全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第十九話 スチールレイン作戦(Ⅴ)

――2023年1月18日明朝 旧町田市――

 

 絶望的な我々の周囲を、朝日を遮る影が覆いつくした。

 まさか、別のレイドシップが直上に?

 

 反射的に上を見ると、そこには予想外の光景が広がっていた。

 

「C-27輸送機……グローブマスターだと……!?」

 

 それは、米空軍保有の大型長距離輸送機。

 超低空飛行で三機。

 

 その輸送機は、低空で貨物ハッチを開放し、そこから米陸軍の歩兵戦闘車ストライカーや機械化歩兵装甲(パワードスーツ)を次々と空中投下した。

 

 低空で投下された数輛のストライカーは、墜落と言った方がしっくりくる程の衝撃で地面に降り立ち、そのままの勢いで巨大生物を撥ね殺してゆく。

 その衝撃に私は立っていられず思わず転倒する。

 

 そのうちの一輛がドリフトの要領で巨大生物を撥ね殺しながら我々の目前で停車する。

 外部に掴まって共に降下した機械化歩兵がすぐさま戦闘状態に入る。 

 

『バスター6よりオールハンズ! 上客のもてなしは歩兵共に任せて、俺達はマナーが悪いのをやるぞ』

 

『yes`sir!!』

 

『なんとも悪質なクレーマーだらけだ!』

 

『鉛玉のサービスだ! 受け取れ!』

 

 機械化歩兵は外部スピーカで声を出す。

 重火器で巨大生物を屠っていくが、飛ぶ酸に対してはほぼ回避行動を取らずに直撃している。

 米陸軍機械化歩兵装甲――正式名称、FB-6CハーディマンⅡ

 その大きさは2mを超え、同じカテゴリであるEDFのフェンサーと比べると一回り大きい。

 全身を完全に装甲で覆っており、フェンサーよりも防御力に優れる。

 

 フェンサーが災害救助や作業用としても利用できる汎用型からの発展であるのに対し、ハーディマンは設計から軍事用である。

 故にマニュピレーターは存在せず、腕部の武装は全てアタッチメント換装式になっている。

 フェンサーに比べ整備や信頼性に優れるが、細かい作業は出来ない。

 

 そんな純戦闘兵器なハーディマン部隊に変わって、瀕死の我々に向かってきたのは米軍歩兵部隊だ。

 ……と思ったのだが、倒れる私に手を差し伸べたのは、皺の目立つ初老の軍人。

 しかも、数人の歩兵に囲まれた、豪華な軍服を着ている明らかな高級軍人だった。

 

「よく頑張った! EDFの伍長!! まさか本当にレイドシップを撃墜して見せるとは! 素晴らしい!!」

 

 手を差し伸べ引き立たせたかと思ったら、いきなりわはは! と大爆笑をし始めた。

 なんなのだこのお方は……。

 

 そう思って何気なく階級章を確認したら……中将!?

 アメリカ陸軍中将!?

 軍の中枢を束ねるうちの一人ではないか!!

 日本に居る米軍中将とはまさか……。

 

「ウィリアム・D・バーグス中将……、まさか、在日米軍司令官のバーグス中将閣下でありますか!?」

 

 瀬川が声を震わせて驚愕する。

 私も同じ思いだ。

 まさか、こんな大物中の大物が、いつ死ぬとも知れない最前線……いやそれ以上の孤立した戦場に立つとは……。

 

「その通りだが、今はそんな事よりも一刻も早い治療が望ましいな。リゼリット、そちらのウイングダイバーに肩を貸してやりなさい」

 

「はっ!」

 

「よし、第一小隊は撤収! それ以外は本隊到着までの2分間、ここを確保しろ! 西に居たEDF小隊の方はどうなっている?」

 

「はっ! 重傷者多数ですが全員収容しました!」

 

「素晴らしい!! 彼らはレイドシップを撃沈せしめた英雄だ! 敬意をもって前哨基地2-6まで送り届け給え。言うまでもないが、最後まで油断するなと伝えてくれ」

 

「sir! yas`sir!!」

 

