全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第九十八話 要塞攻略作戦会議(前編)

──2023年4月15日09:00(シールドベアラー・鏡面円盤撃破から三日) 徳島県鳴門市 EDF第515駐屯基地──

 

 嘘のように静まり返った室内に、大林大尉の雷鳴の如き号令が鳴り響く。

 

「総員傾注!! これより、四足歩行要塞攻略に向けての作戦会議を行う!! その前に、まず前提条件を確認する! いいか!? これが我々に割り当てられた全ての戦力だ!!」

 

 大林大尉が背にあるホワイトボードを叩くように指し示す。

 その内容にはこう書かれていた。

 

・ストーム1(旧レンジャー2分遣隊):6名

・ストーム2(旧プレアデス):6名

・ストーム3(旧スティングレイ1):4名

・ストーム4(旧ペイルウイング2):4名

 

 これが現在この部屋にいる合計20名である。

 それ以外に、

 

・第四エアレイダー小隊”アルデバラン”:6名

・戦略情報部・特殊作戦行動課”グリムリーパー”第三小隊:4名

・第88レンンジャー中隊”レンンジャー1”/”レンジャー2”計:7名

・独立狙撃大隊”ブルージャケット”:12名

・第一降下翼兵団第一中隊”ヴァルキュリア2”:4名

 

 の33名が加わった、合計53名の独立混成中隊である。

 

「この戦力を以って、我々は四つ足を完全に撃破する! 複雑な作戦目標は存在しない! ただ、奴を二度と立ち上がれない鉄クズに変える! それが我々に与えられた唯一にして絶対の命令だ! 分かったか!?」

 

「「サー! イエッサー!!」」

 

 一糸乱れぬ了解の声が室内を震えさせる。

 完璧な統制だ。完成された軍隊がここにある。

 

「あんたの時とは大違いね」

 

 ……この、馬鹿にする声色を含んだ女の一言さえなければ。

 まあ実際、私の時のような弛緩した雰囲気は大林大尉が壇上に上がった時点ですでに無くなっていたのだが。

 

「ぬぅ……なんということだ。これが部隊長としての格の違い・カリスマとしてのレベルが違うとでもいうのか……!」

 

「いやなんで急に壇上に上がりだしたのかも分かんないしぬぁはははとか笑ってたら誰も話聞かないわよ」

 

 む、瀬川葵にしては的確な指摘ではないか。

 仕方なかろう、ちょっと部隊指揮官の気分を味わってみたかったのだから。

 とはいえ、大林大尉の指揮官としての完成度は相当なものだ。

 彼の部下でよかったと思いつつ、いずれは戦歴を重ねて彼のようになってみたいものだ。

 

 私に付いて来れる部下など、そう多くはないだろうがな!

 

「──よし。次に、現在の状況を、ストームチーム専属の戦術オペレーターとなったアドリアーネ・ルアルディ中尉に説明してもらおう。ルアルディ中尉、頼んだぞ」

 

「はいっ! ストームチームの皆さん、顔を見せるのは初めましての人が殆どだと思うので、改めまして! 戦略情報部から派遣された、ストームチーム専属オペレーター情報中尉、アドリアーネ・ルアルディと申しますっ!」

 

 大林大尉の隣にいた彼女は、元気いっぱいかつ丁寧に頭を下げて自己紹介。

 きめ細かく輝くようなブロンドの髪、蛍光灯の光すら弾く色白の肌、そして整った顔立ちから想像も出来ないやや子供らしさを残すはにかみ。

 

 背格好は低いがしなやかかつ大胆で、モデル体型と言ってもよい。

 欧米人らしい青い瞳は輝くように澄んでおり、情報部らしい知的な印象も残す。

 有体に言えばとんでもなく美人で可愛いらしい外国人情報士官がそこに立っていた。

 

「こ、これが戦略情報部の力なのか……、なんという事だ……!」

 

 少々子供っぽい以外は完璧か……だが年齢も若そうに見えるか、下手をすれば年下か。

 その年齢で戦略情報部に勤め、ストームチームのオペレーターもこなそうとしているのだ。

 その才覚も押して図るべし、だ。

 

「ふーん、あんたでもやっぱ可愛い娘に興味はあるんだ。鼻の下伸ばしちゃってまあ」

 

「伸ばしておらん。失礼な。純粋に軍人として評価に値するなと思っていただけだ。見目麗しいことは悪いことではあるまい?」

 

