――2023年 3月30日 16:00 琵琶湖内 EDF太平洋連合艦隊旗艦 リヴァイアサン
「榊司令! 戦域に
柊中尉が、戦場に配置された簡易レーダーを読み取って報告する。
「全長11mの雀蜂が空中に全部で四千体か……吐き気がするな」
柊中尉の横に立って顔をしかめるのは、副司令官の秋元准将だ。
「だがタイミングとしては予定通りだ。小原博士、ルアルディ中尉、君達のお陰だ」
「えへへ。お役に立てて良かったです」
榊中将の言葉に、ルアルディ中尉は嬉しそうにほほ笑む。
二人には、まだデータの少ないγ型の分析と、結果導き出された予測移動経路と時間を算出してもらった。
お陰でEDFは、迎撃準備が万全に整っている。
「γ型の場合、あの巨躯に対して四枚の羽根部分が地球種の羽よりも比例的に軽くなっているが、計算通りの速度が出せたという事は、我々が思っていたより地球種の特徴に似通っているのか、あるいは――」
小原博士はぶつぶつと顎に手を当て考え込んでしまい、秋元准将がやれやれといった呆れ顔をする。
茨城博士とはまた違った感じの変人であることは有名だ。
「細かい分析はせめて頭の中でやってくれると助かるがねぇ、小原博士。して、榊司令。前線部隊も損耗が出始めています。こっちもそろそろ頃合いでしょう」
秋元准将のその言葉を、榊中将が受け取る。
「ああ。作戦を次の段階に進める。ここからが正念場だ!」
榊中将は全域に開かれた無線機を手に取る。
『全作戦部隊へ告げる! γ型巨大生物の戦域内侵入を確認した! 機甲部隊、フェンサー部隊が殿となり、それ以外の部隊は西へ即時移動せよ! 同時に京都市中心部にて待機中の第二陣は攻勢開始! 第一陣の背後に回り込んだ敵群に挟撃をかけ、市街戦に持ち込め! 稲荷山に布陣する対空迎撃部隊は上空第一陣を追って急襲するγ型を叩き落せ!』
大まかな方針を示し、一拍置くと、声に力を込める。
『これよりアイアンウォール作戦、第四段階を開始する! 全軍行動開始せよ!!』
榊中将の一声で、全軍が動き出し、CIC内に設けられた簡易司令部も慌ただしくなる。
「待機中の第二陣、第七から第九戦車連隊、及び各陸戦歩兵大隊の移動開始」
「スカウト4より入電! 巨大生物第三派進撃を確認! 地中振動計による推定個体数、およそ二万!」
「琵琶湖上のレイドシップ11隻、大津港から京都市に上陸開始! 第16
「宇治市周辺にヘクトル12機が降下! 武装は……大型砲です、大型プラズマ砲を装備した砲兵型です!」
「”砲兵”型ねぇ……。榊中将、コイツら、どう考えます? 個人的な見解で構いませんが」
人類の兵科を真似たような役割に、秋元准将は引っかかりを覚える。
ヘクトルの出現は地球上どこにも前例がない。
つまり完全な初接触という訳だ。
元々フォーリナーの戦力にあって、初めて投入されただけなのか、もしくは完全に新規で設計されたのか。
確かめる術はないが、人型であるという事が、現場も上層部も酷く衝撃を受けた。
「ふむ……。やはり、我々地球人類の姿や兵器を真似して作り上げたものだろうか。これまでの敵兵器に比べて、元々フォーリナーの兵器と考えるには、人類との共通点があまりに多い……」
ダロガと比べれば、その差は一目瞭然だ。
尤も、共通点がどうのと言い出せば、一番先に問題となったのは地球の昆虫をそのまま巨大化しただけの巨大生物種であるのだが。
その由来については様々な憶測ばかりが飛び交っていて、未だにはっきりとしたことは何一つ分かっていないのが現状だ。
「ここに来て急に出現した人型の兵器に、人類軍の機関銃に酷似した兵器、とくればまあ当然ですかねェ……。奴らも人間か、あるいはEDFに対してちったぁ興味持ってるってことですかい。ルアルディ中尉はどう思う?」
秋元准将はなんの気なしにルアルディ中尉に意見を振ってみる。
今は命令を蹴ってここに居るとは言え、彼女も戦略情報部の一員。
今までの情報と合わせて、何か気付くこともあるかも知れない。
