全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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ようやく京都防衛戦も終盤に近付きました。
ここから盛り上がる……はず??


第六十話  残された者たち

――4月1日 0:30 第402火力演習場 敷地内第一演習場付近 ヘリポート――

 

 

「仙崎、装備は整えたか?」

 

 私に話しかけたのは、偶然ここで落ち合った第4エアレイダー小隊の門倉洋介大尉だった。

 

「ええ、なんとか。そちらの装備は?」

 

「通信装置は最新のが一式残っていた。本部に連絡を取っては見たがとても手が出せんと一蹴されたよ。困ったもんだ」

 

 渋い声で苦笑しヘルメットの上から頭を掻く動作をする。

 ちょっとお茶目な感じがするが、状況は最悪だ。

 

 それを見た別の男が苛立ったように声を上げる。

 

「そりゃそうでしょうよ。なんとか装備にありつけたとはいえ、付近は万単位の巨大生物に完全に囲まれてるんですよ? 救援部隊を寄こす余裕が無いのは当然として、あっても付近の巨大生物を刺激したら大乱戦だ」

 

 どうしようもない状況に、楠木(くすのき)曹長(私が最初に行動を共にした警備の兵士)が吐き捨てる。

 

 現在我々は、奇跡的に巨大生物が見つけていなかった、ヘリポートに放置された物資を漁って装備を整えていた。

 しかし、この北と南には少なくとも数千体の巨大生物ひしめき、数人での突破は難しかった。

 

「怪我人の手当ては終わったぞ! 見様見真似だが、何もしないよりはマシだろう!」

 

 市原少尉(葛木を見つけて救助を行っていた生身のフェンサー)がキャリバン装甲救護車輛から出てくる。

 姉が衛生兵だった彼は、この中では一番まともな医療を施せると思ったからだ。

 

「どれ、中に入って作戦会議とシャレ込むか!」

 

 こんな状況で何故か楽しそうに顔をニヤつかせる門倉大尉のメンタルは相当なものだな。

 

――――

 

「では、さっそく自己紹介と行こうか! 俺の名前は――」

 

「――待て待て待て!」

 

 楠木曹長がストップをかける。

 

「なんだぁ?」

 

「なんだじゃないです! この状況で悠長に自己紹介なんかしてる場合じゃないでしょう!? 学生じゃないんですから! ここもいつ見つかるか分かったもんじゃないんですよ!?」

 

 比較的元気な常識人枠の楠曹長が見事な突っ込みを入れる。

 恐怖と焦りが体を支配している。

 まあ無理もないだろう。

 ただの警備兵だった彼は命の危機に曝されたことなどそう無かっただろうし。

 

 対する門倉大尉は最も対照的で、余裕すらも感じる。

 

「そりゃこんな状況だからだろう。味方に取り残された男女九人。見知った顔もいるが互いの事を知らんとこの難局は乗り切れんぞ? まあ殆ど怪我人だが」

 

「そんな事言ってる場合じゃ――」

 

「――はいはいもう分かったから早くしなさいよ……。こっちはやり取り見てるだけでも疲れんのよ……」

 

 市原少尉に手当して貰った細海兵長が先をせかす。

 彼女も何とか一命をとりとめて、嫌味を言うくらい元気になったので何よりだ。

 

「んん゛っ。では改めて。俺は第四エアレイダー小隊の門倉洋介大尉だ。見ての通りエアレイダーだが、上空に空軍もいなければ、砲兵も陣地から命からがら逃げだしたってんで今は唯の通信兵ってところだなぁ、がっはっは!」

 

 門倉大尉とはレイドシップ撃墜作戦の時以来だ。

 古参兵の一人で彼の判断力とどっしり構えた余裕は信頼できる。

 

「……ホントにやるのか。はぁ、俺は楠木雄一郎曹長。第4021警備中隊所属。今は非常時でレンジャーとして武装しているから少しは役に立てるだろう。次」

 

 楠木曹長が居なかったら無事に脱出出来ていたか怪しい。

 彼が旧式とはいえアサルトライフルを持っていたおかげでかなり救われた。

 年齢は恐らく30代前半か。

 この危機的状況にかなり苛ついてはいるが、なんだかんだで人の好さが否めない。

 

「はい。第202機械化歩兵連隊第一中隊(ジャガーノート1)の市原一馬少尉です。姉が衛生兵だったので皆さんの治療を担当しました。装備はフェンサーのを一式積んだので10体ぐらいだったら相手に出来るかもです」

 

 202連隊という事はランドガルド中隊と同じ連隊か。

 市原少尉のおかげで葛木を発見できた。

 救う事は結果的に出来なかったが、それでも意味はあったはずだ。

 