「それがどう軍人としての評価に繋がるのよ……」

 

 そう言われると確かに前後が繋がっていないな……。

 

「はい、では戦況を説明しますね。まずおさらいですが、知っての通りここ数日間で戦局は極めて悪化しています」

 

 ルアルディ中尉の戦況確認が始まる。

 簡単に言うと、我々は必死の思いで成し遂げた京都防衛作戦”アイアンウォール”の成果の殆どを失った。

 

 怪物と機械軍団の大攻勢を見事押し返した我々EDF第11軍だが、その後の四つ足の砲撃をどうにかすることは叶わず、驚異的速射性で放たれる戦術核クラスのプラズマ砲撃により、すでに京都・大阪は灰塵に帰した。

 

 だがそれでも意味はあった。

 稼いだ時間により、砲撃による人的被害はほぼゼロを達成し、資材設備も多くを九州方面に輸送できた。

 我々にはまだ、十分戦う力はある──と宣言するのも、やや強がりではある。

 

 単に京都大阪神戸の生産拠点を「失いはしたが移設出来て人的被害もなし!やったぜ!」で終わる話ではない。

 四つ足の進撃に合わせて、周辺の巨大生物や機械兵器類が活性化し、各方面で進撃を再開しているのだ。

 

 アイアンウォールの辛勝の直後でこの大攻勢だ。士気に与える影響は大きい。

 特に、岐阜・名古屋を舞台とした要塞攻略の”轟雷作戦”で壊滅的打撃を負った第六軍団や、後方地であった舞鶴に退避していた物資や人員を丸ごとソラスに焼き払われたことは相当な痛手である。

 

 現在も進撃は続いており、各方面で激戦が進行中とのことであり、現有のEDF極東第11軍の戦力の半数を投入して継戦中だ。

 残りの半分は戦力再編の名目で九州方面に撤退中で、戦力としてはほぼ使い物にならない。

 

 現在各方面で戦闘継続中の部隊も多かれ少なかれ人的・装備的損耗が加速しており、軍事戦略上で見て第11軍はほぼ全滅・壊滅の判定を受ける。

 もはや軍として機能するか怪しいレベルであり、まともな指揮官なら匙を投げて逃げ出すレベルである。

 

 しかし、相手が地球の常識の通用しない連中であれば、こちらも道理には構っていられない。

 第11軍各部隊は現場レベルで戦力再編を行い、指揮系統や作戦も部隊単位で即興で練り上げ、各々が独自に戦闘を継続している。

 もともと、EDFはフォーリナーに対するため現場指揮を重視したボトムアップ型の指揮系統を重視しており、それを高いレベルでスムーズに行う訓練を積んできた。

 従来軍に比べて分隊長レベルであっても強い権限が与えられ、高い判断能力と広い視野を求め育成されてきた。

 

 すべてはこの、全体統制が機能しなくなるレベルの壊滅状態での戦闘継続まで想定して設計されたEDFならではの組織体質のおかげだ。

 

 とはいえ、それも物資や補給部隊などの支援があってこそのものだ。

 いくらEDF隊員と言えど、野原から銃や弾薬を生成することは出来ない。

 その頼みの兵站が崩壊した時こそ、我々の本当の終わりだろう。

 

「──それで、肝心の四つ足要塞の居場所ですが、現在は京都府を通り過ぎて大阪府高槻市へ侵入しています。巨大プラズマ砲の発射間隔はまちまちですが、最短30秒間隔での砲撃パターンに入ることもあります。砲撃の標的を決めるアルゴリズム解析も行っていますが……単純に人口の多い場所・戦力のある場所だけを狙っているとも言えないところもあって……何か見落としている代数が……って、それは今どうでもいいですね!」

 

 てへへっと笑って誤魔化そうとするが、奴の砲撃アルゴリズムは気になるところだ。

 近づく前にプラズマ砲で灰にされてはたまらんからな。

 まあ、戦略情報部ほどの諜報組織が手を焼くほどだ。簡単にフォーリナーの意思を覗き見ることは出来ないという訳か。

 

「でも、攻撃した対象に反撃する機能は、ほかのフォーリナー兵器同様アルゴリズムに組み込まれているとみて間違いありません。特に轟雷作戦での戦艦群への砲撃戦ではその行動が顕著でした。ただ、その陽動も、周囲を覆うシールドベアラーと、砲撃を跳ね返されるリスクのあるミラーリングドローンの前では有効とは言えません」

