全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第五十一話 宙を舞う殺戮者

――2023年 3月30日 19:30 ブルート周辺(県道一号線・交差点)――

 

『集合部隊

 

 ▼第二降下翼兵団・フェアリーテイル中隊(七人)

 隊長:奥村大尉

 

 ▼第六歩行戦闘車中隊・ゴーン小隊(二機)

 隊長:槇原大尉

 

 ▼第四エアレイダー小隊”アルデバラン”(四人)

 隊長:門倉大尉

 

 ▼第114補給連隊所属・ブルート輸送ヘリ(一機/負傷兵四人・操縦手一人)

 操縦手:上杉軍曹

 

 ▼第88レンジャー中隊・レンジャー2小隊(七人)

 隊長代理:荒瀬軍曹

 

 ▼第26フラウンダー中隊・フラウンダー1小隊(11人)

 隊長:梶川大尉

 

 ▼第101戦車大隊・ヴァーミリオン中隊(六輌)

 隊長代理:氷室中尉

 

 ▼第202機械化歩兵連隊・ランドガルド中隊(九人)

 隊長:月島大尉』

 

――――

 

 

「うおおぉぉぉ!! 死ね! くたばれ侵略者めぇぇ!!」

 

 乗機を失っていたゴーン小隊の一人が、ブルートの両脇に備え付けられたドーントレス重機関銃を放つ。

 12.7mm徹甲弾がダロガの装甲を着実に削っていくが、倒しきるには重機関銃一つでは足りない。

 彼も負傷した一人で、左腕に包帯を巻き、片手で重機関銃を操る。 

 

「この! この! うぅっ、どうせ飛べないなら、MONSTERとかの方が良かったかも……! なんで私ってばこう絶妙に役に立たない物を……」

 

 ブルートの中から、フェアリーテイル2の日向少尉が拡散雷撃銃エクレールを放つ。

 ユニット直結型のフランス製雷撃銃。

 サンダーボウよりも広範囲、高威力の雷撃を放つが、連射力が低く、消費エネルギーが高い。

 射程は長いが、その分拡散してしまうのであまり離れていても役に立たない。

 その上、ダロガなどの装甲兵器には雷撃兵器はあまり効かないらしい。

 

 しかも、もう一つの武器はよりによってレイピアである。

 足を負傷してしまった日向は、こうしてヘリの中で固定砲台になるしかないというのに。

 

「いや。それのおかげで奴らの進撃速度はかなり抑えられている。足止めとしては有効だな、そのまま頼む。まあ、しいて言うのなら、眩しくて叶わんな。無事な方の目も潰れそうだ」

 

 エアレイダー小隊”アルデバラン”の随伴歩兵である原田曹長が狙撃銃、ストリンガーJ1のスコープをのぞき込みながら苦笑する。

 彼は腹部と顔半分を血に染めていて、頭と片目を包帯で止血し、左目だけで狙撃している。

 尤も、距離がそう離れていない為、倍率も最低にして撃っているのだが。

 

 狙うのは、脚部の関節、または胴体直下の回転機銃。

 倒すのは不可能だが、戦闘力を削ぐ事は出来る。

 

「はぅ、ごめんなさい……」

 

「いいから撃ち続けろ。こっちは近づかれたら終わりなんだからな。おっと。隠れろ。隊長が要請を送った。アルテミスが来るぞ」

 

「はい! 吉本さん! アルテミスが来ますよ! 隠れてください!」

 

「了解ッ!!」

 

 日向に言われて、ドーントレスを撃っていた吉本少尉も、銃座から姿を隠す。

 負傷した彼らでは、飛んできた爆風や破片すらも大きなダメージとなりえる。

 

 直後、薙ぎ払うような20mm機関砲と対戦車ロケット砲の雨が降り注ぎ、ダメージを受けて黒煙を上げていたダロガ二機を同時に仕留めた。

 

「よし……残るはあと一機か。なに!?」

 

 攻撃が終わり、上空を旋回するアルテミスに、ダロガがレーザーを照射した。

 攻撃機アルテミスはレーザーで片翼とエンジン一機を吹き飛ばされ、空中で炎上する。

 

「そんな! アルテミスが!!」

 

『クソ! ミスっちまった!! 悪いが支援はここまでだ! すまねぇ門倉大尉!』

 

『構わねぇさ、よくやってくれた! それより滑走路まで戻れそうか?』

 