 礼儀正しく、頑張り屋の印象を受ける。

 まだ若いが、動けない葛木を助けようとしてる辺り信頼できる。

 

「……次は俺か……。第111攻撃ヘリ中隊の、石川智樹中尉だ。見ての通り足は折れてるしヘリもねぇし毛ほども約に立たねぇお荷物だよ。……、いや、こんな言い方で済まねぇ。拾ってくれたあんたには感謝してるよ、ほんとな」

 

 アンカー落下中に楠木曹長の言葉を無視して救助した足の折れた負傷兵だ。

 攻撃ヘリパイロットだったのか。

 

「111……ってことは、あの有名なサイクロン中隊ですか?」

 

「一応な。丈夫な足とヘリさえありゃ、それなりの活躍を約束するんだが。ま、今はほんとに何もできねぇ」

 

 サイクロン中隊と言えば凄腕のバゼラート乗りとして有名だ。

 私も大規模戦闘では何度かお目にかかっているが、上空にいてくれると安心感が違う。

 単騎で巨大生物の群れを撃退したとか、ダロガの対空攻撃を躱しつつ20機以上撃破したとか、原則地対空戦闘が推奨されているガンシップに対し空対空戦闘で何度も勝利を収めたとか、逸話には事欠かない。

 

 石川中尉の痛々しい紹介で空気が沈痛する中、それを破るように突如キャリバンの中に騒がしい声が入ってきた。

 門倉大尉と共に合流していたが、外を見回りたいと言って聞かなかったのだ。

 どうやら無事に戻ってきてくれたらしい。

 

「何という事だ!! この集積所には碌な装備が揃っていない! 何より我がガプス・ダイナミクス社製のギガンテスシリーズが一輌も残っていないではないか!! アレがあればこの窮地より脱出することなど造作もないというのに……! ……キャリバン救護車輛も、我が社の製品ではあるんですがねぇ。武装という面では少し……」

 

 狭い車内に(それでもキャリバンは車輛としては広い方)両手を派手に広げ喚いたかと思ったら、顎に手を当てブツブツ独り言を言い始める。

 白衣をピッシリと着用し、特徴的な片眼鏡と銀色に近い白髪を整えた初老の科学者は、直後、隣の妙齢の女性に、煙草の煙と共に一言突っ込まれる。

 

「ふーっ。……ギガンテスはEDFや他社との合同設計だっただろう。ガプス・ダイナミクス社が担当したのは、エンジンだけさね」

 

 さほど手入れのしてない茶髪に、薄汚れた白衣を着こなした女性科学者が、なんとも気怠そうに注釈する。

 

「……それにしても、厄介ごとに巻き込まれたもんさね。ワタシら二人は居ないものと思って、どうぞ続けて……おや? キミは、確か……」

 

 女性科学者が、私を見つめ、記憶を探っておられる。

 

「では、ちょうどいい機会なので次は私が。我が家名は仙崎! 名は誠! 階級は伍長! 第88レンジャー中隊第一小隊第二分隊所属、通称レンジャー2-1のしがない分隊員を務めている! 敵の攻撃を回避する事にかけては誰にも負けないという自負がある! ぬぁははははは!! 思い出しましたか!? 茨城尚美技術少佐殿っ!!」

 

「……ああ、レイドシップを撃墜したキミか。さっきは気付かなかったよ。……キミ、黙っていると影薄いだろう。なるほど、だからその自己紹介(キャラクター)か」

 

「ぐっ、古傷を容赦なく抉りますな……」

 

 初見……ではないが、たった一言二言で見られたくない内面を見透かされた気分になる。

 なる程、故に天才、という事か。

 気が抜けんな。

 

「気に障ったかい? 悪いね。そういうの、気遣うの面倒でね」

 

「茨城少佐。とりあえず、自己紹介とか、してくれますかねぇ?」

 

 本当に興味が無さそうな、気怠い目線の茨城少佐に対し、門倉大尉が野太い声で遠慮がちに催促する。

 

「……必要ない事はしない主義だけど。ま、少しは心象良くしとかないと、見殺しにされちゃ世話無いからねぇ。ワタシはEDF先進技術開発研究部、第一研究室、室長の茨城尚美。大きな怪我は無いが、銃を持つ気も無いよ。生憎頭脳労働が基本でね。……これで満足かい?」

 

 抑揚の少なめな自己紹介を行い、最後に深呼吸と共に紫煙を吐き出す。

 狭い車内に煙が充満する。

 そんな彼女は何やら片手に大仰なジュラルミンケースを持っているが、それが何であるのか答えてはもらえなかった。

 

