巨獣ソラス編、新年を跨ぎまして、まだ継続中でございます。
今年も色々書きたいことあるので、よろしくおねがいします!
──EDF戦略火器保管庫 地上 資材搬入ゲート付近──
『クッソがぁぁぁぁ!! 殺しても殺しても、ドンドン出てきやがる!!』
『派手にやり過ぎたな! 周辺地域から、際限なくフォーリナー群が集まってきている! このままじゃ、あと30分も持たないぞ!!』
コンバットフレーム・ニクスCを駆る曙光會のブレイブ4蔵部とブレイブ2坂上が、進撃する巨大生物をリボルバーカノンの弾幕で食い止める。
湧き出る巨大生物を前に、善戦してはいるがそのほかの敵を相手取る余裕はない。
そんなニクス二機の側面から、降下したヘクトルが三機降り立つ。
『まずい! ヘクトルだ! ランチャーを装備している!!』
ヘクトルはフォーリナーが対歩兵用に投入したとされる機甲兵器だが、装備する円錐状のエネルギー兵器”スパークランチャー”から射出されるエーテル榴弾はギガンテスすら破壊可能な威力を持つ。
ギガンテスよりも装甲の薄いニクスにとっては、直撃は致命傷となりかねない。
そんな戦慄するニクス二機の間を縫うようにして、赤の機影が駆け抜ける。
『つったって、一時間は持たせねぇとココがソラスに突破されんだろ? そしたら今度は大阪神戸だ。そんな事は絶対にさせねえ! 何が何でも一時間キッチリ持たせてやる! うおおおおらぁぁぁぁぁやってやるぜぇぇぇぇぇぇ!!』
気合の入った雄たけびを上げ、ニクス・レッドシャドウがローラーユニットとスラスターを駆動させ、三機のヘクトルを捉える。
ヘクトルは即座にスパークランチャーを向けエーテル榴弾をばら撒いたが、狙いは甘い。
レッドシャドウが脚部をたわめて解放し、大きく前方に放物線を描いて飛ぶ。
ただ飛ぶだけではない。空中でリボルバーカノンを射撃。飛翔中でブレる照準を手動で制御し、36mm弾の連続直撃によって一機が煙と爆発を上げて倒れる。
着地後脚部操作とスラスターによる強制反転。ヘクトルの背後に回り、至近距離で肩部散弾砲を連射。
二発で装甲を貫通し、ヘクトルはその場で爆散。
残り一機がレッドシャドウに向けてスパークランチャーを放つが、そこには既に機影はない。
『へっ! ノロマがよ! ──うおっ!!』
もう一機のヘクトルに照準を合わせ、引き金を引く直前、機体にアラートと衝撃が加わる。
『やっべ! 脚関節がイカれやがった!? 酷使しすぎたか! うおちょっと待て、ちょっと待て!!』
動きが停止するレッドシャドウの元に、スパークランチャーを向けるヘクトルと、背後から迫るβ型。
『くっそぉ!!』
極力負担を掛けない繊細な動きで水平移動し、リボルバーカノンを射撃。
しかし元々、スラスターと脚部をクッションにして射撃安定性を保つことで無理やり搭載していた武装だ。
この状態では満足に反動を制御できない。
そこに、スパークランチャーとβ型の糸が双方から同時に迫る。
『やるしか、ねぇ!!』
安藤は脚部とスラスターを操作し空中に飛び上がり、反転してリボルバーカノンと肩部散弾砲の引き鉄を引く。
だが、焦って少々タイミングが早かった。安藤機もまた空中で捕捉され、スパークランチャーのエーテル榴弾と強酸糸がレッドシャドウに絡み付いた。
『うおおおおやべえ!!』
脚部の不具合もあって安藤機は空中で撃ち落されるように墜落。
エーテル榴弾が装甲を吹き飛ばし、強酸糸が装甲の隙間に入りそこから機体構造を溶解する。
『んのやろぉ……。ナメんなよ! こっちにはまだ武器があんだよ!!』
武装は正常に稼働していた。
だが、付近には際限なくβ型巨大生物が集まっていた。
どうやらどこかにレイドシップがあるようだ。
『さ、さすがにやべえ!』
「まったく、世話の焼けるガキだ! ──グリムリーパー散開! 蜘蛛野郎を蹴散らすぞ!!」
「「死神の名に懸けて!!」」
グリムリーパーが瞬時に安藤機の周囲に展開し、彼を狙うβ型を狩っていった。
精鋭部隊の名に恥じぬ活躍を見せ、周囲を覆っていたβ型は瞬く間に駆逐される。
『し、死神部隊……の、副隊長さんか。わりぃわりぃ助かったぜ!』
「しっかりしろ。ガキのお守りに来たんじゃないんだぞ?」
『ガキガキうるせぇな! 分かってるよ! オレのお陰で何機ヘクトル狩ったと思ってんだよ!』
