全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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今回、題名の通りまさかの非戦闘回となりました。
前回のいかにも戦闘が始まる感出しといてこんなですけど……いやすまんね!!

ちなみに結構長いです。
ホントすまんね!!!


第四十話  レンジャー2の閑話

――14:00 京都市山科区 名神高速道路上――

 

「ところで水原。結局その……例の件はどうなったのだ?」

 

 京都防衛作戦”アイアンウォール”は既に開始されていた。

 今も戦艦群の砲撃音が地面を鳴らし、地平線の向こう側が赤く燃え上がっているのが見える。

 

 我々歩兵部隊は、今はここ名神高速道路上で、戦車、グレイプ装甲車、ニクスなどの機甲部隊と共に待機していた。

 後方のビル群には、屋上で狙撃兵達がライフルを構え、更にその奥には左右に大規模な戦車連隊が控えている。

 皆臨戦態勢だが、実際の出番はまだ先だったため、今は粛々と闘志を燃やしている最中だった。

 

 そんな時にこんな話をするのもどうかと思ったのだが、あれ以来ここ数日は作戦に向けて兵器の完熟訓練やスペックの暗記などですこぶる忙しく、落ち着いて雑談をする余裕も無かったのだ、許してほしい。

 何よりこう気になっていては私としても精神上良くないし、死ぬ気が無いとは言え心後に引かれるものを残しておくのも気分が悪い。

 

 その点瀬川ときたらもう……やれ生き残ったら返事をくれるだの、番号教えてあげるだのなんだの……今回だって妙な約束を取り付けてしまった。

 その約束と言うのも――

 

 

――回想――

 

 

 あれはそう、何日か前、慣熟訓練中の昼の休憩中。

 射撃訓練所の傍らで昼食に固形レーションを頬張りながら、スペック書を読んでいる最中の出来事だった。

 

「ふむふむ……あれは妙に破壊力があると思ったら1S-2B方式? とやらが関係しているのか……。なになに? 1Shot-by-2Bullets……、『2発の弾丸を同時に着火し、2発分の運動エネルギーで1発の弾丸を加速させる特殊な仕組みを持つ』か。マガジンは60発分の容量だがこれは実質30発分という事か? 確かに火力は出るが継戦力は低そうだな……。機構も複雑そうだし、戦場で私が触ったら秒で壊れかねんと言う問題はあるが、しかし火力の向上は単純に喜ばしいものだ。むう、だが今回は後発を待った方が――」

 

「てやっ!!」

 

「殺気!?」

 

 突然背後から気配を感じ、首を傾けて回避する。

 

「ふっふっふー。自分への攻撃は躱せても、持ってるものは取られちゃうみたいねー?」

 

 なんと飛行ユニットを装備した瀬川が、得意げな顔して上空から奇襲をかけてきた!

 しかも私が手に持っていた食べかけの固形レーションが取られてしまった!!

 

「ファーーー! 瀬川葵! 貴様何のつもりだ!」

 

「ん……。うーん相変わらずマズいわねこれ」

 

 更にそのまま私のレーションを食べられてしまった。

 

「私の昼食を横取りした挙句に感想がそれか! ホントなんなのだ貴様!」

 

 いくら惚れているとは言えこれは少し懲らしめた方が良いのではないだろうか?

 最近私、舐められてる気がする!

 

「あっはっはーごめんごめん! でもさ! そんなものより今基地の食堂で数量限定で超豪華!海鮮丼の配給やってるから、アンタも行った方良いわよ!」

 

「なぬ!? いやしかし、今は少しでも慣熟訓練をやっておかねば……」

 

 うう、誘惑と訓練の間で葛藤が……。

 広大な演習場から基地食堂へは車を使わないと多少時間がかかる程は離れているのだ。

 

「あーもうつべこべ言わない! 美味しいものは訓練より大事なの! はい握手!」

 

「ん? なぜ握手?」

 

 と言いつつも差し出された手を思わず握ってしまう。

 

「捕まえた! ほーらユニットに掴まらないと肩脱臼するわよ!」

 

 瀬川は飛行ユニットの出力を絶妙に抑え、小走り程度の速さで徐々に加速し始めた。

 

「いだだだだ! 瀬川貴様! 私を力ずくで捉えられんからって!」

 

 とは言え、徐々に加速するこの状況では手を放す方がかえって危ない。

 結局、瀬川の読み通り腰に手を回して掴まる事にした。

 

「えっ!? ちょ、そんな抱きしめるの!? ユニットに掴まんなさいよアンタ!」

 

 突然顔を真っ赤にする瀬川。

 

