久々の……四捨五入したら一年ぶりくらいの更新となります……!
ここから新章、四つ足要塞編に突入です!
第九十七話 防壁突入
――2023年4月12日(ストーム隊結成より2日前) 三重県北部
「こちら、グリムリーパー3、位置に着いた!」
高架橋の上に陣取っているのは、ドゥーエル中尉を指揮官とする5人の死神部隊だ。
グリムリーパーは三個小隊で成り立っており、第一をアラブ系スラヴ人のアルマウト”グリム”アヴィス大尉、第二を日本人の九条直哉中尉、そして第三小隊を任されているのが、このアラブ人のジャハール”サハド”ドゥーエル中尉だ。
アヴィス大尉とドゥーエル中尉は、EDF入隊以前、民兵ゲリラだった頃からの戦友だ。
「隊長、敵の新型兵器を確認!」
「あれが光の壁か! 歩行要塞から離れてここを守っているとは……」
ざわつくグリムリーパー3。その横に、見慣れない特殊兵器が一輌。
「こちら、アルデバラン。見晴良好だ! ほほう、こりゃ大したモンだ! シールドベアラー四機、ミラーリングドローン20数機、ヘクトルが四機にダロガ三機と……その他怪物どもが大勢ってところか! それをこの人数で攻めるとは、なかなか愉快な事になりそうだな! その辺りどうだ? 作戦指令本部としては」
《作戦は敵部隊の殲滅ではない。今回の作戦は、飽くまで敵新型兵器の撃破確認にある。……それよりアルデバラン、要請したのは、本当にその兵器で合っているのか?》
榊中将は、門倉大尉の隣にある奇妙な形のビークルに言及する。
「がはは! コイツは本来地底巣穴攻略用の車輛だが、地表でも十分使えるスペックを持っていてな! 立体的な地形活用と、”速度”が重要なこの戦場にうってつけかと思ってな! ついでに実戦データもしっかり集めてやるから、開発部の連中に色つけといてくれ!」
門倉大尉が空輸したのは、全地形戦闘車輛”デプスクロウラーⅠ”だ。
来るべきインセクトハイヴ攻略作戦において、地上構造物の地下にある地底巣穴攻略用に開発された。
フォーリナー襲来前から開発計画や試験運用は行われており、”全地形”の名の通り海底、山岳、沼地、市街地などあらゆる地形で一定の戦闘能力を持つように開発された万能兵器だ。
脚部の先には”フックアーム”と呼ばれる全地形対応を可能にする技術が使われており、これにより壁面の歩行や天井すら180度反転した状態で歩行可能である。
これは巨大生物、特にα型の脚部を参考にしたものだそうだ。
《――よし。それでは作戦を開始する! まず空爆で敵の注意を逸らす! 門倉大尉、やってくれ》
「イエッサー!
『アルデバランより
『こちら、爆撃機フォボス、ナイトフォール1了解! 空爆を開始する!!』
漆黒の全翼機が四機、亜音速で戦域に突入する。
四機は四列に並び、戦域に潜入すると、上空から絨毯爆撃を開始。
D.R.O.S社製高炸裂航空機専用爆弾DNGを機体から一定間隔で投下。
地表数mで起爆し、戦域全体を爆撃の炎と黒煙で覆った。
衝撃が高架上の部隊にまで及び、振動が大地を揺らす。
それらは殆どが自走式防御スクリーン発生装置”シールドベアラー”に防がれ、敵側の被害は軽微。
だが行動が活発化し、一部の戦力は爆撃機が去った方を注視し移動する。
『空爆完了! フォボスの恐ろしさが分かったか!』
「『上出来だナイトフォール1!
