全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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ながらくお待たせしました!
更新頻度かなり落ちましたが、なんとか頑張っていきます



第二十四話 多眼の凶蟲

――2023年2月6日(海上でのガンシップ発見直後) 神奈川県横須賀市 極東方面第11軍司令本部基地――

 

 極東本部の作戦司令室は、敵航空兵器の発見で慌ただしさの真っただ中にあった。

 

「哨戒艇、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の多数が既に撃沈! 敵攻撃、尚も苛烈です!」

「航空部隊も大半がやられました! 敵の侵攻、防げません!」

「マザーシップの様子は!? 誰か確認できるか!?」

『それどころじゃない! こっちは死ぬ寸前で――うわあぁぁぁぁ!!』

『本部! 本部! マザーシップは高度を上げて移動した! ここにはいない!』

「艦隊は空母を下げろ! この戦力で応戦は不可能だ!」

「何を言っている!? 艦隊を下げれば敵航空兵器が本土に流れ込むぞ!! そうなれば地獄だ!」

「だからと言って、艦隊でこれ以上の防衛は不可能です!」

 

 オペレーターが、各級指揮官がこの非常時に対応すべく声を荒げている。

 無論、基地司令官の榊も例外ではない。

 

「第三戦隊は全速で後退させろ! 敵航空兵器は、自衛隊と共同で本土にて迎撃する!」

 榊が作戦司令室を見渡し、全員に命令する。

 

「しかし……今からそんな戦力抽出は……。まさか!?」

 司令部要員の一人が、何かに思い当たり声を荒げる。

 

「マザーシップ迎撃用に配備した沿岸部の対空戦力を集結させる。場所は現在、戦略情報部が予測中だ」

 戦略情報部のリーヴス少佐とルアルディ中尉他、数名のスタッフが必死に情報を集め、ガンシップの行動分析をしている最中だった。

 

「未だガンシップは第三艦隊と交戦中ですが、断片的な偵察カメラによると飛行速度はそれ程速いとは言えないでしょう。恐らく、最短で本土へ到着するまで、二、三時間ほど猶予はあるはずです」

 

「それだけあれば戦力の移動は何とかなるだろう。……それにしても、欧州の新種、北米の歩行戦車に続きこの動き……どう思う?」

「やはり、レイドシップ撃墜を契機に、フォーリナーが本腰を入れてきた。そう解釈すべきでしょう」

 榊少将の言葉に、リーヴス少佐が答える。

 

「……だろうな。むしろ今までは、まったく本腰を入れていなかった訳だ。舐められたものだ」

「事実、それだけの戦力差が開いていると考えるべきかと。楽観的に考えても、これが彼らの全ての戦力であるとは到底思えません」

 マザーシップは初期の一週間以降、ジェノサイドキャノンを発射していない。

 いかなる理由か推し量ることは出来ないが、その気になればあれで瞬く間に地球を火の海にすることも可能な筈だ。

 明らかに手を抜いている、と思うべきだろう。

 

「私も同意見だ。だからこそ、奴らが本気を出す前に、我々は力を付けなければならない。現在開発部が、レイドシップの残骸から発見された未発見物質を研究し、新たな兵器を開発中だ」

「フォーリナー由来の物質……確か、フォーリニウムと名付けられたそうですね」

 フォーリニウムの研究にあたっては、茨城博士を筆頭とする天才達が解析と兵器への転用を模索しているところだ。

 

「あの白銀の装甲の元になっている物質だそうだ。それに加え、間も無く電磁投射砲(レールガン)搭載型戦車も配備される。まだまだ人類に手は残っている」

 他にも、榊少将の知らない極秘計画がEDF南極総司令部では進んでいたが、それは未だ公に出ることは無い。

 

「ッ!! 前哨基地2-6より緊急通信!! 町田市上小山田付近のレイドシップからβ型巨大生物出現!