「読み通りではなかった!? ええいこうなれば私も少しは役得を得たって良いではないか!」

 

「しかも下心出すな! ふん、もういいわよ! 振り落とされないようにしっかり掴まってなさい! 離陸!!」

 

 滑走を終え、大空に飛び立つ瀬川と私。

 

 しかし、出会った頃にもこんなふうに一緒に飛んだなぁ、としみじみ思いだす。

 あの時は緊急事態だったが、落ち着いてみるとこうして女性に密着する機会はあの時が初めてだったかもしれない。

 そして今が二回目だ。

 なんか引っ張られてるというか振り回されてばかりだが、私も大胆な真似をするものだと自分でも思う。

 

 ――そして、私が抱き着いて仲良く空を飛ぶ様子は地上から様々な人間に目撃されているのだが、この時の私は不覚にも気が付かなかった。

 

 それはそうと、随分長い時間地に脚付けず飛んでいる気がする。

 

「ところで瀬川、ユニットの扱いが随分上手くなったんじゃないか? さっきの絶妙な低出力飛行もそうだし、今も長い時間飛んでいる気がする」

 

「え? ……ああ! 時間ね! 分かる!? 実はこれ今回支給された新型のユニットなのよね! 正確には内部のプラズマコアが違うんだけど!」

 

「そうなのか? こんなに長い時間飛べるとは、戦場での活躍がかなり期待できるんじゃないか?」

 

 ウイングダイバーの飛行時間は思ったより短いらしい。

 傍目から見るとあまり感じないが、本人からすると戦場では貧弱な防御のせいで飛行が必要な場面が多く、武器とのエネルギーが兼用な事もあって好き勝手に飛んでいるとすぐオーバーヒートしてしまうらしいのだ。

 

「アタシも最初はそう思ったんだけどさ、実はこれ飛行時間が伸びた分武器へのエネルギー供給量が抑えられてるらしーのよね。だから、低燃費な武器じゃないと使い物にならないって言うかー。でもアタシみたいにレイピア一本でザクザクやっちゃう娘にはいいかもね! アタシも気に入ってるし!」

 

「レイピア一本でザクザクやっちゃう娘って、君以外に居るのか……?」

 

「いるわよ失礼ね! あー、有名どころだとやっぱスプリガン2かしら。もうすんごい接近戦に特化したガチガチの切込み部隊だから、アタシも憧れてるのよね~! ただちょーっとお堅くて近寄りがたい雰囲気だけど」

 

「ああ、スプリガンか。確かプライドが特に高い事で有名だな。厚木市では随分世話になった覚えがあるぞ。まあ、他部隊との折り合いは悪そうだが……」

 

「まあなんてったって精鋭中の精鋭って言われる教導隊だしねー。そりゃ多少偉そうにしてないと示しつかないでしょ」

 

「周囲への示しも実際のところ士気には関わるからな。それはそうと、さっきの話ぶりだとユニットの微調整が出来るようになったのは君の実力だったという事か。ふざけてはいたが、大したものではないか」

 

「な!? あ、あんなの大したこと無いわよ……実戦で使えるかどうかも分かんないし……でも、その、ありがと」

 

 最後の方は小声になっていたが、私の耳にはしっかり聞こえていた。

 

「どういたしまして。照れている瀬川の顔が見れなくて残念だ」

 

「は!? んもう! 振り落とすわよアンタ!!」

 

「ぬぁははは! ちょっと可愛い所あるではないかファーー!!」

 

 突然振り下ろされた私は、しかし華麗に受け身を取って着地!

 

「凄い……! めっちゃ綺麗に着地するじゃんアンタ……」

 

「凄い……! ではない!! 本当に振り落とす奴があるか!!」

 

「大丈夫大丈夫地面近かったし減速してたから! ど、どうよアタシの完璧な調整は! もっと褒めてもいいのよ!」

 

「照れながら言うでない! なぜ褒めるのに怪我を覚悟せねばならんのだ……」

 

 理不尽ここに極まれり。

 

「まーまー、どうせアンタ怪我しないしいいじゃないの! それより着いたわよ! さっさと食堂へ急がなきゃ!」

 

 まあ、瀬川が嬉しそうにしているからいいか。

 

「む、そうだな」

 

 そう言って私と瀬川は食堂へ急いだ。

 

――――

 

「「ごちそうさまでした!!」」

 

 私と瀬川は綺麗に並んで頭を下げると、食堂から退室した。

 

「はぁー。久々にこんな美味しいものを食べた気がするな……」

 

