全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第百話   出たとこ勝負の精鋭群

──2023年4月15日11:00 徳島県鳴門市 EDF第515駐屯基地──

 

 鳴り響く警報の中、我々は慌ただしく戦闘用の装備を整えながら、軍曹の説明に耳を傾けていた。

 

「──状況が急変したのは37分前。大阪で要塞侵攻阻止を行っていた第502陸戦歩兵大隊から、四つ足からガンシップが大量に発艦したと知らせがあった」

 

 ウイングダイバー、フェンサー、エアレイダーはもう少し装備の調整に時間がかかる。

 こういう時、圧倒的に即応性に優れるのはレンジャーの優位点である。

 

「ガンシップは淡路島の防空網を突破し、各都市へ飛散した。その直後だ。今度は、四つ足の動向を観測していたスカウト4から、奴の巨大プラズマ砲が仰角を変えたと報告があったらしい。その結果が──」

 

 武器庫で標準的な装備を着用し、分厚い鉄の引き扉を荒瀬軍曹が乱暴に開放する。

 その瞬間──空から巨大な流星が降り注ぐのを見た。

 

「まずい! 伏せろォー!」

 

 軍曹の声と同時に、全員がその場に倒れるように伏せ、頭を抱える。

 515基地の敷地内、私の視界から見て左奥の方で青白い閃光を伴った爆発が発生。

 着弾点は滑走路の方か、凄まじい振動と衝撃、そして土砂と建造物の瓦礫が衝撃波を伴って拡散する。

 

 着弾点は青白く炎上しながら、巨大な噴煙を上げている。

 まず間違いなく、四つ足の巨大プラズマ砲によるものだろう。

 その事実に私は戦慄する。

 

「馬鹿な……! 四つ足は、大阪にいるはず……。ここまで一体、何km離れていると思っている……!」

 

 少なくとも、射程30km程度という話は、もう当てにはなるまい。

 仰角を変えることで単純に飛距離を伸ばしたという話ではあろうが……。

 

「全員無事か!? 軍曹、話はあとだ! ガンシップが迫っている! 退路を確保し、基地から要員を退避させなくては!」

 

 大林大尉が立ち上がると同時にAS-20(アサルトライフル)の安全装置を外す。

 ここはもう安全な後方基地ではなく、戦場そのものであった。

 その証拠に──巨大プラズマ砲の衝撃波をものともせず、翼尾を丸めた猛禽のような形状のフォーリナー航空兵器──浮遊艦載機”ガンシップ”が迫る。

 

 基地にはまだ生存者もいるはずだ。

 巨大プラズマ砲がここへ降り注いでいる以上、一刻も早い脱出が必要になる。

 しかし、そう闘志を燃やす大林大尉を軍曹は引き止める。

 

「早まるな大尉! 事態は更に深刻だ!」

 

「なに?」

 

「とにかく、今すぐにでも歩行要塞を撃破する必要がある! ストームチームは直ちにここを立ち、要塞攻略へ向かってくれ! 俺たちも、この基地の状況が落ち着き次第、作戦に参加する!」

 

「そうか。思ったより愉快な状況だな。だが大筋は理解した。大阪から砲撃が来ているのなら、それは──、ちッ!」

 

 空から降り注ぐ巨大なプラズマ球が、遠くの市街地で炸裂する。

 歩行要塞の砲撃は、確実に四国まで届いている。

 詳しい状況はまだ不明だが、それゆえに急を有するといった話だろう。

 

 砲撃の余波が、風圧となって頬を撫でる。

 ──今の一撃で、いったい何人が亡くなったことだろうか。

 

 そういった感傷に浸る間もなく、ガンシップは我々を獲物と見定め、10、20とその数を増やして我々の射程内に侵入する。

 

「大尉! こっちだ! ノーブルの格納庫へ向かうぞ! 青木、馬場、千島! すまないが殿(しんがり)を頼む! ここでストームチームの消耗を強いる訳にはいかない!」

 

「サー! イエッサー!!」

 

「また、貧乏くじって訳だなァ!」

 

「あのプラズマ砲が、頭上に降らないことを祈るばかりです!」

 