「わ、私ですか? ちょっと推測の混ざった話になっちゃうんですが……、多分私達人間をまねて作った兵器じゃないかっていうのは同じ意見です。もしかしたらダロガですら、別の惑星を侵略した時に住んでいた原生生物を真似て作った兵器という可能性もあります。だとすれば、私達人類も、新型を投入するほどの脅威だと、初めて認識されたのかもしれませんね」
手元でコンソールを操作しながら、器用に話し出す。
「今まではたいして脅威とも思われてなかったって事か……ぞっとしねぇ話だな」
ふん、と鼻を鳴らして低い声で秋元准将が悪態をつく。
「それと同時にこの兵器は”対人兵器”として造られているんじゃないかと思っています。詳しく分析してみない事にははっきりとした事は言えませんが、狙いの精密さと装甲の薄さから見てその可能性は十分にあると思います」
ルアルディ中尉が戦闘中の部隊の様子、無線、偵察隊からの報告や映像を見て総合的に判断する。
「脅威となる歩兵に合わせて、カウンターとして造られた対人兵器か……。どのみち、歩兵で相手取るには分が悪すぎる相手だ。よし、作戦を微修正し、機甲部隊にヘクトルの相手をさせる! 機甲部隊とヘクトルの現在位置を、サブモニターに映し出せ!」
榊中将は大まかな方針を決定し、司令部要員に指示を出す。
「了解!」
一方現場では、作戦段階の前進やヘクトル、γ型の出現により大きく状況が動こうとしていた。
――16:15 京都府稲荷山 第二師団付砲兵旅団 第一対空砲兵群――
「後退する各兵科、麓の稲荷山トンネルを通過! 後続のフォーリナー多数ですが、こちらに気付いている様子はありません!」
「上空のγ型、距離3000まで接近!! 地上部隊を追ってる模様!」
「火器管制、弾薬装填、オールクリア! 少佐、いつでも撃てますぜ?」
「少佐! γ型、目視で確認!」
「総数、およそ千! 本部の情報と一致している事から、γ前衛群に間違いありません!」
「γ型、距離2000まで接近!! 少佐!」
「よぉし! 全車輛、迎撃開始!! 撃ち落とせぇー!!」
瞬間、EDFの対空車輛”アンモナイト自走機関砲”や”ネグリング自走ロケット砲”から一斉に機関砲弾や小型対空ミサイルが射出される。
アンモナイトは砲塔にある四本の砲身から、毎分700発の近接信管式40mm砲弾が発射された。
砲弾は、γ型に直撃しなくとも信管が作動し破裂、致命的なダメージを与えて撃ち落とす。
ネグリングは、元々は対ガンシップ用に開発された小型高速ミサイルを今回も使用していた。
小型化と高速化を図った故に威力は大きく劣るが、厚い装甲を持たないガンシップやγ型には狙い通り十分な効果を発揮していた。
更に大幅なコストダウンによって同時発射数が、小型化によって搭載量が大きく向上しており、数の暴力に対抗する為の抗いは充分功を成していた。
空に向かって無数の砲弾や小型ミサイルが白い尾を引いて飛んで行き、空中で死骸を量産する。
もともと、飛行するための軽量化なのか、α型程の甲殻も無く、対空砲や小型ミサイルによって胴体は簡単に千切れ、抉れ、爆散する。
空中で紫色の不気味な体液を撒き散らし、千切れた死骸と共に雨のように地上に降り注ぐ。
そんなγ型にとって悪夢のような光景でありながら、彼らは回避らしい回避もせず蛇行しながら地上を目指す。
生物としての常識を超えた愚直なまでの前進。
巨大生物が生物兵器として見られる一面である。
「ははぁ! 見ろよ、奴らこの弾幕に馬鹿みてぇに突っ込んでくるぜ!」
アンモナイト自走対空砲の砲手を務める片岡曹長*1は回避すら行わないγ型に対して小馬鹿にするように言い放った。
時が経つごとに墜落する個体は山のように増え、こちらが優勢である事に疑いの余地はない。
「気を緩めるなよ片岡、奴らの武器は数だ」
車長の青塚少尉*2が気を引き締めさせる。
一方、そんな常識が一切通用しないのもフォーリナー戦争の常だ。
「分かってますってぇ! だからこっちも数を用意したんでしょ? ま、盛り上がれるうちに盛り上がっときましょうよ!」
分かっているのか居ないのか、曖昧な返事を片岡は返す。
皆気分は同じようで、無線ではγ型に対する罵詈雑言が飛び交っていた。
