全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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ちょっと脇道に逸れます
主人公が出てこない話が結構多いのは主人公部隊以外の活躍も書きたいという趣味です
ご了承を!


第五十九話 第241後方支援連隊

――4月1日 0:03 第402火力演習場 第二演習エリア 第二師団 第241後方支援連隊――

 

 

 時は少し巻き戻り、アンカー地表激突の数分前。

 

《第二師団司令部より演習場全部隊へ! 基地防空レーダーでもアンカー接近を確認! 総数、敷地内8基、敷地外5km圏内に16基! よって当演習場は全設備を放棄! 可能な限り物資積載および負傷者収容を行い、アンカー降下数の少ない南丹市園部町市街地を目指せ!》

 

 第402火力演習場にて補給作戦の指揮を執っていた第二師団長の声が無線で響く。

 なお、第二師団からは狙撃部隊としてブルージャケットの他、ほとんどの戦闘部隊が前線に投入されているが、そちらの総指揮は他師団(第一、第二、第四、第七師団)を統括して極東方面第11軍司令部が直接執っている。

 

 その為第二師団司令部は後方指揮を専念して行っていた。

 特に大激戦が予想され、その通りとなった京都市街地への兵站・補給作戦は本作戦に於いて重要な役割を果たし、それが十全に機能したことによって本作戦は多大な被害を出しながらも”順調に”推移していた。

 

 しかしそれは、思わぬところで根底から崩れ去る。

 

「塔が落ちるぞぉー!! 揺れと衝撃波に備えろッ!!」

 

 声と同時、アンカーが突き刺さり、凄まじい衝撃と共に土砂が巻き上げられる。

 第241後方支援連隊に所属する佐々木一等兵は声に従い、壁面を掴み姿勢を低く衝撃に耐える。

 医療物資の整理・積み込みを主な任務として作業していたが、もはやそれどころではない。

 

「佐々木手を止めるなッ! 前線にいる友軍に少しでも多くの――」

 

 隠れず作業していた中村軍曹は、豪速で飛んできた1mほどの瓦礫に頭を打たれて吹っ飛んだ。

 

「ハッ! ザマミロくそじじい! こんな中真面目に作業なんかしてられるかっつーの!」

 

 言いながら、佐々木一等兵は指示あり次第すぐトラックに乗れるように、なるべく近い位置・軽い医療物資をトラックに載せて、さも一生懸命に命がけで”働くフリ”をする。

 

「第一演習場の砲兵部隊は!?」

 

「退避が間に合ったことを祈るしかない!」

 

「データリンクを確認した! 砲兵の半数が多分やられてる! こっちにももう一基落ちるぞ!」

 

 上官の飛び交う声を聴きつつ、撤退の指示が出るのを待つ。

 命は大事だが、表立って逃げたり隠れたりするのはカドが立つので最後の手段だ。

 あの中村軍曹(くそじじい)のように命を顧みないなんてのはもっての他だが。

 

「本当にやばくなったら一人でも逃げ出してやる……こんなところで死ねるか」

 

 聞こえないよう小さくつぶやく。 

 

「おい! 物資の積み込みはもういい!! タイタン主砲弾(レクイエム)は積んだな!? よし、もうここにも落ちるぞ!」

 

「イエッサー! 急げ、撤退! 撤退ぃー!!」

 

 大隊長の指揮を聞き声を張り上げる中隊長。

 佐々木一等兵は待ってましたとばかりに医療物資を放り投げ、真っ先に輸送トラックの荷台に乗り込む。

 運転手がアクセルを踏むと、他も一斉に走り出し、第二演習場を後に走り出す。

 

「佐々木か。一番乗りとはさすがだな」

 

 声をかけたのは同じ補給中隊に属する三島伍長。

 佐々木の二つ年上の女性主計員だ。

 階級こそ伍長だが、佐々木のようなただの運搬員とは違って在庫管理や発注会計を管理する主計小隊の所属で、在庫に関して口うるさく言われる事はあるがあまり馴染みは無い。

 

 それでも、文面通りに感心された訳でない事は分かる。

 

「命の危険なんでね。オレら下っ端は逃げ回るだけで精いっぱいっすよ」

 

「それは皆同じだ。上も下もないだろう。まあいい、中村軍曹はどうした?」

 

「……死にましたよ。頭に瓦礫がブチ当たってあっさりと」

 

 佐々木一等兵は、先ほどとっさに憎まれ口を叩いてみたものの、今になって手が震えているのに気付く。

 当たり前だ。

 あんなに身近で人の死を見たのは、彼にとって初めての事だった。

 

