全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第二十七話 多脚戦車群

――2023年2月6日 神奈川県厚木市――

 

 私は高機動車ジャガーを運転中、大林中尉の姿を発見しやや荒い運転で近くに急停車した。

「中尉! 大林中尉!! この状況は一体!?」

 鷲田少尉が、米軍のブライアント少尉を抱えながら大林中尉に向かって走っていく。

 見ると、他にはレンジャー2各員が揃っているようだ。

 市役所庁舎は半壊状態で、度重なる爆発の中で少数の巨大生物を掃討していた。

 

「よく来た! だが遅い!! 状況は分からん! 無線は死んで敵は空と地下から湧き出てあっという間にこの様だ!! ソイツは何だ!?」

 中尉が簡潔に状況を要約する。

 周囲を見ると、至る所で戦闘が発生している。

 遠方では市庁舎を盾にしてダロガと砲撃戦を繰り返す戦車も確認できた。

 だが、通信が回復していないせいか連携は上手く取れていないようだ。

 

「道中で拾いました! 米海軍少尉です! 重傷でとっととどこかに預けたいんですがね!」

「ゆっくりしてる暇はありませんよ。ガンシップ来ます!」

 二ノ宮軍曹と我々が追い付くと同時に、ガンシップが襲来する。

 私は対巨大生物用だった広角ショットガン、ガバナーを使い滞空していた一機を撃ち落とす。

 

「まったく何という厄介なものを連れてきてくれた!? だが我々EDFは決して恐れない! 空の敵も地上の敵も撃退し、市民を護るぞ!!」

 大林中尉は襲来するガンシップを睨みつけ、我々を鼓舞する。

 

「「サー! イエッサー!!」」

「新垣、鈴城! あの負傷兵を駐車場にいたキャリバンに送ってこい! 五分で戻れよ!?」

「イエッサーであります!! では少尉、こちらへ!」

 そう言うと新垣は軽々とした動作で負傷兵、ブライアント少尉を担ぎ、鈴城軍曹がその後に続く。

 

「んじゃアタシは護衛ってか? モタモタしてっと蹴り飛ばすからな新垣!!」 

 鈴城軍曹は道中の巨大生物α型をショットガンで蹴散らしつつ先に進んで見えなくなった。

 

 一方我々はガンシップと巨大生物の混成集団との戦闘へと移っていった。

 

 高速で飛行し、かと思えば狙いをつける為か静止に近いくらい減速するガンシップ。

 そこをガバナーで撃つと、まとめて三機が火を上げて墜落した。

 機動性の代償なのか、装甲は歩兵の小火器で対応できるほど薄いらしい。

 

 ただし、このガバナーも、普通のショットガンとは一線を画す威力だそうだが。

 

 そうしている間にも巨大生物が迫る。

 飛んでくる酸を回避し、α型に至近で一撃。

 装甲殻が一気に剥げ、活動停止した。

 その弾丸は内部を貫通し、更に後方の敵へダメージを与えたようだ。

 

「へぇ。その武器なかなか強そうだな。その調子で頼むぜ!」

 浦田が私の銃を見つつ、私の頭上を飛び越えたβ型を空中で撃ち落とす。

 

「対巨大生物用に開発部が作った広角ショットガン、ガバナーだね!! 最大の特徴は従来の五倍くらいの散弾の数で、その威力は」

「その話は後にしろ! α型亜種が来るぞ!!」

 長くなりそうな兵器解説を荒瀬軍曹の声が遮る。

 

 見ると、数十体のα型亜種……赤褐色のα型が群れを成して突撃してくる。

 

「奴は装甲が厚い! 歩兵の火器では止めきれん! コンバットフレーム!? いけるか!?」

「任せろ! ブレイズ全機! コンバットバーナーで焼き殺せぇぇ!!」

 大林中尉が大声で叫ぶと、外部スピーカーをONにしていた赤色のニクスが応答した。

 一個小隊、四機のニクスが行動開始する。

 

 ニクス・レッドシャドウと呼ばれるそれは、軽やかな動きでα型亜種の前面に立つと、腕部に換装された大型火炎放射器、コンバットバーナーから高熱の炎を吹き出した。

 

「はっはぁざまみろ!! 焼肉にしてやるぜぇぇ!!」

 α型亜種は悲鳴のような音をギャアギャアと出しながら、その高温の炎に焼かれていく。

 

