全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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ぬああ、題名思いつかない!

そして今回少し長めになっております。


第十三話 半年ぶりの再会

――2023年1月6日(10日前) アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア アメリカ陸軍第67歩兵連隊 第二中隊”ブラヴォー3”――

 

 連日の戦闘で、既に廃墟となって久しいフィラデルフィアの市街地で、ブラヴォー3分隊は、各々崩れかけたビルの壁面によりかかり、煙草に火を点ける。

 

 周囲では砲声や銃声がひっきりなしに鳴っており、戦闘中であることが伺える。

 

中隊本部(シックス)より中隊総員(オールハンズ)。作戦は順調に推移中だ。レイドシップのキルゾーンへの誘導が開始された。全隊、引き続き待機しろ。オーヴァー》

《ブラヴォー3了解(ラジャ)。状況に変化があったら教えてくれ。アウト》

 

 中隊本部と分隊長の無線が交わされる。

 

「しかし、俺達はEDFの尻拭いかよ。なんとも気乗りしねぇ任務だぜ。なあオイ」

 分隊の一人が話し始める。

 

「そう言うなよ。スイッチ一つで自動展開し、直上に射撃する自立ロケット砲なんてトンデモ兵器、EDF以外に開発出来る訳ないだろ? しかも威力はあのゴリアスS以上と来た。それに、この作戦が上手くいけば、あの忌々しい”無敵艦隊”を葬れる。いい事じゃないか」

 

 無敵艦隊、とはレイドシップの事だ。

 現在のところ撃墜例はただの一度も無く、皮肉にも無敵と呼ぶに相応しかった。

 

「だから嫌なんだよ。栄光の初撃墜例は、俺達アメリカ陸軍が掴み取るべきなんだ。その為に今まで苦労して血を流してきたんだろうが。それを横から掠め取られて堪るかってんだよ」

 

 各々の手には、大型の対戦車ロケットランチャーが握られている。

 誘導性能は持たない分、威力はお墨付きだ。

 むろん、フォーリナーの超技術を解析し応用しているというEDFの装備と比べれば一段劣るが。

 

 現在ここフィラデルフィアでは、EDFと米陸軍共同で、レイドシップ撃墜作戦を行っている。

 作戦内容はこうだ。

 

 インセクトハイヴが建造されたニューヨークより、連日飛来するレイドシップの内、フィラデルフィアを通過する数隻を砲撃で誘導する。

 レイドシップは、砲撃を受けると進行方向を変える習性が確認されており、世界中に縦横無尽に飛び交っていないのはこの要素が大きい。

 

 そうして誘導するうち一隻が通過する場所に、EDFが開発した自動砲台をあらかじめ設置しておく。

 レイドシップ通過後、更に下部ハッチ展開と同時に砲台を起動し、直下からの砲撃でこれを撃墜する。

 

 そして、その攻撃が失敗した場合、機甲部隊や歩兵によって、投下された巨大生物を徹底的に殲滅し、待機していた米陸軍対戦車部隊が敵転送船に潜り込み、直下から砲撃を行い撃墜する。

 

 転送船は、ハッチ解放の際、高度を100m以下まで下降し、更に解放したハッチ自体が側面からの攻撃を防ぐ盾と化すので、直下以外からの攻撃が不可能になっている。

 更に開放時間は約20秒程度と短く、その僅かな間に100体以上の巨大生物を投下するので、そもそも直下を確保する事が極めて難しい。

 また転送船は複数で行動しており、ランダムなタイミングで巨大生物を投下する為、その場に巨大生物が居ない状況を作り出すのも難しい。

 

 こうした理由から、今までのレイドシップ撃墜作戦は成功した事が無い。

 

 そんな作戦を控え、対戦車部隊ブラヴォー3は、待機しながら雑談を始める。

 

「そう言えば知ってるか? 極東のEDFは巨大生物と格闘戦する為の銃を作ったらしいぜ」

「はぁ? どういう事だ? 銃剣でもつけて突撃するってのか?」

 

「あの空飛ぶヤツ、ウイングダイバーとか言ったか、アレの光学兵器で、名前はレイピア」

「レイピア? カタナじゃないのか?」

 

「なんだよ、ライトセイバーでも作ったってのか奴ら。フゥゥ、そいつはイカスぜ!」

「そんなカッコイイ武器じゃないらしいな。なんかな、50mくらい伸びる短距離レーザーをバラまいて攻撃するらしい。どういう意味か分かるか?」

 

