月四話更新ギリギリ間に合ったぁ……!
――2023年1月18日明朝 陸上自衛隊 座間駐屯地 砲撃管制所――
座間駐屯地の演習場では、155mm榴弾砲FH90や、11式自走203mm榴弾砲などが射撃準備を完了していた。
ごく短時間での展開完了は、この場に居たのが偶然にも野戦特科連隊の精鋭であることを示していた。
『孤立してるエアレイダー! 聞こえているか? 陸上自衛隊、第1特科連隊、砲撃管制所だ』
展開完了と同時に、砲撃管制所の陸自指揮官がエアレイダー、門倉大尉に無線を送る。
『陸上自衛隊だと!? どうしてこの無線に……!? いや、細かい事はいい。支援砲撃を要請させてくれ!』
瞬時に状況を理解したエアレイダーは支援砲撃を要請する。
『元よりそのつもりだ! エアレイダー、目標を指示せよ!』
『目標のレイドシップは移動している! 狙撃可能か!?』
『我々を見くびってもらっては困る。後はそちらの腕次第だな』
『なら何も問題は無いな! エリアG34-24、ポイント3385だ!』
『よし座標確認。攻撃準備射撃、始め!! ……弾着まで11秒!』
攻撃準備射撃。
本格的な砲撃(効力射)を行う前に、着弾位置を確かめるための砲撃の事。
準備射撃によって狙いを修正し、本番を撃ち込む砲撃方法だ。
元々エアレイダーの前身である統合末端攻撃統制官の任務の一つでもあった。
砲撃と言うのは地平線の向こう側に着弾する場合が基本で、その位置だと砲撃を撃った場所から着弾地点は見えない。
故に、砲兵(陸自では野戦特科)とエアレイダー(陸自では前進観測班)の連携は必須なのだ。
『だんちゃーく、今!』
陸自男性指揮官が声を上げ、弾道から予想できる着弾の瞬間を知らせる。
砲弾の飛び交う戦場で、どれが自分達が撃った砲弾なのかを知らせるための言葉だが、今砲撃しているのは自分達だけなので厳密には不要だ。
『弾着確認。素晴らしい腕だ、レイドシップ先端に命中した! だが進路変更には至っていない。効力射を要求する! ただし今のから重砲を二門程増した程度で十分だ! 同エリアポイント3341!』
『了解した! 効力射、始め!』
203mm自走榴弾砲が砲撃に参加する。
レイドシップの装甲にダメージを与える事は出来ないが、シップを反応させるにはある程度の威力が必要だという事は、過去の戦闘から分かっている。
『それと残った砲全てで周辺の面制圧をお願いしたい! 頼めるか?』
『承った! だが諸事情で動かせる砲は少ない。過度な期待はするなよ!』
『構わない、感謝する! 面制圧の座標は――』
――旧町田市 レイドシップ
夜明けが近づく旧町田市の廃墟。
荒瀬軍曹の作戦が決まり、フェンサーを中心とする重火力をレイドシップに叩きこむことが成功した。
だがシップは黒煙を上げながらも健在、この場からの撤退を始めた。
レイドシップ
しかし。
レイドシップが、突如砲撃に晒された。
「!? まさか、援軍ですか!?」
私は信じられない思いで門倉大尉に聞いた。
完全に孤立したこの状況、もう援軍などあり得ないと思っていたからだ。
「その通りだ。 どういう経緯か分からんが、座間駐屯地の野戦特科が支援砲撃を行っている! とりあえずシップの誘導と周囲の面制圧を要請したが、あまり期待するなよ!」
それだけ言うと、門倉大尉はまた無線で陸自との通信を始めた。
十数秒後、再び砲撃が炸裂し、見事シップが進路を変え始め、こちらに向かってきた。
これで再び攻撃のチャンスが訪れた。
「総員傾注!! 聞いたな!? まだレイドシップを攻撃するチャンスはある! 誰か打撃を与える火力は残っているか!?」
大林中尉が皆に伺うが、先の攻撃で火力のある装備は殆ど使い切ってしまっていた。
そして、ついに私もショットガンの弾薬が尽きかけてきた。
残りは10数発だ。
「門倉大尉! 補給コンテナを要請してください! 空中に滞空している間に、アタシが飛んで引き寄せてきます!」
そんな中、それを提案したのは瀬川だった。
「しかしそれでは――」
「無茶を言うな瀬川! その間、貴様は地上から酸の集中砲火を受けるぞ!?」
門倉大尉の声を遮って、私は思わず反対してしまった。
