全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第四十六話 ゴールド小隊

――2023年 3月30日 18:00 京都市内 「第一陸戦歩兵大隊-第88中隊-レンジャー2-1」――

 

 

 辺りが黒煙や砂煙に覆われている。

 体の痛みを感じ、瞬時に状況の把握に努める。

 

 余りの衝撃に思わず受け身を取り損ね、私としたことが地面に投げ出されてしまったようだ。

 まったく情けない。

 鈍い痛みを無視し、立ち上がろうとすると、手を無理やり掴んで引っ張られた。

 

「立て仙崎! 巨大生物とダロガの急襲だ! 迎撃しつつ移動する! この場所はまずい!」

 

 大林中尉だった。

 彼は黒煙の中にいるβ型を見極め、グレネードランチャーを放つ。

 その爆風で黒煙が吹き飛び、少しだけ視界が晴れる。

 

 その先にいたのは、多脚歩行戦車ダロガの残骸だ。

 

 ――着弾直前。

 ハッチから二人の戦車兵が脱出した後、ダロガは戦車砲弾の至近弾を受けて撃破されていたのだ。

 直後にプラズマ砲弾の直撃を喰らったから、中にいた人間はもう……。

 

 

 だがその事を確かめる前に、右方向からダロガの砲撃が。

 とっさに撃破されたダロガの破片に身を隠し、衝撃から身を守る。 

 

 どうやら現れたのは一機だけではないようだ。

 乱戦の中、こちらに迫る揚陸艇を見逃していたらしい。

 そのおかげで、我々は今、戦車一輌を失い、追い詰められている。

 

 私はAE-40Ex(アサルトライフル)をダロガに当てたが、やはり装甲に弾かれるばかりで効いている様子はない。

 

「ちっ! やはり私の装備では歯が立ちませぬ! 他の戦車部隊は!?」

 

 隣の大林中尉に尋ねる。

 

「距離を取って迎撃中だ! 我々は巨大生物をやる! フェンサーには撹乱を――葛木?」

 

 巨大生物を迎撃しながら進むと、炎上する戦車の前でレンジャー2-2の葛木ともう一人の戦車兵が何かしていた。

 

「大尉、兼城大尉ぃ! こんのクソオヤジぃー!! 自分だけ残って攻撃するとか何考えてんのさぁ!!」

 

「わ、ちょっと! 素手じゃ無理だってばキミ!!」

 

 女戦車兵は、歪んで炎上しているギガンテスの中から、何とかして乗員を救い出そうと力を入れている。

 葛木は気絶しているもう一人の戦車兵を抱えていた。

 

「そこの女戦車兵! 何をしている!? さっさとここから離れろ! いつ再砲撃されてもおかしく無いんだぞ!!」

 

 大林中尉が横眼で確認すると、戦闘しながら怒鳴った。

 

「中尉さん! で、でも、中の乗員は……兼城大尉はまだ生きてるんです!! 装甲の損傷具合から言って直撃じゃない……はずなんです! だから、どうにかして……!」

 

 彼女はそうは言うが、撃破された戦車は何度か横転したようで全体がひしゃげている上、激しく炎上している。

 直撃していたら原型は残っていないだろうが、だとしても中の人間は重傷は免れないだろう。

 

「わわっ! 大林中尉! ダロガ接近中! 巨大生物も引き連れてます! ここにとどまってるのは危険ですよ~!!」

 

 葛木が情けない声を出しつつ、ロケットランチャーで巨大生物の密集個所を的確に爆破している。

 だが、葛木の言葉も正しい。

 この場所にとどまることは全滅を意味する。

 周囲を巨大生物とダロガに囲まれ、更に再砲撃がすぐに来てもおかしくはない。

 

『……小隊集合ッ!!』

 

 大林中尉はほんの一瞬目を閉じ、決断を下す。

 

『数分でいい! この場所を死守する! ゴールド1の残骸に巨大生物共を近寄らせるな!』

 

 大林中尉は、救出を選択した。

 

「仙崎! 貴様は囮となってダロガを引きつけろ! できるな!?」

 

「サー! イエッサー! お安い御用です!」

 

 私はダロガに向かって足を駆ける。

 飛んでくる砲弾を勘で躱し、一気に肉薄する。

 その私が癪に障ったのか、執拗にこちらを狙ってくるようになる。

 

 一方、負傷した女戦車兵(後で知ったが、卯木というらしい)は、本当に助けてくれるとは思っていなかったのか、一瞬唖然としている。

 

「なぜ? という顔をしているな。決まっている。EDFは仲間を見捨てないからだ! まだ助かるのか、我が小隊を危険に晒してでも救う価値が彼にあるか? そんなのはクソ喰らえだ!! 私は、状況が許す限り、拾えるものはすべて拾っていくつもりだ! もう二度と……取りこぼしはしない!!」

 

 大林中尉の声を聴き、私は胸が熱くなる想いだった。

 先日の新垣の件、大林中尉も悔やんでいたのだろう。

 それは、皆も、私も同じだ。

 それに、大林中尉は何も感情論だけで言っているわけではない。

 

 ゴールド1の動きは他と一線を画す機動力と撃破数を誇っていた。

 その戦車兵の言葉なら、直撃をギリギリ受けていないというのも信用できる。

 そしてそれほどの戦車を指揮する兼城大尉を失うのはEDFにとっての、人類にとっての損失でもある。

 ならば、助ける価値は十分にある。

 

 いや、大林中尉は価値などクソ喰らえと言ったか?