 口々に所感を述べながら、軍曹の部下たちが迫るガンシップを迎撃する。

 その間、我々は周囲を警戒しながら輸送機ノーブルのある格納庫──すなわち、先ほどプラズマ砲が着弾した滑走路の方に向かう。

 

「ノーブルが無事だと()いのだが……」

 

「心配性だなァ仙崎! 今時重要な機体は、全部地下に仕舞ってあんだろ。それより大林大尉、さっき何を言いかけたんです?」

 

 私の心配事を鷲田中尉が受け答え、大林大尉に問いかける。

 回答したのは、先頭を走る荒瀬軍曹だった。

 

「ガンシップの防空網突破と同時期、四つ足はここ鳴門市や、徳島市沿岸部に砲撃を始めた。分かるか? 大阪からここまで、直線距離で優に100km程度はある。奴の巨大プラズマ砲は最大射程30km程度だと分析されていたが、大きく見込み違いだったらしい」

 

 10時方向からガンシップの集団が襲う。

 私、桜、二ノ宮中尉がそれぞれAS-20D(D型ライフル)バッファローG3(ショットガン)SNR-229R(R型スナイパーライフル)で迎撃、撃ち落とす。

 

「その上さらに奴は前進し、大阪港湾部から淡路島への上陸を狙っていると見える動きをしている。上陸されれば、いよいよ四国大半の域が奴の射程圏内に入る。特に高松市や高知市にはまだ多くの市民やインフラが後方地として避難・後送されたばかりだ。これ以上、前線を下げることは出来ない」

 

 軍曹の言葉を、背中を預けた大林大尉が引き継ぐ。

 二人も武器を構え、迎撃態勢になる。

 

「後手後手もいい所だな。戦略情報部の情報では高槻市やその周辺で作戦を決行する予定だったが、もはやその通りには進むまい。警報が鳴るのも随分遅かったが、呑気にブリーフィングをさせたかったという訳でもあるまい?」

 

「当たり前だ! 俺たちも哨戒任務中、突如ガンシップに襲われて冷や汗を掻いた。急な大阪放棄と大後退だったからな……上の連絡網が上手く機能しなかったんだろう」

 

「ふん、怠慢だな。四つ足の挙動とガンシップの防空網接触の段階で警報を発していれば、ここまでひどい状況には成らなかっただろう」

 

「よせ、俺たちEDFに”たられば”は無いはずだ。とにかくストームチームには、早急に四つ足の攻略作戦を決行してもらいたい! 他の兵科とも、合流したいところだが──!」

 

 ついにこちらの射程圏内を突破してきたガンシップから、パルスレーザーの照射が降り注ぐ。

 軍曹と大林大尉は緊急回避で避け、体勢を整えたと同時に射撃。

 それぞれAS-20とG&M-22S(セミオートライフル)発射し、狙っていたガンシップの半数を落とす。

 

 そしてもう半数は、

 

「──遅れてすまない! 作戦指令本部経由でだいたいの事情は聴いた!」

 

 ウイングダイバー部隊、ストーム4のマグ・ブラスターの照射が片付けた。

 冷泉大尉、白石中尉、瀬川少尉、仁科少尉が空から降り立ち、合流する。

 

「各地に降り注ぐ砲撃で通信が安定しないそうだが、正式な命令も受け取ってきた! 口惜しいが、ここを去るぞ!」

 

「了解だストーム4! 本部に通信を送っても返答がなかったが、その様子だと無事のようだな」

 

「ああ。だが良い知らせばかりでもない。──ちっ。噂をすれば、だ。空を見ろ!」

 

 要塞のプラズマ球か、ガンシップか。悪い知らせというからには、そのどちらでもなく。

 

「くそ! 最悪だ! 塔が降ってくるぞォ!! 走れェーーッ!!」

 

 大林大尉の言葉通り、空の彼方から赤熱するレイドアンカーが数基降り注ぐ。

 そのうち数本はどこからか放たれていた迎撃用の弾道ミサイルや近接防空ミサイルで迎撃・空中で爆散したが、それを潜り抜けた1本が、まるで狙ったかのように我々の進行方向真正面に突き刺さる。

