全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第九十九話 要塞攻略作戦会議(後編)

──2023年4月15日10:00 徳島県鳴門市 EDF第515駐屯基地──

 

「えー、そんな訳で皆さんを全力でサポートさせていただくんですが、知っての通りこの作戦は異例中の異例であり、かつ皆さんの個性と連携が非常に重要なファクターとなる作戦です。なのであの歩行要塞攻略のための作戦を、ここにいる皆さんで練ってもらいます!」

 

 ようやく本題が来たな。

 このストームチーム結成の話もそうだが、上層部としても歩行要塞攻略の作戦は”組みようがない”というあんまりにもあんまりな方針に決まったらしい。

 

 というのも、そもそも戦力も作戦も用意する時間も余力もない。

 そして歩兵のみの電撃作戦を展開するノウハウもない。

 ただ、作戦は遂行しなければならない。

 

 そうなったとき、最も信頼できるのは現場部隊の経験と勘になる。

 それを遂行するにあたって、日本戦線で最も経験豊富で信頼できる指揮官と部隊員──それがストームチームとして選抜された我々だったという訳だ。

 

 一通り前提条件の説明が終わったルアルディ中尉に代わり、大林大尉があとを引き継ぐ。

 

「今、話があった通りだ。我々が命を張る作戦を、我々が頭を捻って絞り出す。結構なことだ。訳の分からん総司令部の日本陥落宣言よりよほど気合が入る。──さて、ここからが本題だ。あのクソ四つ足をスクラップに変える名案があるヤツはいるか? もちろん、この戦力でだ」

 

 マーカーで、ホワイトボードを叩く。

 そう、あの未曽有の災害規模の被害を出している歩行要塞を、たった数十人の歩兵で制圧しなければならないのが今回の作戦だ。

 

 軍団規模の機甲戦力と海軍艦艇を真正面からぶつけて成す術も無かった要塞を、中隊規模にも満たない歩兵戦力で制圧しようというのだ。

 並大抵の事ではない。だがやらねばならない。

 

 それを行うには、ここにいる各々の兵科の特性を最大限に引き出す必要がある。

 

「では、ウイングダイバーらしく先陣を切らせてもらおう」

 

 最初の作戦案は、ストーム4の冷泉大尉が提案した。

 

「作戦はシンプルにいく。各々の持つ最大のスキルを駆使し、最速で歩行要塞直下を確保する──つまり電撃作戦だ。道中の敵勢力の撃破は最低限。直下に辿り着いてから、周辺の敵戦力を漸減する。そこで転送装置のハッチが開くまでひたすら耐久を続ける」

 

 ようするに、ほぼレイドシップを撃破するときの行動と変わらない。

 単純明快ではある。

 だが、レイドシップにはないリスクが四つ足には存在する事を忘れてはならない。

 

「むろん、歩行要塞直下に留まるという事は、対地レーザー照射下での戦闘を行うという事だ。損耗は避けられない。だが、あの要塞をこの人数で仕留めるためには、このリスクは許容範囲内だと考える」

 

 ふむ……犠牲前提の強行作戦という訳か。

 短期決戦を狙う案としては悪くない気はする。シンプルがゆえに応用も利きやすいだろう。

 だが、それゆえに不安要素も多い。

 大林大尉がそのことに言及する。

 

「悪くない案だ。実際、私も似たような案は考えていた。だが、いくつか問題点はあるな。電撃作戦を行ううえで、我々各兵科の行軍速度がバラバラな点が、致命的な連携の崩壊を生む可能性がある。足の速い者を先行させれば分断や各個撃破の危険がある。足の遅い者に合わせては、それこそ電撃作戦の体を成さない」

 

 少数精鋭は機動力に優れるが、敵に包囲されてしまえばその分脆い。

 特に、ウイングダイバーと違ってほかの三兵科は弾薬の消耗もある。

 四つ足に辿り着く前に包囲されてそこで激戦を繰り広げていては、辿り着くころには消耗していよう。

 その問題の解決を、ストーム3柳大尉が試みる。

 

「重要なのは、我々の兵科がバラバラであることに、弱みではなく強みを見出さなければならない事……でしたら、こんなのはどうでしょう?」

 

 柳大尉は、前に出てホワイトボードに戦力を書き出す。

 

