スチールレイン作戦、なかなか進まない!
10/28 巨大生物の死骸を盾にする描写一文を追加
――2023年1月18日深夜 神奈川県横須賀市 EDF極東方面第11軍司令本部基地 地下10階作戦指令本部――
「旧町田市矢部町で大規模地中振動発生! コード991の発令許可を!」
「承認する! そこに第27攻撃ヘリ中隊を向かわせ、撤退中の部隊を援護しろ!」
「前哨基地2-6からコンバットフレーム中隊、”ソード”、”セイバー”、”ブレイド”が出撃! 現着まであと3分!」
「第181砲兵連隊、レイドシップ
「玉川学園前駅周辺に巨大生物が小規模梯団を形成中! フォボス各機はエアレイダーの誘導の元、絨毯爆撃を敢行せよ!」
「第212砲兵連隊、再装填に入ります! カバー可能な部隊は!?」
「第13機甲師団のネグリング自走ロケット砲にカバーさせろ! 第3機械化歩兵連隊の後退状況は!?」
「フェンサー
「
「ち……! 『本部よりペイルウイング1! 国際版画美術館付近にレイジボーンが孤立している! 救助に向かえ! コンバットフレーム”ブレイド”中隊は、二個小隊を分離し、市立病院付近のデグラス戦車中隊の後退を援護しろ!』 孤立したバレイル3の状況は!?」
「巨大生物2000、レイドシップ2隻に囲まれながら未だ健在! 現在、市営地下鉄薬師台駅に立てこもっている様子です!」
「ぬぅ……何という状況だ……」
バレイル3――レンジャー2小隊、スティングレイ1小隊、アルデバラン小隊、そして救援に行ったペイルウイング2小隊の混成部隊は今、絶望的な大群の中で完全な孤立状態にあった。
「援軍に向かわせられる部隊は居ないのか……ッ!?」
「不可能でしょう。後退した前線からは約5km程離れています。その道中でも多数の巨大生物群に遭遇します。地上部隊にとっては自殺行為です」
榊少将の絞り出すような声に、リーヴス少佐はばっさり切り捨てるような言い方をする。
「かといって、攻撃ヘリ中隊をここから離す訳にもいかん……。万が一にも、新たに構築する西関東第一防衛線を越えられる訳には行かんのだ。くそ、砲兵・航空部隊を横浜方面に集中させたのが裏目に出たか」
現在スチールレイン作戦を実行中の町田方面以外にも、旧東京インセクトハイヴを中心に戦線は広がっている。
EDF極東方面第11軍は、質こそ世界最高水準と謳われるほどだが、数はそう多くない。
世界的に見れば狭い日本国内だが、日本にとって関東全域という戦線は広すぎるのだ。
当然、戦力を薄く広く配置する事になる。
そして、そのうちの一か所が食い破られれば、そこから総崩れになりかねないほどの物量を巨大生物は持っている。
そんな中、榊少将に機密通信が入る。
『榊。聞こえているか?』
荒瀬軍曹の声だった。
『軍曹!? よくこの周波数を覚えていたな……。それで、どんな状況だ』
本来、司令部からしか通じない特殊な周波数を、無理やり合わせて送ってきたようだ。
『俺達にレイドシップを撃墜する許可をくれ!』
「援軍は送れない、済まない」そんな台詞を用意していた榊は、荒瀬軍曹のそのセリフに驚いたが、同時に、あいつならあるいは……、という希望を持った。
『……勝算は、あるのか?』
『ある。だが詳しく話している時間は無い。そこで一つ頼みがある』
『なんだ?』
『空軍のアルテミス一機を貸してくれ、大至急だ』
榊は思わず苦い顔をした。
現在この戦域に割り当てられている空軍のアルテミスは、全機が各地でエアレイダーの指示の元稼働中だ。
常識で考えれば、支援に割り当てられる余裕はない。
先程榊が考えた通り、今この戦線に穴をあける訳にはいかないのだ。
『……この貸しは高くつくぞ』
『問題ない。レイドシップの撃墜で支払う事にする!』
だが、榊は荒瀬の作戦に賭ける事にした。
常識で考えれば愚行かも知れない。
だが、絶望しかないこの戦争に、ただ一筋の希望を求めたかったのかもしれない。
『軍曹……健闘を祈る!』
その言葉で、榊少将は荒瀬軍曹との通信をいったん切る。
「バレイル3……いや、レンジャー2-2から通信ですか?」
リーヴス少佐が怪訝な顔をして榊を見る。