「まあ、そうね。アンタみたいに避け切る事は出来ないけど、このまま何もしないよりはマシでしょ。やるだけやってやるわ! 冷泉中尉。構いませんよね」
「私も共に飛びたいところだが……地上を手薄には出来ん。頼んだ!」
フェンサーや我々レンジャーの皆は、既に弾薬が尽きかけている。
今まともに戦えるのはPEユニットから半永久的にエネルギーが供給されるウイングダイバーだけだ。
しかも、白石は負傷しているので頼れるのは瀬川と冷泉中尉のみと言う詰み具合だった。
「要請は許可された! すぐ補給コンテナが飛んでくるぞ!」
EDF砲兵隊との通信を終えた門倉大尉が伝える。
「桜! 済まないが弾薬を貰うぞ! 地上から瀬川を援護する!」
私は負傷している桜の元へ向かうと、AS-20とバッファローG2の弾薬を多めに貰う。
「う、ん。ここで見守ってるから……頼んだよ……!」
桜は苦しそうな笑顔と共に許可してくれた。
――side:浦田和彦――
「心配するなって桜ちゃん! オレと、ついでに水原が、必ず護ってやるから!」
負傷して動けない桜ちゃんを安心させる為、頼もしそうな笑顔を作ってみる。
オレは、巨大生物の死骸で作ったバリケードに負傷者を隠しながら、巨大生物用9mm拳銃で戦っていた。
こんなんでもEDF製の武器だ。2、3発上手く当てれば一体は殺せる。
前面では冷泉中尉がレイピアで壁を作ってる。
「俺はついでっすかー。と言っても、こっちも力不足は否めないっすけどね。せめて狙撃銃があれば……」
一方水原はというと、狙撃銃を失ってAS-20で弾幕を張っている。
コイツは狙撃のセンスはピカイチだが、こういう状況じゃぁあんま役立たねぇんだよなぁ。
とは言え、ここまで追い詰められればオレも大差ないか。
「バカお前、男が女の前で弱音なんか吐くんじゃねぇよ! かっこ悪いだろ! いや待て……ヘタレなお前と勇敢なオレの対比でオレに桜が惚れる可能性がアップ……?」
馬鹿言って水原と桜ちゃんの突っ込み待ち。
そうでも言ってなきゃ心を蝕まれそうになるほど、絶望の波が近くまで来ている。
「するかバカ! あ、いてて、やば……頭クラクラしてきた……」
桜ちゃんは右足と脇腹を負傷していて、出血が多かった。
今は治癒剤のお陰でもう血は止まっているが、その顔は蒼白で、とてもじゃないが見るに堪えない……。
「桜伍長!? 大丈夫っすか!?」
「大丈夫な訳ねぇだろ! クソ!! 桜もそうだが、重傷者の数が多すぎる! 特に玲香ちゃんと栗宮がやばい! 本当ならすぐ衛生兵呼ぶトコだが、まず来れねぇだろうな!」
水原の阿呆みたいな発言に苛ついてつい口調が荒くなっちまった。
玲香ちゃん――白石玲香は、下腹部と左足に酸の接射を受けて、今も苦しそうに悶えている。
栗宮は、左腕をフェンサーの装甲ごと巨大生物に噛み砕かれた。
玲香ちゃんが咄嗟に巨大生物を殺してなかったら、今頃左腕は無くなってたはずだ。
そしてオレだって左腕と右足と胸部のアーマーが溶けて貫通し、皮膚が焼け爛れている。
治癒剤のお陰で鈍痛くらいで済んでるが、それが無けりゃ痛みでのた打ち回っただろう。
しかし、ぶっちゃけた話、今のEDFの医療技術はマジで高いので、生きて帰りさえすれば、割と何とかなる率は高い。
重傷の玲香ちゃんや栗宮でさえもだ。
但しそれは、ここから生きて帰れたらの話だが……。
「ってかコレ、レイドシップ撃墜したところで、俺ら無事に帰れるんすかね……?」
そんなオレの心境を読んだかのように、水原が小声でオレに言う。
負傷して気弱になっている桜ちゃん達へのなけなしの配慮のつもりか。
「……さあな」
それに対し、オレは明言を避けるように言葉を濁した。
恐らく皆このままだとどうなるか分かってはいるが、それを口に出したくは無かった。
かーっ、オレも相当チキンだわ。
「……はは、やっぱそういう事っすか。まあ、薄々分かってたっすけど」
「お前、普段死ぬほど頭悪いのになんでこういう時だけ無駄に察しが良いんだよ。腹立つな」
なんだか、水原にここまで察せられると、言葉とは裏腹に腹も立たない。
多分だが、今オレ、何か色々諦めたような気の抜けきった笑顔になってんじゃないかな?