 

 土砂を激しく巻き上げ、地面に深く刺さったアンカーの頭頂部、薄紅色の水晶が怪しく光り、巨大生物が転送される。

 

「あの塔を破壊しろッ! 放っておけば、ここが怪物だらけになるぞ!!」

 

 水晶部分から、α型侵略生物が10体、20体と見る見るうちに転送される。

 アンカーの撃破を最優先したいところだが、眼前のα型がそれを許さない。

 

「駄目です隊長! 目の前過ぎる! まずはコイツらを片付けねぇ事には!」

 

「浦田、お前はそのままでいい! 俺が塔を狙撃する! 桜、仙崎、援護しろ!」

 

 大林大尉がG&M-22Sの引き金を引く。

 セミオートマチックのライフルで、ボルトアクション式のようにボルトを手動で操作する必要はないが、1発ごとに引き金を引く必要はある。

 アサルトライフルとスナイパーライフルの中間的存在で、AS型ライフルのD型モデルに相当。

 

 ただしD型モデルよりも基本構造が調整されており、より長射程・高精度・貫通力重視の設計だ。

 設計段階からマークスマンライフルとして製造されてる。

 

 大林大尉の持つそのG&Mライフルから、8.82mmEDF弾が放たれ転送装置に傷をつける。

 2発、3発と、立て続けに叩き込むが、決定打には遠い。

 時間を駆ければ落とせるだろうが、その間にも転送の二波三波が起動すれば、迂回も視野に入れるべきか。

 

「──そのまま、怪物を押さえていてくれ! 各員、砲撃ッ!!」

 

 柳大尉の声だった。

 声と同時に、ガリオン軽量機関砲やN型ハンドキャノンの砲声が轟き、彼らの集中砲撃によって転送装置が破壊され、アンカーは衝撃で自壊した。

 

「おお、やったぜ!」

 

「ストーム3じゃん! 助かるぅ~!」

 

「おいしい所を持っていかれたね」

 

 浦田、桜、二ノ宮中尉が柳大尉以下フェンサー3名の戦線合流を歓迎する。

 

「遅くなって済まない。装備を整えるのに時間がかかってしまった」

 

「それはいい。状況はどのくらい知っている?」

 

「先ほどストーム2──保坂少佐とすれ違ったときに、簡単には。彼も本部から直接の命令は受けていないようだったけど」

 

「では朗報だ。ストーム4経由で本部の命令を受領した。我々の任務は、一刻も早い四つ足の撃破だ。事前に決めた作戦はもはやほとんど機能しない。それでもやり遂げなくてはならない」

 

「了解しました。まずはそのために、格納庫へ向かっている訳ですね」

 

「そういう事だ。ところであのうさん臭い男はどこへ行った?」

 

「保坂少佐ですか? 彼なら陸軍の方の格納庫へ向かいました。車輛を取ってくるとかなんとか」

 

「ふん、相変わらず自由な男だ。まあいい。兵装の方は何か聞いていないか?」

 

「茨城少佐にも先ほどすれ違いまして、対要塞用に説明した兵装は、あとで必ず用意する、と。問題は、それを状況が許すかどうかですけど……」

 

「許すも許さないも、その状況をどうにかするのが我々だ。あまり期待はしないが、要塞攻略の成否に大きく影響する要素なのは見過ごせん。ただ、今は一刻も早く奴の足元に出向いて、少なくともその進行を食い止める必要がある」

 

 大林大尉と柳大尉が会話する中、我々が外に出て三度目のプラズマ砲弾が上空から落下する。

 

「まずい! 近いぞ!」

 

「おのれ……格納庫はもう間もなくだと言うのに!!」

 

「レンジャー、ウイングダイバーは伏せるんだ! ストーム3総員! 彼らの盾になるぞ!」

 

「柳! オレ盾持ってないんだが!!」

 

「フェンサーのアーマーなら、多少は大丈夫だ!」

 

「ちくしょう! アーマーを信じるしかないのかよ!!」

 

