全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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実際の軍事基地って、中に何入ってるんだろう。
調べても良く分からんので、想像で書きました!
変なとこあったら教えてください。




第十二話 分隊の二人の軍曹

――2023年1月16日 EDF極東方面第11軍司令本部基地 B棟五階――

 

「とりあえず、お前アレだ、流石にブランクあんだろ。グラウンドが空いてっから、そうだな……新垣、お前コイツグラウンドに連れてってやれ。一緒に走り込みだ」

 

 大林中尉から一通りの説明を受けた後、鷲田少尉からそう言われ、私と新垣は地上まで来ていた。

 うっすらと雪が降っていて、歩兵格納庫にあった防寒ジャケットを羽織っている。

 

「しかし、歩いて移動すると実感が沸くが、本当に大きな基地だな……」

 中隊長室のある五階から「ウォーミングアップですぞ! ぬおおおおお!」と意気込む新垣に続いて階段で移動。

 更に外に出て格納庫エリアから訓練施設エリアまでの距離はそこそこある。

 

「でしょでしょ~! なんてったってここは極東最大の陸海空統合軍基地だからね! ていうかここより大規模なのってもう南極総司令部とかくらいのもんだしね!」

「で、なんで貴様が付いてくるのだ……」

 楽しそうにピョンピョン跳ねているのは結城桜。

 なぜか地下から付きまとわれている。

 

「え? だってランニングやんでしょ? 私も自主トレする気だったし! そだ! ここからスズ軍曹のとこまで競争ね! 負けたらゲロマズドリンク一気飲みの刑! ゴー!」

「わはは! これは負けられませんね! ではお先に!」

 あっという間に二人は駆け抜け、意味不明の余り取り残される。

 

「は!? スズ軍曹って誰だ!? ゲロマズドリンクってなんだ!? ええいなんなのだ貴様らはぁぁーー!!」

 やけくそになって走り出すが、その差はもう歴然!

 

 二人の後をかろうじて追うと、そこにはやたら目つきの悪い女ヤンキー……ではなく女兵士が立っていた。

 

「おっせェ。死ぬほど遅ェ! テメェそれでも野郎か、ああン? こんなちんちくりんに足で負けてどォすんだコラ! キンタマ付いてんのかゴルァ!」

「ファーー!?」

 もう何回目か知らんが、なんなのだこの女!?

 理不尽過ぎる因縁を付けられた上に、私の股間目掛けて鋭い蹴りを放ってきた!

 だがそこは私、難なく回避。

 

「お?」

 蹴りが空を切り、不思議そうな顔をする。

 

「い、いきなり何をする! ……のですか軍曹殿。私で無ければ悶絶していたところですよ」

 危ない危ない。

 先の桜の言葉を思い出して、彼女がスズ軍曹とやらに違いないと思い、敬語を使った。

 果たして合っているのか?

 彼女は行きが降り注ぐこの季節で、大きな胸元を強調するようなタンクトップ姿だったので、階級章が確認できない。

 

「ちっ、なんだよつまんねぇ。そのままタメ口だったら軽くヤキ入れてやろうかと思ったのによ」

 心底残念そうに小石を蹴り上げる。

 

「ぬぁははは! 何のつもりか知りませんが、その動きでは私に一太刀入れる事叶わぬと言っておきましょう!」

 理不尽な因縁に少し腹を立てた私は、一矢報いてやろうと軽く挑発してみる。

 

「あ゛?」

 ブツン、と何かが切れた音がしたような気がした。

 

「な、何をおっしゃる仙崎殿ぉー!」

「さすがにまずいってまことん! すぐ謝った方が――」

 

「謝っても遅ェ!!」

 割と本気で止めようとする二人などお構いなしに、未だ本名の分からぬスズ軍曹とやらが空気を切り裂く速度で、蹴りを私の顔面に向けて放つ。

 足を動かすまでも無い。

 首をかしげるような動きで回避。

 

「な――なんだテメェ!? ナメやがってェェ!!」

 彼女、かなり格闘の心得があると見た。

 流れるような連撃、かつ人間の急所を的確に狙い、鋭く重い一撃を放ってくる。

 しかし哀れ、相手が私であればその全てが丸きり意味を成さない。

 

 自身に危害が加わる物体の動きを見れば、だいたい軌道を予測して最小限の動きで回避できる。

 凄い事かも知れないが、私にとっては当然の事だ。

 なぜなら、この程度の外部からの攻撃、回避出来なければとうの昔に死んでいるからだ。

 

 しかし、これはこれでリハビリに丁度いい。

 病院内でも、古いベッドの巨大なささくれに刺されそうになったり、トイレが詰まってウンコが逆流しそうになったり、病院食にハエが次々止まりそうになったり、頭上の蛍光灯が落下してきたり、と言ったアクシデントに見舞われたが、まあ私にしては大方平和に過ごしていた。