飛び去るナイトフォール隊と交信しながら、門倉は眼下の敵の変化を観察。
同じように変化に気付いたグリム3隊員が声を上げる。
「見ろ! 防御スクリーンが広がっていく! 橋が飲まれたぞ!」
高架橋の先まで防御スクリーンは広がり、途中で寸断されている手前まで範囲に入った。
「チャンスだ! 俺達があの壁をぶち破る! 行くぞォー!!」
「「おォーーーッ!!」」
ドゥーエル中尉がスピアを高く掲げ叫ぶと、部下4人がそれに続き、部隊は防御スクリーンに向けて前進する。
門倉大尉はデプスクロウラーに搭乗すると、それに続いて慎重に後を追う。
防御スクリーンが目前に迫る。
その見た目は薄緑色に神秘的に光る、まさに”光の壁”。
内部はうっすら透過しており、防御スクリーンの中心には四足の自走式発生装置が見える。
その内部がどのような空間になっているのか、人体に影響は無いのか、シールドベアラーの行動、反撃、周囲の敵との連携……それらは全て未知数だ。
その恐怖に、死神部隊の隊員は当てられる。
「正気なのか……、こんな作戦は無茶だ! どんな危険があるか分からない!」
「死にに行くようなもんだぞ!」
「砲弾すら弾く壁だ! 壊し甲斐があるぜ!!」
「隊長へのいい土産話だ! 俺がくたばったら、誰か代わりに話してくれよな!」
やたらと温度差のある部下達が、口々に感想を吐き出す。
いつもの事なのか、弱音を吐く部下にも特に言及することなく、ドゥーエル中尉は最後の合図を送る。
「行くぞ! 突入ーーッ!!」
シールドを構え、歩行状態で突入。
それは、拍子抜けするほどにあっさりと完了した。
戦艦の全力砲撃すら無傷で弾き返す堅牢な防御スクリーンは、何の抵抗も無くフェンサー5人を通過させた。
そして、後続のデプスクロウラーを駆る門倉も、何の衝撃も伴わず無傷で通過させた。
「『こちら突入班! 壁の突破に成功!! 通信、聞こえるか!?』」
《こちら本部! 通信状態は良好だ! 作戦を継続せよ!》
「『イエッサー!』突入班、シールドベアラーは真下だ! 飛ぶぞぉ! ダイブ!!」
ドゥーエル中尉は寸断した高架橋を飛び降りた。
「ダイブ!」
「ダイブ!」
「ダイブ!」
「ダイブ!!」
ドゥーエルの他、四人の部下が続くように降下。
真下には、四脚の自走式防御スクリーン発生装置”シールドベアラー”本体がいた。
「今だ! シールドベアラーを破壊しろ!! 行けぇ!!」
「うおおぉぉ!!」
「喰らえぇーー!!」
ドゥーエルを含むグリム3の5人がブラストホール・スピアの引き鉄を引き,シールドベアラーの装甲を穿つ。
危機を感じたシールドベアラーは、自走式である利点を発揮し、たちまち歩行して逃走。
それと入れ違いになるようにα型巨大生物もフェンサーを襲う。
「シールドベアラーが逃げるぞ! 怪物も来る!」
「追え! 絶対に破壊しろ!!」
「グリムリーパーから逃げられると思うな!!」
グリム3はスラスターを使い、道中のα型を素早く掃討しながら囲い込むようにシールドベアラーを包囲。
シールドベアラーの歩行速度は速く、レンジャーなら追い付くことは難しいが、スラスターを装備するフェンサーなら追撃は可能だ。
だが別の問題がある。
「ッ!? 攻撃されてるぞー!!」
「ヘクトルだ!