 食事をしてこんなに美味しいと思えるのは暫くぶりだろう。

 自然と、表情が緩んでしまう。

 本当に、昨今は食糧事情も厳しく、こんな豪華な食事など本来ならば許されない筈だが……。

 

「はぁー。ホントにねー。漁師さん達には、ホント頭が下がるわー」

 

 瀬川もどこか緩んだ顔をしている。

 

 「少しでも日本を護る兵士さん達の力になってくれたら」と漁業関係者が命がけで食材を集めてきてくれたのだという。

 文字通り、命がけだ。

 

 フォーリナーの航空戦力であるガンシップは無人兵器である。

 どこかに操縦者が居て遠隔操作されているのか、自律兵器であるのかは不明ではあるが、ガンシップは軍事兵器としては統率が取れているとはとても言い難い。

 

 どちらかと言うと、群れで活動する鳥のようなものだ。

 その為獲物が見つかれば一斉に襲い掛かったり、逆に群れからはぐれてあてもなく彷徨うような機体も存在する。

 

 それが何かの偵察行動である可能性も濃厚だが、どちらにせよその目的や活動範囲を予測する事は難しい。

 その為、フォーリナーの危険がないと思われていた場所で突然発見され、襲撃を受ける事が多々ある。

 

 以上の事は巨大生物にも当てはまるのだが、ガンシップの場合は特に活動範囲が広いので手を焼いている。

 その為、洋上で漁を行っていた漁船が襲撃されるという話は実は多々ある。

 当然、畜産業、農業も本州の大半が占領されたことによって大打撃を受け、現在は大半が他国からの輸入と急ピッチで進められている人工タンパク等を利用した合成食品が主流だ。

 

 皮肉な話だが、人口が激減した事により、それでも何とか飢える事無く日々活動を続けられている。 

 そんな中、こうして贅沢な食事を味わえることは本当に幸せな事だ。

 

「ガンシップも徘徊する中、命がけで海に行ってくれたのよね。戦ってるのって、アタシ達だけじゃないんだって実感するわね」

 

「ああ。彼らの思いに答える為にも、護らねばな。日本を」

 

「ええ、本当に」

 

 此度の京都防衛戦、元々負ける気は無いが、ますます負けられない理由が増えたな。

 

 日本の防衛は比喩なしでこの戦いに全て掛かっていると言っていい状況だ。

 東日本方面の防衛をほぼかなぐり捨ててここ京都に一点集中させ、更に九州地方の戦力も大半を応援で呼び寄せている最中だ。

 

 対してフォーリナーの戦力も侵攻方向は大半がここ京都へ向けて集結している。

 つまり、その戦力を跳ね返すことが出来れば、日本の大侵攻に歯止めをかける事が出来ると同時に、領土奪還に向けても大きく近づく、まさに日本の明日を決める大博打なのだ。

 

 そして、人類と違いどれだけの損害を出しても怯んだり撤退したりしないフォーリナー群に対しては、殲滅以外に戦力を跳ね返す方法がない。

 文字通り戦力と戦力のぶつかり合いになるのだ。

 ……正直、非常に苦しい戦いになるのは明白だ。

 

 だが、勝たねばなるまい。

 銃持たざる者のこのような思いを受け取った以上、絶対に勝たねばなるまいと、改めて決意した。

 

「それと瀬川、ありがとう。君に拉致られなければ、恐らくここへ来ることも無かった。感謝している」

 

 心から礼を言っておこう。

 食事もそうだが、こうして人の思いに触れた事へ、ただ感謝しかない。

 連れ出し方はちょっとどうかと思うが。

 

「ぁ……ど、どういたしまして……。喜んでもらえたなら良かったわよ。か、感謝しなさいよね! それじゃ帰るわよ! ほら掴まりなさい! 今度はユニットにね!」

 

 小声で反応してから早口で捲し立て、くるりと後ろを向く。

 

「いや、遠慮しておこう。そう何度も女性である君に掴まって送ってもらう訳にも行くまい。帰りはそうだな……トレーニングがてら走って向かうとする」

 

 一緒に飛ぶのも悪くは無いが、男としてこう女性に任せきりなのはどうなのだろうか。

 今度何かでお返しする必要があるな。

 

「え……、いやでもほら……、アタシが変な事言ってアンタの訓練邪魔しちゃったってのもあるし……」

 

「ん? 感謝はしているが」

 

 強引ではあったが、まああのぐらいが瀬川らしさなのだろう。

 今となっては思う所は……いや、でもあんなのを毎回やられたらどうなのだ……。

 ふ、まあそういうのも愉快でいいかも知れないな。

 

「そうなんだけど……ええい! どうでもいいわ! なんか負けた気になるからアンタの目論見は粉砕するって決めてるのよ! 掴まりなさい!!」

 

「睨みながら言う事か!! なんなのだ貴様は!!」

 

 前言撤回!

