全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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お待たせしました!
しかし、思うように進まない!


第三十話  最悪の中の(Ⅲ)

――2023年2月6日 在日米軍司令部 座間キャンプ――

 

 座間キャンプでは、厚木市と同等の地獄が起こっていた。

 状況はほぼ似たようなものだった。

 

 EDF西関東防衛線の部隊、日本国陸上自衛隊、在日米陸軍の三軍が、それぞれ追い詰められた形で集合していたため、戦力としてはそこそこ豊富だった。

 それ故、政府の誘導や通信障害時の各部隊の独断によって多くの市民がここへ集まってきた。

 それを狙ってなのかは不明だが、フォーリナーもまるで吸い寄せられるかのように大群がここ座間キャンプへ集中した。

 

 ダロガ、ガンシップによる制空権の封殺によって輸送機、航空支援は不可能。

 陸上の輸送車輛はダロガの粒子砲で爆破され、投げ出された兵士や市民を巨大生物がその牙で喰らう。

 極まった状況に僅かな攻撃機や攻撃ヘリが危険覚悟の低空飛行を試みるが、ガンシップを殲滅し切れていなかったために新たな犠牲が生まれただけだった。

 

 それでも、バーグス中将の指揮の元、統率され高い士気を維持したまま戦った米軍兵士達のお陰で、生き残った殆どの市民の避難が完了した。

 既に基地司令部は陥落し、司令部要員はそれぞれが武装し、他部隊と連携して直接戦闘を行っているところだった。

 

 バーグス中将も、重傷の身を引き摺りながら巨大生物との戦闘に参加していた。

 ……だが、その状況にも終焉が訪れた。

 

「情報室にいる市民は!? 何人だ!?」

 

「23人です! 北に居るダロガは陸自の10式が抑えていますが、長くは持ちません!」

 

「今レンジャー42が放置された車輛を探しに行っている! それまでなんとか――ぐああ!!」

 

ちくしょう(shit)ッ! 巨大生物だ! 撃て(fire)撃て(fire)!!」

 

「情報室で火災発生! 市民を逃がせ! 建物が崩壊する!!」

 

 そんな部下の報告を聞きながら、入り口に侵入しようとする巨大生物と、バーグス中将は戦っていた。

 

「中将! 右から――」

 

「なに!? ぐあああぁぁぁ!!」

 

 突如、建物を突き破ってα型が侵入してきた。

 α型は酸で中将を攻撃し、腹部と左足に直撃した酸は、容赦なく中将の体を溶かし始める。

 これまでも重傷の身で戦ってきたが、明らかにこれは致命傷だった。

 

 そしてそんな中将を介抱する間も無く、建物全体を爆発と衝撃が覆う。

 

「なんだ……何が、起こった……!?」

 

 バーグス中将は、痛みで意識と感覚を朦朧とさせながら、なんとか周囲の状況把握に努める。 

 

「ダロガの砲撃です……! 情報室の辺りが全て吹き飛びました。避難した市民たちは……恐らくもう……」

 

 報告した兵士の見つめる先には、めちゃくちゃに吹き飛んだ建物の残骸と炎しか見当たらない。

 例えEDFのアーマースーツを着ていたとしても、生存は難しいだろう。

 まして、生身の人間ならば。

 

「そう、か……」

 

 中将は、燃え盛り、今にも崩壊しそうな建物の柱によりかかり、崩れ落ちて呟いた。

 これで、護るべき市民はもうここにはいなくなった。

 半数が西日本へ避難を終え、そして半数がこの地で無残な死を迎えた。

 

「皆……、本当に、よくやってくれた。私のわがままに付き従ってくれて、本当にありがとう……」

 

 壊れかけの無線機で、可能な限りの広域交信を行った。

 その掠れた声で、皆が状況を理解した。

 

 そして同時に、終焉がやって来た。

 西の空が、青白い光に包まれる。

 

「なんだ……?」

 

 座間キャンプで奮戦する兵士達が、次々と異変に気付く。

 その光は徐々に強くなり、そして――。

 

 それが何か理解する前に、その場の全てが終わった。

 

 座間キャンプから半径数百メートルが爆心地となり、巨大なキノコ雲が現れたのだ。

 それは、厚木市に降り立った四足歩行要塞、その主砲によるプラズマ砲撃だった。

 座間キャンプにて死に物狂いで戦った数百人の兵士は、もはや塵一つ残っていないだろう。

 

 