「では私も自己紹介を行うとしましょうか。私はヘンドリック・オストヴァルト。EDFに製品を提供している民間企業”ガプス・ダイナミクス”、軍事車輌設計部門の研究員で、少し前はあの重戦車B651タイタン設計のチームリーダーを務め……そう!! 私が!! 史上最強の重戦車! タイタンを造り上げたのです!! その主砲! 320mm超重粉砕単装砲、通称レクイエム砲は――」

 

「――はいはい分かった分かった。……ったく大声を出させないで欲しもんさね。彼も見た目通り重傷はなし。いざとなったら戦いに行く男だよ、きっと。戦力として期待できるモンではないだろうケドねぇ」

 

「な、なにを勝手に」

 

「タイタンの雄姿をその目で見るんじゃなかったのかい?」

 

「その通り! その為ならば、どんな過酷な場所にも身を投じ」

 

「――だ、そうだよ? まったく、面白い奴だ。そう思わないかい? 仙崎誠くん?」

 

「は、はぁ……」

 

 茨城少佐とオストヴァルト博士のやり取りを見せられたかと思えば、急に話を振られ困惑してしまう。

 

「ふぅむ……二人とも負傷度合いは重くないが、元々兵士ではない。戦いに向かないのは当然ですなぁ。しかしオストヴァルト博士は兵器には詳しいだろうし、茨城少佐はかの”極北の魔女”に匹敵する天才だとか。何か、気付いた事があったら、遠慮なく言って下さい」

 

 門倉大尉はそう纏めると茨城少佐は不満げに鼻を鳴らす。

 

「よしとくれ。あんな”化け物”と一緒にされちゃ困る。魔女なんて可愛げのある言い方すら気に食わないね。ま、ワタシ心は広い方だ。次に言わないなら気にしない事にするよ」

 

「それは失礼した。悪気は無かったのですが、有名なのでつい……」

 

 門倉大尉は大柄な体を丸めて、二三頭を下げる。

 

 ……それを見ながら、私は先ほどの言葉を反芻していた。

 ”極北の魔女”。

 それは、中東の政変”ディラッカ事変”を引き起こした悪魔の名、ルフィーナ・ニコラヴィエナを指すものだ。

 天才科学者、という枠に収まりきらない頭脳を持った彼女は、文字通り”魔女”と呼ばれ、皆が恐れたのだ。

 そんな悪魔に匹敵すると言われれば、いい気はしないだろう。

 つまり今のは、門倉大尉が悪い。

 

 そして最後に、

 

「では、最後は私となるか。第11陸戦歩兵大隊指揮官の、伊勢原敏夫少佐だ。階級は私が一番上だが、小隊単位での戦闘行動指揮は門倉大尉の方が適任だろう。基本的には大尉に指揮を任せるが、最終的には私の命令に従って貰う。無理をすれば動けん事も無いが、腹に大穴が空いていてな。戦力としては期待するな」

 

 第11大隊の伊勢原大隊長。

 確か、初戦の横浜撤退戦で少し見たことがある。

 大隊が違う為、直接の指揮下ではないが、この場に上級指揮官がいるのは少し安心だ。

 腹部に穴が開いているし、階級の関係もあって何かあった場合は司令塔として車内から指揮を執ってもらう事になるだろう。

 

 纏めると、警備兵の楠木曹長、フェンサーの市原少尉、ヘリパイロットの石田少尉、エアレイダーの門倉軍曹、大隊指揮官の伊勢原少佐、民間設計者のオストヴァルト博士、EDF科学者の茨城少佐、それにレンジャーである私仙崎誠と、細海兵長の合計9人が、このキャリバン装甲救護車輛に搭乗している。

 

「さて、差し当たって動けるのは俺と仙崎伍長、楠木曹長に市原少尉の4人で、石田少尉と細海兵長、伊勢原少佐は動けぬほどの重傷。オストヴァルト博士と茨城少佐は軽傷だが、戦闘要員ではない。そんな感じか?」

 

 門倉大尉が状況を確認する。

 ちなみに3人の重傷者に関しては、市原少尉が手当をして、治癒剤も打ってあるのでひとまず命に別状はない。

 とはいえ、場当たり的に対処しただけであるので一刻も早い搬送が望まれる。

 オストヴァルト博士と茨城少佐は、アンカーの落下によって複数の打撲と裂傷がある為、動けはすれど相当に辛い筈だ。

 ……なんだか元気な気がするが。

 

「皆、これを見てくれ」

 

 門倉大尉の声から先ほどの陽気さが消えた。

 その一声で、車内の雰囲気が一気に変わる。

 ……なるほど、見習いたいものだ。

 

