全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

38 / 106
区切るところがなくってなぁ……。
長くなってしまいました。

それはそうと、EDF・IR買って遊んでます!
今のところはあっちの世界観を混ぜる予定はないけど……進めてて吸収したいものあったらこっちに出す……かも?



第二十九話 最悪の中の(Ⅱ)

――厚木市 市民病院付近――

 

 15mという巨体は直ぐに見えてきた。

 見たところウイングダイバーの二人は、それぞれ地上の巨大生物とダロガを分担して攻撃しているようだが、どちらも中途半端だ。

 だが、ダロガの片方は装甲が穴だらけになり、あと一押しと言った所だ。

 

「うおおおお!! 撃て! 装甲の裂け目だ!!」

 私は途中の補給コンテナから拾ってきたAS-19Dを使って単発高威力型のライフル弾をお見舞いする。

 

「おらおらぁ!! くたばりやがれ!!」

「冷泉中尉! 玲香! 合流遅れました! 援護します! はあぁぁぁ!!」

 浦田はゴリアスD、瀬川はAS-19を連射する。

 ダロガから黒煙が上がる。

 あと一押しだ!

 

「瀬川! 無事だったか!?」

「……よかった」

 ペイル2の指揮官冷泉中尉と、その部下の白石少尉が安堵の声を出す。

 

「そこだ! 爆ぜろッ!!」

 その横で、私はα型の酸を躱しつつ、穿たれたダロガの装甲を狙ってトリガーを引く。

 それが限界だったのか、ダロガは内部から火花を散らし、爆発、崩れ落ちた。

 

「獲物の横取りとはマナーの悪い歩兵(レンジャー)もいたものだな!」

 冷泉中尉が私の隣に着地し、好戦的な笑みを向ける。

 その視線、決して不快な感じではない。

 

「ぬぁはは!! 行儀よくしていると、最後の一機も貰ってしまいますよ?」

「ほう? それは大変だ。白石、歩兵共に負けず、こっちも行儀悪く行くぞ!」

 再びウイングダイバーが飛ぶ。

  

「意味不明。でも、了解です」

 白石少尉も同時に飛行する。

 相変わらずの無表情だ。

 

「まったく仕方ない。あちらはダイバーに譲ってやるとして、我々は地上の奴をやるぞ!」

「何が仕方ないだ! 欲張っちゃいけねぇよ仙崎!」

「そーよ! アタシらは、アタシらでやれることを!」

 そんな軽口を叩きつつ、α型やβ型を屠ってゆく。

 

 が、目まぐるしい状況と、疲労でボロが出た。

 気が付くと、思ったよりダロガに接近されていた。

 ダロガの触覚が光る。

 恐らくだが、私を狙ってくる予感がした。

 

「やらかしたかッ!!」

 やはり粒子砲弾は私へ飛んできた。

 全身全霊を使って砲撃を躱す。

 

「砲撃がッ……!」

「瀬川ッ!!」

 瀬川の声を聴き、振り返ると巻き込まれる位置に瀬川がいた。

 私は両手を広げそのまま押し倒し、爆風に巻き込まれない位置で覆うように体をかぶせた。

 

 私の勘通り、砲撃は直撃する事無く終わった。

 何事も無かったかのように起き上がると、まだ腰を抜かしている瀬川に手を差し出す。

 

「言ったろう、護ってやると」

「はぁ、はぁ、し、死んだかと思ったわ……なんでアンタそんな平気そうなのよ」

 言いながら、私の手を取り立ち上がる。

 

「この程度の危機、平時でもたまに躱しているのでな!」

「ひゅ~! お熱いことで! っておい、また来るぞ!」

 浦田が茶化すと同時に、ダロガが接近して触覚を光らせる。

 なぜ遠距離砲撃武器のダロガがこんなに接近してくるのかは謎だが、そのダロガに二つの翼が迫る。

 

「させん! 白石!!」

「んっ!!」

 冷泉中尉が同じ個所に連続で短距離レーザー銃(レーザーランス)を撃ち込み、そこに白石少尉のレーザーライフル(クローズレーザー)がトドメとばかりに装甲を貫通し、内部にダメージを与える。