 やはり強引過ぎるのはどうかと思うぞ!

 

 

――side:瀬川葵――

 

 

「で、結局腰に手回すんだ。ふーん」

 

 脳波をPEユニットと同調させて、離陸する。

 最初は慣れなかったけど、今はもう感覚的に出来る行為よね。

 そんな訳でコイツを乗せて飛んでるわけだけど、どうもこの男、よほどアタシにしがみ付きたいらしいわね。

 

 アイツの体が密着すると、少し、いや結構緊張する。

 脳波が乱れるのは本当は良くないのだけれど、そ、そんな事言えるわけないじゃない!

 これも訓練、そう訓練よ!

 

「い、嫌ならそう言えば良いではないか。ユニットに掴まるより、これが安定すると先程分かったのだ。……駄目か?」

 

「べ、別にいいけどさ!! ったくホント、アンタって結構大胆よね……」

 

 一見理性的に見えて、こんな風に自分の欲求には忠実なのよねコイツ。

 アタシにいきなり告白してきたのだって、もしかしたら色んなヤツに同じことを言っているのかもしれない。

 ふとそんな考えが浮かぶ。

 

「ふ、自分を抑える必要は無いと昔教わったのでな」

 

「ふーん。……ねえ、アンタって誰かと付き合ったことあるの?」

 

 コイツの言う”昔”も気になるところだけど、そんな事より女性経験を探るのが先よ!

 確か歳は……アタシのひとつ上の26歳。

 アタシが言える事じゃないけど、女の一人や二人いた事があってもおかしくないわね。

 

「ない。君が初めてだ」

 

 あっさり否定された。

 しかも誤解ある言い方で!

 

「は!? あ、あ、アタシ達まだそ、そこまで行ってないでしょーが!! 何考えてんのよ!?」

 

「おっとそうだったか。口が滑った。スマン」

 

 コイツの中ではアタシ達既に付き合ってる事になってんの!?

 

 た、確かに”君を好きになってしまった”とかいきなり言われた時はちょっと嬉しかったりしたかも知んないけど……。

 ……うん、最初はやっぱ戸惑ったけど、コイツと話すにつれ日に日に好感度は増してる……と思う。

 けど! なんだかそれもコイツにいいように踊らされてる感じがして悔しいじゃない!

 だからそう簡単にOKしてあげないんだから!

 覚悟しなさいよねホント!

 

「へぇ~。でもそうなんだ」

 

 それはそれとして、コイツが付き合った事無いのが意外ね。

 確かにちょっと変わってるとこあるけど面白いヤツだし、たまに紳士な面見せてくるし……でもやっぱり変人かしら。

 顔は黙ってればそれなりに……普通ね、普通だわ。

 むしろ黙ってると急に存在感無くなるって言うか……地味?

 

 あれ? もしかしてコイツって案外大したこと無い?

 アタシなんでこんな奴に惹かれてるのかしら……?

 

「そういう君は、どうなんだ?」

 

「え……。……アタシ、は……」

 

 まずい、やってしまったわアタシ。

 確かに、何気なくコイツに付き合ったことあるのかって聞いちゃったけど、聞いたら当然アタシにも同じこと聞いて来るわよね……。

 

 いや、正直に言うと、ある。

 まだ中学生の頃だったし、今思えば子供故の勢いだったのかも知れない……けど、少なくともあの時は真剣だった。

 

 でも、今その話をするには、ちょっと重すぎる結末がある。

 かといってその場しのぎの嘘も付けないし、中途半端に話すのもなんか嫌。 

 

「ふん! 秘密! 秘密よ!」

 

「なぬ!? 貴様私に言わせておいて!!」

 

 だったら堂々と言わない事を宣言するわ!

 

「う、うるさいわね! 知りたかったら明日からの作戦、全力で生き残ってまたアタシに会いに来なさい! それが条件よ!」

 

 だからまた条件を付けてあげる。

 これでアタシも死ぬわけにはいかなくなったし、アンタも気になって絶対に生きて帰って来るでしょ!

 

「ま! またそういう感じか! なんなのだ!? 貴様との親睦を深める為には毎回毎回命がけの戦闘を挟まんといけない決まりでもあるのか!? 貴様さては私嫌いだな!?」

 

「嫌いなヤツにこんな事する訳ない……って、なんてこと言わせんのよアンタはぁぁーー!!」

 

 あ、危うくコイツの誘導尋問に嵌まってしまう所だったわ!

