全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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今回の話から、いくつか変更点が。
茨城尚美少佐の所属
EDF先進技術研究開発室室長→EDF先進技術研究開発部第一室室長
に変更しました。

それに伴い高杉中佐も
極東方面軍司令部兵站二課課長→EDF先進技術研究開発部部長
に変更しました。

理由は
開発室より開発部の方が何となくしっくりくるし、茨城部長より茨城室長の方が何となくしっくりくるからです。

それとレンジャーという名称は、一部隊名であって兵科の名前ではない、という設定だったのですが、
やっぱ陸戦歩兵=レンジャーという設定に変えます。
理由はレンジャー・ウイングダイバー・エアレイダー・フェンサーと四つ並べたかったからです。

そんなどうでもいい理由で突然変わったりしましたスミマセン。


第十六話 スチールレイン作戦(Ⅱ)

――2023年1月17日深夜 神奈川県横須賀市 EDF極東方面第11軍司令本部基地 地下10階作戦指令本部――

 

 

『こちら、エアレイダー”アルデバラン”。ターゲットD(デルタ)健在……。空軍による攻撃は失敗した。繰り返す、空軍による攻撃は失敗に終わった』

 それを皮切りに、作戦指令本部の無線には次々と攻撃失敗の報告が上がってきた。

 それを聞いた作戦指令本部の司令官、榊少将は、怒りと絶望に顔を染めた。

 

「効果、無しだと!? 無敵艦隊め……これだけの攻撃を受けて尚、傷一つ付けられんと言うのか!」

 榊は思わず、指揮台に拳を叩きつけた。

 この作戦は、本当に今の人類の希望だったのだ。

 世界が、この新兵器に期待していたのだ。

 だが、それは脆くも打ち砕かれた。

 

「仕方ない。作戦をプランB第三段階へ移行する! 対応する部隊は――」

 榊は気を取り直して部隊の指揮にあたる。

 司令官たるもの、絶望に心折られている暇はない。

 

 しかしその背後で、心を折られた人物がいた。

 

「馬鹿な……。もう、無理だ。人類に勝ち目はない……。あれ以上の兵器を仕上げるなど、もう……」

 膝から崩れ落ちる初老の男性は、空軍の兵器開発研究部特別主任、アシュレイ技術中佐だ。

 日本の優れた研究施設を活用し、フーリガンブラスターの開発に尽力したイギリスの兵器開発者だ。

 

 司令部要員ではないが、今後の研究の為に特別に司令部へ入っていた。

 もちろん本音は自分の作り上げた兵器が、無敵の白銀船を沈めるところを見たいが為だったが、その目論見は絶望へと変わった。

 

 そして、崩れ落ちるアシュレイを見下ろす女性が居た。

 よれよれの白衣を着て、咥え煙草をしながら気だるそうに彼女は言い放つ。

 

「……だから言ったろう。アレでは役に立たないと。確かにアレは凄まじい兵器だ。衝突時のエネルギーを簡単に計算してみたけど驚いた。衝突した一点に限れば、瞬間最大エネルギーはヘタな核兵器をも超える。それをあんな早さで連射するとは。いやぁ素直に脱帽したよ。一発数百万ってコストはちょいと高すぎるがね」

 

 彼女もまた、後学の為と言い張って司令部に入ってきていた。

 名は茨城尚美、技術少佐。

 EDF先進技術開発部第一室室長にして、稀代の天才物理学者。

 

「教えてくれ茨城博士! レイドシップは、どうやって撃ち落とせばいい!?」

 アシュレイは、すがるように茨城博士を掴む。

 茨城博士はふーっと紫煙を吐き出すと、つらつらと答えた。

 

「……今の映像を見て、疑惑が確信に変わったよ。あの装甲は、既存の人類技術では絶対に破れない。アレは、物理的強度で攻撃を防いでるんじゃない。白銀の表面装甲は、接触する物体に重力異常か、それに近い何かを与えて崩壊させている。つまり、表面に薄いバリアの様なものを張ってるのさ。だから質量兵器だけでなく、光学兵器やエネルギー兵器も恐らく効果はない。そこらへんはもうアメリカや欧州で実践済みらしいしね? さて、それを破るには、あの白銀の装甲と同様の素材が必要だ。分析して重力異常を中和・無効化する方法を探る。……ま、アタシが確信しているってだけで実際はもっと複雑な機構かも知れないが……、どちらにせよ、一度あの船を落としてバラしてみない事には分からないがねぇ」