――EDF極東方面第11軍司令本部基地 中央作戦司令室――

 

 

『こちらスカウト4! 歩行要塞の上部から閃光が! あれは武器です! 東に放たれました!!』

 

 偶然現地に居合わせた偵察部隊、スカウト4から司令部に通信と映像が入る。

 マザーシップの下部にあった謎の装置が、四脚歩行型の巨大移動要塞だったことの衝撃から立ち直れないまま、更に司令部を驚愕が包む。

 

「なんという事だッ……! 被害状況は!? 一体どこが狙われた!? 報告急げ!!」

 

 榊司令がオペレーター達に指示を飛ばすと、すぐに報告が入ってきた。

 

「着弾地点特定! 神奈川県座間市……座間キャンプ周辺で大規模爆発を確認! 衝撃から想定されるエネルギー、10kt超!!」

 

「戦術核級のエネルギーだと!?」

 

 あまりの威力に、榊司令が立ち上がる。

 

「恐らく……あれはプラズマ砲でしょう。あの射程と威力からは想像も付きませんが、映像から判断するにほぼ間違いないでしょう」

 

 映像を瞬時に分析したリーヴス少佐がそう結論付ける。

 

「全長100mもの巨大プラズマ兵器を実用化するなんて……ありえない……」

 

 その巨大さと威力に、戦慄するルアルディ中尉が呟く。

 元々ウイングダイバーのプラズマエネルギーユニットも、フォーリナー由来の技術ではある。

 だが、あれほどの威力を発揮するためには、一体何倍の出力が必要なのか。

 

「座間キャンプの米軍の生存は絶望的か……! とにかく、あんな兵器を野放しには出来ない! 周囲の残存兵力、砲力や空軍を集め、攻撃を――」 

 

「待ってください! 歩行要塞、エネルギー再充填開始! 砲塔旋回します!!」

 

「なんだと!? この短時間でか!?」

 

 柊中尉の報告に、榊司令が大声を上げて反応する。

 

「着弾予想地点計算……! そんな!? 砲塔はこちらをまっすぐ指しています! 敵の狙いは……ここ極東本部です!!」

 

 ルアルディ中尉の報告に、司令部全体に緊張が走った。

 

「馬鹿なッ!? 発射までどのくらいある!?」

 

「データ不足です! 予想できません!!」

 

「基地全体に核攻撃警報を鳴らせ!! 基地全人員を地下核シェルターに避難させる! 我々も指揮を放棄し地下へ向かう! 行くぞ!!」

 

 司令部要員は慌ただしく動き、緊急警報のスイッチを押す。

 

 基地全体に核攻撃またはそれに該当する大規模破壊兵器の着弾を知らせる警報が鳴り響き、基地の全要員は各所に設置された地下シェルター用のエレベーターに乗り込む。

 

 ここEDF極東方面第11軍司令本部は、有事の際の司令部としてだけではなく、大量の市民を格納し、未知だったフォーリナーの攻撃から守る巨大地下シェルターとしても機能するように設計されている。

 その目的通り、既に多くの避難民が頑丈な地下シェルターに避難して居て尚、そのキャパシティに空きは合った。

 

 だが、敵の砲撃が、思ったよりも早すぎた。

 榊司令を含む司令部要員は、エレベーターでの移動中に凄まじい衝撃を受け、意識を失った。

 

 四脚歩行要塞の巨大プラズマ砲は極東本部を直撃し、その場にクレーターを作った。

 避難の遅れた数多の基地要員・兵士が犠牲となり、日本戦線守護の要となっていた極東本部は事実上、壊滅した。

 

 

――厚木市――

 

 

 青白い閃光が、一瞬だが太陽以上の光度を以て辺りを照らす。

 余りの衝撃に耳鳴りが起こり、余波だけで空気が震える。

 

 この青白い光はプラズマだろうか。

 ダロガの砲撃やウイングダイバー達の使うPEユニットの輝きに似ている。

 しかし、その出力が桁外れだ。

 そして、それほどのエネルギーが破壊力となって向かった先は一体――

 

「仙崎ィ!? 無事か!? 呆けてる場合じゃねェ! 巨大生物が来るぞ!!」

 

 度重なるレーザー砲撃、トドメの今のプラズマ砲撃に倒れていた私の手を、鷲田少尉が引いて立ち上がらせる。

 

「い、イエッサー! 瀬川、行けるか!?」

 

「あ、ええ! なんとかきゃあ!」

 