『ああ! その点は心配いらない! サンダーボルト譲りの頑丈さを舐めて貰っちゃ困る! とはいえ護衛のレイヴン一機くらいは付けてもらうさ! あばよ大尉! 後は頼まあ!』

 

 フランクなセリフを残して、そのアルテミスは黒煙をなびかせて飛び去っていった。

 

 

 

――ヴァーミリオン中隊――

 

 

『中隊各機。ダロガは残り一機だ。射線に入り次第砲撃を――』

 

 氷室中尉が言いかけた直後、三時方向から砲撃。

 

『こちらクリムゾン2! なんか飛んできたぜ!? ……ありゃヘクトルだな! 砲兵装備!』

 

『その手前に榴弾装備のヘクトル二機もいるぞ氷室中尉。おまけに新たな巨大生物群600を確認。どうする?』

 

 ランドガルドの月島大尉も割り込んでくる。

 彼らは今もγ型の迎撃を実行中だ。

 

『ふん、長居しすぎて他所の巨大生物も呼び込んだか。仕方ない。目標を砲兵型ヘクトルに変更、狙撃する。射線さえ通れば苦戦する相手ではない。ゴーン隊、巨大生物、やれるか?』

 

『こちらゴーン1! 無茶言うな! こっちはたった二機しかいないんだぞ!? だがやるしかないだろうな!!』

 

『こちらアルデバラン! その付近に誰かがコンバットフレーム用の補給コンテナを要請した履歴がある! 何か残ってれば使えるだろう!』

 

『なにか残ってればな! そんなの確かめに行く余裕あるか!? ゴーン2! ここで壁になって全弾撃ち尽くす! そのつもりで来い!』

 

『ゴーン2了解! ここが死地ですかぁ!!』

 

『いや、それには及ばないよ』

 

 突如、緊迫した戦場に似つかない、穏やかな声が聞こえた。

 

『こちら、レンジャー1結城! 現地に到着した! これより巨大生物群を掃討する!』

 

 第88陸戦歩兵中隊指揮官、結城大尉が合流した。

 彼の下には、レンジャー1、3の二個小隊20人弱が集まっている。

 

『こっちも到着でさァ梶川大尉! フラウンダー5総員、蹴散らすぜィ! ニクスの旦那ァ、弾無しの役立たず(丸太んぼう)はすっこんでろィ!』

 

 フラウンダー5指揮官の辻源十郎中尉以下八名と、

 

『罵倒された気もするが……感謝する! ゴーン2、来い! 補給コンテナを探すぞ!』 

 

『た、助かったぁ~! 感謝します!!』

 

『ぎゃはははは! なに、EDFは仲間を見捨てないってヤツだがよォ、個人的なお礼ならいつでも歓迎してるぜ? よォしテメェら! 今夜の飲み代稼ぎといくか! ヘクトルはオレらに任しとけェ!!』

 

 斯波中尉指揮下のフラウンダー6、九名も合流し、流れが変わった。

 

 

――レンジャー2-1――

 

 

『こちらアルデバラン! 援軍が到着して形勢逆転……とまでは言わねぇが、なんとか持ちこたえてらぁ! ダロガは残り一機、ヘクトルが多数ってところだが、10分以内にカタ付ける! フラウンダー1、レンジャー2、フェアリーテイル! そっちのγ型はどうだ!?』

 

『こちらフェアリーテイル。依然数は多いけれど、ブルートからは随分離したはずよ。その代わりこちらははボロボロですけれど』

 

 フェアリーテイル中隊長、奥村美奈大尉の言葉通り、我々は結構満身創痍だった。

 γ型というのは、これが案外狙いは適当なのだが、当たれば貫通、そうでなくとも地面に当たった衝撃で体が軽く吹っ飛ぶくらいの威力はあるのが厄介だ。

 此処にいる中で、私も含め既に無傷のものなどいなかった。

 

「仙崎っ、ぼーっとすんな! 地上のも気ぃ付けろっ!」

 

 鈴城軍曹が私に酸を飛ばしていたα型を仕留める。

 むろん私は回避したが、そのすぐ隣にγ型の針が突き刺さり、地面の破片が当たる。

 ただの破片と侮ってはいけない。

 音速で飛ぶ針の当たった土砂や破片は、それなりの速度をもって我々を傷つけるのだ。

 

「ぐああぁッ! ちくしょう、腕が、腕がぁぁ!!」

 

「馬場!!」

 

 馬場が針にかすり、腕から出血している。

 