 

 それが、此度の歩行要塞攻略戦において一番の懸念材料だろう。

 もともと要塞の対地レーザー掃射は、大型の車輛にとって相性が悪く、機甲部隊の積極攻勢は壊滅的被害に終わった。

 それに加え、厄介な二種の新型も、機甲部隊との相性は最悪だ。

 特にシールドベアラーの防御スクリーンはタイタンほどの車輛が通過できるかリスクは高く、シールドベアラーの中央を正確に狙える速射性と精密性は戦車に求めるのは想像以上の腕が必要だ。

 

「それだけに、作戦に参加できるのは基本的に先進歩兵部隊のみとなります。ただし、このボードに書いてある戦力以外にも、戦況が許す限りの応援部隊を送るとのことです。具体的には、京都左京区戦線・木津川戦線・東大阪市戦線・奈良国道24号戦線、です。いずれも激戦区かつ突破は大阪へのフォーリナー地上軍流入を決定づけるため、予断を許さない状況です」

 

 なるほど。大阪はすでに半包囲され、ほぼ袋の鼠状態という訳か。

 四つ足の進軍に合わせて、前線が大きく後退しているな。

 特に京都府北部から舞鶴にかけては、ソラスに焼き尽くされており、防衛戦力は無きに等しい。

 この四つ足攻略が失敗すれば、前線はいよいよ四国地方や中国地方、あるいは更なる後退で、九州までもが最前線になるやもしれぬ。

 

「また、知っての通りかと思いますが、四国地方は九州-関西間の後方地と前線を結ぶ中継拠点となっています。ここ徳島県鳴門市をはじめ、四国には九州へ受け入れ態勢が整っていない民間人や兵員、物資や食料、稼働中の軍需工場や燃料拠点など、重要な中継基地が点在しており、ここの陥落は日本防衛をさらに困難なものにします。……えっと、正直な話、神戸大阪京都の陥落の時点で論理的にどう考えても、日本を放棄するべきなんですが……それでも、私は皆さんを信じています。皆さんがこの地に残ってまだ戦うなら、私もここで少しでも皆さんの力になれるよう頑張ります!」

 

 拳をぐっと握り、静かに決意を表明するルアルディ中尉。

 なんというか……情報部は冷徹な人間の集まりとばかり思っていたが、そうでもないらしい。

 その言葉が聞けて心底安心した。彼女のサポートでなら、我々は安心して戦える。

 そして、負けられぬ。

 やっぱりダメだった、などと思われないためにも、必ずかの憎き四つ足を破壊せねばならぬな。

 

「続いて、現在判明している四足歩行要塞”エレフォート”のスペックについて説明します」

 

 肝心の情報だ。

 敵をよく知らなければ、勝利はあり得ない。

 特に人類の常識から大きく外れたフォーリナーの情報は、多ければ多いほど作戦成功率は上がる。

 以下が、ルアルディ中尉から説明された内容だ。

 

・歩行要塞の寸法:全高240m、全長200、全幅150m

 

 地上兵器としては恐ろしく巨大であり、まさに要塞が歩行して進んでくるような印象だ。

 歩行だけで町やビルすら薙ぎ倒し更地にする歩く災害そのものである。

 足ひとつとっても50mはあり、踏みつぶされればEDF隊員であっても即死は免れない。

 動作は緩慢だが巨大さゆえの歩行速度は速く、直線行軍では時速60km程度を観測したそうだ。

 

 説明の途中で、フェンサーの柳大尉から手が上がる。

 

「質問があります。奴の渡河能力・登坂能力はどの程度でしょうか」

 

「はい。記録では、伊勢湾河口付近の中州を含む木曽三川を問題なく渡河しており、河を避ける傾向はありません。ただ速度は落ちるようで、名古屋からの撤退戦ではそれが大きな功を奏していました」

 

 奴は脚部だけでも軽く見積もって高さ100mはある。川の深さなど何の問題にもならないだろう。

 むしろ、橋が必要な分我々の方が行動を制限されるまである。

 思えばフォーリナーは、ほとんどの個体が橋無しでも渡河能力を有しており、対人類ほどに河川沿いでの戦闘は優位に進められなくなり、むしろ人類にとって枷となってきた。

 怪物程度であれば、渡河直後の斉射で駆逐できないこともなく、まだ有効な手段なのだが。

 