 彼は後方の補給部隊の一人だ。

 補給部隊の中には、前線に出張って補給や支援を担当する危険な任務もあるが、彼の中隊は今までこの402火力演習場での物資の積み込みを行うのが主な任務だった。

 

 しかもよりによって散々厳しくされてきた中村軍曹が、ああもあっさり死ぬものなのか。

 そのことに実感が持てず、ただ恐怖だけが刻まれた。

 

「そうか。惜しい人を亡くした」

 

 惜しいもんか。

 そう思ったが面と向かって言うのはさすがに憚られる。

 

 しかしその冷静な態度は気になる。

 彼女は主計部隊だ、戦場になど出た事は無いはずだが。

 

「……あの、三島伍長、どうして――」 

 

『塔落下! 来ます!!』

 

『全車衝撃に備えろッ!!』

 

 口を開くと同時、二個目の塔が演習場横の建物に直撃する。

 先ほどよりも距離は近い。

 

「ぐぅぅッ!」

 

 衝撃で車体が大きく跳ねる。

 佐々木一等兵と三島伍長は荷台や乱雑に積み込まれた荷物にしがみつき、振り落とされないように踏ん張る。

 大地震に匹敵する振動の他、衝撃波や爆音破片土砂あらゆるものが輸送車列を襲う。

 

『うわあぁぁぁぁ!!』

 

『四号車横転!』

 

『止まるな! すぐに巨大生物が出てくるぞ! とにかく走り続けろ!!』

 

 後方を走っていた四号車が振動で横転し、そのまま置いて行かれる。

 

『塔より巨大生物出現!! 感知されました、向かってきますッ!』

 

『クソッ! 補給物資を何としても守り抜かなければ! 友軍との合流に進路を切り替えろ!!』

 

『イエッサーッ!!』

 

 進路を、第二師団司令部から指示のあった南丹市園部町ではなく、付近の友軍に切り替える。

 巨大生物に追われている以上、碌な武装のない輸送車団単体で逃げ延びるのは不可能になった。

 

『最も近い部隊は!?』

 

『ええと……あと700mで砲兵部隊の生き残りがいます! あっ、応戦を始めました!!』

 

 別方面から砲兵部隊を追う巨大生物に対し、移動しながらの砲撃が始まった。

 

 

――0:15 第一演習場 レイドアンカー降下地点より300m――

 

 

「撃て! とにかく砲兵部隊を守るんだ!! 支援砲撃部隊や補給物資を失えば今回だけじゃない、今後の作戦に支障を来す!!」

 

 火力演習場の護衛に着任していた第17ヘリング中隊の堀口大尉が必死に指揮を執る。

 

 現在彼らはグレイプ装甲車の後部ハッチや上部ハッチから身を乗り出し、追撃する巨大生物を攻撃で押し返していた。

 

 歩兵部隊は砲兵や補給部隊を中心に後退し、退避している。

 既に402火力演習場の放棄は決定された。

 

 なんせ敷地内には8基のレイドアンカーが突き刺さった上、設備を悉く破壊され、おまけにここにいる戦力は負傷兵と近距離戦が出来ない砲兵、戦闘外任務を主とする兵站関連部隊が殆どで、護衛部隊は最低限しか配備されていない。

 

「堀口大尉! ヘリング7、9との連絡が取れません!」

 

「アンカーの直撃にやられたか!? ヘリング8、周辺部隊に応答を続けろ! とにかく生き残りを集めるんだ!」

 

『了解!』

 

 現在ここには、

 面制圧砲撃任務群”スレッジハンマー”所属のネグリング自走ロケット砲八輌、ブラッカー155mm自走榴弾砲六輌、護衛のアンモナイト自走対空砲三輌と

 

 第402火力演習場直属の第4021警備中隊や、その他演習場要員十数名、

 

 第二師団後方支援連隊所属の補給中隊、輸送中隊の輸送トラック13輌と要員数十名、救護施設と戦場を往復していたキャリバン装甲救護車輛七輌とその中の負傷者衛生兵十数名、護衛として残った第17ヘリング中隊十数名とグレイプ装甲車8輌が移動していた。

 

 この中で最も足の遅いブラッカー自走榴弾砲と、継戦の為に欠かせない物資を満載した輸送トラックを護るように速度を合わせ、レイドアンカーから出現した巨大生物から逃げていた。

 

 なお、プロテウス185mm自走榴弾砲は断腸の思いであったが機動力の問題から全車放棄された。

 面制圧の貴重な戦力であったが、最大時速60kmに満たない重砲は、どう考えても巨大生物から逃れる事は出来ない。

 