「それをガキだと言ったんだ。戦果を誇って驕る前に自分の身を顧みろ。……と、普段なら言ってやりたいところだが、お前の戦果に頼っていたのも事実だ。そして、お前が動けなければ、こうなるのも自明の理って訳だな……。単なる子ども扱いは、一応謝っておこう」
九条中尉が顔を青くしてみるその先は、三機のレイドシップから次々と降下するヘクトルとガンシップの大群だ。
「副隊長!! 機械軍団が来ます!!」
「分かってる! まったく、馬鹿みたいな戦場だ。だがここでくたばっちゃ後ろを守る隊長に合わせる顔がない。各員、いつも通りだ! 死神の名に懸けて、ここを守り通す!」
「「イエッサー!!」」
──EDF戦略火器保管庫 大型地下構区火器保管エリア──
轟砲を前に頭を悩ませ、様々な調査と推測を重ねて、科学者たちは轟砲の運用方法を解明していた。
その天才的な頭脳から、”極北の魔女”と恐れられた稀代の科学者ルフィーナ・ニコラヴィエナの造り上げた、戦略的自壊型決戦用轟砲。
運用にあたっての諸問題が未解決のまま打ち捨てられたその兵器を前に、魔女と比して凡才の科学者たちが集まり、その叡智を結集し、運用にこぎつける。
或いは、時があれば、人員がいれば、それはもう少し容易だったのかもしれない。
しかしこうもまた考えられる。
追い詰められたこの状況こそが、組織、思惑、利害、相性などあらゆる人類の枷を取り払い、真に協力し合う状況を作り出せたのだと。
その証拠に、EDFの極秘施設であるこの場所へ、続々と協力者が通信を投げかけてくる。
『こちらは、欧州原子核研究機構、原子核物理学担当、ゲオルグ・ヴィッツマンだ。微力ながら知恵を貸そう』
『ロスアラモス米国国立研究所所属、高エネルギー物理学を扱っている。トーマス・ジャクソン以下9名、フォーリナー由来のものに関しては専門外だが、出来る限りは手を貸そう』
そんな威厳ある壮年科学者の声の中、若い女性の声が混ざる。
『久しぶりね、プロフェッサー・マクドネル。私に黙って面白そうなことに首を突っ込んでいると聞いたわ。何故、エナジージェムの世界的権威である私、シャーロット・ファイファーに真っ先に声を掛けないのかしら? こほん。まあ、そういう訳で専門家であるこの私が力を貸してあげますわよ。で? で? どこまで解析は進んでいるのかしら!?』
有名な世界的研究所から続々と協力の打診がある中、マクドネルにとって知己の間柄と言える科学者もまた協力を表明した。
科学者としての振る舞い、マクドネルに対する嫌味の他に、禁忌兵器に対する興味を隠し切れないテンションでの参入に、マクドネルは頭を抱えて嘆息。
「状況からそうも言っていられないのは分かるが、個人的には君は呼ぶべきではないと私は思っているよ。君は性悪で強欲だからね、この場全員の手柄を横取りして後で揉めるのも国際問題になる」
『あら失礼ね。まだイオタ爆発論の事を根に持っているの? まったく逆恨みも良い所ね。ま、言いたいことはいろいろあるけど、とりあえず時間が無いんでしょう? さっさと本題に入るわよ』
──シャーロット・ファイファー。
20代という若さでありながらエナジージェム研究の第一人者であり、EDF外来粒子研究所に所属している。
数年前から既に頭角を現しており、俗に言う”天才少女”という扱いがあり、それに由来してかやや鼻につく態度と若干ではあるが問題のある行動を伴う。
一部では”極北の魔女”の再来であるかのように持ちあげられた事もあったが、次元が違う事を本人は理解しており、それほどにニコラヴィエナが規格外であったことが窺い知れる。
彼女らを加えて、更に轟砲の解析が進む。
『──以上が、エーテル粒子論から言って考え得る可能性になるかしら。どう? 参考になった? その考え方でいうともしかして──』
『──という根拠からして、やはり機体構造的にレーザー核融合に非常に近いシステムで砲弾内部の素粒子プールは制御されるべきであり──』
『──という事例もある。詳細は伏せるが、その理論であれば長大な粒子加速器を使わない疑似的な粒子加速が可能になるが、問題は短時間に莫大なエネルギー消費と機体構造の限界化が──』
議論と調査が白熱化し、少しずつ人智を超えた兵器であった轟砲のベールが剥がれてゆく。
