全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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注釈便利だ……。
でも髪型とかで個性出すのめんどいな……。
キャラ増えすぎ問題。


第三十五話 帰路の遭遇(Ⅲ)

――――2023年 3月22日 伊勢湾港より東20km沿岸部 『第二降下翼兵団 第一中隊”フェアリーテイル”第二小隊』――

 

 

「やああぁぁッ!!」

 

 フェアリーテイル2の日向少尉は、拡散雷撃銃”サンダーボウ”を空中から発射する。

 

 サンダーボウ――プラズマエネルギーを電気に似た性質に変換し、それを発射する事で攻撃する兵器。開発の殆どは旧極東本部で行われ、開発主任は雷撃技術を確立した結城博士(桜の父親)。

 低燃費かつ広範囲の攻撃は、ウイングダイバーとは相性が良いとされる。

 

 拡散したいくつもの雷撃は、地面や敵に反射しつつ、その威力が減衰して無くなるまで反射を繰り返すので、巨大生物群には効果大だ。

 

 その反面、一発の威力はまだそこまでではない。

 赤蟻となればその表面装甲殻を剥がすだけが関の山だ。

 しかし、歩みは止められる。

 

「雨宮! やってちょうだい!」

 

「了解! 仕留めます!!」

 

 同小隊、雨宮少尉は崖下の赤蟻に向かって連鎖雷撃銃”イズナーA”を放つ。

 サンダーボウと違い、今度は一点に集中していくつもの雷撃が連鎖的に放たれる。

 雷撃は、たちまち巨大生物を破壊していく。

 

 範囲はサンダーボウのように広くは無いが、一点を集中して当てられるため、攻撃力は大きい。

 そのまま、這いあがってくる個体を四体撃破した。

 

「冷却します! 藤野援護して! 日向も一旦降りてきて!」

 

「はいな~! 任しとき~!!」

 

「わかった! それにしてもこんなにα型亜種がいるなんて……レイピアを持ってくるんだったね」

 

 藤野と日向が地上に降り、数秒雨宮の援護をする。

 

「それな! まぁ今更しゃーないやろし、こん武器もごっつ使い勝手ええからまあええやろ!」

 

 藤野少尉がサンダーボウを放って赤蟻の足止めをする。

 

「藤野は気楽だね……でも油断しないで。この数……どこまで食い止められるか!」

 

 日向も小刻みにサンダーボウを撃ちつつ下がる。

 徐々に物量に押され始めてきた。

 

「ち、崖を上ってくる個体が増えている! 『ブラヴォー! ゴールド! 抜けてくる数が増えているぞ!』」

 

 美船中尉はニクス小隊とギガント小隊に無線する。

 

『こちらブラヴォー1! 半数は撃破したが、残りは散り散りになって崖を上っている!』

 

『ゴールド1同じく! 面制圧は無理だ、崖から登ってくる奴を各個撃破するしかない! こういう時こそウイングダイバーの出番だろ? 頼むぜ!』

 

『ふん、言ってくれる! 小隊気合を入れろ! 一匹たりとも通すんじゃないぞ!』

 

「す、すまへん美船中尉! 結構取り逃してもーた! いくらウチらでも、この量はあかんっすわ! 手ぇ足りへんて!」

 

「泣き言を言うな! 貴様それでもフェアリーテイルの一員か!? 全くなっとらん! だが、貴様の意見には同意しよう!」

 

「やっぱ美船中尉もそう思っとるやん! 怒られ損やわぁ!!」

 

「その軟弱な態度が問題だと言っているんだ!! 後で扱くから覚悟しとけ!!『レンジャー6! 済まないが抜けてくる個体が増える! 歩兵の意地を見せて見ろ!!』」

 

『サー! イエッサー! お任せあれ! 小隊、射撃開始ッ!』

 

 レンジャー6も定員から大きく数を減らし七人しかいなかったが、抜けた個体はその身を電撃で傷付けているものが多く、撃破が容易い。

 なるほど、ただでは通さないと言った所にフェアリーテイルの実力の高さを感じる。

 

「美船中尉! まずいです、疎らですが大群が上がってきます! およそ200!」

 

 雨宮が上空から確認した事を美船中尉に伝える。

 