 アタシはちょうど目的地に着いたので、下降して地面に投げ捨てた。

 いい気味!!

 

「理不尽!!」

 

 と言いつつ、さっきと同じように綺麗過ぎる受け身を取って何事も無かったように立ち上がる。

 いや、これ動画にとって拡散したいわねマジで……。

 柔道界とかに入ったらきっとコイツ天下取るわよ。

 

「き、貴様……これ私じゃなかったら死んでるからな……?」

 

 格好良く着地した割にはなんか疲れた目で見てくる。

 

「ふん! 乙女心を弄ぶアンタへの鉄槌よ! どうせアンタ死なないしね!」

 

 コイツの言動はストレート過ぎてちょっとアタシの精神には負担がデカいのよね。

 まあ、意味深な事ばっかほざかれるよりはいいけど。

 

「ええい人を不死身みたいに言うな!」

 

「……アンタは不死身よ。アタシを二度も、あんな窮地から救ってくれたんだからね」

 

 実際、アタシにとってコイツは不死身だ。

 スチールレインの時なんかもうホント死んだかと思ったけど、未だに生還出来たのが信じられないくらい。

 

 困ったことに、アタシの中ではもうピンチの時に駆けつけてくれるヒーローみたいな感じになってる。

 実際はそんな訳ないって分かってるのだけど……ホントどうしてくれるのよまったく。

 

「おぉう……、急にそんな真剣に来るとは思わなかったぞ。まあ、私もそう簡単に戦場で死ねるとは思っていないが、それでも、君を救えて本当に良かった」

 

 ――この時は軽く流してしまったけど、この「簡単に戦場で死ねるとは思っていない」ていう意味、これがコイツの、仙崎誠の中で重要な意味を持っている事を、アタシは気付かなかった。

 

「だから! これはそのお礼よ! これで貸し借りは無しだからね! それに、最近なんか元気無かったみたいだし」

 

 もちろん、こんな事で二度命を救われた事がチャラになるとは思ってない。

 でもそれを言い出したらコイツが命の危機になるのを待ってからアタシが救いに行かないといけなくなるし……。

 

 そんなことが起こるのか分からないし、それまでずっとこれを借りのまま取っておくのは凄く嫌だ。

 具体的に言うと負けた気がする!

 

「! 気づいていたのか?」

 

「アンタ沈んでると存在感無いのよ。敢えて聞くけど、何かあったの?」

 

 やっぱり当たってたのね。

 傍目から見て、何となく普段より暗い感じがしてたなーっては思ってたんだけど。

 あんまり落ち着いて会話できる時間も無かったし、半信半疑ではあったのよね。

 

「ああ。ここへ向かう途中、巨大生物の襲撃を受けてな。同じ分隊の仲間が死んだ」

 

「……そう。まあ、察しはついてたわ。こんなご時世だもんね。仲は、良かったの?」

 

 今のEDFではあまりにありふれた話よね。

 アタシも先月間宮を失ったし、一人で済んでるだけマシだと思う。

 思うんだけど、それでもやっぱり悲しいし、ちゃんと悲しめるうちが人間として正しいと思ってる。

 

 でも、コイツみたいにいつまでも引き摺っちゃうのは駄目よね。

 

「まあ、普通、であったかな。特別に個人的な付き合いをして居たわけではない。でも、何と言うか、私が悪かったのではと考える事があってな……」

 

 アタシだって、間宮の時はそう思ってた。

 

「ふーん。なるほどね……。アタシもさ、知ってると思うけど、厚木市で小隊の娘を一人殺されたわ」

 

「ああ。知っている」

 

 アンタにあの時、救ってもらったものね。

 

「間宮っていう娘でね。同い年だし、仲良かったんだ。あの時は取り乱したけど、もう整理はついた」

 

 間宮はダロガの照射危険域まで上昇してしまって、レーザーで焼き殺された。

 アタシは危険に気付いて間宮を連れ戻そうとしたけど、間に合わなかった。

 あの時、握った手の先が無くなっていた事は今も鮮明に焼き付いて、思い出すだけで正直吐きそうになる。

 

 けど、やっぱり仕方のない事だったのかなと、そんな風にも思う。

 いくら悩んでも過去は変えられないし、だったら下手に悩んで動けなくなるのってマイナスだとアタシは思ってる。

 だから、終わったことは深く考えない。

 そんな事より目の前の事を見て、そして楽しむ。

 

「瀬川……」

 

「だから、アンタも自分が悪かったとかそうじゃないとか考える以前に、それはそれとして吹っ切りなさいよね! どんだけ悩んだってもう終わった事なんだし、考え過ぎは心に毒よ。分かった?」