そして議論から20分が経過した時、調査解明は決定的な段階を迎えた。
茨城尚美はそれを総括し、その達成感に震えて声を発する。
「──そうかい。くく、やはりそういう結論で間違いないようだね。いやぁ済まない。随分と遠回りをしてしまったように思える。やはり、全ては計算されていたようだ。人格はどうかと思うが、やはり奴は”魔女”と呼ぶに相応しい……天才的発想の持ち主だ」
それに続き、各々の科学者も納得の様子を見せる。
「発想の逆転が必要だった……! 砲弾を覆うフォーリニウム外殻は、完全に融解する前提で使用されていたのか!! フォーリニウム81は融解するコンマ38秒で十分な加速を得ることが出来る!」
オストヴァルトは発想の転換に時間を要した事を悔いながらも新たな知見を得たことに感動して腕をオーバーに掲げ表現する。
その隣でアシュレイも難解な学術書と解読不能な設計書を見て諦めたように放り投げる。
「このフォーリニウム砲弾を見た時から、これを物理砲弾を発射するシステムだと思っていたのが間違いだったという訳か。これは、従来の火薬式大砲じゃない。火薬式カートリッジを応用したハイブリッド素粒子加速砲だった。そう言う事か……無茶苦茶な発想だ!! 分かる訳がない!!」
「だが、皆の協力のお陰で僕たちは理解した。融解した砲弾外殻から解放された、エーテル粒子と超プラズマ粒子。それらに電磁的結合と加速を与える方法も、最初から用意されていた。後はそれらに電力を供給する送電システムの構築だが……」
アシュレイが放り投げた仕様書を律儀に机に戻した結城博士は、接続されたコンピュータで最後の計算を行う。
その目線は上方キャットウォークの先、巨大な試験管の中で眠る”生物”を見やる。
視線を向ける結城博士を引き継ぎ、その”生物”の状態を精査していた小原博士が言葉を続ける。
「”魂無き兵士計画”の産物……ええいややこしいな、とにかくクローン体の稼働に必要な栄養源と動作知識の供給は問題なく完了した! EDFの禁忌に気が咎める思いだが、動作テストをしている余裕はない。計算上、問題はない筈だな? ルアルディ中尉」
小原博士に話を振られたルアルディは、元気よく答える。
『はい! 小原博士の要求データと私の計算によれば、理論上は何とかなる筈です! 生物学は専門外で慣れない計算でしたが……多分、大丈夫です! そう言えば、”彼女たち”の衣服はありましたか? い、いえ、状況が切羽詰まっているのは分かっているのですが、さすがに目に毒というか……』
──”魂無き兵士計画”。
それは平たく言うと、ニコラヴィエナ主導によるクローン兵士計画だ。
計画のほどんどは闇に包まれており実情ははっきりとしないが、完成したクローン兵士は、全員が10から20代に見える”生物”だ。
それを、人間と呼んでいいのかは定かではない。なぜならその試験管の外側からは、性別を確認できるものが一切存在しないからだ。
それでも、例えクローンでありそこに意識と呼べるものが存在しなくても、外に出して仕事を与える以上は何か身に纏って欲しい。
そういうささやかな思いだった。
「安心してくれ。それは僕たちも同じだ。幸いなことに戦闘中の黒部二佐の部隊から報告があり、更衣室にて大量の白衣を発見した。詳細は隠されているが管理の為数名が出入りしていたというデータもあるし、彼らのものだろう。日常的に使われていたならある程度清潔でもあるはずだ」
状況が切羽詰まっているのと何名かの倫理観が吹き飛んでいるので実のところ結構危うかったが、結城博士が機転を利かせてくれたおかげだった。
『なるほど! 安心しました! ……しかし、終わったら彼女たちの処遇を新たに考えなければなりませんね……』
『それは、戦略情報部が……いいえ、私が責任を持って預かりましょう。それより、送電システムの方は?』
クローン兵士たちの処遇はいったん棚上げし、急務となる話に戻る。
結城博士が送電系の話の進捗状況を説明する。
「今やっている。
繋いだコンピューターから送電情報や規格を読み取って、十分可能だと推定する。
また、各種機器の最低限のメンテナンスにも人員は必要だ。
そこでも、都合31人にも上る生体クローン兵士の解放は必要になってくる。