荒瀬との機密通信を何度かするところを目撃しているが、それが本来正式な命令系統で無い事を知っているからだ。
「そう怪しげな顔をするな。……何か、何か彼らにしてやれることは無いか……、もしかすると、この戦いにはまだ希望が残されているかもしれんのだ」
唸るように呟き、頭を捻る榊。
可能な限り戦線に穴をあけず、かつレイドシップ撃墜の手助けになる戦力を、榊は探し続けた。
――旧町田市 市営地下鉄薬師台駅付近――
地下鉄駅を飛び出し、まず最初に先陣を切ったのは、ウイングダイバー部隊ペイルウイング2だった。
「周囲のザコは後回しだ! 一直線でレイドシップ直下を確保する!」
「了解」
「イエスマム! とりゃあぁぁっ!!」
冷泉中尉、白石、瀬川がユニットを起動させて駅から飛び立つ。
シップまでの道はアルテミスの銃砲撃によって掃除されているが、シップ周囲の敵が反応し、向かってきている。
それを3人はゼロレンジ・プラズマアーク銃”レイピア”を照射しながら突撃する。
その後を追うのはフェンサー部隊、スティングレイ1の3人、柳中尉、栗宮、御子柴だ。
「御子柴! シップ直下の巨大生物を片付けろ! 仲間に当てるなよ!」
「イエッサー! ぶっ放すぜぇぇ~!!」
移動しながら、御子柴は散弾迫撃砲を二発放ち、直下の巨大生物を十数体蹴散らす。
その爆炎にペイル2が飛び込み、レイピアを使って更に追い打ちをかける。
その頃にはアルテミスで銃爆撃した道が巨大生物で埋まりかけ、そこをレンジャー部隊の13人とエアレイダーのアルデバラン1人が走っていた。
「先頭はスティングレイに任せろ! 進め! 進めぇぇ!!」
「「EDF!! EDF!!」」
側面と背後から飛んでくる酸に耐えながら、弾幕を張って我々はレイドシップに向かって一直線に駆け進む。
「シップ直下は確保! 瀬川、白石! レイピアを放射状にばら撒き、巨大生物の侵入を防げ!」
「向こうのレイドシップのハッチが開いた! 巨大生物が大挙してくるぞ!!」
冷泉中尉と、その直後に到着した柳中尉の声が響く。
「冷泉中尉! 背後は任せろ! 作戦通り、ハッチが開くまではこの場所を陣取るぞ!」
「リロードの合間を互いにカバーしろ! 絶対に隙を作るなよ!?」
我々もレイドシップ直下に辿り着き、大林中尉と荒瀬軍曹が叫ぶ。
その後ハッチが開くまで、レイドシップ直下では後退の許されない激戦が繰り広げられた。
「一か所に陣取って戦うの、凄い苦手なんだけど……!」
「同感」
「小刻みにブーストを使って少しでも被弾を無くせ! 緊急チャージ時を絶対に重ねるなよ!?」
ペイル2は、一人がチャージ中にもう二人が戦闘というローテーションを組みながらうまく戦っていたが、やはり普段より多めの被弾は避けられない。
「ていうか、ずっと地下に居たから分からなかったけど、私達どんだけ巨大生物に囲まれてたのよ~!」
桜の言う通り、周囲は巨大生物で埋め尽くされ、最早どこを狙っても当たる状態だった。
「巨大生物の死骸を盾にしろ!! 奴らの死骸は酸に耐える! 奴らを利用し、怯まず撃ち続けろォ!!」
「「サー! イエッサー!!」」
大林中尉の言う通り、倒した死骸をバリケードのように利用し、多少の酸を防ぐ戦法は有効だった。
「やばいぞ軍曹! 弾薬がもう持たねぇ! 補給コンテナは要請できねぇのか!? 門倉大尉!」
近づいて来る巨大生物にバッファローG2を接射する馬場。
だがその手持ちの弾薬は残り少ない。
「無理だ! たとえ要請出来るとしても、レイドシップ直下に居る俺達の元には届かない! 例えば、あそこにコンテナが来たとして、取りに行く自信はあるか!?」
門倉大尉がリムペットガンを使って密集している巨大生物5体を爆殺する。
このレイドシップ直下の外は、前述の通り巨大生物に埋め尽くされているので、移動は困難だ。
「まず無理だろうな! このままここで……ぐわッ!」
鷲田少尉が酸を至近距離で喰らって吹っ飛んだ。
「鷲田少尉!?」
二ノ宮軍曹が声を上げる。
「二ノ宮! カバーしろ! 浦田、少尉の様子を!」
大林中尉が指示を出す。
「イエッサー! 少尉! しっかりしてください!」
浦田が駆け寄って治癒剤を打ち込む。
だが、腹に貰ったようで重傷だ。