「うっはぁ……! あの軽やかな動き! やっぱレッドシャドウはかっこいいねぇ! っと、右からガンシップ来てるよ! 水原!?」

「狙撃っすか? お任せっす! そらぁ!!」

 桜の言葉で、水原が遠くのガンシップを狙撃する。

 だが数が多い、ガンシップの集団は直ぐに距離を詰めてきた。

 

「くそ! こいつら、いつの間に!? ぐあああぁぁ!!」

 突然、レッドシャドウが爆発した。

 その原因は……敵の多脚歩行戦車、ダロガの砲撃だった。

 

「ダロガだと!? いつの間にこんなところに!?」

 β型をハチの巣にしながら私は叫んだ。

 先程の状況だと恐らくだが遠方で戦車と砲撃戦を行っていたはずだ。

 それが……巨大さが確認できるぐらい間近に存在していた。

 

 多脚歩行戦車ダロガ。

 その名は聞いてはいたが、実際にその姿を見たのは初めてだ。

 大きさは15mくらいだろうか、5階建てマンション程度はある。

 円盤状の本体から細長い足が四脚生えている。

 鈍足で、走破性に優れているようにも見えず、15mもの巨体はいい的だ。

 何とも奇抜で、兵器としては致命的なまでに合理性が欠けているように思える。

 

 しかしながら我々は、その威容に恐怖を与えられていた。

 上部の触覚のような砲身がひとたび光れば、辺り一帯を爆発で覆うほどの攻撃が待っているからだ。

 

「仙崎、上を見ろ! あのクソが我々をここまで追い詰めた!」

 

 大林中尉の言葉で空を仰ぐと、そこには低空を飛行する物体があった。

 黒いドラム缶を六個長方形になるようくっつけた形をしていて、そのドラム缶のような船体から、一機づつダロガが空中投下されていた。

 

「上空から突然降下してきてな! 同時に地下からは巨大生物! お陰でこっちは後手後手もいいとこだ!」

 浦田が忌々しく吐き捨てる。

 そんな間にもダロガは移動を開始し、我々や味方部隊に迫る。

 

「戦車を、ギガンテスを呼べぇぇ!!」

「無理です! 近くにはいません! 通信もまだ!」

「歩行戦車が来るぞォォ!!」

「でかい……! なんて大きさなんだ! あんなのが歩くなんて!?」

「上からの攻撃に注意しろ!」

「まずい! 撃ってくるぞ!」

 別部隊の陸戦歩兵(レンジャー)達の声が聞こえる。

 巨大生物を掃討しつつ見ると、近くのダロガの上部触覚が青白く発光している。

 

 それはやがて指向性を持ったエネルギー弾として発射され、α型亜種を焼き払っていたニクス一機が撃破された。

 

「うわあぁぁぁぁ!!」

 周囲に居た歩兵も何人か巻き込まれる。

 

「ちくしょう! 撃て、撃てぇぇ!!」

「小隊!! ゴリアスを持ってるやつはぶっ放せ!! ここで食い止めるぞォォ!!」

 周囲の歩兵部隊に同調して我々レンジャー2もダロガに砲撃する。

 

 ダロガとの距離は20mも無い。

 相手の大きさから考えると至近距離だ。

 その上、確認できるだけでも他に5機はいる。

 

 私は近くにあった補給コンテナを漁ったが、ゴリアスは無かったので武器をAS-19に切り替えた。

 私が周囲の巨大生物に弾幕を張っている間に、幾十ものゴリアスランチャーの弾頭がダロガに直撃し、ダロガは黒煙を上げて崩れ落ちた!

 

「撃破一! 撃破一! やったぞ!」

「喜ぶのはまだ早い!! 残り五機!!」

「まずい撃ってくる! 伏せろ、伏せろォォ!!」

 咄嗟に物影に滑り込むように身を屈める。

 

 恐ろしい連射速度で十数発の粒子砲弾がそこかしこに炸裂し、辺りは一瞬で火に包まれる。

 

「げほげほっ……、レンジャー10、無事か!? 武口! 生きてたら返事をしろ!!」

 大林中尉が煙にむせ返りながら隣接していた部隊の名を叫ぶ。

 

「俺は無事だ! だが四人やられた! このままじゃ抑えきれない!」 武口と呼ばれたレンジャー10指揮官がどこからか応答する。

 