「ま、俺って基本ネガティブっすから。でもま、今までも何とかなったんだし、今回もなんやかんやでワンチャンあんじゃないっすか? 死んだら死んだでもうしゃーないっすよこれは」
「お前絶対ネガティブじゃねぇだろ! まあこの状況で諦めないだけマシだと思うけどな! いや諦めてんのか?」
気弱が一周回って能天気になったような訳分らん性格してるからな、コイツ。
まあでも、それでも銃を手放さない限り、お前を信じるからな?
――side:仙崎誠――
「瀬川! 補給コンテナが来たぞ!」
門倉大尉が叫んだ。
上空から、パラシュートを展開し、降下するコンテナが来る。
「プラズマエネルギー、冷却完了! 行くわ!」
瀬川は、補給コンテナ目掛けて飛びだった。
それに反応した巨大生物は、一斉に瀬川に向き直る。
「撃てぇぇ! 瀬川少尉を援護しろォォ!!」
「「うおおおぉぉぉぉ!!」」
大林中尉の号令で、撃てる奴は撃ち尽くす勢いで残り少ない弾薬を、隙が出来た巨大生物に叩きこむ。
その攻撃で大量の巨大生物を討ち取り、奇しくも瀬川が囮の役割を果たしていた。
「掴んだ! たああぁぁぁ!!」
瀬川が補給コンテナを空中で掴み、こちらへ引っ張ってくる。
同時に、大量の酸が瀬川を襲う。
「やば、ユニットが……きゃあぁぁ!」
「瀬川ぁッ!!」
我々の陣地まであと少し、と言う所で、ユニットを溶かされ、瀬川と補給コンテナが墜落した。
瀬川はそのまま巨大生物の群れに飲み込まれてしまう。
あんな大群に囲まれれば、いくらウイングダイバーと言えど命は無い!
そんなことを思う前に、私の体は動きだしていた。
私は不幸だった。
身近にいる人を傷付けるのが嫌になり、やがてそれもどうでもよくなった時期もあった。
そんな時期を、様々な助けを借りて乗り越え、まともな感性を取り戻し、初めて好きになった人なのだ。
これを愛と呼ぶのかどうかはまだ分からない。
もっと積み重ねた重い何かがあるのが当然で、一目惚れなど一時の感情に過ぎないのかもしれない。
だが、今もこの胸の思いは彼女に向いていて、何が何でも失う訳にはいかないと思った。
何より、EDFは決して仲間を見捨てない。
だから、何を言われようと、ここで私が走り出すのは必然なのだ。
「仙崎!? 無茶だ!!」
「どけぇ!! 巨大生物共ッ!!」
荒瀬軍曹の声が聞こえるが、無視する。
私は声を荒げショットガンをぶち込む。
そのまま巨大生物の群れに飛び込み、襲い掛かる牙と酸を寸前で躱して前進する。
ひしめく巨大生物自体を盾にして、下手をすれば巨体と巨体に押しつぶされそうな隙間を擦り抜け、酸の接射を受ける可能性のある真下を潜り抜け、直感に従ってあらゆる死の危険を躱す。
しかし、全ての危険を躱すことは出来ず、少しずつ酸による攻撃で、アーマーが蝕まれていく。
右腕のアーマーが貫通し、酸が皮膚を、肉を溶かし始めて、ショットガンが手から離れる。
その隙を縫った訳ではないだろうが、巨大生物が巨大な牙を広げて迫る。
すかさず、左手で最後の兵装、対巨大生物用9mm拳銃を腰から取り出し、痛む右手を添えて撃つ。
グロテスクな口内に弾丸は直撃し、動きが止まったそれを無視して突き進む。
「あれか!?」
そんな行為を二、三度繰り返した後、巨大生物の群れの中心で、赤い光と巨大生物の断末魔が聞こえた。
瀬川だ!