 ふ、ならば打算的になっているのは私の方なのか。

 

 だとしても、中にいる兼城大尉が助かる可能性は十分にある。

 なぜなら――

 

「――通信を聞いてきた! まったく、胸のすく事言うじゃねぇか。 ここは任せろ!」

 

 道中の巨大生物を蹴散らしながら、ランドガルド3の棚部中尉が駆け付けた。

 フェンサーがいるなら、戦車の装甲をこじ開けることも不可能ではない。

 

「小隊、揃ってるな!? 一瞬で良い! 巨大生物を戦車と棚部中尉に近づけさせるなッ!!」

 

「「サー! イエッサー!!」」

 

 爆発で散り散りになった小隊員が集結し、この場所に集る巨大生物を攻撃する。

 集る巨大生物を、我々レンジャー2、ランドガルド3、そして履帯修理の終わったゴールド3が弾幕を張る。

 

 が、突如通り沿いのマンションが派手な音を立てて倒壊し、ダロガが姿を現した。

 

「ちぃ、まだ残っていたのか!? ゴールド3!!」

 

 大林中尉の指示にゴールド3は即座に砲撃するが、装甲に弾かれ砲弾は貫通しない。

 

「ッ!? 駄目だ、関節部を狙わないと!」

 

「すみませんッ! 次弾装填完了! 撃ちます!」

 

「待て! 前進! 急げ!!」

 

 戦車が急に前進したため、砲弾は外れてしまった。

 

「車長!?」

 

「α型亜種だ! 位置を変えろ! ここは囲まれる!」

 

 先ほどいた場所には、α型亜種が突っ込んできていた。

 そのままその場所に居たら、装甲に食らいつかれていただろう。

 

「このクソ共がァァーー!!」

 

 ゴールド3車長、笠松少尉*1が上面キューポラに出て12.7mm重機関銃をα型亜種に向けて連射する。

 

「鎌田! ダロガを仕留めろ!」

 

「了解! このッ!」

 

 重機関銃で攻撃しつつ、砲手鎌田*2に命令を送る。

 主砲は放たれ、砲弾は見事関節部にあたったが、一撃では沈まない。

 その間、ダロガは触覚状の主砲に光を点火させた。

 

『ゴールド1がやられるぞ! フェンサー!』

 

『無理だ! 間に合わない!!』

 

 手数が足りない。

 我々歩兵の武器では重火器でないと太刀打ちできないし、こちらに戦車は1輌だけ。

 いや、もう一輌、いた。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

 β型の糸に絡めとられ行動不能だったゴールド4が突撃してきた。

 ダロガは接近を感じ取り、下部レーザー機銃を作動させ、ゴールド4に連射する。

 ゴールド4はそれを真正面から受け止めながら砲撃。

 下部機銃を吹き飛ばし、そして脚の一本に体当たりをかました。

 

 狙ってやったのか、奇しくもそれはゴールド3が砲撃を当てた関節の脚で、ダロガはバランスを崩し転倒する。

 

「車長! 火災発生、行動不能!」

 

「主砲もへし折れました!」

 

 ゴールド4はレーザー機銃をまともに喰らい、更に転倒したダロガに押しつぶされていた。

 だがダロガはまだ機能が生きており、砲身に青白いエネルギーが溜まったままだ。

 

『ゴールド3! ……笠松、俺達ごと、撃て!』

 

『なんだって!?』

 

『兼城大尉がいれば……我れらがヴァーミリオン中隊は、生き返る! それに、俺達はもう……。頼む、撃ってくれ!』

 

 車体がひしゃげ消火装置はどこかへ消え去り、下敷きになったため脱出もままならない。

 火災のおかげで、焼け死ぬか窒息まで一分とかからないだろう。

 そのような状態だった。

 

「くっ……主砲、撃て!!」

 

「……了解ッ!」

 

 ゴールド3の主砲弾は、破損したレーザー機銃跡から脳天へ一直線に貫通し、ダロガは爆散した。

 その爆発で、ゴールド4の乗員三名の命も失われた。

 

「くっそぅ……! ……あの時、赤蟻に喰らいつかれても撃っていれば、あいつは、死なずに済んだのかな……?」

 