 やがてレーザーは本体ごと貫通し、深刻な損害を受けたダロガは、触覚のエネルギーが逆流し、派手な爆発を起こし後には炎上した残骸だけが残った。

 

「よし! ダロガはやった! 向こうに戻るぞ!」

「イエス、マム! 状況は聞いてますね!?」

 飛び去る冷泉中尉に短距離通信で声を掛ける。

 まだ多数の巨大生物が残っているが、最早殲滅が可能な状況ではない為、逃げてきた市民の護衛が最優先だ。

 

『さっきの無線は聞いている! 今はとにかく――』

《作戦指令本部より厚木市全部隊へ!! 緊急事態発生! マザーシップがそちらに進路を取って進行中! 接触はおよそ20分後! 更に詳細は不明ですが本体下部に用途不明の巨大装置を確認! 現在各地砲兵基地や海軍と連携、砲撃継続中ですが効果は不明! よって全部隊に即時退避命令が発令されました! 繰り返します、即時退避命令発令! 全部隊は、現任務を放棄し、即時厚木市より退避してください!!》

 本部オペレーター、鹿島中尉の切羽詰まった声が聞こえる。

 

「即時退避って……市民を置いて逃げろって言うの!?」

「いやそれ以前に、どこに逃げろってんだよ!? こっちは車もヘリもねぇんだぞ!?」

 走って道中の巨大生物をけん制しながら、瀬川と浦田が動揺を見せる。

 

 私も信じられない。

 まさか、一度東京を焦土にしたマザーシップが再び日本へ戻ってこようとは。

 まだ、世界中に爆撃されていない大都市なんて山ほどあるのに、なぜわざわざここへ……。

 まだ日本を爆撃し足りないのかと思うと怒りすら沸いて来るが、今本部が言った用途不明の巨大装置とは一体何なのか。

 

 しかしそんな風に色々考えてしまうのも恐らくは現実逃避に過ぎない。

 いかん、いかんぞ仙崎誠。

 現実を見ろ。

 

 周囲は巨大生物だらけ、市民は紙切れのように千切れて守ることも出来ず死んでゆく。

 味方は極少、装備もズタボロ。

 逃げる車輛も航空支援も無し。

 

「ふふっ……」

 ここまで追い詰められた状況に、おかしな笑いがこみ上げる。

 

「仙崎……?」

 これってもしや、私の不幸が作り出した最悪の状況なのではないか?

 いるだけで自分のみならず周囲までも不幸の渦に巻き込んでいく、自分の因果なのではないか?

 瀬川の声にも気づかず、そんな妄想が頭の片隅に巣食う。

 

 

 そんな状態で辿り着いた大林中尉の元は、やはり地獄の様相だった。

 市民は悲鳴を上げながら無残に食い殺されてゆき、それを止めるはずのEDF歩兵達もまた餌食になっていく。

 護衛に徹していたフェンサー達はその数を減らし、どこから流れ着いたのか別な方向から来るダロガの砲撃で、逃げ惑う市民がまとめて吹き飛んで行く。

 

「仙崎! 後ろをカバーしろ!」

「軍曹! あぶねぇ!!」

「桜ちゃん! 上! ガンシップの残党だ!」

「ボクがやろうか。水原クン、あちらのβ型を頼む!」

「イエッサーっす! うおおぉ! 喰らえッ!!」

「糸! 汚い!! ああもう、これだから虫は……ぐうッ!!」

「細海さん! 大丈夫!? 僕の後ろ回って! 僕も怖いけど!」

「軍曹! あの建物はまだ無事のようです! いったん市民をあそこへ集めましょう!」

「駄目だ青木! 一か所に集中させるとダロガに狙い撃ちされる! まずあのダロガを何とかするべきなんだが……!」

「だぁぁキリがねぇぞ!! 市民を助けるどころか、アタシらだって怪しいぜッ!!」

「泣き言とはらしくねーぞ鈴城ィ! だが、流石に状況が詰み過ぎだけどよッ!!」

 