 

 長々と語った茨城博士に焦りのようなものは見えず、絶望的な状況にも関わらず、気だるげな表情は変わらない。

 

「そ、それではやはり人類に勝ち目は、無い……」

「いいや。勝ち目はあるさ」

「ほ、本当か!?」

 うな垂れた顔を、再び跳ね上げるアシュレイ。

 

「ああ、あるとも。誰かがレイドシップを落とすのを待つ。アタシらは、その時に十全の研究開発を出来るようにしてりゃいい」

「それが出来れば、苦労はしない……」

 何の解決にもなってない返答に、アシュレイは頭を抱えた。

 天才とナントカは紙一重か……、と聞こえないように小さく呟いて。

 

「……レイドシップへの攻撃は失敗した。当初の作戦通り、JR横浜線まで後退し、西関東第一防衛線を築く」

 初動の指揮を終えた榊少将が話した相手は、EDF戦略情報部のエレナ・E・リーヴス少佐だ。

 EDF南極総司令部から派遣されたリーヴス少佐とルアルディ中尉は、開発部への協力後、作戦指令本部で榊の補佐に当たっていた。

 

「やはり、装甲は破れませんでしたか。茨城博士の読み通りになってしまいましたね」

「そうだな……。だが、悲観している暇はない。待機させていた残存兵力を投入し、レイドシップの砲撃誘導と、陸戦部隊の後退を行う」

 現在、旧町田市では第二陣としてウイングダイバー部隊やコンバットフレーム部隊が新たに投入されていた。

 

「第一防衛線1.5㎞後方の、前哨基地2-6を中心に部隊を撤退させ、戦線指揮所(アウトポスト)を各所に設置する。戦線の安定化を図るにはこれしか無い。戦略情報部の見立てだと、これでひと月は稼げるはずだ。そうだったな」

「はい。ただし、巨大生物の繁殖力の変化や、マザーシップの動きが無ければ、の話ですが」

 リーヴス少佐が淡々と答える。

 情報戦・作戦立案のプロを以てしても、フォーリナーの動きを予想する事は困難を極めるらしい。

 

「あまり当てにはできんか。それでも、ここで食い止めている間に、レイドシップを下部から攻撃する作戦を練る必要がある……協力してくれるな?」

 今回の新兵器が失敗に終わった以上、また新たな新兵器を作っている余裕は無いし、フーリガンブラスター以上の兵器を作ることは難しい。

 

「はい。ですが、その作戦は既に各国で幾度となく実行され、その全てが失敗に終わっています」

「だからと言って、ジリジリと削られていくのを指を咥えてみている訳にも行かん。何か方法があるはずだ。後で全ての撃墜作戦の資料をもう一度見せてくれ」

「分かりました」

 榊少将とリーヴス少佐の会話がひと段落した頃、

 

「榊司令! バレイル3が巨大生物とレイドシップ2隻に囲まれて身動きが出来ないそうです! 負傷者多数、救援を求めています!」

「アルテミス一機が一度航空支援を行ってますが、レイドシップに阻まれて効果は薄いとの事!」

 二人の女性オペレーターが報告する。

 

「了解した!『こちら本部! その場所にキャリバン装甲救護車輛とウイングダイバー一個小隊を派遣する! 部隊名は”ペイルウイング2”だ! 残念だがどこも余裕がない! なんとかこの戦力で踏ん張ってくれ!』」

 広がった旧町田市全体の戦域は、どこも大量の巨大生物が存在していて、戦況は悪くなりつつある。

 それをなんとか第二陣のコンバットフレームとウイングダイバーで抑えている状態だ。

 しかし、その2兵科はまだ頭数が足りない。

 結局、戦域を最後に支えるのは陸戦歩兵部隊の仕事だった。

 

「この部隊……、確か最初にビーコンを設置した部隊ですよね? しかも地中侵攻を間近で受けながら。歩兵小隊の名前は、レンジャー2……」

 今の通信に興味を持ったルアルディ中尉が呟く。

 

「ほう? レイドシップ2隻に、巨大生物が1000体超。頑張ってるねぇ、この部隊」

 ずいっ、と茨城博士が表示されているスクリーンを覗き込んだ。

 