「現状はこの通り、巨大生物に発見こそされていないが完全に囲まれてしまっている」

 

 門倉大尉の腕のコンソールに移ったマップ情報を見る。

 我々レンジャーの持つ簡易レーダーよりは詳細な情報が見れる。

 付近を移動した我々や、基地の各所にあるセンサーやカメラ、巨大生物の発する微弱な電波を総合的に重ねた信頼性のある情報だ。

 

「付近に友軍の反応がありますが」

 

 私はそのマップに友軍を示す青い点がある事に気付く。

 

「そうだ。俺たち以外の誰かがいることが分かった。通信装備を持ってない奴もいたが、確認できた人数は俺たちの他に少なくとも23人。皆散り散りになって補給コンテナや建物の内部に留まっている。中には整備兵や補給部隊の非武装の人間のみのグループもいた」

 

 巨大生物の群れの中で非武装……。

 考えただけでも恐ろしい事だ。

 アーマーすら着用していないのであれば、見つかれば生存する可能性は無いに等しい。

 

「何という事だ……。生存者たちと連絡は取ったのか?」

 

 伊勢原少佐が確認する。

 

「はい。ここへ来る前に数度。確認している中で、最も強い通信装備を持っていたのは自分であったので。現状、発見されていないのであればその場での待機を指示しました」

 

「そうか。さすがはエアレイダー、優秀だ。確認するが、本部からの救援は来ないのだな?」

 

「はい。無理と思いつつ救援要請を送りましたが、やはり。自分らがここに取り残されたことは共有しましたが、救援には行けないの一点張りで」

 

「ふん、だろうな。今頃脱出した砲兵部隊や京都方面は降り注いだアンカーで地獄になってるだろうよ。どっちがマシか、分かったものではないな……」

 

「巨大生物もいつこちらに気付くか分かりません。一刻も早く付近の生存者や、他部隊と合流したいところですが」

 

「現状の戦力での行動は、あまりに無謀すぎる……。少しの変化が命取りになりかねない。改めて言うのもなんだが、絶望的だな……」

 

 門倉大尉と伊勢原少佐が、現状と今後の方針についてやり取りをする。

 しかし、彼我の戦力比と応援の見込めない現状、移動すら制限される敵の布陣位置を考えると、結局はこの場で息をひそめる以外の方法は無かった。

 しかも、それも巨大生物の気まぐれ一つで瓦解する方法であるのは変わらず、かつ味方の救援は作戦終了後が予想されるため、長期的に救援が見込めない。

 

 よって結論は、友軍が来るまでこの場でひたすら隠れ潜む事だった。

 

 だが。

 そんな長期的な絶望は、早くもそれを超えるものによって崩れ去った。

 

――0:50 約10分後 キャリバン車外――

  

「コイツで、完成だ!! 素晴らしい!! ふはははははは!!!」

 

 オストヴァルト博士が両手を広げ、私に負けず劣らずの高笑いを見せる。

 

 10分前、門倉大尉の”現状維持”の命令後、オストヴァルト博士は付近の資材やEDF兵器を集め出し、キャリバン装甲救護車輛の”魔改造”を行った。

 

 上面の装甲搭乗ハッチにはEDF装備局が開発した12.8mm重機関銃ドーントレスと、AI搭載型自律ミサイル”N.U.T.S”システムが銃座として据え付けられた。

 背面ハッチにはFUJIインダストリーズが開発した八連四脚ガトリングガン”エクスターミネーターMk1”が固定され、更に車外壁面には複数の指向性地雷”インパルス”を設置。

 敵の接近を感知し、徹甲弾並みの威力を持った特殊ボールベアリング弾を大量射出、巨大生物を穴だらけにする。

 

「オストヴァルト博士!! 声がでかいです!! 巨大生物に気付かれる危険があります!! もう少し静かにお願いします!!」

 

「やれやれ。そういうアンタもさね」

 

 門倉大尉と茨城少佐が古典的なお約束やり取りを行う。

 

「がっはっは! 巨大生物の探知機能は、距離によって大きく制限される。探知範囲にさえ入っていなければ、多少大声を出しても大丈夫ですよ! まさか少佐がお約束に乗って来られるとは」

 

「ワタシにユーモアが無いとでも思ったかい? お約束は守られてこそ意味を為すのさ。奇をてらって外すタイプはどうにも好きになれなくてね。でも解説は野暮さね」

 

 なんと、お二方とも分かっていた上での演技でしたか!