 御子柴少尉のその言葉を最後に、我々の至近にプラズマ砲弾が着弾する。

 私や他のレンジャー、ウイングダイバーは伏せ、フェンサーは盾を構えて飛散する瓦礫や衝撃波から身を守る。

 

「全員無事か!? ストーム3感謝する! 行くぞ!」

 

「前方! アンカーを確認! 怪物が来るぞ!!」

 

 青白いプラズマ炎の熱を浴びながら、衝撃波が通り過ぎたタイミングで瞬時に起き上がり、駆け出しながら進むと、軍曹の声の通り、噴煙の先に不気味に光るもう一基のアンカーが見えた。

 

 周辺にはもうかなりの巨大生物が転送されており、種類もα型、β型、γ型まで一通り揃っている。

 左右を空襲するガンシップに追われ、正面を巨大生物……こちらから進んでいるとはいえ、包囲された状況に等しい。

 背後からはガンシップに加え、先ほど転送された巨大生物の残党もまだ追ってきている。

 

「御子柴! 先行して害虫駆除! 栗宮、神谷、ハンドキャノンで砲撃! 僕も前に出て、ガリオンを掃射する!」

 

「白石、クローズレーザーで狙撃照射! 仁科はイクシオンで弾幕を張れ、瀬川、私と突っ込むぞ! ここを突破する!」

 

「ストーム1各員! 俺たちは航空戦力を叩く! 目障りな猛禽を叩き落せ!!」

 

「背後は俺たちに任せろ! お前たち、ストーム隊の背中を守るぞ!!」

 

 柳大尉、冷泉大尉、大林大尉、そして荒瀬軍曹がそれぞれ部下たちに指示を飛ばし、各員が行動を開始する。

 完璧な連携と役割分担だった。

 即興であろうと各々の強みを最大限発揮する連携、これを瞬時に構築できることがEDF歩兵隊の強みであり、その中でも特に優れたと判断された我々が選ばれた理由だろう。

 

 と、感慨にふけりつつ私も自分の役割を全うしようと思ったのだが、

 

『あー、ストーム隊とレンジャー2くん、それ以上前に出ない方がいいよ? 今、呼んだからさ』

 

 気の抜けるようなその声のすぐあと、上空を切り裂く飛翔音が聞こえた。

 

 次の瞬間、眼前は連続する猛爆撃に包まれ、アンカーの水晶部分にも寸分狂わない爆撃がヒットし、アンカーは崩壊。周囲の怪物どもは、さらにそのあとに続く機銃掃射により、大半が無残な姿になった。

 

『こちらカロン、厄介な塔はこれで全部か?』

 

『こちらカムイ! 歩兵隊、無事か!? 要請はそこのエアレイダーの指示通りだ! 流れ弾に当たってても恨むんじゃねぇぞ!』

 

 EDF戦術爆撃機、EB-22K”カロン”のスマート爆弾により、レイドアンカーが崩壊し、

 EDF戦闘爆撃機(マルチロール)KM-6E”カムイ”三機の、薙ぎ払うような機銃掃射の雨で周辺の巨大生物は殆ど穴だらけになっていた。

 

 しかし、相変わらず無茶な航空支援をする。

 カムイのパイロットが危惧するようなことは起きなかったが、危うく巻き込まれるところだったぞ。

 

『プレアデスより両チーム、完璧な仕事だ。感謝するよ。しかし、残ったガンシップが厄介だね。──鏑木』

 

「──了解」

 

 通信越しの声と同時に、保坂の乗っているであろうグレイプが顔を出した。

 グレイプの上部から鏑木が顔を出し、何かの狙撃銃でガンシップを次々と叩き落す。

 残る敵は僅かだ。

 

「プレアデス! 状況は聞いているか!」

 

 グレイプで侵入してきた保坂少佐に対し、大林大尉が短距離通信を送る。

 グレイプはそのまま未だ青白く炎上する滑走路の方に先行した。

 

 大林大尉がそのグレイプを見送って続ける。

 

「我々は現在B5滑走路へ向かっている。生憎と詳しい話をしている余裕はないが、向かった先が同じだとすると説明は不要だな?」

 

「時間が無いのは同意だね。僕たちは滑走路の地下で待機しているパイロットたちと合流を目指してる。君たちがここまで来ていたのは僥倖だ。それよりも、基地の方でルアルディ中尉を捕まえてね」

 

「はい! 説明の時間が惜しかったので同行しました!」

 

 なんと! 