第一級防衛基準態勢を発令しました!」

「それだけではありません! 戦線指揮所(アウトポスト)41、44、48にも巨大生物が殺到! 戦線全てで巨大生物の活動が活発化しています!」

 ただでさえ騒がしかった司令部が、より一層熱を増していく。

 

「おのれ……フォーリナーめ! ここで我々を殲滅しようとでもいうのか!?」

「戦線への同時強襲……。これでは、戦力を分散させるほかありませんね」

 2-6基地や戦線指揮所には一定の戦力を駐屯させているが、同時となるとその場にある戦力で対処する他ない。

 例えここへの通信が、援軍要請で溢れかえろうとも。

 

「致し方あるまい。……問題はガンシップの方だ。対空部隊を集めたとして、それで殲滅出来るか……?」

「まだ敵戦力の分析は出来ません。千機以上と言う物量は、恐るべき脅威であるとしか……」

 

「……やはり日本臨時政府に、茅ケ崎市以外の周辺都市の強制避難命令を出さるべきだろう」

「確かに、海岸が突破された場合、特に人口の多い厚木市や大和市で甚大な被害が予想されますが……」

 

 この辺りは戦線がいつ崩れてもおかしくないので、大部分の住民は既に避難を終えている。

 しかし、付近のEDF軍需・生産工場に勤務する市民や、それを支える電気ガス水道などインフラ整備に係わる市民や、その家族など、どうしても離れられない人間が少なからず残っていた。

 それを丸ごと避難させるという事は、この地域を放棄するに等しい事と言えた。

 

「施設や物資は、時がたてば立て直せる。しかし人間は……そうもいかん。感情論で言っているのではない。人が大勢死ねば、その分技術や知識と言ったその本人しかもっていないものも失われるのだ。それは日本の、人類の技術の後退を意味する。特に、こんな状況ではな」

 一人でも多くの優秀な人材を欲するこの戦争において、それは避けなければならない損失だ。

 そして、今残っている者の多くは、その貴重な技術屋達だ。

 

「しかし……大部分が避難したと言っても近辺の市民の人口は数十万人に上ります。それ程の大移動を行うなど……パニックになります」

「なに、我々日本国は常に災害と向き合ってきた国でな。多少の移動ではパニックなど起こさないさ」

 それこそが、他国にはない日本の強みの一つだった。

 榊少将が不敵な笑みを浮かべると、リーヴス少将は少しだけ驚いたような顔をして、

 

「そうですか。さすがですね」

 それだけ言って、ルアルディ中尉と共に敵艦載機の分析に戻った。

 

 

――前哨基地2-6付近――

 

 

 β型巨大生物が迫ってくる。

 我々は駆けながらその蜘蛛のような怪物に照準を合わせる。

 まだ私のアサルトライフルは射程外か。

 

 最初に撃ったのは、白石だった。

「仕留める」

 空中から長距離レーザー銃、クローズ・レーザーを照射する。

 その光線は、β型の皮膚を、やがては肉を焼き切り、数秒の照射の後β型は紫色の体液を吹き出し、動かなくなった。

 

「来るんじゃねェ!!」

 馬場が威力強化のD型AS-20を子気味良い間隔で放つ。

 一発、外れ。当たった自転車が砕け散る。

 一発、外れ。5m程の跳躍で躱される。 

 一発、命中。6つある巨大な目玉の一つが弾ける。

 一発、外れ。自動車のドアに大穴が開く

 一発、命中。脳天まで貫通したのか、奇怪な断末魔を上げて絶命する。

 

「ちくしょう! この距離じゃ全然当たらねェ! しかも跳ねて避けやがる!!」

「……へたくそ」

「なんだとォ!!」

 キレる馬場だが、白石は空中から正確に狙撃して既に五体を仕留めていた。

 

「だが、馬場のいう事も頷ける! これは狙うのは骨な相手であろう!」

「だよな大将!! しかも走りながらじゃあ仕方ねェって! 飛んでるヤツにこの辛さは分からねェよ! うらやましいぜまったく!」

 

「……あなたの体重じゃ無理」

「そりゃそうだろうな!」

 

