離が開いてしまった。

 ソラスを確認したいが、炎による大火災で周囲が覆われ、姿が確認できない。

 炎の向こう側にいる事は確かだが、ここから狙撃する事は不可能だ。

 

「ちっ、その上電磁波の影響か、レーダーでの位置情報も判然としないな! ひとまず炎の中を突っ切るほかあるまい!!」

 

《こちら作戦指令本部。仙崎少尉、聞こえているか?》

 

 唐突に、仙崎に通信が届いた。

 作戦指令本部──榊中将の声だ。

 

「はっ! こちら、第88レンジャー中隊、仙崎誠少尉でありますッ!!」

 

《他のものは手が離せない為、私が直接管制を担当する。ソラスの状況はどうなっている?》

 

「大変遺憾ながら距離を離されました! ですが、ある程度の方角は分かっているので何としてでも追い付きます!」

 

《待て。……ふむ、よし、そうか。今ソラスの位置を確認した。奴はこちらの最終確認地点から5km南下し、京都府綾部市市街地に侵入した可能性が高い。そこは疎開によってもぬけの殻だが、奴は人の存在如何に関わらず市街地を全て灰にする行動原理が備わっているらしい。そしてそこを通過されれば、もう戦略火器保管庫までの道のりに障害物は存在しない》

 

「!? りょ、了解しました! つまりその場所で、何としても奴を止めなければならないという事ですね!」

 

《その通りだ。こちらでも可能な限りバックアップはする。仙崎少尉、貴官の位置も特定した。その場所から南西に2km進み、国道27号線を南下、直進しろ。山中の火炎地獄を搔き分けて進むより早く綾部市に到達可能だ。そこで奴を迎え撃て!》

 

「サー! イエッサー!! 必ず奴を仕留めます!!」

 

────

 

 EDF戦略火器保管庫、中央制御室を抜けた先、大型地下構区火器保管エリアに科学者四人が辿り着く。

 

「こ、これが件の轟砲か……! なんと巨大な! 科学者として、畏怖すら感じるな……」

 

「無事に辿りつけたか……。道中襲われないか本当にヒヤヒヤしたぞ。しかし、欧州の研究所から少し荷物を取りに来るだけのはずが、こんな所まで来てしまうとはな……!」

 

「感動も感慨も後にしようか。さて、さっそくだけど電気系統と砲弾構造の確認を早急にすべきだ」

 

「ふむ……実物を見れれば助かるのだが……む? ハハ! やはりあったか! データ化されていない資料が! やはりそうでなくてはな! 足を運んだ甲斐があった!! なに!? 塗りつぶされている!!」

 

 小原博士、アシュレイ主任、結城博士、オストヴァルト主任がそれぞれ思い思いの行動を開始。

 それを、ここで作業していた二人が迎え入れる。

 

「やあ、来たようだね。ワタシのモノと言う訳ではないが、歓迎するよ。科学者諸君」

 

「さあ肌で感じなさい!! 先生の創りし子らの凄まじさを!!」

 

 下準備を進めていた茨城尚美とドレフニコスが出迎える。

 現地で顔を合わせ、実物を目の前にした六人は早速だがこの兵器の解明に努めようと轟砲に集まるが、それを遮るように、戦略情報部リーヴス少佐の通信が入る。

 

『失礼。手を止めずに聞いていただいて結構です。先ほど、先進技術研究所の協力を取り付ける事に成功しました。人員の即時派遣は間に合わないとの事でしたが、有用な人材が協力を約束してくれました。繋ぎますので、状況の打開に役立ててください』

 

 ノイズが入り、通信が切り替わる。

 

『一部の方だけ、初めまして。私は、EDF先進技術研究所の総合研究主任(プロフェッサー)、エドワード・マクドネル技術大佐だ』

 

 静かで理知的な自己紹介。

 その言葉に、一部の者が過剰に反応した。

 

「プロフェッサー・マクドネル!? 貴方、よく顔を出せたものですねェ!! まさかこの極秘案件に絡んで来ようとは、一体どういう心境の変化なんですかねェ!?」

 