「くっ、まだ増えるか! 崖から距離を取れ! 囲まれないように後退しつつ迎撃する! 『ゴールド! 砂浜はもういい! 崖から上がってくるヤツを砲撃しろ!』」

 

 ブーストを吹かし後退する四人。

 同時に崖から一気に巨大生物が這い出して来た。

 

『ゴールド了解! 巻き込まれないように注意しろ!』

 

『ふん! それはそちらの腕次第だ!』

 

『なら問題はないな!』

 

 ゴールド小隊は速やかに位置を変え、崖から上がってくる個体に砲塔を向ける。

 

『一斉射!!』

 

 ギガントの砲撃が赤蟻を直撃する。

 まとめて十数体は吹っ飛んだが、その黒煙を抜けて更に迫る。

 同時に7.62mmの同軸機銃と12.7mmの車載機銃を斉射し、その弾幕で足を止める。

 

 

「各自散開! 機動力を生かしつつ各個撃破!」

 

「「やああぁぁぁーーー!!」」 

 

 四人がそれぞれ飛び上がり、上空から雷撃を浴びせる。

 そのウイングダイバーに食らいつこうと、赤蟻は足を動かすが、空中に居る間は当然届かず、一方的に翻弄され続ける。

 着地時を四人の雷撃が上手いようにカバーしあい、隙の無い動きで確実に数を減らしている。

 

 しかし、数の暴力はそれを嘲笑う。

 

《こちら本部! 新たな地中振動を検知! その場所に巨大生物が掘り進んでいると思われる! 総数およそ800!》

 

『なんだと!? クソ、この戦力では到底抑えきれない! 援軍か航空支援を要請する!』

 

 レイジボーン1紺迫少佐が本部の無線に応答する。

 

《了解した! 但しどちらも時間がかかる! それまでその場所で食い止めるんだ!》

 

『こちらゴールド1! 砂浜に敵はいない! クリアだ!』

 

『こちらフェアリー2! 未だ戦闘継続中! 砂浜の敵は皆崖を上ったようだ! 側面に回り込んだ敵はどうなった!? レンジャー2!』

 

「こちらも戦闘中だ! だが数は減らした! 今のうちに態勢を――」

 

 大林中尉の会話を遮って、今度は背後の山が振動と土煙に覆われた。

 

《こちら本部! A3グリッドでコード991発生! 全てα型亜種、総数およそ800体!!》

 

「出てきやがった! なんて大群なんだ!?」

 

「まだ敵が残ってるっのに!」

 

 ハンドキャノンで中距離戦を行っていたフェンサーが騒ぐ。

 

『ちっ! ここは不利だ! 全員今すぐ海岸へ降りろ! 急ぐんだ!』

 

 紺迫少佐が移動の決定をする。

 現在部隊は砂浜沿いの国道に居るが、ここではあまりにも戦う場所が狭すぎる。

 まだ赤蟻と距離がある今のうちに、広い場所へ移動するのは的確な指示だった。

 

『了解! ゴールド移動開始!』

 

『ブラヴォー小隊も移動開始だ! 移動しながら誘導弾をバラまいてやれ』

 

『レンジャー2! 2-1、2-2共に移動開始! 合流より海岸への撤退を優先する! 出来るか!?』

 

『フェアリー2! 機動力を生かして撤退を支援する!』

 

『レンジャー6移動する! 追撃する個体だけを迎撃!』

 

「くそ、多すぎる……! まるで赤い絨毯みたいだぞ!」

 

 撤退しながら、世良軍曹が後ろを振り返って感想を述べる。

 その世良軍曹に赤蟻が牙を剥く。

 

「まだ残党も残ってるってのに!!」

 

 アサルトライフルの連続射撃で動きを止め、手榴弾でとどめを刺すが、その背後から二体、三体を姿を現す。

 いちいち相手はしていられないが、あの牙に掴まる事は避けねばならない。

 

「世良軍曹! うしろ!!」

 

「くそ!!」

 

 牙が迫る。

 咄嗟に射撃する暇も無いかと思ったが、牙を防いだのは大きな盾だった。

 ガツンと、硬い金属音が鳴り響く。

 

「効かんな……喰らえ!!」

 

 フェンサーはデクスター自動散弾銃を子気味良いリズムで射撃して、その赤蟻も、更にその周囲も制圧する。

 

「俺たちが敵を引きつける! 海岸に降りろ!」

 