「下らない事言ってる場合!? それにしても、アタシも遠距離持って来ればよかった!」

「瀬川は差し込まれた時の各個撃破を頼む! 移動しながらの戦闘だ、熱量に気を配れよ!」

「イエッサー! って、なんでアンタに言われてるのアタシ!?」

「ぬぁははは! さぁ射程に入るぞ! 浦田、桜、射撃ぃ! 葛木はもっと引き付けてから、まとめて吹き飛ばせ!!」

「「サー! イエッサー!!」」

「まあ、陸戦(レンジャー)の事は良く分からないし、もうアンタに任せるわよ!」

 アサルトライフルとショットガンの弾幕がβ型を襲う。

 しかし、それと同時にβ型が尻を振り上げて糸を放射状に放ってきた。

 しかも、一斉にだ。

 

「きゃっ! なんなのこれ!? 取れない!」

「くっそ! これがβ型の攻撃か!? くそ、動きが! この野郎!!」

 浦田と桜の二人が被弾した。

 人間の腕以上の太さの糸数本にからめとられ、大幅に動きを阻害される。

 必然、全員の移動が止まる。

 

「二人とも! そのまま撃つのだ!」

 私は回避出来たので、二人迫るβ型を排除する。

 

「仙崎! 上!!」

「なにっ!?」

 瀬川の声に反応し、咄嗟に右ステップ。

 頭上から糸が降ってきた。

 更に連続で、私の頭上をβ型が跳躍する。

 

「白石! そちらへ向かった!!」

「今……まずい」

「アタシが!!」

 白石はクローズレーザーのエネルギーリチャージ中で、それを瀬川がレイピアで切り裂く。

 

 その間に浦田と桜の動きを制限していた糸は、酸によって自壊していた。

 どうやら糸自体が一定時間たつと酸によって溶かされるらしい。

 

「あの糸酸も含んでる! たくさん喰らうとやばいよ~!」

「まったく動けない訳じゃないが、喰らって走るのは無理だな!」

 二人のアーマースーツは既に目に見えて酸の腐食が進んでいた。

 実はアーマースーツも初期型からアップグレードされているらしいが、まだ酸を完全に防ぐには程遠いようだ。

 

「でも、囲まれそうだよ!!」

 そして葛木の言う通り跳躍による機動力で、我々は半包囲されていた。

 左右と正面から、酸を含んだ粘着性の糸が飛んでくる!

 

「躱せ! 糸を躱すのだ!」

「無茶いうぜ大将!!」 

 私はなんとか、糸の軌道を予測して回避しながら、AS-20を撃ち続けた。

 しかし、糸の圧倒的な本数になんと私と瀬川、白石を除く皆は拘束されてしまった。 

 

「葛木! この大群ならば効果的だ! ゴリアスを放て!!」

「うっ……分かったよ! てやぁー!!」

 糸の粘着と酸で動きずらそうにしながら、ゴリアスDを放つ。

 大群の中心に放たれた爆発は、数体のβ型を一気に仕留める。

 

「こっちも頼むぜ! うじゃうじゃ居やがる!」

 浦田が右方向で弾幕を張っている。

 その方向に、葛木が何度かゴリアスを放ち、爆風と共にβ型の死骸の一部が吹き飛ぶ。

 

「早くして! 後ろにもβ型が集まって来てるわよ!」

「……これはちょっとマズイ」

 我々が逃げるべき進行方向はウイングダイバーの白石と瀬川が護っているが、次々とβ型が跳躍してくる。

 

 ――蟻型……α型と比べ、アサルトライフルと同程度の射程距離。

 粘着による拘束と、染み出す酸の攻撃力。

 更に糸という性質上大きく広い当たり判定。

 跳躍による機動力の高さ、足の速さ、そして回避性能。

 

 欧州での情報通り、凶悪な巨大生物だ。

 唯一の救いは、α型のように甲殻に覆われていない分、防御力が薄い事くらいか。

 そんな凶蟲とでも言うべき敵に、我々は包囲されつつあった。

 

 こちらは7人。

 敵は、不明……この様子だと、少なくとも千体以上はいるだろうか。 

 

「葛木! ゴリアスをあそこに! 今ならまとめてふっ飛ばせるぜ!」

「ごめん! もう弾切れなんだ……」

「なにィ!?」

 馬場が葛木に爆破を頼むが、無理なようだ。

 無理もない、ゴリアスDは弾頭の小型化によってマガジン式となったロケットランチャーだが、最大4発しか装填出来ない。

 