「邪魔くさい!! くそ、ベアラーが逃げる!」
被弾してでも、機銃を無視しシールドベアラーを仕留めなければ、そう思った矢先、ヘクトルの装甲を砲弾が貫いた。
「はっ! 貫いたな! そらそら! 弾はあるんだ! まだまだ逃さんぜ?」
高架橋の上から、門倉のデプスクロウラーが砲撃。
デプスクロウラーの装備は、左右二門のコンパクト・キャノンと、機体下部にある一基のFK200ガトリングガンだ。
二門のコンパクト・キャノンからは毎秒一発の57mmEDF砲弾が交互に放たれ、ヘクトルの装甲を弾け飛ばす。
ヘクトルは上半身を躍らせながら、負けじと左腕のスパークランチャーからエーテル榴弾を速射。
「おっと! 逃げるか!」
デプスクロウラーは跳躍し、高架橋から地表に降りる。
高架橋は破壊されたが、そのまま連射されるエーテル榴弾がデプスクロウラーにまだ向かう。
が、デプスクロウラーは脚部を素早く動かして残っていた家々を軽々と乗り越えながら、良い位置を見つけると再びコンパクト・キャノンを連射。
機動力に翻弄されたヘクトルはついに内部機構に致命的損傷を起こし10mの巨体を倒すと、派手に爆散。
同じ頃、ヘクトルの照準から逃れたグリム3の5人も、シールドベアラーに追い付き、スピアの集中射出で内部機構を抉り取り、遂にシールドベアラーはエネルギーの暴走により内部爆発。
発生源が無くなったことにより、周囲を覆っていた防御スクリーンは消失。
青空が見渡せるようになった。
「『本部! シールドベアラーを撃破!! やったぞ!』」
『よくやった!』
純粋な榊中将の喜びの声に、分析官として北米から通信を送る、リーヴス少佐の声が混ざる。
《やはりシールドベアラーは、防御スクリーンとの相対速度によって、対象の通過を制限していると思われます。周囲の地形や建造物が防御スクリーンに巻き込まれて崩壊しないのは、その為かと推定できます》
《つまり高速で飛ぶ砲弾や銃弾は通らないが、歩く速度の人間なら通れるという事か。単純だが遠距離攻撃手段が制限されるのは厄介だ。よし、作戦を続行し、シールドベアラーを破壊せよ!》
「グリム3、イエッサー! 次の防御スクリーンに突入するぞーーッ!!」
「「おおォォーーー!! EDF!! EDF!!」」
二つ目の防御スクリーンに侵入。
再びα型とヘクトルが出迎える。
「ダロガだ! 狙ってるぞ! くそ、撃ってきやがった!」
「遠距離はこちらで担う! 任せろ!!」
門倉のデプスクロウラーが、コンパクト・キャノンを発射する。
だが、砲弾がダロガに届く瞬間、隣にいたシールドベアラーが防御スクリーンを縮小。
縮小された防御スクリーンは、自身とダロガをすっぽり覆い、砲弾は防御スクリーンに阻まれた。
「なにぃ!? そんなのアリか!!」
「それだけじゃない! 攻撃が来るぞぉー!!」
ダロガは覆われた防御スクリーンの内部から、平然と砲撃を続行。
プラズマ砲弾の斉射が、周囲を薙ぎ払うように爆撃。
グリム3は機動と盾で躱し防ぎ、デプスクロウラーは跳躍と素早い横移動で銃撃を回避する。
一方的な状況を楽しむように、操縦席で門倉が口を歪める。
「やはりな! 聞いていた通り、敵からの射撃は問題なく襲ってくるらしい! こちらは接近するしかないようだなぁ!」
門倉の言葉に、グリム3ドゥーエルがスラスターを吹かせベアラーに接近しながら厳しい顔で、
「それはそうだが、それだけじゃあ足りないらしい……!」
「ほう? ついにお出ましか!」
「ああ! ミラーリングドローンが、ダロガの周囲を覆ってる!」
「よぉし! ここで面倒な鏡円盤も叩き落す! それで戦況は、またこっちに傾くって訳だ!! グリムリーパー3! もう少し付き合って貰うぜ!!」
「元気なおっさんだな! それはこっちの、台詞だ!!」
グリムリーパー3とアルデバランは、鏡面円盤ミラーリングドローンと対峙する。
「隊長! あれです!」
「銀の円盤……! いや、本当に鏡のようだ!」
「一部の砲撃が跳ね返って来たという話は聞いたが……これ、スピアならどうなるんだ?」