 

 そもそも、アタシはってばあんま頭良くないから色々考えるのは苦手なんだけど、コイツは結構頭良さげだし、なんか考え込みそうなタイプよね。

 これからも、ちょくちょく様子見に行った方が良いかもね。

 

「ああ! すまん、心配かけたようだな。もう大丈夫だ」

 

 そう言ったコイツの顔に、陰りはもうなかった。

 さっきまでのふざけたノリで誤魔化してる感じはない……と思う。

 一応吹っ切れたって思っていいのかしらね。

 

「あはは、なら良かったわ! それじゃあ、ちゃんと次の戦いも生き残るわよ!」

 

「ああ! お互いにな!」

 

 さて、そろそろお昼の休憩時間も終わるし、アタシ達は分かれてそれぞれの演習場へと向かった。

 

 来たる京都防衛戦に向けて、生き残る覚悟を固めながら。

 

 

――回想終わり――

 

 

 まったく、瀬川の過去の恋人か……。

 それをあんな言い方で生き残る条件に指定したという事は、恐らくではあるが、いるんだろうなぁ。

 しかし、どうにも何か含むところがありそうな感じではあった。

 

 いや、まずい、普通に気になる……。

 きっと少し話しにくい事なんだろうが……なんだろう。

 

 まさか、「今好きな人が居るから、アンタとはこれっきりね! バイバイ!」とか言い出す気なんだろうか!?

 ぬぁーー!! 生き残った報酬がそれでは流石に報われないぞ私!!

 

 はぁはぁ、待て、落ち着くのだ私……、これが原因で集中力を欠いて戦死では、流石に笑えないぞ……。

 いや、私が死ぬのはともかくとして、周囲を死に追いやってしまっては悔やんでも悔やみきれん。

 

 ”どんだけ悩んだってもう終わった事なんだし、考え過ぎは心に毒よ。分かった?”

 瀬川の言葉を思い出す。

 

 正直少し、衝撃を受けている。

 瀬川は、詳しい状況を聞かなかったし、故になのか、私に非があるかどうかを論点としなかった。

 

 こういった場合、普通まず状況を聞き出し、その上で「君は悪くない、だから気にするな」と、私を含めた大抵の人間は慰める。

 これが悪いとか正しくないとか言う話ではない。

 

 だが瀬川は違った。

 終わった事だから考えるな、か……。

 ある意味、考え過ぎてしまう私に真に合致する言葉だ。

 

 これは私の心理状態を的確に分析して放った最適解の言葉だと計算して話した……と言うような感じではないだろうが、だとしたら物凄い直感と言える。

 

 いや、と言うより、それが恐らく瀬川の在り方なんだろう。

 そういう所も、私が彼女に惹かれる理由の一つなのだろうか?

 

 考えるなと言われてすぐ実行する事は出来ないが、それとは別になんかもう瀬川の事しか考えていないので、これはこれで効果があったのかも知れない。

 いや流石だな瀬川、ありがとう瀬川。

 

「例の件? ん? なんすか?」

 

 水原が私の問いに返事をした。

 そうだ、一瞬物思いに耽ってしまったが、水原に「例の件ってどうなった?」と問いを投げかけたところだったな。

 

 例の件、とぼかしたのは水原の為だ。

 

 特に口止めされていなかったが、話が話だ。

 皆知ってる風でもなかったし、何となく秘密にしておいたほうが良いだろうという私の気遣いである。

 ……のだが。

 

「いや、先日の夜、話した話があっただろう」

 

「先日の夜? って、何か話したっすか?」

 

「貴様がなんか悩んでいたあの話だ! 貴様覚えていないのか!?」

 

「んー、何でしたっけ、だからそれ言ってくださいよ」

 

「貴様が困ると思って気を使ったのだが! これで思い出さないとは記憶力に難があるぞ貴様!」

 

 困ったな、まさかここまで馬鹿とは思わなかった。

 

 どうしたものかと思っていたら、水原は急に次々と話し始めた。

 

「それ皆に良く言われるっすよー。きっと大林中尉によく殴られてるせいっす。あ、鷲田のヤローにもっすね。あんにゃろーあんな冷血だとは思わなかったっす。新垣の事は吹っ切れたって言ったっすけど、流石に鷲田のヤローはまだ許せねーっす。あ! 思い出したっすよ!! 俺が軍病院まで行って新垣香織さんに告白するって言った話の事っすね!!」

 

 あ、馬鹿! そんな大声で自ら言うな!