「弾薬の無くなった武器は放棄して、移動に集中して! でもこのままじゃ……もうどうしよう!」

 追い詰められた状況に、臨時とは言え指揮権を与えられていた瀬川は思考が纏まらない。

 それでも高機動を生かしレイピアで移動しつつβ型を屠っているのは流石と言うべきか。

 

「ええい取り乱すな! 2-6まで残り僅か! とにかく足を止めずに走れ! 敵の撃破よりも味方の被弾に気を配れ! 絡め取ったβ型の撃破を最優先とし、接近する個体のみ相手にするのだ! 近距離で放たれれば恐らくシャレになるまいが、多少の被弾ではこの通り命とりにはならん! いいな!?」

「「サー! イエッサー!!」」

 

 この状況で一番まずいのは攻撃で足が止まり、孤立して糸ダルマにされる……もしくは、隊全体の足が止まり、完全に包囲される事。

 移動していれば被弾も減るし、何より2-6基地へ近づく。

 問題はβ型の糸という拘束手段だが、完全に身動きが取れなくなるほどではない

 

 そして葛木をきっかけに、全員の弾薬が無くなるという恐怖もあった。

 そんな過酷な状況から数分。

 

「!! 見えてきたわ! 2-6基地よ! ……って、思った通りあっちもヤバそうだけど!!」

 瀬川の声に振り向くと、そこには塀で囲まれた基地を乗り越え、α型やβ型の集る建物の姿が確認できた。

 そして人類の反撃か、至る所で銃弾や砲弾が炸裂しその度に巨大生物の汚らしい体液が噴出していく。

 

「……向こうも修羅場」

「ええい構うものか! 味方がいる分今よりはマシだろう! 全員突撃だぁぁ!!」

「「うおおおぉぉぉぉ!!」」

 我々も限界だ。

 なりふり構わず走り、破壊された塀をくぐり基地の内部に入り込む。

 

「うわぁ! なんだ!?」

「待て! 味方だ!」

 急いで駆け込んだら、陣地を作っていた歩兵に銃口を向けられた。

 

「味方だと!? 援軍が来たのか!? 一体どこから……、しかもウイングダイバーまで!」

「いやまて、それにしては妙にズタボロだぞ?」

 味方の歩兵が困惑する。 

 

「説明は後! 私達も追われてるのよ! その壁からβ型が来るわ! 撃って!」

 瀬川が我々が来た方向に銃口を向ける。

 β型は既に基地内へ侵入を始めていた。

 

「なに!? うわあぁぁ来やがった! 射撃、射撃しろぉぉーー!!」

「すまん! そこの武器借りるぞ!」

「勝手に使え! だから撃て!!」

「サー! イエッサー!!」

 ペイルウイングの二人はユニット冷却を終了し、我々は補給コンテナに置いてあった武器を適当に掴み取り、迎撃する。

 

「おおい貴様ら! その一帯を空爆する! 歩兵は下がれ!」

 後ろから、エアレイダーの一人が声を掛ける。

 手元のコンソールを操作して要請を行ったようだ。

 

「イエッサー! そこの敗残兵ども! 引くぞ!!」

「敗残兵って俺達の事かよ!」

「ま~今はその通りじゃんね。いいから逃げよ!」

 ここの部隊の隊長らしき人物の声で、我々は外壁から撤退した。

 直後、攻撃機アルテミスと思われる機体が、一帯をロケット砲で爆撃していった。

 

「この援護をもっとオレ達に寄こして欲しかったが……」

「基地がこの有様じゃ仕方ないよ」

 浦田と葛木が話しながら、残党を片付ける。

 数分後、空軍の援護もあって我々の周囲に限り巨大生物は制圧した。

 

「貴様ら、一体どこの所属だ?」

「はっ! 我々はペイルウイング2、レンジャー2の混成分隊です。私はその臨時指揮官、瀬川少尉です。軍病院へ彼女、白石少尉を引き取った帰路、巨大生物に襲われました」

 瀬川が、ここの部隊の隊長に説明する。

 

「なるほど、それは災難だったな。私は第13ブレイク中隊指揮官の森本大尉だ。巨大生物の勢いは終息に向かっているそうだ。貴様らは北門へ向かい、原隊復帰して命令に従え」