「んもう! 陸男はドジね! 隙作ってあげるわ! てりゃー!!」

 

 フェアリーテイル3の七瀬中尉は、レーザー誘導兵器”ミラージュ5WAY”を発射。

 放たれた五発のレーザーは、脳波によって誘導され、それぞれが別のγ型を攻撃。

 一発一発の威力は少ないが、それを連発して多くの敵の足を止めつつ撃破する。

 

 誘導するレーザーというのもおかしな話だが、そういうものらしい。

 

「ほら馬場さん! しっかり! 泣いてる暇ありませんよ!」

 

「千島ぁ、おめぇにそう言われるとはなぁ、つぅか泣いてねぇし!!」

 

 治癒剤を打ち、エイドキットから乱暴に包帯を巻いて止血した後、戦線に復帰する。

 

「きゃあぁっ!」

 

 冷却のため地上に降り立ったところを狙われ、ダイバーの一人が負傷する。

 直撃ではないが、地面に投げ出された。

 

「大丈夫ですか! 雨宮少尉!」

 

 フェアリーテイル2の彼女を抱き起すと、狙って突進するα型亜種の大口に、ガバナーを叩き込む。

 α型亜種は断末魔を上げ、口をグロテスクに変形させて息絶える。

 その死骸を乗り越えて三体の亜種が現れるが、

 

「させないっ!」

 

 体勢を立て直した雨宮少尉のイズナーAで三体全部が感電死する。

 正確には電気そのものではないので感電というのも違うらしいが、とにかく死んだ。

 

「ありがとう伍長。助かりました。っ……!」

 

 脇腹を押さえてふらつく。

 がすぐに上空からγ型が狙うのが分かったので、短距離ジャンプした後、武器をエクレールに変えて撃ちこむ。

 

「痛むのですか雨宮少尉! 治癒剤は!?」

 

「……さっき打ったばかりです。痛いけど……まだ頑張れます!」

 

 治癒剤の連続投与は危険だ。

 場合によっては傷よりも副作用で死ぬこともありうる。

 それでも、そうもいっていられぬ状況が殆どではあるが。

 

「なら、体に残った分でまだ多少は作用するはずです! でも無理なさらず、ぐおぉ!?」

 

「伍長!?」

 

 前方のγ型は倒したが、後方のを分かっていながら手が回らず、少し掠った。

 もちろん回避したが、こうも数が多いと完全には躱しきれない。

 

「無事です! ちょっと掠っただけですよ!」

 

 とはいえ追撃されたらまずいので原型を留めて居る方のマンションの陰に隠れる。

 普通に前方にはいるが、全方位囲まれるよりはマシだ。

 

「へぇ、あ、あんたにしては随分ボロボロじゃないの。さすがのあんたもこの状況は手に負えないって訳?」

 

 レンジャー2-2の細海兵長が私を狙う四体のうち二体を撃ち落としつつ、ちょっと茶化すような事を言う。

 同じ場所に隠れていたらしい。

 

「へっ、なんかてめぇ、梶川大尉にいたく気に入られてるみてぇだがよォ、ぜんっぜん大したことねぇな! なァにが”嵐の男”だってんだよ!」

 

 このさっきからやたら突っかかってくる男は中野瀬という伍長。

 フラウンダー1、梶川大尉の部下らしい。

 さすが不良中隊といったところか、絵にかいたようなガラの悪さだが、滲み出る小物臭がなかなか憎めない。

 

「ぬぁははは! お二方、まずは自分の身なりを見てから言う事だな! この程度で私を追い詰めたつもりなら、片腹痛いわ!」

 

「片腹痛いって文字通りね……」

 

「そりゃァな、あの怪我の様子じゃ痛ぇよなぁ……」

 

 なぜか同情の眼差し。

 

「ファーー!! この傷はヘクトルの奴にやられただけで、この攻撃を見切りやすいγ型にやられた訳ではないわ!! なんだ貴様ら! 私を煽って楽しいのか!?」

 

「ひゃぁ! 仙崎がキレた!」

 

「触らぬ”嵐”に祟り無しってか? よーし、解散解散、もとい、散開ッ!!」

 

 中野瀬の言葉の直後に我々の居場所に大量の針が撃ち込まれ、マンションのエントランスや外壁に針が突き刺さる。

 

「上出来だ! よく一か所に纏めてくれた! 行くぞ藤野!」

 

「合点承知や美船はん!!」

 