「分からん。でも巨大生物に50mって言ったら至近距離だぞ? そんな銃意味あるのか?」

「さあ。俺も聞いた話だからなんとも。だが銃で接近戦するって発想が日本人らしいよな」

 

「まったくだ! イカレてやがるぜ! 酸だって100mも届かないんだ、人類が持つ唯一のアドバンテージを自分から放してどうするんだっつーの! ま、俺はそんなヤツらのイカレた所が好きだけどな!」

「そういえば日本のフェンサーには、槍で攻撃する部隊が居るらしいな。これはそのうち歩兵もカタナ装備するぞ」

 

「まさにサムライスピリッツだな! フォーリナー技術が入ってから奴らますますクレイジーになって来たな!」

「そういえばバルガとかって巨大ロボも作ってたらしいからな。きっともっとデカいロボを作って、無敵艦隊ひっつかんでブン投げたりするぞ」

「そりゃおっかねぇ! オレ達もスーパーマンでも作る準備をしないとな!」

 

 どうやら巨大生物は聴覚を持たないらしい、という事でHAHAHAと笑う部下達を上官も咎めようとしない。

 そうやって笑い合えるのは今だけなのだから。

 

 

――アメリカ陸軍 第八機甲師団 第301戦車連隊――

 

 

連隊指揮官(グループリード)よりジャガー、ライガー! 左翼のEDF歩兵部隊が押されている! 援護に回れるか!?』

『ジャガー1了解!』

『ライガー1了解! 砲撃します!』

《こちらHQ(ヘッドクォーター)ニューヨーク方面から巨大生物群接近! 総数800!》

 HQ(米軍前線司令部)から通信が入る

 

『中隊規模だ、気にする必要は無い! タイガー、距離を詰め過ぎだ、500下がれ、酸にやられるぞ!』

『タイガー1了解!』

 

 ジャガー中隊はライガー中隊と共に砲撃地点を修正し、EDF歩兵部隊を援護する。

 

『ジャガー1より中隊各車! あのマーケットから立体駐車場までを面制圧! EDFに当てるなよ、撃てぇ!!』

 12輛のM1A3エイブラムスⅡから成る中隊のジャガーとライガー、計24輛が、クラスター砲弾を発射する。

 砲弾は着弾前に子爆弾をバラまき、周辺を爆炎で包んだ。

 

 広範囲を制圧出来るため、巨大生物には非常に有効な兵器だ。

 

『こちらライトニング2、制圧感謝する。だが砲撃誘導が上手く行ってないらしい。ここでの戦闘はもう少しかかりそうだ』

『ライトニング1より2、聞こえるか!? ターゲットへの誘導が中止された! 砲兵陣地周辺に地中侵攻が発生! 砲兵の大半がやられた! 米軍砲兵が誘導を継続しているが直進している! その場所から離れろ!』

『ライトニング2了解! 巨大生物を迎撃しつつ移動する!』

 

 ライトニング2の先には、右方向から砲撃を受け続けるレイドシップが見える。

 このまま左方向に誘導したいのだが、進路が変わっていない。

 このままではEDF工兵が用意したキルゾーンに入らない。

 その上、定期的に巨大生物を投下して辺りを黒く染めていく。

 

『ジャガー1よりHQ! 他のレイドシップとの分断は成功しているのか!?』

《こちらHQ、分断は成功している。どうするつもりだ?》

『なら我々も迂回し、右方向から砲撃を加える! 作戦成功には、何としてもキルゾーンへの誘導が必要だ!』 

《許可できない。砲撃の援護を失ったらEDF歩兵部隊の負担が増える》

『ライトニング2よりHQ! 我々なら問題ありません、EDFの誇りに掛けて、ここは防ぎきって見せます!』

《……了解した。EDF、感謝する。ジャガー1、敵船の側面に回り込め!》

『ジャガー1了解!』

 

 それから暫く、EDFと米軍砲兵隊はレイドシップへ砲撃を継続した。

 

 

――アメリカ陸軍 前線司令部(HQ)――

 

 

「敵船旋回確認! やった、誘導成功です!』

「駄目だ、行き過ぎだ! このままじゃキルゾーンの北側を抜けちまうぞ!」

「キルゾーン修正にはどのぐらいかかる!?」

「進路上に巨大生物群が居ます! 殲滅してから移動では間に合いません!」

「米軍戦車連隊へ、エリアC10-11へ移動し南方向から砲撃を行えるか!?」

『こちら301! 砲弾が足りない! 我々では数回の斉射が限界だ!』

「EDF歩兵部隊より通信! キルゾーンに巨大生物が大挙しています! 工兵の数名が戦死したとの事です!」

『敵船エリアJ6を通過! 誘導失敗! 繰り返す、誘導は失敗した!』

「クソッ!!」

 