「登坂能力も高く、名古屋を出たあとは、京都までほぼ直進のルートをたどり、三重県と滋賀県の県境、険しい鈴鹿山脈を横断しました」

 

「なるほど……ここまで巨体だと、地形を利用しての戦いは却って我々の不利になりそうだ。大阪都市部の戦いに持ち込む以外に方法はなさそうですか……」

 

 地形を利用するという、戦争の基本中の基本すら通用しないフォーリナー。

 その異星侵略者との戦いは、常に非常識を突き付けられる。

 

・攻撃兵装:巨大プラズマ砲二門、対地粒子ランチャー六門、対地レーザー砲13門、対空レーザー砲四門

 

 全長100mもの巨大プラズマ砲は発射間隔最短30秒の速射を行い、射程数十kmで数百mの範囲を吹き飛ばすケタ違いの破壊力だ。

 それ以外の対地兵装も、針鼠のように全身に武装されている。

 地上の装甲車輛を狙った対地攻撃は正確で、接近する幾多の車輛が破壊されたそうだ。

 

 地上からの接近は、普通に考えて自殺行為……だが後述する情報から、地上侵攻が現状唯一の可能性を秘めていることが分かっている。 

 それゆえに、奴も機体下部に武装を集中させていると見れる。

 

 そこで今度は、ウイングダイバーの冷泉大尉から質問が飛ぶ。

 

「質問だ。奴の武装は、破壊可能と考えて問題ないな?」

 

「はい。2月16日のロシア極北戦線での集中核攻撃、4月10日のアメリカ西海岸でのグラインドバスターでの撃破記録によれば、攻撃による通常兵装の損壊が確認できたとのことです。ただ、どちらも歩行要塞の内部爆発により、状態がひどく分析の信頼性は高くありませんが……戦略情報部としては、攻撃による武装破壊は可能だと考えています」

 

 それは単純に朗報だった。

 ただ、そのためにはおそらく奴を守っているであろうシールドベアラーとミラーリングドローンを何とかする必要がある。

 元々集中核攻撃は国内汚染の深刻さから、グラインドバスターは総司令部の許可と砲弾の確保の問題から見送るしかなかったが、新型二種の出現でさらに困難となった。

 

 歩行要塞を覆う装甲はレイドシップの白銀装甲と見た目はそう変わらないものの、強度の点では数段劣る。

 それでも大国二か国がそのような邪道な手段を使わなければならない程度には強固であり、それを我々は覆す必要がある。

 

・防御兵装:フォースフィールド三枚、自走式防御スクリーン発生装置”シールドベアラー”、鏡面円盤”ミラーリングドローン”

 

 新型二種と、自身の外側に展開しているフォースフィールドだ。

 フォースフィールドは全身を覆っているわけではなく、前面と両側面の限られたエリアを守っている。

 突破は困難で、戦艦の主砲弾も防ぎ切った実績がある。

 歩兵で攻略する以上、フォースフィールドそのものの突破は困難だろう。

 

 シールドベアラーは防御スクリーンさえ突破できれば破壊可能、シールドベアラーも中心部を正確に狙撃すれば撃墜可能という情報を先日教わった。

 門倉大尉やグリム第三小隊のおかげである。

 此度の作戦にも参加されるようなので、後で礼を言っておきたい。

 

「では僕も、質問いいかい?」

 

 今度手を挙げたのは保坂少佐だ。

 

「フォースフィールドは歩兵の火力では到底どうにもならないだろうけど、その発生装置とかは見つかったのかな? 確かアメリカで歩行要塞の解体・解析が進んでいるという話だったけれど」

 

「そうですね……残念ながら、戦略情報部の方にもまだ報告は上がっていません。今のところ発生装置のようなものは発見できず、歩行要塞の動力部から直接制御されているらしい、としか……」

 

「うん、ダメ元で聞いてみたけどやっぱそうか。それが分かっていればちょっとはマシだったんだけど、構造上の問題ならしょうがないね。うん、ありがとう」

 

 なるほど……要するにフォースフィールドに関しては、歩行要塞を撃破してしまう以外に無効化する手段はないようだ。

 初め遭遇したときはそれどころではなかったが、後で映像などを見せてもらうとそのフォースフィールドとやらがちょうど武装を狙撃するときに邪魔な部分に位置するのだ。

 当然、向こうからの攻撃はフォースフィールドを通過する。

 なんという意地の悪さか。

 