「ぬおお!!」

 

 立ち上がった瞬間、再び巨大兵器からの砲撃。

 狙いは非常に大雑把なのが救いだが、その振動だけで厄介だ。

 

「軍曹! こりゃやべえ!! あの砲撃がこっちに飛んで来たらそれだけで木っ端みじんだぜ!!」

 

 馬場が立ち上がって応戦しつつ身を屈める。

 足腰を踏ん張っていないと、振動で転んでしまいそうだ。

 だが巨大生物はそんな振動など無視してこちらへ向かってくる。

 それに対し、弾幕を張る。

 

「だが馬場! あれを止める事はどうやったって不可能だ! 少なくとも今はな! あれだけでかく見えるが、あの巨大兵器はここから10km以上離れてる! 射程が足りない!」

 

 青木が高く飛び上がるβ型を狙撃する。

 

「そんなぁ!? このままじゃ一方的にやれれるだけですかぁ!? 10kmじゃ流石に手が出せませんよ!」

 

 葛木が女々しく言いながら的確に敵を爆破していく。

 

「ああもう! ユニットが無事ならあんなデカブツ、レイピアで切り裂いてやるのに!!」

 

 瀬川が苛つきながら、慣れないアサルトライフルでα型亜種を射撃する。

 硬い甲殻に阻まれ、時間がかかっていたので、横からショットガンの至近射撃で援護する。

 

「それは無理」

 

「大言壮語が過ぎるぞ瀬川!」

 

 瀬川と私の背後を護るようにして、白石少尉が空中からレーザーライフルで援護する。

 

「ったく冗談の通じない連中ね!」

 

「本気かと」

 

「瀬川ならやりかねんしな!」

 

「あんたらアタシを何だと思ってるのよ!」

 

 などとふざけたやり取りをしていると、運悪く近くで爆発!

 巨大兵器から放たれたレーザーが着弾し、地面を抉る。

 

「うおおお!!」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

 辺りが爆炎と衝撃に包まれる。

 

「ぐ……、瀬川、白石、無事か……?」

 

 軽くふっ飛ばされたが、何とか立ち上がる。

 流石にこれほど広範囲の攻撃は危機を察知できても回避出来ない。

 屈辱だ!!

 

「……ん」

 

「なん、とか……」

 

 しかし、改めて考えると砲撃は完全に無差別だ。

 当然、巨大生物もこの苛烈な砲撃に巻き込まれ、よく見ると甲殻がはがれて居たり足が何本か吹き飛んでいたりしている。

 

 フォーリナーと言うのは基本的に同士討ちの効果は期待できない説があるが、ここまでの威力だと結構喰らうらしい。

 

「リヴィエール大尉! 狙撃装備、最大望遠で確認したところ、奴らは下部ハッチからダロガを投下しています!」

 

『こっちでも確認したよ。それだけじゃない……ガンシップも上面から出てきた。こりゃとんでもないねぇ……』

 

 スプリガンの一人と、攻撃ヘリ中隊”サイクロン”女性指揮官が通信する。

 

「ふん、まるで歩く要塞だ……。さて、スプリガン。対処できると思うか?」

 

 グリムリーパー指揮官アヴィス大尉が、ウイングダイバー中隊”スプリガン”指揮官、リヴィエール大尉に尋ねる。

 

「当然だ。我々を誰だと思っている。中隊迎撃用意! 此方へ向かう敵兵器を殲滅するぞ!」

 

 スプリガンはユニットに火を入れるが、荒瀬軍曹が止める。

 

「待てスプリガン! あの様子だと敵に限りがあるとは思えない! レイドシップを思い出せ! ここは闇雲に敵を倒すより、我々の生存を考えて撤退を――」

 

「貴様! 軍曹風情がリヴィエール大尉の決定に口答えするだと!?」

 

「口の利き方に気を付けろ!」

 

 軍曹に向かって、二人のスプリガン隊員が詰め寄った。

 どうやらプライドが高いとのうわさは本当だったようだな。

 

 それはともかく、この間にも巨大生物の残党が襲ってきたり、ガンシップが撃ってきたり砲撃で地面が揺れたりと落ち着いていられない。

 

「状況を考えろ! 今はそんな事を気にしている場合では――」

 

 尚意見する荒瀬軍曹を、アヴィス大尉が遮る。

 