私は無我夢中でその場所に飛び込んだ。
「無事か!? 瀬川!!」
「ちょ、アンタ……どうやって、こんなとこまで……!?」
一目見て、かなり負傷している事が分かった。
右足は、落下時の衝撃だろう、骨折に加え裂傷があり、歩ける状態ではない。
巨大生物に齧られたのか、背中にも大きな裂傷があり、出血している。
その他、酸を喰らい、全身のアーマースーツは溶けかけている。
服の下では、酸の火傷も複数あるだろう。
そんな状態でも無事なのは、やはり広範囲近接兵器、レイピアの存在が大きかったのか。
恐らく齧られた時も、噛み千切られる前にレイピアを照射したのだろうか。
そして、頑丈に作られた補給コンテナ3基を背にして、正面近距離をレイピアで、遠距離の敵をコンテナからもぎ取ったUM-2Aグレネードランチャーで処理していた。
「治癒剤は打ったのか!?」
「はぁ、はぁっ、こんな状況で、そんな暇、ないわよ……」
息絶え絶えの状態で話す瀬川は、受け答えすら苦しそうだった。
「まったく! 良く意識が保てるものだ!」
補給コンテナから治癒剤を取り出し、首筋に打ち込む。
即効性の治癒効果と鎮痛剤を含む薬剤が体に回り、瀬川はだいぶ楽そうな表情に変わる。
同時に弾薬も補給し、片手でバッファローG2を撃って隙を作らない。
「あの、さ。悪いけど、アタシもアンタも、死ぬわよ」
「死なん!! 貴様らしくも無い事を言うな!!」
私は、こんな状態でも奮戦する彼女らしくない言動に、思わず怒鳴った。
「アタシもそんな事言いたくないんだけどね……、でも、ユニットがさ、壊れちゃって、冷却出来ないの。つまり」
今まで突撃する巨大生物を切り刻んでいた光の放射が、消えた。
「もうコレ、使えないのよ……! くそぉっ!!」
怒りとも悲愴ともつかない表情で、瀬川はレイピアを放り投げる。
レイピアは巨大生物に喰われ、そしてもうレイピアによる抵抗が無いと知った巨大生物は、禍々しく笑うような仕草をした。
少なくとも私にはそう見えた。
だから、私はコンテナからゴリアスDを取り出し、目前の巨大生物に撃った。
「ぬぁはははー! それが何だ!! 私が居る! 貴様もまだ生きている! なら可能性は無限だ! なにより、貴様からまだあの答えを聞いていないではないか!! そんな状態で死ねるかぁぁ!!」
自爆寸前の範囲攻撃で、目前の巨大生物数体が死骸となった。
レイピアは強力だが、死骸ごと切り裂いてしまうので、盾にするなら、この方がいい。
「っ……! それがアンタの原動力になるなら、まだ教える訳には行かないわね。でも、いくら何でもこのままじゃ……!」
瀬川は既にウイングダイバーとしての機能を消失し、扱いやすいAS-20とUM-2Aで戦っている。
すぐゴリアスDを撃ち尽くし、AS-20Rに切り替えて弾幕を張る。
酸の大半は死骸で防げるが、それでも全てではない。
そして、避けるスペースが確保できない以上、私は瀬川の盾となって酸を受ける。
三重の防酸加工を施されたアーマースーツの耐久度が底をつき、体の各所が酸に侵され、激痛が走る。
「ぐっ……、巨大生物め、やってくれる……!」
「ちょっと、避けなさいよ! アンタならそのくらい……!」
「ぬぅははは! げほっ、ぐっ、この程度、避けるまでも……」
「あるでしょ! こんな時に見栄張るな! もうここから逃げて! 私は、どうなってもいいから……!」
もはや見栄を張る余裕すら無くなりそうな私を見て、瀬川が悲痛に叫ぶ。
ほんの一瞬だけ振り返ったが、彼女の泣いている顔が、はっきりと脳裏に焼き付いた。
彼女には、そんな顔をして欲しくなかったから。
だから私は、そんな雰囲気に飲まれるものかと、どこまでも見栄と意地を張り続ける事にした。
「笑わせるな! そんな台詞を吐かれて、はいそうですかと言う奴がいると本気で思っているのか!? それに、勝手に悲壮感に浸ってるとこ悪いが! 私は、ここで死ぬ気は更々ないからな! よって貴様も死なない!」
「なんでっ……、アンタはそんなに強いの!」
「死神に好かれ過ぎて、強くあるしかなかったのでな!」
そんな台詞の掛け合いをしつつ、生き残れと自分に言い聞かせる。
そうでもしなければ、今の状況は本当に絶望的だったからだ。
そんな我々の抵抗に、フォーリナーは更なる絶望を与えた。
「見て! レイドシップが!」
レイドシップが我々のすぐ横を通過し、大量の巨大生物を投下した!
ただでさえ群がる巨大生物に、その倍の物量を投下され、最早一巻の終わりであった――
「この期に及んで増えるなんて……」
「ぬおおぉぉぉぉ!!」
――ただし、終わるのはレイドシップだ!!