「サー! イエッサー!」

 

 そうして我々は基地を移動し、北門を目指した。

 

「基地に侵入した敵は粗方排除し終わってるみたいね……」

 現在は基地内での戦闘は殆ど終わっているようで、至る所に巨大生物や、戦った兵士の死体が散乱している。

 基地の施設は焼け、崩れ、ヘリや戦車の残骸が朽ち果てている。

 

「酷いものだな……これだけの被害とは……」

 前哨基地2-6は、西関東防衛線の要だったはずだ。

 それが短時間でこの惨事とは、酷いものだ。

 

「僕たちがいないうちにこんな事に……」

「……あそこ。まだ戦闘してる」

「おい! あっちに居るのは軍曹だ! 急ごうぜ!」

 葛木、白石、馬場が走り出す。

 

「オラオラァ! 敵はまだ多い! 油断すンじゃねェぞおめェらァァ!!」

「新垣! 施設の破壊は気にすんな! まとめてぶっ放せ! 水原ぁ! 遠距離の敵ばっか狙ってんじゃねぇぞ! カバーするこっちの身にもなりやがれってんだ!!」  

 離れていても、銃声より大きな鷲田少尉と鈴城軍曹の怒声が聞こえてきた。

 

「だぁははは! 大破壊ですぞぉぉ!!」

「さっき兎に角狙撃してろって言ったじゃないっすか! パワハラっすよー!!」

 新垣はゴリアスDでα型の集団を建物ごと吹き飛ばし、水原は愚痴を零しながら武器をAS-20Rに切り替え、近づいたβ型を撃破する。

 

「まったく煩いもんだねぇ……。少しは静かにやってほしいもんだ」

「お前は少しマイペース過ぎだがな! だが、その冷静さは助かっている。!? お前達、無事だったか!?」

 二ノ宮軍曹と荒瀬軍曹が、我々に気付いた。

 

「白石、瀬川! よく辿り着いた! 手を貸せるか!?」

 近くで戦っていたペイルウイング2隊長……確か冷泉中尉と言ったか、彼女も近くに着地して話しかけた。

 

「……疲れたけど行けます」

「頑張ります! てなわけでアタシ達これにて解散ね! あぁ~! やっと重荷が下りたわ!」

 晴れやかな笑顔で瀬川はユニットの排熱を行う。

 

「殆ど指揮したの私だったけどな!」

「そう言えばそうだったわね。アンタ指揮官の才能あるんじゃない? 出世したら、もうちょっと仲良くなって上げるわよ! んじゃ!」

 素敵な笑顔を残して、瀬川は上空に飛び立った。

 

「ぬぅん……なんか私手玉に取られてないか……?」

「諦めろよ、惚れた方が負けだぜ?」

「ま、葵っちも楽しそうだしいいじゃんいいじゃん」

 両肩を浦田と桜にポンと叩かれ、妙な気分になる。

 もしかして、慰められてるのか私?

 というか、未だに良く分からんのだが瀬川は私の事を一体どう思ってるのだろうか。

 

「敵が来るぞォォ! そこの伍長組! ボサっとしてないで戦闘に参加しろ! この集団が最後だ! EDFの力を見せろ!!」

「「サー! イエッサー!!」」  

 

 

――――

 

 

 それから一時間後、基地周辺の巨大生物は完全制圧した。

 戦闘で負った傷の応急処置を行い、壊れ果てた基地の物資をかき集めて簡易的な食事を取っていた。

 建物はボロボロに朽ちてしまったので野外テントでの食事だ。

 

「それにしても、こっぴどくやられたモンだなァ。他から援軍は来なかったのか?」

 レーションを食べながら、馬場が青木と会話する。

 

「それが、どうも西関東防衛線の数か所で同時に巨大生物が進撃したらしい。どこも手いっぱいで、こちらへの援軍どころじゃなかったそうだ。軍曹、他の場所は大丈夫なんですか?」

 青木が荒瀬軍曹に聞く。

 

「他の場所でも、一通り戦闘は終息したそうだ。しかし、手痛い損害を受けたのは変わりない。β型の戦闘力が、こうも高いとは……。ん? どうした細海?」

 荒瀬軍曹は同じ分隊員である細海の異変に気付く。

 