「いや。彼女らはあれでいい。レンジャーが撤退するまでの時間稼ぎを引き受けると言っているのだ。九条、第二小隊を連れてレンジャーを援護しろ。俺とグリッグの第三小隊はスプリガンのお守りだ。行くぞ」

 

「「了解!」」

 

 グリムリーパーの二個小隊八人と、スプリガンが前線に向かう。

 

『なら、アタシらも撤退させてもらうよ! ちょっと弾薬と燃料が心持たなくてね!』

 

「了解した! 武運を祈るぞ! レンジャー2総員、グリムリーパーとスプリガンが敵を抑えているうちに撤退だ!」

 

 大林中尉の命令で、我々はこの場から撤退する。

 

「こちらペイル2! 我々も撤退を支援する!」

 

 我々が敵を倒しながら走ると、ペイル2も寄ってくる。

 

「――でかいの、また光ってる」

 

「何!?」

 

 白石少尉の小声に、冷泉中尉が反応する。

 見ると、再び上部の巨大砲台が青白く発光していた。

 そして、空気を震わせる衝撃を伴ってそれは放たれた。

 余りの衝撃に、全員が伏せるか転倒する。

 

「ぐっ……短時間に二度も砲撃するとは……全員、無事か!?」

 

 大林中尉が確認する。

 

「第一分隊、なんとか……ってとこです」

 

「第二分隊、全員無事だ。しかしなんという兵器だ……。中尉、榊――いや、本部からの命令は? あれをこのまま放っておけば、避難した市民まで危ない!」

 

 鷲田少尉が報告し、荒瀬軍曹が危機感を巡らせる。

 だが、大林中尉の答えは我々を戦慄させるものだった。

 

「いや……二度目の砲撃直後から本部の応答が途絶えた。電波障害ではない。通信元が完全に断たれている。恐らくだが、先程の砲撃は本部を狙ったものだったのだろう……クソォ! 本部が陥落した可能性がある!」

 

『こちらグリムリーパー。我々も同じだ。スプリガン?』

 

『こちらスプリガン。どうやら本部は当てに出来ないらしい。だが一つ朗報だ! 5km程東の方で味方部隊の通信をキャッチした! コンタクトを試みる!』

 

 なんと!

 ここで新たな味方部隊とは有り難い!

 東と言うと……海老名市方面の避難誘導を担当した部隊だろうか。

 状況はたいして変わらないのかも知れないが、それでも味方は多い方が心強い。

 ほんの少し、光明が見えた気がした。

 

 

――EDF極東方面軍第七師団 第72戦車連隊隷下 第211戦車大隊”ジャベリン”――

 

 

 二度目の青白い閃光が、夜空を切り裂いて遥か南東へ放たれる。

 歩兵と違ってその衝撃を最小限で受け止めつつ、80数輛のギガンテス戦車はダロガに対し機動戦を仕掛けていた。

 

『第二小隊! 側面から回り込め! 足を止めるな、行け!』

 

『標的チャーリー、砲塔点灯! 来るぞ!!』

 

『距離を取れ! 狙いは曖昧だ! 躱せぇぇ!!』

 

 たった3秒ほどに十数発の粒子砲弾を撒き散らし、廃墟を更なる焦土に変える。

 

『第二小隊より第一小隊! 二輛やられた! 木っ端微塵だ畜生!』

 

『こちら第一小隊、犠牲を乗り越えろ! 今だ! 第一、第二小隊斉射三連! 撃てェー!!』 

 

 完璧なタイミングで砲弾が同時炸裂し、ダロガは致命的な損傷を受け、崩れ落ちて爆発炎上した。

 

『残りは!?』

 

『歩行要塞から投下機多数! 駄目です! キリがありません! っ!? 待ってください! 土橋大尉、要塞の上部巨大砲台! 見えますか!?』

 

 第二小隊長からの言葉に臨時大隊指揮官の土橋大尉が反応する。

 ちなみに本来の大隊指揮官は大隊本部ごと失っている。

 その為、戦車で戦場を駆りながらの部隊指揮だ。

 

 土橋は戦車のキューポラを開け、歩行要塞の砲台を覗く。

 

『多少は損傷があるのか。いや、あれは……』

 

 元々、マザーシップ砲撃用のEDF砲兵たちが苛烈な砲撃を加えた事によって、歩行要塞の各所からは小さい黒煙が複数上がっていた。

 

 が、それに輪をかけて上部巨大砲台の損傷が激しくなっているように見えた。

 