 

 なのでこんな殺気の溢れ出した存在と相対する事は、これから戦場に赴くウォーミングアップとしてはちょうどいい。

 

 そんなことを考えながら攻撃を捌いていたら、いつの間にか終わっていた。

 

「だァーーー! 分かったよ! 降参だ! アタシの負けだよ!」

 かすりもしない攻撃が無駄だと悟り、四肢を地面に投げ出した。

 よほど体力を使ったのだろう。

 そしていつの間にか周りを囲んでいたギャラリーが歓声を上げる。

 見世物になっていたようだ。

 

「ぬぁははは! いいリハビリになりました! 手合わせ感謝いたします!」

「何が手合わせだってんだよ! そっちからは全然打って来てねぇじゃねぇかこの!」

 立ち上がった彼女は、先程とは一転、爽やかな笑顔で、そして少し悔しそうに言った。

 

「打つのは少々苦手でしてね。それに、女性に手を上げるなど、紳士的では無いですから」

「はっ、ほざきやがる。いいな、オメェ気に入ったぜ。一応確認すっけど、オメェが新入りの仙崎って野郎でいいんだよな?」

 私の発言を戯言と受け取ったのか、軽く受け流し本題に入る。

 

「はっ! 仙崎誠伍長、本日付けで第88レンジャー中隊レンジャー2-1へ配属となりました!」

「あァー、そういうのは良いんだよ堅っ苦しい」

 両足を揃え、我ながら決まった敬礼をすると、彼女は鬱陶しそうにした。

 見た目通り、堅苦しいのは好みではないらしい。

 

「アタシは鈴城涼子。察しの通りオメェの上官で軍曹だ。荒瀬の野郎から腕は確かたァ聞いてっけど、実際に役立つまでアタシは信用しねェからな! 別に負け惜しみじゃねェぞ!!」

 

「(負け惜しみだね~)」

「(負け惜しみではないか……)」

「負け惜しみですな」

 

「新垣テメェぶっ殺すぞオラァ!」

「ご褒美!」

 風のような回し蹴りが新垣の顔面にヒットした!

 巨体が宙に浮き、雪の上に墜落する。

 

「凄い音したね~」

「ていうか今彼”ご褒美”と言ってなかったか?」

 日常なのか、結城桜は特に気にした様子も無く、鈴城軍曹は「手応え合ってスッキリしたぜ。もっと殴っかな」と物騒なことを言う始末。

 

 なので私が手を貸そうと近寄ると、

「だぁーっはっは! 心地よい一撃! さて、ではそろそろ走り込みと行きましょうか。元々、俺達はその為に来たのですから」

 何食わぬ顔で……いや違うか、なぜか爆笑しながら立ち上がっていた。

 どうやら打たれ慣れている、という限度を通り越して耐久力があるらしい。

 

「なんだ殴られに来た訳じゃねぇのか……。ま、そういう事なら鍛えてやんよ。分隊のフィジカル面は、一応アタシが管理する事になってっかんな。あァ、仙崎、オメェはほどほどにしろな? 明後日からアタシらは戦場入りすんだ。筋肉痛で動けねぇなんて冗談聞いたら即ぶっ殺すかんな。いや……オメェの場合はこっちが骨折れそうだな……。ああメンドくせェ! オメェメンドくせぇな!」

 

 ”ぶっ殺す”という脅しが通用しない事を悟ったのか、イライラして地団太を踏んでいる。

 衝撃で周囲の雪が吹き飛んでいるそれは、多分地団太を超えた何かだが。

 

「スズ軍曹~。それじゃ地面がかわいそうです」

「あン? どォいう理屈だそりゃ……。まァいいや。とりあえずオメェらアタシに付いて来い! 行くぜ!!」

 

「わ~い! かけっこだぁ~!」

「だぁーっはっは! 負けませんぞぉー!」

「ぬぁははは! 勘を取り戻すとしよう!」

 

 

――夕方・兵舎棟3階・休憩所――

 

 

「で、結局30周ぐらいはやった訳か。病み上がりにしちゃやるじゃねぇか」

 硬いソファーに座ってこう言うのは久々に会って話す馬場だ。

 

 あの後、汗を流しに我々はシャワーを浴び、その隣の休憩所で結城桜を待っていた所、ちょうど荒瀬軍曹の隊、レンジャー2-2の面々に出会った為歓談に勤しんでいた。

 

「入院中もリハビリとして後半の方は走り込みなどして居たのでな。さすがにその程度で音を上げるほど軟ではないさ」

「ま、そりゃそうだろうけどよ。しかし、戻って2日で戦線復帰とか、大将もまったくツイてねぇよな!」

 