 内心でそう思いつつ、ここが巨大生物の群れのど真ん中である事に心がざわつく。

 

「差し出がましいようですが、巨大生物への慢心は命取りです。新種がいるかもわかりませんし、警戒してしすぎるという事は……――ええいオストヴァルト博士! いつまで高笑いを決めているのだ!!」

 

 ふははははは! 素晴らしい! ふはははは!! などと後ろで騒ぎ立てる声に思わず苛ついて声を上げてしまった。

 にやりとした門倉大尉と茨城少佐が私を見る。

 

「――はっ!!」

 

 まさか、術中に嵌った!?

 一番煩いのは私だというのか!?

 いや一番煩かったのはどう見てもオストヴァルト博士では!!

 

「なんだね? 君は巨大生物の探知範囲の事を知らんのか? だいたい奴らが向かって来ても、このキャリバンカスタムならば! 造作もない! 」

 

「がっはっは! ユーモアが足りんぞ仙崎ぃ。いつまでもピリピリしていたら心が持たんぞ。この声量で反応するようなら、博士の改造音でとっくに見つかっているだろうし、万が一向かってきたとしたら、それはそれ、そういう流れだったって事だ!」

 

「ふぅーっ。ひとまず、声量90デシベル、推定距離560mでは全く反応しないというデータが取れたさね。軽く偵察したときには一通りの種類の巨大生物がいたが、特に音に敏感なタイプは居ないようさね。その代わり、探知範囲に入れば何もしなくても発見されるから注意するんだよ。仙崎誠クン」

 

「ぬぅ……りょ、了解しました……」

 

 なんだこの敗北感は!?

 天才二人に良いようにあしらわれてる感!

 そんな中で平然と混ざる門倉大尉は、やはり器の大きさが違うという事か!!

 

「まぁそう落ち込むな! 仙崎ももう少し年季が入ってくれば……――っと、待て! 通信だ!」

 

 耳に手を当て、門倉大尉が真剣な顔つきになる。

 無線はヘルメットを装備する私や、小型の簡易通信機を持つ二人の博士にも届く。

 

《本部より、402演習場に残る生存者に告げるッ!! その場所に未確認の超大型種が地中侵攻する兆候を掴んだ! コード991を発令する! 同時に付近の巨大生物の活性化も予想される! その場所にいれば生存の可能性は無い!! 即時離脱を命令する! 繰り返す――》

 

 コード991――地中侵攻警報!!

 指揮命令系統の無視および、この場の戦闘、任務を放棄し最優先での撤退が推奨される!

 しかも、未確認の超大型種とはいったい何なのか?

 

 その疑問を考える前に、門倉大尉が叫んだ。

 

「ちぃっ、撤退だ! オストヴァルト博士、車を出してくれ! 危険だが巨大生物群の合間を縫って移動する!」

 

「任せて貰おう! 若い頃はサーキットで良く研究のストレスを発散したものだ! 安心し賜え、我が社の開発したキャリバンのスペックは把握している!」

 

「余計な事は言わなくていいさね。点在している味方は拾っていくのかい?」

 

 比較的軽傷なオストヴァルト博士がキャリバンの操縦桿を握り、その後ろに座る茨城博士が尋ねた。

 

 問いに伊勢原少佐が答える。

 

「友軍を拾っている余裕はない……! 物資を投棄すれば車内に余裕はあるが、この後の戦闘を考えるとそれは望ましくない!」

 

「でしょうね! 過積載はスペックの悪化を招きますのでねぇ! では、キャリバン装甲救護車輛、発進ッ!!」

 

 大仰な言葉を放ちながら、ギアを入れ、アクセルを踏む。

 ハイパワーのエンジンが火を噴き、我々の体がつんのめる程の加速でキャリバンは走り出した。

 

 キャリバン救護車輛は、兵員輸送車を改造した重装甲装軌式車輛だ。

 車内は広く、詰めればレンジャー10人以上は乗れるバスかトラックの様な積載量だ。

 ただし、前述の通り物資に加え、簡単な改造を施しているので、今の車内はそう広くはない。

 

「くそっ! この期に及んで超大型種ってどういうことだよ!? まさかエルギヌスみたいなやつが現れるんじゃないだろうな!?」

 

 楠木曹長が車内の手すりを掴みながら銃のチェックをする。

 

「エルギヌスは全長125m、全高70mの大型個体さね。そんなものが地中が移動しているとなると、もっと大きな衝撃があるべきだと予想するね」

 

 左右に酷く振られる荒い運転の中でも、茨城少佐は飄々としておられる。

 

「いずれにせよ非常なる事態である事には変わりませぬ! しかしこの車輛! この巨体に関わらず、なかなかの速度が出ますな!」

 

 私の言葉に楠木も同意する。

 

「本当にな! これなら、巨大生物が追って来ても振り切れるんじゃ……」

 