「”魂無き兵士計画”は、フォーリナーとの戦争末期を想定しての兵士不足を補うための計画でした。ですがクローン技術は、フォーリナーの技術を応用しても実用に足るものではなかったのです。倫理的に乗り越えるべき壁も大きかった。その計画は早々に破棄され、自律兵器による軍備増強計画に路線変更を余儀なくされたのですが、まァさかこんなところで成功例に遭遇するとは!! 万感の想いではありますが、ここで彼女たちを使い潰さなければならないとは!! ああ、なんと非情ではありませんか!!」
ドレフニコスの言葉通り、クローン兵士の稼働時間はごく短く、この作戦を終えて何体が稼働可能状態で保護できるかは未知数だ。
倫理的に極めて難しい問題に直面していたが、ここで足踏みするようなことは、彼らには許されなかった。
なぜなら、このEDFが抱える禁忌の集合体であるここ戦略火器保管庫を暴いたときから、このような事態は想定されるべきであったからだ。
「そうならないように万全を尽くすさ。で、フォーリニウム線の防護はどうなっている? 一応、こちらも進展はあった。薬室内や砲腔内での核反応は電磁結合によって避けられるが、今度は加速に用いる電磁波との反応によってやはり一部が原子崩壊を伴いフォーリニウム線を拡散する。だがレーザー圧縮照射によってある程度フォーリニウム線の収束をコントロールする事が出来る。つまりフォーリニウム線を前方に収束、所謂フォーリニウム線バーストと呼べるような様態に持って行き、二種粒子によるチラン反応、核反応、更にフォーリニウム線バーストの三種類の高エネルギー衝突によって物体を完全に破壊する。と、そういうメカニズムが採用されているさね。話が長くなったが、ようは大半のフォーリニウム線は前方に照射されるが、全てではない。その漏れ出す一部だけで轟砲は全壊し、我々の細胞結合、原子結合も崩壊する恐れがある。初期に比べて、余程危険は下がったとは言えるがね」
”ガンマ線バースト”という宇宙物理現象がある。
これは大質量星の終焉である、超新星爆発などをきっかけに起こるもので、ガンマ線という電磁波の中でも強いエネルギーを持つ放射線が超高密度・超高エネルギー状態で放射される電磁波現象である。
これをフォーリニウム線という未知の放射線で行う機構が、この轟砲の発射機構の一つとなっている。
フォーリニウム線は元々粒子放射性と電磁波放射性という二つの性質を持つ奇妙な放射線だがその特性を最大限に利用した発射機構だと言える。
それらに指向性を与え最大限に利用した発射機構であっても、余剰放射線で轟砲の崩壊と人体設備の損傷は避けられないと茨城博士は結論付ける。
それを受けて、ドレフニコスは現状のフォーリニウム線対策について案を開示する。
「
ドレフニコスが声を低くして皆に問う。
それは、ある意味では轟砲の使用自体よりもより危険が伴うものだ。
ストレンジ物質とは、中性子星の内部で発生すると言われる、既存宇宙物理学上の仮定異種原子の一つだ。
超高圧縮化された原子は、内部の素粒子、それを構成するクォークと呼ばれる最小単位の物質まで分解・超圧縮で再構築され、あらゆる反応も一切受け付けない”ストレンジクォーク”と呼ばれる物質に変化する。
発生したストレンジクォークは非常に安定しているため、あらゆる物質をも安定状態へと変化させる。
要するに、触れた物質は全て非常に安定したストレンジ物質へと変化し、それが連鎖的指数関数的に拡散する。
中性子星内核で一度ストレンジクォークが発生すれば、その星はストレンジ星へと変化するのだ。
そのような宇宙物理学の仮定物質として存在が示唆されていたその物質に、非常によく似た特性を持つフォーリナー性外来物質の一つが、このストレンジ・エーテル結晶体だ。
それを使い、万が一制御が不可能になれば、地球全土がストレンジ・エーテル結晶体に覆われ、無機物も生物も海も火も存在しない、無色無反応の塊と化す可能性すらある。
それは、ある意味ではフォーリナーに占領された地球よりも悲惨な結末だろう。
『計算上では、原理上不可能という程の事ではありません。ですが、その……不確定要素や未解明の物理現象の要素が強く出る可能性を考えると……。ほ、本当にやるんですか……?』
地球終焉を迎えるかも知れないこの作戦を、準備も調査も実験も対策も不十分で行う事は、到底正気の沙汰ではない。