「……茨城博士。フーリガンブラスターの攻撃は終わった。用が無いなら退室して貰いたいのだが……」

 榊少佐は、顔をしかめながら茨城博士に退室を促す。

 

「分かってるさ。……アタシはね、英雄を探してるんだ」

「英雄?」

 榊少将も、リーヴス少佐も、ルアルディ中尉も首を傾げる。

 

「人間の底力ってのは馬鹿に出来ないからね。科学や物理で測れない事もあるって事さ。邪魔したね」

 そう言い残して、茨城博士は司令部を後にした。

 

「英雄、か……」

 榊少将は、スクリーンに映る、バレイル3の様子を見て呟いた。

 

 

――旧町田市 バレイル3――

 

 

「ちっきしょー! 迫撃砲、両肩とも弾切れだ! ガトリングも幾らもねぇぜ!?」

「俺はシールドが半分以上溶けた! 推進剤も足りない!」

「推進剤は向こうの補給コンテナに少し残ってる! 神谷、援護しろ!」

「了解」

『”アルデバラン”より砲兵隊! 補給コンテナ要請! 大至急だ!』

『砲兵隊指揮所より”アルデバラン”。要請了解! 3つほど送る!』

「軍曹! あのビル残骸の向こうまでたどり着けそうか!? 確か地下鉄駅があったはずだ」

「無理です大林中尉! そっちは巨大生物で埋め尽くされています!」

「ぐあァっ、クソッ! やられた! こんにゃろ、ぶっ殺す!」

「鈴城軍曹! 無茶しちゃダメっす!」

「レイドシップが近づいて来るぞ! ここで開かれたらヤバい! なんとか移動して――ぎゃあぁぁあ!」

「村山!? くそ、村山!!」

「誰がやられた!?」

「アルデバラン小隊の村山です!」

 

 フーリガンブラスターの攻撃失敗後、我々は窮地に瀕していた。

 レイドシップの間近にいたうえ、ハッチが何故か高サイクルで開き、あっという間に周囲を巨大生物に囲まれてしまったのだ。

 エアレイダー門倉大尉の要請で、何度か補給コンテナ――武器弾薬やフェンサーの推進剤が満載された縦長のコンテナ――を送ってもらいながら奮戦しているが、徐々に負傷者や死者が出てきている。

 

 今しがた、鈴城軍曹が負傷し、そしてアルデバラン小隊の1人が死亡した。

 これでアルデバラン小隊は門倉大尉の他2名しか残っていない。

 一方我々レンジャー2小隊は死者こそ出していないが、ほぼ全員がどこか負傷している。

 

 私は新たに手に入れた連射型散弾銃のスパローショットをフルオートで射撃し、巨大生物を吹き飛ばしながら攻撃。

 右に気配、飛び避けると巨大生物の牙がある。

 すぐにスパローショットで仕留め、屈んで酸を回避。

 左にステップし、回り込んで側面から二射、撃破。

 私の背後から酸で狙っていた個体は、今桜がAS-20Rで撃破した。

 桜がリロードする、隙を狙った巨大生物は、スパローショットで仕留める。

 真正面から牙が猛烈な勢いで迫る。

 スライディングで躱し、そのまま巨大生物の下に潜り込んで、スパローショットを放つ、一撃で仕留める。

 そのままリロードする。

 その隙を浦田がAS-20Dの単発射撃でカバーしてもらう。

 右上を見ると、パラシュートの開いた補給コンテナが地表に落ちるところだった。

 

「巨大生物、減らないね……!」

「ああ、何せ間近に無限増殖する大本があるのだからな……」

「ったく、コレが無かったらとっくに死んでたぜ……大林中尉! 補給コンテナ確保ッ!!」

 

 私と桜と浦田の伍長トリオは、今砲兵隊から送られてきた補給コンテナ三基を確保した。

 相手が異形の生物である為奪われる心配は無いが、巨大生物は何でも餌にしてしまう。

 補給の隙も生まれるので、周囲の敵は掃討する必要がある。

 

「よくやった! 今そっちへ向かう!」

「ひゃっほう! これでまた大暴れ出来るぜ!」

「お前! ちょっとは大事に使えよ!? まあ見渡す限り敵だらけだから、外す心配はないか!」

 大林中尉、御子柴少尉、栗宮少尉が嬉しそうにする。

 その補給コンテナを中心に、部隊は補給を済ませる。

 が、戦況は好転の兆しを見せない。

 