私は、痛む体を押して補給コンテナから、希望の武器を握る。
先程偶然見つけたが、巨大生物に対してはオーバーキルなEDF製重火器。
その名は、ゴリアスS改。
228基地で私が使ったゴリアスSの、本格的な対巨大生物用として改良された重火力ロケットランチャーだ。
それをレイドシップのハッチ内部に狙いを定める。
直下ではないが、ハッチの装甲の隙間を狙ってギリギリ狙い撃つことが可能だ。
「沈めッ!!」
引き金を引く。
ゴリアスS改の大型弾頭が射出され、一直線に飛ぶ。
それは寸分の違いなくレイドシップ下部に命中し、高威力の爆薬が起爆し、瀕死だったレイドシップの転送装置を一撃で破壊する。
ハッチからシップ内部まで誘爆を起こし、空中で大きな炎があがる。
「うそ……レイドシップが……」
瀬川が呟く。
浮力を喪失したシップは、やがて地面に墜落し、大地を震わせる程の大爆発を起こした。
爆心地の巨大生物は粉々に砕け、その爆風が我々をも襲う。
私は、唖然とする瀬川を庇うように覆い、同時に態勢を低くして爆風から身を護る。
しかし、希望や達成感を感じる間も無く、巨大生物は襲い掛かってきた。
「くっ!」
どうやら、輸送艦を落としたから戦意喪失して撤退……とはならないらしい。
補給コンテナからもらったモンスーンショットガンを放つ。
威力もあって取り回しも良好な筈だが、今の体には一発撃つだけで傷に響く。
それを、治癒剤を撃ち込んで無理やり緩和させる。
「仙崎……アンタ、英雄じゃない。アタシの見る目も、間違ってなかったわね……」
最高の戦果だ。
人類史上、全地球防衛戦争史上まだ誰も成しえなかった偉業を、私は今成し遂げたのだ。
無敵艦と言われた難攻不落の敵浮遊船を、今この瞬間、地に叩き落した。
恐らくだが、きっとこの残骸を調査すれば数多の進歩が人類に芽生えるはずだ。
終わりの見えない無限の物量だった巨大生物に、勝てる見込みが現れたのだ。
だが。
私の心は、徐々に小さくなっていく瀬川の声にしか向いていなかった。
「瀬川ッ!! 消え入りそうな声で何を言っている! ここまでやったのだ! 絶対に生きて帰って、私の素晴らしい活躍を喧伝してもらわなければ割に合わぬ! おい!!」
私も、壮絶な状況と疲労によって、自分が何を言っているのかだんだん分からなくなってきた。
そして、それ以上に深刻な瀬川の事を、最早振り返ってる余裕すら無くなっている事が歯がゆい。
それ程、巨大生物の攻撃が激しくなっていた。
死骸のバリケードはもう幾十も溶けだし、新しく増える死骸より溶ける死骸の方が多くなりつつある。
そして、頑丈だった補給コンテナも溶けだし、せっかく仕入れた武器も殆どが使い物にならなくなった事だろう。
レイドシップは撃墜した。
人類初の快挙だが、しかしこの戦場に限っては最早何の意味も為さなかった行為なのではないか。
しかし、しかしだ。
それでも私は、引き金を引くことを止めない、止めたくはない。
だがどうする?
このままここで戦っていても巨大生物を殲滅することは出来ない。
かといって瀬川を担いでここを離れる訳にもいかない。
そんなことをしたら十秒も経たずに体全てが蒸発する。
大林中尉達の救助を待つのも難しい。
今や弾薬の枯渇は致命的だろう。
そもそも今彼らは無事なのだろうか、それすら怪しい。
そして長らく気にも留めていなかったが、無線機は酸で壊れている。
ただでさえ来るはずのない援軍を打診する事も、レイドシップを撃墜したという報告をすることも出来ない。
「いい加減、認めなさいよ……。アタシ達、もう詰んでんのよ……。あ~ぁ、やっぱ補給コンテナ引っ張ってくるのが失敗だったか! げほっ、それとも、冷泉中尉にお願いしたら、もっと上手くやれたのかなぁ……」
「……瀬川、やめろ」
ただそれでも、我がままかも知れないが、瀬川のそんな諦めの台詞を、私は聞きたくなかった。
いや、こんな状況になっても、諦められない私の方が大人げないだけなのかも知れんな。
だからだろうか。
瀬川の口から、とある数字の羅列が聞こえてきたとき、私の中で何かが崩れ落ちたような気がした。
「な、にを……」
「私の連絡先。生き残って再会するの、ちょっと無理そうだから。特別よ」
「ふざけるな!! こんな、こんな形で、知りたいわけが無いだろう……!」
”回答は保留! 悔しかったら次の戦い絶対に生き残って、また私に会いに来なさい!! 死んだら許さないから! んじゃっ!”
そんな約束をした。
生き残って、再び会う。
その約束は今、果たされたのだろうか、それとも破られたのだろうか?
そんな事を考える私を、影が包み込んだ。