「我々四部隊、それとほかの参加部隊、アルデバラン、グリムリーパー、レンジャー1、2、ブルージャケット、ヴァルキュリア2──これらの部隊を、それぞれ……そうですね、陽動・狙撃・急襲の3チームくらいに再編成する、というのは」

 

 柳大尉の案に、保坂少佐も手を叩いて評価する。

 

「いいね。実は僕も似たような作戦案を考えていたよ。その前に、今回の僕が出来ることなんだが……まず、僕らエアレイダーの航空支援・砲撃支援はシールドベアラーがいる限り殆ど効果は期待できないと思っておいてくれ」

 

 柳大尉の案を肯定したかと思ったら、とんでもな事を言い出す保坂少佐。

 いや、冷静に考えれば分かり切っていることなのだが。 

 

「支援要請での攻撃は、精密性もないからミラーリングドローンへの対抗策もない。そして要塞下部へ攻撃する手段もほとんど持ち合わせていなくてね。困ったもんだ」

 

 なんという事だ。ほとんど役立たずではないか。

 

「ただ、だからこそやりようはある。僕たちエアレイダーは、実は戦闘工兵的側面もあってね。C型設置爆弾とZE-GUNを融通してもらったんだ。支援要請でシールドベアラーを破壊することは出来ないが、やつをC型爆弾の設置地点に誘い込むことが出来たら、破壊は可能さ」

 

 なるほど。

 奴は相対速度によって物体を弾いていると聞く。

 であるなら、建造物と同じ、固定された物体であれば通過は可能か。

 

「ミラーリングドローンに関しても、ZE-GUNなら反射のリスクもない。ただし、射線に飛び出たら誤射されるから、乱戦で使うというよりは、敵軍の侵攻ルートに設置しての足止め的運用になるとは思うけどね」

 

 ZE-GUNは複数のカメラセンサーで入力された数値と映像認識にもとづき、だいたい敵個体の中央を狙う様に設計されていると聞く。

 であるなら、運が良ければ自動で弱点である機体中央を狙うことが期待できる。

 

 さらに、反射されてもセントリーガン自体の損壊程度で済む。

 人的損耗が抑えられるのは、リスクの低下とみて良いだろう。

 

「そういう訳で、僕たちストーム2はとにかく敵の進軍妨害のため、単独行動を取らせてもらう。ああもちろん、自衛にはリムペットスナイプガンと、サプレスガンを装備していくから、それなりに戦えるつもりではあるさ。補給物資が必要なら、狙った場所に投下を要請することも出来るから、役立たずにはならないと思うけど」

 

 言い終えながら、保坂少佐に横目で盗み見られた。

 なんと……心を読まれたとでもいうのかっ!

 

 しかし実際、エアレイダーのいる戦場は頼もしいものでもある。

 空爆や砲撃が要請できなくとも、それで強みが即座に失われる訳ではないのも救いだ。

 

 その内容を踏まえ、冷泉大尉が軌道修正を行う。

 

「それなら、ストーム2は要塞行軍方面での陽動を担当してもらった方がいいな。先行し、あらかじめ行軍妨害の罠を張り、その後に後退。首尾よく起爆できるか、あるいは陽動担当がシールドベアラー破壊出来れば、空爆や砲撃により、より多くの戦果が期待できる。支援要請自体は可能なのだろう?」

 

「うん。上空には要塞の対空レーザー感知外ギリギリでDE-202に待機してもらう予定だし、ほかにアルテミス、フォボス、砲兵隊、あとはネプチューン級EDF潜水艦も近海で待機しているよ」

 

 ほう……相変わらず豪勢な支援内容だ。

 1人にこれだけの支援内容がつくとは、エアレイダーというものは本当に侮れんな。

 その支援戦力に、大林大尉が唸る。

 

「その戦力を生かすも殺すも、シールドベアラーとミラーリングドローンの殲滅状況に左右されるという事か。だが陽動部隊にあまり多くの戦力は割けん。そこは単体の戦力評価が低く、かつ最も小回りの利く我々レンジャーで対応するのが良いだろう」

 

「では、ほかの編成はどうします?」

 

 柳大尉の問いに、冷泉大尉が即座に答える。

 

「我々は機動力を活かした急襲部隊ということでいいな? なら、同じく機動力に秀でるヴァルキュリア2は外せないだろう。特に、彼女たちの近接戦闘能力は目を見張るものがある」

 