 同様に狙撃砲兵任務群”サジタリウス”のベテルギウス203mm自走重砲も確認済みでは無いが全車放棄されているだろう。

 

「また巨大生物が来るぞ!」

 

「どうせ増え続けるんだ! 撃破は最低限にして退路の確保を優先!」

 

「「イエッサー」」

 

 後方からの巨大生物群に対し、グレイプの上部機関銃(UT7ガトリングガン)の7.62mm弾が火を噴く。

 だが、数輌のUT7斉射では巨大生物の大群は抑えきれない。

 

 特に巨大生物α型亜種の観測時最高速度は120km/hを超える。

 強酸こそ持たない代わりに、並みの機関銃では抜けない甲殻と、荒れ地や瓦礫をも速度を落とさず走破する走行性能、

 

 そして戦車の複合装甲も易々噛み裂く強力な顎と牙。

 走攻守全てにおいて、撤退戦で最悪の敵といえる。

 

「おい! 赤いのが来るぞ! 早く撃て! 撃てぇぇ――うわあぁぁぁ!!」

 

 弾幕射撃を分厚い甲殻で弾き返し、α型亜種にグレイプの車体が食いつかれ、横転する。

 

「くそ! 逃げろ! 逃げ――ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 車体はそのまま引き裂かれ、更に二体、三体が車体と乗員を区別なく貪る。

 

『グレイプ道を開けろ!! 危険だが直接照準の水平連続射撃で一帯を制圧する!』

 

 無線があったのはネグリング自走砲だ。

 積んである一輌あたり小型ミサイル20発の斉射の準備をする。

 

 二輌減って六輌となったグレイプ装甲車は道を開け、中央の物資輸送車を護るようにして

 

「ピューマ1了解! 各車散開! 両脇に注視し、回り込む巨大生物を叩くぞ!!」

 

『『了解ッ!!』』

 

『ネグリング全車! エメロードミサイル装備車は一斉射を行う! ――射撃開始ッ!!』

 

 陸上車両用に規格されたエメロードミサイルが高速で飛翔し、一瞬で目の前の巨大生物群に当たり爆発を次々と起こす。

 

 本来中長距離制圧支援用の汎用ミサイルだ。

 50mも離れていない場所で使うように設計されていないが、そんなことを言える状況ではない。

 

『一号車! 左翼からα型亜種を中心とした巨大生物群! 多いです、千体以上! まだ増えます!』

 

『北側にも多数のアンカーが落ちたか! やむを得ん、対空砲水平照準! 地表の巨大生物共を薙ぎ払えッ!!』

 

 自走対空砲アンモナイトが砲身を水平に向けて、対空砲弾で弾幕を張る。

 発射される対空砲弾は、近接(VT)信管砲弾だ。

 砲弾自体にレーザー計測器が搭載されており、標的が一定距離に接近すると破裂し、金属片で敵航空戦力を撃墜する対空兵器だ。

 

 貫通能力がない為、連続射撃であっても手前の敵にしか効果が無い上、硬い甲殻を持つα型亜種を押さえることが出来ない。 

 

『クソッ! 数が多すぎる! 突破されるぞ!?』

 

『ピューマ1より各車! 機動力を生かして抜かれそうなところを防げ! ヘリング隊! 内部から援護射撃を頼む!』

 

『ヘリング6了解! 各員、ここぞという時はゴリアスを使え!』

 

『『イエッサー!』』

 

 グレイプ装甲車部隊のピューマと、それに乗る陸戦歩兵部隊ヘリング小隊がアンモナイトの弾幕をかいくぐった巨大生物をなんとか押さえる。

 

『ちッ! 前にも塔が見えやがるぞ! どうする!?』

 

 先頭を走るブラッカー自走砲が闇夜と土煙に隠れていた紫色に光るレイドアンカーを発見する。

 レイドアンカーがあるという事は、その付近に大量の巨大生物がいるという事だ。

 

 ブラッカー自走砲の一人は、一団の指揮をなし崩し的に執った射撃指揮車に乗る砲撃指揮官に聞く。

 

『前からの巨大生物がこちらに来ていないという事は気づかれていない可能性が高い。とにかく迂回だ! 塔の周辺で事を構える必要は――』

 

「少佐、通信です! 2時方向距離600で逃走中の輸送車部隊から合流の要請が! 補給物資積載中に塔落下を受け、生き延びたものの追撃を受けているとの事です!」

 

「なに!? ちっ、あの塔の巨大生物がこちらに来ていないのはそういう事か!! 中身が何であろうと物資は見逃せん!『全車輌、進路変更だ! 2時方向600で輸送車が襲撃を受けている! 合流した後演習場から撤退する!』