 アメリカ陸軍の将校は、机に拳を叩きつけた。

 簡単にいく作戦ではなかったが、こうも上手く行かないとは。

 

「全作戦部隊に通達! プランBに移行。繰り返す、プランBに移行! キルゾーンは放棄し、総力を以て敵船周辺の制圧にかかれ!」

 

 

――二時間後―― 

 

 

 EDFと米軍部隊は投下される巨大生物と戦闘するが、殲滅が追い付かず、戦況はドロ沼化の様相を辿った。

 レイドシップは不規則な軌道を取りながら周囲を迷走し始め、それが腰を構えての迎撃を難しくし、別地域での戦闘から漏れ出した巨大生物群も時折襲い掛かる。

 弾薬の枯渇と補給の隙を縫って部隊が襲われたりすることもあって、なかなか完全殲滅の状況に辿り着けない。

 

 米陸軍の対巨大生物戦術は、ひたすら酸の射程外から銃撃砲撃を叩き込むという単純かつ強力なものだった。

 土地の広さを生かし、十分に後退できるエリアを確保して、近づかれたら後退し一斉射撃で撃破する。

 何よりも酸の射程外から攻撃する事に重点を置いたこの戦術は、兵士の負担も軽くし、ニューヨークから未だ大きく侵略を許していなかった。

 

 それ故、レイドシップ撃墜の際にも、周囲を徹底的に制圧し、安全を確保してから直下から攻撃する作戦が決定していたが、それがこの有様だった。

 

 痺れを切らした両軍司令部は、攻撃ヘリの援護の元対戦車部隊を突撃させることを決定した。

 

 

――ブラヴォー3――

 

 

「HQから攻撃許可が下りた。分隊、用意は良いな!?」

「「sir! yes`sir!」」

 対戦車部隊の兵士は、手にロケットランチャーを握る。

 

「よし今だ突撃!! GOGOGO!!」

「「うおおおぉぉぉぉぉ!!」」

 ビル陰から全ブラヴォーチームが一斉に飛び出し、それを感知した巨大生物群は、あらゆる方向から酸の雨を降らせる。

 

《HQより各部隊へ! 全力でブラヴォーチームを援護しろ!! 航空支援をまわせ!》

 周囲の巨大生物は駆逐されていく。

 やがてレイドシップのハッチが開く。

 

「軍曹! ハッチが!!」

「くそっ! 想定よりも早い! とにかく走るんだ!」

「巨大生物が向かってきます!」

「ぐわッ!?」

 酸にやられて何人かが倒れる。

 大量の巨大生物が投下されたが、まだハッチは開いている。

 そして、ついにブラヴォー3が辿り着いた。

 

「堕ちろ!」

「喰らいやがれ!!」

 分隊員が次々とロケット砲弾を発射し、ついに命中する。

 

「やったぜ! 奴らに一発――ぎゃああぁぁぁ!!」

「く、来るな……、うわあぁぁぁぁ!!」

 攻撃は、軽い損傷を与えるに留まり、ロケット砲を持った兵士は次々と襲われていった。

 

「軍曹! ハッチが閉じます!!」

「巨大生物を殲滅しろ! この場所を確保し――がはッ!!」

 武器をアサルトライフルに切り替え、応戦するも、首をかみ切られてしまう。

 

「軍曹!? 軍曹! たすけて、ぐああぁぁ!!」

 最後に残ったブラヴォー3の兵士は、周囲を巨大生物に囲まれ、成すすべも無く捕食された。

 

 そして、他の分隊も同じような惨状に飲み込まれ、次のハッチ解放を待つことなく、対戦車小隊ブラヴォーチームは全滅の憂き目にあった。

 

 レイドシップ撃墜作戦は、失敗に終わった。

 

 

――2023年1月16日 EDF極東方面第11軍司令本部基地 地下1階 ウイングダイバー用格納庫エリア side:浦田和彦伍長――

 

 

「ふんふ~ん、ふふふ~ん」

 頭に残っていた適当な鼻歌を歌いつつ、オレ、浦田和彦は目的地であるナンパスポットへと辿り着いた。

 ちょうど訓練を終えたウイングダイバー達が戻ってくるはずだ。

 

「お、第一村人発見。ってアイツは……」

 どこかのテレビ番組のようなセリフは置いといて、なかなか難易度の高いヒロインと出会ってしまった。

 

「こんちゃ~っす! こんなトコで会うなんて奇遇だね~」

「……」

「なにしてるの? 良かったら一緒にメシでもどうよ?」

「……」

「オレ今晩暇なんだよね~。二日後の出撃まで時間あるし、なんなら横須賀のいい店紹介するぜ?」

「……邪魔」

「うっは~! ガード硬いなオイ!!」

 

 予想通りの玉砕だ!