「お偉いさんの研究結果を待つより、やってみた方が早いぜ!」
グリム3の部下が口々に話す。
実際、攻撃を防ぐ防御スクリーンというのは分かりやすいが、この円盤に関しては未知のところが多すぎる。
「気持ちは分かるが、作戦通り慎重に、だ。まずは相手の行動をよく観察だ。特にコイツのような訳の分からない敵に対してはな!」
ミラーリングドローンが数機飛行してくる。
それに混ざってダロガとヘクトル、そして多数のβ型が襲来する。
『ドゥーエル中尉、こちらはダロガとヘクトルの相手をする! 怪物は任せたぞ!』
「了解だ門倉大尉。ただ、ミラーリングドローンとの混成だ。そう簡単には、行かない戦いになりそうだな! ──グリム各員、ミラーリングドローンを避けつつスピアを穿て!」
「サー・イエッサー!」
「わかってはいたが無茶だ! いつか攻撃が当たっちまうぜ!」
「当たったと思ったらすぐシールドで防御だ。大丈夫、俺達には盾がある」
「問題は、如何にしてあの鏡面円盤を叩き落すかだ。スピアが有効なら簡単なんだがな」
「さあな! そう甘かったらいいが! 来るぞ! 攻撃──ちっ!!」
β型の糸が飛ぶ。
戦闘態勢に移り、グリム5人が戦闘機動に移行し、スピアの引き金に手をかけた瞬間、ミラーリングドローンが形を変え、まるで真正面を覆う壁のように展開した。
「ッ!? 攻撃中止! 引き金を引くな!」
「円盤が形を変えた!? コイツらも盾のつもりか!!」
攻撃と視界を塞がれ、その隙間から糸が飛ぶ。
「くそ! 被弾した!」
「左右からも来るぞ!!」
「円盤が! 周囲をうろつきやがる! これじゃ攻撃に集中できないぞ!」
「!! グリム各員、シールド構え! ダロガの砲撃が来るぞ!!」
ミラーリングドローンの視界妨害に隠れ、かなり近くまで接近していたダロガは、触角を光らせ、粒子砲撃を周辺に叩きこむ。
嵐のような猛爆撃が辺りを覆った。
「くっ……まずい! β型も来てるぞ!!」
『すまん! 射線をカバーするようにミラーリングドローンに妨害され、仕留めきれなかった!』
「それが敵の戦術だろうな! 厄介だが、こちらは隙間を縫って攻撃するしかない! ミラーリングドローンの倒し方はそのあとだ!」
「隊長! それじゃ埒が明きませんぜ! もうこちらから仕掛けてやる!! うおおお!!」
グリム3の部下一人がスピアを構え突撃したが、無策という訳ではない。
形を変え、真正面に展開していない時ならば、攻撃は有効かもしれないという考えはあった。
「理論を試している暇はない! 喰らえ!!」
形を変えていないミラーリングドローンを狙い、引き金を引いた。
ブラストホール・スピアは射出され、変形していないドローンに先端が接触した。
その瞬間、接触部が白光するエネルギーに変換され、レーザーのように地面を穿った。
「うおっ、スピアによる物理攻撃も駄目か! これ、直接ぶん殴ったらどうなるんだろうな」
「やめとけ! 腕が吹っ飛ぶかもしれんぞ」
「しかしこれは、想定以上にやりにくいな! 門倉大尉! そちらはどうだ!」
ドゥーエル中尉は門倉大尉に無線を送った。
門倉大尉は死神部隊から少し張られてダロガの相手をしていたが、
『似たような状況だな! 周囲をうろうろしてぱっと咲くように開く鏡面円盤が邪魔過ぎて敵わん! 隙間を縫って撃とうにも──』
門倉大尉はダロガの触手が光り、砲撃が放たれる瞬間、機体で横ステップを繰り返し、建造物を飛び回る要領で回避する。
その最中にコンパックト・キャノンの57mm砲弾を計4発射撃する。
2発はダロガに命中、1発は変形していないミラーリングドローンに命中、あらぬ方向に弾かれ、一発は、
『ちっ、被弾したか。やはり一筋縄ではいかんなぁ』
グリムリーパー、アルデバランともに厄介な相手だと認識したところで、通信が入った。
《こちら作戦指令本部。すまない、遅くなった。戦略情報部とともに、ミラーリングドローンとの戦闘をサポートする》
『こちらアルデバラン。ちょうど困ってたところだ、助かりますぜ。残骸は名古屋の戦いで回収できているんでしょう? 何かいい結果は出ましたかね?』