 安堵感と驚愕に疲れたのか、私はなんだか意識が遠くなっていた。

 気づいたら、バーグス中将に肩を預けていた。

 高級な軍服が血に濡れるが、中将はまったく気にしない。

 

「ゴールドタイガーよりバスター6。過酷な任務だが、君ならやり遂げてくれると信じている! 素晴らしい結果を待っているぞ」

 

『sir! yes`sir!! お任せください!』

 

 そして、無線を送りながら酸が飛び交う戦場を平然と歩き出し、私を思いのほか優しい手つきでストライカー装甲車の内部に運んだ。

 直ぐにストライカーは動き出した。

 どうやら、先頭をハーディマンで切り開きながら速度重視で撤退するようだ。

 まだ複数のレイドシップは健在なので殲滅は不可能だし、元より回収後速やかに離脱する作戦だったのだろう。

 恐らく、降下から今までおよそ5分程度しか経っていない。

 

「少佐、我が部隊の損害は?」

 

「はっ。歩兵部隊は重傷者4名。戦死者2名……アリエッタとハンスがやられました」

 

「そうか……私の無茶につき合わせたな……。彼らに心よりの感謝と敬意を」

 

 バーグス中将は、離脱した戦場に向かって敬礼した。

 他の兵士も手の空いている人は同じように敬礼をしていた。

 

 その姿を見て、薄れゆく意識で私は感動すると同時に、やはり分からなかった。

 彼らはなぜ、そんな危険を冒してまで我々を助けたのだろうか。

 いくらレイドシップを撃墜したと言っても、我々は所詮たった10数人の歩兵に過ぎない。

 戦略的な要衝を取り戻す訳でもなく、今後の作戦で重要な戦力になるわけでもない。

 まして、中将閣下本人が動く理由など微塵もない筈だ。

 

「バーグス中将……なぜ、我々を……?」

 

 私はかすれる声で聞いてみた。

 

「なぜ、か。たった数人でレイドシップを撃墜すると言った勇敢な諸君らに会って話してみたかったのだよ! そしてそんな彼らをむざむざ死地に置き去りにするなど、常識的に考えて出来る訳がないだろう! 我らは所属する国も組織も違うが、今は共に戦う戦友だ。本国で無能と罵られようとな! まあ、それはそれとして、撃墜したレイドシップの残骸を確保するという目的もある。アメリカ本国的にはそちらが本命だろうな。とは言え、貴重なモノだ。俺達が手を付けてしまったら、EDFと本国が互いに所有権を主張し合ってややこしくなるのだが……、しかし失礼だが今のEDF極東軍にこれを回収する余裕は無く――おっと失礼! 長く語りすぎたな」 

 

「いえ……なんとかく、分かりました」

 

 高いテンションで語りだす中将閣下に、聞いておきながら失礼かと思うが、働かない脳みそでは半分も理解できなかった。

 ただ、そんな理由で戦場に赴く閣下の部下に不満そうな顔など一つも無かったから、私は閣下の部下を少し羨ましいと思った。

 

「アタシ達、助かったのね……」

 

 隣には、硬いシートに乗せられ、衛生兵に応急処置を受ける瀬川の姿があった。

 もっとも、私もほぼ同じ状況だが。

 

「ああ。はは、やはり連絡先を言ったのは早計だったようだな。見ろ、この通り我々は生きている。後で私から電話がかかってくるのを楽しみに待っているのだな……」

 

 かすれる声で言葉を紡ぐ。

 

「あんな状況で言われた番号、よく覚えてるわね……。それにしても、連絡先聞きだすだけでこんなに瀕死にならなきゃいけないなんて、アンタも大変ね……」

 

「それを言うなら、教えるだけでそんな瀕死になってる君も同じだろう……」

 

「まったく、そうね……」

 

 その言葉を最後に、我々二人は安堵感に包まれて意識を失った。

 

 

――神奈川県横須賀市 EDF極東方面第11軍司令本部基地 作戦指令本部――

 

 

 時間は、レイドシップ撃墜以前まで遡る。

 

「在日米軍が動き出しただと?」

 

 バレイル3への救出部隊を編成していた作戦指令本部司令官の榊司令は、戦略情報部リーヴス少佐からの報告に眉を潜めた。

 