「ふははははッ! 中々慧眼ですねぇ仙崎誠とやら!! このキャリバン装甲救護車輛(A M V)には、モデルの元となったキャリバン装甲輸送車輛(A C V)の1.42倍の出力のガプス・ディーゼルエンジンを――おっと!! 巨大生物に見つかってしまったようです! ちぃっ! 相変わらず忌々しい機動力だ! 囲まれかねん!!」

 

 ご機嫌でキャリバンの解説をする気だったようだが、生憎と状況はそれを許さず、緊迫した表情のまま操縦桿を捌く。

 ハッチから外の様子を眺めた門倉大尉が考えを話す。

 

「いや、これでいい! 出来るだけ派手に動いて巨大生物を引きつけてください! その分周囲に取り残された奴らが助かる筈です!」

 

 言葉を聞いた楠木が自殺行為の案に驚愕を示す。

 

「囮になるって事ですか!? いくらキャリバンが頑丈で多少武器があるからって、無茶も良い所だ!!」

 

 楠木のぼやきに、呆れたような声を出しながら門倉大尉が指示を出す。

 

「生きてりゃ無茶も通さにゃならん時くらいあるだろう! いい加減腹括った方が楽だぞ? 仙崎、上のドーントレスで道を拓け! 楠木は仙崎の援護! 俺と市原は後部ハッチだ! 背後から追ってくる巨大生物を近づけるな!」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 私は上部ハッチに上り、ドーントレス重機関銃が据え付けられている銃座について引き金を引く。

 心地よい反動と共に12.7mm徹甲銃弾が放たれ、前方から迫る巨大生物を圧倒する。

 

「ちくしょう、なんて数だ! まとめて吹っ飛ばしてやる!」

 

 楠木曹長は補給物資の中にあった大型のロケットランチャーを放った。

 大型ロケット弾頭は着弾すると、直径30m近くを爆炎で覆い、一気に巨大生物を吹っ飛ばした。

 

「いかん!!」

 

 のみならず、爆風はキャリバンをも覆い、私と楠木は一時車内に退避する。

 

「うわあぁぁ!! な、なんだコイツは!? 強すぎる!?」

 

 警備兵としてこの基地で働く楠木にとっては、初めて敵に撃った攻撃がこれであった。

 撃った本人が一番驚くのも無理はない。

 

「きゃぁぁ!? ちょっと、何今の攻撃! 敵!?」

 

「落ち着け嬢ちゃん! 今のはダレイオスの爆風だ、このキャリバンならなんともない!」

 門倉大尉が細海兵長をなだめる。

 

「ダレイオス? なに、敵ですか!?」

 

「ダレイオスⅠは我がガプス・ダイナミクス社の携行兵器製造部門が開発した制圧ロケットランチャーです!! ふははははッ! なんと素晴らしき爆発力か!! 見よッ!! 蟻が虫けらのようだァーーッ!!

「どうでもいいからちゃんと運転しなさいよ! 怪我人なのよこっちは!」

 

 荒ぶる操縦に、振り回される細海が叫びをあげる。

 上面で振り回される私の方も大変だが……なに、巨大生物の進路が見える分、移動経路も予測しやすいのだ。

 

「ったく、あの会社が作る兵器はたまにおっかないのがあるが、作っている奴を見て納得だなこりゃ。ネジが外れてる」

 

 空爆や砲撃で爆発に慣れている筈の門倉大尉も、至近距離でとんでもない爆風を浴びて冷汗を掻き、オストヴァルト博士の言動と見比べ、呆れつつもどこか嬉しそうに呟く。

 

「……まったく同意だね。とにかく、君。それを適当にばら撒きたまえ。ソイツは集団に打ち込んでナンボの火器さね。大味のガプスらしい大火力は、さすがとしか言えないねぇ。アタシはどちらかというと、S&Sの精密さが好みだけど」

 

「貴様の好みなど聞いておらん!! 状況を見てものを言え貴様は!!」

 

 茨城少佐は楠木に指示を出しつつ、何故かオストヴァルト博士と掛け合いをしながら話す。

 なんなんだこの二人は。仲が良いのか悪いのか。

 

「りょ、了解……! こんなものが実戦で使われているなんて、恐ろしいぜ……!」

 

 ダレイオスの火力に戦々恐々としながら、自爆をしない程度の集団を見つけ、ダレイオスを放つ。

 小規模なキノコ雲を発生させる程の爆発が巨大生物を包み、車体は爆風に煽られながら、吹き飛んだ巨大生物の死骸の一部を縫うように進む。

 キャラピラで細かな機動など出来ないだろうに、慣性と機体特性を巧みに利用し、些か乱暴ではあるが驚くほど軽快な機動で巨大生物の群れを突破する。

 脇や後方から迫る巨大生物は、私の持つドーントレス重機関銃で押し返す。

 