『まさか……僅かなダメージで、砲撃に砲身が耐えられていないのか……?』

 

『あの様子じゃ、もう巨大砲台は使えないでしょう。……!? 大隊長! 味方部隊の反応です!』

 

『なんだと!?』

 

 その直後に通信が割り込んできた。

 

『こちら第一降下翼兵団第一中隊”スプリガン”! 向こうで歩兵共が苦戦中だ! 手を貸してほしい!』

 

 土橋の元に通信が入る。

 スプリガンと言えば、EDF初のウイングダイバー部隊であり最も練度(とプライド)が高い事で有名な精鋭部隊だ。

 それに孤立無援の上大隊司令部や本部との連絡も絶たれた今となっては、合流しない手はない。

 

『こちら第72戦車連隊第211大隊(ジャベリン)! 了解した。……ところで、歩行要塞の上部砲台、あそこを攻撃する事は可能と思うか?』

 

 今は、把握できる限りEDFは満身創痍であり、たいしてフォーリナーはあの歩行要塞を始め余りにも手強い。

 そんな状況だからこそ、僅かなチャンスを逃したくはない。

 ここであの砲台だけでも破壊出来れば、例え自分たちが全滅したとしても、それ以上の効果を出せる筈だ。

 

『不可能だ。距離があり過ぎる。我々にも出来ない事はある。……なるほど。確かに、あそこを攻撃出来れば歩行要塞の砲台に致命傷を与えられそうではあるが……』

 

 ただし、そんなことは不可能に近い。

 いくら光学プラズマ兵器を操るウイングダイバーとは言え、空気が霞むほどの距離では届かない。

 

『土橋大尉! 高速接近する動体反応あり! 敵味方識別反応、不明!!』

 

『なんだと!? フォーリナーの新型兵器か!?』

 

『馬鹿な……! この期に及んで!?』

 

 土橋とリヴィエールが戦慄する。

 

『あー、あ~! ごほん。今キミ達に接近する反応あると思うんだけど、敵じゃないから安心してくれ~』

 

 直後、無線に割り込んできたのは、何とも場違いと言える呑気な青年の声だった。

 

『何者だ貴様は!? ふざけているのかこの非常時に!!』

 

 生真面目で一切洒落の通じないリヴィエールは、怒気……いや殺気を孕んだ声を発す。

 

『いやぁ~これでも大真面目なんだけど。ええと、僕は第2エアレイダー小隊”プレアデス”の保坂。これでも少佐だからとりあえず言う事聞いてね』

 

『はぁ…………はっ!』

 

 少佐と分かっても不満そうな声を出しつつ、一応納得するリヴィエール。 

 

『よろしい。んでさ、簡単に言うと民間人がコンバットフレームを強奪してそれに僕も乗りながらそっちに向かってるから、とりあえず合流しよっか。16歳の少年クンなんだけど、腕は確かだから信用していいよ。ほら安藤君、挨拶挨拶』

 

『ちぃ~っす! オレの名前は安藤和真! 高一だっぜ! もう高校ぶっ潰れたけどな! ぎゃはは!』

 

 無線から聞こえる、保坂少佐に輪をかけて場違いで呑気で、リヴィエールにとっては神経を逆撫でするような声に、彼女は戦いながら血管が切れそうな思いをする。

 

『保坂少佐!! 気は確かなのですか!?』

 

『うん? 確かだよ? まあ彼の実力に関しては見れば分かるさ』

 

 そんなことを言っている間に、スプリガン、ジャベリン、向かっているコンバットフレームが合流する。

 

 保坂少佐と民間人の安藤少年が乗るコンバットフレームは、ニクスB型。

 開戦前に配備されていたA型と違い、対巨大生物用に改良されたニクスだ。

 現在のEDF極東方面軍の六割にこの型が配備されている。

 

 とは言え、性能はA型と決定的に違うものではなく、極めて標準的な性能だ。

 

 だから、ダロガの砲撃を連続短距離瞬発ブーストで躱し、着地点の巨大生物をハチの巣にし、ダロガに肩部ロケットランチャーを数発お見舞いする動きなんて、出来るはずが無いのだ。

 

「な……なんだというんだあの動きは……」

 

「あれ、本当にニクスB型なのか……?」

 

「凄い……まるで巨大化したグリムリーパーみたい……」

 

「ほう? グリムリーパーより役に立ちそうじゃないか?」 

 