 尤もこんなゴリゴリの正攻法で落ちる女なんて、このEDFにはそんなに居ないが!

 

 そんな愛しの彼女の名は白石玲香。

 この格納庫にあることから当然降下翼兵(ウイングダイバー)の一員で、所属はペイルウイング2。

 

 超無口でクールなその言動から、いつの間にやら”アイスドール”なんて呼ばれちゃってるが、そんな姿もまたかわいいよね!

 無表情な彼女に、いつか俺にしか見せない笑顔をさせたいもんだ。

 そう考えると夢が広がるね!

 

 彼女は無表情のまま、オレを通り過ぎて行って、装備していたPEユニットを外す。

 そう、装備を外しているのだ。

 たったそれだけなのになぜかエロく感じてしまう!

 やべぇ、オレ思春期かよ!

 いや関係ない。男なら、この状況に何かを感じるはずだ!

 まったくもって正常である、何もいかがわしいことは無い。

 

 ちなみに名誉の為に言っておくがこのオレ浦田和彦26歳は非童貞である!

 そして初見じゃ絶対信じて貰えないが妻も5歳になる息子もいる!

  

「ちょっとそこの変態! いつまで玲香を視姦してんのよ。いい加減アンタ出入り禁止にしてもらうわよ!」

 玲香ちゃんに見入っていたら、青筋を立てた女が現れた。

 

 彼女は瀬川葵、玲香と同じペイルウイング2の部隊員。

 御覧の通りちょっと口煩くて暴力的なのが玉に瑕だが、からかいやすさとエロ耐性の無さ、そして顔とスタイルの良さはなかなか上玉と言える。

 が、葵ちゃんには(仙崎)が居るので、残念ながらナンパはNGだ。

 からかうのに留めておこう。

 

「玲香も、コイツにガツンと言った方良いわよ? まあ言って聞く相手じゃないけど」

「別にいい。気にしてない」

「本人からの公認キターーー!!」

「まったく相手にされてないってのがなんで分からないのよ……」

 

 呆れながら、葵ちゃんは訓練で使った装備を外そうとする。

 

「む。ちょっと、出ていきなさいよ」

「へ? なんで? いいからとっとと身軽になっちゃいなよ」

「み、見られてるとなんか恥ずかしいじゃないの! いいからとっとと帰りなさいよ!!」

 頬を赤くして照れ始める。

 それこそオレの目的だと気づかずに!

 

「あ~、そういえば葵ちゃんの旦那、今日ウチの隊に来るんだってな」

「えっ、うそ、アイツが!?」

 驚きの余り一瞬キョトンとした表情になる。

 そして一瞬後、オレの罠にハマった事を自覚して顔を真っ赤にする。

 

「はっ? 何!? 旦那とかアンタ何言っちゃってんの!? 誰の事か全っ然分からないんだけど!」

「自分で分かってるでしょ? ほら、名前言っちゃいなよ。葵ちゃんの大好きな男は~?」

 

「言うか馬鹿ぁぁぁぁ!!」

 その言葉と同時に、オレは強い衝撃を受け、床に倒れた。

 何を喰らったのか分からないが、とりあえず葵ちゃんの手痛い反撃を喰らったらしい。

 容赦ないな!

 

「やあ浦田クン。おや、ナンパ失敗かい?」

 ガンガンする頭を押さえながら立ち上がったら、そこには二ノ宮沙月がいた。

 

「げ、二ノ宮沙月……」

「上官をフルネームで呼び捨てとは感心しないねぇ。そうだ、紹介するよ。カレが我がレンジャ2-1の問題児、浦田和彦伍長だ」

 二ノ宮軍曹の言葉で後ろから出てきたのは、一見して余り特徴のなさそうな野郎だった。

 

「彼が……なるほど。ゴホン、私は仙崎誠伍長だ。本日より貴様と同じ分隊員だ。よろしく頼む」

 手を差し出してきたので、握手をする。

 

「よろしく! とは言え、野郎に興味は無いんでね、明日には名前忘れてるかも。っと。忘れるトコだった。あんたの女がそっちで待ってるぜ」

 オレは葵ちゃんの方を指さしたが、いない?