「くっ、博士!! γ型が来ますッ!!」

 

 蜂の様な見た目をしたγ型が空中から接近した。

 その飛行速度は、易々とキャリバンを包囲するだろう。

 

「ふははははッ! 待って居たぞ! N.U.T.S(ナッツ)起動! 安心し賜え仙崎君! 後は全てAIが行うでしょう!」

 

 オストヴァルト博士の言う通り、まるで小型のSAM(地対空ミサイル発射器)の様にN.U.T.Sは発射器を敵方向に回転させ、自動でミサイルを放つ。

 小型ミサイルは不規則な機動を行うγ型に白い尾を引いて直撃し、小規模な爆発はγ型の弱い胴を千切る。

 だが。

 

「おおなんと! これはすごい! γ型がみるみる……ぬっ! お、オストヴァルト博士! ミサイルが若干死体を撃っているようですが! 些かオーバーキル気味かと!」

 

「おや、バレてしまいましたか! 実はそのN.U.T.S、まだまだAIが欠陥品でして! 巨大生物に残留する活性エナジージェムに反応してしまうのですよ!!」

 

「しかも一発1万ドルの高級品を何発も無駄打ちする誘導性能ときた。とても量産には向かないお蔵入り兵器さね。ま、値段と無駄打ちを気にしないなら有効な兵器だから、とりあえず今をしのぐには十分さね。さ、それよりコッチにはα型亜種がやってきた。ここからが本番さね」

 

 N.U.T.Sとやらの詳細を知って少々残念になるが、改良されれば素晴らしい兵器になる事は間違いないであろうし、捕捉した茨城少佐の言葉通り、まさに飛ぶ鳥墜とす勢いで迎撃する小型ミサイルは、高価であろうと頼りになるものだ。

 

 一方背後から迫りくるα型亜種には、据え付けられた八連四脚ガトリングガン”エクスターミネーター”が火を噴く。

 それを操るのは門倉大尉だ。

 

「うおおおぉぉぉぉっ!! なんて威力だ! α型亜種が溶けていくぞ!!」

 

 エクスターミネーターは凄まじい爆音と振動を車内に与え、高温の薬莢をばら撒いていくが、その反動として壮絶な火力を発揮する。

 U字型のステアリングを握りながら、オストヴァルト博士が解説する。

 頼んでもいないのに解説するのは性分なのだろう。

 

「FUJIインダストリーズの高火力ガトリングガン、エクスターミネーターですねぇ!! 唸るような高速連射でも高い精度と安定した部品消耗が特徴です! 強烈な反動なので固定型が原則ですね!! 車内に積み込むと、反動で車が持って行かれる!!」

 

「がはははは!! コイツはいい! 爽快だぞ! 仙崎ぃ! お前もやってみるか――ん?」

 

 テンションが上がっていると、突然射撃音が止んだ。

 

「おっと、どうやら店仕舞いだ! すまん、市原! 後は頼んだぞ!」

 

「任せてくださいっ! 行きますよぉ!!」

 

 薬莢の山を蹴破って、フェンサー完全装備の市原少尉が、今度は両腕のハンドガトリングガンをスピンアップさせる。

 据え付け型のエクスターミネーターと比してやや抑えられた射撃音と連射力だが、それでも歩兵小銃とは比べるべくもない火力によって、α型亜種はその数を減らしていく。

 しかし、左右から回り込んだα型亜種を押さえられず、側面から車体に接近する。

 

 瞬間、センサーが巨大生物を捉え、指向性地雷”インパルス”が多数のボールベアリング弾を高速射出。

 α型亜種は頭部を穴だらけにし、絶命。

 同じことが数度発生し、その度に車内は爆音と衝撃に包まれる。

 

 私もドーントレス重機関銃で対抗するが、限界が迫っている。

 

「ちぃっ!! 側面に回り込まれすぎている! 処理が追い付かん!」 

「同感だな! 給弾してくる! 仙崎ちょっと頼んだ!」

「早めに頼む!!」

 

 楠木がダレイオス給弾の為に車内に戻る。

 ダレイオスは単発装填式だが、パック化された弾倉のようなものを持ち歩いて運用するのだ。

 

 しかしその間、とてもドーントレス一丁の弾幕で押さえきれなかったα型亜種が、キャリバンについに齧りつく。

 

「ぐッ!? キャリバンが齧られているだと!? お、おのれ……我が社の製品に傷を付けおって……! ええい! 引き離してくれるッ!」

「ぬおお!?」

 