『羽虫が!! 人類の兵器に勝てるかよ!』
『こいつら脳みそついてんのかぁ!? 避けもしないで撃たれてやがる! 目を瞑ってでも当てられるぜ!』
『そぉら! 弾丸の味はどうだ!?』
『今まで良くも散々やってくれやがったな蜂野郎!! とっとと巣に帰れ!!』
『このネグリングから逃げられると思うなよ! 虫ケラめ!!』
『EDFを舐めるなよ!? 下等生物共が!!』
ほぼ上空から、急降下してくるように襲ってくるγ型に対して、圧倒的な濃度の弾幕が行く手を阻む。
火力を抑えている為派手な爆発こそないが、ミサイルは一体一体確実に爆殺してゆき、対空砲弾は圧倒的な連射速度と捕捉力で薙ぎ払うようにしてγ型を叩き落す。
少し離れた前方には死骸や飛ぶ能力を失ったγ型が次々と地面に墜落していき地響きが断続的に続く。
堕ちた衝撃でγ型の甲殻がつぶれ、不快な音と共に体液が辺りに撒き散らされる。
その様子はまさに害虫駆除と言った言葉がふさわしい、あまりにも一方的なものだった。
だが、それは長い長い対空戦の、ほんの序章に過ぎなかった。
『ははは!! これがEDFの力だ! とっととくたばって――』
「――井上? どうした!?」
突然途切れた戦友の無線に疑問を抱き、彼のいる車輛に目を向けた。
視認性の高い全方位型モニターの左を向くと、そこには3m程の銀色の針がネグリングに突き刺さっていた。
衝撃で車体はぐしゃぐしゃにひしゃげ、一目で中の乗員も無事ではない事が分かった。
「――は」
そしてそれがどういう事か、理解した瞬間。
「田辺ぇッ! 全速後退ッ! 片岡ぁッ、針を迎撃しろ急げッ!!」
「ちっくしょォッ!!」
青塚少尉の怒号に思考より体が反応し、片岡は頭上に迫る針に向け対空機銃のトリガーを引く。
同時に車体が急発進、半秒後には先程までいた場所に針が次々と刺さっていった。
頭上の針は射撃によって軌道がズレ直撃を免れたが、一瞬遅かったら串刺しになっていた所だった。
恐ろしい攻撃だ。
巨大生物γ型は、α型であれば酸を出す腹部から、3m強の鋭い針を射出しているのだ。
砲弾並みの初速で放たれるそれは、砲弾以上の鋭さでアンモナイトとネグリングを狙う。
着弾した針は、鋭さ故に半分以上が地面に埋まり、その初速ゆえに衝撃波で更に周囲にダメージを与える。
『全車後退、後退だ!! 移動しつつ引き続き対空射撃!!』
一瞬遅れて、対空砲兵群の指揮官が命令を出す。
その頃には、降り注いだ針によって多くの車両が串刺しになり、炎上していた。
「クソ、話には聞いてたが、針が思ったよりデカい上に鋭いじゃねぇかよこの野郎!! ちくしょう、やってやんよクソがぁぁ!!」
片岡はやけくそになりながら、頭上から迫るγ型の群れを射撃する。
一体一体を堕とすのは容易い。
だが、先程までの密集した弾幕ではなくなった為、更に距離を詰められていく。
いつの間にか射程に入ってしまったのだろう。
まだγ型に対してのデータが少なかったゆえに、射程に関する警戒が十分ではなかった。
気が付くと対空砲兵群は、戦力の六分の一ほどを一瞬にして失ってしまった。
片岡が迎撃するγ型の背後は、無数の針が突き刺さり、幾つもの車輛たったものが炎上するさながら墓場となっていた。
だが、上空で殲滅出来ないのは当初から分かりきっていた事だ。
ここから、対空部隊とγ型の殴り合いが始まる。
対空迎撃戦は、未だ始まったばかり。
――17:00 京都市内 京都駅付近 八条通り「第一陸戦歩兵大隊 第88レンジャー中隊 レンジャー2-1」――
我々は作戦第四段階、敵部隊の市中誘引による、市街戦での各個撃破の真っ最中だった。
「浦田! 右だ、取り逃がした!」
私が仕留め損ねた手負いのβ型が宙を飛び、浦田の右側面に着地する。
糸を吐き出そうと尻(昆虫の部位的に言うと腹部)を持ち上げるが、
「俺の方が早いね!」
AW-15”フューリアス”*3の連射で目玉を幾つか潰されて断末魔を上げる。
β型は耐久力がそれ程高くないのが救いだ。
だが、その死体を押しつぶすようにして上から更にβ型が三体、四体と降ってくる。
