全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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作戦直前回、という訳で戦闘はナシです。
しかし題名もっと何とかならんのか……。


第三十七話 作戦に向けて

――2023年 3月24日(戦闘終了から二日) 第402火力演習場 仮設武器庫――

 

 

 私の聞いた話によると、どうも開発部や軍需企業の各社から最新の武器が提供される手筈になっているらしい。

 とは言え、本当に役に立つかは怪しいもので、我々EDF兵士達はこうして仮設武器庫で装備の見直しに大忙しだった。

 その倉庫の扉をくぐってやって来た人物に、私と水原、馬場が反応して駆け寄った。

 

「大林中尉! 二人の、鷲田少尉と桜さんの容体は!?」

 真っ先に飛びついたのは水原だ。

 格納庫に入って来た大林中尉は、難しい顔をして答える。

 

「命に別状はないが、どちらも芳しくないな……。鷲田は出血多量と多数の切創、それに治癒剤の過剰投与で暫く戦場には出れん。……まあよくぞこんな状態で戦ってたと衛生兵に呆れられる始末だ。桜は全身に多数の骨折……特に右腕は暫く使い物にならん程のだ。衝撃で負った内臓の傷も酷い」

 

「そっすか……」

「まあ、なんとか助かったって事だろ? ならそんなに落ち込むなよ水原。何もお前が悪いわけじゃねぇしよ。復帰自体は、可能なんですかい?」

 

 落ち込む水原を、馬場が肩を叩いて慰める。

 人を慰めるには強すぎる力で叩かれた水原だが、突っ込む気力もないらしい。

 まあ、元々ネガティブのきらいがあった水原だ。

 新垣の事はもちろん、あの直後の鷲田少尉とのやり取りもあって、どうにも落ち込んでるように見える。

 

 本来は中隊単位で葬儀を行う規定だが、あいにくそんな時間も場所も無いし、一方で戦死者は増える一方なので、各小隊長の判断で、簡易的な部隊葬を行うにとどめて居る。

 だが葬儀を終えた後も、やはり水原は吹っ切れていないようだった。

 

「そうだな、復帰自体は可能だ。だいぶ先の話にはなるが……とは言え今の技術だ。一か月もあればよくなるだろう」

 確かに、昨今の医療技術の進歩は著しい。

 

 最近知ったのだが、巨大生物の体液と、ダロガやレイドシップなどの機械兵器から漏れるオイルのような液体を分析した結果一部が同じ物質で出来ている事が判明した。

 発見した米独の合同軍需企業”ガプス・ダイナミクス社”はこれをエナジー・ジェムと名付け、医療技術と兵器技術に利用しているという。

 医療技術が急速に進歩しつつあるのも、このエナジージェムの影響があるそうだ。

 

「それと、朗報だ。明日、鈴城、浦田、葛木の三人が退院する。これで我が小隊は九人……定数割れとは言え、なんとか戦力として数えられる範囲にはなりそうだ」

 大林中尉の情報を元に、戦力を数える。

 

 2-1メンバーは、復帰予定の鈴城軍曹、浦田と、私、水原の四名。

 戦死した……新垣と、今回負傷した鷲田少尉と桜、それに未だ入院中の二ノ宮軍曹が離脱している。

 

 2-2メンバーは復帰予定の葛木と、荒瀬軍曹、馬場、千島、細海の五名。

 青木は入院中の為戦線離脱だ。

 

「鉄砲玉の鈴城と、フォローの浦田、爆撃魔の葛木か……戦力的にはだいぶ助かるって感じだなぁ」

「それはいいのだが……その二つ名は何処から出てきた?」

 馬場の妙なネーミングに引っかかる。

 

「ああ? いや、何となく今出てきただけだぜ? 大将はそうだなぁ……やっぱ回避の仙崎って感じか?」

「ふ、じゃあお前は、怪力の馬場でどうだ?」

「怪力かぁ……。あんま役に立ちそうにねぇな!」

 くだらない事で笑い合う。

 水原、お前もいつまでも落ち込まず、こうして日常を取り戻していいんだからな?

 

 

――同日夜 仮設兵舎――

 

 

 私の手は血に塗れている。

 

 自らの不幸に嫌気がさして叩いたEDFの扉。

 海外派兵に向かうために――死に向かうために、自分を殺すが如く訓練に勤しんだ結果、数々の徽章と共に特殊部隊として私は中東に飛んだ。

 

 しかし、そこですら私は私を殺すことは出来ず、周囲に徒に死を振りまく存在となった。

 死神――かつて私が居た部隊はそう呼ばれていたが、本当の死神は私一人だ。

 うずたかく積もった屍を見て、私は一体何のために生きているのだと思う。

 

 死にたいのか?