 オストヴァルト博士は、乱暴に操縦桿を左右に傾け、私は激しく揺さぶられる。

 喰らい付いた数体の巨大生物は、キャリバンのパワーに押し負けず喰らい付くが、車体と外壁を勢いよく打ち付けるような機動を取ったキャリバンに押しつぶされ、やがて喰らい付く巨大生物は居なくなった。

 

「ふははははは!! どうだ!! 車体重量30t、相対速度時速75kmから繰り出される衝撃は!! 堪らんだろう! 巨大生物どもめ!!」

 

 操縦桿を持ちながら拳を上げるオストヴァルト博士に、上部から外の景色を見た私は思わず抗議した。

 

「言ってる場合ですか! あちこちから大群が迫っています! このままでは持ちませぬ!!」

 

 横から迫る大群に向け、ドーントレスで弾幕射撃をする。

 強力な12.7mm徹甲弾は、α型亜種の甲殻をも貫通する威力だが、次々と押し寄せる巨大生物に力負けしてゆく。

 それでも懸命に弾幕を形成し、意図的に一か所に誘導すると、

 

「楠木ッ!」

 

「分かってますよッ!」

 

 後部ハッチから身を乗り出し、楠木がダレイオスⅠを発射。

 大型弾頭は尾を引いて一直線に進み、やがて集団の巨大生物と接触し、周囲30mを巻き込む大爆発を起こす。

 

 紅蓮の炎に巻かれ吹き飛んだ巨大生物は、凡そ20体を上回るだろう。

 しかし、所詮は焼け石に水。全てを殲滅出来てはいない。

 門倉大尉が声を上げる。

 

「オストヴァルト博士! 車体を横に向けてくれ! そうしたらハッチから最大火力を叩き込める! 出来ますか!?」

 

「ふはは! 誰にものを、言っている!」

 

 オストヴァルト博士が操縦かんを捻ると、キャリバンは速度を落とさずに瞬時に90度近く回転し、ハッチの先に”赤い津波”が現れた。

 

「ぶちかませぇぇ!!」

 

「うおおおぉぉッ!」

 

「やれやれ。戦闘は専門外だが、仕方がないさね」

 

 門倉大尉が面制圧グレネード・スタンピードを

 市原少尉が散弾迫撃砲と左右ハンドガトリングガンを

 茨城少佐が試製零式レーザーライフルを

 そのほか伊勢原少佐や細海兵長も、それぞれ手に武器を持って一斉射撃を行った。

 その作戦が功を奏し、巨大生物の津波は大半が撃破された。

 

「なんと!! 茨城少佐! プラズマユニットを用いないレーザー兵器の実用化に成功したのですか!?」

 

 しかし、私の驚きはその銃器に向いていた。

 なんと、ジュラルミンケースの中身は、施策のレーザー小銃であったか!

 仮にその兵器が実用化に漕ぎつけたのだとしたら、もはや実弾を用いる銃器は淘汰されてしまうだろう。

 しかも、今の射撃を見る限り、巨大生物の甲殻をいとも容易く焼き切っているように見えたが。

 

「いいや。これはまだまだ試作段階さね。戦闘は専門外だが、実は試射出来るタイミングを計っていてね。精度・威力は十分だが――」

 

 茨城少佐は、ハッチの外にレーザーライフルを投げ捨てた。

 直後、レーザーライフルは破裂し、粉々に砕け散った。

 

「――ふーっ。やはりまだ本体とバッテリーが耐えきれないさね。今ので東京の消費電力一週間分の電力と、銃本体10万ドルが霧散したね」

 

 どうでも良さそうなテンションで解説する茨城少佐は、ふと声を神妙にする。

 

「……そんな事より、なにか、揺れを感じないかい?」

 

「揺れ……? 本当だ。これは戦闘の揺れではない!? 強くなったッ!? まずいッ、横転するぞッ!?」

 

 門倉大尉も声を荒げる。

 

「グゥッ!? つ、捕まれ!!」

 

 車輛走行中でも感じる揺れが、急激に激しさを増し、30tもの重装甲車は横転する。

 私は上部ドーントレス銃座にいたため、瞬時に車外へ脱出し、受け身を取り負傷を免れた。

 

 何が起こったか周囲を見渡す。

 私の背後、ちょうど先ほどいた402演習場の方で大規模な土砂の巻き上げが起こっていた。

 印象は、火山の噴火などが一番近いと思った程だ。

 その中から、暗闇に光る八つの目が見えた。

 

「……、……なんだ、あれは……」

 

 そこにいたのは、超大型の蜘蛛型巨大生物だった。

 

 分類カテゴリ:戦略級巨大外来生物β

 ――奈落の王(バゥ・ロード)、出現。

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