 去り行くグレイプの上部から、ルアルディ中尉がひょっこっと顔を出し手を振っているではないか!

 鏑木とやらに煩わしげに押されて下に引っ込められたが!

 

「中尉、要点押さえて説明して~」

 

「はっ、はい! えぇーととりあえず四足要塞のいる周辺地形と地下施設を照合し、車輛移動が可能で奇襲に使えそうな地点を割り出しました! 作戦の肝は要塞のいる地点によりますが、現在は大阪港湾部へ移動しているため予測は困難です! まず要塞の足止めをする必要があるかと! 現在陸軍第16歩兵大隊および、海軍水上打撃群が侵攻阻止を行っていますが、大阪湾へ入水するのは時間の問題と思われます!」

 

 説明の間、我々歩兵部隊もB5滑走路とやらへ辿り着いた。

 保坂少佐が生き残っていた滑走路要員やパイロットとのやり取りを終え、すでに滑走路上に三機のノーブルが上がってきていた。

 滑走路は崩壊しているが、垂直離着陸機であるノーブルならば問題はない。

 

「エンジン始動は完了している! すぐに飛び立つぞ! 行け! 行け!」

 

 滑走路要員が叫び、我々は急ぎ足で雪崩れるように巨大なコンテナへと駆け出す。

 その局面で、二ノ宮中尉が背後を振り返り、目を細める。

 

「……まずいね、後ろからまたガンシップが追っかけてる。素直には行かせてくれないらしい。困ったね」

 

「ちっ、しつこい野郎だな! 飛び立つ前に落とされるなんて冗談じゃねぇぞ!」

 

 浦田の悪態を荒瀬軍曹が受け取り、背中を押す。

 

「基地には俺たちが残る! 気にせず行け!」

 

「そういう事だストームチーム。ガンシップを近づけさせやしない」

 

「マジで四人だけで残る気かよ! 基地から援軍は来ねぇのか!?」

 

「散発的な対空戦闘は行われていますが、付近にいるのは自分たちだけです!」

 

 軍曹の部下たちがやり取りする。その中を感謝して通り抜けようとする中、

 

『あー、仙崎君。聞こえる?』

 

 保坂少佐の秘匿通信が耳を打つ。

 

「何の真似ですか、この忙しい時に──」

 

『その通り。忙しいから手短に。僕の権限で使える部隊に、要塞攻略に向かうよう指示を出しておいた。博士の話していた追加装備も必ずそっちに送るから、それまで作戦は予定通りに。彼らには仙崎君に従う様に言っておいたから、上手く役立ててくれ』

 

「な!? 何のつもりだ! 作戦上重要な指示は大林大尉に──」

 

『君がこの中で最も信頼出来るからだよ、仙崎誠くん。まあ大林大尉にはうまいこと言っておいてくれ。大尉も察しが悪い人間じゃないだろうし、その辺口が回る君は得意だろ?』

 

「勝手なことを言うな! 私の立場は──き、切りおったか……!」

 

 なんという身勝手極まる主張!

 この混乱に乗じおって! 不愉快極まりない!!

 しかし本人に抗議する余裕はなく、私から秘匿通信を繋げる権限はない。

 

 装甲しているうちに先行していた軍曹を追い抜き、我々はついにノーブル下部のコンテナへと乗り込んだ。

 中は簡易的な兵員輸送用の装備が施されている。

 我々の搭乗を確認次第、ノーブルがエンジンを強めて離陸体勢に入った。

 

 他のストームチームも乗り込んだか確認するが、

 

「プレアデス! どうした! 早く乗らないか!」

 

「作戦変更だ大林くん。そもそも、まだガードポストを含む、茨城少佐の言った装備が用意できていないし、歩行要塞攻略に僕が役立てそうなことはないからね。まあいろいろと準備が整ったら後から向かうよ。それまではまあ、軍曹と協力して君たちを安全に送り出すさ。ああ、護衛のカムイも付けるからサ。ま、向こうで合おうか!」