 我々は徐々に、精神的にも肉体的にも追い詰められていった。

 何より、無辜の市民が目の前で虐殺されてゆく光景が精神を蝕んでゆく。

 そして、例え一度護ったとしても、その市民を安全な場所に連れてゆく算段が無い。

 車輛や戦車など目立つ装甲目標は、真っ先にダロガの砲撃に晒されてしまうのだ。

 

 こうして生き残ったのは我々歩兵のみ。

 航空兵器や輸送ヘリはダロガの対空レーザーによって侵入できない。

 その事を頭で冷静に整理できるがゆえに、心を絶望が蝕んでゆく。

 

 成すすべなく望みが絶たれてゆく感覚は、昔を思い出す。

 

 絶望に染まった昔の私。

 周囲を不幸に追いやることを肯定し、自らを死地に送ったかつての私。

 

 染まってしまえば、何も感じなくていい……そんな誘惑が私を誘う。

 

「貴様らァァァ!! 揃いも揃って何を情けない事を言っている!? EDFの誇りを忘れたか!?」

 大林中尉の喝が聞こえる。

 

「足掻け! 抗え! それがEDFだ!! 最悪の中の最善を掴み取るために、戦って、戦い続けろォォォォ!!」

 その声に、挫けそうになっていた心が再び火を灯す。

 皆の眼に生気が現れる。

 

「「うおおおォォォォォ!! EDF!! EDF!!」」

 大林中尉の一声で、皆は、そして私も力の限り咆哮する。 

 

 そして、さっきまでの絶望を断ち切るように、私を変えたひと言を思い出す。

 

 ”絶望なんて、笑い飛ばして希望に変えちまえ!”

 

 私よりも遥かに恵まれない境遇で育った、一人の戦友の言葉で、かつて私は希望を取り戻した。

 

 ……そうだ。

 その言葉がある限り、私はたとえどんな状況でも諦めない。

 諦めてなるものかッ!!

 

「もはや安全な場所は無い! 我々に出来る事は、市民が殺される前に一体でも多くの敵を倒し、応援到着まで奮戦する事だ!! 分かったかァ!?」

「「サー! イエッサー!!」」

 

 全員声を揃える。

 通信が回復してからの援軍要請は間違いなく届いている筈。

 

 酸を回避する。

 地面を蹴ってすれ違いでAS-19Dを2、3発叩きこむ。

 右にβ型に追われている作業着の男性を発見。

 男性を庇い、体に糸が纏わりつくが、β型は撃破。

 男性にそばにいるよう指示する。

 

 別方向にα型亜種を発見、数人が襲われ、一人が足を噛み千切られている。

 AS-19Dで射撃。

 しかしα型亜種の装甲殻が貫けず、リロード。

 装填する手が震える。

 浦田がその隙をカバーし、ショットガンバッファローG2を発射。

 亜種を撃破したが、二人が食われた後だった。

 

 同じ方向から亜種が10体程雪崩れ込む。

 同時にβ型の糸も迫る。

 糸の酸に焼かれたアーマーを引きずって回避したが、男性が糸に絡め取られて助けを泣き叫ぶ。

 

 トリガーを引く。

 瞬間、亜種の牙が私を喰らおうと上から迫る。

 バックステップで躱す。

 その牙の威力は、勢い余ってアスファルトを砕く程だ。

 

 その牙が次々と迫る。

 ステップし、潜り込み、跳躍し、転がり、伏せ、滑り、射撃、射撃、射撃する。

 

 全ては躱しきれない。

 攻撃の余波が、脆くなったアーマーを徐々に蝕む。

 

 もう男性の姿は見えない。

 仲間は負傷者が増え、悲鳴と嗚咽が木霊する。

 

 もう終わりなのか?

 否、否、否!!

 

 絶望なんて、笑い飛ばす!!

 

 無理やりに笑顔を作り、前を向いた瞬間、

 その決意をあざ笑うかのように周囲が爆撃に晒される。

 

 予想外の攻撃を回避しきれなかった私は、爆風に宙を舞い、地面を何度も転がる。

 

「ぐ……、やってくれる……!」

 

 軋む体を無理やり立ち上がらせる。

 どうやら、遠方のダロガからの砲撃だったようだ。

 幸いにして雑な精度のお陰で直撃は免れたが、かなりダメージを負った。

 

 その隙を見逃さず、我先にと各種巨大生物が迫る。

 

「くッ!!」

 AS-19Dを発射。

 だが圧倒的に手数が足りない!