門倉大尉の問いに、通信が戦略情報部のリーヴス少佐に切り替わる。
《あの鏡のような装甲は、物理運動反転シールドを纏った装甲……鏡面装甲と言えるでしょう。運動エネルギーを持った攻撃を何らかのエネルギーに変換し、跳ね返す力を持っています》
「つまり、真正面に立てばこちらがやられるということか。そんなものを実用化しているとはな……。このままでは攻撃ができない。何か手はありませんか?」
ドゥーエル中尉の問いに、リーヴス少佐は少し考えた後、結論を述べる。
《まだ不確定な推測でしかありませんが……浮力を発生させている重力遮断ドライブは理論上、鏡面装甲でカバーすることは出来ないはずです。機体のどこかに、鏡面装甲の及ばない部分があると思われます》
『なぁるほど。そいつを探すのが、俺たちの仕事って訳か』
「そうは言っても、円盤は全身が鏡のような装甲に覆われているぞ。それが物理運動反転シールドとやらならば、弱点はないということになりませんか?」
《その通りです。ですが実際には、このミラーリングドローンの撃墜報告はあります。それがあるということは──》
『──弱点は必ずどこかにある。そういうことですな? リーヴス少佐』
《その認識で合っています、門倉大尉。具体的には、円盤中央部分、展開した部分の裏側、あるいは機体から延びるアンテナのような部分。私が推測できるのは、残念ながらここまでのようです》
《十分有益な情報だ。感謝する、リーヴス少佐。よし、グリムリーパー3、アルデバラン。今少佐から聞いた部分への攻撃を試みてくれ。乱戦で狙うことが困難な部位であることは分かる。反射すれば命を失う危険もある。だがそれでも私は命令する。鏡面円盤の弱点を見つけ出し、欠けることなく生きて帰れ!》
「グリム3了解。ここで欠けちゃァ隊長に申し開きが立たねえからな!」
『アルデバラン了解! まァ、危険じゃない戦場なんてものは無いからなぁ! とはいえ、デプスクロウラーにそこまでの狙撃能力はない。怪物どもとダロガにヘクトル、纏めて引き付けて見せるから、その間円盤の対応を任せる』
「死神部隊を差し置いて、囮になるとはな! 見上げた根性だが、なら囮は派手な方がいい。そちらに3人つける。こちらはウィークポイントを探るだけだ。二人いれば事足りるさ。ヴェルガ、付いてこい! あの忌々しい鏡面円盤を撃ち落とすぞ!」
「サー・イエッサー! ま、名誉と思って頑張りますわ!」
ファハド”ヴェルガ”アル=ハディード少尉は気やすい様子でドゥーエル中尉に追従していく。
「じゃ、俺たちはいつもの囮役兼盾役だ」
「グリムリーパーが一緒だ! 大船に乗った気でいいぞ、門倉大尉」
「貧乏くじともいうがな……、ま、死神部隊じゃいつものことか」
それぞれデイヴィス、カーレド、オルソンだ。
分かりづらいが、その中の”カーレド”がアヴィス大尉やドゥーエル中尉と同じく、EDFにスカウトされる以前、中東で民兵ゲリラとして共に戦っていた昔からの戦友だ。
彼らは部隊内のみで使うニックネームで呼び合うが、EDF正規兵から死神部隊へ配属となった兵士はそれを持たない。
デイヴィス少尉とオルソン少尉は他部隊から死神部隊に配属となった隊員だ。
階級こそ少尉のままだが、その力量は一般的なフェンサーを軽く凌駕する。
『がっはっは! 頼もしいのが来てくれたらしいな! それじゃ、共に戦場を掻きまわすぞ!』
門倉大尉の駆るデプスクロウラーはビルから地上に降り、四本脚を器用に動かし、FK200ガトリングガンで巨大生物β型を器用に”釣る”。
その合間を潜り抜けるように黒のフェンサーが駆け抜け、
「鏡面円盤が!」
「遅いッ!」
デイヴィスの反応を、カーラドが追い抜き、円盤が展開する前に、ヘクトルの脚部をブラストホール・スピアで刺し貫いた。
脚部構造を破壊されたヘクトルだが、バランスを崩した程度で撃破には至らず、激しいブラスターの雨を受ける。
「よし、食いついた! 走り抜けるぞ!」
ダロガも誘っていたオルソンが合流し、盾で防ぎながらスラスターを吹かせる。