 ヴァルキュリア2は、極東降下翼兵団随一の近接戦闘集団であるとして有名だ。

 戦技教導隊であるスプリガンの戦闘技術も極められたものだが、ヴァルキュリアは実戦で磨き上げられた別種の練度を誇っているという話だ。

 

「では、彼女たちの護衛は僕らが引き受けよう」

 

 柳大尉が名乗りを上げる。

 

「フェンサーのスラスター機動なら、彼女たちに追いつくのもそう難しい話じゃない。もっとも、グリムリーパーほどの繊細な機動技術は無いが……彼らには、狙撃部隊の護衛を担当してもらいたくてね」

 

「ほう。何故だ」

 

 冷泉大尉の疑問には、保坂少佐が答えた。

 

「そりゃ、スティングレイ……おっと、今はストーム3か。とにかく彼らの方が重火器を持ち込めるからね。手が空いたら、歩行要塞の転送装置も狙えるし」

 

「手が空く余裕はあるのか? 我々も要塞への攻撃に専念するべきではないか?」

 

 ストーム3も4も要塞攻撃を担当したら、援護をするものが居なくなる。

 どちらがより適任か、という話になるが……。

 

「どうだろうね。むしろウイングダイバーの強みは機動力と継戦能力にあると思うから、火力の方はストーム3に任せるべきだと思うけど? 君たちは、そこに辿り着くまでの突破口になるべきじゃないかい?」

 

「火力に関しては、こちらの御子柴少尉を中心に組んでいけば問題ないですかね? ただ、歩行要塞直下に急襲する方式だと、やはり要塞下部の対地掃射は恐ろしいですね……、短期決戦で行かないと、火力を集中したところで長くは持たないと思います」

 

 保坂少佐、冷泉大尉、柳大尉の声に、大林大尉も意見を混ぜる。

 

「その点に関しては、やはりブルージャケット頼りになるだろうな。狙撃部隊を中心に編成し、護衛にグリムリーパー3、そして周辺地域の制圧と観測手として、アルデバランを配置する」

 

 大林大尉の言葉を受け、冷泉大尉がやや複雑そうな表情をしながら不安を零す。

 

「グリムリーパーか……。第三小隊の指揮官は、ドゥーエル中尉だったな。戦略情報部隷下の特殊部隊だと聞くが、指揮系統に問題はないか?」

 

 冷泉大尉の心配も当然ではある。

 通常、グリムリーパーは全く別の指揮系統と戦略目的で動く部隊だ。

 極東第11軍が総司令部の日本陥落判定を覆して独断行動を行った時点で、日本から引き上げて然りではあったが、未だにここにいる。

 

 今思うとそれは、ソラス討伐戦の際に問題となった、EDF戦略火器保管庫の確保任務絡みだったのかもしれないが、それが片付いた今でも変わらずここにいる。

 それはともすれば戦略情報部の考えそのものが変化し、ここを起点にフォーリナー戦況を巻き返す、その戦略目的を支援するための起爆剤……などと考えるのは、さすがに虫が良すぎるだろうか。

 

 憶測は危険だが、なんにせよグリムリーパーはここで日本戦線を支える一助になっているのは間違いなかった。

 

「問題ない。一時的に、グリムリーパーの指揮権は現場レベルで委ねられている。彼らもそのことは理解し、従ってくれるはずだ。先日のシールドベアラー・ミラーリングドローン攻略作戦の際も、アルデバランの門倉大尉と問題なく連携出来ていたと聞く。指揮系統・連携に不満を覚える必要はないだろう」

 

 冷泉大尉の心配に、大林大尉が不安なく答える。

 

「そうか。なら戦場では遠慮なく頼らせてもらうとしよう。では、狙撃を中心とする第二部隊はアルデバラン、グリムリーパー3、ブルージャケットの3チームで編成。部隊指揮権はアルデバランの門倉大尉が執る。これで異論はないな?」

 

 冷泉大尉のまとめに、全員が頷いた。

 

 その後の内容をまとめると、こうなる。

 

・第一部隊

 任務内容:要塞行軍方面での陽動&攻略に邪魔なシールドベアラーの排除

 編成部隊

 ・ストーム1(部隊指揮:大林大尉)

 ・ストーム2(隊長:保坂少佐)

 ・レンジャー1(隊長:結城大尉)

 ・レンジャー2(隊長:荒瀬軍曹)

 