「殿はフェンサーの役目だ!」

 

 もう一人のレイジボーンもスラスターを吹かせて到着し、レンジャー6を護るように立ち回る。

 

「すまん、恩に着る!」

 

 世良軍曹はそう言い残し、レンジャー6-1を率いて海岸へ撤退する。

 

「足の遅いギガント、レンジャー、コンバットフレームはさっさと下がれ! 我々なら直前まで引き付けてすぐ後退できる!」

 

 そこへ到着したフェアリーテイル2の美船中尉は自らも殿を立候補するが。

 

『フェアリー2! お前達もすぐ砂浜まで下がれ! 喰われでもしたら目も当てられねぇぜ! 武器と飛行のエネルギーは共用なんだろ? なら余裕があるうちに後ろに下がるんだ!』

 

「はっ! 機械鎧風情が生意気言ってくれる!! なら貴様らのタフさを信じてやろうかね! その代わり、生きて戻って来るんだな! フェアリー2! 砂浜まで後退!」

 

「「イエス、マム!!」」

 

 紺迫少佐の指示に従い、大人しくその場を後にした。

 

 

――レンジャー2-1――

 

 

 強烈な振動を以て、砂浜と反対側に位置する山肌が砂煙を上げる。

 まるで土砂崩れのようだが、崩れてくるのは土砂ではない。

 深紅の装甲殻を纏った巨大生物α型亜種だ。

 

《こちら本部! A3グリッドでコード991発生! 全てα型亜種、総数およそ800体!!》

 

「おのれ……! 今の戦闘につられて出てきたのか……!? このような状況で……!」

 

 ようやく、先の一団が片付きそうだと思った矢先にこれである。

 

「ちっくしょう……! ハード過ぎる状況だぜ……!」

 

 周囲を粗方片付けた鷲田少尉も、肩で息を切らしながら山肌を睨みつける。

 その鷲田少尉に赤蟻が牙を掲げで走って来るが、突然の銃声と共に沈黙した。

 

『レンジャー2! 2-1、2-2共に移動開始! 合流より海岸への撤退を優先する! 出来るか!?』

 

『出来るも何も、やるっきゃないでしょうが!!』

 

 鷲田少尉がキレ気味で応答する。

 大林中尉にキレた訳ではなく、この状況にだ。

 

『こちら水原! 今から援護するっす! 撤退しながらですけど、やれるだけやってみますよ!』

 

『すまねぇ助かるぜ!』

 

 今の銃声は水原の狙撃だったようだ。

 これで少しは楽になるか。

 

「だぁーははは! 残党も見逃すつもりはないようですな! 水原援護頼むぜぇ!!」

 

 新垣は片手で桜を抱えながらの移動だ。

 片手という事で、より扱い易く、弾幕で牽制もしやすいAS-20(アサルトライフル)に武器を変更していた。

 幸い桜は治癒剤を打ったお陰で命に別状はないが、意識も朦朧とし、まともに戦える状態ではない。

 

『了解っす!』

 

 新垣に迫る個体を、上手い事狙撃していく。

 これでなんとか――。

 

「敵の数は減ってる! もうちょい辛抱だ! 各自気張れやァ!」

 

「サー! イエッサー!! 仙崎殿! リロードします! 援護を!」

 

「了解! 喰らうがいい!」

 

 だが、バッファローG2を射撃――するところで、突然手元に衝撃が起こり、銃本体が弾け飛んだ!

 

「暴発!? ええいこんな時に!!」

 

 整備不良で無い事は間違いないが、この事態を予想しなかった訳ではない、私の運勢的に。

 なので壊れたバッファローを投げ捨て、サイドアームとなるAS-20を瞬時に構える。

 だが、その切り替えの一瞬が致命的な齟齬を生んだ。

 

「ぐはっ!」

 

「しまった!!」

 

 赤蟻の牙の突進を喰らい、新垣は弾き飛ばされた。

 寸前で桜を庇うように放り出したが、新垣は数メートルふっ飛ばされた。 

 その無防備な餌にありつこうと、赤蟻が集る。

 それが壁となり、直接の援護が困難になる。

 

「この程度、効かんなぁ!!」

 

 これでも乗用車に跳ねられた程度の衝撃はあるはずだが、新垣はピンピンしていた。

 さすが新垣、何ともないな!