「中尉、援軍は、援軍はまだなんすか!? いくら補給が出来たって、無限の敵相手じゃ、幾ら倒しても意味無いっすよ!」

 負傷しているせいか、水原が珍しく弱気になっている。

 その水原や、他の部隊員に、大林中尉が喝を入れる。

 

「援軍は来る。それに意味はある。投下された巨大生物が仲間を、無辜の市民を襲う可能性を潰す。それこそが、我らEDFに課せられた任務だ! 戦う事が任務だ! 総員ッ、戦って、戦い続けろォォーー!!」

「「うおおおぉぉぉ! EDF! EDFッ!!」」

 

 叫びながら、凄い男だ、と私は思った。

 正直、部隊の士気が落ちていた。

 無限の物量という絶望的な状況で、精神・肉体共に疲弊していた。

 だが、今の大林中尉の一声で、部隊に活気が戻った。  

 

 その活気が活路を開いたのかも知れない。

 

「こちらペイル2! 援護に来たぞ! 小隊傾注! ハンティングの時間だ! 獲物はそこら中にいるぞ!!」

「「サー! イエッサー!」」

 

 ウイングダイバー小隊の4人が到着した。

 たった4人だけだ。

 しかし、その戦力は圧倒的だった。

 

 制空権を確保し、空中から攻撃する。

 それだけで、被弾が少なく圧倒的に有利に立っている。

 

 その上、彼女らが手に持っていたのは規格外の銃器。

 銃口から雷光が広範囲に放たれ、一撃で密集した巨大生物全てを破壊していく。

 高出力のレーザーは、巨大生物の厚い甲殻を簡単に焼き切っている。

 地上に降りた一人は、粒子機関砲から放たれるプラズマ粒子を掃射し、小爆発を引き起こしながら地上の敵を薙ぎ払っていく。

 

 そして、もう一人。

 まさかこんなところで会おう事になろうとは。

 

 私がかつて告白し、つい昨日にも会っていた瀬川葵は手に、先端が細身の剣のような形をした見た事も無い銃を握る。

 そしてその銃から放たれた無数の短距離プラズマアーク刃が放射状に放たれ、近づく巨大生物を次々と切り裂いていった。

 

「待たせたわね! 元気そうで安心したわ! そして見てコレ、凄いでしょ!」

「馬鹿者! それをこちらに向けるな!! 誤って引き金を引いたらどうする!?」

 頼もしそうな援軍の顔から一瞬で新しいおもちゃを貰った子供みたいな顔になるのは良いが、銃口を向けるな!!

 

「あっ、そうね! 危うく微塵切りにするトコだったわ!」

「洒落になってないのだが!!」

 なんと恐ろしい兵器!

 

 にしても、またもや窮地に助けてもらう事になるとは。

 男として微妙に格好が付かないのだが、こちらはしがない陸戦歩兵。

 向こうは選ばれた特殊精鋭部隊。

 立場の違い的に、所謂高嶺の花、という奴なのだろうか?

 どうもそんな感じはしないのだが。

 

 とは言え、少しばかり状況が好転しただけで、まだ周囲は巨大生物だらけには違いない。

 今だ気は抜けない。

 

「バレイル3指揮官大林だ。援軍感謝する」

「ペイルウイング2指揮官冷泉(れいぜい)だ。済まないな、アレを連れてきていたら時間がかかってしまった」

 冷泉中尉の背後には、キャリバン装甲救護車が到着していた。

 

「負傷者を乗せろ! 急げ!!」

 キャリバンの搭乗員が大声で急かす。

 

 ちなみにこの時は、後に特別遊撃隊ストーム1と呼ばれる4人の英雄が、初めて互いに顔を合わせた瞬間だった。

 

 

――――

 

 

 こうして、特に負傷度合いが酷かった鈴城軍曹、新垣、千島、それとレンジャー2-2の2名、バレイル3の護衛陸戦歩兵2名の計7名がキャリバンに乗せられた。

 

 そしてキャリバンの護衛として、機動力のあるペイルウイング2から一名(間宮)、スティングレイ1から一名(神谷)が去る事になった。

 