・第二部隊

 任務内容:遠距離から要塞下部砲台の狙撃&ミラーリングドローンの排除

 編成部隊

 ・アルデバラン(部隊指揮:門倉大尉)

 ・グリムリーパー3(隊長:ドゥーエル中尉)

 ・ブルージャケット(隊長:早坂大尉)

 

・第三部隊

 任務内容:機動力を活かした要塞下部急襲&その護衛と火力支援

 編成部隊

 ・ストーム3(部隊指揮:柳大尉)

 ・ストーム4(隊長:冷泉大尉)

 ・ヴァルキュリア2(隊長:水無瀬中尉)

 

 大林大尉が、その内容をホワイトボードに書き出す。

 

「ふむ……。奇抜さは無いが、妥当な作戦内容と部隊編成だな。ほかに何か意見がある奴はいるか?」

 

 一人、手が上がった。

 それは、この部屋の隅の方のパイプ椅子に座り、ずっと眠たそうに煙草をふかしていた、彼女だった。

 

「やー、あまりに順調に作戦が組み立てられているんで、何処で声を挟むべきか迷っていてね」

 

 咥え煙草で答えたのは、兵装技術開発部の研究主任、茨城尚美技術少佐だ。

 

「む。そういえば、何故貴女はここに?」

 

 なんと。大林大尉も何も聞かされていないとは。本当に紛れ込んでいただけだったのか。

 

「ふぅー。ま、ささやかながらこの作戦に協力しようと思ってね。えーと、ちょっといいかい?」

 

 茨城少佐はだるそうにホワイトボードの前に立ち、マグネットを使って資料を張り付ける。

 

「ま、これを見とくれ。もともとはレイドシップやアンカーの転送装置を遠距離から狙うために開発されていたもんだが、まあ今回の作戦でも問題なく使えると思ってね」

 

 張り付けられた資料は四つ。

 それぞれの四兵科に与えられる、兵装技術開発部が作り上げた兵器とみて間違いないだろう。

 

「本当はもっと試験・検証・改良を繰り返して量産するもんだが……勝手に作った火器試験場での性能評価は済んでるから、まあ八割方安心してもらっていいさね。ワタシらには悠長にやってる余裕なんて、ないんだからさ」

 

 そこまで言い切ると、茨城少佐は煙を吐き出し、それぞれの説明に移る。

 

「まずこいつだ。対物狙撃銃”ライサンダー2”。ま、これは分かりやすくレンジャーの装備で、ライサンダーの第二世代型と思ってくれていい。ちょうどガンシップの重力遮断ドライブをまともな状態で確保出来ていてね。そいつを一部組み込んでみたのさ。精度と射程、何より威力は保証するさ。確保できたのは12丁。これをブルージャケットと……仙崎君、君に託そう」

 

 私の方を見てにやりと嫌な笑いを浮かべる。

 なんなのだ……。

 

「別に他意はないさ。ただなんとなく上手く扱ってくれそうってだけさね。大林大尉、異論はあるかい?」

 

「いいや。続けてくれ」

 

 先を促す大林大尉に、満足そうに微笑む茨城少佐。

 

「次はウイングダイバー用のやつさ。高雷鎖狙撃銃”ライジン”。ウイングダイバーは長射程・高威力のものを作るのに苦労していてね。MONSTARのように一撃で射手が飛行不能になってしまうのは頂けない。そこで、エネルギー系統を雷鎖系統に変換し、変換効率を……おっと、そのあたりの細かい事情はよしとこう」

 

 よかった。高度な技術知識の講義になるのかと思って戦慄したぞ。

 

「こいつは少々変わっていてね、トリガーを引くとエネルギーが銃に供給され、放すと発射される。まあ弓のようなものだと思っていてくれたまえ。エネルギー消費は大きいがMONSTARほどじゃない。ただ、こちらは量産が難しくてね。2丁しか用意出来なかった。まあ、大量に配備するようなものではないから、好きに使ってくれたまえ」

 

 MONSTARのように一撃で射手が行動不能になってしまうようでは、完全な狙撃ならともかく、乱戦では死に直結する。

 かと言って、クローズ・レーザーのような照射型レーザー狙撃銃では、一定時間しか開かないハッチに対しては効果を上げにくいだろう。

 使い勝手はともかく、運用コンセプトとしては理解できる。

 

「あたしには合わなそうね……玲香か冷泉大尉がいいんじゃないかしら」

 