『さすがは死神部隊! 見事な手際だな! こちらは少々、マズい状況だ!』
通信したのは門倉大尉のデプスクロウラー。
ビルとビルを飛び回り、時には地上に降りたち歩行とステップを繰り返しながら、コンパクトキャノンとFK200ガトリングガンを射撃して敵を間引いていた。
それを邪魔するのは、銀色の鏡面円盤。
デプスクロウラーは反射により装甲をやられ、黒煙を噴き出していた。
「いや、大した操縦技術だ。デプスクロウラーはまだ試験部隊でしか運用していないはずだが、何処で操縦方法を覚えたんだ?」
割り込んで助太刀するのは死神部隊のデイヴィス。
煩わしく鏡面円盤の展開を避けながら、針の穴を縫うようなスピアの刺撃を行い、デプスクロウラーを追い立てるβ型を排除する。
『ちょいと個人的にその試験部隊と関わることがあってな。ガハハ、ビークルの運用なら大抵のことは出来るさ! だが、今回はさすがに、相性が悪そうだな!』
常に動きながら、展開するミラーリングドローンの合間を縫って敵軍を攻撃することを、戦闘車両に乗りながら行うのは至難の業だ。
そう考えると、ミラーリングドローンは機甲部隊にとって致命的に相性が悪いと言える。
これもフォーリナーの編み出した対人類戦力の一環なのか。
だとしたら、その対応の早さと悪辣さに舌を巻くほかないが、
「よし! 背後を取った! まず俺が仕掛ける! ヴェルガ、カバーを頼む!」
「イエッサー! いつでも!」
「はァッ!!」
ドゥーエル中尉はスピアを射出した。
狙いは、門倉大尉に向けて展開したミラーリングドローンの背面。
スピアは正確に背面を突くが──先端が触れた瞬間、エネルギーの塊がレーザーのようにドゥーエル中尉を狙う。
「──ッ!!」
ヴェルガはそれをディフレクション・シールドで受け止め、弾き返した。
「ヴェルガ、無事か?」
「シールド出力、30%に低下……次は防げませんね」
「大丈夫だ! 次は俺が受け止める! しかし、背面からの攻撃も正確に射手に打ち返すとはな。どうやら単純な反射とも違うようだ!」
ドゥーエル中尉から見て、円盤の角度的に真っ当な反射なら斜め上に飛んでいく計算だったが、念のためヴェルガにシールドを頼んで正解だった。
「わかりました! 次は俺が──せいッ!!」
ヴェルガは門倉大尉のいる側に回り込み、展開しているミラーリングドローンの機体中央を狙った。
だが──
「ちっ! 狙いが!!」
「──ッ! 防いだぞ! 無事かヴェルガ!」
「サハドこそ! だが、中央をうまく狙えなかった!」
ヴェルガはドゥーエル中尉のコードネームを呼び、お互い無事を確かめた。
ヴェルガのスピアは、横から割り込むように展開した別のミラーリングドローンに妨害され、中央を狙うことを失敗した。
「偶然か、それとも……」
「もしかして、奴ら展開中は向きを変えるだけで動くことは出来ないのか? だったらまだ勝機はある! もう一度──」
ドゥーエル中尉が言いかけた時、爆発音が近くで聞こえた。
ダロガのプラズマ砲撃と、ヘクトルのスパークランチャーの爆撃が辺りを覆ったのだ。
「──ちっ、どうやらここまでだな! 後の戦果は、歩きで稼ぐとするか!」
爆炎から飛び出してきたのは、デプスクロウラーを乗り捨てた門倉大尉だった。
彼の下に、滑り込むようにドゥーエル中尉とヴェルガが集まる。
「大尉、大見え切った割には、さんざんな様子ですけど、送った部下は役に立ちませんでしたか?」
「がっはっは! なぁにここからが本番ってやつだぜ。三人には退路を確保してもらっているさ。憎たらしい鏡を叩き割ったとしても、生き延びられないんじゃあ話に成らんからな!」
門倉大尉はリムペット・スナイパーガンに弾──ビーコンを改造した爆薬弾を装填し、狙う姿勢。
腰には自衛用のサプレスガンを装備しているが、散弾を放つこれは鏡面円盤との相性は最悪だろう。
とはいえ、ビークルを破壊されてなお戦う気概に溢れる門倉だが、彼の言う通り、彼の本業はここからだろう。