「ツイてないのは今に始まった事ではないが。しかしその呼び方はどうにもならんのか?」

 出会って早々「よぉ大将!」と言われて困惑したものだ。

 

「まあそう萎縮するな仙崎。実際お前はそう呼ばれるに値する働きを見せていた。俺の分隊に来てくれなかったのが残念なくらいだ」

 と話すのは荒瀬軍曹。

 ちなみにあの戦いの後皆重傷だったが、私より退院は早かったようだ。

 そして片足を失った梶川大尉は、現在疑似生体の移植手術が終わり、リハビリ中との事だ。

 

 疑似生体とは、義手・義足を進化させた技術の事で、人工的に培養した手足等の部位の事で、これを繋げることで、戦闘に支障が無い程の動きが可能になる。

 近年この技術が一般的になり始めていたので、巨大生物と戦い手足を失った兵士や民間人の多くが世話になっているという。

 

 それも含めて、EDFの医療技術の更なる向上が求められている、との記事を新聞で読んだ。

 鎮痛治癒剤の進化がその最たるものだろう。

 私を含め、多くの兵士がこの治癒剤のお陰で命を繋いだが、過剰投与により死亡したり長い治療期間を取られたものもまた数多く居たらしい。

 

 その為、連続投与によって体に与える負担を減らしたり、効果を強めたりする研究が日々なされているようだ。

 

「おまたせ~。あ、軍曹ズさん達だ。やっほ~」

 シャワーを浴び終わった結城桜が合流したようだ。

 ちなみにEDFはウイングダイバーの他、女性兵士がかなり多いのでしっかり男女別になっている。

 

「桜か。しかしお前こそ、その呼び方はなんとかならないのか? いや確かに、俺は軍曹だし間違ってはいないのだが……」

「え~? だって軍曹ズさん達、いつも一緒に居ますし、それに軍曹は凄く軍曹っぽいんですもん。もうEDFで軍曹って言ったらそれは軍曹しかいない、くらいにです」

 

「お前、言葉が軍曹ばっかりで何が言いたいのか全く分からないぞ……」

 と、荒瀬軍曹は呆れ顔になるが、

 

「ああ、すげぇ分かるぜ」

 と馬場、

 

「確かにそうだな」

 と青木、

 

「分かります!」

 と千島、

 

「その通りですな!」

 と新垣、

 

「激しく同意する」

 そして私と、この場に居る全員が理解を示したのだった。

 

「お前達!? 妙な所でチームワークを発揮するな! 俺以外にも軍曹なんてたくさんいるだろう。……いや待て。榊の奴が頑なに俺の事を軍曹と呼びたがるのは、まさかそういう事なのか……? 今度問いただしてみるか」

 何か気になる事でもあったようで、軍曹は考え込んでしまった。

 

「やあ。見知ったのが騒いでると思ったら、一人新顔が混じってるじゃないか。キミが噂の仙崎クンかい?」

 火のついた煙草を加えながら、短髪の女性が通りかかった。

 

「アネゴ大正解! 彼が何を隠そう、噂のまことんクンです! まことんと呼んでくださいと言っておりました!」

「そうかい。遠慮させてもらうよ」

「言ってません!! 結城桜! 妄言を垂れ流すのでない!!」

 初対面でなんと紛らわしい事を言うのかこの女は!

 

「はは、愉快で何より。ボクは二ノ宮沙月軍曹だ。同じ分隊だから、キミの上官だね。よろしく」

「はっ! 私は仙崎誠伍長であります! 本日付けで第88レンジャー中隊レンジャー2-1分隊に配属となりました! よろしくお願いします!」

 我ながらビシっと決まった敬礼をするが、

 

「おぉ……、なんか初々しいね。戦場以外でそんな気張る必要もないだろうに。肩の力、抜いたほうがいいよ」

 なんとすれ違いざまに私の背後に回り、一瞬だけ肩もみをして通り過ぎた。

 なんという早業!?

 

「そしてなんという心地よさ……。貴方はEDFが雇ったマッサージ師か何かでしょうか?」

「はは、ご名答。追加が欲しいなら後でボクの部屋においで。凝りもサイフも、夢のように消してあげよう」

「さ、財布まで消されたのでは堪らんので、謹んでご遠慮しておきましょう」

 何となく、ボーイッシュさと妖艶という凡そ正反対のものが混ざったかのような彼女には、警戒する必要がありそうだ。

 いろんな意味で。

 

「つれないね。ちなみに新垣クンの顔がにこやかなの、ボクのマッサージのお陰って知ってる?」

「知りません! そうなのか新垣!?」

 だとしたらなんという効果!