 違う。死にたくはない。

 ただ死にたいだけならば、自殺してしまえばいい。

 しかし私には、死ぬのが怖くてそんなことは出来なかった。

 

 だから、殺して欲しかったのだ。

 私がどれだけ恐怖しても、避けようのない絶対的な死が欲しかったのだ。

 だが、そんなものを戦場に求めたのが間違いだった。

 

 そんな思いも正されて、自分の為に生きて良いのだと気づかされて数年。

 再び私は戦場に居る。

 

 戦場で、新垣を殺してしまった。

 

 私の不幸が、新垣を殺したのだ!

 そして貴様は、仙崎誠はもっともっと多くを殺す!

 仙崎誠と言う人間が存在するだけで、貴様の不幸に回りが巻き込まれ、死んでいく!

 そして当の本人はその危機をあっさり躱し、自分だけのうのうと生き続ける!

 貴様のような死神が生き残ってどうする? もっと多くの不幸を周囲にばら撒くだけだ!

 

 この悪魔め! 死神め!

 貴様なぞ、いい加減死んでしまえ!

 死ぬのが怖いなどと甘えた事を抜かすな!

 

 今、この手にある拳銃を口に咥えろ……!

 あとは、引き金を――

 

 

「――はッ!!」

 

 

 跳ね起きた。

 全身が汗でびっしょりと濡れている。

 息が荒い……整える。

 

「夢、か……。いや、悪夢だな」

 

 小声でつぶやく。

 内容は……覚えている。

 細部は不明だが、大まかな所は。

 

 そして、最後の拳銃の感触だけが妙に生々しく残っている。

 

「ふん、馬鹿らしい……」

 

 敢えて口に出して言うが、動揺を隠しきれていない。

 どうも、病んでいた頃の性格に引っ張られているようだ。

 これは、いかんな……。

 

 こんな気分では、到底寝付けはしないだろう。

 寝付けたとしても、また魘されでもしたらたまったものではない。

 

「少し、気分を変えてみるか……」 

 

 夜半の無断行動は褒められた行為ではないが、まあ明日に差し支えない程度なら構わんだろう。

 見つかってもまあ、大林中尉の鉄拳が飛んでくるぐらいで済むだろう。

 いや、私の場合は躱してしまうから、一体どうするのだろう?

 

 そんな益体も無い事を考えながら、軽く敷地内をランニングする。

 しかし演習場だけあって広大な土地だ。

 約一個師団の戦力が丸々引っ越したにもかかわらず、まだ土地が余っている。

 その寝静まった兵器達を、月明かりだけが照らしていた。

 いや、全てが寝静まっているわけではない。

 見張りの兵たちに軽く挨拶すると、ほどほどにしろよ、とクギを刺された。

 夜半に出歩くのもそれを見過ごすのも規則違反だが、そこは融通を利かせてくれている。

 

 そうして、体を動かすと、思考もクリアになっていく。

 心と体は密接に繋がっているというからな。

 悪い事ばかり考えてしまう時は、体を動かしてみるのも良いものだ。

 

 そう思って仮設兵舎に戻ろうとした所、資材に腰掛ける水原を発見した。

 

「水原。こんな時間に出会うとは、珍しい事もあるものだな」

「どーもっす。考え事してたら寝れなくなって。仙崎さんもっすか?」

「私は……まあ似たようなものだな。隣、いいか?」

「ええ、まあ」

 歯切れの悪い返事を承諾と受け取って、私も資材に腰掛ける。

 

「その……ショックなのは分かるが、余り思いつめるものではないぞ。人とは、いつかは死ぬものだ」

 さて、隣に座ったがいいが、明らかに浮かない顔をしている水原にどう声を掛けて良いか、いざとなると思ったよりありきたりな言葉しか出てこんものだ。

 

「あー……、それなんすけど、新垣の事はもう、流石に受け止めたんで大丈夫っす。心配かけてすみませんっす。それとはちょっと別の問題があって……」

 ん? なんだ?