「多過ぎだろ!?」
「それはチャンスですね!」
嬉しそうな声と共に、浦田の脇をロケット弾*4が通り過ぎる。
一瞬後、β型は攻撃寸前の硬直を襲われ、見事に爆散した。
が、あまりの爆風に、浦田が顔を手で覆う。
「あっつ、あっづ!! 葛木てめぇ! 距離考えろってぇの!!」
「ちゃんと考えましたよ~。ほら、元気そうじゃないですか!」
誤爆寸前の距離での攻撃を、特に気にすることなく葛木は呑気に答える。
が、あの距離でもし四体の糸を喰らえば、瀕死は間違いない。
葛木の判断は正しかった。
「けど、釈然としねぇよなぁ。なぁ仙崎?」
「む? あの程度の爆風なら簡単に避けられないか?」
「爆風を避けるってなんだよ! くっそ、話になりゃしねぇ!」
言いながら、私の背後に回り込むα型を刈り取る。
さすが、浦田、リロードの隙のカバーがそれとなく上手い。
今の所乱戦に於いて、彼ほどフォローの上手い兵士を私は見た事がない。
――――
仙崎達がβ型の第一波を退け、α型の残党を掃討する頃、状況が変化する。
「駅方面からβ型の大群がそろそろ到着する! 囲まれないうちに西に移動するぞ! 第二分隊、先頭だ!」
「サー! イエッサー!! 行くぞ、お前達!」
大林中尉の指示に、荒瀬軍曹が声を張り上げる。
眼前に割り込んだα型に銃撃を浴びせ、痙攣する死体を避けて進む。
「って、この壁を突破するのかよ!? ここで戦った方がいいんじゃねーですかい!?」
並み居るα型の大群に、馬場が戦慄しつつ、突進するα型亜種にTFアンガーGD*5を浴びせる。
半径20mの猛爆風があたりを包み、5体以上の亜種を一気に殲滅する。
続く二発で両脇を抑え込み、前進しながらリロードする。
回転式弾倉は、リロードに時間がかかるのが欠点だ。
その隙を縫い、生き残っていた亜種が馬場を喰らおうと牙を下げて突進するが、
「そこっす!」
直後、装甲殻の剥げた箇所をスナイパーライフル*6の銃弾が抉り、貫通する。
水原の援護狙撃だ。
「β型に囲まれれば命はない! レンジャー7との合流は諦めて、フラウンダー1と連携し、活路を開く!」
強酸が荒瀬軍曹を襲う。
仙崎のようにすべては回避しきれていなかったが、日に日に強化されているアーマースーツはある程度酸を弾く。
そうしてアーマーに限度が来る前に、全力射撃で敵を殺す。
半ば強引な突撃戦術で、荒瀬達レンジャー2-2は道を切り開いてゆく。
レンジャー7とは先ほどまで互いに背後を預けあっていたのだが、ダロガやヘクトルの介入で分断されてしまった。
向こうにはウイングダイバー隊が新たに合流しているので、こちらも孤立する前にさっさと他部隊と合流するべきだ。
「あの不良中隊!? あいつらのいる戦場って、たいてい地獄だって聞くんですけど!!」
細海が荒瀬軍曹のリロード中、カバーに入る。
アサルトライフル*7で腹部を振り下げて射撃体勢に入るα型の、その腹部を狙い撃つ。
従来の武器ならば仕留めきれなかっただろうが、弾丸は数発で腹部をズタズタに切り裂いて巨大生物を絶命させた。
「それは偏見が過ぎるんじゃぁ……。でも確かヘクトルと戦ってるとさっき言ってましたっけ? 僕たちだけで相手をするのはキツそうですが……」
千島が死骸を跳ね除けて強引に迫るα型亜種の牙に、ショットガン*8を連続で叩き込む。
徐々にα型亜種の甲殻は剥げ、次々叩き込まれる散弾についに体液を吹き出し絶命した。
「千島、さっきの通信聞いてなかったの!? ヘクトルは戦車部隊が相手するって、本部も言ってたじゃない! 私達だけで相手なんて……」
「いや、すまん! 戦車部隊の到着はまだだ! あと10分程度でヴァーミリオン中隊が来るはずだが!」
細海の声を、荒瀬軍曹が遮って謝る。
ヘクトルは正確無比な射撃を行う歩兵に脅威の侵略兵器と聞く。
正確な情報ではないが、犠牲になった兵士もこの短時間で多くいると知る細海の顔が恐怖に歪む。
「はっはっは! まぁ、お前の大嫌いな蜘蛛モドキは2-1が相手してんだ! それに何と言っても念願の機械系の敵が相手だ! 汚くなくて良かったじゃねぇか!!」