 

 そう、、呑気に手を振ると、我々の視界からはすぐに消えた。

 ハッチが閉じられ、ノーブルが離陸したのだ。

 

「あの小僧、勝手な真似を……」

 

 大林大尉が小声でそう恨み言を吐いたのを見る限り、想定外に想定外を重ねた事態だったのは間違いない。

 私はそれ以上の身勝手を重ねられたのだが、さて……どうしたものか。

 

────

 

「……しかし、なんとか四つ足の下へ飛び立つことは出来たか……」

 

「一旦羽を休められそうでひとまず安心ね」

 

 無事の離陸と飛行形態への移行が行われたことで、戦闘の緊張から一時的に開放され、私と瀬川は一息ついた。

 他の皆も同様だ。

 保坂の言う事をどう解釈したものかと考えあぐねていたが、

 

「安心するな。ノーブルの飛行速度なら、大阪の四つ足まではすぐだ。気を緩めている暇はないぞ!」

 

「冷泉大尉の言う通りだ。四つ足到達までに作戦を練り直す必要がある。奴の上部には巨大プラズマ砲のほか、対空レーザー砲も四基搭載されている。周囲のガンシップも侮れん。まだ無事に辿り着けると決まったわけではないことも忘れるな」

 

 気を抜いていた我々に、冷泉大尉と大林大尉の喝が入り、まだ戦場の只中だという事に気づかされる。

 

 現在、このノーブルに接続されている兵員輸送コンテナには我々ストーム1の六名と、ストーム4の四名、合計十名の兵員が搭乗している。

 ストーム3,フェンサー四名は装備重量が我々と比較し圧倒的に重いので、別のノーブルだ。

 残る一機はストーム2の足として、まだ基地に残っている。

 

 そして冷泉大尉の言う通り、ノーブルの飛行速度なら、到達まで20分もかからないだろう。

 もちろん、一刻も早く到達する必要があるのは確かだが、如何にして要塞を撃破するか、当初の作戦とは何もかも変わってしまった。

 

 だが──

 

「少々、よろしいでしょうか」

 

 挙手する。

 事は一刻を争うのだ。今更じっくり頭を悩ませている余裕はない。

 こういう時は、出たとこ勝負と相場は決まっている。

 

「む、仙崎か。なんだ?」

 

「作戦ですが、現状の状況は、まだ当初の作戦のまま継続可能であると判断します」

 

「理由は?」

 

「実は離陸前、保坂少佐とすれ違った際に声を掛けられまして。曰く、追加装備の射出を行う手はずは整えるので、事前の作戦を前提にして構わない、周辺戦線からの応援部隊も動かせる限り、順次到着するよう調整している、と」

 

 少々ニュアンスが違う気がするが、この際もう奴を信用するほかあるまい。

 

「……そうか。念のために聞くが、信用して、構わないな?」

 

 う……大林大尉の鋭い目つきが私を射抜く。

 保坂め、恨むぞ。

 

「……通信状態は相変わらず悪いようだ。わざととは思いたくないが、もう保坂少佐とは繋がらない」

 

 念のため通信を試みた冷泉大尉が結果を話す。

 予想通りというか、我々歩兵部隊の持つ通信機の出力では、この不安定な通信状況の中では繋がらないだろう。

 仮に繋がったとしても、保坂なら涼しい顔で無線をシャットアウトしそうなのが恐ろしい所ではあるが。

 

 ──それでも。

 

「保坂少佐も、EDFの一員です。どんな意図があろうと、我々を危険にさらすような進言はしないと思われます。少佐もストームチームの一員ですから、私は、彼の考えを支持します」

 

 これは本心だ。何を企んでいようと、少なくとも奴はフォーリナーを撃退するまでは敵に回ることはない。

 そう考えている。

 大林大尉が奴についてどれほどの情報を持っているのか判断しかねるが……。

 

「ふん。気に食わんが、まあいいだろう。冷泉大尉も異論はないか?」

 