 ちょっと思ったこととは違う話になって来たな。

 

「あ、そうだ。色々あって聞きそびれちゃったんすけど、新垣の最期、ちゃんと聞こうと思ってたんすよ」

 そう言えばそうだ。

 事務的な状況は情報として共有したが、それだけだ。

 その具体的な最期を、私はまだ話していなかった。

 

「ああ、君にはちゃんと伝えておこう。各々の状況は聞いての通りだ。私のショットガンが暴発したのは話したな?」

「はい。仙崎さんの運が悪すぎて銃が暴発しがちなのはみんな知ってますし、それを防ぐためにいつも完璧に銃の手入れをしてるのも分かってるっすよ」

 む、そうなのか。

 面と向かって訳を話したことは無いが、水原ですらそこまで知っているとは。

 いや、大方桜辺りから聞かされたのだろうか、それにしても意外と知られているものだ。

 

「まあ、それはいい。その直後だが、新垣に隙が出来て、リロードもままならぬまま巨大生物の突進を喰らった。だが、喰らう直前に、新垣は抱えていた桜を庇ったのだ」

「桜さんを……」

「咄嗟の判断だったのだろう。だがもしそのまま二人とも突進を喰らっていたら、桜すら犠牲になっていたかもしれん。あの距離でよく判断したと、そう思うよ」

 

 私なら、出来ただろうか?

 攻撃を躱すのは得意だし、頭の回転も速い自信はある。

 だが、他人を庇い、自ら攻撃を喰らいに行く事が、私には咄嗟に出来る自信はない。

 

「そうして新垣は突き飛ばされ、巨大生物が追い打ちに迫った。新垣の奴、この程度効かん的な事言ってかっこつけたはいいものの、マガジンを取り落としてな」

「はは……、あいつ、結構不器用な方だったっすもんねぇ。にしてもそんな肝心な時に凡ミスするなんて、ツイてねぇっすよね」

 力なく笑って、どこか遠くを見る水原。

 

「まったくだ。まったくツイてなかった。人間誰だってミスをする。それが何もあんな時でなくたっていいではないか。そう思うよ」

 だが、そのいかにも悪意しかないようなのが”運”という奴なのだ。

 それを私は痛い程知っている。

 

「だが、新垣は最期まで抗ったよ。巨大生物に喰われながら、腰の9mm(対巨大生物用拳銃)で必死に攻撃していた。α型亜種の硬い甲殻は破れなかったが……」

「……そっか。ちゃんとEDFとして抵抗してたんすね。……最期、一矢報いてるといいっすねぇ」

 

 少しだけ涙声になりながら、水原は天を仰いだ。

 ……恐らく、無理だ。

 現在の対巨大生物用拳銃では、接射してもα型亜種は倒せない。

 

「……そうだな」

 

 だが、どうせ結果はもう分からないのだ。

 なら、勝手に一矢報いた事と思っても罰は当たるまい。

 

 それからしばらくの間無言が続き、

 

「仙崎さん、ありがとうっす。色々整理できたっす。で、あの……この際ちょっと相談なんすけど……いいっすか?」

「ん? 別に構わんが、どうした?」

 水原は今までの雰囲気をちょっと変え、なんか恥ずかしがりながら聞いてきた。

 

「いやあのっすね。新垣、あいつ姉いたのって知ってます?」

「し、知らん。初耳だ」

 思えば、新垣とは余りプライベートは話をしたことは無かったな。

 

「っすよねぇ~。俺、いつだったかな……先月半ばくらいに負傷して軍病院で配給を受け取った時、たまたま新垣って苗字の人見つけて、思わず声かけたんすよ」

「そしたら、その方が偶然にも新垣の実姉だったと?」

 

「そんな感じっす。最初はホント何となく声かけただけだったんすけど、何度か話すうちに、その……」

「好きになってしまったと?」

 

「……そ、そんな感じっす」

 適当に話を聞いていたら全部当たっていた。

 なるほど……なるほどぉ~、恋の話かぁー。

 まさか水原からこんな話が来るとは、しかも私に!

 

「ぬぁははは! よい事ではないか!」

「……そう、なんすかね」

 他人の恋の話程盛り上がることは無い。

 そう思ったが、どうも水原の様子は暗い。

 

「新垣が死んだことは。多分、もうその人も知ってるっす。でも、当事者として、ちゃんと最期を伝えてあげるべきなのかなって思うんす。まだ、出会ったばかりの奴に家族の死を伝えられるってどうかと思うんすけど……」

 水原は水原で、考えて悩んでいたらしい。

 

「そうか。それで、新垣の死の詳細を……」

「もちろん、自分の為でもあるんすけど。……家族の死が良く分からないのって、辛いのかなって思って」

 