 フェアリー2の美船中尉、藤野少尉が地上と空中からサンダーボウを交差射撃する。

 広範囲の雷撃の雨に見舞われたγ型は10体以上が空中で弾け、代わりに体液と死骸の雨を降らせる。

 

「おおきに! あんちゃん嬢ちゃんら!」

 

「藤野ォォーー!! 貴様今私の事呼び捨てにしただろう!?」

 

 攻撃は上手くいったが、美船中尉はお冠のようだ。

 

「してへんしてへんですってぇ、ちゃあんと”さん”って呼んださかいに」

 

「それでもだめだ、規律が乱れる! 中尉を付けろ中尉を!」

 

「えぇ~、だってめんどくさいですやん」

 

「オイオイ、エリートのフェアリーテイル様は戦場のど真ん中で漫才ですかぁ? それでよく今までやってこれ――ぐえぇ!! やべぇ、糸が!!」

 

 中野瀬がまた無駄に煽ろうとしていたが、マンションの陰から迫っていたβ型の糸に絡めとられてしまう。

 

「中野瀬! ああもうあのドジ!!」

 

「いかん、上だ! γ型も狙っているぞ!!」

 

 細海と私が反応し、私は上のγ型を狙う。

 

「不良共め! 足ばかり引っ張るな! いくぞ藤野!」

 

「がってんっすわ!!」

 

 美船中尉と藤野少尉は、上のγ型を撃破する。

 

「ぐぁあクッソ! 糸が、糸が取れねぇ!! クソ、助けてくれェーー!!」

 

「ああもう! 暴れないで! 糸が絡まるでしょ気持ち悪い!!」

 

「罵倒するな細海! ええい邪魔だ! 巨大生物共ッ!!」

 

 我々の行く手を防ぐかのようにα型が邪魔をするが、距離を取った細海の狙撃により突破。

 私は持ち換えていたAS-20Dでβ型を撃破する。

 

「中野瀬! 生きてるか!?」

 

「ぐえぇ……なんとかな……。さすがは、嵐の男……」

 

「細海! 中野瀬を頼む! くそ、これはブルート行きだな。まだ止まっていて助かったというべきか」

 

 中野瀬のアーマーもここまでの戦闘で痛んでいたらしく、絡まった糸の酸がスーツ内部にまで浸透して何気に危ない状態だ。

 糸に関しては、発射後数秒で糸自体が酸化して殆ど解け落ちるので問題ないが、酸が染み込むと命の危険がある。

 

「ぐああ! あちい! 治癒剤打ったのにあちい!!」

 

「ああもううるさいわね! 糸だらけで気持ち悪いんだから騒がないで! 仙崎! 運ぶから援護しなさいよね!」

 

 気持ち悪いと悪態をつきつつ、なんだかんだ運んでくれるのが細海らしいところだ。

 

「乗り掛かった舟だ、我々も援護しよう! その代わり、この阿呆と下らない漫才をしていたなどと、変な噂は流すなよ!?」

 

「か、考えとくぜぇ……」

 

 絶え間なく押し寄せるγ型の群れに、範囲攻撃の美船中尉と藤野少尉がついてくれるのは心強い。

 

「頼むで中野瀬ホンマ! ウチ、あんなヘタな漫才しとったの知れたら、故郷の父ちゃんにドヤされるで! 漫才やったら、もっと魂込めなアカン! 大阪魂を!」

 

「貴様はなんでこう……いちいちふざけた事を言わないと気が済まないのか!?」

 

「ウチ、いつでも真面目やけど!! 真面目にボケとるだけですやん!!」

 

 美船中尉と藤野少尉が、恐らくいつものやり取りを繰り返す中、アルデバランからの無線が聞こえた。

 

『フラウンダー1、レンジャー2、フェアリーテイル! 無事か!? たった今最後のダロガを倒した! ヘクトルも全部片づけてオールクリアだ! そっちはどうだ!?』

 

『こちらフェアリーテイル。ブルート周辺はクリア、γ型は依然多いけれどなんとか押さえているわ。さて、どうやら頃合いのようね。グリフォン1さん。用意は出来ていて?』

 

『いつでも! 負傷兵はいるか!? いるなら3分待つ! それ以上はどんなに泣かれても飛ぶぜ! こっちも中に大勢いるんだからな!』

 

「聞いたか!? 3分以内だ! 急ぐぞ!!」

 

 距離的には問題ない。

 問題ないが、背後にいるγ型の群れを引き連れていくのはよろしくない。

 

「中野瀬ぇー!!」

 