 

 そのまま新垣が、AS-20を射撃すれば、この至近なら撃破が見込める筈だった。

 新垣は直ぐにリロードし、射撃を始めようとしたが。

   

「は――」

 

 新垣からかすれ声の様なものが出る。

 焦りだったのか、どこか負傷していたのか。

 新垣は、マガジンを上手くセットできず、取り落としてしまう。

 そしてそれが、決定的となった。

 

「うぐぁ!!」 

 

 新垣は赤蟻にその牙で咥えられた。

 

「くそ、野郎!!」

 

 新垣はAS-20のリロードを諦め、標準装備と義務付けられている対巨大生物用拳銃を放つ。

 だが、通常種ならともかく、装甲殻の厚いα型亜種には通用しなかった。

 

「新垣!? 貴様! 新垣を放せぇ!!」

 

 私もAS-20のトリガーを必死に引いた。

 だが、新垣がふっ飛ばされた時少し距離が開いたせいで、かつ足止めを食っていたせいで周囲に赤蟻が群がり、射線が新垣まで届かない。

 

『水原!! なにやってる援護しろ! 新垣が咥えられている! 食い殺されるぞ!!』

 

『やってるっすよ!! けど! 他の亜種が邪魔で……!! くそ! どけよお前ら!!』

 

 鷲田が水原を怒鳴る。

 事実、銃声と共に赤蟻が一体ずつ死んでいくが、新垣には届かない。

 この間、ほんの数秒だったが、このうちに新垣を咥えたまま赤蟻は、どこかに姿を消してしまった。

 

「ガッキー……そ、そんな……」

 

「新垣!! 新垣はどこ行った!? オイ!!」

 

「連れ去られた!! 新垣を咥えて、奥の方に……!」

 

『この! この!! 新垣を返せよ!! 何処に行ったんだよ……! あいつならまだ生きてるから、ちゃんと探してくれよ……! 新垣! 新垣ィィ!!』

 

 

――――

 

 巨大生物の習性とは謎が多い。

 主に人間や動物を食用に襲うが、ビルや自動車などの無機物も貪り喰らう。

 人間を見つけると一直線に向かってくる個体もいれば、その場をうろつくだけで余り関心を示さない個体や、人間よりも無機物を好んで喰らう個体も一定数いる。

 その理由は科学的には見当が付かないが、人間にも肉好きと魚好きが居るように、恐らく単なる”好み”なのだろうと結論付けられているそうだ。

 

 それと同じように、その”食事方法”にも個体差がある。

 その場で一口、頭から喰らう個体。

 手足を裂き、末端からじわじわと喰らう個体。

 真っ二つにしてどちらかを残さず喰らい、片方に見向きもしない個体。

 

 そして――獲物を加えたまま遠くに持ち帰り、時間をかけて喰らう個体。

 

 そういう話は聞いていた。

 だが実際に遭遇すると、これほど恐ろしいものかと思う。

 

「新垣……! 今――」

 

「馬鹿野郎仙崎! ドコ行く気だ戻ってこい!! 早く海岸へ向かえこの野郎!!」

 

 海岸から反対方向へ向かう私を、鷲田少尉が止める。

 

「私なら……私ならこの大群をすり抜けて新垣を救出に行けます! 今ならまだ!」

 

「駄目だ!! てめぇ桜はどうするつもりだ! 今にあの山からも大群が来やがるんだぞ! 足を止めてる暇はもうねェし、助ける暇はもっとねェ! 現実見やがれ!!」

 

「ぐっ……!」

 

 怒鳴る鷲田少尉の正論に、ぐうの音も出ない。

 

「私の、ことは良いです……。自分のミスでこうなったから……。でも、新垣は私を抱えてたから! お願いです! 新垣を助けに……助けに行って下さい!」

 

『俺からもお願いです! あいつままだ生きてるんです! 齧られたぐらいで死ぬような奴じゃない! だから!! 頼む! 頼みます……』

 

 水原の悲痛な叫びが胸に響く。

 隊の中では……いやEDFの中で、水原は最も新垣と仲が良かった。

 あの時、銃の暴発さえなければ……いや、後悔は後回しだ。

 まずはこの状況を切り抜けねば……!