「はい。米軍座間キャンプで三機のC-27輸送機が離陸準備を行っています。恐らく第二ストライカー旅団戦闘団でしょう」

 

 さすがは戦略情報部。

 他国軍の動きにはかなり敏感らしい、情報の出どころは不明だが。

 

「しかし三機となるとかなりの戦力だな。どこへ向かうのか分かっているのか?」

 

 C-27輸送機は、歩兵戦闘車ストライカーを最大三輛と、一個小隊のハーディマンを搭載可能だ。

 故に、ストライカー九輛と随伴歩兵、ハーディマン一個中隊というおよそ一個大隊規模の戦力だ。

 

「いえ。EDFや自衛隊にも正式な通告は無いようです。恐らくですがほぼ独断に近い突発的な動きと予想されます」

 

「あの閣下のやりそうな事だ……少し羨ましい……」

 

 小声で榊が呟いた。

 

「何か言いました?」

 

「いや、何も」

 

 咳ばらいをして榊が誤魔化すと、オペレーターの一人が声を上げた。

 

「榊司令! レンジャー2-2指揮官から通信です!」

 

 すぐに榊は手元のマイクを操作して通信を繋げた。

 

「こちら本部! 軍曹、無事か!?」

 

『朗報だやったぞ! レイドシップをついに撃墜した!』

 

 その報告に、作戦指令本部の要員は歓喜した。

 

「本当か軍曹!! よくやった!」

 

「素晴らしい戦果です! この情報は、我々に勝利をもたらすでしょう。直ちに世界中にデータを送信します」

 

 リーヴス少佐は機器を操作して、世界中のEDFにレイドシップ撃墜を知らせた。

 これだけで士気は劇的に上がるだろう。

 

「本当によくやってくれた軍曹。君は世界の英雄だ!」

 

『いや、英雄なら俺ではない。最後の一撃を与えたのは……仙崎だ』

 

 その名前を榊は知っている。

 つい半年前まで民間人だったが、実は元EDF兵士で、以前ある部隊で大きな戦果を残した後部隊を去っている。

 気になった経歴だったので記憶にとどめていたが、やはり荒瀬の目は正しかったという事か。

 

「仙崎誠伍長、ですか……。彼の事は、覚えておきましょう」

 

 リーヴス少佐も独自の情報網で知っていたのか、興味深そうに名前を告げる。

 

「軍曹。こちらは早急に救援部隊を編制中だ。状況が厳しいのは分かっている……だが、もう少しだけ耐えてくれ! 必ず助ける!」

 

 何度かの報告で、既に死者や重傷者であふれ、弾薬もまともに無いという事は知っている。

 知ったうえで、これしか言えない歯がゆさに榊は千切れそうだった。

 

「榊司令! 米軍輸送機が座間キャンプ滑走路から離陸しました! 北東方面へ飛行中!」

 

 そんな榊の耳に、状況の変化を知らせる声が聞こえた。

 

「……話を戻します。推測ですが、米軍の目的は、恐らくバレイル3でしょう」

 

「ああ。私もそう思う。座間駐屯地に援軍要請した情報が漏れたのだろう。まあ、同じ敷地なんだからそれは無理もない。だとすれば」

 

「ええ、米軍の目的は――」

 

 二人の声が重なる。

 

「――レイドシップの残骸の回収でしょう」

 

「――奮戦するバレイル3の救出と離脱か」

 

 違う答えに、一瞬の沈黙が訪れる。

 

「EDF現地部隊の救出が目的? いえ、それは難しいでしょう。結果的に援軍になるとしても、彼らに構っている暇はないのでは? 現地は未だ数千の巨大生物に囲まれています」

 

 事実だ。

 常識で考えれば、負傷者を回収し離脱するリスクは高すぎる。

 その分余計に戦力を裂くことになる。

 

「いや、バーグス中将がこの状況を知っていて見逃すとは思えん。輸送に最適なストライカー旅団戦闘団を使う事からも間違いない」

 