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

「おっと!」

 風が唸るぐらいの正拳突きを葵ちゃんが放って、それを簡単そうに仙崎の野郎が躱した!?

 どうなってんのこの二人!?

 

「危ないではないか! いきなり何をする!」

「躱すな! アタシがどんな思いで待ってたと思ってんのよ! アンタときたらまったく……、突然こ、告白してくるし……、突然倒れるし、簡単に退院できないほどの重傷だっていうし、暫く意識戻ってなくて面会出来ないし、その間噂は広まって浦田を始め色んなヤツに絡まれるし……! ホントっ、アンタ殴らせろぉー!」

 

 葵ちゃんは拳やキックを連打するが、仙崎は難なく躱している。

 ちなみに葵ちゃんはいつの間にかユニットを外して身軽になっていた。

 

「ぬおお! 分かった! 落ち着くのだ! ええい分かった! 一発くらい喰らってやるから落ち着け!」

「えっ、ホント? じゃあ最高のヤツを打ち出すから、そこに立ってなさい」

 コォォォ……、という効果音が聞こえそうな構えを取る葵ちゃん。

 何の格闘技もやってなかったハズだけど、それにしても凄い殺気だ。

 まあオレレベルならあの程度の殺気を受ける事は日常茶飯事だが。

 

「仕方がない。私も漢だ、覚悟しよう」

 キリっと顔を引き締める仙崎。

 む、こうしてみるとなかなかのイケメンじゃないか。

 

「じゃあ行くわよ。うぉりゃあぁぁぁ!!」

 唸る右ストレート。

 凄まじい衝撃音を期待していたギャラリーだが、しかし無音。

 仙崎は目を瞑ったまま回避していた。

 

「……?」

 互いに無言で見つめ合い「?」を浮かべる。

 そのシーンだけ切り取ると、何やらいい雰囲気にも見えるが。

 

「な、なんで躱すのよ!?」

「スマン。私、殺意のある攻撃には自動的に回避してしまう癖があってな」

「何その凄い癖!! 漢はどこ行ったのよ!?」

「私に攻撃を当てたければ殺意を消すのだな。ぬぁはははは!!」

「なんでアンタ偉そうなの!? 分かったわよ! アンタがその気なら当たるまで追い回してやるわ!」

「ぬぁははは! せいぜい頑張るのだな! では皆の衆、さらば!」

 

 そう言い残して、仙崎と葵ちゃんは去っていった。

 しかし、予想以上に面白そうなヤツが現れたもんだ。

 野郎に興味は無いとは言ったが、あれなら良い飲み友達になれるかもな。

 

「って、そう言えば放置して悪かったね玲香ちゃん。騒がしくてごめんよ」

「面白いもの見れたから、いい。じゃ」

 その割には相変わらずの無表情だったが、オレは歩き去る玲香ちゃんを追う。

 

「おっと逃がさないよ。ボクはキミに用があってね。この前の負け分の取り立てに来たんだけど」

 ぐえっ、と襟首を二ノ宮沙月に掴まれてむせ返る。

 

「くっそー! 覚えてやがったかこの悪魔め! イカサマ盛り盛りなんだからあんなのナシだろ! ってそこに居るのは桜ちゃんじゃ~ん! ごきげんよう! ちょっとこの悪女からオレを助けてくれないか!?」

 オレは二ノ宮の後ろに隠れるように立っていた桜ちゃんを見て助けを乞うが、

 

「んぎゃ~!! 寄るな変態! こんなに嫌ってるのになんで助けてもらおうって発想になんのよ! そのまま窒息して死ね~~!!」

 このように何故かオレには辛辣だ。

 何故っていうか多分初対面の時にときめいちゃって思いっきりハグしたからだろうね!

 いやぁちっちゃいし可愛いし元気だしドストライクだったね!