「ただまあ、航空爆撃まで反射されては敵わんからなぁ。今の俺はレンジャー崩れもいいところだ。そんで、そっちの成果はどんなもんだ?」
「それを、今、確認する──そう言いたいところだが!」
「──ドゥーエル中尉!!」
ドゥーエル中尉は、門倉大尉を庇う様に入れ替わり、ダロガの下部機銃の集中射撃を受けた。
「サハド!! このデカブツッ!!」
すぐさまヴェルガはスラスターで急接近し、ブラストホール・スピアを射出するが、
「しま──」
割り込んだミラーリングドローンの反射の直撃を受け、フェンサーのアーマーを損傷させる。
同時に門倉大尉もヘクトルのスパークランチャーに狙われていた。
「──ちっ、やってくれるぜフォーリナー!」
門倉大尉はリムペットスナイパーガンを二発射出するが二発とも割り込んだミラーリングドローンに付着。
起爆するか一瞬迷った隙に、先にヘクトルのスパークランチャーの爆撃が襲い掛かる。
「うおおおお! コイツはやばいぜ!!」
緊急回避で爆撃の中を駆けるが、そう上手く行くはずもなく、スパーク弾の直撃を覚悟した。
しかし──
「ここがグリムリーパーのいる戦場だと忘れたのか? そう簡単にくたばらせる真似はしない!」
カーレドのシールドが門倉大尉の身を完全に守った。
そして後続のデイヴィスとオルソンが、
「貰ったぜデクの棒!!」
「お前らじゃ、グリムリーパーの墓場にはふさわしくなかったようだな!」
ブラストホール・スピアをミラーリングドローンの隙間から突き刺し、撃破した。
その、爆炎の中で。
「がっはっは、ほんの少し身の危険を感じたが、いらん心配だったらしい! なら、美味しい所は貰っていくとしよう!」
爆炎の中、真正面に展開したミラーリングドローン。その機体の中心に、門倉大尉がリムペット弾を吸着させる。
火力不足の懸念から、合計2発。
「さあ、割れちまいな!!」
リムペット・スナイパーガンの起爆スイッチを押す。
門倉の勘が当たっていなければ、反射のエネルギー弾が門倉を撃ち抜くだろう。
──だが、その結果は起こらない。
起爆した個所から鏡面装甲が本物の鏡のように砕け散り、その内部に赤い装置──推定、重力遮断ドライブとやらが姿を現した。
円盤はまだ健在だ。それを──
「──そこが、お前のウィークポイントか! スクラップになりな!!」
ドゥーエル中尉のブラストホール・スピアが射出され、鏡面円盤の中心、重力遮断ドライブを確実に貫いた。
内部を抉った先端から高圧ブラズマ炎が放出され、ミラーリングドローンは、内部から爆散した。
「うおおおおやったぞ!! シールドベアラーに続き、ミラーリングドローンも撃破した!! 俺たちの勝利だ!!」
「やはりな! 弱点は機体中央だ! ミラーリングドローンが前面を展開した時を狙い、その中央に叩き込め!!」
「門倉大尉とサハドがやった! 俺たちも続くぞ!!」
「うおおおおお!!」
ヴェルガ、カーラドが後に続き、展開する二機の鏡面円盤の中央部をスピアで狙撃。
反射は起こらず、鏡面が割れ、その奥の赤い装置を、デイヴィスとオルソンが抉り、破壊する。
ミラーリングドローンは機体を爆発させ、重力制御を失い、地面に激突して大破した。
《こちら本部! ミラーリングドローン三機の撃破を確認した! よくやった!! 作戦は成功だ! その敵をすべて殲滅する必要はない。敵軍の討伐は正規部隊に任せ、直ちに帰還せよ!!》
「アルデバラン了解! ふぅー、一番イイとこは持っていかれちまったか」
「グリムリーパー3了解! 隊長へのいい土産話が出来たな! よし、すぐ撤収するぞ!」
「退路の怪物共はすべて駆除しました! ついでに邪魔だったシールドベアラーも一機やってます」
「なんて活躍だ。さすがは死神部隊。これは少々、立つ瀬が無かったかもな?」
「何を言う門倉大尉。お前の機転が無ければ、弱点を割り出すのにもっと時間がかかったはずだ。どうしてあそこまで確信できた? もし違っていたら、反射で撃ち抜かれていたのはお前だったぞ」