「もともと、戦場への装備投射はエアレイダーの管轄だ。奴の職務を全うするというだけの話だろう。不満はない」

 

『──私も、異論はありません。もともと、茨城少佐もブリーフィングで言っていた追加装備は送り届けると約束していました。保坂少佐と連携するのは想定の範囲内です』

 

 すでに通信を行っていた柳大尉も同意する。

 その指揮官級に情報を共有しきれず私にのみ伝えたのがやや不自然感の残るところだが、まあ誤魔化しきれるだろう。

 

「よし。ではその前提で行くぞ。まず状況だが、我々はエアレイダーと切り離されたことにより長距離高出力通信が不能となった。そのため本部との通信再開は目途が立たない。要するに、現在の四つ足の位置情報は目視で確認することとなる」

 

 フォーリナーとの戦争は長距離通信が頻繁にダウンするので厄介だ。

 特に、航空管制もなく緊急飛行しているノーブルのパイロットは気が気ではないだろう。

 

 そうノーブルの事を考えた直後だった。機体が激しく揺れた。

 同時に、パイロットからの機内通信が流れる。

 

『ポーター62より搭乗中の歩兵部隊! 現在大阪港湾部まで42kmを飛行中! 暫定目標到達まで残り10分を切る! だがたった今、付近を飛行中のガンシップ群に捕捉され、護衛のKM-6が交戦状態に入った! これより当機は海面を匍匐飛行に入る! 揺れに注意してくれ!!』

 

 ぐん、と高度が下がる感覚がある。

 ガンシップとの交戦域から離れると同時に、接近に備えて要塞の対空レーザー砲撃から身を隠す意味もある。

 

「──ッ! 時間はないな! ポーター62! 大阪港湾部へ侵入したら、要塞の砲撃に巻き込まれる前に我々を下ろしてくれ! 着陸場所はそちらの判断に任せる!」

 

『了解! 出発前に確認できたフライト情報じゃ、奴はすでに大阪港湾部へ侵入していると聞いた! 奴の姿が発見できなかった場合はどうする!?』

 

「大阪湾に巨大な波は立っていないか!? 波が発生していなければ、まだ奴は入水していないという事だ! 飛行能力や水上航行能力があった場合は別だが、そこまでトンデモ兵器ならば前提から考え直す必要がある!」

 

『……! 了解! 海面を警戒します!』

 

「──聞いての通りだ! 作戦は、奴がまだ大阪港湾部に残っている前提で実行する。出来れば四つ足に可能な限り接近したいが、四つ足各所に設置された各レーザー砲に機体を撃ち抜かれては元も子もない。よって陸路からの接近を考える」

 

 照射を受けるのがノーブルか我々個人かの差に過ぎないが、フォーリナー兵器はすべからく巨大で、それゆえの弊害か個人の命中率は極端に低い。

 この作戦が歩兵中心の編成に落ち着いた要因の一つでもある。

 

 しかもコンテナの空中投下は出来ない。我々が無傷では済まなくなる故だ。

 よって速やかに着陸し、離陸できる時間が必要だ。当然、レーザー砲が降り注ぐ距離ではノーブルの帰還も無事では済むまい。

 

 加えて、周囲のシールドベアラーの問題もある。

 速度のあるノーブルが防御スクリーンに衝突すれば、機体は持つまい。

 ゆえに、かなり陸路での侵攻を前提とせねばなるまい。

 

「プレアデスがいつ合流するか読めないところはあるが、作戦は基本的に追加装備を前提とする。……ただ、それを待って作戦開始を遅らせることは出来ない。戦力の到着もだ。つまり、本作戦は我々のみで四つ足下部への突入を実行し、追加装備や戦力到着を以って柔軟に対応していくものとする。……つまりは、いつもの”出たとこ勝負”という訳だ」

 

 大林大尉が、珍しく口元を歪めて楽しそうに宣う。

 EDF将兵らしい、好戦的な顔つきだ。

 

「ふ、やはり私が言った通り電撃作戦になったな。足並みが揃わない問題はどうする? 馬鹿正直に突撃しては、レンジャーが離される一方だと思うが」

 