「歩兵部隊は下がれ!! いくらゴリアスを持っていても、相手が悪すぎる! ここは我々が!!」

 レッドシャドウがジャンプで一気にダロガとの距離を詰め、両肩に装備された散弾砲を放つ。

 

「喰らえ、喰らえッ!! しまった、ガンシップか!? ぐあああぁぁぁ!!」

 だが複数のガンシップのレーザー照射を受け、動きが止まった所をダロガに至近距離で砲撃され無残に爆散した。

 

「ちくしょう! なんて火力だ! 後退、後退!!」

「エリアBまで後退!」

 他のレンジャーも後退していく。

 

「くそ、無念だが我々も下がるぞ! 新垣と鈴城はまだか!?」

 大林中尉は、キャリバンまでブライアント少尉を送った二人を思い出す。

 

「今来たみたいです!」

「中尉! 遅くなりました!」

 鈴城軍曹が息を切らして到着した。

 新垣もいる。

 怪我は無さそうだ。

 

「まったくだ! エリアBまで下がるぞ! 対策本部はどうなっていた!?」

「依然混乱している様子ですが、通信に回復の兆しがあったと!」

 エリアB、市庁舎エリアに向かって走りつつ、道中の巨大生物やガンシップを撃破していく。

 後ろではまだダロガの砲撃の爆発音が聞こえる。

 どの部隊が戦っているのか、誰がやられたのか、通信が封じられた状況で殆ど分からない。

 

「本当か!? それは朗報だ、このクソ厄介な状況に光明が見えたな! まずいッ! 建物に隠れろッ!!」

 ダロガの砲身が光る。

 私はとっさにビルの陰に身を滑らせた。

 直後、爆発。

 

 直撃は避けた私だったが、ビルが中ほどから爆発で崩壊し、残骸が私を襲う。

 

「この程度ッ!!」

 落下する残骸程度なら回避できるか!?

 

「きゃあ!」

「桜ッ!!」

 瓦礫に足を取られた桜を咄嗟に抱きかかえ、一心不乱に走り抜ける。

 崩れるビルの残骸の隙間に逃げ込んで、ここだと思った場所で桜を抱きかかえ防御態勢を取る。

 物凄い衝撃音を伴って周囲は砂煙に覆われるが、さすが私、なんともない。

 

「げほっ、無事か!? 桜!」

「う、うん! ありがと助かった! 流石まことん! ってまたやばい!!」

 立ち上がり、手を引いて桜を立ち上がらせると、瓦礫の隙間から再びダロガの発光が見えた。

 

「おのれ! 何が何でも仕留める気か!?」

「逃げよう!」

「無論だ!! 行くぞ!」

 桜と私はビルの残骸を飛び出た。

 残骸を盾にして隠れるという手もあったが、身動きがとりづらい上に爆風で殺される確率の方が高いと判断した。

 それに、見た限りダロガの粒子砲弾は人類兵器の実弾程の速度は出ていない。

 そして恐らくだが狙いも曖昧だ。

 要するに頑張れば走って避けられる!

 

 私は後ろを振り返り、一瞬で弾道を読んで直撃を避ける。

 一方桜は、流石の俊足か、みるみる距離が離されていく。

 

 私もあのぐらいの早さで走れたら、もっと回避行動に磨きがかかるだろうか。

 そう言えば、EDFのアーマースーツに人工筋肉を取り付けて運動能力を上げる次世代スーツも開発が計画されているようだ。

 早く戦場に欲しいものだ。

 

 そんな余計な事を考えていたせいか、私は爆発の余波を喰らい、体をふっ飛ばされる。

 

「仙崎ぃぃ!?」

 

 桜が叫ぶ。

 渾名で呼ばれなかったのは珍しい、と思うより前に私は地面に叩きつけられる。

 幸い耐衝撃に優れたスーツのお陰で落下によるダメージは少ないが、場所が悪い。

 なにせダロガのほぼ真下だ。

 

 真下は死角……との考えも一瞬でかき消された。

 円盤状の本体の下部には、回転砲台が据え付けられている。

 確か、無数のレーザー機銃弾を無差別にばら撒く兵器だ。

 流石に回避は厳しい、ならば!