 

「うるせェ情けねェ声出してんじゃねェぞ水原! とにかく、海岸へ撤退だ! ここに居たらオレらもやべェ!」

 

 その混迷の中、フェンサー……レイジボーンの紺迫少佐と部下の二人がスラスターで駆け付けた。

 

「遅くなった! ここは我らに任せて、レンジャー2-1は海岸へ!」

 

 武装をデクスター自動散弾銃に変更し、弾幕を張っている。

 先程のハンドキャノンは折りたたんで背面の兵装担架に装着してあるようだ。

 

「すまねェ任せるぜ! さあ仙崎急ぐぜ! ……これ以上、誰も失わねェように……」

 

 後半の言葉は、呟くようだったが、なぜか戦場の中にあっても確かに聞き取れた。

 

 そうなのだ……死の瞬間こそ見ていないが、もう新垣は……死んだのだろう。

 

――――

 

 その後の戦闘はよく覚えていない。

 ひとまず海岸に集合した我々は、そのまま800体の大群を迎え撃つが、その後さらに第三波が出現する。

 直後、本部からの要請で駆け付けた爆撃機フォボスが空爆を行い、大半を殲滅。

 同時刻、対地攻撃ヘリ”ネレイド”が数機到着し、圧倒的な優位性を保ちながら巨大生物を殲滅し、戦闘は終了した。

 

 戦力差は絶望的だったが、我々の損害は新垣を含む三名の戦死者と、コンバットフレーム一機、戦車一輛だけで済んだ。

 戦力的には全滅してもおかしくない様相だったが、単一の敵集団だった事と、個々の技量が高かったことが原因と後に評価された。

 

 しかし、新垣の喪失は、分隊内に大きな穴をあけた。

 

 私は戦闘直後の事を思い出す。

 

 

――――

 

 

「放してください! 新垣を……新垣を助けに行くんです! アイツの頑丈さ知ってるでしょう!? このきっとどっかで生きてますよ! だから!」

 

 暴れる水原を、大林中尉が押さえつけている。

 

「くどいぞ水原! 戦闘は終了した。今すぐここを移動し、伊勢湾港へ向かえとの命令だ!」

 

 大林中尉が強く、しかし諭すようにしっかり告げる。

 

「水原ァ。てめェまだそんな泣き言言ってンのか? いいか、新垣は死んだんだよ! いい加減現実見やがれこのガキが! くたばった野郎に、いつまでも引っ張られてンじゃねェぞコラァ!」

 

 鷲田少尉が、水原の胸倉をつかみ、強く怒鳴りつける。

 もはや瀕死の重傷の筈だが、そこには普段と変わらぬ力強さと粗暴さがある。

 

「そんな言い方……! だいたい……。だいたい! 新垣が死んだのは、アンタのせいじゃないんですか!?」

 

 その鷲田少尉に、今度は水原が食って掛かる。

 

「てめェ……。自分が何言ってるか分かってンのかァ?」

 

「そうだよ……アンタのせいだ! 桜さんが重傷負ったのだって! アンタが……そんなボロボロの足手まといの負傷で戦場に出て、足を引っ張ったんじゃないか!! 大人しくしてりゃいいのにいつもいつも前に出て……! アンタが、新垣を殺したんだ!!」

 

 歯止めが効かなくなったような水原は、涙で顔を濡らしながら鷲田少尉を糾弾する。

 

「そォか……歯ァ食いしばれやコラァ!!」

 

 重傷の筈の鷲田は、その負傷具合に見合わぬ一撃を水原にお見舞いした。

 突然の右ストレートに倒れる水原。

 無茶した勢いで鷲田少尉も倒れるが、血を流しながらゆっくり起き上がる。

 

「今の上官に対する生意気な口の聞き方は、コレでチャラにしてやる。だが水原。仮にオレのせいであったとしてもだ。そんな調子じゃァ、次はてめェが死ぬぜ」

 

 諭すような口調になるが、今の水原には届かなかった。

 

「こ、の、野郎!!」

 

 起き上がった水原が、鷲田に殴りかかるが、それを私が止める。

 

「よせ水原! 上官に手を上げればただではすまん! それ以前にこの傷だ、少尉を殺す気か!?」

 