 この荒っぽい怒声は、フラウンダー小隊員のものだろう。

 やってきたのは、山口軍曹と後藤曹長だった。

 

「ったくおめぇはよぉ!! 迷惑ばっかかけやがってコノ!!」

 

「ご苦労だった! コイツの事は我々が引き継ぐ!」

 

 二人で、中野瀬の両腕を担ぐ。

 

「イエッサー! 我々はここで、γ型を食い止めます!」

 

「そういう事だ! 不良中隊め! これ以上迷惑はかけるなよ! 雨宮! お前も来い!」

 

「了解。藤野、これでやっと日向も助かるね」

 

「せやなっ! これで一安心やわ!」

 

 私と細海、フェアリー2の美船中尉、藤野、雨宮の5人でγ型を抑え込む。

 他のメンバーは我々の北側と南側でそれぞれ奮戦しており、我々の東側にあるブルートを守っている。

 その東側の向こうには我々の本隊であるレンジャー1達やフラウンダー二個小隊が護っているので、隙はない。

 

「うっ、こっちもいい加減、アーマーが死んで来たわね……!」

 

 α型の酸を喰らい、細海がよろける。

 その隙を逃さず、美船中尉は武器を一瞬で持ち替えてマグブラスターで狙い撃つ。

 

 美船中尉のその隙は、藤野少尉が上手くカバーして隙を見せない。

 だが、サンダーボウの出力が突如低下し、やがて撃てなくなる。

 

「あれ!? なんでや! さっきまでちゃんと――」

 

「馬鹿者!! 動揺するな!!」

 

 藤野少尉の隙を狙って、α型亜種が喰らいつこうとするが、美船中尉のマグブラスターが藤野の脇を通りず戯て命中する。

 

「うわ! すまへん美船中尉――中尉ぃーッ!?」

 

「ぐっ!!」

 

 α型亜種は甲殻が厚い。

 通常種なら1秒の照射で済むところを、3秒の照射が必要なくらいには。

 

 そしてその隙を、γ型で手一杯な私も細海もカバーできなかった。

 

 美船中尉が酸を右腕に喰らったのだ。

 常に動き続ける事が前提のウイングダイバーの薄手のアーマーはここまでで既に限界が来ていて、酸の侵入を許す。

 

 それ自体は致命傷ではない。

 だが武器を取り落とした美船中尉を、γ型は狙っていた。

 

「美船中尉ぃぃーーー!!」

 

 藤野は普段見せない必死の姿で、美船中尉を庇うようにして押し倒す。

 同時に、γ型三体の針が二人を襲い、その場は土煙に覆われる。

 

「美船中尉! 藤野ォォ!! 細海、雨宮! ここを頼む!」

 

 私は駆け出す。

 

「私も――」

 

「雷撃銃を持っている貴様が抜けたらここを押さえられない! いいから私に任せておけ!!」

 

「っ! は、はい」

 

 思わず怒鳴ってしまったが、雨宮少尉は分かってくれたようだ。

 

「このォォォ!!」

 

 私は怒りのガバナーを叩き込み、瞬く間に三体のγ型を撃ち落とし、更に周囲に集りつつあった巨大生物何体かも倒す。

 

「お二方! 無事でしょうか!?」

 

「ぐ、あぁ……っ……!」

 

「藤野! 藤野ォ! しっかりしないか馬鹿者ッ!!」

 

 藤野は、針を片脚に受け、太ももから下が吹き飛んでいた。

 出血が激しい、このままではいくら治癒剤を打っても、幾分も持たない!

 

「美船中尉! 私が担ぎます! 援護を!!」

 

 私は意識が朦朧としている藤野を担ごうとしたが、

 

「いや、私が担ぐ! 利き腕をやられて武器も失っている! 足手まといですまんな。援護を頼めるか!? 今ならまだ間に合う!」

 

 ブルートの離陸まであと何分だ!?

 体感、もう一分も残っていない!