「ヴァルキュリア2に渡すという発想は……いや、彼らは接近戦に秀でる部隊であったか。そして貴様も接近タイプ……むむ? 歩行要塞と相性悪くないか?」

 

「失礼ね。レイピアは持っていくつもりだけど、もう一つはプラズマランチャー系で行くのよ。隙を見て四つ足に叩き込んでやるんだから」

 

「間違って自爆とかしてそうで怖いなと思う私であった」

 

「ホントに! 失礼!」

 

 私と瀬川がやいのやいの言っているうちに、次の説明に移る。

 

「次はコイツだ。単照射高出力レーザー砲”パワーダイン”。コイツはレーザー兵器だが、フェンサー専用の装備さね。さっきウイングダイバーの狙撃兵器に苦労したといったが、実はバッテリーの問題もあってね。こいつはそれを力技で解決している」

 

 その力技を表現するためか、茨城少佐は脇に簡単なフェンサーのイラストを描く。

 ふむ、雑だが分かりやすい。

 腰のあたりに、大型の箱が二つ装着されているように見える。

 

「こんな感じでフェンサーの腰部に、大型のバッテリーパックを二基装備する必要がある。そして、残念だが安全に撃てるのは、十発限りの代物さ。一発撃つごとにバッテリーが膨れ上がり、試験では14発から17発でバッテリーが良くて発火、悪くて爆発炎上した」

 

「そんな危険なものを装備させて戦場に行かせる気ですか?」

 

 おっと、温厚そうな柳大尉が信じられないものを見た目で問うておる。

 まあ、正気とは思えない装備ではある。

 

「ふぅー。話は最後まで聞くもんだよ、柳大尉。まあ、あからさまに不安を煽るようなことを言ったこちらにも非はあるがね。デリケートなものかと勘違いさせてしまったが、落下・衝撃・被弾・酸の耐久テストは済ませたさ。それに、危険だと思ったらすぐパージしてもらって構わない」

 

 図面の中の、トリガー脇のスイッチを指し示す。

 そこを押すことで、任意に装備を分離することが出来るようだ。

 その安全対策が出来ているのは素晴らしいことだが、どうにかバッテリーを爆発しないようにして欲しい。

 

「むろん、パージすればそれっきりパワーダインは撃てなくなるがね。威力評価では、フェンサー最大火力のガリア重キャノン砲一発を数倍上回る結果を出している。連射も可能だから、さっさと撃ち切ってパージしてしまうのがいいだろうね。結構、重量もあるし、早期決着は目指した方がいい。もちろん、装備するかしないかはそっちが決めてしまって構わないさね」

 

「まあ、考えてはみますが……」

 

 慎重な性格なのか、柳大尉はあまり気が進まないようだ。

 というか、普通はそうだろう。

 開発部のテスト不十分で怪しげな兵器など、誰も土壇場で使いたくはない。

 

 兵器とは信頼性が非常に重視される。いくらテストやスペックで優れていても、戦場の過酷な状況で役に立たないのでは話に成らない。

 ただ、今になって、それは贅沢な話であったと思う様になってしまった。

 それほどまでに、フォーリナーとの戦場は過酷だ。

 

 あまり正確なデータはないが、フォーリナーは日に日に強さを増している。

 これは軍勢が強大であるとか、新型の敵が出てくるとかではなく、そもそも個体の強さが変化しているのだ。

 つまり、我々もそれに合わせて装備を強化しなくてはならない。

 

 極東第一工廠を失い、継戦能力が失われつつある中で、満足なテストと信頼性を得た兵器が正式に量産されるのを、指をくわえて待っている余裕は無いのだ。

 

 これまでの人類間戦争がまるで児戯であったかのように、フォーリナーと人類の生存をかけた大戦争は、悉く我々の積み重ねた常識を破壊する。

 それでも、我々は戦わねばならない。

 

「最後に、エアレイダーだ。まあこれは、エアレイダー専用装備とは言い難いんだが、戦場で活用できそうな兵科はエアレイダーだけだからね。名を、そうさね……粒子照射式防御兵装”ガードポスト”という」

 

 もしや今名付けたのではあるまいな?