 出来れば全員この包囲網から脱出したいのだが、それでは機動力が足りず、強引に突破する事が出来ないのだ。

 こうして負傷者7名、護衛2名が去り、残った者は、

 

 レンジャー2-1の大林中尉、鷲田少尉、二ノ宮軍曹、私、浦田、桜、水原の7名。

 レンジャー2-2の荒瀬軍曹、馬場、青木、古賀、細海、葛木の6名。

 スティングレイ1の柳中尉、御子柴、栗宮の3名。

 ペイルウイング2の冷泉中尉、瀬川、白石の3名。

 アルデバランの門倉大尉1名。

 合計20名がこの戦域に取り残された。

 

 そして今は、ペイル2の助力で突破出来た地下鉄駅内へ避難していた。

 

「……駄目だな。完全に塞がっている。退かせないことも無いが、駅全体が崩れる可能性もあるな」

 柳中尉は駅通路の途中で崩れている場所を調べて言った。

 

「なあ柳、爆破していいか? 爆破したら通れるよな? 石橋を爆破して渡った方が良いよな?」

「それじゃトンネルが崩れるって言ってんだろ! あと石橋も崩れる!」

 何度か見た御子柴と栗宮のやり取りをスルーしつつ、柳中尉、大林中尉、荒瀬軍曹、冷泉中尉、そして門倉大尉が作戦を練っていた。

 

「軍曹、入り口から巨大生物は入ってこれない見たいです、けど、入り口を齧って広げているので、時間の問題かと……」

 入口を見てきたレンジャー2-2の細海が報告する。

 少し根暗な雰囲気のある女性だが、2-2では紅一点の存在でもある。

 気弱な性格に見えるが、馬場によると、アレで結構攻撃的な性格らしい。

 

 我々はなんとかココへ逃げ込み、このまま地下を通って脱出出来ると考えたのだが、先程柳中尉が言った通り、先が塞がっている。

 そして、巨大生物は地下を掘り進むことも出来るので、ここもそう長くは持たないだろう。

 ちなみに他の戦況だが、あれから我々の元へ更に巨大生物が集まっていたお陰で、他の部隊は無事後退に成功したとの事。

 だがレイドシップの誘導砲撃や、そこから排出される巨大生物の対応に追われている為、暫く援軍は期待できそうにない。

 

「くそォ、この閉鎖空間に、巨大生物の恐怖、なんだか228が襲われたときを思い出すぜ」

 馬場が周囲を見渡して言った。

 

「確かに、雰囲気は似てるな。あの時もあの時で洒落にならん状況ではあったしな」

 実を言うと私も少し思い出していた。

 あの日を境に、世界はこんなにも変わってしまった。

 まあ私の回りでは常に災厄しか起こっていなかったが、今思うとその極めつけがフォーリナー襲来なのかもしれない。

 

「そう言えばその時仙崎ってば民間人だったのよね。よく生きてたわね」

 瀬川が目を丸くして反応する。

 

「仙崎さん、避けるの上手いんすよね。あれはそう……叩いても逃げるゴキブリのような……」

 水原が突然失礼なことを言い出す。

 

「ゴキブリ……ぷっ」

 瀬川が噴き出すが、納得いかない。

 

「貴様……そのボキャブラリはなんとかならんのか……」

「ボキャ……? なんすか?」

 久々にIQの低さを露呈したな貴様!

 

 そんな緊張感の欠片もないやり取りをしていると、

 

「……俺達でやるぞ」

 

 指揮官たちの会議の声の中、静かだが妙にその言葉だけが耳に届いた。

 

「荒瀬軍曹、貴様正気なのか……?」

 冷泉中尉が信じられないとばかりに目を開く。

 

「当然だ。この状況を打破するには、最早レイドシップの撃墜しか方法はない。人類にとってもそれは同じだ。いつか俺達のように、無限の巨大生物に食いつぶされて、人類は負ける。……今日ここで勝たなければな!」

 

「……ふん。いつか勝たなければ負ける。真理だな。だが勝算はあるのか?」

 柳中尉が疑惑の目を向ける。

 ちなみに頭部装甲は外している。

 

「各国のレイドシップ撃墜作戦の記録を見た事がある。やはり今回のように真下の物量に押されてハッチ開口部の攻撃どころではない事が共通している。そして共通点はもう一つ、接近戦の練度だ」