 

「何を今更! 気高いウイングダイバーらしくもない!」

 

「ふ、レンジャーにそう言われるとはな。恩に着る!」

 

 だが、可能性はいくらでもある。

 美船中尉はユニットを小刻みに吹かし、高速で移動する。

 私は後ろから、近寄る巨大生物をAS-20Dで一体ずつ仕留める。

 

『時間だ! 離陸する!!』

 

 だが、時は待ってくれない。

 ブルートは無情にも、離陸を始めた。

 

 それでも、美船中尉は藤野を抱きかかえ、走る事を止めない。

 

『こちらフラウンダー! ブルートが離陸したぜ! ついでにくそったれの凶報だ! 詳しい事は省くが五分後に艦砲が吹っ飛んできてここは木っ端微塵になる! 巻き込まれたくなけりゃケツに火ィつけてとんずら決めろ!』

 

 結果的に総指揮を握ったのか、梶川大尉から通信が入った。

 それは一体どういうことか。

 分からないが五分しか猶予がないという事は、詳しく問い詰めている暇もないという事だ! 

 

 

――フェアリーテイル2――

 

 

「美船中尉ぃ……もう、もうええ、間に合わへんやん……。こうなったん、自業自得やし……置いてって……な?」

 

 普段の藤野からは考えられない程弱々しい言葉。

 治癒剤のおかげで太ももからの血は徐々に止まりつつあるが、失った血が多すぎ、顔色は真っ白だ。

 

「馬鹿者! もうしゃべるな! まったく貴様は手の焼ける……。私を、庇ってこんな目に会うなど……。絶対に、絶対に置いてなんか行くものか!! EDFは、仲間を見捨てないんだッ!!」

 

 美船中尉は、地面を強く蹴って跳んだ。

 その空中を無防備に飛行する二人を狙って、γ型が迫る。

 

「くそ、この距離では!!」

 

 AS-20Dを構えるが、射程外であることに歯痒く思う仙崎。

 

「させるものですか!」

 

 その仙崎の後ろから狙撃したのは細海だ。

 

「あ、後味悪いのは御免なのよ!!」

 

 次々と撃ち落とされるγ型に、狙撃した主に感謝しながら脇目もくれず飛ぶ美船中尉。

 ヘリとの距離は離れていく一方で、追い付くのは絶望的に見えた。

 しかし。

 

「……ったく。待たないといっただろうに。諦めの悪い」

 

 ブルートのパイロットは、コクピットで独り言ちた後、意図的に高度を下げる。

 そして片側のドアが開き、

 

「美船中尉!! 藤野ぉーー!!」

 

 フェアリー2の一人、中にいた日向が飛び出した。

 彼女も足を負傷し、その他も傷だらけでとても動ける体ではないが、それでも飛んだ。

 

 そして、空中で二人は、言葉を交わす。

 

「……この馬鹿を、藤野を頼む」

 

「了解! 任せてください!」

 

「ふ、世話を掛けるな」

 

 空中で日向は藤野を受け取り、美船は地上に降りた。

 

「届け、届いてぇーー!!」

 

 背面の飛行ユニットが警告音を発する。

 強制冷却まで1秒足らず。

 

「掴まれ!!」

 

 ヘリのパイロットの操縦もあり、ドアで手を伸ばした原田曹長がギリギリでキャッチして、二人はなんとかヘリに戻る事が出来た。

 

「ぐぅっ、……藤野、藤野っ、私たち、助かったよ! あとは、すぐ病院だからね!」

 

 無茶して体を動かした苦しみも我慢して、日向は笑顔を向ける。

 

「っ……せや、な……」

 

 藤野も無理して笑い、それを最後に意識を失った。

 

 ブルートが大阪の軍病院に搬入されるのは、20分後の事だ。

 




新規人物紹介です!


槇原秀光(まきはら ひでみつ)(28)
 コンバットフレーム、ゴーン隊の指揮官。大尉。
 コールサインはゴーン1。
 汎用型の最新機種ニクスC型に搭乗する。
 仙崎程ではないが不幸体質で、過酷な状況に追い込まれることが多くあった。
 本人はいたって好青年的な感じだが、状況が状況なため声を荒げる事が良くある。

原田道弘(はらだ みちひろ)(40)
 第四エアレイダー小隊の随伴歩兵。曹長。
 海外派兵時代からのベテランで、門倉大尉との付き合いも長い。
 二十歳のころからEDFに入り、順調に昇進を続けているが、尉官に昇進する気は無く、長い間曹長として軍に身を置いている。
 近距離遠距離、狙撃、偵察観測と、何でもできる門倉のよき相棒。
 ベテラン軍人らしく冷静で物怖じしない。

吉本幸次(よしもと こうじ)(25)
 コンバットフレーム隊、ゴーン3の操縦士。
 熱血漢で、昔見たロボットアニメに感化されてニクスパイロットとなった。
 ニクスは好きだが、ニクスを降りても一歩も引かない不屈の精神を持つ。
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