 まあ念のため言うと、本当のドストライクはオレの嫁ってのは揺るがないけどな。

 

「オレはこんなに愛してるのに、酷い話もあったモンだぜ。なあ二ノ宮、あんたもそう思いますでしょ?」

「はは。頂けるモノを頂ければ、そう思う事もあるかもしれないね」

「やめてぐるじいでず……!」

 女とは言えさすが軍人、本気で絞め落とそうとしてやがる……。

 

「とは言え、もっと浦田クンの畜生ぶりを仙崎クンに見せたかったのだけれど、本人が居なくなっては仕方がない。桜、カレとはココで大人の遊びと洒落こむから、キミは帰った方が良い。些か刺激が強すぎるかも知れないからね」

 へ? と桜ちゃんはキョトンとし、次第に顔を赤くして、

 

「アネゴってば不潔ですぅ~!!」

 と言い残して走り去っていった。

 

「さあ、勝てば前回の分はチャラ。負けたら……そうだね、今夜はボクに付き合って貰おうか」

「ぐっ、身ぐるみ全部剥がすってか!? ちくしょ~、やってやらぁ!!」

 どのみち回避は不可能!

 ならやるしかない!

 確かに、刺激は強い、間違っては無いな!

 

 

――side:仙崎誠――

 

 

「あ~ぁ、分かった、降参よ。ホンットに逃げ足早いのね、アンタ」

 暫く追われながら追撃を華麗に回避していると、瀬川は体力が流石に追いつかなかったのか、肩で息をする。

 

「しかしな、ま、あれだ。色々と済まなかった。迷惑かけただろう」

 思えば、彼女とは半年ぶりの再会だ。

 その上、私が一方的に思いの丈を話したのち、気絶してしまったのだから、彼女は相当気を揉んだ事だろう。

 あの時は回りが見えず、周囲の目を引いていた事は想像に難くない。

 それも、東京が灰燼と化したその時にだ。

 

「む、今思えば相当に不謹慎なやり取りをしていたのではないのか私は」

「そうね。さすがにもうちょっと場を考えてほしかったわよ全く。周りの連中は、そんな事考えてなかったらしいけど。さんざん弄られたんだから! まったくもう!」

 頬を膨らませてむくれ始める。

 

「そこは素直に謝ろう。改めて済まなかった。まだまだ人生には学ぶべきことがあるな! それも含めて、やはり君と出会えてよかった! 感謝する! ぬぁははは!」

 前半は真剣に、後半は勢いで発言する。

 

「な、なんなのよアンタ……調子狂うわね。……怪我は、完全に治ったの?」

「うむ。肉体の方は万全だ。勘の方は、ま、実戦で取り戻すさ。そう言えば、回答の方をまだ聞いていなかったのだが」

 

「回答ね……」

 とつぶやくと、彼女は廊下の奥の方まで走って、

 

「アンタに迷惑かけられたから、こっちも迷惑かけ返すわ! 回答は保留! 悔しかったら次の戦い絶対に生き残って、また私に会いに来なさい!! 死んだら許さないから! んじゃっ!」

 腰に手を当て、片手で指をさし、そしてドヤ顔で言った後、しゅたっ、と擬音を残し去っていった。

 

「まったく、本当にとんだじゃじゃ馬娘だ」

 だが、嫌いじゃない。

 これで是が非でも、生き残らなくてはいけなくなったらしい。

 無論、死ぬつもりは微塵も無い。

 

 そうして、私の怒涛の一日目は終わった。

 

 

 




次回からは多分シリアスモードになる予定です、多分……。
そう言えばまた久しぶりにヒロインが出てきました。
この影の薄さ、大丈夫かコイツ……。
さて、ではさらっとした人物紹介、行ってみましょー。

浦田和彦(うらたかずひこ)(26)
 レンジャー2-1分隊員、伍長。
 分かりやすい女たらし。
 女性を見ては食事や遊びに声をかけまくるはた迷惑な男。
 ルックスはイケメンなので、実は人気はそこそこあったりする。
 だがナンパそのものが趣味であって、恋人を探しているわけではないらしい。
 妻子がいる立派な家庭持ちで、なんとナンパは妻公認らしい。
 同じく、妻も男遊びが趣味で、互いに遊びと認めつつ、家庭では愛を育んでいるとか。 金に汚く、ギャンブルが好きだが、二ノ宮という上位互換が現れたせいで若干嫌いになり始めている。
 そのため、女性でありながら二ノ宮に苦手意識を持っている。
 反面、桜が好みのタイプのようだが、本人からは凄く嫌われている。

白石玲香(しらいしれいか)(25)
 EDF第一降下翼兵団第一中隊”ペイルウイング”第二小隊員。
 階級は少尉で、瀬川と同じ分隊。
 無口、無表情、更に色白で、基地内では”アイスドール”の名で呼ばれている。
 戦場でも冷静で的確な行動が出来るため、仲間内の評価は高い。
 コミュニケーションは苦手のようだが、瀬川とは打ち解けているようで、よく共に行動している。

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