 荒瀬軍曹が説明を始める。

 我々も無駄話を止め、聞き入っている。

 

「海外の……特にアメリカの基本戦略は、アウトレンジ・ドクトリンだ。巨大生物の酸の射程は100数m。射程に圧倒的に優れた人類軍のアドバンテージを最大限生かした戦術をとっている。俺達のように巨大生物の牙や酸を避けながら、ショットガンやライフルで接射する戦術はナンセンスという考え方だ。確かに理には適っているが、それではレイドシップの直下を確保する事は不可能だ」

 

 私は今回の戦いが復帰してから初めてなので実感は無いが、結城大尉から聞いた話によると、

 確かにここ日本関東戦線では、砲兵や航空爆撃による殲滅だけでは足りず、レイドシップから投下される巨大生物や地中侵攻をする巨大生物の対応に追われ、接近戦をすることが頻繁にあるようだ。

 

 一方アメリカでは、潤沢な物資による徹底した砲爆撃によって数を徹底的に減らし、更に広い国土を利用した距離を取る戦略を基本としているそうだ。

 

 余談だが、ニューヨークがインセクトハイヴへと変わり果てた今、目と鼻の先にあるワシントンD・Cの首都移転計画が進んでいるらしい。

 

「だが、ここまで戦い抜いた俺達の接近戦技術と装備、この位置、そしてレンジャー・ウイングダイバー・フェンサー・エアレイダーの四兵科が揃った今なら、直下での攻撃が可能だ」

 その言葉に、皆の顔色が変わる。

 

「今ならレイドシップは至近だ。移動に使う労力が少ない。そして門倉大尉にアルテミスを要請して貰い、レイドシップまでの移動路を薙ぎ払う。その隙にグレイ1とペイル2がフルブーストで移動、一瞬だけでも直下を確保してもらう。冷泉中尉が先程言ったように、ゼロレンジ・プラズマアーク銃”レイピア”の接近戦闘能力なら可能なはずだ。そうだったな冷泉中尉」

 

「ああ、間違いない。だがいくら何でも全方位はカバーしきれんぞ?」

 

「問題ない。それまでに俺達が到着し、カバーに入る。俺達も今の装備はショットガンを中心とした接近戦装備が大半だ。距離を詰められても生き延びられる。そうしてハッチが開いたら、ウイングダイバーの3人は、巨大生物の落下位置でレイピアを照射する。そして御子柴を中心としたフェンサー部隊の重火力で、レイドシップを直下から粉砕する。どうだ?」

 

「がはは! 面白い! 面白いな! 俺は賛成だ、空軍にアルテミスを要請可能か打診してみよう!」

 門倉大尉は豪快に笑い、通信機をいじり始めた。

 

「俺も賛成だ。ふっ、荒瀬。お前ほどEDFに相応しい男はそういないだろうな!」

 大林中尉は誇らしげに同意する。

 

「……いかれてやがる。が、どうやら俺もその一人らしい。乗ったよ」

 柳中尉は白髪交じりの頭を掻いて、覚悟を決めた顔をする。

 

 そして全員の視線が冷泉中尉へと向かう。

 

「はぁ。無謀な作戦だが、可能性は十分あると見た。やろう。我々の手で、あの忌々しい無敵艦を沈めよう! かつてのスペイン無敵艦隊を落とした、フランシス・ドレイクの如く!!」

「「おおおォォォーーー!!」」

 声を荒げて、我々は拳を天に向かって突き上げた。

 

 同時に、破壊的な物音が増し、巨大生物が駅通路内を掘り進み始める。

 ここに侵入されたようだ。

 

「時間がない! 地上へ出るぞ! 門倉大尉! 空軍はなんと!?」

「スマン、断られた! 他部隊への支援で手が回せないらしい! ここに来てケチくさいったらねぇぜ!」

 門倉大尉が荒瀬軍曹に応える。

 どうやら露払いは我々が受けるしかないようだ!