『はぁー。君は優秀な科学者だが、魔女に脳を焼かれてからは見るに堪えない。それにどちらかと言うと、”僕”は君のほうが表世界に出て来たことに驚きだけど。まあ、いい』

 

「こちらからも質問させてくれるかね、プロフェッサー・マクドネル。EDF先技研が動いたという事は、これはもはや公式な記録の上で事が動く事を総司令部が承認したという認識で構わないかね? もしそうなら、魔女が……──ルフィーナ・ニコラヴィエナの非公開研究資料を総司令部は隠し持っている筈だ。それをこちらに渡してくれれば、状況の打開は一気に進むんだが」

 

『魔女の助手としては唯一の生き残り、茨城尚美か。噂は聞いているよ。生憎だが、回答はノーコメントとさせてもらう。私達は政治的問題に関わる余裕はないし、総司令部の意向には数多の要素が深く関わっている。ただ、現時点で貴女が欲している情報を、私は持っていない。それよりも、技術的な話し合いをすべきじゃないかな?』

 

「ふーっ。ま、分かっていた答えさね。だがまあ、キミが知恵を貸してくれるなら純粋に心強い」

 

『それはどうも。一応、資料には軽く目を通した。噂くらいは聞いた事はあるが、実在を知ったのは初めてだ。状況の整理をしたい。君達の口から、今直面している問題について聞かせてくれ』

 

 マクドネルは気を取り直し、状況の解決に意識を向ける。

 

 ──エドワード・マクドネル。

 EDF先進技術研究所の総合研究主任。

 早い話が、EDFの技術研究においてその最先端を行く存在が彼だ。

 権限的な話で言うと彼の上に先進技術研究所長官が存在するが、科学者としてはEDFの上で最も地位が高い。

 むろん、それだけで科学者として単純な優劣は付けられないが、少なくとも総司令官にはそのくらい買われている実力を持つ。

 

 EDF創設当初、南極ボストーク湖付近に出来た先進技術研究所で研究に従事するうちの一人だったことから、早くからフォーリナー由来の先端技術に関わり、その造詣も深い事は間違いない。

 そんな彼が協力してくれるというなら、これほど心強い事は無い。

 

 マクドネルの欲する現状の問題点について、まず最初にオストヴァルトが棚にあった資料を捲りながら説明を始める。

 

「まず、第一にして最も難解な問題は、この轟砲自体の構造が良く理解できないという事だ。この轟砲には、三発の砲弾が用意されている。普通に考えればそれを発射するだけの筈だ。が! しかし! 砲弾の外殻はフォーリニウム81に覆われている! 更に、装薬はパウダード・エナジージェムを使用したイオタ爆発によるものだ。これがどういう意味か、貴方なら分かるだろう!!」

 

『ふむ……。フォーリニウム81は高温に弱い。資料通りの長砲身なら、射出までに砲弾程度のフォーリニウム81なら液状化するだろう。イオタ爆発による物ならな猶更だ』

 

 フォーリニウム81は、数あるフォーリニウム同位体原子の一つだ。

 そのメカニズムは未だ解明されておらず、原理は不明だが、力を加えると一定方向に加速し続けるという既存の物理法則を超越する効果を持っている。

 指向性高圧爆発により、砲弾は加速し、更にフォーリニウム81によって加速度は指数関数的に上昇する。

 これならあっという間に音速の数倍の速度を実現可能だ。

 ただし、熱に弱いフォーリニウム81ではそれは実現しない。

 

 その後の問題を、アシュレイが顔を顰めて引き継ぐ。

 

「砲弾の内部構造も凄まじいものだ。中には高濃度のプラズマ粒子とエーテル粒子が隔壁で分けられて保存されている。イオタ爆発の熱と圧力で砲弾の外殻が崩壊すれば、両者が核反応を起こし、フォーリニウム線が飛散する恐れがある。いや、下手をすれば大規模なチラン反応を引き起こしこの場一帯は次元の裂け目に飲まれる危険性すらある!」