「ふーっ。我々の命が吹き飛ぶだけならまだマシだが、制御不能になったフォーリニウム線バーストの暴走は避けたい。仕組みは分かったが、制御や調整が難しいヤツである事には変わりはないさね。それにそもそもの話、ここまでの危険を冒して本当にソラスを討伐する意味はあるのか、という疑問は残る。最終的な判断は、そこの戦略情報部少佐にお任せするさね」
茨城博士がこの作戦自体の是非を、リーヴス少佐に投げかける。
リーヴス少佐が通信機の向こうで息を呑む。それだけ、この先の発言には責任が伴っている。
『──本案件は、地球人類の対フォーリナー戦争に於いて、非常に大きな分岐点となるでしょう。本作戦の失敗によるデメリットは、この段階でのソラス討伐というメリットを遥かに上回るものとなる事は容易に想像でき、場合によっては地球滅亡の引き鉄を引くことになりかねない程、危険なものであることも承知しました。ですが、既に本案件の決行はEDF総司令官バートランド・D・グレンソン総軍大将の権限で許可されています。そして私も、人類の誇る貴方達科学者によって、この作戦の成功は可能だと判断します。また、この作戦の否決はここにある技術の喪失を意味し、日本戦線の大幅な後退を意味します。戦略情報部の判断で、それらは容認し難いという結論は既に出ております。また作戦決行の付加価値として、この実戦試射試験の成果によって人類はよりフォーリナーに対し、有利に立つ事が出来るでしょう。──よって、EDF戦略情報部、エレナ・E・リーヴス情報少佐の名において、この作戦の決行を命令します!』
様々なリスクを呑み込んで、ここに人類は、新たなる領域に一歩踏み出すことを決定した。
この瞬間、人類史は既存の歴史から逸脱し、可能性の未来に舵を切ったのだ。
「──……そうかい。理論は完成した。許可も出た。さて、あとは”やる”だけさね」
科学者たちが、
大型エナジーコアの炉心融解まで、あと30分。
──EDF戦略火器保管庫 地上 資材搬入ゲート付近──
『グリムリーパー! 左翼の支援はもういい! 中央のヘクトル群を何とかしろ! 火力と装甲で突破されるぞ!! 陸自特戦群、支援装備の切り替えは終わったのか!? 貴様たちの狙撃支援が頼みだ! コンバットフレーム部隊は何をしている! 動かない機体は放棄してPAギアに切り替えろ! 全体の戦線をゲート付近まで縮小する! 黒翼部隊、下がってこい! 事ここに至って攻勢防御は不可能だ! ゲート付近の消極的消耗戦に切り替える! 保坂! 航空部隊との連絡はまだ取れないのか!? 急がせろ!! 曙光會ゲリラ部隊はとにかく巨大生物の侵入を防ぐことに集中しろ! 援軍は要請している! 何としても持ちこたえろ!!』
後方の指揮通信車からロイグ大佐が喉を枯らして戦域を指揮する。
数人の護衛と小火器はあるが、ロイグ大佐の周辺にも群れからはぐれたガンシップの飛来が増え、指揮を執りつつ自らが小銃を構えて迎撃する始末だ。
更に、彼の指揮する戦場は酷い有様だ。
戦場はゲート前を中心に北、東、南を半包囲される形で迫っており、ロイグ大佐のいる西方面にも一輌のサーペントを配備しているが、なんとか巨大生物群を押しとどめている状態で極めて危うい。
北──左翼方面はα型亜種とβ型という強力な巨大生物群が集中しており、グリムリーパーが対処に追われていた。
東──中央方面はレイドシップから降下するヘクトル群が強力な突破力を持って前進。ニクス部隊とサーペントが対応していたがニクス部隊は機体をほどんど破壊されほぼ固定砲台と化していた。
南──右翼方面はガンシップとγ型の混成航空部隊が襲来しており、黒翼部隊が広域に展開し航空優勢の熾烈な奪い合いを行っていたが、物量に押されて戦闘不能者が続出している。その補佐を陸自特戦群と曙光會ゲリラが担っていたが、対空装備には限界がある。
そんな状況だが、ロイグ大佐は前線を大幅に縮小し、ゲート付近に戦域を限定する事で、戦力を密集させ防御を固める作戦を取る。
「くそがぁぁ!! 機体を放り出して俺たちに何が出来るってんだ!!」
「騒ぐな! 見ろガンシップが来てる! ヘクトルもだ!!」