 

「ぬおおおぉぉぉ!!」

 悪足掻きかも知れないが、立ち上がってAS-19をフルオートで回転砲台に発射。

 同時に砲台も回転する。

 レーザー弾が発射されれば流石に死は確実だ。

 

「ッ!?」

 

 だが、直後衝撃が起こり、私は思わず尻餅をつく。

 恐らく、ダロガへの戦車砲の直撃だ。

 偶然近くにギガンテスがいたのか。

 流石に一撃ではそれ程のダメージは与えられていないが、隙は出来た。

 

「僥倖だ! 今のうちに!」

 駆け出す私、だが直下を脱出したとたん、再び上部が発光する。

 

「なにっ!?」

 この距離で撃つ気か!?

 いや、狙いは砲撃した戦車か!?

 指向性を持った砲身が存在しないので、どちらを狙っているのか分からない。

 いやそもそも、複数個所に同時発射可能な武器なのだろうし、一発だけでもこちらへ飛んで来たら、流石にこの距離では躱せない。

 

 万事休すか!?

 心臓が早鐘のように鳴る。

 

「てりゃああぁぁぁ!!」

 

 そんな私の窮地を救ったのは、よく聞き覚えのある女性の声。

 飛んできたのは天空を駆る私の女神、瀬川葵だった。

 

 彼女は急速接近しレイピアを振りかざし、そのまま減速する事無く通過と同時に、火花を散らしてダロガの表面装甲を切り裂いた。

 

「今よ! 行けぇぇぇ!!」

 

 その声が聞こえたわけではなかろうが、ギガンテスが主砲で狙い撃ち、見事切り裂かれた装甲に直撃し、ダロガは爆散した。

 

「見事な連携だ! 本当に助かったぞ、瀬川!」 

「仙崎!? なんでアンタが……いえ、そんな事より他の部隊は!? 誰かいないの!?」

 予期せぬ私の登場に向こうも驚いたようだが、それ以上に切羽詰まった表情だ。

 

「ダロガの襲撃ではぐれてしまったが、恐らく此方だ! 貴様こそ何があった!? 他の皆は!?」

 よく見ると、瀬川は一人だった。

 さっきのギガンテスももう別のダロガと戦闘を始め、恐らく行きずりでの咄嗟の連携だったらしい。

 とにかく走って仲間の元へ急ぐ。

 

「今は私ひとり! 市民を集めた中央公園の防衛やってたんだけど、主力だった第17大隊が撤退を決めたのよ! お陰で中央公園は酷い有様で……なんとか、なんとか市民を護らないと!!」

「それで応援を呼びに! では他の三人も!?」

「機動力のあるウイングダイバーとフェンサーがそれぞれ呼びに行ったの! 通信が使えないから方法はこれしかなくて!」

「仙崎! 仙崎!! 無事か!?」

 ガンシップと交戦していた荒瀬軍曹が叫ぶ。

 

「大将! しぶとくて何よりだぜ!」

「ウイングダイバー! 瀬川少尉も来てたのか!? 一体どうして!」

 馬場と青木が射撃しながら声を掛ける。

 

「荒瀬軍曹! 急いで中央公園に向かってください! 第17大隊が撤退したせいで、あそこは酷い事に……!」

「なんだと!? 民間人を切り捨てたのか……! 了解した! お前達! 公園へ急ぐぞ!」

「瀬川! お前は!?」

「私は大林中尉達を探して来るわ! きっと近くで戦ってる筈だから!」

 瀬川は直ぐに飛び立とうとしたが、その時ついに状況が変わった。

 

《こちら、作戦指令本部! こちら作戦指令本部!! 通信状態の復旧が確認された! 各部隊、指揮系統の確認を急げ! こちらも状況把握に全力を挙げる!!》

 

 本部からの通信だ!

 ややノイズ混じりだが、それでもなんとか聞き取れる。

 

『レンジャー2-2聞こえるか!? こちら大林! 現在位置知らせ!!』

『レンジャー2-2より2-1へ! 現在エリアC3-1、文化会館付近です! ペイル2瀬川少尉と合流し、中央公園に向かいます!』

『どういうことだ!?』

『第17大隊が撤退し、現場では民間人が犠牲になっているそうです! 急ぎ救援に向かいます!』

『了解した! こちらも向かう!』

『こちらレンジャ-3! 我々も同行します!』

『レンジャー4、同じく!』

『こちら、レンジャー1結城! よし、第88レンジャー中隊は中央公園に集合! そこで市民を直接護衛する! 道中の敵排除は優先しなくていい!』

 

「そういう訳らしい、瀬川! 先に中央公園に向かえ!」

 これでもう飛び回って仲間を集める必要は無くなった。

 これで少しは状況が改善されるはずだ!