対して、馬場が何でもないように茶化して笑い飛ばす。
それが細海を気遣ってか、何も考えてないのか不明だが、
「た、確かに蟲系は苦手って言ったけど! 脅威度が違い過ぎない!? あぁ、もう、なんかムカつくわね……ガンシップ、ダロガ、ヘクトルに歩行要塞とか、空気読んだように急に機械系の敵を出してくるアイツらが!! そんなに戦力あるんだったら最初から蟲なんか使うなって言うのよっ!! まったくもう!」
身勝手と言えば身勝手な理由で憤慨する細海を見るに、いい効果はあったようだ。
そんな細海の背後に、どこからか飛んできたβ型が突然着地する。
「細海さ――」
「――っ!」
葛木がロケットランチャーを構えるが、流石に細海に近すぎる。
細海は咄嗟に振り向くが、迎撃が間に合わない。
一瞬の間に死――とまでは言わないものの、重傷の危機を悟った細海だが、しかしβ型は突然脳天から真っ二つに裂けた。
そしてその体液は、断面の都合上目前の細海にかかった。
「……、……は? えっ、汚っ!!」
呆けた細海が最初に漏らした言葉はそれだった。
「無事か小娘。己の好悪で呆けるのは感心せんぞ」
そして細海の眼前に立っていたのは、大剣を肩に担いだ大柄のフェンサーだった。
まあ、フェンサーの鎧は全て同一規格だが、大剣の存在感が彼を大きく見せていた。
がそれ以上に、枯れた喉から発せられる低い老人のような声が印象に残る。
『こちらフェンサー”ランドガルド”中隊! たった今一区切りついたところだが、レンジャー2、助けが居るか?』
同時に、レンジャー2に向けて部隊間通信が届いていた。
『助けてから言わんでくださいよ、月島大尉……。まあ頼みます! 丁度手が足りなかったところで! 来たからには存分に活躍、期待してますよ!』
大林中尉は、ランドガルド中隊指揮官の月島大尉の応援を受け入れ、連携を取っていく。
『そういう訳だ、太斎さん! レンジャーにフェンサーの戦い方を見せてやれ!!』
『承知。はッ!!』
短く言葉を切った太斎と呼ばれた大剣のフェンサーは、スラスターを吹かせてα型に近づくと、
「ちぇすとォォォォーー!!」
大剣を横なぎに一振りし、数匹のα型を一気に薙ぎ払った。
フェンサーの膂力を全開で使ったその一撃は、重量だけで凶悪な一撃と化すが、そこは歴としたEDFの近代兵器。
フォース・ブレードと言う名のそれは、振る瞬間、如何なる原理か刀身からエネルギー波を放出し、数メートル先まで斬撃を飛ばしていた。
エネルギー波での攻撃もα型を大きく傷つけ、それを好機とばかりに、千島や細海が確実に仕留めていく。
「ふん! この程度か巨大生物共! もっと儂を楽しませて見せろ!!」
大剣を振り回しながら、太斎中尉が吠える。
豪快と器用さを兼ね備えたその剣技は、それだけで見るものを魅了する巧みさだった。
多角機動でブラストホールスピアを使いこなすグリムリーパーや、単機突撃、近接射撃を得意とする御子柴、そしてフォースブレードで無双する太斎を例に挙げると特殊に思われるかもしれないが、
”フェンサー”の名の通り、本来は重装甲高機動を駆使しての接近戦をコンセプトに作られた兵科、兵器であり、射撃砲撃武器はそれを個人や部隊間で補うための物でしかない。
彼らこそがフェンサーの潜在能力を十全に発揮し、逆に言えばほとんどのフェンサーがその機能を持て余しているとも言える。
とは言え、一部の天才に合わせた戦術や兵器は戦場では役に立たない。
むしろ取れる戦術の幅の広さがフェンサーの価値と言い換えてもいいだろう。
が、やはりだいたいの天才は特異な人格を持っているのが多いのか、巨大生物の返り血(体液だが)を浴びて高笑いする太斎に細海はかなり引き気味だ。
「た、体液浴びて気分最悪だし、正直やべー奴だって思ってるけど、助けられたし一応礼は言っておきます。ありがとう」
周囲の小集団を掃討し終わった隙を見て、細海は嫌悪感を隠さない表情で太斎に軽く頭を下げる。
「儂は斬りたい奴を斬ったにすぎん。それに、そのような顔をしてまで態々礼を言うものではないぞ」
さすがに不快に思ったのだろうか?