歩行不可能、武装は残り僅かだった残骸寸前だったニクスから脱出し、曙光會のニクス乗り二人、蔵部と坂上は今はニクスコックピット一体型だったPAギアを装備して地上で戦っていた。
その二人に巨大生物のみならず、猛禽の形をしたガンシップと、白銀の巨人ヘクトルが不気味な眼を向けて迫る。
「クソがァ! 例え、ここで散る事になっても!! 曙光會ある限り、日本の曙は──」
小銃を構え、ガンシップを撃ち落す曙光會の蔵部。
そこにガンシップとヘクトル双方の機銃掃射が降り注ぐ。
「ぐああァァ! クソ野郎ォ──」
「──ダルシット、レヴェント来い!! 曙光會の負け犬ドモに恩を売り付けるぞォ!!」
ジャギリ傘下の黒翼部隊が、暴風のように蔵部の周囲を飛行した。
「ヒャッハァーーーー!! 獲物は頂きだぜェーーー!!」
「正気の作戦じゃない!! クソ!!」
マイクロミサイルでガンシップをロックオンし、発射。
誘導性能はそれほど高くないのが玉に瑕だが、正面に捉えていれば殆ど外すことはない。
機動力でそれを可能にし、反転して三人でヘクトルをチェーンガンで狙い撃つ。
機銃掃射中だったヘクトルの上体が大きくぶれ、蔵部は間一髪助かった。
「すまねぇ! 恩に着るぜ! PAギアはボロボロだが、助かった!!」
「ヘッ! 礼は浴びるほどの”
「オレはありますぜ隊長! 最ッ高にクールなヤツだ! 今となってはクスリの方が効くが──うおおおやべえこっち向きやがった!!」
チェーンガンで気を引いていたダルシットに、ヘクトルがエーテル機銃の銃口を向け、射撃した。
直撃を受け、空中で撃ち落されるダルシット。
「ちくしょうマズい!! この豆鉄砲じゃ歯が立たないぞ隊長!!」
「うるせェ何が豆鉄砲だ!! さすがに相手が悪いってンだよ!! ヘクトル相手にすんならもっとマシな装備で来るァな!! とにかく気は反らした! 下がンぞテメェら!! ──っとォ!! そうもいかねェってか!?」
ジャギリとレヴェントの方にも、銃口は向けられる。
更にスパークランチャーを持ったヘクトルも迫る。
周囲はもはやヘクトルだらけだ。
『黒翼部隊、そのまま飛び回っていろ! 狙撃銃、無反動砲、前方のヘクトルに向け、射撃開始!』
通信で割り込んだ声は、陸自特戦群の副隊長、志田三佐だ。
彼は狙撃班、対戦車班を指揮し、ヘクトルに向けてそれぞれが一斉に射撃。
どちらも従来の対人用火器からEDFの目を盗みほんの少し強化されたもので、ヘクトルに対し集中射撃は有効となっていた。
目標を的確に絞り集中射撃を行う手法で、一機、二機と続けて撃破したその時だ。
「三佐!! 巨大生物が、β型が迫っています! もうここは──クソっ! マズイです!!」
部下の一人が重機関銃で応戦する。
12.7mmの弾丸に甲殻の薄いβ型は粉砕されるが、その糸の射程と広範囲攻撃は、簡素なアーマーしか持たない特戦群にとっては脅威だ。
しかし志田三佐は、
「駄目だ! 狙撃支援隊形を維持しろ! 此処より後ろには下がれない! 第一、ヘクトルの処理には俺たちが必要だ!」
『──その通りだ。防御は”盾”に任せて貰おう。せぁぁッ!!』
一機の黒いフェンサーが戦場を駆け抜ける。
かと思えば、その鋭角的な機動と刺し穿つ機械槍で補足される間もなく瞬く間にβ型を刺し貫く。
「死神部隊……! いや、隊長一人か」
「部下には前線を任せている。戦線全体が下がった事で、最早入り口だけを守っていても仕方が無くなったのでな。それに、事態は間もなく好転する。特戦群よ。引き続き、支援を頼む。ここは、盾に任せておけ」
それだけ言うと、死神は再び高速機動に移る。
その姿は鮮やかで、かつ付近の巨大生物の標的になるよう工夫した動きであった。
「三佐、付近の巨大生物、急激に駆逐されていきます……! こちらに向かってくる個体、僅かです!!」
「これが、EDFの死神の実力か……。こんなのを敵に回していたとはな。──よし、狙撃支援班は火力投射を維持! 今一番厄介なのはヘクトルだ! だがそれ以外の敵も隙を見て処理しろ!!」
「「了解!!」」
一方、北部方面では各種巨大生物群と曙光會ゲリラ部隊との熾烈な戦いが繰り広げられていた。
「地形を盾にしろ! 多少ならアーマーが防いでくれるが、特にβ型の糸やγ型の針は強力だ! 水平弾幕を展開しつつ、上空にも気を配れ! 攻撃の手を緩めるな!!」