「きゃあぁっ! あ、足がぁ……!」
「桜ちゃん!?」
桜が足に酸を喰らい、鷲田少尉を見終わった浦田が駆け寄る。
「負傷者はペイル2の背に集めろ! 中心は駄目だ、ハッチが開いたときに押しつぶされるぞ!」
荒瀬軍曹が指示し、浦田は鷲田少尉と桜を引きずって寄せ集める。
「てめぇら~! 桜に何しやがんだ!!」
「御子柴! お前は前に出るな! 弾薬が無くなったらまずい!」
「ちっくしょ! 早く開きやがれ!」
御子柴は怒り、四武装のフル射撃を行うが、彼の単体火力は今の部隊一として、レイドシップ攻撃の中心なので、栗宮に止められる。
恐らく、実際の時間はほんの短い時間の出来事だったのだろう。
だが、ハッチが開くまでのこの一瞬の時間で、我々は急速に疲弊していった。
スティングレイ1の3人は残り少なくなった肩部迫撃砲を封印し、手持ちの火器で対応せざるを得ない。
防御の要だったフェンサーの盾は溶け切り、そして栗宮が巨大生物に齧られる。
それを白石が咄嗟にレーザーライフルで打ち抜いて助けるも、レイピアで作っていた壁が崩れ、酸を全身に多数喰らい、重傷。
その穴を埋める為、二ノ宮軍曹と荒瀬軍曹、馬場がカバーに入る。
浦田は負傷者の治療と護衛に専念し、門倉大尉はリムペットガンを使い切り、負傷した鷲田にAS-20を貸してもらう。
レンジャー2-2の辻原が弾切れになった隙を狙われて、酸で腕を溶かされて負傷。
その後、続々とショットガンの弾切れが続いたところで、ようやくハッチが開いた。
「今だ! 御子柴、栗宮、いけぇぇぇ!!」
「ひゃっはぁぁぁ!!」
スティングレイの柳中尉と御子柴が迫撃砲を放ち、足を怪我した栗宮も倒れ伏せたまま射撃。
「瀬川! レイピアで巨大生物を!」
「玲香の分まで!!」
落下する巨大生物の大群を真下に陣取った冷泉と瀬川が一網打尽にし、
「ランチャー! 射撃開始ィィ!!」
「これを待ってたぜぇぇぇ!!」
トドメとばかりに武器をロケットランチャーに切り替えた数人がハッチを砲撃する。
吸い込まれるようにハッチに高威力の榴弾砲弾が集中し、赤く発光するハッチ内部は炎を吹き上げ、ズタズタになり破片が飛び散る。
しかし、あと一歩という所でハッチは閉じてしまった。
「なんだよちくしょぉ!! もうちょっとだってのに!! クソやろぉ~! ぐわぁぁッ!」
御子柴がレイドシップに向かって悪態をついたと同時に、ダッシュしてきた巨大生物に胴体を齧られてしまう。
「馬鹿が! 油断しやがる!」
門倉大尉がAS-20を使ってその巨大生物を殺し、御子柴はなんとか脱出する。
「ぐわぁ、いてて、くっそ、なめやがって」
「舐めていたのは貴様だ坊主。上にばかり気を取られ過ぎだな」
「あ? だってしょうがねぇだろ! あとちょいだったんだぞ!」
「EDFが仲間を助けるのは当然とは言え、礼の一つも無いとは癪に障るな。大体俺は指揮権を持っていないとは言え一応上官なんだがな」
「門倉大尉ィ! 今はそれどころではない!! レイドシップが去ってゆく! 何か手はないのか!?」
大林中尉が叱咤の意味も込めて怒鳴る。
門倉大尉と御子柴がやり合ってるうちに、今まで停止していたレイドシップが進み始めたのだ。
だが、その外装甲からは黒煙が噴き出し、瀕死の状態であることが伺えた。
「安心しろ! この時の為に、要請を一回残してた! 『アルデバランよりエルメト5! 支援要請! レイドシップをこちらに誘導しろ!』」
『エルメト5了解! 待ってたぜ! 喰らえッ!!』
上空を旋回していたアルテミスが高度を下げ、重火力をレイドシップに叩きこむ。
もちろんその攻撃では装甲を貫通することは出来ないが、シップの進行方向を変える手助けにはなる。
だが、それでもまだ180度回頭には足りない。
「このまま……奴を逃がす訳には……ん? なんだ……?」
その時、門倉大尉の元に、思いがけない無線が割り込んできた。
――数刻前 極東方面第11軍司令本部基地 作戦司令室――
「こちらはEDF極東方面第11軍作戦指令本部、司令官の榊少将だ。無理を承知でお願いする。貴軍の戦力を借りたい。今すぐ動かせる戦力はあるか?」