 酸が当たり、アーマーを溶かす音が耳障りだ。

 

「無理か!? なら……!!」

 私は駆け出し、爆風で散らばった仲間を探す。

 抗え、足掻け!

 最悪の中で最善を掴み取れ!

 

 大林中尉の言葉を頭の中で繰り返し、生にしがみ付く。

 

「うおッ!?」

 

 駆け出した直後、β型の糸に足を絡め取られ、勢いよく地面に倒れる。

 そこに追い打ちをかけるかのようにα型亜種が牙を大きく広げる。

 

 態勢を整えようと伸ばした手に何かが当たる。

 誰かが落としたAS-19Rだ!。

 ぬぁはは! やはり私は幸運だ!

 

「うおおおぉぉぉ!! くたばれぇぇぇ!!」

 大きく開いた口に射撃。

 汚らしい体液が巻き散るが、なんとすぐに弾切れになった。

 

 動けない私に牙が迫る。

 

「せぁッ!!」

 

 どこからか声がして、次の瞬間にはα型亜種は死骸へと変わっていた。

 一体何が……。

 

 起き上がるとそこには、漆黒のパワードスケルトンを身に纏う死神――グリムリーパーの姿があった。

 

「遅くなったな。雑魚を片付ける。やるぞ!」

「「了解!」」

 

 グリムリーパー中隊の12人は、戦線に入ると、背面ブーストを使って多角機動で上手く巨大生物の背後や側面に回り込み、そして必殺の槍――ブラストホールスピアを使って装甲殻を貫き、串刺しにした。

 

 避けられない攻撃は大型の盾で防ぎ、スピアでのカウンターを仕掛ける。

 

「救援か!? ありがたい、感謝する! 反撃だ! お前達!!」

「「サー! イエッサー!」」

 軍曹が声を上げて巨大生物を撃破する。

 私もその元へ走る。

 

「向こうを見ろ! また砲撃が来るぞ! 警戒ッ!!」

 大林中尉の声の方を見ると、二機のダロガが上部触覚を光らせている。

 

「心配はない。あれは奴らが仕留める」

 グリムリーパー指揮官の声がそう言った。

 

 そして私は、小刻みに空を切り裂く音が聞こえた。

 これはヘリの音!?

 

「ヘリだとォ!? 撃ち落とされっぞ!?」

 鷲田少尉が驚愕する。

 だが、そのヘリ中隊十二機はなんと信じられない低空を高速で飛行していた。

 

 ダロガの全高、15mよりも低空をだ!

 

 そして、信じられないくらい滑らかな機動でダロガを正面に捉えると、主翼にぶら下がったロケット砲を一斉に発射、瞬く間にダロガは爆発した。

 

「低空での高速移動、旋回……。あんな芸当が可能なのは……」

 大林中尉が呟くと、ヘリ中隊から無線が入った。

 

『こちら、第六攻撃ヘリ中隊”サイクロン”! 援護に来たよォ! さぁ野郎共! 反撃の時間だよ!!』

『『イエス・マム!!』』

 野太い女性隊長の声に、濁声の唱和が続く。

 

 そのサイクロン中隊の背後から、大型のヘリが数機現れる。

 あれは……輸送ヘリだ!!

 

『こちら第十二輸送部隊ポーター12! 民間人の救出に来た! ついでに土産だ! 行けスプリガン!』

 低空飛行する輸送ヘリの扉が開き、そこから飛び立ったのは……ウイングダイバーだ!