「……な、何でもありません軍曹。ただ、どうしてフォーリナーって蟻だの蜘蛛だの蟲系ばっかりなんですか!! 私虫苦手なんです! というか虫が苦手じゃない女なんていません!!」

 小声でから一転して、大声で喚く細海。

 

「そうかぁ? ま、殺意は沸いてくるけどよ」

「ふふ、蜘蛛もよく見ればかわいいモノだよ細海ちゃん」  

「アタシは別に普通かな……好きではないけど」

「……平気。ただの駆除対象」

 鈴城軍曹、二ノ宮軍曹に加え、近くに居た瀬川と白石も同意しない。

 その中で二人。

 

「あ~分かる~! 生物って時点でどうも気持ち悪いよね! 体液とか撒き散らすし! 襲ってくるならやっぱメカ系の敵が良いよね! どうせならもっとロボットみたいなのが来ればいいのに!」

「ごめんそれは分からないわ。というか不謹慎すぎるわよあんたは!」

 桜の発言に、細身は鋭いつっこみを入れる。

 今更なのだが、伍長と兵長の階級差などあってないようなものだな……。

 瀬川と散々言い合ってる私の方が酷いが。

 

「僕も虫は苦手だなぁ。気持ち悪いんだけどさ、潰したりするのちょっとかわいそうで。あっ、もちろん地球産の虫に対してだよ!」

「あ、あんたは男としてそれはどうなの!? というかそんなんでよく軍人になろうと思ったわね!」

「うん。人間は嫌いだから」

「あんた怖いんだけど!!」

 ニコっと笑いながら出た人間嫌いの発言には、細身も半歩引いていた。

 

「やあ。食事中に済まないね。ちょっと話を……」

「レンジャー2、傾注ッ!!」

 いつも通りにこやかな顔をして結城大尉が来たと思うと、その傍らに控えた大林中尉が大声で叫ぶので、我々は直立不動で敬礼を掲げた。

 

「うーん、まあいいか。さて皆。2-6基地の防衛お疲れ様。立て続けで申し訳ないけど新たな任務だ」

 座ったまま話を聞いて貰おうとしたのだろうが、大林中尉が隣で厳つい顔をしているので諦めたようだ。

 結城大尉もいくらか真面目な顔をして話を切り出す。

 

「一時間前、ちょうど基地防衛戦の真っ最中。太平洋上でマザーシップが艦載機を発艦した。EDFが付けた呼称はガンシップ。詳細に分析はしていないが恐らく無人機と考えられている。そのガンシップが千機以上攻撃を仕掛け、EDF太平洋艦隊第三戦隊が壊滅した」

 そうか……。

 いろいろあって忘れていたが、赤い変異種を発見した時に本部が言っていた敵の新型兵器とはこの事だったのか!

 

「そのガンシップ群は海軍を突破して、本土に上陸しようとしている。戦略情報部の分析によると、上陸は今からおよそ1時間後。本部は沿岸で殲滅するために急遽マザーシップ迎撃用に配置した対空兵器をかき集めている。上陸予想地点は神奈川県茅ケ崎市津川浦町海岸。でも、ガンシップの戦闘能力は高く、撃ち漏らす可能性も多い。その為、アメリカ軍、陸上自衛隊、そしてEDFの三軍でこのあたりの都市から一斉に残った市民を避難させる事が先程日本臨時政府とEDF極東本部の会議で同意された」

 なるほど……ついにその時が来たか。

 周辺地域では少しづつ避難が進み、今では工場勤務やインフラ関係者しか残っていないと聞くが、それでも多少の混乱は起こるだろう。

 

「避難場所は既に臨時政府が決定した。我々の任務は避難誘導と各所見回り、それとフォーリナーが襲ってきたときに備えての迎撃だ。出発は10分後。済まないが大至急装備を整えてくれ」

「「サー! イエッサー!!」」

「以上! 解散!! 10分後、南門のM2グレイプに集合だ! 遅れるなよ!」

 

 そして10分後、我々は担当地区厚木市へと向かった。

 


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