 私は先陣を切り、構内に侵入した巨大生物を狙う。

 正面からスパローショットの散弾を全弾喰らい、頭部が割れて絶命する。

 

「おのれ……! 死体が邪魔だ! 通れぬではないか!」

「……どいて」

 私の横を一人のウイングダイバーが通り抜けて、レイピアで死骸を切り裂く。

 名前は確か白石玲香と言ったか。

 無表情で口数の少ない女性だ。

 

「済まぬ、助かった!」

「ん」

 白石はコクリと少しだけ頷いた。

 

 切り刻まれ原型を留めなくなった巨大生物におぞましさを感じながら進み、入り口付近を齧りとっている巨大生物を次々と葬る。

 

「なんだコイツら? 建物齧りに夢中だな! なんでも喰いやがって」

 浦田がAS-20Dを一発ずつ放って次々仕留めていく。

 遅まきながらそれに気づいた巨大生物が、地下鉄から出てくる我々に殺到してくる。

 

「入口がもうこんなに広がってる! あと少しで中にも殺到していた所だったな、なんて掘削能力だ!」

 青木の言う通り、それなりに立派だった地下鉄駅入り口は殆ど巨大生物の腹の中に納まり、穴が大きく広がっていた。

 

 その間、軍曹は本部と交信していた。

 機密通信なので詳細は聞き取れないが、軍曹の口ぶりから本部と交渉しているようで、それは成功したらしい。

 

「門倉大尉! 本部にアルテミスを一機貰った! 2分で上空に到達するから、誘導を頼む!」

「本当か!? 一体どうやって……いや、了解した! 目標を指示する!」

 

 荒瀬軍曹の活躍で、アルテミス一機を回してもらったらしい。

 

「まったく、無茶をする。総員傾注ッ! ここで2分耐える! 遮蔽物で酸を防ぎつつ弾幕を張れ! 絶対に内部に入れるなよ!!」

「「イエッサー!!」」

 

 大林中尉が先頭に立って射撃。

 地下鉄の狭い入口に、餌を求めているのか巨大生物が殺到する。

 それを数多の弾丸や榴弾が迎え撃つ。

 

「お前ら!! あと20秒でアルテミスが制圧射撃を行う! 二往復だ! そろそろ頭を低くしてろ! ただし弾幕は絶やすなよ!?」

「「イエッサー」」 

 

 やがて、EA-20A”アルテミス”の制圧攻撃が地上を襲う。

 アルテミスの姿をその目に捉えた桜は歓喜して、機体にまつわる豆知識を浦田に話し、彼はげんなりしている。

 なぜ普段の立場が逆転しているんだ?

 

 ともあれ、二往復したアルテミスの嵐のような銃爆撃の最後の一撃が終わり、同時に門倉大尉が声を上げる。

 

「行けェー! 突撃だァー! GO、GO、GO!」

「「うおおぉぉぉぉ!! EDF! EDF!!」」

 ウイングダイバーとフェンサーを筆頭に、我々はレイドシップの真下まで総突撃を敢行した。

  

 本当の、レイドシップ撃墜作戦が幕を開ける! 

 

 




さて、ストーム1の4人、誰だか分ったでしょうか?

毎話当たり前のように新キャラ出るってどうなんだ……。
しかもまだまだ出す予定……。
そろそろまとめて登場人物集出した方が良いかな?

▼アルフレッド・アシュレイ(51)
 EDF欧州方面軍、第三空軍兵器開発研究部、技術中佐。
 日本へ空軍新型兵器の開発責任者として訪れてた。
 欧州では重要な研究施設が破壊・占領されてしまったため、特別主任という形で日本へ開発に来ていた。
 フーリガンブラスターの構想自体は戦前からあったが、それを対レイドシップ兵器として完成させたのは彼の功績が大きい。
 ただし、茨城博士は開発中から効果に否定的だったそうだ。
 今後登場する予定は無し(多分)

冷泉春奈(れいぜいはるな)(28)
 第一降下翼兵団第一中隊”ペイルウイング”第二小隊指揮官。
 階級は中尉。
 クールな女指揮官。
 秀でた戦闘能力は無いが、機動力のある部下を纏める指揮能力と、視野の広さに加え、ウイングダイバーという従来にない兵科の強みを理解している有能な指揮官。
 しかしウイングダイバー全体に言える事だが、少々プライドが高い所もある。

細海早織(ほそみさおり)(23)
 レンジャー2-2分隊員。
 階級は上等兵。
 軍人らしくない根暗な雰囲気の女性兵士。
 一見して気弱で儚い印象を持たれる彼女だが、その実芯が強く、仲間からの信頼は見た目以上に厚い。

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