 などなど、スプリガンの隊内でざわつき始める。

 むろん、その間も巨大生物への攻撃と機動は少しも緩まない。

 スプリガンを追ってきた巨大生物はほぼ駆逐していた。

 

『へへっ! どうよ! オレの編み出した高機動攪乱戦術は! 名前考えたのは保坂さんだけどな!』

 

『という訳で! 詳しい話は後にするとしても、戦力としては十分だと思うんだ! 少なくとも今はね!』

 

 確かに、こんな状況なら民間人だろうと何だろうと戦力なら使うしかない。

 リヴィエールはまだ不満そうだったが。

 

『目の前のフォーリナーをやってくれるならもう何でも大歓迎ですぜ少佐! ところで、歩行要塞の巨大砲台、ニクスで狙撃できませんか!?』

 

 土橋のギガンテスが、ダロガの砲撃を瓦礫を盾にして躱し、破壊された残骸から身を乗り出して砲撃。

 同時に中隊の9輛が一斉に砲撃する。

 

『このニクスじゃあ厳しいねぇ。見る限り、武装もリボルバーカノン以外はほぼ使い切ったみたいだし。……いや、待って』

 

 土橋少佐の声が一段低くなる。

 どうやらエアレイダー専用のコンソールを使い始めたらしい。

 その間にも戦車隊ジャベリンを中心としたスプリガンとニクスは移動し、仙崎達のいる場所へ戻ってきた。

 

 

――第88レンジャー中隊 レンジャー2-1 side:仙崎誠――

 

 

 歩行要塞の繰り出す、無限の物量に、我々は成すすべが無かった。

 おまけに、こちらの周囲には歩行要塞からの砲撃も無座別に降り注ぎ、常にこの身を灰燼と化す覚悟が必要だった。

 

「ったく! 積極的にこっちを狙ってこないのはいいが、まさかそれが神頼みとはねぇ!」

 

 浦田が愚痴りつつ、私の背後を取ったβ型を屠る。

 

「ごちゃごちゃうっせぇぞ浦田ぁ! 死ぬときゃ死ぬ! それだけだ!」

 

 鈴城軍曹が相変わらずの二丁ショットガンスタイルで戦う。

 しかし、そろそろこの周囲に撒かれた補給コンテナも底をついてきた。

 そんな時、遠方からの戦車砲の砲撃で、一体のダロガが崩れ落ちる。

 

『こちらスプリガン! 援軍を連れてきた! 遅くなったな!』

 

 PEユニットの甲高い音が聞こえる。

 見ると、飛行するスプリガンの背後に、大量のギガンテスが砂煙を上げ、そしてニクスが見た事もない激しい機動で敵を屠っていた。

 

『こちら、第二エアレイダー小隊の保坂少佐だ。作戦がある。聞いてくれるかい?』

 




▼レイチェル・ラ・リヴィエール(34)
 フランス系カナダ人で、階級は大尉。
 EDF陸軍訓練教義コマンド-特殊戦技先進歩兵教導団”SWING”所属。
 ウイングダイバー教導隊”スプリガン”指揮官。
 世界各地のウイングダイバー部隊に戦闘技術、飛行技術、戦術などを教導する部隊。
 飛行制御、射撃技術、熱量制御、機動技術のどれをとっても一流で、ウイングダイバーにとっては憧れの存在。
 赤いカラーリングの飛行ユニットを持ち、”赤翼”の異名を持つ。
 フランス貴族家の由緒正しき家系だが本人はプライドが高くやや血気盛ん。
 スプリガンに並々ならぬ誇りを持っており、SWING所属の他部隊や世界の精鋭部隊と張り合う癖がある。
 特にグリムリーパーに対して顕著に出ている。
 
安藤和真(あんどうかずま)(17)
 コンバットフレームを強奪した民間人。
 無論強奪と言ってもやむを得ない状況で、保坂少佐は黙認した。
 ニクスの操縦に天才的な才能を見せる。
 しかし、ノリが軽い。

保坂誠也(ほさかせいや)(30)
 第2エアレイダー小隊”プレアデス”のエアレイダー。
 階級は少佐
 物腰柔らかで落ち着きのある人物。
 少々呑気ともとれる構え方は、激しい戦場であっても冷静に支援部隊との交信を行える。

土橋康介(どばしこうすけ)(41)
 第72戦車連隊第211戦車大隊”ジャベリン”第一中隊指揮官。
 大隊長が戦死したため、繰り上げで大隊長を兼任している。
 階級は大尉。
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