『それに関しては、どうだろう。我々も進行速度を一定に抑えつつ、周辺の敵勢力を削りつつ進軍するというのは。どのみち、敵の戦力を殆ど削らない状態での要塞直下の戦いは避けたい。突入の前に、要塞砲台の破壊もやっておいた方がいいだろう』

 

「賛成だ。だが遅すぎると周辺敵戦力に包囲され、進軍が困難になる。この作戦、我々の移動速度が鍵だ」

 

「加えて、要塞が我々に注意を割かなければ入水されて終わりだ。足並みを揃えつつ、作戦遂行は迅速に行う必要があるぞ」

 

『加えて、追加で投入される予定のストーム2、追加装備、それに援軍の到着にも合わせなければならない。……我々各小隊や、乱戦状況によっては隊員一人一人の高度かつ柔軟な判断が要求される。本部と通信が繋がらない状況ならばなおさらだ』

 

「追加で投入される兵器の使い方にも問題はあるな……、慣熟する間もなく、ぶっつけ本番で実戦だ。いつも以上に状況の組み立てに予想がつかない」

 

「なに、それも含めて我々がストームチームとして選抜されたのだろう」

 

『過酷な戦況下での柔軟性……それこそが、このフォーリナー戦争で求められる能力なのかも知れませんね』

 

「纏まったな。──よし! 貴様ら聞いていたか! 以上がこの作戦の概要とする! 今まで以上に各自の判断が戦況を左右する高度な戦いだ! だが私は、貴様らにその能力が備わっているものと考える! いいか!? 作戦目標は、フォーリナーの四つ足──四足歩行要塞の撃破! それを達成できればいかなる要素も許容する! 各自、己が使えるものを全て使って任務を達成しろ! いいな!?」

 

「「サー! イエッサー!!」」

 

『ポーター62より搭乗中の隊員へ! まもなく港湾部に侵入する! 各員、作戦展開に備えよ! 繰り返す、各自作戦展開に備えよ!!』

 

 輸送機ノーブルに接続されたコンテナの振動が激しくなる。

 降下に備え、減速している証拠だ。

 

『──まずい!! 歩行要塞視認!! 対空レーザーに捕捉された!!』

 

 我々から外の様子は見えない。

 だがコクピットからの通信が鳴り響く警報音を響かせ、激しく揺れる機体が外の様子を想像させる。

 

「くそッ! 皆掴まれッ!! ポーター62! 直ちに空域から離脱しろ!!」

 

『翼とエンジンを一基やられた! だがまだ飛行可能だ! 付近に展開中のレンジャー部隊も発見! 搭乗中の隊員は覚悟を決めろ! 不時着するぞ──ッ!!』

 

「総員! 対ショック姿勢!! 心配するな、我々のアーマースーツは衝撃には強い! 真っ逆さまの墜落ではない限りはな!!」

 

「ウイングダイバー各員はユニットの損傷に備えろ!! 体を出来るだけ低い位置で、ポールから絶対に手を離すなッ!!」

 

 二人の隊長の声に無我夢中で返事を叫びながら、落下の恐怖と襲い来る衝撃に身を構える。

 どうかコンテナへの直撃をしませんようにと祈りながら、目だけは閉じずに周囲を観測する。

 無数の衝撃ののち、急速に落下の気配を感じ、そこで凄まじい衝撃。

 堪え切れず、コンテナの天井に打ち付けられたのち、一瞬の静寂。

 

「──ッ! 地上に、ついたか……!」

 

 絞り出すようにして声を出す。

 意識は、ある、飛んではいないようだ。

 手足も動く、だが落下の衝撃を殺しきれず、少し眩暈があった。

 そうして即座の行動が出来なかった我々に代わり、コンテナを抉じ開ける音がする。

 

 あわや巨大生物かと、銃を握りそうになったが、

 

「──生きているか! 墜落の衝撃で、燃料が漏れている! すぐに脱出しろォーー!!」

 

 ぐしゃぐしゃに歪んだコンテナに入ってきたのは、味方のEDF歩兵部隊。

 アーマースーツを着用していない、EDF野戦歩兵部隊だった。

 

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