 ゴールド三号車車長、笠松少尉のつぶやきは部下に聞こえる事は無かった。 

 

 だが、戦場は感傷に浸る間も与えてはくれない。

 新たな危機が我々を襲う。

 

「中尉やばいっすッ!! 砲兵型ヘクトル、こちらを狙ってますッ!!」

 

「阻止できるか!?」

 

「無理っす!!」

 

 建物の陰に隠れてかすかに見える四機の砲兵型ヘクトルが、こちらに向かい、その砲身にエネルギーを溜めている。砲撃準備態勢の特徴だ。

 水原は狙撃銃で撃破を試みるが、ライサンダーを使い切ってしまった為に撃破は難しい。

 

『させん! 小隊停止! 斉射二連! 撃てッ!!』

 

 そのヘクトルを砲撃したのは、別行動していたクリムゾン、インディゴの二個戦車小隊だった。

 合計八輌の斉射を受け、瞬く間にヘクトルが崩れ落ちる。

 

 が、一瞬遅く、一発のプラズマ砲弾が放たれてしまった。

 

『クソッ! 遅かった! 一発撃たれたぞ!!』

 

『分かってる! ちくしょう!』

 

 クリムゾンの声に、棚部中尉が怒鳴り返す。

 同時に戦車の残骸をこじ開け、逃げ遅れた兼城大尉を救出する。 

 

「兼城大尉ッ!」

 

「う……まったく、無茶をする……」

 

「それはお互い様でしょう――こちら棚部、救出完了! 重傷だが意識はある!!」

 

「砲撃が来るぞ! すぐこの場を離れるんだッ!! 急げッ!!」

 

 大林中尉の声と同時、重傷の兼城大尉を抱え、棚部中尉がスラスターで離脱。

 我々周囲の歩兵も一斉に離脱した。

 その数秒後、プラズマ砲弾は炸裂し、凄まじい爆発と共に戦車の残骸を吹き飛ばす。

 

「はぁッ! ふっ、ヘクトルめ! この私をそう何度も地に叩きつけられると思うな!」

 

 私は今度は受け身に成功し、爆風の勢いを上手く殺し、着地する。

 当然その場には巨大生物が。

 引き金を引いて、一直線に向かってくるα型を駆逐する。

 同時にそばにいた葛木に手を貸す。

 

「大丈夫か!?」

 

「うん、なんとか。いやぁさっきの人、助かってよかったねぇ」

 

 見たところ軽傷ではあるが、戦闘に支障は無さそうだ。

 先ほど腹をやられた分私のほうが酷いまである。

 

 が、葛木のスーツの方は酸や糸、爆風の焦げ跡が目立ち、普通なら一刻も早い交換が望まれるレベルだ。

 

《本部より交戦中のフラウンダー1以下各部隊に告げる! 対空部隊が突破された為、γ型1600体が味方を包囲している! 南に2ブロック前進し、ゴーン、フェアリーテイル、アルデバランを救援しろ!》

 

『フラウンダー了ォ解ィ! おめぇら!! とっとと移動して――』

 

 突如、辺りに立っているのも危ういような振動が発生した。

 同時に、地面を突き破る破壊的な音が響く。

 

 南の方に舞い上がる砂煙が意味するのは……巨大生物の地中侵攻だった。

 

*1
24歳男性。有能だが元々気の弱い方で、兼城大尉に扱かれてやけくそで気合を入れている

*2
30歳男性。軍曹。車が好きで、輸送隊を志願していたがなぜか戦車兵に。今では悪くないと思っている




殆どモブですが登場人物紹介!!

笠松雄一(かさまつ ゆういち)(24)
 ゴールド3の車長。少尉。
 フォーリナー襲来後に任官した新任少尉で、任官後は兼城大尉に扱かれた。
 初陣をスチールレイン作戦で経験し、以後休まる事のない戦闘に身を投じている。
 訓練校での成績は優秀な方だったが気合が足りないと何度も兼城大尉に言われてやけくそになっている。
 父親は九州の第三機甲師団を束ねる笠松少将であり、父の重圧にプレッシャーも感じている。

鎌田達也(かまた たつや)(30)
 ゴールド3の砲手。軍曹。
 車が好きで、輸送部隊のドライバーを志願していたが、書類の不手際で何故か戦車兵として採用されてしまった。
 本人も間違っている事に気付いたが「戦車も動かしてみたい!」というつもりでそのまま居座っていたら、いつの間にか砲手になっていた。
 何故、と思いつつ撃ってみると意外と気持ちよかったのでそのまま砲手として活動している。
 腕の方は良くも悪くもないが、実は非番の日に操縦の方も練習しているので操縦手としても活躍できるし、車が好きなので整備もそこそこ出来る万能さを持っている。
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