「それは単に歩兵を含めた大量の戦力を降下させるための方法でしょう。それに在日米軍の他の戦力を動き始めています。恐らくかなりの戦力を使ってレイドシップの残骸を確保、独占する事が狙いかと思われます。阻止しますか?」

 

 阻止、といいうのはリーヴス少佐の情報網、交渉術を以てしての情報戦を仕掛ける、という意味だろう。

 彼女の得意分野でもある。

 

「冗談はよしてくれ少佐。そんなことで米軍との関係を悪化させたくない」

 

 ただでさえ米軍の力が大きく、駐留米軍撤退派の声が大きい中で、関係悪化は日本にとっても死活問題だ。

 

「ですが、レイドシップの残骸は、もし手に入れられれば対レイドシップの切り札となりえます。その利益を最も高く昇華できるのは、やはりEDF先進技術開発部において他ならないかと」

 

「それは分かっている。だがそんな事にはならない。バーグス中将なら、その辺の事もちゃんとわかっているさ。彼に任せよう」

 

「……少将は彼を随分と信頼されているようですが、何か信頼に足る根拠があるのですか?」

 

 一見他力本願な態度から、リーヴス少佐は少し不満げな表情を見せる。

 

「しいて言うなら、心だな」

 

「はぁ。心、ですか」

 

「数字や計算でしか判断できないか? だが所詮、物事を動かすのは人間の心だ」

 

「理屈は分かります。ですが、些か以上に信頼性に欠けるかと」

 

 心と言うのは不確かで移ろいやすく信用ならないもの。

 だがこの男は、もしかしたらそんな心を理解していくからこそ、人望が厚いのか。

 そんな風にリーヴス少佐は考え始めた。

 

「そう言うな。悪い結果にはならんと思うし、それ以前に我々は他にやらねばならん事が山程ある。喧嘩腰になる必要は無いが、一応残骸の所有権を主張する用意をしていてくれ」

 

「分かりました」

 

 ひとまず、彼に預けて結果を見てみましょうか。

 そんな思いで、リーヴス少佐はこの件を納得する事にした。

 




今回は短めです。
やりたいとこは終わったんで後はサクっと行く感じにしました。
とは言え、動きが無い割に色々調べる事が多い話になって、ちょっと時間かかりました。

ではサクッと用語解説行ってみます!

▼ウィリアム・D・バーグス(52)
 在日アメリカ軍司令官、兼第五陸軍司令官。
 階級は中将。
 行動力溢れる軍人で、士気向上や単に行きたいからという理由で前線に押しかけたり戦ったりする。
 士官学校卒業から長く前線に勤めていたこともあって、兵士としても指揮官としても有能。
 だが突発的に行動する事も多くアメリカ本国との仲は悪い。
 敵が多い一方で味方も多く、かなり人望は厚い。
 (在日米軍司令官は、現実では歴代第五空軍司令官が兼任しているという話でしたが、地上で指揮するイメージからなんとなく陸軍に変えました)

▼C-27輸送機”グローブマスターⅣ”
 C-17輸送機”グローブマスターⅢ”の後継機。
 最大積載重量としてはC-17を少し上回る程度にとどまっているが、大きな違いは強化外骨格装甲ハーディマンの運用を前提にした作りになっている事。
 ストライカー旅団戦闘団や、機械化歩兵旅団の運用で有名。
 (別にC-17で良かったんだけど、時代も技術も進んでるから新しいの作りました)

▼FB-6CハーディマンⅡ
 アメリカ陸軍が開発した次世代型機械化歩兵装甲。
 EDFでしか運用されないフェンサーと違い、世界各国の軍隊で運用されている為配備数は多い。
 しかし仕様上接近攻撃や戦闘以外の行動は苦手な為、汎用性は少ない。
 またフェンサーに比べ高火力重装甲だが、それを求めるなら戦車には敵わない。
 この事から適度な装甲、火力、機動性、汎用性を備えたフェンサーが機械化歩兵の完成形とも言われている。
 (モデルは当然マブラヴオルタネイティヴの機械化歩兵装甲。
 外見イメージは87式機械化歩兵装甲(これは日本帝国軍の物ですが)
 名前は米軍の月面戦争時代の兵器から頂きました)


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