 

「これは、ある特殊な粒子を、アーマースーツの信号を頼りに対象に照射する。その粒子は、照射された人物の表面を沿う形でめぐっていく。これが、フォーリナーのレーザー兵器に反応し、レーザー被照射出力を減退してくれる。……まあ、簡単に言うとレーザーに対する防御力が上がるって感じさね」

 

 茨城少佐のイラストでは、円柱型の装置から複数の線が伸び、それが人間に当たり、包むように粒子がめぐって書かれていく。

 よく分からない粒子を照射される、というのもやや危険な感じがするが。

 

「残念ながら怪物の糸だの酸だのに効果はないけれど、四つ足の真下に行くって言うなら、効果は期待できる。まだ試作型だが、全部で3基。粒子が尽きれば当然効果は無くなるから、上手く使っておくれよ。なに、無いよりきっとはマシさね」

 

 ……それにしても、事実であれば開発部の技術力は大したものだな。

 ゲームなどにしか登場しないと思っていた、防御力アップの魔法のようなものを実現してしまうとは。

 まさしく、高度に発展した科学は魔法と見分けがつかない、と言ったところか……。

 

「ああそれと、これは開発部単独じゃあないが君たち用の装備の更新も来ている」

 

 鞄をごそごそ探りながら、しわくちゃになった資料をホワイトボードに張り付ける。

 読めん。

 

「レンジャーとエアレイダーにはハイブリッドプロテクター、ウイングダイバーにはV2プラズマコア、フェンサーにはV2スケルトン。それぞれ基本性能が向上しているさね。これはちゃんと装備設計局からの制式支給品だから安心して受け取ると良い。もちろん人数分はしっかり確保しているさ」

 

 おお、これはありがたい!

 アーマースーツの性能向上は、純粋に耐久力が向上するほか、人工筋肉増量により移動速度や俊敏性・回避性能の向上につながる。

 

 詳細なスペックデータを見ないと評価は出来んが……まあ、これこそ使ってみた方が早いからな。

 EDF装備設計局の制式採用品ならば安心だろう。

 

「ありがとうございます。茨城少佐。さて……、作戦の骨子は固まったが、保坂少佐、パワーポストの設置を、第三部隊に混ざって行うことは可能だろうか」

 

 そういえばそうである。

 パワーポストは要塞直下で使用するのが最も効果を発揮するだろうが、要塞直下へはフェンサーとウイングダイバーの高機動組で編成する予定だった。

 

「うーん、さすがに難しいね……。スペックを見た感じ、ガードポストは持ち運ぶのに一苦労はする大きさだし、車輛で運ぶにしても、乱戦の中を突っ切る自信は……宮藤君、どう?」

 

 保坂は部下の女性ドライバー、宮藤曹長に尋ねる。

 

「んー、ちょっと厳しいかと。ガードポストを運ぶとしたら、グレイプじゃ無理だから、キャラバンですよね? あれなら大抵の物資は積まさると思うんですけど……機動力ないし、いくら装甲厚いって言っても片道切符になるんじゃないですかね?」

 

「うーんそれは困るな。僕、要塞直下に居たところで基本無力だし……安藤君のニクスで行くとしても、ガードポストを積むのは無理だろうし。うん、困ったな……」

 

 珍しく、保坂が真剣に悩み始める。

 条件としては、最低1基のガードポストを積載可能で、かつ要塞直下に行って、帰って来れる移動方法。

 

 当然直下に行くまでに激しい攻撃に晒されるので、現状はキャラバン装甲輸送車輛での行動が最も可能性を秘めている。が、それも厳しい見立てだ。

 なにせ、装甲輸送車型のキャリバンには武装が機銃程度しか付けられていない。

 それに履帯装備型なので、瓦礫などは問題にならないにせよ、細かい機動は制御しづらい。

 

 それでも行きだけは何とかなるだろうが、問題は帰りだ。

 戦場を往復するなら、キャリバン装甲救護車輛くらいの安定感は欲しいものだ。

 

 あれは戦場を往復することを前提に作られており、大量の医療用装備と重装甲、そして大出力エンジンを兼ね備えているので、戦場救急車としては最高の信頼性を誇る。

 むろん、ガードポストなど積んでいる容量など無いが。

 

 ……と、そこまで考えてふと思い当たる。

 

「……地上は無理でも、地下ならどうだろうか」

 

 ふと、口から零れただけの呟きだった。

 EDF戦略火器保管庫のように、地下通路などあればと思ったのだ。

 