 

「え!? 水原! お前今なんつった!? え!? お前好きなヤツいんの!?」

 

 ほら見ろ浦田が真っ先に食いついてきた!

 

「なに!? ホントか水原! テメェそんな話聞いてねーぞ! もっと詳しく話せコラ!! 殴んぞ!」

 

 ああ、鈴城軍曹も楽しそうな顔で詰め寄ったではないか!

 

「ええ!? マジかよ水原! しかも告白するって言ったか今!? おいおい意外と大胆な所あるじゃねーか! 頑張る奴好きだぜ俺!」 

 

 馬場も騒ぎを聞きつけて大声を出している。

 

(ちなみにこの時、空軍の爆撃飛行隊”スティックニー”が決死の覚悟で爆撃を行い、爆炎で焼かれる巨大生物を見て「空爆万歳だ!!」と周囲の歩兵達は沸き立っていたのだが、我々はそれどころではなかった。)

 

 そして、当の本人はと言うと……。

 

「ぎゃー!! 今まで秘密にしてたのに!! ちょっと仙崎さんなんてことするんすか! ひでーっすよ! 誘導尋問っす!!」

 

 非難を前面に押し出した顔で私を睨んでくるが。

 

「ええい貴様の自業自得だ! お門違いも甚だしいわ!」

 

「ふふふ、さーて水原ぁ、どう見てもテメェの自爆だが、そんな事ぁどーでもいい。全部話せ、な?」

 

 鈴城軍曹が笑顔で(凄く怖い)ヘルメットをショットガンでコンコンとリズミカルに叩く。

 

「うぇー、理不尽っすー」

 

 言いながら、最早言われるがまま話す羽目になった水原っであった。

 

 

――――

 

 

「で、意を決して言ったんすよ”香織さん、俺、やっぱりあなたの事が好きなんです! 自分の気持ちに嘘はつけないんです! 今言う事じゃないかも知れないけど、でも本当なんです! 俺の、恋人になってください”って!」

 

「「それで、結果は!?」」

 

 いつの間にやら熱の入った水原の語りに、私、鈴城軍曹、浦田、馬場が同時に尋ねる。

 この四人だけでなく、作戦中だというのに周囲の人間も耳を傾けている。

 

「フラれたっす!!」

 

 堂々と言い放った。

 

「だろうなー!」

 

「ひゃはははは! ここまで言って! ウケるんだけど!!」

 

「水原オメー、そりゃそうだわ!!」

 

「玉砕かよ!! まあ男らしくて俺は好きだぜ! 落ち込むなよ!」

 

 私、鈴城軍曹、浦田、馬場の順にそれぞれの反応を示す。

 

「あー、やっべー、テメェこんなに面白馬鹿だったとは思わなかったぜ! で、なんて言われたんだよコノ!」

 

 非常に上機嫌ではあるが、関係なく飛んでくる肘打ちを受ける水原。

 

「ぶほぅ! いやぁ、”ごめんなさい。今はまだ受け止めきれません。ちゃんと返事をしたいから、私の気持ちが落ち着くまで待ってくれますか?”って。あー、これは絶対フラれたっすよねぇー。はぁー」

 

 意気消沈する水原だが、我々四人はすぐに小声で集まった。

 

「あれ? 思ってたよりちょっといい反応だぞあれ」

 

 浦田が真っ先に分析する。

 

「その時の仕草や表情にもよるが、満更でもない感じはするな」

 

 私も同意する。

 水原の話によると新垣香織という女性は、弟とは随分違い、真面目で清楚な女性だという。

 その性格を考慮すれば、突然の告白に対し落ち着いてから回答したいという気持ちはある筈だ。

 

「ちぇーなんだよ。生意気にもその場で斬り殺されないくらいの好感度はあったって訳か。でもこれはこれでまだ楽しめるネタが続くって事だよな。楽しくなってきたぜ」

 

 鈴城軍曹はもうさっきから楽しそうな感じを隠そうともしないな。

 横暴ではあるが、この人はもうこういう恋愛や喧嘩、揉め事とかホント楽しそうに介入するからな……。

 

「こりゃあまだ水原にゃあ頑張ってもらわねーとなぁ! ちなみに鈴城軍曹はどっちがいいんですかい? 上手く行くのか、行かないのか」

 

 鈴城軍曹ですら空気読んで小声で話しているというのに、馬場貴様声がデカいのだよ……。

 

(ちなみにこの時、進撃する巨大生物群に対し、工兵の仕組んだ地雷原が二度三度炸裂し、巨大生物が派手に吹き飛んでいたが、我々にはそれよりも大事な事があった)

 