鏑木は低い声を張り上げ、部下達を纏めつつ押し寄せる巨大生物を抑え込んでいた。
EDF内部とも繋がっている曙光會は、EDFの装備を流用し対巨大生物も視野に入れた戦闘スタイルを取っているが、それでも疲弊と物量による突破が目前に迫っていた。
それでもこの戦線を維持できているのは、
「せい! はぁぁッ!! クソ、幾らグリムリーパーでも捌き切れるかこんなの!!」
「ぜぇ、はぁ、さすがに、しんどくなってきたよあーし……、でも、頑張る!! やぁ!!」
グリムリーパー副隊長九条と、曙光會海外戦闘員である朱の近接戦闘と、
「気色悪い! 汚らわしい蜂め!! おい地上部隊! 早く戦線を下げろ! 合図があれば、支援を行う!」
航空支援を行う黒翼部隊のレヴェントと、ジェットリフター装備の修理が終わった二人の部下による航空支援があっての事だった。
「分かっている! 各員、ゲート付近まで下がるぞ! 弾幕の手は緩めるな! 少しでも隙を見せれば突破される! 死神部隊! 動きを合わせるぞ!」
「命令するな! だが、分かった! こっちはこっちでやる、気にするな!! 朱、お前はもう下がれ!」
「へっ、嫌なこった! やること放り投げて後悔したくないもんね~。っていうかキミこそあーしに指図すんなよな~。イザとなったらまだクスリもあるし!」
太もものストックに差した治癒剤を見せびらかす朱に、九条はアーマーの下の呆れ顔だけで反応する。
だいたい、そこに入れておいて良く割れたりしないものだ。EDFのものは耐久性を考えて割れにくくなっているとはいえ。
「おい地上部隊! やべぇぞ! 新たなレイドシップからダロガが出てきやがった! オレ達の装備じゃ歯が立たねぇ! 終わりだよちくしょうめ!!」
レヴェントが諦めかけた声で戦域に無線を送った。
それを聞いたロイグ大佐が早急に指示を送る。
『黒翼部隊! 高度をダロガ以下にしろ!! レーザーで焼かれるぞ!! 援軍はこちらに向かって来ている! それまでなんとか──ぐ、うわぁぁぁぁぁ!!』
『ロイグ大佐! どうした!? ちっ、様子を見てくる。サイード、特戦群を頼む!』
『イエッサー!! 移動します!!』
『そんな事よりダロガはどうする!? 俺たちに太刀打ちできる装備は──うわぁぁぁぁぁ!!』
『粒子砲弾の広域爆撃だ!! 隊長!! 逃げろ、逃げろォーーー!!』
『待て! 今陣形を崩したら巨大生物が──くそっ、ガンシップまで来るか……ッ!!』
『こちら陸自狙撃部隊! 巨大生物が陣形内に侵入! 対処の為支援を一時中止する!!』
『こちら曙光會元ニクスのPAギア部隊! ヘクトルが抑えきれねぇ!! まっすぐゲートに向かって進んでる! 総数、5!!』
『こちら安藤和真!! た、助けてくれ!! ニクスが殆ど動かなくて限界だ!! PAギアを使った戦いなんてやったことがねぇよ!! クソ、死にたくねぇ! 死にたくねぇけど……くそぉ!!』
『こちらサーペントリーダー! 弾薬がほぼ枯渇している! このままだとγ型を押さえきれない! 作戦成功の合図はまだなのか!?』
『こちら黒翼リーダー! ちっ、見やがれ! ダロガは一機じゃねェ! あのレイドシップを落とさねェと、無限に増えやがるぞ!!』
『ジャギリ隊長! もうケツ捲って逃げちまった方がイイんじゃないですか!?』
『バカ野郎! ンな事広域無線で言うな!! うおおぉぉマズい! 高度を下げろ! レーザーで焼かれるぞ!』
『言われても!! 下にはβ型で糸の放射が! うわぁぁぁ!!』
ダロガの出現を契機に、あらゆる戦線が崩壊の兆しを見せ、戦場全体を絶望が支配した。
もう終わりなのか、ここの防衛を全うできずに、巨大生物流入を許し、保管庫は破壊され、ソラス討伐も敵わないのか。
誰もが諦めかけた。しかし、希望はあった。
『さて、ようやく支援の用意が整ったみたいだ。ホエール、ノーブル、よろしく頼むよ』
阿鼻叫喚の通信の中、一際冷静で不敵な、保坂誠也の声が割り込む。
《こちらDE-202、エアレイダー指示による目標を捕捉した。これより火力支援を行う。喰らえッ!!》
無線機の耳を打つ、壮年の機長の声と航空機の雑音。
それを合図に、天空から地を穿つ砲弾の一撃が、ダロガに振り落ちた。
レーザー照射部を的確に撃ち抜かれたダロガは、続く二撃、三撃を防ぐ手立ては無く、一方的に脳天を貫かれて爆散した。