『陸上自衛隊座間駐屯地、駐屯地司令の角川一佐であります。ご確認ですが、通常の指揮命令系統から逸脱している事を承知の上で、ですか?』
「無論だ。現在我々は、レイドシップ撃墜作戦”スチールレイン”を実行中だ。だが、一個小隊が巨大生物に囲まれ、単独で撃墜作戦を遂行中だ。その小隊を救援する戦力が欲しい。私の無能を承知でお願いしたい」
『……我々は海老名市・厚木市方面の避難民誘導に人員を割いており、普通科・機甲科の余力はありません。ですが補給の為に訪れていた野戦特科連隊なら、恐らく数分で射撃準備が可能でしょう』
「感謝する! 防衛省には後で私から話を付けておく。生きていれば、現地にはエアレイダーが居るはずだ。無線の周波数を送る」
―――陸上自衛隊 座間駐屯地――
「ふぅ。やれやれ、EDFも無茶を言う……。まあ、レイドシップが撃墜できれば、それは願っても無い事なのだがな。同じ日本人として、協力しない訳にも行くまい」
通常の指揮命令系統を無視して勝手に部隊を……しかもこの駐屯地の管轄ですらない部隊を戦闘に参加させるなど、一体何枚の書類と許可をすっとばしての事なのか想像しただけでも胃が痛くなる。
榊少将とやらが、防衛省にどれだけ顔が利くのか分からないが……、と思ったところで角田一佐は思い出した。
もはや防衛省はマザーシップの砲撃で灰燼と化し、事実上消滅しているのだと。
一応京都臨時政府に防衛省は復活しているが、各地域に散らばった官僚を無理やり集めた寄せ集めの組織に過ぎないので、意外と何とかなるかもしれない。
「一応アメリカ軍にも話しておくか? いや……」
考えかけて、角川一佐は首を横に振る。
現在、アメリカ本国では、在日米軍を含む各国駐留軍の即時本国帰還派と駐留継続派で議論が分かれている。
常識で考えれば、自国が襲われているのだから自国を防衛するために軍を引き上げるというのは当然だ。
しかし、各国駐留軍が戦線に与える影響は非常に大きく、撤退したとたん戦線が崩壊しかねない地域もある程だ。
その場合、その国が滅びるだけでなく、連鎖的に戦況が悪化し、ひいては米本国にまで悪影響を及ぼす恐れがある。
確かに軍事・経済・食料などでアメリカは間違いなく世界一だが、だからと言ってアメリカ以外が滅びてしまっては成り立たない程、今の世界は横の繋がりが密接になっている。
加えて、レイドシップという無敵艦を除けば、巨大生物の相手は米本国の軍で事足りるというのが米軍の見解だった。
以上の事から、駐留継続派が主流だが、ここで不正規な方法で在日米軍がEDFに力を貸せば、いらぬ弱みを握られる事になる。
「それに……。あの人なら、そんな考えをすっ飛ばして軍を動かしかねないからな……」
ここ座間駐屯地の周囲には、在日米軍基地”座間キャンプ”が広がっている。
と言うより、陸上自衛隊が座間キャンプの一部を間借りしている、という表現が正しい。
そんな座間キャンプには在日米陸軍司令部があるのだが、そこの司令官、ウィリアム・D・バーグス中将は有能な親日派軍人だが恐ろしくフランクで、今大戦では何度か独自の判断で自衛隊やEDFの危機を救っている。
しかしそれが災いし、本国には敵が多いという話だ。
日本としても彼の行動が原因で在日米軍が撤退しては困るので、この辺は非常にデリケートな問題なのだ。
そしてそう考えこんでしまった角川は、また胃が痛くなってくるのだった。
なんか微妙なトコで終わりました。
もうちょっと書けたかな?と思いつつそろそろ更新したいなぁ、と思ってここで切りました。
いやぁ、自衛隊とか絡めたくなった……と言うより絡めるしかない状況に陥ったのでなんとか調べてたらめっちゃ時間かかりました、疲れた。
座間駐屯地とか、座間キャンプとかって今回初めて知りましたよ。
勉強になりますねぇ。
そんな訳で本作品初の自衛隊人物出ました!
▼
陸上自衛隊座間駐屯地、駐屯地司令官。
階級は一等陸佐。
海老名市・厚木市方面の緊急避難の指揮を執っている。
現地の住民の混乱や、在日米軍とのやり取りなど心労の絶えない日々に胃が痛くなっている白髪の目立つ苦労人。
しかし彼のお陰で現地の避難計画は順調に進んでいて、在日米軍司令官はその手腕に舌を巻いている。