 

『チラン反応……二種粒子の高温高圧限定下での核反応を、エネルギー抽出ではなく純粋な攻撃兵器に転用するとはな。まあ、小規模なものであれば私も試作してはいたが、これほどの規模でそれを実現するとは……』

 

 呟くようなマクドネルの小声を、通信越しにリーヴス少佐が疑問と共に問いかける。

 

『何者かによるFUJIインダストリーズへの設計図流出による、防御兵装”アマツバメ”の試作と量産。我々の調査によると、あれは貴方が主導したもので間違いない筈です。そしてアマツバメには超小型のエナジーコアが搭載されている筈。あれの原理は、チラン反応で引き起こした空間断裂による破壊効果。素人考えで恐縮ですが、小型のものでそれが成功しているのであれば、大型化はさほど困難ではないのでは? 制御方法にもノウハウがある筈です』

 

『こちらの企みを丸裸にしているとは……恐ろしいな、戦略情報部は。まあ、当たらずとも遠からず、だ。チラン反応自体はそうハードルの高い現象じゃない。問題は二種粒子の濃度や圧力、その他さまざまな要因で効果の度合いが著しく変わる事だ。その反応を人類側が勝手に”チラン反応”と総称しているに過ぎない。砲弾クラスの大きさに二種粒子を留めているだけではっきり言って眉唾に等しい技術だが、この状態の砲弾をこのまま発射して、標的への直撃と同時に反応を臨界させ空間断裂による標的破壊を行う、か。いやはや、本当にルフィーナ・ニコラヴィエナは人智を超えた天才だよ。かのアルベルト・アインシュタインやニコラ・テスラが蘇っているのかと錯覚するほど……或いはそれ以上さ』

 

 ニコラヴィエナを尊敬するような素振りを見せたマクドネルに、彼女を”先生”と仰ぐドレフニコスは不機嫌さを隠さない。

 

「フン、随分と殊勝な事で……。先生の誘いを断ったばかりか、かつて我々を売ったようには見えませんねェ……。まあ、その事は後でじっくり語り合うとしましょう。──話を戻しますか。第二の問題について、結城博士。説明をどうぞ」

 

 冷めた目でマクドネルを見るドレフニコスは、逸れそうだった話を進める。

 ドレフニコスとマクドネルの関係については皆が興味を惹かれる……事は無く、ここの科学者は今は余計なことなど眼中にない。

 話しを振られた結城博士は、轟砲の配電盤を片っ端から開けつつ、

 

「第二の問題、それは電力と送電網の確保さ。まあそもそも、これが通常の火薬式大砲なら電力はほとんど必要ない。だが、この構造を見るにどうもそうではないらしくてね……。ただし、通常のレールガンという訳でもない。この轟砲がこれほど巨大な事の理由の一つなんだが、どうも電磁波加速による砲弾打ち出しを元に設計されているとしか思えない。その仕組みも殆ど分からないけど、それと同じくらい電力の不足は根本的な問題だ。何せ、保管庫地下にある大型エナジーコアを用いても、甘く見積もって必要量の半分も賄えない」

 

 結城博士の説明を、途中からルアルディ中尉が引き継ぐ。

 

『割り込んじゃいますね。その、撃ち出す砲弾が仮にチラン反応による空間断裂効果を期待するものだとして、その反応に必要な高温高圧を得るまで砲弾を加速させるためには……、えーっと、私の計算が間違ってなければ、地下にある大型エナジーコアが二基から三基は必要ですね』

 

「しかも、その条件で轟砲を動かすには、瞬間的な電力量が必要だ。この轟砲に繋がっている送電網では、とても賄えない。よって、現実的使用法としては、轟砲の出力を低下させるか、或いは他の禁忌兵器を流用して轟砲自体を改造してしまうか、だね」

 

 結城博士の二択の提案に対し、小原博士が渋い顔をして見解を示す。

 