『助かったよ相良機長。引き続き目標ビーコンを目印に支援してくれ。さて、こちらも……』
ビーコンガンと小型端末を操作しながら、上空を見上げる保坂。
《こちら輸送機ノーブル! 最強の部隊とビークルを持って来たぞ! 受け取れ!》
上空には攻撃の危険を顧みず、ディルトジェット式輸送機ノーブル五機の編隊が現れた。
五機はそれぞれ大型のコンテナを空中で切り離し、γ型やガンシップからの攻撃に耐えつつ、戦場を去ってゆく。
コンテナからは、
『よう隊長! グリム3、重森中尉以下3名、戦略情報部の命令で空輸されて来たぜ!! まァた愉快な戦場になってるなぁ!! 他には補給コンテナ満載のヤツと、ニクス・ミサイルガンカスタムが三機で一丁上がりだ!! どうだ? 頼もしい援軍だろ?』
分離されていたグリムリーパー第三分隊の4名と、補給物資やニクスが降り立った。
更には、
『こちら、レンジャー2分遣隊! 荒瀬軍曹以下3名、戦場に到着した! 死神! ここで派手にやってると聞いたぞ?』
『馬場、千島、この戦場には軍事機密がたっぷりあるという話だ。他言無用だぞ、軍法会議に出たくなかったらな!』
『おぉ、そりゃ怖え! ところで、特別手当は出るんだろうな!』
『特別手当かぁ! 帰ったら、みんなで打ち上げしましょう! それでこそ、わざわざこっちに残った甲斐があったってものです!』
『お前達!! 遠足じゃないんだぞ!? 気を引き締めろ!!』
『『サー! イエッサー!!』』
『行くぞ! 降車!!』
グレイプ装甲車に乗った軍曹ら4人と、大阪防衛の為に僅かに配備されていたキャリバン救護車輛二輌、キャリバン換装戦闘車輛二輌、軍曹ら輸送の他にフル戦闘装備のグレイプ装甲車一輌の簡素な装甲車輛部隊の一団が到着した。
《こちら、作戦指令本部。これが、今我々にできる最大限の支援だ! その戦域のフォーリナー戦闘濃度が高まっている事を思えば、僅かな支援だろう。それでも、その戦力で状況を打開してほしい! 種別や主任務は違えど、EDFの、日本が誇る精鋭と言える貴様たちならば、出来ると信じている! これは、EDFの歴史を変える一戦となるだろう。各員の奮戦に期待する!!》
作戦指令本部の援軍によって、保管庫搬入ゲート前の一戦は、新たな局面を迎えようとしていた。
ちょっとだけ人物紹介!
ファイファー博士はEDF:IRのフレーバーテキストからの出典です。
前話書いてる途中に、そういやこんなのも居たなぁ~と思い出したのでせっかくなのでちょい役として出しますた。
情報が全くないのを良い事に好き勝手に書いていきます。
この先出番があると良いですね……(小声)
▼シャーロット・ファイファー(27)
EDF外来粒子研究所に所属するEDF軍属の科学者。
カリフォルニア工科大学を首席で卒業しており、卒業後特に素粒子物理学の成績を見込まれ好待遇の上EDFにスカウトされた。
才能を見込まれ、所属数年後に機密性の高い情報も扱うようになり、直ぐにエナジージェム応用物理学やエーテル系外来粒子物理学方面で頭角を現した天才少女。
当時EDF先進技術研究所筆頭の科学者であったマクドネル博士との共同研究でパウダード・エナジージェムの軍用利用とイオタ爆発効果に関する論文の権利に際してマクドネルと揉めており、それ以来袂を分けている。
が、それ以外にも少々傲慢で鼻につく性格をしている為、同じ研究室内でも人間関係のトラブルは多々発生している。
プライドが高く、頻繁に癇癪を起すなど正確に難はあるが、その頭脳は間違いなく現代の外来系科学の発展を切り拓く有数の科学者である。
あまりベッドで眠らず、よく研究机でうたたねする。
その後夢でひらめいた!と言って滅茶苦茶な理論や数式を描き、何かが足りない何かが足りないと呟き、結局ノートや数式を破り捨てる事がよくある。
高価なコーヒーを好むがよく零す。一方で白衣は新品を好むので、予備の白衣が研究室には数多と並んでいるとか。
特にフォーリナー侵略領域が広がる事により高価なコーヒー豆が手に入り辛い現状に憂慮しており、自分の考案した理論が広まり、人類の支配領域奪還に繋げるのが目下最大の目的。
しかしプライドや名声への欲が強く、頻繁に目先の事に熱くなりがち。