「それだけ相手の事を思えるなら、その気持ちはきっと伝わるさ」

「でも、会ってしまったら、やっぱり好きだって気持ちもあるんす。親友が死んだってのに、その姉にこんな気持ちを抱いたままなんて、その為に会いたいと思うなんて、あいつを、新垣の死をダシにしてるみたいで俺、自分を許せないんす……! 俺、どうしたらいいんっすかね!?」

 自分への行き場のない怒りなのか、語尾を強める。

 そうやって自分を責める水原に、私は一言送ろう。

 

「迷うことは無い! 会うのだ!!」

「!!」

 水原がはっと顔を上げる。

 

「恋愛に後ろめたい感情など感じる必要は無い! 知ってると思うが私なんてジェノサイドキャノンで東京が廃墟になった直後に告白してしまったのだぞ!? それに比べればどうという事ありはしない! それに、好きの気持ちを我慢して後悔するのは、きっと凄く辛い事だ。物騒な事を言うが、こんな時代だ、いつ死ぬか分からんし、後悔を残すことはなるべくするべきではないだろう」

 思ったことを言ったつもりだが、どうだろう。

 少しベタ過ぎたか? いやアドバイスに奇をてらってどうする。

 これでいい筈だ。

 

「そう……っすね。そうっすよね! よし! 仙崎さんのお墨付き貰ってスッキリしたっす! よし! 明日告りに行くっす!」

「そうか。方向性が決まったようで何より――ってええええ!? 告白まで言ってしまうのか!? 急過ぎんか!?」

 アドバイスが上手く決まり過ぎたか!?

 

「いや、もう決めたっす。今決めたっす。いつ死ぬか分かんないんで後悔残さないで生きるっす!」

「私の言葉をそのまま使うでない! 大丈夫なのか!? 新垣の死伝えた後にそれはちょっとやばいと思うぞ私!」

 

「大丈夫っす! 気合で乗り切るっす! そうと決まれば善は急げっすね! 今日はもう寝て明日に備えるっす! 仙崎さん、ホントあざーっした!」

 

 立ち上がって、まるで風に用に去っていった。

 ……本当に大丈夫だろうか。

 

「……明日が心配だ……」

 

 私も後を追うようにして、床に就いた。

 

 翌日、なんと水原の外出は却下され、四日後29日に大阪の軍病院配給所へ向かう事となった。

 その理由は、来たる3月30日に決行される京都防衛戦に向けての全体作戦ブリーフィングで知らされた。

 

 知っての通り次の戦い、我々は開発部や国内海外問わず日本に援助を申し出た様々な軍需企業からの試作型・先行量産型や現行最新型など今まで手にしたことのない新装備を手に取る。

 

 その性能や癖を知っておくために、四日間、使用する可能性がある銃器の試射、カタログスペックの暗記、開発部員や軍需企業社員からの説明を繰り返し繰り返し受け続け、更に京都市街地に分散して配置された補給コンテナの位置と内容の暗記や、当然の事ながら作戦内容や地形の把握、他部隊の配置と連携を行っていた。

 

 作戦前夜となる29日、我々は自由行動を許可され、水原は大阪軍病院へと向かった。

 そして翌日、決行日当日。

 作戦前最終ブリーフィングが始まる。 

 

 

――2023年 3月30日 第402火力演習場 仮設歩兵火器格納庫――

 

 

 格納庫入り口近くで、我々第88レンジャー中隊は完全装備で整列していた。

 

「中隊、傾注ッ!!」

 

 副中隊長、國井中尉の厳つい声が響き渡る。

 それに答え、皆が揃って敬礼を行う。

 

 彫りが深く、顔が黒く、声と同様に厳つい顔で、更に見た目通りの厳つい性格をしている何のギャップも感じない人間だ。

 我が第88レンジャー中隊はちょっと変人が多いと有名なので、ここまで見た目ストレートなザ・軍人みたいな人物は逆に珍しい。

 

「やあみんな。楽にしていいよ。今日も気楽に行こう」

 

 もう中隊長からしてこの変人ぶりである。

 とは言え、これから日本戦線の戦局を決める一大作戦の最終ブリーフィングだ。

 緊張は高まっていく。

 

「まあまずはみんなお疲れ様。ここ数日は新装備の関係で色々大変だっただろう。昨日はゆっくり休めかい? 疲れをとるのも一人前の軍人の要素だよ。さて、じゃあ本題に入ろうか」