「んなモンどっちでもいいんだよアタシが楽しけりゃ! 上手く行ったら喜びついでに散々からかってやるし、マジにフラれたなら慰めた後に……うん、やっぱからかうわ!」

 

「結局からかうだけですかい! よし水原、俺はお前の事応援してるぜ!」

 

 馬場は水原に向き直り、肩にポンと手を乗せ……違った、肩をバシンと強く叩いた。

 

「痛っ! え? なんすか? フラれたって話したんすけど!?」

 

「その話、もっとよく自分で噛み砕いて考えてみろよ。自分でな!」

 

 浦田は常識的な強さで肩を叩く。

 

「え? 噛み砕くって言われても……えー話を噛み砕くのってどうやるんすかね?」

 

「水原、貴様はもっと頭を使え。あと勢い任せではない自信を持て」

 

 何となく出来た流れに乗って私も肩を叩いて自分の持ち場に戻る。

 

「頭を使う……、うぅ、狙撃してるときはもっと思考がクリアになんすけどねぇー……」

 

「うっせ! グチグチ言ってねーでまっすぐ突き進んでみやがれコラ! こんな楽しそうな話出来たんだ! テメェ死んだらマジで許さねーかんなコノヤロー!」

 

「し、死ぬ……」

 

 最後にこれまでの流れを無視して喰らったボディーブローに、水原は悶絶していた。

 

 一応アーマースーツ着てるのにダメージ与えられる鈴城軍曹とは一体……。

 

《前哨観測班スカウトより全防衛部隊へ! 巨大生物前衛集団、戦車部隊攻撃開始地点まで、残り500!》

 

 そんな我々の愉快なやり取りも、いよいよ現実に引き戻される。

 戦域全体に飛ばされた無線により、これまでの空気が一気に引き締まる。

 

《本部より全作戦部隊へ! 現時刻を以て、アイアンウォール作戦、第三段階への移行を宣言する!》

 

《巨大生物、攻撃開始地点を通過!》

 

《戦車部隊!! 攻撃開始せよ!!》

 

『了解!! 全車輛! 攻撃開始! 撃ぇーー!!』

 

 我々と同じ並びに居た次世代戦車、ギガンテスが、空気の震える衝撃を以て一斉に砲撃を行った。

 

 同時に、左右後方からも中央で交差するように、幾多もの砲弾が飛んでくる。

 

『中隊総員! 戦闘用意!! 巨大生物は直ぐ来るからね! 距離を取りつつ乱戦になる前に後退して、敵を市街に引きずり込むよ!』

 

『『サー! イエッサー!!』』

 

 中隊全員が銃を構える。

 

 数分後、後方のビル群から狙撃が飛んでくる。

 

「水原。まだそれは使うなよ? 今は弾を温存しておけ」

 

 大林中尉が水原に言う。

 その水原が持っているのは、新型の対物狙撃銃”ライサンダー”だ。

 ダロガの装甲を貫くことを目的とされたその狙撃銃は、曰く戦車砲並みの威力があると喧伝されている。

 

「イエッサーっす! 今度は……もう醜態は晒しません」

 

 水原らしからぬ真剣な表情で、顔を引き締める。

 

『中隊総員! 巨大生物接近! まだ撃たないで。10秒後、一斉射撃』

 

 結城大尉の、普段と変わらない柔らかい声が無線で聞こえる。

 

 巨大生物が、肉眼で見えた。

 その様子は酷いモノだった。

 足が欠け、装甲殻は剥げ落ち、焼け焦げ、グロテスクな肉がはみ出、体液を垂れ流している。

 そんなゾンビのような状態だが、変わらず猛然と進撃してくる様相に吐き気がしてくる。 

 

 距離が縮まっていく。

 

『……4、3、2……今だ! 射撃始め!!』

 

 結城大尉の声で、我々第88レンジャー中隊は、一斉に射撃を始めた。

 

 京都防衛作戦”アイアンウォール”第三段階。

 

 凄絶な地上戦が、幕を開けた。

 




はい。反省してます。
いやホント、書きだしたら止まらなくなっちゃって!
戦闘時は色々予備知識必要だから調べながら書いてて時間かかったりするんですけど、会話劇はもう勢いよ、勢い。
って書いてたらもうこんな事に……。
ほとんど回想な上に途中で瀬川視点になるっていう意味不明な構造になってますがコレ許される?

長かったけど区切るところも無かったし、二話に渡って非戦闘回を挟むのもなんかな……って思ったんで思い切って投稿してやりました。ドヤ!

さあ、次回こそ……次回こそは本格的なアイアンウォール作戦やりますんで!
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