 

『ついでとは言ってくれるな! 目にモノを見せてやる! 行くぞ! ハンティングの始まりだ!』

『『やあぁぁぁ!!』』

 一個中隊、12人の翼の戦姫が青白い尾を引いて、ダロガに向かってゆく。

 

 自身の背より低い目標に、対空レーザーは使えないらしく、粒子砲弾の連続砲撃で弾幕を張るダロガ。

 しかしそのことごとくをスプリガン隊は回避する。

 

 それを迎撃するかのように、地上の巨大生物が対空砲火とばかりに酸や糸を飛ばしてくる。

 しかし、次の瞬間辺りはプラズマレーザーで打ち抜かれた死骸だらけになっていた。

 

 後方のスプリガン3が、誘導兵器を使って多目標を同時に撃ち抜いたのだ。

 そして中衛のスプリガン1は、ダロガに向かって放射状に電撃銃を放った。

 高圧電流でダロガは怯み、同時に反射した電流が周囲の巨大生物をも撃破してゆく。

 

 その隙を逃さず前衛のスプリガン2が突撃し、四人同時にレイピアで装甲を抉り裂き、空中にホバリングしながらトドメのレーザーライフルの照射で、ダロガを撃破した。

 

 あっと言う間の出来事だった。

 気が付くと、六機の輸送ヘリは広間に着陸し、ここまで生き抜いた傷だらけの市民たちをてきぱきと収容してゆく。

 そこに近寄らせないように我々レンジャーとグリムリーパーが周囲を固める。

 

「市民の収容は乗ってきた衛生兵たちに任せろ。大林。ここは頼む」

「ああ。撃ち漏らした敵を片付ける。頼んだ!」

 グリムリーパーはそう言うと、一気に散らばり付近の巨大生物を片っ端から撃破してゆく。

 我々はそこから漏れて市民へ向かう個体を集中的に攻撃していく。

 ダロガを撃破し終えたスプリガンとサイクロンは、限定的ながら制空権を取り戻し、上空から心強い援護射撃を行っていた。

 

――――

 

 それからはまさに形勢逆転と言った戦況だった。

 敵の数は相変わらず多く、全てを殲滅は出来ないが、それでも市民の生存者を、殆ど収容する事が出来たのだ。

 

 そんな中、ヘリと一緒に輸送されてきた補給コンテナまで、グリムリーパー指揮官が補給をしに戻ってきた。

 

「む、仙崎か。久しいな。軍に戻ったと噂は聞いていたが」

「岩淵大尉……。お久しぶりです」

 私は、かつての上官に敬礼をした。

 四年前、まだ人間相手の紛争が盛んだったころの、私の上官。

 

「ふっ……顔を見るだけで分かる。随分と変わったらしいな」

「それは、隊長も同じですよ」

 かつて、仲間を誰よりも重んずる優しい隊長だった。

 だが四年前、殆どの仲間を、部下を失った事で変わってしまった。

 

 私がEDFを辞めた後、まるで死に場所を求めるかのように危険な任務ばかりに志願し、その悉くを成功させてきた英雄。

 捨て身の戦術を駆使する彼らは、敵のみならず味方からも恐れられ、ついた渾名が死神部隊。

 ……一般的には、”そういう事”になっている。

 

 だが、より多くの仲間を救うための死に場所を求めた隊長の理念は、皮肉にもそれに共感する部下を生み、今では固い絆で結ばれた精鋭部隊として名をはせていた。

 

「俺はもう隊長ではない。それにしても、大林の部下とはな。生きろよ、仙崎」

 そう言い残して、補給を終えた岩淵大尉は、再び部下の元へ向かった。 

 

 それから数分後、全ての市民の収容が完了した。

 

『市民はこれで全員ですね!? では、戦闘部隊も早く! マザーシップが接近しています!!』 

 ヘリにいた衛生兵から通信が入る。

 

『よし。聞いたなスプリガン! ヘリまで戻れ!』

『我々に命令するな! 状況は理解している!』

『ふっ……やれやれだ』

 グリムリーパーの指示にスプリガンが反発する。

 スプリガンはウイングダイバー部隊の中でも特にプライドが高いと浦田あたりが言っていたが、本当のようだ。

 

『こちらサイクロン! 撤退まで援護してやるからケツの心配はいらないよ!』

 攻撃ヘリ中隊サイクロンが、残った弾薬を全て消費する勢いで撤退する我々に向かう敵を倒してゆく。

 