「なぁに、奴らの挙動を見てたまたま感じただけさ。中央を狙おうとすると、わずかだが向きを反らして狙いを外してこようとするからな。あれだけ正面を向いて展開してきながら、機体の中央に弱点があるとは……偽装しているとはいえ、案外フォーリナーってのはマヌケかも知れんぞ?」
「それでも、あの乱戦の中で正確に中央を射抜けたのだから、射撃の技量も大したもんだぜあんた。俺たちもスピアの速射だけでなく精密性の練度ももっと上げる必要があるみたいだな」
《戦略情報部よりグリムリーパー3、アルデバラン両部隊へ。この作戦のデータは全部隊せ共有させていただきます。貴重なデータが取れました。この戦い必ず日本戦線を──いや、世界の前線でさえも多きな希望となるでしょう。貴方たちの戦いに、感謝を──》
──この戦いで、四足歩行要塞に鉄壁の守りを与えていたシールドベアラー、ミラーリングドローンの対処法が判明した。
シールドベアラーは、接近して内部から自走式の発生装置を破壊。
ミラーリングドローンは、機体中央部への精密な一点攻撃による鏡面装甲破壊と重力遮断ドライブの破壊。
この情報は直ちに全世界に共有され、日本の四足歩行要塞の地上戦力での攻略作戦に組み込まれた。
そうして──
──2023年4月15日08:30(シールドベアラー・鏡面円盤撃破から三日) 徳島県鳴門市 EDF第515駐屯基地──
「ぬぁははははは!! 皆の者、聞くが良い!! これより、日本を土足で踏み荒らす憎き四足獣! 四つ足要塞攻略作戦の作戦会議を行う!! 静粛に!!」
「ちょっと!! なんであんたが仕切ってるのよ!! ストームチームの総指揮は大林大尉じゃないの!?」
「それは私も気になっていた。というか少々肝を抜かれた気分だ。まさかあの素っ頓狂な少尉にストーム隊の指揮権を移譲したわけではあるまいな?」
「そうそう、立候補制度なら冷泉ちゅ……大尉も手上げた方がいいですよ! あんなバカで変人で酔狂なやつにリーダーさせてたらみんな頭オカシクなりますよ!」
「誰が馬鹿か! 貴様より頭脳の出来はいいわ間抜け!! 惚れた弱みにいつまでも付け込めると思ったら大間違いだぞ!」
「……ふん、総指揮権を簡単に譲るはずがないだろう。なに、見知った顔も多いのだ。そう肩肘張っていてもどうにもならん。それに、奴の突飛な発想に助けられたこともないでもない。皮肉を言うようだが、ここまで作戦が決まっておらず、こちらに裁量があり、そして決行が間近に迫っている攻略作戦も珍しい。まともになっていられるか」
「こちらも常識に囚われては行けない……そういうことですね大林大尉」
「そうそう柳大尉。それに彼、変人で面白いし」
「これ、あんたも結構変人で有名ですよ、とか言ったらだめなんだろうなァ~言うけど。へへっ」
「御子柴っ……! あ、スミマセン保坂少佐、彼に悪気は……あるかもですけど」
「……、……」
「うわ鏑木ちゃん怖っ! 栗宮ちゃんだっけ? 怯えてるからそんな睨んじゃだめだってば。今はもう仲間なんだから抑えて抑えて~~」
「……ふぅーっ。キミが言うのも、それはそれで説得力がないと、ワタシは思うけれどね」
「うわぁーーっ、遅刻遅刻ぅーっ! すみません遅れましたっ! ストームチーム専属オペレーターのアドリアーネ・ルアルディ中尉ですっ!!」
「ひゅ~。ルアルディちゃん、間近で見ると結構可愛いよね! テンション上がるわ!」
「アンタもアンタで馬鹿っぽいの勘弁してよねホント……」
「……女たらし、2号」
「ほら1号? 玲ちんに言われてるわよ。同類だってさ」
「桜ちゃんさぁそれって喜んだらいいのか怒ったらいいのか微妙なとこじゃね? まあ否定はしない。うっひょ~~可愛いね君! 今度お茶しない??」
「……ふふ、ポーカーの景品で浦田クン御子柴クンを釣るために、ルアルディ中尉の写真集でも作っておこうかな? 無許可で」
「犯罪……! 犯罪です! 今ここで、犯罪の誕生を垣間見た気がするんですけど!!」
「ぬぁーーーー!! 貴様ら!! 静粛に、静粛にせんか!! 話が一向に進まんではないかーーーー!!」
──結局、作戦会議は大林大尉が主導することとなった。