「ハッ! いいぜ掛かって来いよ! そんなに納得いかねェってならなァ! いいか!? 戦場では強い奴だけが生きて帰る! 実力も運も仲間も全部合わせてだ!! それがねェアイツは、その程度のヤツだったって事だ! そんなにオレのせいにさせたいなら水原ァ、てめェはどうなんだ!? 親友の新垣が咥えられた時、ロクに援護も出来なかったてめェはよォ!!」

 

「鷲田少尉も煽ってはなりません!! これ以上火に油を注いで何とするのです!! それに……それ以上新垣と水原を軽んじるなら……私も黙ってはいられませんが如何か!?」

  

 鷲田少尉の余りに酷い言い方に対して、私も少し思う所があった。

 確かに鷲田少尉の言い分は分からなくも無いが、それは親友を亡くした今の水原にはあまりに粗暴が過ぎる。

 何より”その程度のヤツ”なんて、雑な言葉で片付けて欲しくはない。

 

「ほォ、てめーがそれを言うか……戦場じゃ、弱い奴、生き残る意思のない奴から死んでいく。オメーもそれは分かっている筈だ。オレと同じ地獄を、オメーは見ているはずだ。五年前、ディラッカでな」 

 

 鷲田少尉の突然の言葉に衝撃を受ける。

 

「ディラッカ事変……では、貴方も……」

 

 鷲田少尉は以前EDF海外派兵群に参加していたと言っていた。

 面識はなかったが、やはり私はアルケニア共和国のディラッカでこの男と居た事があるらしい。

 

「やっぱ、てめーもか。初めて会った時のあの目。ありゃァ、相当人間を殺してねェとできねー目だ。弱い奴から死ぬ。そして、死んだ奴には何も残らねェ。引きずるだけ無駄だ」

 

「だとしても、です。親友を失った者の前で、その言葉を使う貴方が、私は許せない……!」

 

「ハッ! 兵士にそんなデリカシーが必要かよォ!? 死者を悼む感情なんて、ぶっ壊れちまった方が幸せだとおもうがねェオレは!!」

 

「貴様ぁ!!」

 

 普段の鷲田少尉からは想像が付かないような言動に、私も理性が飛びかけるが、

 

「もうやめてよ!!」

 

 担架に乗せられた桜の声で、冷や水を浴びせられたような感覚になった。

 

「誰が悪いとか、どう思うかとかでいつまでも喧嘩してどうするのよ……。そんなの、悲しいだけじゃないのさ……。鷲田少尉は怪我して満足に動けなかっただろうし、仙崎は暴発のせいで援護が遅れて、水原は位置のせいで援護が出来なかった。そして私が……あんな風にやられて新垣の足を引っ張った。みんなちょっとずつきっかけはあったんだよ、多分さ」

 

 桜の消え入りそうな声で、皆の心が冷めてゆく。

 

「……そして、そんな采配と指揮を行った、俺の責任だ。部下が勝手に背負っていいものではない。責任は、指揮官が背負うものだ。……移動するぞ」

 

 撤退の準備も丁度終わり、我々は何も言わずトラックに乗って伊勢湾港へ向かった。

 

 

 最後に、自然と皆が敬礼を送っていた。

 この地に眠った、戦友に向けて。

 

 

 

 

 新垣巌兵長――M.I.A(戦闘中行方不明)

 

 




日向葉香(ひなた ようか)
 25歳少尉。
 黒髪ショートカットで小柄。何事も元気に取り組む真面目な性格。
 その性格が災いして同小隊の二人にからかわれたりするが、美船中尉からの信頼は厚い。武器は応用の利くサンダーボウを好んで使う。

雨宮初芽(あまみや はつめ)
 26歳少尉。
 肩までかかるセミロングで、水色のメガネを掛けている。
 常に敬語で話し、一見まじめだが人をからかう事に余念がない。
 その上頭がいいので美船中尉には普通に優秀なヤツと思われている。


藤野朱火(ふじの あけび)
 25歳少尉。
 明るい茶髪にウェーブの掛かったセミロング。
 少し肌が焼けていて、見た目通り活発な性格。
 関西弁で話すが、学生時代転校を繰り返したせいで色々な方言が混ざってしまっている。
 楽観主義が災いし、美船中尉とはウマが合わないが、傍から見るとコントのようなやり取りをすることも。天才肌で、雷撃兵器に関わらず多種多様な武器を扱うことが出来る。

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