 

「分かったわ! 向こうで会いましょう!」

 そう言って、瀬川はユニットを展開して飛び去った。

 私は飛散になっているであろう中央公園の様相を想像し、同時に瀬川の身を案じながら一層強く駆け出した。

 

 

――神奈川県座間市 在日米陸軍 座間キャンプ――

 

 

 座間キャンプでも似たような状況が発生していた。

 座間市の住民をここへ集めて他県の避難所へ輸送していた最中、空からダロガの揚陸艇が多数現れ、同時に巨大生物とガンシップの混成部隊との戦闘が発生している。

 

 通信障害の発生で連携はズタズタにされ、敵に差し込まれた状態での至近戦闘を余儀なくされていた。

 つまり、米軍の得意でない状況だ。

 キャンプ内にもフォーリナーの軍勢が侵入し、既に自衛隊座間駐屯地は占領されていた。

 それでも傍らでは座間駐屯地の生き残りと、そして西関東防衛線に配備されていたEDF部隊の姿もあった。

 

 そして先刻、ようやく通信が復活したと思えば、待っていたのは基地の即時放棄命令だった。

 

「そんな命令は聞きかねます! エルリック大将! ここにはまだ数千人の民間人が残っています! 日本国自衛隊もEDF極東方面軍も未だ継戦の構えです! それを最強のアメリカ軍が、尻尾を巻いて我先に逃げ帰れと!?」

 在日米軍司令官のウィリアム・D・バーグス中将は出来るだけエルリック大将、ひいてはアメリカ太平洋方面軍のプライドを煽る形で食い下がった。

 しかし。

 

『いいかバーグス中将。西関東戦線はもはや壊滅寸前だ。ここでたかが数千人の日本人を護るためだけに、貴様が言う最強の第一軍団が全滅の危機に陥っているのだぞ? 戦うのは良い、だが場所が悪すぎる。それに、これだけの打撃を受ければ西関東戦線の立て直しは最早不可能だ。早々に作戦を切り上げ、基地も放棄しろ。早くしなければ、その脱出すら危うい状況までありうる。その上、マザーシップまで接近しているというではないか。EDF砲兵基地より長距離攻撃を確認したが、恐らく損害は与えられまい』

 アメリカ太平洋方面軍司令官、エルリック大将は落ち着いた声で諭すように言った。

 

「それでも、です。ここで我々が退けば、無辜の市民は言うに及ばず、周囲で応戦中の自衛隊とEDFにも深刻な被害が現れます。まして、ここに居る民間人は大半がインフラ関係者。これからの日本に絶対に必要な方の集まりです。一人でも多くの彼らを、人類を救う事が、我々の明日へつながると私は考えます! 残り一時間……最後の一人を送り届けるまで、我々はここを動きません!!」

 

『くどい! 前々から貴様は目障りだったが、ここまで大局が見えていないとは! その戦略眼でよくぞ中将までのし上がったものだ! 全く嘆かわしい! 貴様の意見など知らん! これは命令だ!』

 堪忍袋の緒が切れたのか、エルリック大将は一転して怒声を浴びせる

 

「……なりません、エルリック大将。我々は、ここを――」

 

 次の瞬間、座間キャンプ司令室に爆風が巻き起こり、バーグス中将は衝撃を受け、司令室は半壊した。

 

「中将! 中将! しっかり!」

「ダロガの砲撃だ! 第三戦車中隊! 何をしている!?」

「歩兵前へ! 司令室に巨大生物を侵入させるな!! ゴーゴーゴー!!」

「機械化歩兵! ダロガを仕留めろ!! 奴はデカいだけの的だ! 恐れるな!!」

 

 その声を聴きながら、バーグス中将は目を開ける。

 腹が熱い。

 手で触れると、手は出血で真っ赤になった。 

 

「ふっ、通信設備が壊れたか。丁度良かった、などと言っては上から大将の怒りを買ってしまうだろうが、まあ今更か」

 自分の状態には触れずに、そんな感想を零すバーグス中将。

 

「中将! バーグス中将! おい、担架だ! 中将が負傷した! 医務室まで運ぶんだ! 中将、こちらへ」

 安定する場所まで運ぼうとする部下の手を、しかしバーグス中将は払いのける。

 