「出力の低下は、それだけソラス撃破の可能性を下げる事を意味する。奴の外皮は、まったく遺憾なことだが今の人類が持つ通常の物理的効果では破壊は難しい。轟砲以外でその可能性がある兵器はここには多々存在するが、やはり最も確実なのは砲弾の効果として期待できるチラン反応によるものだ。ただし、効果的な出力のチラン反応を引き起こすには、理論上は砲弾を光速の30%以上で飛ばして反応させる必要がある。この加速方法では、とてもそれを達成できるとは思えない。ただし、電磁力射出の良い所は出力をある程度コントロールできるという所だ。それによって成功率が上がるのであれば、他の装置を使ってでも電力を確保すべきだ」

 

 小原博士の言葉に、茨城博士も賛同する。

 

「そもそも、この轟砲もそうだが他の禁忌兵器もまともな運用を想定されていない。それを土壇場で使うっていうんなら、ある程度の魔改造は必要さね。ほんと、あの魔女は発想はイカレてるクセに実務レベルとなるとどうもやっつけ仕事が多くてね。理論だけ完成させて満足するタイプさね。やるんなら最後まで完成させて……おっと、すまない。とにかく、他の禁忌兵器を利用するのには、リスクを考慮しても賛成さね。というより、ワタシはそれ前提で考えているよ。ただやるとしても、時間は元より人手と設備が揃ってないと話にならないレベルではあるがね」

 

 ニコラヴィエナが中途半端な兵器だけを世に残したことへの不満があるようなそぶりを見せるが、その問題は一旦認識が共有できたとして、次の問題の話に移る。

 

「その二つの問題をクリアしても、戦略的自壊型決戦用轟砲(ネガ・ロンゴミニアド)の運用には、第三の壁が立ちふさがるでしょう」

 

 次の難問を提起したのは、魔女の造った兵器を敬愛するドレフニコスだ。

 

「この兵器の砲弾加速構造は、大きく三段階に分かれています。第一段階、パウダード・エナジージェムによるイオタ爆発による加速。第二段階、砲弾の外殻を覆うフォーリニウム81によるベクター超加速効果。そして第三段階、先の電力の話で結城博士が少し触れましたが、これが砲身を覆う電磁波加速装置による超プラズマ電磁波加速。まァ、カンタンな話です。蒸発寸前のフォーリニウム81に十分な加速を与えるほどの超プラズマ電磁波を照射すればどのような事が起こるか!」

 

 敬愛する師が遺した欠陥兵器の問題点を解説しているにもかかわらず、その表情と語り口にはやや興奮が見られる。

 この轟砲の問題点を探り露にすることは、まるで”先生”と触れ合っているかのような奇妙な感覚を彼に与えたのだった。

 やけにもったいぶったような言い方の彼の言葉を、マクドネルが引き継いだ。

 

『フォーリニウム線の爆発的な飛散に繋がるね。超プラズマの電磁波がフォーリニウム81に衝突すれば、確かに爆発的な加速反応を引き出せる。が、それだけでは済まない。その内部のエーテル粒子と反応すれば、即座に原子崩壊と臨界を迎えてフォーリニウム線が生まれる』

 

 深刻そうな語り口のマクドネルの言う通り、フォーリニウム線の飛散は壊滅的な結果を生む。

 通常、人類の扱う放射線はヘリウム原子核から構成されるα線、電子か陽電子で構成されるβ線、中性子で構成される中性子線、そして電磁波で構成されるガンマ線の数種類が存在する。

 

 フォーリニウム線は、未知のフォーリニウム素粒子と超プラズマ電磁波を同時に放出する、上記のどれにも該当しない特徴を持つ放射線だ。

 何らかの要因でフォーリニウム原子が原子崩壊を起こした時に発生し、非常に高密度・広範囲に拡散する。

 周囲の物体は分子構造を破壊され物理的に粉々に砕け散る程の効果を発揮し得る、恐ろしい現象だ。

 

 誤解を恐れず簡単に言えば、撃った瞬間に砲弾が融解しその場で核反応を起こし、この地下格納庫で核爆発に匹敵する化学反応が起こるという事だ。

 当然ながら、ソラス討伐どころの騒ぎではない。

 