・特殊装備:機体下部転送装置

 

 これが、本作戦の要と言ってよいだろう。

 歩行要塞の下部には巨大なハッチがあり、その内部にはレイドシップやレイドアンカーでお馴染みの転送装置とやらが存在する。

 この転送装置は怪物や機動兵器を無制限に転送する極めて厄介な代物であると同時に、破壊が異常に困難な白銀装甲を通過せず内部から破壊可能な弱点でもある。

 いったいどういう仕組みになっているかてんで分からないが、とにかく転送装置はそのユニットの機関装置と繋がっているか、もしくは単純に破壊によるエネルギーの暴走が尋常ではない規模なのか、とにかくその転送装置を破壊すると、フォーリナー兵器は内部から爆散するように破壊される。

 

 一方でフォーリナーもそれが弱点であることは把握しているようで、普段は強固なハッチで守られており、歩行要塞においても同様の設計だ。

 そして転送装置の直下は、往々にして転送された怪物や兵器が蠢いている。

 

 レイドシップですらその群れを掻い潜って直下の転送装置を撃ち抜くのは相当な難易度であったが、今回はそれに加え歩行要塞下部からの対地砲撃もある。

 

 改めて考えると、レイドシップ撃破を相当上回る困難さで、未だに「自殺しに行くようなものでは?」と私自身も思う。

 それでも、やり遂げなければ日本に明日はない。

 

「質問だ」

 

 今度は我らがストーム1リーダー、大林大尉が声を上げる。

 

「四つ足のハッチは、レイドシップと同様の仕様……投下された個体の、一定数以上の損耗が観測されないと開くことはない。そう考えていいんだな?」

 

「うーんと、そうですね……基本的にはそれで合っているはずです」

 

「と、いうのは?」

 

「はい。正直な話、歩行要塞周辺での地上戦闘が行われたケースが少なく……データも観測も、はっきりとは確認できていません。ですが逆に、頻繁に開閉していたという報告もないところから、おおむね合っているのでは、と思いまして、個人的には……、うぅ、推測入っちゃってごめんなさい!」

 

 言われてみればそうであったか。

 あんな巨体がプラズマ砲と対地攻撃と怪物や機動兵器の転送を行いながら前進してくる中で、地上からの突入作戦を敢行した例などありはしない。

 

「轟雷作戦でのヤツの挙動はどうだった?」

 

「観測した情報は詳細に分析中ですが……そもそもの撃破率よりも投下数の方が上回っており、明確に撃破による個体漸減を契機にハッチが開いたとは断言できず……戦略情報部としては、明言を避けざるを得ません。しかし私の見立てでは、転送される個体数はレイドシップよりも遥かに多く、その分漸減に必要な個体数も増しているのでは? と考えます。また、転送の仕様が周辺戦域で自身が転送した個体数を認知するものであり、かつ一定数以下であれば定期的に転送するというアルゴリズムで行動しているのであれば……初回転送から数回分、つまり周辺戦域での個体数が上限を迎えるまでは、個体の漸減に関わらず、一定周期でのハッチ開閉が期待出来るのではないかと……これも憶測になりますが、轟雷作戦の記録を見る限り、その可能性は高いと考えます」

 

 ふむ……。つまり周辺戦域で要塞が投下する数が1000と決まっており、一度で100投下されるとしたら、10回目の投下までは個体を撃破しなくとも勝手に開く仕様があるかもしれない……という事か。

 それに加え、もし飽和の上限が1000であり、追加転送の条件が600体以下であれば、400体分を漸減しないとハッチは開かない。と推測できる。

 

 問題はその具体的数字が全く不明であるということだが……。

 単純な数であれば怪物を駆除することを優先して構わなそうだが、戦力評価であれば大物を撃破するべきだ。

 何より、ダロガやヘクトルを放置したまま安全に下部からハッチを狙えるとはとても思えない。

 

「なるほど。初期にレイドシップを攻略しようとして、ハッチが開かずに殲滅された部隊の裏付けにもなるな。周辺の個体数飽和が、ハッチが開かない理由となる、か」

 

 そう言うと大林大尉は少し考え込むようにして黙った。

 

「よし。これで歩行要塞に関する、私の持つ情報は全て伝え終わりました。次はいよいよ、要塞攻略作戦、その具体的作戦案を、皆さんに立案してもらいます!」

 

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