「急ぐぞ! レンジャー2、ヘリに搭乗しろ!」

 大林中尉の声を聞き。ヘリに向かって走る。

 

「おい……あれ見ろよ! マザーシップが現れやがった!!」

 馬場が見る方向には、東の空を埋めるほどに巨大なマザーシップが存在していた。

 直径にして約1kmの球体。

 その下部に収容されているジェノサイド・キャノンがひとたび輝くと、地上は一瞬にして炎の地獄へと変わる。

 

 だが今その下部には、見た事もない装置が取り付けられている。

 その装置は複数個所から煙を上げ、本部の行った砲兵基地からの砲撃が苛烈だったことが伺える。

 

「あれが……本部の言っていた……なに!?」

 私が呟くと、その下部装置がマザーシップから切り離され、地上へ落下してゆく。

 

「おいあれ……まさか……?」

 浦田が唖然と呟く。

 

 

 地上に降り立った装置は変形し、姿を変えた。

 それはマザーシップの攻撃アタッチメントではない。

 

 見上げるほど非常識な巨体を持つ、白銀の四足歩行兵器だったのだ。

 

 巨大な胴体に四本の脚、上面には二連装の砲塔のようなもの。

 前面からは下に向かって細長いブレードのようなものが伸び、その両脇には透けた橙色をしたバリアのような幕が広がっている。

 背面と側面にはいくつもの穴がある。恐らくは砲台だろう。

 

「なんてこった……。全幅130m、全長200m、全高は……嘘だろ、250mもあるぞ!?」 

 青木が余りの大きさに戦慄する。

 その姿は、さながら野生動物の象のような印象だ。

 

「おい、こんな時になんだが、良くそこまで詳しく分かるよなお前」

「元測量屋でね。物体の大きさはだいたい目測で測れる……って、言ってる場合じゃない、動き出したぞ!」

 青木と馬場の会話を聞きつつ、巨大四足兵器の動きを注視する。

 

 巨大四足兵器は、鈍重な動きで一歩前進する。

 たったそれだけで、足元の建物が踏み砕かれ、地面が陥没し、大きな砂煙が上がる。

 

 立っている事が困難な程の振動が我々を襲い、よろめいた瀬川を咄嗟に支える。

 

「大丈夫か瀬川」

「あ、ありがと。大丈夫だけど……大丈夫じゃないわねこれ」

「まったくその通りだ。とにかく今は逃げるぞ!」

 

「くそっ! とんでもないモノを投下してくれる! とにかくヘリへ急ぐんだ! 我々に出来る事はもうない!」

「待て! 奴の側面が光っている! 攻撃が来るぞ!!」

 冷泉中尉の声に、荒瀬軍曹の警告が重なる。

 

 四足兵器は、側面の穴を赤く光らせると、そこからレーザーを発射してきた。

 一瞬だけ照射されたレーザーは止まっていたヘリを直撃し、辺り一帯が吹き飛んだ。

 

 声を上げる間も無く、我々もその爆発の余波に吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……、瀬川、無事か……?」

 私は何とか立ち上がり、瀬川の身を案じる。

 

「ええ……なんとか、きゃあ!!」

「ぬおっ! またか!」

 再び衝撃。

 四足兵器の側面レーザー砲台が、無差別に起動し辺りを攻撃し続けた。

 

 衝撃と爆炎に包まれる市内で私は見た。

 上部の巨大砲塔が、青白いエネルギーをチャージし、東に向かって凄まじい衝撃と光を伴って放った光景を。

 同時に、下部ハッチが開き、ダロガ数機が次々と投下されていく絶望を。

 

 奴は、ただ巨大なだけの兵器ではない。

 圧倒的な攻撃力と防御力、そして兵器搭載能力を兼ね備えた要塞。

 

 これが、後に四足歩行要塞”エレフォート”と呼ばれる兵器の、最初の戦闘だった。

 




という訳で、やっと四足歩行要塞登場です!
出典はEDF3、4、4.1からになります。

グリムリーパーと仙崎の過去話も公開する予定ですが、実はまだちゃんと考えてない!
……ので、苦戦すると思われます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。