『……なるほど、故に”自壊型”という訳か。確かにEDFが禁忌兵器として封じただけの事はある、か。……ふむ。だいたいの大きな問題は把握した』

 

 マクドネルのその言葉を以って、現状把握は終了した。

 その現状把握に従って、マクドネルが以後の解明方針を新たにする。

 

『君らの力を信じていない訳ではないが、残り時間は僅かだ。闇雲に動いても時間を浪費するだけだろう。せっかく優秀な科学者たちが揃っているんだ。それを生かさない手はない』

 

 マクドネルは続け、大きな三つの問題に対しそれぞれの担当者を決めた。

 

 第一の問題、轟砲の内部構造と発射原理の解明。

 目下最重要の問題であり、これの解決は必然的に第二第三の問題解決にも大きく関わってくる。

 担当者は、この場で最も禁忌兵器に明るい茨城博士と、軍事物理学と砲そのものに詳しいオストヴァルト主任、それとソラスの確実な撃破を可能にするための考察を行う小原博士。

 

 第二の問題、電磁波加速システムの解明と電力及び送電網の確保。

 レールガン以上の大電力を瞬間的に必要とするこの装置の電力を確保しない事には、この兵器は動かす事は出来ないだろう。

 担当者は、フォーリナー由来の電気工学技術に明るい結城博士と、素粒子力学やフォーリニウム系の物理学を専攻するアシュレイ主任。

 

 第三の問題、フォーリニウム線放射の対策と防護設備の選定。

 ほぼ確実にフォーリニウム線の被曝が想定されるこの兵器を安全に運用する為には必須の対策を講じる。

 担当は、他のOVUM-68由来技術や禁忌とされ封印された技術に詳しいドレフニコス局長と、同じく過去の様々なEDF関連実験の記録を握る情報部のリーヴス少佐。

 

 その他、スパコン並みの暗算を得意とするルアルディ中尉が分析やシミュレーションを助力し、その上でマクドネル主任が全体の指揮と総合的なサポートを行う。

 

『こんなところでどうだろうか。異論は……ふむ、無いようだね。こちらも案件が案件だけに先技研の全てのリソースをフル活用する事は出来ないが、出来る限りのことはしよう』

 

 マクドネルの采配に、それぞれ一定の納得を示し、さっそく調査に移る。

 そもそも、彼ら六人の科学者は各々が各分野トップレベルの知識を持つが、いかんせん指揮を執って全体を引っ張る能力には向いておらず、またその余裕もない状況だった。

 マクドネルの協力はその意味においても、全体の助けになり得る。

 

 ソラスの迫るEDF戦略火器保管庫、大型地下構区火器保管エリアにて、ソラスを打ち倒す為の轟砲運用の本格的な行動が始まった。





▼エドワード・ハンス・マクドネル(42)
 EDF先進技術研究所の総合研究主任(プロフェッサー)
 管理職として、書面上は彼の上に研究所長や部署の管理者として先技研長官が存在するが、研究職としてはEDFで事実上トップに立つ大物科学者。
 南極に建造された先進技術研究所の科学者として、常に最前線でフォーリナー文明に触れており、数々の理論や法則を発見した現代の偉人。
 しかしながら、先技研長官や戦略情報部長官の判断によって流出させるべきでないと判断された技術は異端技術解析保全局の管轄に回されたり、彼がプロフェッサーに就任する以前にはニコラヴィエナによって多くの技術が私物化されていたり、彼が触れ合わなかったフォーリナー由来技術も数多い。
 その為、飽くまで”正式には”EDFのトップ科学者の一人、という扱いになる。

 エナジージェム関連の世界的権威で知られるシャーロット・ファイファー博士とはライバル関係にあり、過去にパウダード・エナジージェムを用いたイオタ爆発効果論の権利で揉めている。
 既婚者であり、一人息子がいる。
 息子にも科学者としての英才教育を施しているが、上手く行っていないらしい。
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