 結城大尉の柔らかい声での労いもほどほどにして、内容は本題に移っていく。

 その際少し、ほんの少しだが結城大尉の声に硬さが混じる。

 ホワイトボードに簡単な概要を書き込む。

 

「本日0700現在、最新の偵察情報によると、敵軍が近江盆地*1に突入した。巨大生物混成7万、ダロガ3千、レイドシップ130隻、ガンシップ4000機の大部隊だ。これに対し我々は、京都を中心とした関西中枢防衛線を張り巡らせ、迎撃し、確実に敵を”撃滅”する。じゃあ復習だ。仙崎君、本作戦の目標は?」

 

 私は名指しされて完璧な敬礼をする。

 

「はっ! 本作戦の目標は、大きく三つです! 第一に、敵軍から大阪市街及びEDF極東第一工廠を含む工業地域を防衛する事。第二に、敵軍の撃滅を達成し、日本侵攻に終止符を打ち、本土奪還への足掛かりとすること。第三に派手な戦闘を行い、四足歩行要塞を岐阜県山間部から平野部に引きずりだし、その取り巻きの戦力を一掃する事であります!」

 

 ここ数日、ひたすら頭に叩きこんだ内容を私は流暢に話す。

 完璧だ。

 

「うん、正解正解。まあ簡単に言うと向かってくる敵全部倒すって事だね。簡単で分かりやすい目的だ」

 

 くっ、確かにその通りなのだが……それでは色々と語弊が……。

 いや待て、真の天才は難解な単語を使わず、誰にでもわかりやすい説明を行うという。

 この簡潔さこそ皆が求め、そして結城大尉が私に求めた応えだったのでは!?

 迂闊!!

 

「そして最も大事な僕達第88レンジャー中隊の役割は? 千島君」

 

 千島も名指しされて声を上げる。

 しかし、これではまるで学生の授業風景のようだな。

 そう考えると結城大尉も、どことなく温和な教師のような雰囲気に見えてくる。

 それでいて非常時も頼れる貫録を見せつけるので、いやはや大したものだ。

 

「はいっ! 88中隊の行動方針は、京都市街地に侵入する敵集団の迎撃、及び乱戦状態になってからの小隊単位による各個撃破です!」

 

「うん。よろしい。本当はこっちの戦力を分散されたらマズイってのがセオリーなんだけど、巨大生物の浸透力を防ぐ方法が無いからね。だったらこっちから分かれてしまおうって話だ」

 

 本来、戦力と言うのは固まっているほど強固な力を発揮する。

 が、巨大生物の浸透力――部隊の隙間を掻い潜って内部に侵入する力が異常なまでに強く、強力な団結力を誇る部隊であっても瓦解してしまう。

 ならばそうなる前に分散し、逆に巨大生物を部隊内部から包囲し各個撃破してしまおうという作戦だ。

 

 部隊間全体の連携よりも個々の戦闘力に依存するあまりに近代的でない作戦だが、我々の装備も多数の巨大生物と渡り合える程向上している。

 どのような結果を迎えるのか、それは終わってみないと分からないが、少なくとも作戦に参加する兵士は、絶対にここで殲滅すると固く誓っている筈だ。

 

 と私が考えているうちに、作戦の細かな修正の説明が始まり、そして最終ブリーフィングが終わる。

 

「よし、最後に僕から一言。こっちの装備も充実してるけど、敵の数も多い。多分今までで一番苦しい戦いになると思うけど、ここが踏ん張りどころだよ。作戦成功は当然だけど、それ以上に絶対に、生きて帰る事。いいね!?」

「「サー! イエッサー!!」」

 

「いい返事だ。それじゃあ第88レンジャー中隊、出撃!!」

 

 一斉に駆け出し、小隊ごとに分かれてM2グレイプ装甲車に乗り込む。

 向かう先は激戦となる日本の象徴、京都市街地だ。

 

 間も無く京都防衛戦――アイアンウォール作戦が始まる!

 

 

*1
琵琶湖南部にあり、滋賀県の中心部を大きく占める盆地




琵琶湖南部の滋賀県のちょっとした平野っぽいトコの地名が分からなくて苦戦した……。
名前特になさそうなので作りました。知ってたら教えてください。
↑解決しました!

そして次回はようやくアイアンウォール作戦!
出典はEDF5のミッションからです。
EDF:IAとの世界観も徐々に絡めていこうと画策してますが、タイタンがガプス・ダイナミクス社製になっていたり同社がドイツの兵器会社になっていたり色々ハチャメチャな組み込み方すると思います。スミマセン。

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