それを知るには、太斎の声は抑揚が少なく感情が読み取れない。
「た、体液まみれになるのは最悪だったけど、それでも死ぬよりは助かったって話です! 自分の感情に嘘はつきたくないので! 感謝してるのは本当なんです! では!」
語尾を強めに言い放って、そそくさと走り出す細海。
「ふむ。まったく、不器用な小娘だ」
太斎は細海を、最終的にそう判断した。
「……まったくもう……。反撃できなかった自分のマヌケさと、あんなトコに飛んできたくそ蟲にイライラする……ああもう! 汚物飛ばさないで!!」
太斎と別れた細海は、飛んできた強酸のショットガンを躱す。
若干かすりつつ、AS-20D*9の正確な射撃で一体を仕留める。
続く四体、五体。
「葛木! あそこ!」
「え? わぁ、いっぱいいる! ていやっ!」
青い顔をしながら、気の抜けるような掛け声で放たれたクセルクセスのロケット弾は、五体全てを巻き込む絶妙な位置で炸裂し、大きな爆炎を上げる。
「ふぅー。通った所は随分綺麗になったし、もうすぐフラウンダー1のとこだね」
「……そ、そうね。それより補給コンテナが欲しいわ。だいぶ酸にやられたし」
まだ散発的な戦闘は続いているが、粗方片付いたといっていいだろう。
細海は辺りを見回して、事前に配置された補給コンテナを探る。
「そうかな? まだいけると思うけど。補修用のスプレーで十分じゃない?」
「ま、まあ、そうなんだけど違うの! 着替えたいの!! 見てコレ! 体液で汚い、超汚いじゃない!!」
巨大生物の体液は、意外なことに人体に害はない(とされている)。
体液に塗れたとしても機能上問題はないのだ。
「え~? そんな事気にしたらこの先やっていけないと思うけどな~?」
「うう、確かにそうなんだけど、ああもう! なんか綺麗にする方法ないかしら!」
「爆風でふっ飛ばしてあげようか?」
「あんたの発想が怖いんだけど!!」
走りつつ、α型を掃討しながら進む二人の前に、爆発と共にビルが崩れる。
「きゃあ、な、なんなの!?」
「うひゃぁ! ヘクトルだ!! 逃げよぅ!」
爆発に対する葛木の行動は、上ずった声に対して機敏だった。
細海の手を引いて素早く民家の物陰に隠れると、ヘクトルの右腕から青白い機銃弾が放たれ、民家を粉々にしていく。
ヘクトルとの戦闘が始まった。
戦闘自体は書いてて楽しいんですけど武器調べたりするのにめちゃ時間かかりました(汗
では人物紹介!
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第202機械化歩兵連隊第三中隊”ランドガルド”第二小隊、小隊長。
階級は中尉。
地方の剣術道場の出身であり、古風な老兵。
梢流と呼ばれる極めて実践向きの剣術を収めており、剣に拘らず使えるものは何でも使う為、別に銃に対する抵抗はない。
フォーリナー襲来より10年前国防、いや地球防衛を志す一人類としてEDFの門を叩く。
その剣術を十全に生かし、フェンサーとしてフォースブレードというベテラン向けの兵器を巧みに操る。