 

「だぁーっはっは! 違うに決まってますぞ! ひぃーっひっひ……くるしい……!」

「違うではないですか!」

 

「はは、いやぁカレは面白いねぇ」

「その辺にしておけ二ノ宮。あんまりからかい過ぎると、そのうち新垣が腹を痛めて戦線離脱するぞ?」

 

 荒瀬軍曹が見かねて止めに入る。

 というか今からわれていたのは私ではないのか?

 

「カレ、頑丈だから大丈夫だよ。ところで荒瀬クン、ウチの浦田クンを見なかったかい? さっき射撃場で一緒だったろう?」

「ああ浦田なら、”ナンパしに行く”とか言ってウイングダイバーようの格納庫に行ったぞ。何か用だったか?」

 

「ああ。前のポーカーの掛け金をまだ貰ってなかったからね。代わりにパンツをやるとか言ってたけど、そんなモノ渡されてもオナニーの役にしか立たないからねぇ」

「ぶはっ! 本気で言っているのですか二ノ宮軍曹!?」

 思わず飲み物を吹き出しそうになった。

 いや、浦田という男がどんな奴なのか知らないが!

 

「はは、もちろん冗談さ。キミは浦田クンにはもう会ったのかい?」

 冗談なのか……。

 少し話しただけだがこの人、基本冗談しか言わないようだな……。

 

「いえ、まだですが」

「それはちょうどいい。じゃあ今から一緒に行こう。新垣クンと桜も来るかい?」

「では案内も兼ねて、付いて行きましょうぞ」

「う~ん私はいいです。あいつ嫌いなんで」

 お?

 今まで高かった桜のテンションが急に下がったぞ?

 

「はは、じゃあそう言うことにしておこう。カレに会ったら、桜が後で二人っきりで話したがっていたと伝えておくよ」

「うわぁ~! やめてください! マジでやめてください!!」

 去ろうとする二ノ宮に、結城桜が必死にしがみ付く。

 

「冗談さ。可愛い桜に、そんなに酷い事はしないよ。じゃあね」

「待ってください! やっぱ変な事言われるかもしれないんで一緒に行きます!」

 

「おや? そうかい。ボクも信用ないねぇ」

 残念そう、ではなく嬉しそうに笑っている。

 もしや……。

 

「後ろにいるだけですから、ウラスケの相手はアネゴに任せます!」

 嫌いな相手でもどうやら変な渾名は付けるらしい。

 

「構わないよ。じゃあ行こうか」

 そういって歩き出した二ノ宮軍曹は、私の耳に近づき、

 

「作戦成功」

 と小声で言った。

 

 意味を理解した私は、もはや苦笑いするしかない。

 浦田と結城桜を引き合わせた時に起こる化学反応を見せたいらしい。

 

 浦田とかいう男……何者なのだ……。   

 

 




長くなったのでここでやめました。
ホントは分隊全員分書ききりたかったのですが、浦田だけ書ききれず……。
ちなみに荒瀬軍曹の軍曹呼びがしっくり来る、と言うネタは彼のモデルであるEDF5の“ 軍曹”というNPCキャラから来ています。

日常パートというかギャクパートが続いてますが、別に路線変更したわけじゃないんですよ!
シリアスもちゃんとやるからもうちょっと待ってください!

という訳で人物紹介!

鈴城涼子(すずきりょうこ)(27)
 レンジャー2-1分隊所属、軍曹。
 格闘で優れた成績を残した者に与えられる”格闘徽章”の持ち主。
 ちなみに仙崎も過去に持っているが、一度除隊した事で無くなっている。
 男勝りの荒々しい性格で、歯向かえばすぐに暴力に晒される。
 が、桜には余程のことが無いと手を上げなかったり、ちゃんと相手は選んでいる。
 極度の熱がりの為、常に薄着。
 女版鬼軍曹、と言った具合で訓練には厳しいが、意外にも肉体には詳しく、体を壊すような訓練はさせない。

二ノ宮沙月(にのみやさつき)(29)
 同分隊員、軍曹。
 ちなみに軍曹とは本来分隊長相当の階級だが、人員不足とEDFの少数精鋭戦略の影響で分隊員として行動している。
 射撃で優れた成績を残した者に与えられる”射撃徽章”の持ち主。
 同様に仙崎も過去に持っていた事がある。
 ボーイッシュと妖艶さを併せ持つ不思議な女性で、一人称は”ボク”。
 ヘビースモーカーで、酒と賭け事が大好きというオヤジみたいな趣味を持ち、口から出る言葉は冗談が多くの割合を占めているが、皆からは好かれている。
 マッサージが超絶上手い。  
 

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