 そしてその一瞬後には、不可能だとの結論を出すに至った。

 なにせ、そう都合よく地下通路などありはしない。

 よしんばあったとして、どうして出口が都合よく要塞直下にあたるようにするのか。

 そう思って即座に首を振ったのだが。

 

「地下……そうだ! 地下道なら、あるかもしれません!」

 

「なぬ!?」

 

 ルアルディ中尉が、それだ! と言わんばかりに手を叩き、ノートパソコンを広げる。

 そして広げるや否や、超高速でキーボードを叩く叩く。

 

「ま、待てルアルディ中尉、どういうことだ」

 

「そうです! 地下です地下! ええと、高槻市の北にEDF第702戦略ミサイル基地があるのは知っていますよね? そこと飯森中山にある第655空軍基地を地下連絡網で繋いでしまおうって計画があって──詳しくは軍事機密上話せないんですがっ、その詳細な地下道データがあればもしかして……ああもう! ノートじゃスペック足りないっ! すみませんっ、ちょっとハッキングしてきます!」

 

 早口でそう捲し立てると、ぴゃーっとどこかへ飛び出してしまった。

 

「あれ? なんかさ、ハッキングとか聞こえてきたんだけど気のせいかな?」

 

 桜がきょとんとした顔で問いかけてくる。

 私に振るな私に。

 

「大林大尉と柳大尉が頭を抱えておる。それで察するほかあるまい……」

 

 なんというか、あれだ。天才とはかくや、とでも言うべき行動力だな。

 

「そのあたり、ベクトルの違う天才女史はどう考える」

 

「くっくっく……情熱的で良い娘じゃないさね。ワタシは好きだよ、ああいう諸事情を何も顧みない娘。まったく戦略情報部も粋な娘を預けてくれたもんさね」

 

「余裕で法に触れると思うのだが……全員纏めて戦争後に軍事裁判で裁かれるのは嫌だぞ?」

 

「それはそれで何を言っているのか。キミはまさにそれで裁かれる立場だというのに」

 

 戦略火器保管庫の件か。まあ別に私だけ裁かれるのであれば言うことはないのだがな。

 そういえばあの件、荒瀬軍曹たちは大丈夫なのだろうか。私の身だけ心配されたが、軍曹やその部下たちもあの場にいたことには変わりない。

 

「そういえば、軍曹らは遅くないか? ブリーフィングが始まってもう1時間近く経つぞ?」

 

 軍曹らは周辺の哨戒任務を行っていたので、多少遅れる予定ではあった。

 他のグリム第三小隊や門倉大尉は付近の駐屯基地で補給を行っている途中で、ブルージャケットとヴァルキュリア2は別の戦線からの帰還中とのことだった。

 

 戦場から帰還してすぐ次の戦場とは心中察して余りあるが、我々も戦争開始直後からずっと似たようなことをやっていたので、さもありなん、だ。

 地球防衛戦争とはまさに過酷の極みである。

 

「む。そうだ、確かに遅いな。連絡を入れてみるか──」

 

 大林大尉が内線に手を伸ばした、その瞬間だ。

 

「────ッ!!」

 

 ──轟音が、鳴り響いた。

 同時に、基地内が一時停電。

 すぐに非常灯に切り替わり、けたたましく警報が鳴る。

 

 全員が即座に警戒態勢。

 次の瞬間、扉を蹴破るように開けたのは、ルアルディ中尉ではなく、

 

「全員、基地から出ろ!!」

 

 血相を変えた荒瀬軍曹が、全員に指示を出す。

 

「要塞の砲撃が、町を襲っている!! 防空網も突破され、ガンシップの空襲が今に始まるぞ! アルデバランとグリムリーパー3は、砲撃で消息不明! ヴァルキュリア2も連絡が途絶えた! とにかく詳しいことは、移動しながら話す!!」

 

 ──状況が、激動を迎える。

 




作戦会議パートは終了です!
いや、ここに限らずなんですけど戦争ものは誰が何を言っているのか表現するのが大変ですね。
どうしてもみんな大人の軍人ですから真面目で似たような口調になるし、男と女のセリフ分けすら難しい。
ファンタジーものとかだったらある程度口調で分けられるんですけどね。
会議中だとそんなに派手な動きもないから動作も描写し辛いし、なによりこのEDF戦記は登場人物が多すぎるので……
そんなこと考えながら書いていました。

さあ次回からは戦闘パート突入です!
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