 

『『了解ッ!!』』

 

 

 

――0:20 第241後方支援連隊――

 

 

「や、やめろ! 来るな、来るなァッ! ぐああぁぁ! 酸がッ――」

 

 酸を浴びていた二号車が走行中爆発した。

 恐らくα型の酸が弾薬か燃料に引火したのだろう。

 酸が物体を腐食する際に出す高熱は、可燃物を燃え上がらせる二次被害も起こす。

 

 あれから更に二輌の輸送車が巨大生物に襲われた。

 輸送車のみの佐々木ら輸送中隊車列は全速力を出せる筈だったが、アンカー落下の影響で悪化した路面状況のせいであまり距離を引き離せていない。

 

 装輪式のおかげで速度は出せるが、物資満載の状態ではせいぜい100km/hが限界だ。

 対して巨大生物α型亜種は不整地であっても最大120km/hと驚異の速度で進撃し、通常種であっても90km/hは出せる。

 酸の射程も考慮するとまったく安心はできない。

 

 唯一β型は垂直方向の跳躍力こそあるが、水平移動力に関して正確なデータはないものの車輛の移動に追い付けるものではない。

 γ型は飛行速度200km/hを超えるので、出現していたら輸送車隊など早々に全滅していたであろうが、幸いにして未だ確認されていない。

 

「佐々木! 右から来てるぞ! 見逃すな!」

 

「そんな事言われたって! 歩兵じゃないんすよ俺は!」

 

 輸送トラック五号車に乗り合わせた補給中隊の佐々木一等兵と三島伍長は補給物資の中にあった歩兵銃を手に取り応戦する。

 

 佐々木伍長が持つのはAS-18を単発高威力化したDモデルだ。

 他に強力な武器はあったが、いずれもアーマースーツ着用前提の火器となるので生身で使用すれば最悪反動でトラックから投げ出される。

 

 Dモデルを選んだのは、最低でもこれでないとα型亜種を怯ませる事すら出来ないからだ。

 だがそのDモデルですら、発砲の度に肩が外れるかという衝撃が来る。

 主計課女性の三島伍長ではDモデルは扱えなかっただろう。

 佐々木は物資運搬ばかりをしていたので、力だけはある。

 

「目を狙え! 旧式銃で有効打を狙うにはそれしかない!」

 

「分かってますって! でも素人が走行中のトラックから単発式のコレで当たる訳ないでしょう!?」

 

「射撃訓練は一応やったはずだろう!」

 

「入隊時に一応ね! おかげで使い方だけは最低限分かります! よかったですね!!」

 

 怒鳴るように皮肉を飛ばす佐々木一等兵。

 だが無理もない。

 訓練で行った静止した的に当てるのとは訳が違うのだから。

 

 しかしそう言いつつも文字通りの必死さが学習能力を向上させ、この短時間で弾を当てる事だけは結構出来るようになっていた。

 

「くそ! くそ! くそ! 蟻野郎がぁぁ!」

 

 隣で同じように銃を撃つ輸送中隊の隊員が叫ぶ。

 何発か当てたにも関わらず当たり所が悪く弾はそれ、そのα型亜種は猛突進で車体に喰らいついた。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 輸送中隊の一人は衝撃で投げ出され、車体が大きく揺れる。

 

「うっ――」

 

「伍長ッ!!」

 

 身を乗り出して射撃していた三島伍長も投げ出されかけるが、佐々木一等兵は銃を放り投げてとっさに三島伍長の手を掴む。

 

 巨大生物は更に車体をかじり、火花を散らしてなおも揺れるが、ドライバーの奇跡的なバランスのとり方で、転倒は防がれた。

 

「ありが――」

 

 三島伍長が礼を言うと同時、真横からの突進で、車体は堪らず横転する。

 時速100km近く走行中の横転。

 車体は何回転も横転し、佐々木と三島を含む乗員は投げ出された。

 

 佐々木一等兵は無意識に三島伍長の手を強く握り、そのまま地面に打ち出され車体と同様に地面を転がった。

 

「う……、くっそ、痛ぇ……。三島、ごちょ――」

 

 激痛に暗転しかける視界を開く。

 炎上するトラックの炎に照らされて見えたのは、自分が握り続けていた三島伍長の”腕”だけだった。

 

「う――」

 

 咄嗟の事に理解が追い付かない。

 そして自身を覆う影。

 見上げると気持ち悪い体液を口から垂らす赤い巨大生物。

 

「うわああぁぁぁぁ!!」

 

 叫ぶ。

 武器もない、体は激痛と何より恐怖で立ち上がる事すら出来ない。

 何も、できない。

 

「あああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 銃声と絶叫。

 しかし、自分の声ではない。

 佐々木はハっとすると、そこには片腕で銃を連射してこちらに突撃する三島伍長の姿があった。

 

 だが所詮は旧式のAS-18。

 注意は引けども撃破には至らない。

 

 α型亜種は軽い首の動きだけで三島伍長を撥ね飛ばし、転がった三島伍長へにじり寄る。

 

「クッ……、死ね、死ねぇぇ!! 巨大生物共ぉぉ!! 家族を返せ! 友達を返せ! うわああぁぁぁッ!!」

 

 三島伍長は、今まで聞いた事ないような声を上げて、仰向けになりながら片手で掴んだ破片や石を投げつける。

 巨大生物は、必死の抗いを嘲笑うかのように、ゆっくりとその牙を三島伍長へ迫らせる。

 

 そして彼女の失った武器は、偶然にも佐々木一等兵の近くに飛んで落ちていた。

 

「く……くそ……」

 

 何に対しての悪態なのか。

 それが分からないまま佐々木一等兵はAS-18を構える。

 だが、どうする?

 

 撃つのか?

 撃てば僅かに逸らされた注意に対し、苛立ちを覚えた巨大生物が自分を殺すだろう。

 

 撃たないのか?

 撃たなければ間違いなく三島伍長は喰われる。

 

 だが、それがどうした?

 別に、ほとんど何の関係もない同僚が死のうと、自分には関係のない話だろう。

 いざとなったら見捨てて逃げると、何度も思っていたはずだ。

 

「ぎゃああぁぁぁぁああ!!」

 

 一瞬の迷いのうちに、三島伍長は両足を一気に喰われる。

 α型亜種の赤い甲殻が更に返り血で赤く染まり、付け根から先は一瞬にして腹の中に納まった。

 

「くッ……!!」

 

 撃たない。

 撃たないですぐ逃げるべきだ。

 そう決めた筈なのに体が動かない、目が離せない。

 銃の構えを解く事が出来ない。

 

 心の底で、助けなければ。撃たなければという声が聞こえる。

 人として、仲間として、彼女を見捨てる事は出来ないと、心が土壇場で煩く叫び始めた。

 

 しかし、それを恐怖が邪魔する。

 撃てば自分は死ぬ。

 あの苦痛の絶叫を、自分が受けるという選択が出来ない。

 

「くッそォッ!!」

 

 恐怖で歯の根が震える。

 引き金を引こうとするが、指が固まってまるで動かない。

 そのくせ、恐怖に身を任せて逃げる事すら出来ない。

 

 助けなければいけない、撃てと思うのに。

 死にたくない、逃げろとそう思うのに。

 

「ぎっ……ぁ……」

 

 空気を無理やり絞り出したような断末魔が、佐々木一等兵の耳に届いた。

 胴体を貪られ、鮮血が高く吹き上がるその姿と、最後に目があったような気がした。

 

 そしてその目が、頭が、弾けたスイカのように喰われた。

 

「てぇーッ!!」

 

 声がした。

 同時に、発砲音がして、巨大生物が倒れた。

 

 車輛のエンジン音が重なり、周囲に次々と停車する。

 自走砲や自走ロケット砲の発射音が響き、遠くで爆発が連鎖する。

 車輛から幾人の兵士が降り、転倒した輸送車から投げ出された隊員や、物資を回収していく。

 

 

 だが。

 

 

 景色は見えている筈なのに。

 目の前が真っ白になって、なにも考えがまとまらない。

 

 仲間が、来たのか?

 

 じゃあ、あの時撃っていれば、三島伍長も、自分も死なずに済んだのか……?

 

「お前、無事だな!? おーい! こっちにも一人! 四肢は無事! 派手な出血もない!」

 

 武装した兵士の一人が叫ぶと、数人が集まる。

 

『こちらヘリング6! 新たに負傷者一名発見! 救助して向かう!』おい立てるか!? ちっ、だいぶショックを受けてるな……。西田、そっちの奴は!? ……そうか、間に合わなかったか。――いや、今はいい、時間が惜しい。とにかく急げ! ここもすぐ巨大生物だらけになるぞ! よし、全員乗ったな!? 車を出せ、早くしろッ!!」

 

 武装した兵士に連れてかれ、何を言っているのか何も頭に入ってこないまま、車に乗せられた。

 

 自分は何をすればよかったのだろう。

 自分はどうすべきだったのだろう。

 

 

 じぶんは、なにを、してしまったんだろう。 

 

 

 

 かんがえが、まとまらない……。

 

 

 

 

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