「やめてくれ。私はここから動かん。ここで指揮を執り続ける」

「しかし、そのお体では……!」

「第一軍団のボスたる私が倒れたとあっては、それだけで士気が下がりかねん。この絶望的な状況で、尚変わらず皆を導くのが将たる私の役割だ。医務室になど行ってられるか。何より退屈で敵わんわ! はっはっは!」 

 豪快に笑ってはいるが、顔色は悪い。

 すぐに死ぬような怪我ではないが、適切な処置をしなければ長くは持たないだろう。

 

「では、せめてEDFの治癒剤を貰って……」

「いらん。それは私ではなく前線で戦う兵士たちにこそ必要なものだ。こんなものはなに、少し我慢してれば大丈夫さ」

「大丈夫ではありません! それこそ貴方が死んでしまっては何もかもお仕舞です! まったくもう……。ああ、担架はいらない。中将はここに残って指揮を執るそうだ。代わりに軍医を一人で良いから呼んでくれ! もうここで処置してもらう! それでいいですね!!」

 それすらも断ろうという腹だったが、部下が余りにも鬼の形相で睨んでくるため、バーグス中将も心折れた。

 

「ああ、まあ確かに、私も死にたくはないな、うん」

 と言う所で気を取り直して、バーグス中将は指揮に戻る。

 

「中将! 駄目です、通信機器は無事ですが、中央スクリーンは駄目です!」

「うろたえるな馬鹿者! 地図を持ってこい! デジタルが駄目ならアナログだ! 昔はこんな物無かったしな!」

「西区画の第三戦車中隊、ダロガに押されています!」

「巨大生物増援! α型亜種です!」

《司令部より第二歩兵連隊! 市民を全体的に東へ寄せて西Bブロックのスペースを確保しろ! それで機械化歩兵も少しは機動が取れる! 第一機械化歩兵連隊は第三戦車中隊の援護をしろ! α型亜種は既にEDFニクス部隊に援護を要請した! いいか!? まだ我々には戦う力がある! 敵の増援が来ようと、司令室が襲われようと、仲間が倒れようと我々は諦めない!! EDFに、自衛隊に、そしてフォーリナーに、我々の精強さを見せつけてやれ!!》

『『ウオオオォォォォォォォ!!』』

 劣勢極まる状況にて、在日米軍、米陸軍第一軍団第九歩兵師団の指揮は最高潮にあった。

 

 

 




マザーシップ来る所まで入りきらなかったよ……。
台詞の一部は懐かしの地球防衛軍2から抜粋。
敵がダロガだしせっかくだしね。


敵味方兵器解説

●ニクス・レッドシャドウ
 コンバットフレーム・ニクスの接近戦闘型。
 両腕腕部は火炎放射器”コンバットバーナー”に換装され、装甲も軽量化、全身の関節モーターも出力が上がり、機動性が高くなっている。
 両肩には大型の散弾砲が供えられ、近~中距離までの戦闘にも可能になっている。
 反面、防御力は薄い。
 フォーリナーに対しては視覚迷彩の効果が薄いとされたため、全身が赤く塗装されている。

●多脚歩行戦車ダロガ
 フォーリナーの陸上機甲戦力。
 円盤状の本体に四本の脚部、上面四つの触覚状の砲台、下部縦長の回転機銃砲台という外見。
 上部の触覚砲台から放たれる粒子砲弾は、一度の攻撃で十数発を周辺に放ち、一区画まとめて爆破する面制圧兵器で、攻撃力は高く、直撃すればEDFの戦車と言えども一撃で破壊される。
 当然、生身の人間が喰らえばアーマースーツを着ていても死は避けられない。
 反面、弾速は遅く狙いは曖昧なので兵士次第では回避が可能。
 射程距離は長く、砲撃戦に長ける。
 下部の回転機銃は近づく物体を瞬時に穴だらけにする対人装備と思われる。
 こちらも狙いは付けないが機銃のようなレーザー弾は回避が困難。
 上部円盤状の中心部には対空レーザー砲が装備。
 こちらは狙いが嘘のように正確かつ超高出力のレーザー照射を行うので、回避は困難な上にかすっただけでダメージを受けるほど強力。
 装甲は厚く、歩兵小銃ではまず破壊不可能。
 ゴリアス・ランチャーの集中射撃やギガンテス主砲の斉射でなければ破壊は困難。
 フォーリナー機械兵器にありがちな白銀の装甲ではなく、黒を基調とした装甲だが、細部が青白く光っているので夜間でも発見自体は容易。

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